神が「世界に百合あれ」と言われると、世界には百合が満ちた。
(暗い話がもうちょっと続きます)
あとでわかったのだが、私が目を覚ましたのは、百合ヶ丘女学院の中にある特別寮だった。
目を覚ました途端、灰色の髪の綺麗な顔が私の顔を覗いていたので、びっくりしたのを覚えている。
「こんにちは。意識はある?私は三巴流瑠。貴女のお名前は?」
その女性は、自分を「三巴流瑠」だと名乗った。
私は、何が何だか全く分かっていなかったから、自己紹介を返した。
「安藤鶴紗、です」
「鶴紗ちゃんね。よろしくねー。ここ、どこかわかる?」
そう問われて、私は周りを見渡した。
木造の壁、清潔なベッド、綺麗な机。そしてその上に置かれた暖かい色のライト。ここがG.E.H.E.N.Aのラボでないことは明らかだった。別にG.E.H.E.N.Aのラボの個室が汚かったわけではないが、もっと暖かみが少なかったように思う。
「ここは、どこですか……?」
「ここは百合ヶ丘女学院だよ。私はここの三年生なの」
百合ヶ丘女学院。世界でもトップクラスのガーデンに数えられる名門校だ。
なぜ、私がこんなところに?私はG.E.H.E.N.Aのラボにいたはずだ。
そう、私は部屋で瑠璃の手紙を見て、瑠璃を探して部屋を出て、それで
「瑠璃!そうだアイツは!?」
「ど、どうしたの?」
ガバッとベッドから身体を起こした私に、流瑠様は驚いて声を上げる。
急に身体を起こしたからか、私は身体に痛みを感じて、少し冷静になった。
「その、私の友達がいるんです!燻んだ金髪で、赤い目で、私よりちっちゃくて 」
「燻んだ金髪に、赤い目……」
私の説明を聞いて、流瑠様は少し考えるが、首を横に振った。
「ごめんね。その子はここには保護されてないよ」
「え 」
なんでわかるんだ、と思った。保護されたリリィを全員知っているのかと。
でも、私も思い出した。
『ああ……42866のことか?あの死体なら既に、別の研究所に回されている。それがどうかしたか?』
そうだった。瑠璃は、死んだんだ。しかも、死体も別のところにある。
私は、髪の毛に手をやる。すると、私の手に冷たい感触が触れた。そこには、私にはちっとも似合わない綺麗な赤いヘアピンがあった。
「……はは」
「鶴紗ちゃん……」
力なく笑う私の手を、流瑠様は優しく握る。
「よかったら、その友達の話……聞かせて?」
瑠璃を失って空いてしまった私の胸の穴に、流瑠様の優しい声がスッと入ってくる。
そんな心地よい声に呑まれそうになって 私はすんでのところで、首を横に振った。
「……私の友達が、ノスフェラトゥの実験で死んだ。それだけのことですよ」
言葉少なな私に、流瑠様は それでも涙を流して、私を抱きしめた。
「ごめんね……!助けるのが遅くなって……友達を、助けてあげられなくて……」
そう言って謝る流瑠様を、私は拒絶した。
「……やめてください。やめてくださいよ流瑠様。アイツは、私が助けるべきだったんです。私しか、助けられる人はいなかったんです。……助けられなかったのは、私なんです」
「……でも」
「やめてくださいよ!!」
私は、流瑠様の手を振り払う。そうしなければ、瑠璃を失って空いてしまった心の穴が、この人で埋められてしまいそうな気がしたから。
そして、私が助けなきゃいけなかった、私が助けたかった瑠璃のことを、部外者に背負って欲しくなかったから。
「私の中の
そう叫ぶと、流瑠様は「そっか……」と俯いて悲しげに微笑んだ。
「……そうだよね。ごめんね。……また、来るから」
その後。療養室に押し込められた私の元に、流瑠様は宣言通りに何度も通った。
「鶴紗ちゃん!ご飯食べるの手伝ってあげるよ!」
「………」
「鶴紗ちゃん!お風呂一緒に入ろ?まだ身体、動かしにくいでしょ?」
「………………」
「鶴紗ちゃん……夜、寂しくない?一緒に寝よっか?」
「……………………あーもう!」
しつこく私に構う流瑠様に、私はいい加減堪忍袋の緒が切れた。
「もうやめてくださいよ!私は!!
………私は、アイツがいないなら、いっそ一人の方がいいんですよ……」
流瑠様の私への接し方はまるで、アイツの行動を模倣しているかのようだった。それが、私の中の瑠璃を侵食していくようで、嫌だったのだ。
「…………そっ、か。ごめんね………」
しかし、瑠璃と流瑠様とは、全く違うところもあった。
瑠璃は私がいくら拒絶しても、気にしていないかのような明るい笑顔で笑っていた。でも、流瑠様は私が拒絶したり無視したりすると、シュンとした悲しい顔になった後、決まって「ごめんね」と謝って寂しげに微笑むのだ。
その顔が たまらなく、私の心を抉った。
流瑠様が優しい人であることは、よくわかっていた。瑠璃によく似ていたから。
そんな人に、私はあんな悲しそうな顔をさせているのだと思うと、胸がギュッと苦しくなった。
瑠璃と同じ綺麗な赤い瞳が悲しみに揺れる様は、まるで、私が瑠璃を悲しませているみたいで。
だから仕方なく、私は流瑠様に付き合ってやることにした。
ある日、その日も懲りずに「ご飯一緒に食べようよ!」と誘ってきた流瑠様に「……いいですよ」と答えると、流瑠様が目を潤ませて飛び上がって喜んだことは、今でも鮮明に思い出せる。
「食べさせてあげるね、鶴紗ちゃん。はい、あーん」
「そこまでするなんて言ってませんよ……」
「……………」
「あぁもうわかりましたよ!だからその顔やめてください!」
なんやかんやで、私は流瑠ねえの大体の誘いに付き合った。
そうしたら、流瑠様はいつも穏やかな笑顔で言うのだ。
「鶴紗ちゃんは、優しい子だねぇ」
やめてほしい。そんなこと言わないで欲しい。
優しいのは流瑠様の方だ。こんな私に、とことん付き合ってくれて。
まるで 私にしつこく付き纏って、私に希望をくれた瑠璃みたいに。
「優しい」と言う言葉は、流瑠様や瑠璃のためにあるのだ。私には相応しくない。
そう思うと、それを察したかのように流瑠様は私を抱きしめる。
私は流瑠様を離そうとするが
「今まで頑張ったんだよね。つらかったよね。自分を、好きになれなかったんだよね。
大丈夫。私はあなたが、とってもいい子なことを知ってるよ。だから、お姉ちゃんがいい子いい子してあげる。今は……自分を責めなくていいんだよ」
そう言って優しく、本当に優しく撫でられると、私にそんな気力は沸いてこなくなってしまうのだ。
それから私は、少しずつ流瑠様を受け入れていった。もちろん、瑠璃のことを忘れはしなかったが。
そうやって付き合ってみて、やっぱり流瑠様は、瑠璃に似てとても良い人であることがわかった。
誰よりも忙しいはずなのに私のところに欠かさず顔を出し、時には私と寝食を共にした。
趣味とかの話も、少しするようになった。
「鶴紗ちゃんは、好きなものとかあるの?」
「……猫は、好きです。私は猫に嫌われてますけど」
いつかの瑠璃との問答のような会話だ。
私の答えに、流瑠様はクスリと微笑んで言った。
「なら、身体が良くなったら猫、触りに行こっか。いいところ知ってるんだ」
『そっか……。猫、ここから出たら一緒に触りにいこーね!』
流瑠様の言葉に、いつか瑠璃から言われた言葉を思い出してしまい、私は反射的に首を横に振った。
「……いえ。そんな気分じゃ、無いです……」
言ってから、またやってしまった、と思った。こうやって流瑠様の言葉を否定すると、また瑠璃が悲しんでいるかのようなあの顔を見なければならなくなる。
チラッと流瑠様の顔を見ると………案の定あの寂しそうなシュンとした顔だ。まるで捨てられた子犬のような。
私が仕方なく「……わかりました、いつか行きましょう」とため息混じりに言うと、流瑠様はパァッと顔を明るくする。
雨が降った後の虹のようなその表情には、瑠璃とはまた違った魅力があって……私はそんな流瑠様に、段々と絆されて、ズルズルと流されていったのであった。
そしてある時、他のリリィから、流瑠様に関する話を聞く機会があった。
「流瑠様は、貴女と同じ強化リリィよ。しかも、ノスフェラトゥの被験者なの」
「流瑠様、一年前にシルトを亡くされてるのよ……」
寝耳に水、だった。瑠璃と同じように根気よく私を受け入れてくれた流瑠様が、瑠璃と同じようにノスフェラトゥの被験者で。そして大切な人を亡くしていた。
もしも瑠璃が生きていたら、そして代わりに自分が死んでいたら 瑠璃は流瑠様のようになっていたかもしれない。そう思ってしまった。瑠璃と流瑠様が、私の中で繋がってしまったのだ。
流瑠様は瑠璃では無い。流瑠様と瑠璃を一緒にするのはどちらにも失礼だと、何度も思おうとしたが、無駄だった。流瑠様の存在は、私の中で瑠璃と同じくらい大きくなってしまったのだ。
そこから、私の転落は早かった。
流瑠様のことを「流瑠ねえ」と呼ぶようになり、どんどん距離が近づいていった。流瑠ねえも、私のことを「鶴紗」と呼び捨てにしてくれるようになった。
もちろん、その間も瑠璃のことを忘れはしなかったが、流瑠ねえの、瑠璃とはまた違った魅力が心の穴を埋めていくことに、私は心地よさを感じ始めていた。
「流瑠ねえ……さみしいから、いっしょに寝よ?」
「うん。……私も、一人で寝るの寂しいから……」
瑠璃を失った私と、シルトを失い、白井様ともすれ違っていた流瑠ねえは、お互いの寂しさを埋めあって、傷を舐め合って、慰め合った。
どうやっても埋まらない心の穴を一時的にでも満たすために、キスもしたし、
未だに流瑠ねえに瑠璃を重ねて、
特に私は、流瑠ねえにギュ〜っと抱きしめられるのが大好きだった。
愛しいものを手放さないように、もう二度と失くさないように抱きしめる流瑠ねえのハグは、泣きそうになるくらい暖かくて、私の中を満たしてくれるようだった。自分を大切だと思ってくれてるんだって、そう実感できて、私は流瑠ねえに甘えた。
それは、瑠璃にはなかった「包容力」だと言ってもよかった。どこか瑠璃のようでありながら、瑠璃には無い魅力を持つ流瑠ねえ。私は、完全にこの人にハマってしまった。
そして流瑠ねえと同じように、大切な人に置いていかれて生き残ってしまった私も、もう二度と大切なものを失くしたくないと思った。
大切な人と、ずっと、
例えそれを、瑠璃も、流瑠ねえも望んでいなかったとしても 。
高等部に入ってから私は、流瑠ねえから距離をとって、G.E.H.E.N.Aと連絡を取るようになった。
流瑠ねえは、心を読んでいるかのように異常に鋭い。特にリリィが無茶しようとしていたりすると、すぐにバレる。
だから、私は多少の無茶をするために流瑠ねえから距離を置いた。たまにすれ違う度、流瑠ねえは寂しそうな顔をしていたが、ぐっと堪えた。これが上手くいけば、流瑠ねえの寂しさを埋められるのだから、と自分に言い聞かせて。
流瑠ねえは、自分が成長できず、周りから置いていかれることを恐れていた。最終的には、自分の周りには誰もいなくなるんじゃないかと。誰かを好きになっても意味がないんじゃ無いかと、孤独を怖がっていたのだ。
なら、と私は思った。なら、
悪く無い案だと思った。G.E.H.E.N.Aの力を借りなければならないのは癪だが、生き残れれば
これは運試しだ。しかも、
だから、思いついてから即座に、私はG.E.H.E.N.Aに連絡を取った。
私が連絡を取ったG.E.H.E.N.Aの研究者は、私を苦しめた奴でも無ければ、瑠璃を死に追いやった奴でもなかった。そこは少し幸運だったと言えるだろう。
そいつは、私のノスフェラトゥの施術に乗り気では無いようだった。
『安藤の娘……お前のノスフェラトゥの適性は、一般的なリリィとほぼ変わらん。死ぬぞ』
その言葉を、私は鼻で笑った。
「はっ。0.0001%だろ?0.02%と大して変わらないでしょ」
『0.02%?』と研究者は胡乱げな声を出したが、『……まあいい』と呆れたように言った。
『ノスフェラトゥを自分から志願して受けるリリィはいない。お前が自分から志願してくれるならば願ってもいないことだ。………死んでも構わないと、その覚悟があるのだろう?』
「元から死ぬつもりはない。……けど、覚悟はある。それで死んだなら、私の責任だ」
私の言葉に、研究者はため息を吐いて、条件を提示してきた。
『……全く理解できんが、いいだろう。ならば、お前にはいくつか仕事をしてもらう。それが達成されれば、その時にノスフェラトゥの施術を行おう』
「それってどのくらいかかる?」
『……1、2ヶ月と言ったところか。そう長くはならん。これはお前のノスフェラトゥの適性を詳しく調べるための仕事でもある。精々真面目にやることだ』
その条件に、私は一も二もなく頷いたのであった。
『 ということだ。……聞いているか?安藤の娘』
「ん?あぁ、聞いてなかった。なんだって?」
どうやら回想に夢中になりすぎて、通信機で研究者の男が喋っていることに気づかなかったようだ。私はぶっきらぼうに聞き返す。
男は、ため息を吐いて呆れていたが、再度話してくれるようだった。
『はあ……まあいい。もう一度結論から言うぞ。検体番号42866……四ツ谷瑠璃は、ノスフェラトゥの施術に成功し、生きている。どうやら、横浜のラボでノスフェラトゥの施術を受けた後、投薬で仮死状態にされ、他のラボに運ばれたようだ。
記憶の混濁。それは少しだけ気になったが、そんなことよりも私の頭の中は、歓喜で満ちていた。
瑠璃が、生きている。失ったと思った愛しい人が、生きていたのだ。私はその感動と喜びに打ち震える。声も出ないほどに。
「生きている、実験は成功した」と聞くまで、もしかしたら、またG.E.H.E.N.Aの悪辣な手法で操られているんじゃないかとか、別人じゃないかとか、クローンじゃないかとか色々疑っていたが、やっと私は「瑠璃が生きている」という事実を認識することができた。
昨日は瑠璃から逃げてしまったが、そうとわかれば今すぐにでも瑠璃に会いたい。会って、色んな話をしたい。一緒にいたい。今度こそ、ちゃんと想いを伝えて
『それで?安藤の娘。 お前が望んでいた
私の興奮に水を差すように、男の声が耳朶に響く。その言葉で、私の頭は一気に冷えた。
『あの施術』というのは もちろん、ノスフェラトゥの施術のことだ。私が流瑠ねえと永遠に一緒にいるための手術。
その言葉に、私は 迷った。瑠璃が生きていた以上、失敗して良いことなんて何もない。死ぬだけだ。成功すれば、私は流瑠ねえだけじゃなく瑠璃とも永遠に一緒にいることができるわけだが 。
『お前に頼む仕事は終わった。こちらはいつでもお前の施術を開始できる。……しかし、今更お前がそこまでのリスクを負う必要があるのか?気にしていたのは、42866のことだったのだろう?』
電話の向こうの男は、やはりノスフェラトゥの施術に否定的だ。
もしかしたら この電話口の男は、そこまで悪い人間じゃないのかも知れない。
ただG.E.H.E.N.Aに所属していて、純粋に人類のためを思っていて、自分なりの正義を持っていて、無用な犠牲を好んでいなくて そこまで考えて、私はその考えを「ふっ」と鼻で笑い、吹き飛ばした。
G.E.H.E.N.Aは、G.E.H.E.N.Aだ。私たちを傷つけ、瑠璃を殺しかけ、流瑠ねえを孤独に陥れ、多くのリリィを苦しめた。
だから、そんな考えは捨てる。これ以降、私がこいつらを頼りにすることはないだろう。
……でも、この男が、不器用ながら私の心配をしているらしいことだけは、受け止めてやろうと思った。
手術をするのかしないのか。
「こ、こは……?」
「瑠璃ちゃん、起きたんだね!よかったぁ……」
特別寮の治療室。そこに夜になって運び込まれた瑠璃は、ロスヴァイセ総出で治療を行い、さらには既に休んでいた流瑠を叩き起こして、流瑠のマギ交感でマギを安定化させることで症状がおさまった。
暫くして目を覚ました瑠璃は、目の前の心配そうな顔の流瑠を見て飛び起きた。なによりも驚いたのは、流瑠が上半身裸にシャツ1枚だけというなんとも扇情的な格好をしていたことだったが。
「いやー、急いで来たからさー」と笑う流瑠に、一体流瑠お姉ちゃんは呼び出されるまで何をしていたんだろうか……?と疑問に思いはしたものの、瑠璃はその疑問を胸のうちにしまっておくことにした。
「お、ちゃんと起きたな!心配させるなよなー」
瑠璃が起きるのを待っていたのは、流瑠だけでは無かった。
気絶する直前、鶴紗と話していた緑髪のリリィ、吉村・Thi・梅も、瑠璃を心配して、様子を見ていたのだ。
「あ、私を背負ってくれた……」
「おう、吉村・Thi・梅だゾ!よろしくな、瑠璃!」
元気な自己紹介に、瑠璃も「よ、よろしくお願いします……」と押され気味に答えた。
「私、何をして……」
瑠璃は、自分が気絶するまでに何をしていたかを思い返す。
確か、百合百合イチャイチャしている匂いを辿って散歩して、色んなお姉さん達のところを渡って、最後に梅お姉さんと、鶴紗のところに
「そうだ、鶴紗!鶴紗は!?」
「お、落ち着け瑠璃!」
あの時、瑠璃は鶴紗を見て、全ての記憶を思い出した。
ノスフェラトゥの施術をした日……いや、正確にはその直後に投薬による仮死状態にされたことで失っていた記憶を、取り戻したのだ。
瑠璃は、鶴紗のことを忘れていたことを悔やんだ。
覚えていたら、もっと早く会えたのに。鶴紗に心配をかけることも少なかっただろうに、と。
あの時に会った鶴紗の反応。信じられないものを見た時のような顔をしていた。きっと鶴紗は、瑠璃が生きていることを知らなかったのだろう。
「鶴紗、どこにいるんですか?」
早く鶴紗に会って、安心させたい。あんな手紙書いてごめんねって言いたい。
そう気が逸って、瑠璃は流瑠と梅を急かすように尋ねた。
その疑問に、申し訳なさそうに答えたのは梅だった。
「……それなんだけどなー。鶴紗、瑠璃の顔を見るなりどっかに走って行っちゃって。今はどこに行ったかわかんないんだ……ごめんな、梅が止められなくて……。あ!でもちゃんと「会わせてやる」って言葉は守るからナ!」
梅は、「梅に任せとけ!」と胸を叩く。その明るい様子には、「この人ならなんとかしてくれる」という安心感があった。
「あ、ありがとう。梅お姉さん……」
瑠璃は礼を言うが、どうやら鶴紗に会うのはもう少し先になるらしい。
ため息を吐く。落ち込んだ様子の瑠璃に、流瑠は「ちょっといいかな?」と話しかけた。
「瑠璃ちゃんと鶴紗はどういう関係なの?もしかして……鶴紗が前に言ってた、
流瑠の言葉を聞いて、瑠璃は少し驚きつつも、「そ、そうだよ」と答える。
鶴紗は少し気難しい子だ。他人と話すのがあんまり上手じゃないし、積極的に関わりに行くような子でもない。
だから、鶴紗が唯一の友達である瑠璃のことを、誰かに話したのが意外だったのだ。
同時に、瑠璃の嗅覚が、流瑠から漂う嗅ぎ慣れた匂いを捉える。
(もしかして流瑠お姉ちゃん、鶴紗とも……)
流瑠から漂う鶴紗の濃いめの匂い。多分、私と流瑠お姉ちゃんの関係よりも、二人の関係は深いのだろう。
自分と仲が良かった鶴紗と割と深い関係になっているらしい流瑠。それを感じ取って、瑠璃は嫉妬するのではなく 大喜びした。
(私の大好きな人二人が、お互いに好き合ってる……!
はぁ〜〜、尊い……!推せる!!私も混ぜて欲しい!!)
瑠璃は 端的に言えば、変態だった。
再三言うが、瑠璃は女の子同士がイチャイチャしているのを見るのが大好きだ。
そしてさらに言えば、
自分は流瑠と鶴紗のことが大好きで、鶴紗はきっと自分と流瑠のことが大好きで、流瑠は自分と鶴紗を好きでいてくれる。鶴紗とは離れてから1年ほど経っていたが、多分まだ自分のことを好いてくれているんじゃないかと、瑠璃にはほとんど確信に近い直感があった。
(最高の
流瑠と鶴紗が濃厚に絡み合うだけでなく、瑠璃と鶴紗が同時に自分を襲ってきて、強化リリィ3人で傷を舐め合って激重な愛を囁き合いながら、くんずほぐれつイチャイチャラブラブ
と、瑠璃はそこまで妄想して、梅が怪訝な目で、流瑠は顔を赤くして自分を見ていることに気づいた。
「お、おい瑠璃……?なんか顔から欲望がダダ漏れになってる気がするゾ……?」
「る、瑠璃ちゃん……いつもそんなハレンチなことばっかり考えてるの……?」
二人の言葉で、瑠璃はやっと自分がかなり危ない感じの顔をしていたことを自覚した。
「はっ!?」と声を上げて、口元の涎を拭いて取り繕う。
「そ、そんなことないよ流瑠お姉ちゃん!私はただ、流瑠お姉ちゃんと鶴紗と一緒に3人でエロいことがしたいだけで 」
瑠璃の口を突いて出た言葉に、梅のジト目はさらに深くなる。
瑠璃は、どうもこれ以上この話題を続けていると、どんどんボロが出てきそうだと察して、「あ、あはは……」と曖昧に笑った。
そして、一度しっかりと落ち着いて、真面目な表情になって切り出した。
「……私と鶴紗の話、聞いてくれる?」
「そりゃまた……G.E.H.E.N.Aってそんな感じなんだナ」
「瑠璃ちゃんと鶴紗、仲が良かったんだねぇ……。ほんと、二人とも生きててよかったよ」
瑠璃が二人にG.E.H.E.N.A時代の鶴紗との生活を話すと、梅は同情的に、瑠璃は安心したように言った。
「うん。だから、早く鶴紗に会って安心させてあげたいの。私も鶴紗を探しに あっ」
「大丈夫?無茶しちゃダメだよ」
瑠璃はベッドから立ち上がろうとするも、途中で力が入らなくなり、ふらっと倒れ込みそうになる。
そんな瑠璃を支えたのは、流瑠だった。
「えへへ……ごめんね、流瑠お姉ちゃん。またちょっと眠くなっちゃった」
「ううん。いいんだよ。瑠璃ちゃんの気持ち、よくわかるから……。少し寝てて。私と梅で鶴紗を探してくるよ」
流瑠にベッドに寝かせてもらった瑠璃は、まだ身体がきつかったのだろう。流瑠にそう言われ、「うん」と安心したように返事をしてスヤスヤと眠ってしまった。
梅は瑠璃の可愛らしい寝顔を覗き込んで、頬をツンツンとつつく。
「流瑠様、瑠璃は大丈夫なのか?」
「うん。マギは今は安定してるし、多分記憶が戻った反動で疲れてたんだと思う。このままでも大丈夫だよ」
梅は「そっか」と安心した様子で言うと、立ち上がって気合を入れるかのように準備運動をし始めた。
「さーて。それじゃ、早いとこ鶴紗を見つけてこないとナ!」
「そうだね。ちゃんと瑠璃ちゃんと会わせてあげなきゃ」
「んじゃ、どっちが早く見つけるか勝負だゾ、流瑠様!」
梅はそう言うや否や、レアスキル『縮地』を使って走り出してしまった。
そんな梅を見送って、流瑠は困ったように笑う。
「……梅ちゃんってば、気負いすぎだよ。責任感の強さは相変わらずだねぇ……。さて、私も探さなきゃ」
流瑠は振り返って、「るるおねーちゃん……たづさぁ……」と寝言を言う瑠璃の頭を愛おしげに撫でた。
「……待っててね、『瑠璃』。貴女の大好きな人、ちゃんと連れてくるから」
「流瑠様!鶴紗、いたか!?」
『ううん、見つからない!梅ちゃんも!?』
「ああ。あいつどこまで行ったんだ……!?」
流瑠と鶴紗は連絡を取り合いながら鶴紗を探すが、数時間経っても鶴紗は見つからなかった。
瑠璃が倒れたのが夕暮れ時、そして探し始めて数時間経って、今はもうすっかり夜中だ。
鶴紗はどうやら、学院に外出届を出さずに出て行ったらしい。学院内にいる可能性もあったが、そちらは協力を申し出てくれた北河原伊紀とLGロスヴァイセに任せて、瑠璃と梅は鶴紗を探す。
「どこ行ったんだヨ鶴紗、可愛い
時間だけが過ぎていき、街灯も消え始める。そんな状況に、梅は焦っていた。
(あの時梅が鶴紗を止めてれば、こんなことには……!)
梅は、後悔していた。瑠璃に鶴紗を会わせてあげられなかったのは、自分のせいだと。
そんな梅の携帯端末に、一通の連絡が入ったのはその時だった。
『From:安藤鶴紗
件名:探さないでください
明日の朝には帰ります。探さないでください。
もしも帰らなかったら……やっぱり探さなくていいです』
そのメッセージに、鶴紗は端末を放り投げそうになった。
「バカかアイツ……!何が探さないでくださいだ!」
憤る梅の耳に再度、携帯端末に連絡が入った音が聞こえる。
『梅ちゃん、今鶴紗からメールがあって……!』
「ああ、探さないでくださいってやつだろ?流瑠様のところにも来てたか」
『うん……』と端末越しに流瑠の困惑の声が聞こえてくる。
梅が「どうする?流瑠様」と聞くと、流瑠は少し考えた後、結論を出した。
『……私は、今日は引き上げるべきだと思う』
「なっ……!?それでいいのカ、流瑠様!?」
梅が怒鳴ると、端末からは『良くないよ!』と流瑠の叫び声が聞こえる。流瑠も、相当心配しているらしい。
『良くない、けど……私、人を探すって言って周辺のカメラを見せてもらったんだけど、鶴紗らしい人影は一切なかったんだ。それに、
「それだけ見つかりたくないってことか……」
『……だと思う』
流瑠は梅の呟きに同意して、さらに問題点を挙げる。
『夜っていう時間も悪いよ。応援を呼んだとして、『鷹の目』でもこの暗さじゃ見つかるかは望み薄だし、『ファンタズム』も『ファンタズム』で対抗される。私も、鶴紗のマギの流れを感じられない。……悔しいけど、ちょっと打つ手なし、かな』
「なんだよ、それ……!」
歯痒さと悔しさに手を握りしめる梅の耳に、流瑠の弱々しい声が聞こえてくる。
『ごめんね、梅……。私、みんなのお姉ちゃんであろうって、みんなを助けようって思ってるのに……思ってるばっかりで空回りして、大切な時には助けられない……。ダメなお姉ちゃんで、ごめんね……』
「流瑠様……」
きっと、流瑠も自分の力不足が悔しくて、情けなくて仕方ないのだろう。流瑠も、梅と同じくらい悔しいはずだ。でも、引き上げるべきだと結論を出した。それほど、現状には打つ手がないのだろう。
流瑠の嘆きを聞いて、梅は噛み締めていた歯と、握りしめていた手の力を、ゆっくりと抜いた。
「…………はぁ。わかったよ流瑠様。今日は引き上げて、明日の朝一番で探し始めよう。……それで、いいナ?」
『梅ちゃん……』
二人は成果を得られず、トボトボと学院に戻った。
「たづさ……るるおねーちゃん……」
「ごめんナ、瑠璃……見つけられなかった……」
「明日、ちゃんと探そう。明日こそ見つけるから……」
そして、二人で瑠璃の部屋に行き、肩を寄せ合って一緒に寝た。せめて、瑠璃が寂しくないように。
「あら?お姉様は……どこへ?」
流瑠の部屋で、真っ裸の楓を放置したまま。
翌朝。
流瑠は、自分の携帯端末の呼び出し音で起きた。
「……もしもし?」と寝ぼけ眼で電話に出ると、聞こえてきた言葉に、流瑠は一瞬で覚醒した。
『流瑠様!今、学院の正門で鶴紗さんが見つかりました!』
「………鶴紗が!?本当!?よかった……!」
鶴紗が帰ってきた。夜通し見てくれていたであろうLGロスヴァイセのリリィからのその報告に、流瑠は安堵する。
しかし。
『でも、血が!吐血が止まらないんです!髪も白くなり始めてて……!』
「 え?」
吐血。髪の薄色化。ヒュージ側のマギの暴走が原因だと、すぐに分かった。
強化リリィにとって、それが意味するところはつまり………
「狂化、現象………!?」
・流瑠様
リリィたらし。人の心の隙間に入ってくるのが上手い。
読心で瑠璃の心をガッツリ読んでしまって顔を赤くするくらいには純情乙女。
・瑠璃ちゃん
喋り方が戻った。思考回路は相変わらず。
百合ハーレム作って自分も混じることが夢と語って憚らない変態。
生来のカリスマ持ちということもあって、実は人望はある。
・鶴紗さん
………
はい。次回でアニメ次話への繋ぎは終わりだと思います。多分。
沢山のお気に入り・UA・評価・感想などありがとうございます!
これからも頑張ります!