アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合 must go on


(今回は流瑠様による甘々劇場はありません。ご容赦ください)


デンファレ その4

 

五月も中旬。最近は瑠璃の所へ通い詰めていた一柳隊(仮称)の面々だったが、彼女たちも学生でありリリィ。その本分は学業と戦闘であり、彼女たちもまた、そんな本分に振り回される一介のリリィなのであった。

 

 

「……というわけで、今日の実習はレギオン単位での連携戦闘の練習になりまーす」

 

訓練場に、流瑠ののんびりした声が響く。

その声を聞いているのは、二代目アールヴヘイムのメンバーと、まだ面子の集まりきっていない一柳隊(仮称)のメンバーだ。

 

講義の一コマを使って行われる、レギオン単位でのノインヴェルト演習。これは、戦闘に慣れたレギオン1つと、まだレギオン単位での戦闘に慣れていないレギオン1つを対象に行われる講義で、レギオン同士での交流や戦術について語る機会を増やすという狙いがある。

戦闘に慣れたレギオンは、慣れていないレギオンへのアドバイスを通して自分たちの戦術を見直し、戦闘に慣れていないレギオンは、動きや戦術をしっかりと見ることでイメージを作ったり、実践に繋げることができる。学生同士の交流を重視する百合ヶ丘らしい実習であると言えるだろう。

 

今回それを監督するのが、三年生である(ということになっている)流瑠であった。流瑠を慕う二つのレギオンは、「流瑠に良いところを見せよう」と、実習前から躍起になっていた。

 

 

「人数も揃ってないヒヨッ子チームに負けるわけにはいかないわ……!手加減して、その上で勝ってあげる!」

「壱、 気合い入ってるわねー。ま、私も負けるつもりはないけど」

「天葉姉様、頑張りましょう……!」

「気合い入れすぎよ、新人相手に……」

 

「お姉様〜〜!見ていてくださいませ〜〜!」

「格付けSSSのアールヴヘイムが相手か。厄介じゃのう……」

「け、ケガとかしないでしょうか……?」

「大丈夫よ梨璃。訓練用のチャームだし、流瑠お姉様も見ていてくれる。ケガは無いでしょう」

「き、緊張する……」

「胸を借りるつもりで行きましょう、雨嘉さん」

 

二つのレギオンが睨み合う中、流瑠は「はーい、そこまでー」と手を叩く。

 

「誰がレギオン同士で戦うって言ったの?貴女達の今日の相手はレギオンじゃないよー」

 

流瑠の呆れたような言葉に、その場の全員が疑問符を浮かべる。

 

「え?じゃあ、今回の相手は……」

「うん。一柳隊(仮称)の相手は模擬ヒュージ。アールヴヘイムの相手は……私のエーテルボディだよ!」

 

そう言って流瑠は、自分の分身を作り出す。

発光するマギで作られた流瑠の分身は、本物よりもかなり存在感が薄いが、流瑠に瓜二つだ。ただ、表情は全くなく、目には光がない。

 

アールヴヘイムは「本物じゃなくてよかった……」と安堵しているが、一柳隊(仮称)はそう思えない。なんせ、彼女達は直接、流瑠のエーテルボディによる戦闘を見ているのだから。

 

「る、流瑠様のエーテルボディか……」

「あの時の戦闘、ほとんどエーテルボディとアルケミートレースの応用だけで終わってましたからねぇ……」

 

一柳隊(仮称)の面々は、あの当番の日のことを思い出す。

八人のエーテルボディを作り出してヒュージを圧倒し、ノインヴェルトまで決めて倒した流瑠。あの時は過去のリリィの写し身だったが、今回は流瑠本人の分身だ。どれほどの実力があるか分からない。

 

「じゃあまず、一柳隊のみんなからいこうか!」

 

流瑠はそう言ってエーテルボディを消し、傍に安置されていた模擬ヒュージを起動させる。大きさはラージ級程度だろうか。

それが3体。そして、その横には飛行型のミドル級が4体。この計7体が、今回の一柳隊(仮称)の相手、ということだろう。

 

一柳隊(仮称)の面々は、事前に話し合っていたポジションに着く。

夢結をトップに、楓・神琳をTZ(中盤)、ミリアム・雨嘉・梨璃・二水をBZ(後半)に置くBZ偏重型だ。

 

この戦いが、一柳隊そのものとしての初の実習となる。これを通して、自分たちに足りないものや、獲得していくべき人材も見えてくるだろう。

梨璃達は、緊張した面持ちで流瑠からの合図を待った。

 

 

「おねーちゃんたちー!がんばれー!」

 

と、緊張していた梨璃達の耳に入ったのは、最近聴き慣れた元気な声だ。

 

「る、瑠璃ちゃん!?なんでここに!?」

 

全員がその声の方を向くと、そこにいたのは、よく見慣れた燻んだ金髪と紅い目の少女、瑠璃だった。

驚く一柳隊(仮称)の面々に、瑠璃は悪戯っぽく微笑んで答えた。

 

「びっくりしたー?いのりおねーちゃんが、さいきんはからだがうごくようになってきたから、けんがくしてきてもいいってー!だからここまであるいてきたのー!おうえんしてるよー!」

 

瑠璃の存在で緊張が解けると共に、「瑠璃ちゃんにカッコ悪いところは見せられない」といい意味で気合が入った一柳隊(仮称)のリリィ達は、顔を引き締める。

流瑠はその顔を見て、大丈夫そうだと安心し、口を開いた。

 

「それじゃ、始めるよ?実習スタート!」

 

その掛け声と共に、ヒュージとリリィは同時に動き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ふっ!」

 

最初に切り込んだのは夢結だ。訓練用チャームなせいでいつもの力は出せないが、それでも動きのキレは変わらない。あっという間に一体のラージ級模擬ヒュージの足元を崩し、倒れ込ませた。

 

「梨璃、追撃を」

「はい、お姉様!」

 

倒れたヒュージに、それまで守りに徹していた梨璃も攻撃に加わる。梨璃は、飛行型ヒュージの攻撃に晒されて「わわっ!?」と焦りながらも、防御と攻撃を同時にこなしていった。

 

「これくらいチョロいですわ!」

「うわっと!?我が作品ながら扱いにくいのう!」

 

楓もまた、夢結とは別のヒュージを相手取って善戦している。

楓と同じラージ級を相手取るのはミリアムだ。斧状の攻撃型チャーム「ニョルニール」を振るい、ヒュージの攻撃を弾いたり受け止めたりしている。こちらは、重心がチャームの先端の方にあるニョルニールに振り回されているようで、上手く立ち回れていない。

 

「雨嘉さん。わたくしはヒュージの攻撃を抑えます。貴女への攻撃は一切通しません。貴女は飛行型のヒュージを」

「う、うん。わかった……!」

「あ、あわわわ……!?わ、わたしはどうすれば……」

「二水さんは守りに徹していてください」

 

3体目のラージ級を相手にするのは神琳と雨嘉、そして二水だ。

神琳がラージ級を押さえ込み、雨嘉が飛行型を射撃することで撃破して、他のラージ級を相手にしているメンバーが倒し切るのを待つ作戦だ。

 

「は、早く倒さなくちゃ……!」

 

神琳の持つレアスキル「テスタメント」は、自分のマギによる防御が少なくなってしまう、という欠点を持つ。神琳はそれを防御型のチャーム「媽祖聖札」と、「ジャストガード」という技術で補ってはいるが、本来テスタメント使いはタンク役に徹するには向いていないのだ。

 

それを思うと、雨嘉は焦る。自分が早く飛行型ヒュージを倒して、神琳のサポートに入らないと、神琳がどうなってしまうかわからない。

雨嘉はレアスキル「天の秤目」を発動する。遅くない速度で飛び回るヒュージの内の一体を捉えて、射撃    命中。

雨嘉の放った弾丸は、飛行型ヒュージの中心を真っ直ぐに撃ち抜き、撃墜した。

 

(よし、いける     )

 

そのまま雨嘉は2体目に狙いを付ける。

一発目     しかしヒュージは、急に速度を上げて雨嘉の視線から外れる。

 

「なっ……」

 

雨嘉はそれに引き金を引いてしまい、一発目を外す。

焦る。早く倒さなければ、神琳に負担をかけてしまう    

二発目。これも外れる。

 

「なんで……!?」

 

三発目      

 

「雨嘉さん!ラージ級がそっちに     

「大丈夫です!雨嘉さんは飛行型に集中して!」

 

と、引き金を引こうとしていた雨嘉の耳に、鷹の目で戦況を眺めていた二水と神琳の声が響く。

二水の言葉に、雨嘉は狙っていた飛行型ヒュージからラージ級に一旦狙いをかえてしまう。

その間に、狙っていたヒュージが場所を変えるのにも気付かずに。

 

「ゆ、雨嘉さん!?飛行型ヒュージが後ろから!」

「え     

 

再度、二水の悲痛な声が雨嘉の耳に入る。

咄嗟に天の秤目を解除した雨嘉は、「もう間に合わない」と悟りながらも、チャームをソードモードに切り替えて後ろを振り向いた。

 

その目に映ったのは      

 

 

「……何をしているんですか、雨嘉さん?貴女は自分の役割を果たしてください」

「……しぇん、りん……」

 

自分とは違って毅然とした様子で佇む、ルームメイトの背中だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、実習は無事に一柳隊(仮称)の勝利に終わった。

 

夢結と楓、神琳は安定した立ち回りで。梨璃は覚束ないながらも、夢結に教わった防御を中心とした戦術でヒュージを倒した。

ミリアムや二水達は課題も残る結果となったが、一番この実習で自分の課題を実感させられたのは、雨嘉だった。

 

雨嘉は狙撃手だ。BZの位置から正確に敵を正確に撃ち抜き、味方の活路を開くのが自分の仕事だ。自分の故郷(ヘイムスクリングラ)でも、そう教えられてきた。

 

でも、できなかった。焦って、外して、その上ラージ級を抑えていた神琳に負担をかけて助けてもらって。

 

     情けない。情けない!自分は梨璃に魅せられて、梨璃と一緒に強くなりたいと思って梨璃のレギオンの入った。なのに、梨璃はどんどん先に進んで、自分は止まったまま。

もっと姉のようにキビキビと司令塔として活躍できたり、妹のようにファンタズムで戦場を支配したり……そうやって活躍できたら。何度そう考えたかわからない。

 

やっぱり自分が自信を持つなんてできっこない……。そう思って俯く雨嘉の肩に、優しく手が置かれた。神琳の手だ。

 

神琳はにっこりと笑顔を見せながら、雨嘉の耳元に口を持ってくる。

 

「やっぱり、レギオンに入るのやめますか?雨嘉さん」

 

神琳から囁かれた言葉に、雨嘉は目を見開く。

神琳はそのままの体勢で言葉を続ける。

 

「梨璃さんのレギオンは、まだ完成していません。今なら抜けても、もう一度メンバーを集めるだけで済みます。抜けるなら今ですよ?」

 

神琳の言葉に、雨嘉は揺れかける。自分がいても迷惑なだけかもしれない。今回みたいにミスをするし、自信なんていつまでも付かないし……。

 

 

「雨嘉さん、神琳さん!お疲れ様でした!凄かったです雨嘉さん!あの距離から一撃で当てるなんて!」

 

そうやって悩んでいた雨嘉に話しかけてきたのは、梨璃だった。

梨璃は目をキラキラさせて、雨嘉を褒める。雨嘉はその輝きが眩しすぎて、目を逸らした。

 

「……そんなことないよ。私なんて……。外しちゃうし、自信も付かないし……」

 

言葉尻を小さくしていく雨嘉に、梨璃は首を傾げる。

 

「……?私なんて何回も外しちゃいましたし、自信もないですよ?今の実習だって、ドキドキしながら始まっちゃいましたし、やってる間も緊張しっぱなしでした!」

 

「あははー……」と頬を掻く梨璃を、雨嘉は見上げる。

その顔を見て、雨嘉は梨璃にレギオンに誘われた時のことを思い出した。

 

自信も、信頼も、そして実力も。一緒に培っていけばいいと言ってくれた。

ヘボリリィでもいいと。優しい人なんだと。ここで会ったのは運命なんだと言ってくれた。

 

改めて、雨嘉は初心を思い出す。

『梨璃と一緒に強くなる』。そう、自分は自信もないし強くもないけど、今から自信をつけて、強くなっていくんだ。

少しずつでいい。一人よりも二人で。二人よりもみんなで。一人でできないことをみんなでやり遂げる。それがレギオンだ。

 

「梨璃。私、まだまだヘボリリィだけど……まだここにいてもいいの?」

「何言ってるんですか、雨嘉さん!私、雨嘉さんともっともっとお話ししたり、一緒に戦ったりしたいです!」

     そうよ、雨嘉さん。さっきの一発目の射撃で、貴女の腕はよくわかったわ。正確な腕を持ってるのね」

「夢結様……?」

 

梨璃と雨嘉の会話に入ってきたのは、夢結だ。夢結は少し微笑んで、雨嘉を褒める。

 

「私の周りには、狙撃専門のリリィは少なかったけれど……貴女はこの学院内でも、上位の腕を持ってると思うわ。課題はあるけれどね」

「そうですわ。あの模擬ヒュージ、急に加速するんですもの。一、二発外すくらいは仕方ありませんわ」

「じゃの。むしろよく一発目は当てたもんじゃ」

「ヌーベルさん、ミリアムさん……」

「おつかれー!ゆぅおねーちゃん!すごかったよ!」

「瑠璃ちゃんまで……」

 

ワラワラと、一柳隊(仮称)の面々が集まってくる。

そして、最後に雨嘉の近くに来た二水は、雨嘉に頭を下げた。

 

「ごめんなさい。私、雨嘉さんに余計なことを言っちゃいました……」

「二川さん……?」

「さっき、神琳さんに言われたんです。私は戦況を把握できるからこそ、仲間への注意や誘導は慎重に行うべきだって……」

 

二水のその言葉に、雨嘉は神琳を見る。

神琳は雨嘉の視線を受けて、ため息をついた。

 

「……雨嘉さん。わたくし、言いましたよね?『貴女への攻撃は絶対に通さない』と。そして、『貴女は飛行型ヒュージの掃討を優先してください』と。それなのに、貴女は焦って狙撃を外し、その上二水さんから声を掛けられて、狙っていたヒュージへの視線を外しました。

もっと信用してください。わたくし、貴女に心配されるほどヤワじゃないですよ?それに、狙撃中の貴女には絶対に攻撃は通しません。

貴女は私を信用して防御を任せる。私は貴女を信用して狙撃を任せる。それが、信頼関係というものなのではないですか?」

「神琳……」

 

神琳に嗜められて、雨嘉は顔を上げる。

そうだ。自分は神琳の身を案じるあまり、神琳の力をまるで信用していなかった。

自分一人で焦って、焦ったせいで外して、自分の役割を投げ出して……。

自分一人ではできないことがあるからレギオンに入ったのに、自分一人でどうにかしようとしていた。

 

「ごめん、神琳。私、レギオンで戦ってるのに、一人で戦ってたみたい」

 

雨嘉は、神琳に頭を下げる。その謝罪を、神琳は無言で受けた。

 

「それと、ありがと。私のこと守ってくれて。私、もう迷わない。みんなを信じて、自分にできることをする。……これでいいかな?神琳」

 

この後に及んで神琳に尋ねる雨嘉に、神琳は呆れるようにため息を吐いた後……仕方ない物を見るように微笑んだ。

 

「……ふふ。それでいいかどうかは……貴女自身が決めることよ、雨嘉さん?」

 

その言葉に雨嘉は頷き、宣言した。

 

「私、梨璃のレギオンで戦う!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一柳隊の結束を見て満足そうに頷いた流瑠は、一柳隊(仮称)のメンバーを戻って来させ、アールヴヘイムに目を向けた。

 

「じゃあ次のアールヴヘイムだけど……アールヴヘイムの実習はギガント級くらいの難易度にしようかな」

「……え?」

 

誰かが声を上げる。その言葉が意味するのはつまり、今から自分たちが相手にするのはギガント級ヒュージと同レベルであり     流瑠のエーテルボディはそれ一体だけでギガント級ヒュージとやりあえる、ということでもある。

 

「え?あの、もしかして今から私たち、ギガント級ヒュージレベルの相手とやり合う感じですか?これ実習ですよね?」

 

壱のその言葉に、流瑠は何も答えずニッコリと微笑んだ後、「はーい、じゃあアールヴヘイムのみんな、持ち場に着いてー」と急かした。

 

「ええ……実習ってこんな感じだっけ……?」

「まあ流瑠様だしね。初代アールヴヘイム結成直前の実習とかもっと……思い出したら寒気がしてきた……」

「あれは地獄だったわね……」

「天葉姉様、依奈様……そ、それってどんな……?」

「ふふふ、お姉様に特訓の成果を見せる時だわね……!」

 

流瑠の様子に戦々恐々とするアールヴヘイムのリリィ達。約一名は楽しそうだが。

 

「ルールを説明するねー。戦闘参加可能人数は9人。入れ替えはいつでもやっておっけー。チャームを破壊されたリリィは退却扱いで、それ以降の戦闘参加禁止ね。あ、あとノインヴェルトは、この『擬似ノインヴェルト弾』を使ってね。マギスフィアの形だけ再現して中身はすっからかんだけど、これを当てたら一撃で勝利ってことで」

 

そう言いながら流瑠は一発の弾丸を取り出し、天葉に渡す。天葉がそれを見ると、ノインヴェルト特殊弾によく似ているが、細かい部分の装飾が違う。これを当てればクリア、となれば、狙わないわけにはいかないだろう。

 

少しの作戦会議の後、天葉達はポジションにつく。

全員がいつもの持ち場について陣形ができたことを確認した流瑠は、「準備はいいかなー?」と声をかける。

天葉達は流瑠の声に頷くが、流石のアールヴヘイムも実習でギガント級レベルと戦うことは想定していなかったのか、少し緊張気味だ。

 

ほどよい緊張感が漂うアールヴヘイムの面々に流瑠は満足そうに頷き、口を開いた。

 

「それじゃ、実習開始ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一番槍はいただくわ!」

「亜羅椰!いきなり突っ込まないで!」

「いえ、あれでいいわ。亜羅椰!とりあえず抑えてて!」

 

最初に動いたのは亜羅椰だ。エーテルボディに向かって飛び込んでいき、チャームをぶつけ合う。鍔迫り合う亜羅椰にエーテルボディの足止めを任せ、チームの司令塔である番匠谷依奈は各々に指示を送った。

 

「壱、 茜!回避のサポートは任せたわ!月詩(つくし)は亜羅椰と一緒に接近戦、樟美はファンタズムの準備!あとのメンバーはポジション崩さずに各自援護!」

 

「了解!」と返事が響き、アールヴヘイムは戦略通りに行動を行う。

 

「行きます!やああああああっ!」

 

高須賀月詩は亜羅椰と共に接近戦を仕掛ける。二本のチャームを持った月詩の連撃に、分身体も流石に手数が足りない。

そこに亜羅椰の重い一撃、そして後方からの援護射撃を受けて、分身体は一度接近戦をやめて後ろに下がる。

 

「逃がさないわよ!」と亜羅椰が即座に反応して追いつくが、分身体は身を屈ませて、今度は()()()()()()()()()()

 

あまりの速さの急停止・急発進に、亜羅椰も流石に追いつけず、「なっ!?」と声をあげる。

そのまま分身体は月詩の横も通り過ぎていき     中盤でファンタズムの準備をしていた樟美を狙った。

 

「えっ……?」

 

近接組を無視して自分が狙われると思っていなかった樟美は、反応できない。

 

「樟美っ!?」

 

壱もレアスキル「この世の理」で援護しようとするも、流石に間に合う距離ではない。

樟美に、分身体の持つチャームが振り上げられる。

 

「きゃっ   !?」

 

身を屈ませる暇さえない樟美は目を閉じるが     攻撃は、いつまで経ってもやってこなかった。

 

 

 

     樟美に、手を出そうとしたね?」

「天葉、姉様……?」

 

樟美の前で攻撃を止めていたのは、樟美の愛しのお姉様である天葉だった。

天葉は、分身体が亜羅椰の横を通り過ぎた時点で樟美が狙われることを察知し、後ろから上がってきたのである。

 

「流瑠様?なんで樟美を?」

 

分身体と鍔迫り合いながら、天葉は笑顔で流瑠に尋ねる。目は全く笑っておらず、かなりドスの効いた声に、アールヴヘイムの面子も震え上がる。あ、これはキレてるな、と。

 

そんな天葉の怒りを受けても、流瑠は飄々と笑って応えた。

 

「私は、『脅威になるリリィを先に狙うように』は設定したけど、樟美ちゃんを狙うようには指示してないよー?まあ、攻めの重要な要になるファンタズムを狙うことは、戦略上全く間違ってないとは思うけどねー」

「……なんでもいいですよ。いくら流瑠様の分身とは言え、樟美を狙ったんだ。覚悟してもらわないとね……?」

 

ゾッとするほど暗い笑みを浮かべた天葉は、チャームの一閃で分身体を弾き飛ばすと、依奈の側に飛び降りた。

 

「ノインヴェルトで決めるよ。あの分身は     

 

叩き潰す」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これで、天葉ちゃんも少しはやる気になってくれたかな?」

 

一柳隊(仮称)と共にアールヴヘイムの戦いを眺める流瑠は、そう独りごちる。

それを耳ざとく聞き取った楓は、「まさか、そのために樟美さんを?」と尋ねた。

 

「ううん?樟美ちゃんを狙ったのは完全に偶然。私の分身が、樟美ちゃんが脅威だって判定しただけだよ。でもほら、天葉ちゃん、あんまりやる気じゃなかったみたいだからねー。ちょっと気合が入って良かったなーって」

 

「ちょっと、どころじゃないと思うがのう……」

 

ミリアムは、アールヴヘイム……というよりも天葉の戦いを眺めながら呟く。

 

樟美を狙われた後の天葉の動きは、まさしく鬼神だ。分身体を執拗につけ狙って接近戦を仕掛け、押している。目は完全に瞳孔が開いており、見ている方が怖くなってくるほどの暴れっぷりだ。

攻撃に特化したチャーム・グラムを縦横無尽に振るい、誰よりも走り回り、亜羅椰をも凌ぐワントップ戦術になってしまっている。

 

「しかし、あれだと大変そうなのは……」

「依奈様、ですわね。ああやって暴走するのがいると作戦立てる方はめんどくさいんですわ」

「………暴走しないように努力するわ………」

 

神琳や楓の言うように、大変なのは依奈の方だ。当初の戦略が全ておじゃんになってしまったため、戦いながら作戦を練り直している。しかも、天葉からは「ノインヴェルトで」と指定されているので?それも勘定に入れなければならない。

 

何故か「依奈が大変」という話で夢結まで被害を喰らっているが、ズーンと沈んでしまった夢結に「まあまあ。これから暴走しないように訓練していこうね」と流瑠は優しく頭を撫でた後、戦闘に向き直った。

 

「さて、ここからは司令塔の腕の見せ所だよ、依奈ちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう天葉は!作戦台無しじゃないの!」

「え、依奈様落ち着いてください!いつものことですし、作戦練り直すしか……」

「いま必死で考えてるわよ!」

 

頭を掻きむしる依奈を、同じ司令塔である金箱弥宙(みそら)が宥めるが、依奈は怒りながらも必死で頭を動かす。

 

やがて、考えが纏まったのか、ふーっと息を吐いて指示出しを始めた。

 

「………ノインヴェルト、準備始めるわよ。辰姫(たつき)!若菜様とチェンジして!樟美、ノインヴェルト完遂までのファンタズムは!?」

「もうちょっと……終わりました!共有、できます!」

「えー!?私もうお役御免ですかぁ!?」

「なら共有お願い!辰姫は文句言ってないでさっさとチェンジ!壱、行動予測頼んだわよ!茜様はテスタメントで壱のスキルの共有を!」

「依奈様もなかなか新人使いが荒いですね……!」

「仕方ないでしょ!?あの分身、ヒュージより身体が小さい分すばしっこくて狙いにくいのよ!貴女のスキル、そういうの得意でしょうが!」

 

ぐちぐちと文句を言いながらも、全員が依奈の指示に従って動く。それは、アールヴヘイムのメンバーが依奈を司令塔として心から信用しているからなのだろう。

 

「天葉ー!ファンタズムと壱のスキルの共有あったでしょ!?一旦戻ってきなさい!亜羅椰と月詩は抑えてて!フェイズトランセンデンス使ってもいいわ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

若菜ちゃん(レジスタ)を増やして辰姫ちゃん(ルナティックトランサー)を下げたかー。鉄板だけど、有効な手だねー」

「ですわね。ノインヴェルトの成功率はレジスタの存在で大きく変わってきますから」

「そして、壱さんのスキル(この世の理)茜様(テスタメント)が拡大。樟美さんのファンタズムと合わせてノインヴェルトまでの道筋を整えて、亜羅椰さん(フェイズトランセンデンス)月詩さん(円環の御手)がそれを切り拓く。……理想的な攻撃型レギオンですねぇ」

「ああ言うのを見ていると、やはり『ファンタズム』あたりが欲しくなってきますわね」

「レギオンのメンバーのことですか?そうですね。『この世の理』なんかもあると戦略が広がるでしょうね」

「流石はアールヴヘイムのみなさんです!」

 

流瑠、楓、神琳、二水は、依奈の采配とアールヴヘイムというレギオンの完成度の高さに感嘆する。流石に百合ヶ丘トップと言われるレギオンだけあり、ノインヴェルトまでの道筋を作り出す技術にかけては随一だ。

 

「は、はえぇ……なんかよくわからないけど凄いです!」

「目まぐるしいのう……目で追うのがやっとじゃ……」

「………」

 

梨璃やミリアムは話についていけてないが、それでも今の自分達とはまるでレベルが違うことは理解できる。

感心しきりの二人の横で、夢結は複雑な表情でアールヴヘイムを眺めている。寂しさ、懐かしさ、そして期待。色々な感情が、夢結の中で渦巻いていた。

 

「夢結、アールヴヘイムのこと思い出しちゃった?」

 

夢結の横に来て声をかける流瑠に、夢結は複雑な表情のまま頷いた。

 

「……そうね。初代のアールヴヘイムはまさしく最強だったわ。おそらく、今の彼女たちよりも……。でも、彼女たちはこれから強くなっていく。私や、美鈴お姉様がいなくてもね。……天葉や依奈は、いい後輩たちを持ったものね」

「そうだね。アールヴヘイムはもっともっと、強くなっていくよ。……夢結も、一緒に戦いたくなった?」

 

ニコニコと聞く流瑠に、夢結は少し笑って首を横に振り、隣にいる梨璃の手をギュッと握った。

 

「いいえ。今の私には……梨璃が作ってくれるレギオンがあるから」

「お姉様……」

 

流瑠は「そっか」と微笑んで、アールヴヘイムの戦闘に目を向けた。

 

「さあみんな、そろそろ終わるよー。ちゃんと見て、自分たちの糧にしていこうねー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「依奈、ごめん。突っ走りすぎちゃった」

「ほんとよ、もう。……少しは頭が冷えた?」

「うん。ありがとね」

 

戻ってきた天葉に、「いいのよ、いつものことだし」と依奈は笑う。

縦横無尽に駆ける流瑠の分身体を、今は亜羅椰と月詩がどうにか抑えている状態だ。

 

「それで、作戦は?」

「ノインヴェルトしながらマークをスイッチしていくわ。始動は私がやる。AZとスイッチしてTZ経由、フィニッシュショットは天葉、あんたがやってね」

「おっけー。じゃ、やろっか!」

 

そう言うと天葉は、亜羅椰や月詩とともに分身体の足止めを始めた。

依奈はそれを見て、擬似ノインヴェルト弾を装填した。

 

「壱!行くわよ!」

 

擬似ノインヴェルトのマギスフィアを壱に渡した依奈は、自分も亜羅椰や天葉とともに分身体の足止めに参加する。

 

「スイッチするわよ月詩!」

「はい!」

 

依奈は月詩と入れ替わり、フリーになった月詩に壱はマギスフィアを渡した。

 

「亜羅椰!変わるわよ!」

「もうちょっと遊んでたかったのだけど……!」

 

今度は壱が亜羅椰と入れ替わり、亜羅椰は月詩からマギスフィアを受け取った。

危機感を覚え始めたのか、分身体は高速で離脱しようとするも、壱の「力の方向性を可視化する」レアスキル、『この世の理』をテスタメントで共有しているアールヴヘイムには、どこに逃げようとしているのか丸わかりだ。分身体はデュエルに長けたアールヴヘイムのリリィたちに追い縋られ、逃げ切ることができない。

 

そしてノインヴェルトは続いていく。亜羅椰から弥宙、茜、若菜、樟美と繋がり、残すは天葉一人だ。

 

「天葉姉様!」

「天葉様!私が代わります!」

「ありがと!樟美、こっちに!」

 

一度下がっていた月詩が天葉と交代し、天葉がフリーになる。

しかし、天葉はTZの位置までは下がらない。分身体の真上で舞うようにしてチャームを振るい、樟美からのマギスフィアを受け取る。それはまるで、彼女のシルトである樟美の「フェアリーステップ」のような動きだった。

 

「これで、最後!」

 

天葉はチャームを振るう勢いのまま、真下の分身体に叩きつけた。

途端、分身体とマギスフィアは眩い光に包まれる。

 

その光が、実習の終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、今日の実習はここまで!両レギオンのみんなは次回の私の実習までに、お互いのレギオンの戦略について纏めて提出してねー!」

 

お互いのレギオンの戦略に関する質疑応答や評価、講評が終わった後、流瑠はやっとそう言って講義を締めくくった。流瑠のその言葉に、一柳隊(仮称)とアールヴヘイムのリリィたちは「あ、ありがとうございましたー……」と、どっとへたり込んだ。

 

「はぁー……。ここまで実習でハードだったのは久しぶりだった……。やっぱり流瑠様の講義は緊張するなぁ」

「その上宿題付き……。流瑠様、ほんとこういうのは容赦ないわね……」

 

疲れた様子でぞろぞろと帰っていくアールヴヘイムのリリィたちを見て、梨璃たちも立ち上がった。

 

「そろそろ行きましょうか、梨璃。私の講義はこれで終わりだけど、貴女は?」

「私も終わりです!久しぶりにゆっくりお茶でもしませんか、お姉様?」

「わたくしもしたいですわー!お姉様も参加しますわよね?」

「私はちょっと、今日の講義の資料まとめなきゃだから……終わったらすぐ合流するよ」

「わたしもおちゃかいするー!おねーちゃんたち、つれてってー!」

 

和気藹々と話す梨璃たちを尻目に、雨嘉と神琳も同じく立ち上がる。

 

「さ、雨嘉さん。今日はわたくしたちも、部屋でゆっくりしましょうか」

「うん。……あの、神琳。今日はありがとう」

「どうしたの?改めて」

 

首を傾げた神琳に、雨嘉は頬を少し赤くした。

 

「さっきの……『レギオンを抜ける』って言ってたの、私のやる気を出すために、私にレギオンに入った時のことを思い出させるために言ってくれたんでしょ?神琳は、いつも私のことを考えてくれてるなって……。だから、ありがとう」

 

その言葉に、神琳はピクリと眉を動かす。

そして、笑顔を固めてしばらく何も言わなかった。

 

「……ど、どうしたの、神琳?」

 

心配した雨嘉にそう問われて、神琳はやっと、「いえ、なんでも」と答えた。

 

「いいのよ、雨嘉さん。気にしないで」

 

何かを誤魔化すようにそう言う神琳に、雨嘉は「う、うん……?」と頷くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では、もう寝ましょうか。雨嘉さん」

「うん。おやすみ、神琳」

 

夜になり、雨嘉と神琳は部屋を消灯する。

部屋は暗くなり、そのまま二人の部屋には沈黙が訪れた。

 

 

1分、2分、5分、10分。静かなまま、時間は過ぎていく。

 

 

30分、1時間、1時間半。沈黙のまま過ぎていった時間の後、部屋には微かな声が響いた。

 

 

「神琳、起きてる……?」

 

雨嘉の小さな声に、神琳からの返事はない。

雨嘉はもう一度、今度はもう少し大きめに声を響かせた。

 

「神琳……?起きて……ない?」

 

その声にも、やはり返事はない。

雨嘉はベッドを音を立てないように登って、神琳の側に寄った。

 

上段のベッドには、ぐっすりと眠った神琳の綺麗な顔がある。

その顔を雨嘉は、優しくツンツンと触り、神琳が起きないことを確認した。

 

(きょ、今日も……いいよね)

 

神琳が眠ってしまった深夜。ここからが、最近の雨嘉のお楽しみの時間だった。

 

雨嘉は神琳が被っている布団を優しく剥ぎ、神琳のパジャマのボタンをゆっくりと外していく。

外しきると、雨嘉の目の前には真っ白な肌、そして二つの大きな山脈が現れた。

 

(相変わらず、おっきい……)

 

はだけたパジャマ、真っ白な肌。そんなルームメイトの痴態に、雨嘉の鼓動は早くなる。

そして、辛抱ならないと言うように神琳の手と自分の手の指を絡ませて、神琳の双丘にポフっと顔を埋めた。

 

(ああ……ダメってわかってるけど、神琳の胸の中、落ち着く……)

 

雨嘉の顔を、ルームメイトの素肌の暖かさと柔らかさが包む。そのままペロペロと舐めてみたり、スンスンと鼻を動かしたりして、雨嘉は神琳の胸の中を堪能した。

 

神琳の胸で満足した雨嘉は顔を上げ、今度は神琳の綺麗な顔、そしてシラウオのようにしなやかな手指に狙いを定める。

 

(い、いいよね。だって神琳が悪いんだもん。この前だって私をからかって……!)

 

 

 

 

瑠璃と初めて会った日の夜、雨嘉は神琳に襲われかけた。

ベッドに押し倒されて、至近距離で熱を孕んだ息を吹きかけられ、こう言われたのだ。

 

『雨嘉さん。怖かったら、天井のシミでも数えていてください♪』

 

その意味くらい、自分にもわかる。ああ、自分は今から神琳に襲われるんだなと、そう悟った。

 

不思議と、嫌ではなかった。女の子同士なのに、という想いはあったが、それでも、自分は神琳になら襲われてもいい。そう思った。

でもやっぱり恥ずかしくて、でも目を瞑るのは負けた気がするから、神琳が言うように天井を必死に見上げていたのだ。

 

神琳の手は、雨嘉の身体の上から下へ這って行った。耳元から始まって、頬、喉、鎖骨、胸、お腹……そして下腹部に。

 

優しい神琳の手つきは、緊張して敏感になった雨嘉の肌に、サワサワとこそばゆい感覚を与えた。神琳の手が肌を擦るたびにジクジクと身体が疼き、もっとして欲しいと思ってしまう。

 

そしてついに     というところで、神琳は手を動かすのをやめたのだ。

 

『ふふ……。雨嘉さん、本気にしちゃうなんて可愛いですね♪』

 

神琳は熱を孕んだ顔のままだったが、そう言って軽く触れるだけのキスをすると、自分のベッドに戻ってしまった。

今から襲われると思っていた雨嘉は呆気にとられ、困惑し、同時に身体の疼きに苛まれた。

 

『しぇ、神琳?なんで……』

 

そう声を上げるも、神琳からの返事はない。しかし、一度熱された身体は疼き続ける。

 

仕方なく、雨嘉はトイレに籠った。しかしいくら籠っていても、身体の疼きはどんどん大きくなるばかり。雨嘉の身体が求めていたのは神琳の指であり、神琳から与えられる刺激であった。

いくら頑張っても疼きを止められず、雨嘉が諦めてトイレから出てきた頃には、神琳はもうぐっすりと眠ってしまった後だった。

 

弄ぶだけ弄んで自分は寝るなんて……!そう憤った雨嘉は、ベッドからだらんと落ちた神琳の手を見て、思いついてしまった。

 

この手を使って自分を慰めたら、どれだけ     

 

 

 

 

 

 

その日から雨嘉は、毎日こうして神琳を使()()()いる。

 

神琳のしなやかな指を自分で持って使ったり、太腿を使ってみたり、時には足の指なんかも使ってみた。そのどれもが、雨嘉を満足させてくれた。つまりは、二人の相性は最高に良かったのだ。

 

そして今日。雨嘉はさらに過激なことをしようとしていた。

 

(神琳の顔、とっても綺麗……。これを、私が……!)

 

雨嘉は神琳の色白で整った顔を見て、ごくりと生唾を飲み込む。

 

 

雨嘉は、神琳に複雑な感情を抱いていた。

優しい顔をしながらいつも厳しい言葉を言ってきて、からかってくる。

でも、誰よりも雨嘉を見てくれている。雑誌の表紙になるくらい綺麗で、お淑やかで、可愛くて、強くて、かっこよくて、自分も憧れて     そんな神琳が、自分を見てくれているのだ。

 

その神琳を今、()()()()()()()()()()。綺麗なものを自分で穢してしまう悦楽。その背徳的で暗い興奮に、雨嘉はゾクゾクと震えてしまう。

 

もちろん、直接口などそのまま使ってしまえば、さしもの神琳も起きるだろう。だから、まず手を使わせてもらって、最後に顔に。それが今日の雨嘉のプランだった。

 

(神琳……神琳っ!)

 

しかし雨嘉は神琳の綺麗な顔に我慢できず、その柔らかそうな唇にむしゃぶりついてしまう。

 

「んんっ……」と寝言を言う神琳に心のどこかで申し訳なく思いながらも、雨嘉はキスをやめることができない。

神琳の口の中を味わって、雨嘉の思考はさらに沸騰する。

 

(雑誌に載ってる綺麗な神琳。私をからかうイジワルな神琳。可愛くてお淑やかな神琳。厳しくても私を見てくれる神琳。私を守ってくれる、強くてカッコいい神琳。神琳、しぇんりん、神琳神琳神琳!!)

 

「ごめんっ、神琳ごめん!でもすきっ!」

 

神琳の口の中を容赦なく蹂躙し、自分の唾液をしっかりと神琳の口の中に塗りたくって上書きする。神琳は自分のものだ、とマーキングするかのように。

まるで、自分が神琳を支配しているかのような気分になって、雨嘉の興奮はさらに高まった。

 

暫くして口を離した雨嘉の身体は、既に火照りに火照っている。

そして、もう我慢できない、とでも言うように、いつもより乱暴に神琳の手を掴み、自分の下腹部に近づけた       

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で?それからどうするのかしら?また自分で慰めるだけ?」

 

掴んだ神琳の手が秘所に触れる直前。雨嘉の鼓膜を神琳の声が震わせた。

思わず手を止める。そして、恐る恐る神琳の方を見る。

 

 

 

神琳の目は     ばっちりと開いていた。雨嘉の身体を支配していた熱は途端に収まり、血の気が引いていく。

 

暫く何も言えなかった雨嘉だが、神琳の変わらないニコニコとした笑顔に、やっと言葉を紡ぐことができた。

 

「しぇ、神琳……?い、いつから……?」

「そうねぇ。「神琳、起きてる……?」のところくらいからかしら?」

「最初から……!?」

 

神琳の言葉に、雨嘉は愕然とする。バレた。完全に自分のやったことはバレてしまったのだ。

戦慄と困惑と恐怖で固まる雨嘉を見て、神琳はクスクスと可笑しそうに笑う。

 

「今更じゃない、雨嘉さん。毎晩毎晩わたくしの身体を好き勝手使って自分を慰めて。顔を真っ赤にして気持ちよさそうにプルプル震える雨嘉さん、とっても可愛かったわ♪」

「し、知ってたの……!?」

 

雨嘉の驚愕の声に、神琳は笑顔のまま首を捻った。

 

「あら?わたくし、カマをかけたつもりだったんですが……本当に毎晩やっていたの?」

「えっ!?」

 

神琳の発言に雨嘉はまたもアワアワと焦る。

そんな雨嘉を心底面白そうに神琳は眺めた。

 

「冗談ですよ♪最初から全部知ってました。わたくしが雨嘉さんを押し倒した日に、わたくしの手を使った時から」

「ま、また神琳はそうやって私をからかって……!」

 

雨嘉は、理不尽な怒りと恥ずかしさのままに神琳に馬乗りになる。

神琳は特に抵抗もせず押し倒され、しかし余裕そうに雨嘉を見上げた。

 

「それで?わたくしを押し倒して、その後はどうするんですか?」

「え?ど、どうって……」

「わたくしを襲うんですか?犯すんですか?()()()()()()()()()()()()()()()?毎晩毎晩、わたくしを使って自分を慰めるだけの貴女に」

「そ、れは……」

 

神琳の言葉に戸惑って押し黙ってしまった雨嘉を見て、神琳は息を吐いた。

 

「……貴女はわたくしのこと、どう思っているの?自分が気持ちよくなるための道具?それとも、自分を守ってくれる便利な盾?」

「違う!」

 

神琳の自嘲するような声を、雨嘉は強く否定する。その目からは、涙が溢れてきていた。

 

「違うの……。私、神琳のことが好きなの、大好きなの!いつも私を見てくれて、綺麗で強くてカッコよくて、私の憧れで……。あの時だって、私、神琳になら襲われても良いって思った。なのに、神琳は自分だけ寝て……!だから私、神琳の身体を使って、そしたら凄く気持ちよくて、止められなくなって……」

 

泣きながらそう告白する雨嘉を見て     神琳は雨嘉の涙を優しく掬って、にこりと微笑んだ。

 

 

「そんな顔しないで、雨嘉さん。そんな顔されたら        

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲いたくなっちゃうじゃないですか!!

 

 

そう言うや否や、神琳は見事な体捌きで自分と雨嘉の位置を入れ替える。抵抗する間もなく、あっという間に押し倒された形になる雨嘉。両手首はベッドに押し付けられ、もう抵抗できない。

 

いつもの穏やかな笑顔はどこへやら。神琳は「ふーっ!ふーっ!」と息を荒らげ、瞳孔は開き、今にも襲いかかってしまいそうな余裕のない表情になる。

 

「散々今まで我慢してきたのに……!何度も思った!まだ純白の貴女をわたくしの色で穢せたらどんなに気持ちいいだろうって!貴女の可愛いくて、淫らで、いやらしい顔がもっと見たいって!

でも、わたくしが貴女を縛ってしまえば、貴女の未来は狭まる!貴女自身の幸せが何なのか、それをわたくしが奪ってしまっていいのか?わたくしのエゴだけで貴女を染めてしまっていいのか!?そうやって貴女のことを思って今まで必死に我慢してきたわ!それなのにそんなこと言われたら     !」

 

豹変した神琳の絞り出すかのような声に、雨嘉は泣きながら微笑む。心底嬉しそうに。心底、安堵したように。

 

「神琳……。やっぱり神琳は、私のことを見てくれてる。私のことを考えてくれてるんだね。そう言う目で見てくれてるんだね。

……嬉しい。好き。好きだよ神琳。私、神琳の色に染まりたい。染めてもらいたい。……だから、神琳も私だけの色に、染められてくれる?」

 

そんな雨嘉の健気な言葉に、神琳は頷いた。その表情は、嬉しさと安堵、そして治まらない興奮が()()ぜになっている。

 

「……ええ、もちろん。わたくしも大好きです、雨嘉さん。わたくしも、雨嘉さんの色に染められたい。だから………シて、いい?」

「うん。きて、神琳」

 

その言葉とともに、二人の距離はゼロになる。

今までのお互いの我慢を全て発散するかのように、二つの独占欲はベッドの上で一つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わたくしは……雨嘉さんがわたくし以外の人の色に染まるのを見るのが、嫌だったの」

 

さんざっぱら行われた愛を育む行為が終わった後、グチャグチャのグチョグチョになったベッドの上で、神琳は自分の想いを話し始めた。

 

「一柳隊にいれば、貴女は色々な人から影響を受けるでしょう。そうなったら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。雨嘉さんの中身をわたくしだけにしたい。雨嘉さんの中に、()()()()()()()()()()()()()()()()()。……だから、「レギオンを抜けますか?」と聞いたの。抜けてくれれば、貴女は私だけのものになる……そう思ってしまったから」

 

「そうだったんだ……」と相槌を打つ雨嘉に、神琳は自嘲気味に笑った。

 

「……徹頭徹尾、わたくしの行動は自分のためよ。貴女のことなんか考えてない、自分のためだけの行動。……軽蔑したでしょう?」

 

雨嘉は穏やかに笑って、首を横に振った。

 

「ううん。そんなことない。私、神琳が私のことを自分のものにしたいって思ってくれてるってわかって……とっても嬉しかった。それに、私だって神琳の身体を使って、自分ばっかり……」

「それは否定できないわね。……と言いたいところだれけど、あれもわたくしのせい。貴女を焦らすだけ焦らして、()()()()()()()()()()()()()()()()()。貴女から襲ってきたのなら仕方ないって、そう自分に言い訳するために……。ごめんなさい、雨嘉さん」

 

頭を下げる神琳に、雨嘉はいいことを思いついたかのように笑った。

 

「じゃあ、責任を取って……もっともっと、愛してほしいな」

 

手を広げて神琳を求める雨嘉の健気な姿に、散々やって疲れきったはずの神琳も再度気力が湧いてくる。

雨嘉の上に覆い被さり、「もう逃がさない」と言うように雨嘉の手も足もガッチリと拘束した。押し倒された雨嘉は「きゃっ♪」と嬉しそうな悲鳴をあげて為すがままになる。

 

「ええ、もちろん。……わたくしは貴女だけのものです。だから、貴女もわたくしだけのものになってください」

「うん。約束する。どんなレギオンに入ってたって、私は神琳だけのもの。だから……神琳は私だけのものだよ?」

 

二人は口付けを交わし、もう一度、さっきよりももっと幸せそうに、身体を重ねた。

 

 

 

 




・神雨?雨神?
行くところまで行った感。以降はずっとイチャイチャしまくってます。

・二水ちゃん
成長のために経験を積むのじゃよ。いつか立派なリリィになるために。

・瑠璃ちゃん
歩けるようになった。リハビリには一柳隊の面々も付き合っている。

・アールヴヘイム
さらっと流されてるけど流瑠様のギガント級レベルの分身を相手に無傷ノインヴェルトを達成しているやべーやつら。普通に撃破するだけなら亜羅椰さんとブチギレ天葉姉様だけで割といける。



流瑠様による甘々劇場は無かった。嘘は言ってません。
投稿に時間かかって申し訳ありません。仕事が……夜勤が……。

次回も少し掛かるかもしれませんが、少々お待ちください!

沢山のお気に入り・UA・感想・評価・誤字報告等、いつもありがとうございます!
これからも頑張ります!
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