アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合の上にも三年



(For you who will be lonely someday)


デンファレ その8

 

『狂化現象』。強化リリィが、ブーステッドスキルに適応しきれなかった結果、負のマギに身体を侵されて暴走状態になる現象のことだ。暴走状態となったリリィは「狂化リリィ」と呼ばれ、ヒュージと同じ扱いを受けることとなり、処分される。

 

その原因は、ブーステッドスキルの施術によるヒュージ側のマギエナジーの増幅だ。強化リリィはブーステッドスキルを施術することでスキラー数値も上がっていくが、スキラー数値が上がることは即ち「マギを扱うのに適した身体に変化する」ということでもあり、リリィがヒュージに近づいていくのと同義である。

そして、スキラー数値が自分の身体の許容量を超えると     リリィはヒュージ(狂化リリィ)になってしまうのだ。

 

 

「あっ、ぐぅ!ああああああああっ!!」

「鶴紗、しっかりして!意識を保って!」

 

 

狂化現象の症状はマギの暴走による吐血や発熱など様々だが、それよりも最もわかりやすい外見の変化が出てくる。

それが、毛髪の薄色化だ。

 

強化リリィは皆、髪の色や肌の色が薄い。これはヒュージ側のマギエナジーが身体に馴染んでしまった結果だと言われている。そしてそれだけでなく、毛髪の色が薄くなる現象は、マギの暴走によっても確認されている。

 

 

「鶴紗、何やったらこんなことになるんダ……!?」

「身体に負のマギと残滓がかなり溜まってる……!誰かブレイヴ持ちを呼んできて!」

「わかった、まかせロ!」

 

 

わかりやすい例は、白井夢結の「ルナティックトランサー」だろう。そもそもルナティックトランサーとは、マギを暴走させて、自分のマギをヒュージ側のマギエナジーに近いマギに変換することで高い戦闘力を得るレアスキルだ。とはいえ、通常のルナティックトランサーであれば、外見にそこまで大きく影響が出ることはない。

 

しかし、夢結のルナティックトランサーは違う。「完全暴走状態」とも呼ばれる状態に辿り着く夢結のソレは、夢結自身の真っ黒な毛髪すらも白く染め上げる。つまり、あの状態の夢結は「極めてヒュージ、および狂化リリィに近い存在」となっているのだ。

とは言え、どれだけヒュージに近づいてもマギが尽きればちゃんと元に戻る辺り、「レアスキル(希少技能)」と言う言葉に偽りは無いのだが。

 

 

「ガハッ!ゴホッ………る、るねえ……るり……」

「喋らないで鶴紗!なんでこんなことに……!」

 

 

狂化リリィの話に戻るが、今担架で運ばれているこの少女……鶴紗は、夢結のルナティックトランサーとは話が違う。

一度完全に狂化リリィとなってしまえば、元には戻らない。今は流瑠の特殊なマギ交感で進行を遅らせられてはいるが、段々と間に合わなくなってくるだろう。

 

これを治すのは非常に難しい。というより、治った事例は殆どない。そのどれもが、発見時には既に身体のマギの大半が負のマギになってしまっていたからだ。

方法は、完全に狂化しきらないように、マギ交感とブレイヴによって負のマギやその残滓を除去し続け、正のマギを送り込む、というものになる。つまり対症療法だ。しかも、狂化リリィのマギが負のマギに反転する速度は、決して遅くない。時間や、この治療に関わることのできる「ブレイヴ」持ちの数、そしてマギ交感するリリィの人数との勝負になる。

マギの暴走による内臓へのダメージなどはリジェネレーターでどうにかなるかもしれないが、だからといってそちらも油断できる状態ではない。

 

どうやら幸いなことに、施術を受けてからそこまで時間は経っていないらしい。ならば、治る見込みもあるし、協力者を募る間に流瑠一人で進行を遅らせることも可能だろう。

ここからは、時間、そして私たちに協力してくれるリリィ達の人数との勝負だ、と流瑠は歯を噛み締めた。

 

 

 

 

 

 

 

「流瑠お姉ちゃん!鶴紗、見つかったって!?」

 

治療室に運び込まれた鶴紗の元に、瑠璃が駆け寄ってくる。

瑠璃が見た鶴紗は……口周りに吐血の跡を付け、苦しげに呻く悲痛な姿だった。

 

「たづ、さ……」

「瑠璃ちゃん。確か、瑠璃ちゃんはカリスマ持ってたよね?」

「えっ?う、うん……」

 

唐突な質問に、瑠璃は戸惑いながらも頷く。

流瑠はそれを確認すると、瑠璃に頼み事をした。

 

「瑠璃ちゃん……鶴紗の手、握ってあげてて?」

「え、手……?」

「いいから」

 

流瑠に急かされて、瑠璃が鶴紗の手をギュッと握ると、流瑠は瑠璃に説明し始めた。

 

「鶴紗は今、『狂化リリィ』になろうとしてるの。マギが全部負のマギになっちゃって、ヒュージみたいに暴れ回るだけの存在になる。

それを治療する方法は……カリスマやブレイヴで負のマギやその残滓を徹底的に除去し続けて、身体が今の状態に馴染むまで耐えること。そして、本人の心をヒュージの獣性に負けないように強く保つこと」

 

レアスキル「カリスマ」には、ヒュージ側のマギエナジーを浄化する力がある。「カリスマ」に未知の部分が多いとは言え、この治療にはうってつけの存在だ。

 

「でも、流瑠お姉ちゃん……私、カリスマの使い方なんて……」

 

 

不安げに言う瑠璃に流瑠は、安心させるような……それでいて流瑠自身も不安を隠せないような笑顔を作って「大丈夫」と言う。

 

「しっかり手を握っててあげて。そして、『負けないで』って祈ってあげて。そうすれば、カリスマは動いてくれる。鶴紗も……瑠璃ちゃんがそばに居れば、勇気をもらえるよ」

「……わかった!」

 

(流瑠お姉ちゃんも不安なんだ……私が流瑠お姉ちゃんや鶴紗の役に立てるなら……!)

 

瑠璃は、鶴紗の手を握る力を強める。「ヒュージなんかに負けないで」と祈りを込めて。

 

 

 

 

 

 

しばらくそうして握っていると、だらんと力無く垂れ下がったるか、痛みに耐えるように力一杯握りしめるだけだった鶴紗の手が、瑠璃の手の感触を確かめるように握り返してきた。

 

「る、り……?」

「鶴紗!?鶴紗、大丈夫なの!?」

 

鶴紗は瑠璃の必死の呼びかけには答えず、呟くように言った。

 

「ごめん……るり……るるねえ……ゴホッ!ゴホッ!」

「……バカ。そういうのは後で聞かせてもらうから……!今は、負けないで!」

「鶴紗、心を強く持って。ブレイヴ持ちの子が来てくれればかなり安定すると思うから……」

 

そう言いかける流瑠の元に、「連れてきたゾ!」と声がかかる。

ブレイヴ持ちを探しに行っていた梅の声だ。

 

「今手を貸せるブレイヴは全員連れてきた!あと何かいるものはあるカ!?」

 

梅の声と共に、何人かのリリィが治療室に入ってくる。梅から既に用件は聞いていたようで、彼女たちは直ぐに鶴紗の治療に取り掛かった。

 

「じゃあ百由を引っ張ってきて!あの子多分研究室に引きこもってると思うから!」

「わかった!……鶴紗、耐えろよ……!」

 

流瑠の追加の要望にも、梅は一も二もなく頷いて走り出す。その顔には流瑠への確かな信頼と、鶴紗を心配する焦燥とが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

「鶴紗さん!大丈夫ですか!?」

 

百由を連れてくるために走って行った梅と入れ替わりで入ってきたのは、梨璃だった。

 

「梨璃お姉ちゃん!」

「梨璃……!来てくれたの?」

 

二人の反応に、梨璃はおずおずと頷く。

 

「は、はい。……私も、何か役に立てないかなって」

「ひとつ、やなぎ……?あぐっ!?はぁ……はぁ……」

 

鶴紗は苦しそうにしながらも梨璃の姿を見つけて、意外そうな目を向けた。

 

「……あんたのレギオンに入るの、断ったから……ゴホッ!……はぁ。てっきり、私のことなんか、もう興味ないかと……」

「そんなことないです!」

 

梨璃は瑠璃と反対の手を握り、柔らかく微笑む。

 

「同じクラスの……リリィの仲間を助けたいって思うの、変ですか?それに私、まだ鶴紗さんをレギオンに誘うの、諦めてませんから!」

「……はは。ほんと、お人好しだね……」

 

鶴紗は痛みと苦しみに悶えながらも、ほんの少し笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(梨璃……梨璃のレアスキルがあれば、鶴紗は多分助かる……けど)

 

 

梨璃がこの場に来てくれた。その事実は、流瑠にとって僥倖であると同時に、不安要素でもあった。

 

 

流瑠は、自分の異常性をある程度認識している。マギ交換だけで負のマギの残滓を取り除いたり、レアスキルがわかったり、相手の心が時々聞こえてきたり。長くリリィをする中で、「他のリリィにはこんな能力はない」ことは、とっくにわかっていた。

 

だから、梨璃のチャームのコアを触ってレアスキルを調べた時     ()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことがわかって、流瑠は大いに動揺した。

 

 

もしも百由がそれを知っていたら、こう言っていただろう。

「梨璃は     レアスキル「ファムファタール」の()()()()()だ」と。

 

 

だからこそ、流瑠は自分と同じ異端の力を持つ梨璃のことが外部に漏れるのを恐れ、隠したのだ。梨璃がG.E.H.E.N.Aに狙われないように。

そして、今も流瑠は梨璃のその力を頼ることを躊躇っていた。「ここで力を使わせたのが原因で、どこかで狙われるんじゃないか」と。

 

 

だが現状、鶴紗の症状の回復には、梨璃と流瑠のレアスキルは最適解だ。鶴紗の今の状態は、正のマギと負のマギが拮抗していると言っていい。ここから良い方に傾けるには、梨璃の力が必要だろう。

しかし、梨璃の力を表沙汰にして良いものか     

 

(いや、迷ってる暇なんてないよね)

 

今は、鶴紗を助けることが最優先だ。優しい梨璃なら、自分が手伝えば助かるリリィなら助けたいと思うだろう。

いざとなった時は    私が全力で梨璃を守ればいい。流瑠は決めた。

 

「梨璃ちゃん。手伝ってもらいたいことがあるんだ。梨璃ちゃんにしかできないこと。いい?」

「は、はい!もちろんです!」

 

少し語気を強めた流瑠に、鶴紗に声をかけていた梨璃も頷く。

力強い梨璃の首肯を一眼見た後、鶴紗の手を握ったままの梨璃の手に目線を動かした。

 

「今、手を繋いでるよね?なら、まず目を閉じて」

「目を……はい!」

「じゃあ次は、マギ交感するよ。しっかり集中して、鶴紗にマギを送り込んで」

「はい!」

 

流瑠の言葉を疑うことなく行動に移していく梨璃。

そこまできて、他のリリィ達からは「なんで今更マギ交感の説明を?」と目線が集まる。

 

そして、続く一言に、リリィ達は固まった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……あ、はい!わかりました!」

 

「「…………え?」」

 

「何回か自分のマギを鶴紗の身体の中で循環させてると、マギが通りにくい所があるよね?わかるかな?」

「……あ、これですかね?なにかがこびりついて、マギが通るのを邪魔してるみたいな……」

「そうそう。それが負のマギの残滓ね。ここからがちょっと難しいんだけど、それをマギの勢いで(こそ)ぎ落としてみて!」

「わかりました!」

 

「「…………ええ!?」」

 

自分たちの常識では測れないことを言い始めた流瑠に、リリィ達は困惑の声を上げる。普通、マギ交感で自分のマギが相手の身体を流れているのなんて認識できないし、負のマギの残滓の特定もできるはずがない。

 

「あ、あの、流瑠様?それ普通のマギ交感ですよね?何をおっしゃってるのか……」

 

 

 

 

 

「ふ〜〜〜〜〜ん?面白いことやってますね流瑠様。

あ、面白いとかは言っちゃダメよね。リリィの命が掛かってる現場なんだし」

「連れてきたぞ、流瑠様!」

 

「……絶妙なタイミングで来たね、百由」

 

困惑に包まれた場に現れたのは、梅が連れてきた百由だ。

流瑠の微妙な反応に、百由は何やら訳知り顔で頷きながらも、手早く端末を開いて指を動かし始める。

 

その辺(梨璃)の事情は後でいいわー。まずは鶴紗さんのことね。ほらほら貴女達も、ぼさっとしてないでブレイヴかけてあげて!えーっと、今の鶴紗さんのマギ状態はっと……」

 

百由が声をかけてから自分の仕事に入り込むと、止まってしまっていたリリィ達も動き始める。

梨璃や瑠璃はその間にも、流瑠に言われたことをしっかりと実行しており、集中しすぎて百由のことにも気づいていないようだったが。

 

「よし、梨璃も瑠璃も協力してくれてるんだし、これで……あれ?」

 

梨璃と自分と瑠璃と、そしてブレイヴのリリィのみんな。ここにいるリリィ達の力を合わせれば、鶴紗を治せる。そう判断して気合を入れた流瑠は、取り掛かろうとして     少し間の抜けた声を上げた。

 

そして、そんな声を上げたのは流瑠だけではない。

鶴紗を解析していた百由も、同じく戸惑いの声を上げたのだ。

 

 

「……んんー?流瑠様、これ…………

 

 

 

 

 

 

鶴紗さんのマギ、すっごく安定してるけど……」

 

 

 

百由の指摘に、流瑠も信じられない様子で頷く。

流瑠も、鶴紗のマギを感じて理解していた。

 

さっきまで鶴紗の身体を侵していた負のマギもその残滓も……綺麗さっぱり、消えてしまっている。当の鶴紗は、身体が楽になったのかスヤスヤと眠っており、吐血もない。髪の薄色化も少しずつ元に戻っているようだった。

 

「……流瑠様?私、狂化現象がって言われたから来たんだけど?」

「私にもどういうことだか……さっきまで髪も白くなりかけてて、マギの暴走で吐血だって……」

 

百由は、呆れ顔で頷く。

 

「ええ。梅にそう聞いたから……いや、正確には聞いてないかな?『鶴紗がー!狂化がー!!と、とにかく来てくれ百由!!』って攫われてきただけだし」

 

百由の言い様に、梅は頭を掻いて申し訳なさそうにする。

 

「あ、あははー……その、悪かったナ」

「いえ、別に梅を責めてるわけじゃないけど……ただ、そんなにすぐに片付くような状況じゃなかったんでしょ?流瑠様」

「うん。さっき梨璃も来てくれたから、これから回復に向けて頑張ろうと思ってたんだけど……」

 

 

百由と流瑠が二人して首を傾げていると、流瑠に「お姉ちゃん!」と声が掛かる。

 

「お姉ちゃん、鶴紗さんの負のマギの残滓、全部除去できました!後は何かやることありますか?」

「え?あ、うん……そうだね……」

 

梨璃は、もうすっかり流瑠に教わったマギ交感を会得してしまったようだ。

 

……ふと、流瑠は鶴紗が突然回復した原因について思い当たる節があった。

 

「レアスキル」……マギを使って発動できる、所謂「魔法」のようなものだが、それにはランクというものが存在する。

もちろん、ランクは高ければ高いほど強い。S級と呼ばれるまでになると、特殊な技能も使えるようになる。

 

そして、おそらく「カリスマ」や流瑠自身が持っているスキルにもランクがあるのだが……。

 

(もしかして、梨璃は私よりもレアスキルが……)

 

梨璃のレアスキルが、流瑠のものよりもランクが高い。そう仮定すれば、鶴紗が回復したのも辻褄が合うかもしれない。流瑠の知らない間に「ファムファタール」と名付けられたそのスキルを、梨璃が流瑠よりも高レベルで取得しているならば、そこに含まれる「マギの浄化」、「負のマギの残滓の除去」は、狂化リリィの治療には効果的だろう。

 

 

「……お姉ちゃん?その、「私よりも」っていうのはわかりませんけど、鶴紗さん、このままで大丈夫なんですか?」

 

梨璃にそう声をかけられて、思考の沼に陥っていた流瑠は「あ、ごめんね」とやっと反応を返し、百由のパソコンを横から見ながら答えた。

 

「……うん。バイタルも今は安定してるし、マギも異常ない。大丈夫……だよね?百由」

「ええ、多分ね。ただ、狂化現象から元に戻った事例が少なすぎるから、もしかしたら症状の再発とか、後遺症、あと精神への影響とかもあるかも。要観察ってところね」

「うん、これで一件落着!みんな、ありがとうね!とっても助かったよ!」

 

それを聞いた梨璃と瑠璃は、「よかったぁ〜!」と両手を繋いで飛び跳ねる。流石の梅も走り回って疲れたのか、安心した様子で壁にもたれ掛かって座り込み、ブレイヴを使ってくれていたリリィ達も、ホッとした様子で笑い合っていた。

その横でため息をついていたのは、呼び出されたのに結局やることのなかった百由だ。

 

「はぁ〜。狂化リリィの変遷途中のデータは取れなかったか〜」

 

いつも通りの百由の様子に、流瑠は苦笑いする。

 

(……相変わらず、百由はちょっと悪趣味だなー)

 

「あ、あはは……まあ研究のためですし、鶴紗さんは助かったんですし」

 

梨璃が百由のフォロー?をする横で、百由は「まあいっか、収穫もあったし」と端末を片付けて立ち上がった。

 

「じゃ、流瑠様。梨璃のこと、あとでしっかり聞かせてもらうわね?」

「……わかったよ。私も百由には聞きたいことがあったしねー」

 

その言葉に百由は手を振りながら、治療室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

「あ、鶴紗さんの髪の毛一本だけ貰ってくわね。ブーステッドスキル測定用に」

 

すぐ戻ってきて、また出て行ったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さっきの流瑠と梨璃のやりとりを聞きたそうにしていたブレイヴ持ちのリリィ達に、流瑠は「ごめんねー。説明はまた今度で!」と言って、ハグと「流瑠様のお悩み相談室・特別優待券」と書かれた紙を全員に贈って治療室から出てもらった。

 

しっかりと鍵を閉めた後、流瑠は「ふぅ」と一息ついた。

 

 

「いやぁ、どうにかなってよかったよ、ほんとに」

 

鶴紗と、「鶴紗が助かった」ということに安心したのか、そのベッドの横で一緒に眠る瑠璃。二人を見ながら、流瑠はぼやいた。

その言葉に、梨璃も梅も同意する。

 

「本当ですよ。話を聞いた時はびっくりしましたもん」

「全く、世話の焼ける後輩だナ」

「梅もありがとうね。鶴紗のこと、前から見ててくれたんでしょ?」

 

「まあナ」と梅は少し照れたように笑う。

 

「なんか……鶴紗、昔の梅に似てた気がしたんだ。

梅の故郷、ヒュージに襲われてさ。弟が行方不明になったんだ。それで、ここに転校してきた。……悔しかった。何もできなかった自分が」

「そうだったんですね……」

 

梨璃の相槌に、梅は頷いて続ける。

 

「鶴紗とは高等部で初めて知り合ったけど、その時の梅みたいだったんだよ、鶴紗。大切なものを守れなくて、悔しくて仕方なくて、次は自分が犠牲になってでも絶対守ってみせるんだって。そんな感じだったから、ほっとけなくてさ」

「そっか……。私、高等部に入ってから鶴紗に避けられてたみたいだから、ちょっと羨ましいな……」

 

流瑠の言葉を聞いて、梅は意外そうに目をまんまるにした後、大いに笑った。

 

「あっはっはっは!流瑠様でも羨ましいと思うこともあるんだな!」

 

その大笑いに、流瑠は少し頬を膨らませて……しかし楽しげに答えた。

 

「そりゃ思うよー。私も梅ちゃんみたいに速く走れたらなーとか………梨璃みたいに優しくなれたらなーとか、ね」

 

流瑠はそう言いながら、梨璃を後ろから抱きしめた。

梨璃は顔を赤らめながらも、嬉しそうにそれを受け入れる。

 

「わ、私ですか?お姉ちゃんもとっても優しいですよ?」

「あはは、ありがと……。でもね、朝一番で鶴紗のこと聞いて速攻で来てくれるなんてなかなか出来ないよ。……それに、昨日は夢結とお泊まりしたんでしょ?朝から騒がせてごめんね

 

後半の言葉は耳元で囁きながら、流瑠は梨璃を抱きしめる力を強める。背中から感じる温もりと耳からの刺激に、梨璃は何時ぞやの足湯での一件を思い出してゾクゾクっとしてしまった。

 

(い、今また耳なんか舐められたら、きっと私変な声出ちゃうよぉ……。梅様の前なのに……)

 

顔を赤くしてあわあわした様子の梨璃に流瑠はクスッと笑い、囁きを続ける。

 

「大丈夫、今はしないよ。今度二人っきりの時に、いーっぱいイチャイチャしよーね。梨璃♪」

「ふ、ふぁい……」

「へーへー、お熱いことで。……んじゃ、梅はもう行くゾ」

「あ……私もお姉様に無断で出てきたんでした!」

 

周囲にハートマークを撒き散らし始めた二人にジト目を向けて立ち上がった梅の横で、梨璃も名残惜しげに流瑠の拘束から逃れる。

 

「んじゃ、瑠璃と鶴紗によろしくナ、流瑠様」

「鶴紗さん、早く起きるといいですね!」

 

そう言って二人は、手を振る流瑠に見送られて治療室から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う、ん?……私、生きて……?」

 

「あ、流瑠お姉ちゃん!鶴紗起きた!起きたよ!」

 

鶴紗が目を覚ました時、ぼやけた視界の端に居たのは、燻んだ金髪の少女の姿だった。

 

 

「………瑠、璃?」

 

(あれ……?瑠璃は死んだはずじゃ……)

 

未だ朦朧とする頭では、それが自分の親友であると気付くまでほんの少し掛かってしまった。

そして、

 

 

『…………検体番号42866……四ツ谷瑠璃は、ノスフェラトゥの施術に成功し、生きている。どうやら、横浜のラボでノスフェラトゥの施術を受けた後、投薬で仮死状態にされ、他のラボに運ばれたようだ    

 

 

思い出した。瑠璃は生きていたのだ。

それで、ノスフェラトゥの実験を受けに行って、いつの間にか百合ヶ丘の前に……。

 

「っ……!いった……」

 

鶴紗は身体を起こそうとするも、頭も身体も少し痛む。

どうやら、もう少しおとなしく寝ていた方がよさそうだった。

そうやって再度横になった鶴紗の視界に、二人の人間の顔が入り込む。

 

「鶴紗ぁ!もう、心配したんだから!」

「…………」

 

心底安心した様子で鶴紗に話しかけてくるのは瑠璃。そして、複雑そうな顔で鶴紗を見つめているのは流瑠だ。

 

「瑠璃……流瑠ねえ……」

 

こうして二人に会えるのは、奇跡だと思った。

瑠璃も自分もノスフェラトゥを生き残って、そして瑠璃との別れが無ければきっと自分は流瑠とも出会わなかった。

かけがえのない、大切な人。そんな二人と一緒にいられるのは、本当に幸運としか言いようが無くて     

 

 

 

「…………鶴紗。私の言いたいこと、わかる?」

 

幸運だった、というのを自覚しているからこそ、流瑠のその言葉に、鶴紗はビクッと反応した。

 

「……え、えっと……」

「私ね、講義ではみんなのためにある程度厳しくしたりするけど、あんまり怒ったりはしないよ?けどね、ちゃんと怒る時は怒るから」

 

まず、流瑠はそう宣言した。「今から怒ります」と。

鶴紗にはそれが、突然怒られるよりも数段怖く感じたが。

 

「鶴紗。私が一番イヤなこと、何か知ってる?」

「……えっと……リリィが、自分を犠牲にする、こと?」

 

鶴紗のその答えに、流瑠は「うーん……70点くらいかな」と言った。その顔に、いつもののんびりした笑顔は無い。

 

「答えは、リリィが自分の命を粗末に扱うこと。犠牲なら何かを守ろうとした結果だけど、それとは違って、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことが……私は一番、つらいの」

 

……鶴紗には、身に覚えのあることばかりだった。

ノスフェラトゥの施術は、本当にキツかった。百合ヶ丘に帰ってくるまでの記憶すら無いくらいに。

その施術の成功率が低いことも、鶴紗は承知の上だった。

 

そして……鶴紗の心に一番来たのは、流瑠が「イヤ」ではなく「つらい」と言ったことだ。

 

「鶴紗。私や瑠璃や梅がどれだけ心配したかわかる?夜になっても探し続けて、あげく『探さないでください』なんてメールまで送られて、どれだけ……」

 

流瑠は     涙を流していた。

紅い瞳を潤ませて、ポタポタと涙を鶴紗の眠る布団に落としていく。

流瑠は悲しい顔をすることはあったが、ここまで泣いている流瑠を見るのは、鶴紗は初めてだった。

 

そんな顔を見ていられなくなって、視線を横に逸らすと、瑠璃がいた。

いつも明るく笑う瑠璃。私が拒絶しても、無視しても笑っている瑠璃。

そんな瑠璃もまた、涙を流していた。

瑠璃は自分も涙を流しながらも、流瑠を慰めるかのように横から抱きしめる。

 

ここに来て初めて、鶴紗は自覚した。

 

(あぁ、私はついに    瑠璃を重ねた流瑠ねえだけじゃなく、瑠璃本人まで悲しませたんだ)

 

 

流瑠は抱きついた瑠璃の頭を優しく撫でて涙を拭い、鶴紗に向き直る。

 

「ねえ、鶴紗。どこに行ってたの?何をしてたの?私たちに教えて欲しいな」

 

その質問に鶴紗は……すぐには答えられなかった。

流瑠は、わかっているはずだ。人の心を読んでしまうような鋭さを持つ流瑠なら、私がノスフェラトゥを受けたことくらいすぐにわかる。

状況証拠だってある。「狂化現象」だ。それ自体が、鶴紗がブーステッドスキルを施術したことを物語っている。

だから、鶴紗は少し痛む身体を起こして、曖昧に誤魔化そうとしてしまった。

 

「…………わかってるんでしょ?流瑠ねえ」

 

どうにか、そう言葉を絞り出すも、流瑠は厳しい顔で首を横に振る。

 

「言って。鶴紗が自分の口で言わないとダメ」

 

……そうくるだろう、とは思っていた。ふぅ、と息を吐いた後、仕方なく、鶴紗は話し始めた。

 

 

 

「………………ノスフェラトゥ。G.E.H.E.N.Aに、私が自分から受けに」

 

パチィン!

 

 

 

鶴紗が言い終わる前に、流瑠は鶴紗の頬を叩いた。

遅れて、鶴紗の頬にはジンジンとした痛みがやってくる。

 

「バカ!鶴紗のバカバカバカ!!なんでそんなことしたの!?成功確率が極端に低いのは鶴紗も知ってたでしょ!?」

 

そう怒鳴る流瑠の顔を、鶴紗は見れなかった。流瑠に叩かれたからではない。流瑠の顔を、正面から見る勇気が無かったからだ。

 

流瑠は、リリィ達が無茶をするのを極端に嫌う。それはよくわかっていた。博愛主義の流瑠のことだ、鶴紗が自分からノスフェラトゥなんて受けに行ったら、そりゃ怒りもするだろう。

でも今、流瑠は自分で「今から怒る」と宣言していながら、本質的には怒っているわけではない。

 

悲しんでいるのだ。

 

「今回はどうにかなったよ!?瑠璃や梨璃やリリィのみんな、梅の助けがあって、危なかったけどどうにかなった!

でも!……でも、もし間に合わなかったら……。鶴紗が狂化リリィになっちゃってたら……誰が、貴女を……」

 

流瑠は、溢れる涙で布団を濡らす。

続く言葉は、流石の鶴紗でも容易にわかった。

 

     誰が、狂化した鶴紗を殺さなければいけなかったか。

 

狂化リリィはヒュージと同じ扱いとなって、()()する必要がある。それは、もちろんリリィで無ければできないことだ。

……きっと、誰に頼まれるでもなく、流瑠が名乗り出るのだろう。鶴紗の最期を、せめて自分の手で、と。

 

まだ少しジンジンする頬を触ってみる。その熱さに、鶴紗は泣きそうになった。

 

「瑠璃は親友だったんだよね?生きてたって知って嬉しかったんだよね?なのになんで……なんでノスフェラトゥなんか……」

「鶴紗……」

 

流瑠と瑠璃。二人の視線を受けて、鶴紗は視線を逸らす。

 

 

 

 

そのまましばらく沈黙が続き、鶴紗は、ポツポツと話し始めた。

 

 

 

 

 

「私……私は……。

 

私は、瑠璃も、流瑠ねえも大好き。愛してるよ。世界中の誰よりも愛してる」

 

「なら、どうして……」

 

鶴紗の告白に疑問をぶつけたのは、瑠璃だ。

そんな瑠璃を見て、鶴紗は弱々しく笑う。

 

「瑠璃……。あんたとはあの研究所で、ずっと一緒に過ごしたよね。あの時間は大切な思い出。私は瑠璃と出会ってから、すぐに瑠璃のことが好きになった。

……でも、私たちはお互いに、絶対に「好き」って言わなかった。なんでだったのかはわからないけど、多分、そう言い始めたら戻れなくなりそうだったからかも」

 

二人は、鶴紗の話を黙って聞いている。

 

「結局一回も好きって伝えられないまま、瑠璃は私の前からいなくなった。そんな私の前に現れたのが、流瑠ねえ。

なんか、瑠璃に似てる気がしてさ。私は私の中の瑠璃を失いたくなくて、最初は流瑠ねえを拒絶してたけど……本当に瑠璃みたいで、やっぱり好きになっちゃった。だから、今度は絶対に大切な人とずっと一緒にいようって思ったんだ」

 

「……私と一緒にいるために、ノスフェラトゥを?」

 

そう尋ねる流瑠に、鶴紗は、首を()()()()()

 

「最初はそうだった。流瑠ねえと一緒にいたくて、同じになりたくてノスフェラトゥを受けようとした。

……でもさ。生きてたんだよ、流瑠が。それがわかった途端、昔の、瑠璃に対する気持ちが蘇ってきて……やっぱり私、瑠璃のことが大好きだったんだ。その上、どうも私はまだ流瑠ねえのことも大好きらしい」

 

「ははっ」と鶴紗は自嘲気味に笑う。

 

「欲張りな人間でしょ?昔好きだった人も、今好きな人も、両方大好きなんて。……それは自分でもよくわかってる。よく、わかってるんだ。

今まで散々、流瑠ねえと瑠璃を重ねて見てきといて。

流瑠ねえのことも好きで、やっぱり瑠璃のことも好きだなんて、どの面下げて言えばいいのか、わからなかった。

せめて最低限     私も、()()()()()()()()()()()()って思ったんだ」

 

「だから私は、今度こそ瑠璃に……いや、流瑠ねえと瑠璃の二人に、ちゃんと「好き」って言うために、ノスフェラトゥを受けた」

 

 

流瑠と瑠璃は、鶴紗のその独白に     暫く、何も言えなかった。

 

 

「…………そ、んなことで、鶴紗はノスフェラトゥを……?」

 

ようやっと絞り出した流瑠の声に、鶴紗は目を閉じる。

 

「そんなこと、か……。流瑠ねえにとっては『そんなこと』かもしれないけどさ。私にとってはそうじゃなかったんだよ。

……どうしても、やらなきゃいけなかった。

瑠璃や流瑠ねえと出会う前まで、私には大切なものなんて無かった。何にもなかったから、「父さんの無念を晴らす」ことを自分の生きる理由にして、()()()()()()()()

でも二人と出会って、生きる希望や居場所を貰って、大切なものをいくつもくれて、好きになって。

そんな二人に何が返せるかって考えたらさ……ずっと一緒にいることだけだなって思ったんだ。私は、ほかに何も持ってないから……」

 

「そんなこと……」

 

瑠璃は否定しようとするが、鶴紗に無言で止められる。

 

「これは、私の納得の問題。怒られても仕方ないし、嫌われても…………しょうがないと、思ってる」

 

嘘だ。そんなこと、思っているはずがない。瑠璃にも流瑠にも愛してもらいたい。好きでいてもらいたい。

それでも、「嫌われても仕方ない」と、そのくらいの覚悟を持って鶴紗はノスフェラトゥを受けた。

 

だから、鶴紗は歯を噛み締めて涙を流しながらも、二人に告白した。

 

 

「でも、どうしても、私は私の思いを諦められない。瑠璃も流瑠ねえも、二人とも大好き。愛してる!

私の永遠を、二人に捧げる。だからどうか……私に、二人を好きでいさせてほしい……」

 

 

 

そう言って、審判を待つかのように目を閉じて祈りを捧げるように手を握る鶴紗の身体を、両横から温もりが包む。

 

「……バカ鶴紗。私が鶴紗のこと、嫌いになるわけないでしょ?」

「そんなことされても、どれだけ迷惑かけられても、傷つけられても……嫌いになれないくらい鶴紗のこと大好きなんだよ、私たち。それくらい大好きな鶴紗だから、居なくなってほしくないの。……鶴紗だって、わかるでしょ?」

「瑠璃、流瑠ねえ……」

 

永遠を共有する3人は、お互いを抱きしめる力を一層強くする。

 

「鶴紗はやっぱり優しいねぇ。私たちが寂しくなるかもって思ったんでしょ?普通にしてたら絶対に私たち以外が先に死んじゃう。でも、自分が死んだ時に悲しませたくないって。だから、私にも瑠璃にも好きって言わなかったんだ」

「それで、『好き』って言うには最低限ノスフェラトゥを、ってなるのはちょっと違うと思うけどね?」

「それは……」

 

顔を俯かせる鶴紗に、流瑠と瑠璃は顔を見合わせてクスリと笑った。

 

「瑠璃、許してあげよっか?」

「うーん、簡単に許しちゃうのはなー。……あ、そうだ流瑠お姉ちゃん!今日の夜は予定ある?」

「多分ないと思うけど……どうしたの?」

「それはねー……ゴニョゴニョ」

 

まるで悪巧みするかのようにコソコソと話す二人を、鶴紗はただ見ていることしかできない。

何せ、どうやらまだ完全には許してもらえていないらしいのだから。

 

「……また瑠璃ちゃんはそんなことばっかり考えて……」

「えー?でもいいじゃん♪流瑠お姉ちゃんだって鶴紗とシたことあるんでしょ?私もあるし。なら、ね?」

「いや……でもそれはちょっと趣味が悪いって言うか……」

「大丈夫だよ!ちゃんと後で鶴紗も……」

 

……不穏すぎる会話が断片的に聞こえてきたとしても、鶴紗はやっぱり黙っているしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、鶴紗の処遇はそんな感じで」

「うーん……本当にいいのかなぁ」

 

やがて、話し合いは終わったのか、流瑠と瑠璃は鶴紗の方を向く。

 

「そういうわけで、夜にちゃんと罰は受けてもらうけど……ともかく、鶴紗はこれ以上無茶しないこと。自分から傷つこうとしないこと。……約束、してくれる?」

 

唐突に自分に振られた話題に、鶴紗は「う、うん」と頷く。

 

「それならよし。……今度約束破ったら……許さないからね?」

 

鶴紗はこれにも頷く。

そうすることでやっと……三人は、一つの区切りとしてこの事件を終え、肩の力を抜くことができた。

 

その証拠に、瑠璃は「はぁー」とため息を吐きながら、その辺にあったソファーにどかっと座り込んだ。

 

「もう、鶴紗も本当にわからずやっていうか」

「そうだねー。でも、私たちのことを考えた結果だし、自分のやりたいことに素直になったから、っていうのもあるしね。リリィって何故かみんな、自分のやりたいこととか我慢しちゃう子が多いから」

 

「もっと素直になってもいいのになー」と言いながら、流瑠も鶴紗の隣に座る。

 

「え?素直になっていいの?じゃあ流瑠お姉ちゃん、その……」

「瑠璃ちゃんはちょっと正直すぎかなぁ。……まあ、別に揉まれるくらいなら減るものじゃないからいいけどねー」

 

その会話に、鶴紗は若干の気まずさもあって入れなかったが、「あ、そうだ」と流瑠が鶴紗の方を向く。

 

そして、鶴紗の顔を両手で自分の方に向けて、しっかりとキスをした。

 

「……おかえり、鶴紗。無事でよかった」

      

 

その言葉と、流瑠の優しい顔に      鶴紗の目からは、涙が出てくる。

 

もう二度と言われないかもしれないと思っていた言葉。鶴紗だって、ノスフェラトゥの施術の時は死の恐怖もあった。これが最後かもしれないと、何度も覚悟した。

 

だからこそ     その言葉を聞けたことが、何よりも嬉しかった。

 

「あ、ずるいよ流瑠お姉ちゃん!私もする!」

 

と、今度は瑠璃が鶴紗の顔を捉えてキスをする。

流瑠の時の柔らかいキスとは違い、舌までねじ込むハードなキスだ。

 

「んんっ……ちょ、瑠璃……」

「んふふ……鶴紗のお口の味、2年前から変わってないね。んー、ちょっとだけ流瑠お姉ちゃんの味も混じってるかな?」

 

「ぷはっ」と口を離した瑠璃は、妖艶に後味を楽しむかのように舌なめずりした後、鶴紗を抱きしめた。

 

「……おかえり、大好きな鶴紗」

 

右からは流瑠が、左からは瑠璃が。自分の大切な人が二人とも帰りを待っていてくれた。こんな自分を愛してくれて、受け入れてくれた。

 

流瑠が、瑠璃が、そして自分が。三人全員がノスフェラトゥを成功した可能性は、どれだけ低かっただろう。そして、こうしてその三人が出会って、お互いのことを好き合うことができた確率は、どれだけ小さいものだっただろう。

そんな、ありえないほどの幸運に自分は恵まれたのだと、鶴紗は今になって自覚する。

だから、鶴紗は二人を抱きしめる。今度こそ、絶対に大切なものを無くさないように。

 

 

「…………ただいま。瑠璃、流瑠ねえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ほんとにやるの?瑠璃ちゃん」

「もちろん!もう用意しちゃったしね!」

 

時刻は夜。瑠璃と流瑠は、鶴紗の部屋に集まっていた。

当の鶴紗はというと……部屋の隅の柱に、動かないように括り付けられている。

 

「……なにこれ」

 

腕も足も、きっちりと縛られて動けない。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。とはいえ、片腕だけでは、自由に動かせるとはいえ縄まで解くことはできない。

困惑する鶴紗に、瑠璃はクスクスと笑う。

 

「鶴紗。今から鶴紗には、罰として……

 

 

 

 

私と流瑠お姉ちゃんの()()()()を、そこで見ていてもらうから♪」

 

 

     え?」

 

瑠璃の放った意味不明な言葉に、鶴紗の頭は真っ白になる。

 

愛の営み?つまりは()()()()()()なのだろうが、それを見る?私が?流瑠ねえと瑠璃のソレを?

 

流瑠ねえはそんな罰に賛成したのだろうか、とおっかなびっくり流瑠の方を見ると……さっきまで普通だったはずの流瑠は、顔を赤らめて、息を荒くしていた。

 

「はぁ……♡はぁ……♡る、瑠璃?なんかカラダ、すっごく熱いんだけど……♡」

 

まるで身体の熱を逃がそうとしているかのように、「はぁ♡はぁ♡」と舌をだらしなく出したまま荒い息を繰り返す流瑠を、瑠璃はニヤけた顔で見つめている。

 

「流瑠お姉ちゃん。さっき部屋に帰った時、置いてあったチョコ、食べたでしょ?」

「ふぅ……♡え?う、うん。可愛い字で手紙も付いてたから、リリィからの贈り物かと……え?まさか……」

 

流瑠の返事を聞いて、瑠璃は「ふふっ♡」と意味深に笑う。

 

「そうだよねえ?流瑠お姉ちゃんはリリィの贈り物を無碍にしたりしないもんね?ぜーんぶ、食べちゃったよねぇ?」

「瑠璃……お前……」

 

瑠璃はニヤニヤしながら、自分の服を少しずつ脱いでいく。扇情的に、そしていかにも流瑠に見せつけるように。

 

話が段々と読めてきて、流石の鶴紗も顔をヒクつかせる。

 

「そのチョコにはね……と〜ってもよく効く媚薬がいっぱい入ってたんだぁ♡それにね、この部屋にも()()()()()()にさせてくれるアロマとか焚いてあって……キャッ♪」

 

瑠璃の言葉を遮って、「ふーっ♡ふーっ♡」と息の荒い流瑠が瑠璃を押し倒す。

普段、鶴紗が寝ているベッドに。

 

「はぁっ♡はぁっ♡瑠璃ったら悪い子だね……♡私を誘惑して、媚薬まで使って♡そんなに私に襲われたかったの?♡」

 

瑠璃は流瑠に押し倒されて、嬉しそうに顔を恍惚に染める。

そして、流瑠の口に吸い付いて、激しくディープキスをした。

 

「んぐっ♡はぁ、そうだよ、流瑠お姉ちゃん♡瑠璃、悪い子なんだ♡流瑠お姉ちゃんに押し倒されて♡身体の隅から隅までめちゃくちゃにして欲しいって思ってる悪い子なの♡」

 

瑠璃も瑠璃で、自分で仕掛けたアロマに影響されつつあるのか、言葉に熱が混じっていく。

 

「私が悪いの♡媚薬やアロマまで使ってお姉ちゃんに私を襲わせるように仕組んだんだ♡だからね、お姉ちゃんが私を襲うのは仕方ないことなんだよ♡悪いのはお姉ちゃんじゃなくて私だから♡」

「瑠璃が、悪い……♡」

「そうそう♡だから、悪い子にはお仕置きしないと……ね♡」

 

瑠璃がそう言うと、流瑠は自分の服を雑に脱ぎ捨てて、瑠璃の脱ぎかけだった服も放り投げる。

 

「じゃあ鶴紗♡これは罰だから、私がお姉ちゃんに襲われるとこ、しっかり見ててね♡……あんっ♡お姉ちゃあん♡」

 

瑠璃の言葉に乗せられて流瑠が完全に理性を失い、瑠璃に襲いかかるのを、鶴紗はしっかりと視線を逸らさずに見ていた。

これは罰だから、しっかり見ないと許してもらえないから、と自分に言い訳しながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分して、流瑠はやっとある程度正気を取り戻して落ち着き、休憩となった。

瑠璃は既にヘロヘロだったが、「これから第二幕だから♡」と立ち上がって、フラフラと鶴紗の元へ来る。

そして、鶴紗の足元にできた大きな水溜りを見てニヤッと笑った。

 

「ふふ。鶴紗、()()()()()()()()()()()()()()()()のは正解だったみたいだね?」

 

その言葉を聞いて、鶴紗は瑠璃が片腕だけ拘束しなかった理由を理解した。

 

「私たちを見て自分でしてもいいよ」ということだったのだろう。まんまとやられた。

 

鶴紗の苦虫を噛み潰したような顔を見ながら瑠璃は鶴紗の拘束を解き、「おいで」と手を引いた。

 

「え、ど、どうするの?」

「罰はもう終わったでしょ?だから……これからは三人で楽しみたいなーって♡ね、流瑠お姉ちゃん」

「うん。おいで、鶴紗」

「る、流瑠ねえ……」

 

二人に両脇から抱え込まれ、鶴紗はベッドに放り投げられる。

そして、右腕を瑠璃に、左腕を流瑠に抱きしめられて、耳元で囁かれた。

 

 

 

「「今日はいーっぱい愛してあげるからね、鶴紗♡」」

 

 

両耳から頭を震わせる大好きな人たちの声に、鶴紗は喜びと悦びを同時に感じて、恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、コクリと小さく頷いた。自分の中から出た、本当の願いをその口に出しながら。

 

 

 

「…………うん。私をいつまでも愛して、二人とも」

 

 

 




・梨璃ちゃん
天然のファムファタール持ち(仮定)。流瑠と非常によく似たマギの流れをしている、らしい。
マギ交感などの精度は流瑠よりも上。狂化リリィを完全治療できるチート能力の持ち主。
え?ラプラスはって?アニメでも別にラプラスとは言われてないし!

・瑠璃ちゃん
お前やりやがったな……。流瑠×鶴紗、瑠璃×鶴紗はあったのに自分と流瑠がやってないことを密かに根に持っていたので、鶴紗の今回の件の罰を利用して自分の望み通りの展開に持っていった。悪魔。

・梅様
鶴紗をかなり気にかけてる。そのうち動きがありそう……?

・鶴紗さん
今作では、ここまでしないと一柳隊への道を作れない面倒な人。複数の人を好きになるならそれ相応の覚悟が必要だと理解している。愛に飢えてるけど、急に無償の愛とか貰うと拒否しちゃう。

・流瑠様のお悩み相談室・特別優待券
最近全然やってなかったお悩み相談室関連の、超絶レアモノ。流瑠が年間に数枚しか刷っていないと言われる幻の優待券。期限は渡されてから一年間。
一時期、お嬢様校ということもあって、時価数百万〜最高一千万という超高額で百合ヶ丘の闇ルートで取引されていたが、流瑠は渡した相手の名前・顔・いつどこで渡したかを全て覚えているので、不正利用はできない。それでも、あまりにレアなため高額で買い取ろうとするリリィもいるらしい。百由は一枚持ってるとか。
これを使ったリリィは、その「優待」の内容については一切語らず黙している。ただ、「めっちゃいい」らしい。


・For you who will be lonely someday
いつかきっと、孤独になるあなたのために。
それは、鶴紗の願いだったのか、それとも……



遅れてすみませんでした……。
体調が悪くなったりなんだりいろいろあったんです、いやほんと。
決してウマにハマってたわけでは……ライスちゃんはかわいいなぁ!

遅れた割に急ぎ足でちょっと読みにくいかな?と言う感じではありますが、どうぞご勘弁を。

次からはやっとアニメ5話ですね!やっと進めますね!これで推しカプとかも色々書ける様になります。あ、間話とかも増やしてくるかもしれないので、もし「こんなカプがみたい!」とかあれば感想欄の方へどうぞ。全部が全部叶えられるとは限りませんが……。

いつも沢山のUA、お気に入り、感想、評価などありがとうございます!ついにフル赤ゲージいきました!これもひとえに皆様のご協力のおかげです!
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