アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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はじめに神は百と合とを創造された。



(瑠璃ちゃんのぶらり百合散歩)


デンファレ その5

 

 

 

 

「ふふふーん、ふふんふふふーんふーん♪」

 

燻んだ金髪と紅い目の少女が、百合ヶ丘女学院の敷地を上機嫌に歩く。

百合ヶ丘の制服も着ず、白いワンピースに身を包んだ特徴的な少女は、歩くたびに百合ヶ丘のリリィ達の視線を引いていく。

 

少女……四ツ谷瑠璃は、やっと動く様になった身体を存分に動かして、自由を謳歌していた。

リリィの身体能力ゆえか、リジェネレーターの力ゆえか。瑠璃はリハビリを始めてから1、2週間程度で自由に動ける様になった。歩けた時には、瑠璃のリハビリを手伝っていた一柳隊(仮称)の面々も、自分のことのように喜んでくれたことを覚えている。

 

瑠璃は、まだ正式に百合ヶ丘の生徒として認められたわけではない。本人は「おねーちゃんたちといっしょにべんきょうしたい!」と希望しているが、身体は中等部二年生にしても小さいくらいで、実年齢は高等部一年生とギャップがあり、そもそもノスフェラトゥの扱いに学院が困っているため、未だに中等部に行くのか高等部に編入するのか決まっていない状態なのである。

 

そんなわけなので、瑠璃は「百合ヶ丘の敷地内から出ない」という制約を守る限り完全に自由なこの猶予期間(モラトリアム)を、全力で楽しむことにしたのだった。

 

 

最初は「流瑠と梨璃さえいればいい」と思っていた瑠璃だったが、一柳隊(仮称)のリリィ達と触れ合って、元々が外向的な性格だったこともあり、明るく社交的な性格になった。なので、最近はよく外に遊びに出ている。

 

瑠璃は、女の子同士が仲良く(イチャイチャ)しているのを見るのが大好きだ。特に、身体的接触が多いと尚良い。そんな瑠璃にとって百合ヶ丘は聖域とも言える。なんせ、シュッツエンゲルという生徒同士の濃密な関係形成の制度があるのだ。昔いた福岡天神女子よりもずっと濃厚な女の子同士のイチャイチャを堪能できるとあって、彼女のテンションはここ数日、すこぶる高かった。

 

なので彼女は今日も、持ち前の「嗅覚」を活かし、いろいろなリリィ達のところを渡り歩いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん?こっちからにおうなー」

 

クンクンと鼻を動かして、瑠璃はあっちへフラフラこっちへフラフラと移動する。

瑠璃の鼻は、()()()()()()()の匂いを正確に嗅ぎ分けることができる。

そんな彼女にとって都合の良い鼻に導かれるまま、瑠璃は旧館   高学年のリリィ達が住む寮の方へ、まるで花の香りに誘われる蝶の様に引き寄せられていった。

 

 

 

「あれ?貴女、昨日実習を見学に来てた……」

「あら、可愛いお客さんじゃない。ごきげんよう」

 

引き寄せられた先で瑠璃が出会ったのは、天野天葉と番匠谷依奈であった。天葉達は瑠璃のことを覚えていた様で、あちらから声をかけてくる。

 

「ごきげんよう!おねーさんたち、きのうの『アールヴヘイム』だっけ?っていうレギオンのリリィなんだよね?」

 

瑠璃の言葉に、天葉と依奈は鷹揚に頷いた。

 

「うん。私は天野天葉。こっちは番匠谷依奈ね。貴女のお名前を聞かせてもらってもいい?」

「うん!わたしはよつやるり!よっつのたにに、るりいろのるりで、四ツ谷瑠璃!」

 

元気な瑠璃の自己紹介に、天葉も依奈も笑顔になる。

 

「よろしくね。瑠璃ちゃん、昨日は一柳隊のみんなと一緒に居たみたいだけど、知り合いなの?」

「そうだよ!わたし、るるおねーちゃんとりりおねーちゃんがだいすきなんだ!」

「流瑠様と梨璃さん?だから一柳隊と一緒だったんだねー」

「流瑠様、最近はあそこのレギオンにお熱よねぇ」

 

依奈は、この頃流瑠が他のレギオンに掛かりっきりでアールヴヘイムに構ってくれないのが不満なのか、ため息を吐く。天葉はそんな依奈に「まあまあ」と苦笑いして、瑠璃に向き直った。

 

「そういえば、瑠璃ちゃんはここに何の用事があってきたの?」

「べつにようじはないよ?においにつられてきただけ。だれのにおいかとおもったけど、そらはおねーさんのにおいだったんだね」

「え?匂い?わ、私匂うかな?」

 

心配そうな天葉に依奈は鼻を近づけるが、特に変な匂いはしない。嗅ぎ慣れた良い匂いがするだけだ。

 

「いつものシャンプーとボディソープの匂いしかしないわよ?そもそも、何の匂いがしたの?」

「んー?おんなのこどうしでイチャイチャしてるにおいかなー」

 

その予想外の言葉に、依奈は「ぶっ!?」と吹き出す。

 

「る、瑠璃ちゃん?それはどういう……」

「わたし、おんなのこどうしがどれくらいなかがいいか、においでわかるんだー♪そらはおねーさん、そうとうイチャイチャしてたでしょ?」

 

話を振られた天葉は、「あ、あはは……」と頬を掻いた。

 

「そ、そうだね。私は依奈と仲がいいしねー」

「で、でもイチャイチャなんて!そりゃその、したくないわけじゃないし天葉がどうしてもって言うならその……

 

誤魔化すように言う天葉と顔を赤くしてモジモジする依奈を見て、しかし瑠璃は首を傾げた。

 

「ちがうよ?たしかに、えなおねーさんともなかがいいみたいだけど……スンスン。このにおいは……アールヴヘイムの()()()()()()()()()()()のにおいじゃない?きのう、けっこうイチャイチャしたでしょ」

 

瑠璃のニヤニヤしながらの言葉に、依奈はカチンと身を凍らせる。天葉は天葉で、冷や汗をダラダラと流していた。

 

「………どういうこと?瑠璃ちゃん。詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「いいよー?っていっても、きのうのよるにナニかしたんじゃないかなーっていうくらいだけど」

 

それを聞いて、依奈はビキビキと青筋を立てる。

 

「……そういえば天葉?昨日、消灯時間が過ぎた後に『ちょっとジュース買ってくるー』とか言って部屋を抜け出してたわよね?」

「あ、あははは……」

「しかも帰ってくるまでにやたら時間かかってたわよね……?」

「あはは……」

「この前、『寮にいる時は、私は依奈のための天葉だよ☆』とかなんとか言ってたわよね………?ええ、本気になんてしてないわ。あんな適当な発言、本気にするわけないじゃない。でもね……!」

「はは、は……」

 

依奈から発せられる怒気に、天葉はジリジリと下がっていく。

 

「何か、言い残すことはあるかしら?」

 

青筋まみれになった依奈の顔に、天葉は開き直ったかのように満面の笑顔になった。

 

「私、依奈のこと大好きだよ☆」

「………………ば、バカ天葉           !」

 

笑顔のまま逃げ始めた天葉を、依奈が鬼の形相で追っていく。

 

そんな二人の様子を、瑠璃は愉しそうにクスクスと笑って見送った。

 

「ふーん、そらはおねーさんはひとたらし……いや、リリィたらしなんだー。るるおねーちゃんみたい♪

……ま、きっかけはあげたからねー。あとは、えなおねーさんしだいだよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天葉達を見送った瑠璃は、さらに匂いを追って百合ヶ丘を歩く。

旧館を抜けた瑠璃は、旧館と新館の間にある場所……ラウンジに導かれた。

 

「ふふふん♪ふふんふふふんふふーん♪……あれ?」

「……あ、瑠璃ちゃんだ!おーい!」

「瑠璃さん?奇遇ね。ごきげんよう」

 

昼時ともあって多くのリリィがお茶をしている中、瑠璃を見つけたのは梨璃と夢結であった。

 

「ごきげんよう!りりおねーちゃん、ゆゆおねーちゃん!きょうはこうぎおわり?」

「ええ。貴女は……元気そうね。昨日、実習を急に見学に来た時はびっくりしたけれど」

「ほんとだよ瑠璃ちゃん!一人で歩けるくらい回復したんだね!」

 

「えへへー」と瑠璃は鼻を掻く。もちろん瑠璃は当事者としてリハビリを頑張ったが、そうやって頑張れたのは紛れもなく梨璃や流瑠、そして一柳隊(仮称)のみんなの応援があったからだ。

もう何度もお礼をみんなに言って「そんなに言わなくていいよ」と言われた後なので、追加のお礼の言葉は胸の中にしまっておくことにした。

 

「瑠璃ちゃんは何してたの?」

 

一人で動けるようになったことを自分のことのように喜ぶ梨璃は、その笑顔のまま、瑠璃に尋ねた。

 

「んーとね。イチャイチャしてるひとたちのにおいをおいかけてるよ!そしたらここに……あ、りりおねーちゃんとゆゆおねーちゃんのにおいだったんだね!」

 

無邪気な笑顔でそう言う瑠璃に、梨璃と夢結は「え”」と濁った声をあげる。

その反応を見て、瑠璃はニヤニヤと笑った。

 

「ふーん?なになに、なにしてたのー?」

「いやー、それはその……」

「おしえてよー。わたしもなにしてるかおしえたでしょー?」

 

「ねーねー、おしえてよー」とクルクル二人の周囲を回る瑠璃に、夢結はため息を吐き、「わかったわよ……」と観念したかのように頷いた。

 

「……その、次はいつお泊まりしようかって……。この前添い寝して貰って、凄く良く眠れたから……」

 

その言葉に、瑠璃もまたため息を吐く。このおねーちゃん、またヘタレるつもりか、と。

 

「はぁ……。ゆゆおねーちゃん、またヘタレるんじゃない?りりおねーちゃん、けっこういろんなリリィににんきだから、いつとられちゃってもしらないよ?もちろん、わたしもね♪」

 

夢結は瑠璃の言葉に「ぐっ!?」と反応するも、すぐに持ち直して言い返した。

 

「わ、私は梨璃と健全な関係を続けるわ!いつかはその、そういうこともするかもしれないけれど……。でも、きっとこの関係は今だけだと思うの。だから、今はもう少しこのままでいたいのよ……。それまでは、梨璃には楓さんにも貴女にも、誰にも手を出させはしない。私が守ってみせるわ」

「お姉様……!」

 

力強く宣言する夢結に、瑠璃は「むっ……」と言葉に詰まる。そこまで言われると、瑠璃も百合を愛する者の一人として尊重しないわけにはいかない。

 

「りりおねーちゃんは?ゆゆおねーちゃんとそういうこと、しなくていいの?」

 

矛先を変えた瑠璃の言葉に、梨璃は顔を赤くしながらも答えた。

 

「そ、そういうことに興味がないわけじゃないけど……でも、私もお姉様と一緒に寝た時、凄く安心して、とっても暖かかったんだ。心と心で繋がってる感じがして……。だから、私も今のままでいいかなって」

 

梨璃の言葉に、瑠璃も「なるほど」と首肯する。

瑠璃は今まで、「仲良く慣れば必然として身体的接触も増え、身体の繋がりが深くなるほどに心の繋がりも深まる」と考えていた。

しかし、二人を見ていると、どうやらそういうわけでもないらしい。

 

続けたいと思える。今のままでいたいと思える。そんな心と心の繋がり、そして関係。それを瑠璃は見落としていた。

その心と心の関係を、「より深い関係への前哨戦」と見做すか、それとも「それ自体が繋がりの本質である」と捉えるか……。それは、瑠璃自身が体験してみなければわからない。

 

「そっか、そういうのもあるんだね………。うん!わたしも、りりおねーちゃんやるるおねーちゃんとそういうことしてみたい!ココロとココロでつながってみたい!」

 

「こんどるるおねーちゃんにたのんでみよ!」と意気込む瑠璃に、なんとか乗り越えられた、と夢結は嘆息する。

 

「それで、梨璃。今度の予定だけど……」

「それなんですけど、お姉様。話してたら、今日、お姉様と一緒に寝たくなっちゃいました……。だ、ダメですかね……?」

 

不安げに上目遣いをする梨璃にキュンと来て、夢結は大きく頷いた。

 

「も、もちろんいいわよ、梨璃。安心なさい、後で私が書類は提出しておくわ。また流瑠お姉様の部屋を使わせてもらいましょうか……」

「ありがとうございます、お姉様!今日は前よりもいっぱい、お布団の中でお話とかできるといいなって!えへへ……」

「……もう。可愛い子ね、梨璃」

 

その流れで抱きしめたり撫でたりとイチャイチャし始めた二人を見て、瑠璃は「いいなー、わたしもしたいなー」と呟く。

 

既に瑠璃どころか、あまりのラブラブさに集まってきたギャラリーすら眼中に無いかのようにイチャラブしている二人を置いて、瑠璃は再度歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「あ、瑠璃ちゃん!おーい!」

「あら、瑠璃さんじゃありませんか」

 

と、歩き始めて早々、さっきと同じようなセリフで瑠璃は呼ばれる。

同じラウンジの中、夢結と梨璃とは反対側の角に陣取っていたのは、流瑠と楓であった。

 

「るるおねーちゃん!かえでおねーちゃん!ごきげんよう!おねーちゃんたちもおちゃしてたの?」

「そうだよ。偶には二人だけでお茶するのもいいかなってね」

「夢結様と梨璃さんがあちらにいることもわかってはいるんですが、今日はわたくしがお姉様を独り占めしていますの!」

 

おーほほほ、と楽しそうに言う楓だが、瑠璃にはその様子がどこか空元気に見えた。

 

「かえでおねーちゃん、なんかつかれてる?」

「ああ、わかりますか……。わたくし、今日も流瑠お姉様に一撃当てられませんでしたの」

「あー、シルトの。せんとうくんれんだっけ?」

 

瑠璃が頷くと、楓はテーブルに突っ伏した。

 

「そうですわー。もう全然。流瑠お姉様、わたくし、貴女のかわいい恋人なのですし、もう少し手加減していただいてもよろしいのでは?」

「うーん……でも楓、最近いい感じだよ?亜羅椰と楓と夢結は、あとちょっとで多分当てられると思うんだけどなー。それに、手加減されて嬉しいの?」

 

その言葉に楓は「ぐぬぅ」とうめき声をあげるが、顔を上げて言った。

 

「そりゃ、手加減なしで貴女のシルトになれれば最高ですが……でもわたくし、使える手は何でも使いますわよ!恋愛は戦争なのですわ!それにわたくし……貴女に約束致しましたもの。()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()と」

 

その楓の真剣な眼差しを受けて、流瑠は感極まったようにその場でブルブルと震え、楓に抱きついた。

 

「〜〜〜〜〜っ!楓ぇ!もうもうもう!そうやって私が喜ぶことばっかり言うんだから!」

 

そうしてひしっと抱きしめられた楓はしかし、顔を赤くして、別の理由でブルブルというかビクビクと震え始めた。

 

「あっ、ちょっ!お姉様っ……んっ、そんな、強く抱きしめられたら……わ、わたくし……んんっ!」

 

抱きしめられただけで顔を真っ赤にしてビクンビクンと身体を跳ねさせる楓を見て、「あ、そういえばおねーちゃんに調教されてたな」と瑠璃は思い出した。

 

「あ、ごめんね楓……。つい嬉しくって……」

「んっ、ごほん。だ、大丈夫ですわお姉様。後で下着を替えておかないと……まあ、早いとこお姉様に一撃当てて見せますわよ。亜羅椰さんや、夢結様よりも先に」

 

「あくまでもシルトにこだわる」、そんな態度の楓に瑠璃は疑問を持ち、楓に耳打ちした。

 

「でもさ、かえでおねーちゃん。なんでそんなにシルトにこだわるの?いま、ほとんどるるおねーちゃんのことどくせんしてるよね?ゆゆおねーちゃんやりりおねーちゃんといっしょに」

 

その疑問に、楓も「あぁ、それですか」と囁き返した。

 

「確かに、わたくし達四人は運命共同体と言っても過言ではありませんわ。しかしそれとは別に、お姉様、シルト希望者が多いので、一日の結構な時間をシルト用の戦闘訓練に当ててるんですのよ。なので早いとこシルトを決めて、戦闘訓練の時間を浮かせればイチャイチャできる時間が増える、と夢結様と話しまして。ですので、今のところ一番可能性が高いわたくし達が狙ってるんですの」

 

「とは言え、どうせならシルトになりたいので全員本気ですけれどね」と楓は付け加えた。

 

「ふーん、めんどくさいなぁ。るるおねーちゃんもさっさとくっついちゃえばいいのに」

「あの、全部聞こえてるんだけど……」

 

と、ここで、今まで黙っていた流瑠が口を挟む。

 

「え?き、聞こえてました……?」

「うん。……そうだよね、その時間を一緒にいる時間に充てられた方がいいんだよね……」

 

流瑠は息をふーっと吐いて、少ししてから頷いた。

 

「わかった。ちょっと考えておくね、シルトを選ぶ基準。……昔は、私が置いていかれないために、シルトを作らないために『一撃当てられたら』っていう条件を付けてたけど……もう、いいんだよね?楓も夢結も梨璃も、私を置いていったりしないよね?」

 

不安げに瞳を揺らす流瑠に、楓はため息を吐いた。

そして、いつかのように抱きしめて頭を撫でる。まるで、幼児をあやすかのように。

 

「まだそんなことを仰ってますの?大丈夫ですわ、お姉様。貴女が誰をシルトにしようとも、どんな選択をしようとも、わたくしたちはいつまでだって貴女と一緒です。わたくしたち四人は運命共同体。天国の果てから地獄の底まで、ずっと一緒にいますわ」

「うん。……愛してるよ、楓」

 

そう言って、再度楓を流瑠は抱きしめる。さっき楓が抱きしめられて悶絶したことも忘れたまま。

 

「おっ…姉様……わ、たくしも愛して、んんっ!いますわっ……」

 

とはいえ、今回は楓の方から抱きしめたのだから文句の言いようもない。

というよりも、楓は流瑠に思う存分抱きしめられて嬉しそうにしている。さては自分から抱きしめられにいったな?と楓の狙いを察した瑠璃は、イチャイチャし始めた二人に耳打ちした。

 

「あ、そういえばゆゆおねーちゃんとりりおねーちゃんは、きょうはいっしょにねるらしいよ?」

 

「ま、かんけいないかもしれないけどね?」と悪戯な笑みを浮かべた瑠璃は、二人の反応も見ずに、その場を上機嫌で去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふふふんふふふ、ふふふんふふふーん♪ふふふん、ふふふん、ふふふんっふふふーん♪」

 

ラウンジを離れた瑠璃は、さらに濃い匂いを求めて、新館の近くまで来ていた。

新館。一年生のリリィ達が暮らす寮だ。そこから、今までにない強い匂いを感じる。

 

     あら?瑠璃さんじゃありませんか。ごきげんよう」

「瑠璃ちゃん……よかった、しっかり歩けてるんだね」

 

その声に瑠璃が振り返った時     瑠璃は、あまりの甘い匂いに咽せ返った。

 

「……!?ゴホッゴホッ!ゆ、ゆぅおねーさんとしぇんおねーさん!?なん……ゴホッ!」

 

振り返った先では、雨嘉と神琳が並んで歩いていた。瑠璃は、二人から今まで嗅いだことのないような匂いを感じとる。

 

「だ、大丈夫!?まさか、後遺症が!?」

「だ、だいじょうぶ……。ごき、げんよう。おねーさんたちはなにをしてたの?」

「え?講義が終わったから、一緒に帰ってるだけだけど……」

 

二人の様子は一見していつもと同じだ。特別イチャイチャしてる感じでも無く、普通に並んでいる。

なのに、この匂いはなんだ。あまりにも甘い匂いが強すぎて、詳細が嗅ぎ取れない。

ただ一つわかるのは………この二人は、つい昨日とは比べ物にならないほど()()()()()()、ということだ。

 

「お、おねーさんたち、その……きのう、なにかあったの?」

「昨日?……何かあったっけ?神琳」

「いいえ?いつもと同じでした」

 

いやいやそんなわけないでしょ、と瑠璃は内心でツッコむ。

二人の様子はいつも通りなのに、周囲の百合濃度が高すぎる。異常だ。

瑠璃が戦慄していると、「あ、そうだ」と神琳が声を上げた。

 

「瑠璃ちゃん、コスプレとか興味ありますか?」

「こす、ぷれ?」

 

唐突な話題転換に瑠璃がオウム返しすると、神琳は「はい♪」と、バッグの中に入っていたものを広げだす。

それは………この学院内ではまるで馴染みのない、メイド服と巫女服だった。しかも、どちらもミニスカート。

 

「これ、瑠璃ちゃんに似合うと思うんです♪今度着てみませんか?きっと依奈様も、瑠璃ちゃんなら色々着せてくれると思うんですよ」

「え?いや、わたしはべつに……」

 

そういう趣味はない、と否定しようとした矢先、「あ痛っ!」と神琳の声が上がる。

見ると、わかりにくいが、ムスッとした顔の雨嘉の足が神琳の足を踏んでいた。

二人は、瑠璃に聞こえないようにだろうか、ボソボソとお互いの耳元で話し始める。

 

「神琳。それ、今日私に着せてするって言ってなかった……?」

「ええ、そのつもりですよ。瑠璃ちゃんのは次の機会にと言う話で……あら?さっきまではあんまりコスプレに乗り気じゃなかったと思ったのだけど。急にどうしたの?」

「……神琳のいじわる。神琳はコスプレが似合う可愛い子なら誰でもいいの?」

 

膨れっ面の雨嘉に、神琳はクスクスと笑った。

 

「昨日も言ったでしょう?わたくしは雨嘉さんだけのもの。雨嘉さんはわたくしだけのもの。可愛い子を見るのはわたくしの趣味というだけで、わたくしと雨嘉さんの関係には何も影響しないわ」

「……でも、私と居る時は、なるべく私だけを見てほしい……」

「……ふふふふ。そんな可愛いこと言われたら、部屋まで我慢できなくなっちゃうじゃないですか。………寮の裏手に人に見られない場所があるので、そこで……ね?」

「……うん」

 

そのやりとりに瑠璃は全くついて行けず、唖然としたまま見ていた。そして、「それではそういうことなので〜」と、神琳が顔を赤くした雨嘉の手を引いて寮の裏に姿を消すのを、やはり呆然としたまま、瑠璃は見送ったのだった。

 

 

「………い、いちにちですすみすぎじゃない………?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夕焼け空の下を、瑠璃は歩く。一通り百合ヶ丘の濃い匂いを巡った瑠璃は、今日一日にとても満足していた。

 

今日の夕食は何かなー、と子供らしいことを考えながら、特別寮の方へ向かって歩く。

 

そんな瑠璃の鼻に、またも匂いが届いた。

そこまで濃いわけではない。まだ若葉のような、瑞々しくて新鮮な匂いだ。

 

(これくらいの「しんせん・とれたて」ってかんじのゆりもいいんだよねー!)

 

その匂いが琴線に触れた瑠璃は、匂いを辿ってみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し歩いた瑠璃は、百合ヶ丘の校舎とは反対の、人気の少ない木々が生い茂る一角までたどり着いた。

匂いの元は、どうやらこの草むらの向こうからするらしい、と瑠璃は察知し、草むらの影からそっと見守ろうと近づいた。

どうやら、二人のリリィがいるらしい。緑色の髪のリリィと、金髪のリリィだ。顔は見えないが、話し声が聴こてくる。その声に、瑠璃はどこか聞き覚えがあった。

 

 

「………先輩、レギオンに入らないんですか?」

「なんだよお前までー。それを言うならお前もだろー?聞いたゾ、梨璃のところだけじゃなく、ロスヴァイセからも勧誘が来てるって」

「……梅先輩だって、一柳のところだけじゃなく、色んなところから声かかってるらしいじゃないですか」

 

二人はどこかぎこちなく話しているが、それでも二人の間からは確固たる信頼も聞き取れる。

 

「私のこと気にかけてくれるのはいいですけど……梅先輩は、私と違ってどこのレギオンでもやっていけるでしょ。私に気を遣わないでくださいよ」

「別に気を遣ってるわけじゃないんだけどなー。……心配だったヤツがいてさ。ソイツが立ち直って、もう梅が見てなくても大丈夫そうだなーって。だから断ってるだけだ」

「……燃え尽きたんすか」

「かもなー」

 

あははー、と、梅先輩と呼ばれた緑髪のリリィは乾いた笑いを見せる。

 

「お前こそ、なんでレギオンに入らないんだ?」

「私は……まだやらなきゃいけないことがあるんです。あの人の隣に立つために。そして、アイツの無念を晴らすために……」

 

金髪のリリィの顔を見てか、緑髪のリリィは顔を険しくする。

 

「……お前、死ぬ気か?」

「いいえ。最初から死なんて望んじゃいません。アイツにも、生きろって言われましたし。私は乗り越えて、生き残るために行くんです。……でも、成功しても失敗しても、あの人かアイツ、どっちかの隣に行けるんですから、悪い賭けじゃないんですよ。私にとっては。あとちょっと……あとちょっとで、たどり着くんです」

 

金髪のリリィの言葉に、緑髪のリリィはため息を吐く。

 

「……梅にはお前の道を決める権利なんてない。けどな……多分、お前の言う二人、どっちもお前を怒るゾ。なんでこんなことしたんだって。上手くいっても、いかなくてもだ」

「かもしれませんね。……でも、私に全てをくれたのはあの二人なんです。生きる希望も、癒しも、喜びも、悲しみも、何もかも。私という存在を私が肯定できたのは、あの二人のおかげなんです。だから     

 

 

私は、()()()()と瑠璃……()()()()()のために、()きます」

 

 

 

           え」

 

 

その言葉に、静かに見守っていた瑠璃は思わず声を上げて立ち上がってしまう。

 

突然の声に、二人のリリィも振り向く。

そして、瑠璃と金髪のリリィの目が、合った。

 

 

 

「たづ、さ……」

「る、り……?」

 

 

二人は、お互いに信じられないようなものを見た顔で、少しずつ後ろに下がっていく。

 

 

 

 

 

困惑。鶴紗の脳内を、困惑が支配する。

なぜ、どうして死んだはずの、いや死んでいるはずの彼女がここにいる?

実は死んでいなかった?ならなんで今まで見つからなかった?

 

 

まさか     生き残った?あの実験から?

 

 

わからない。わかりたくない。今までの自分の行動の意味を崩される気がして。

 

 

 

 

鶴紗は       瑠璃からも、自分の行動の意味からも、全てから逃げるように背を向けて、行き先もわからないまま走りだした。

 

 

「ちょ、鶴紗!?お前どこに……!」

「くるな!くるなぁああああああッ!!」

 

 

突然の絶叫に、梅は固まって動けなくなる。その間に、鶴紗はどこかへ行ってしまった。

 

そして、その原因となったであろう少女の方を向くと     

 

 

少女(瑠璃)は、頭を抑えて蹲っていた。

 

 

「お、おい!どうした!?」

「いたい、いたいぃいいいい!あたまいたい!あああああああああ!」

 

 

 

 

瑠璃は、頭が割れるような頭痛に苛まれていた。

知らない光景。知らない言葉。知らない人。そんな有象無象が頭を流れていく。

 

いや、知っているのだ。ただ忘れていただけ。

頭痛と共に、記憶が蘇ってくる。まるで、頭痛に呼応して自分の頭が活性化していくかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『安藤鶴紗。……よろしく』

 

『私、四ツ谷瑠璃!よろしくね、鶴紗!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでね!女の子同士でっていうのが私の最近の流行りでー!』

 

『……ちょっと私には理解できない。……まあ、他人の趣味を否定するつもりもないけど』

 

『ほんと!?じゃあ私とイチャイチャしてみる?鶴紗♪』

 

『いや、そういう意味で言ってないし』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私ね、前いた学校でいじめられてたんだ……。それで、ヒュージの前に突き落とされて、G.E.H.E.N.Aに捕まっちゃった』

 

『……不幸だね。なのに、あんたはいつも明るい。……なんで?』

 

『だって、明日はきっといいことあるって思ってるから!今が、今までが苦しくても、明日はきっといい日になるって!』

 

『……バカだよ、瑠璃は』

 

『ば、バカ!?』

 

『でも……私も信じてみたい。明日はきっといい日になるって』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『鶴紗。きっと、私と貴女がここに来た理由は違う。実験の内容も、大きく違うと思う。多分、連中にとって重要なのは私の方。だからね、鶴紗。もしもチャンスが、希望が目の前にあったら……私のことは気にせずに、掴みに行って。明日を掴んで。貴女は、幸せになっていいの』

 

『なんの、話をしてるの……?』

 

『えへへ、内緒♪』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ふふ、可愛い寝顔……。大好きだったよ、鶴紗。この檻の中での生活で……ううん、私の人生の中で、唯一私にできた友達。……ごめんね、一人にしちゃって。

明日、次の実験で、多分私は死ぬ。でも気にしないで。きっと、明日はいい日だから。だから……おやすみ、鶴紗』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それでいいの!貴女は希望を、明日を掴み取った!』

 

『そんな!?瑠璃!瑠璃ぃいいいいいいいい!!』

 

『生きて、鶴紗!生きなさい!

明日もきっと、いい日だから       !!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで今まで忘れていたのだろう。

こんなに大事なことを、ただ一人の友達との思い出を。

 

「たづ、さ………」

 

頭は、まだ痛む。

熱に浮かされたようにぐらぐら、ぐるぐる。視界も安定しない。

 

もしかしたら、誰かに背負われてるのかもしれない。足が地につかない。

 

「たづさぁ……」

「大丈夫だ、すぐ特別寮に着く!鶴紗も、探してちゃんと会わせてやるからナ!」

 

誰かの心強い言葉が聞こえる。

きっと優しい人なのだろう。

 

嬉しいなぁ。百合ヶ丘は、優しい人ばかりだ。私が今までいた場所のどこよりも、優しい人ばかりで、あったかい。

 

 

 

 

『明日「は」きっと、いい日になる』。

 

自己暗示のように自分に言い聞かせていたソレ。私は、G.E.H.E.N.Aにいる間、ずっとそうやって自分を騙し続けてきた。

 

明日こそは痛くない実験のはず。明日こそは苦しまなくて済むはず。

明日こそは……誰かが助けに来てくれるはず。自分を保つためには、そう信じるしかなかった。

苦しくて苦しくて仕方なくて、今も、過去も、全てが苦しみしかなかったから、未来に希望を託すしかなかった。

 

鶴紗には「明るい」と言われたが、無理に明るく振る舞っていただけだ。そうしないと、壊れてしまいそうだったから。

 

 

 

そんなことも、私は忘れていた。だって、ここでの生活は楽しくて、愛しくて、「明日『も』いい日になる」ことなんてわかりきっていたから。

卑屈に、ネガティブに「明日『は』いい日になる」と言い続けていた自分を変えてくれたのは、百合ヶ丘の優しいみんなだ。

 

 

流瑠お姉ちゃん。梨璃お姉ちゃん。夢結お姉ちゃん。楓お姉ちゃん。一柳隊のみんな。ロスヴァイセのみんな。

 

鶴紗も、ここにいるのかな。優しい人に囲まれて、あったかくなれたのかな。「明日もいい日になる」って、心から思えたのかな。

 

 

だとしたら、ほんとに、ほんとに嬉しいなぁ。

 

 

 

 

そう願いながら、瑠璃の意識は、暗闇に溶けていった。

 

 





・瑠璃ちゃん
自分からG.E.H.E.N.A時代のことを殆ど語らなかったが、実験の後遺症で忘れていたから。ただ、「G.E.H.E.N.Aは苦しくてつらいところ」という記憶だけは焼き付いていた。

・鶴紗さん
うん、まあ……ごめんなさい?
鶴紗さんがもうちょっと社交性が高かったら、もっと早く再会してたかもね?

・るりたづ
二人の詳しい経緯はまた次回に。




はい。なんかこう、急転直下な感じでした。
次回は瑠璃ちゃんと鶴紗さんの経緯とか諸々。

沢山のUA、お気に入り、感想、評価等ありがとうございます!
これからも頑張ります!

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