アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合の間に挟まろうとしたイカロスは百合に向かって飛びました。
しかし、百合の尊さに翼が焼かれ、墜落してしまいました。
めでたしめでたし。


(ぽんこつ夢結様と夢結様が好きな人たち)


ムラサキクンシ その2

……後から顧みれば。

 

楓か二水、流瑠お姉様あたりに最初に聞いておけばよかったんだと、夢結は思う。

 

3人はどうも『ソレ』の存在を知っていたようだし、もしも夢結が3人のうち誰かに聞いていれば、『ソレ』は簡単に手に入ったのだろう。

 

だが、夢結はそうしなかった。しなかったのだ。

だから、「もし……」なんて仮定は意味のないものだし、夢結がした苦労も無くなりはしない。

 

……それでも。

その苦労を夢結はきっと、無駄なものだとは思わないのだろう。

この先、一度も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてシリアスに始めたが、要はさっさと3人のうちの誰かに聞けばよかった、と随分後になってから後悔したのだ。梨璃のプレゼントについて。

しかし、楓や二水に聞くのは上級生としての威厳やプライドというとっくに捨てたと思っていたものが邪魔したし、特に楓が夢結を煽ってきそうだったし、流瑠はどこかに行って見つからないしで、どちらにしろ夢結は結局聞けなかったのである。

同じく、頼れる(?)友人である梅も見つけられなかった夢結は、最終的に他の人間を頼ることにしたのだ。

 

 

 

 

「……というわけで、貴女は何か知らないかしら?梨璃の趣味とか、好きなものとか……」

 

そんなわけで、夢結は比較的自分と関わりが薄くて、かつ梨璃と仲のいいリリィを質問の対象に選ぶことにした。

その第一号が、百由の工房の隣に居を構える、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスである。

ミリアムは、忙しそうに作業をしながらも、夢結の質問に律儀に考え、答えてくれた。どっかの誰か(未来のシュッツエンゲル)と違って。

 

「あー、そういや梨璃はラムネが好きとか言っとったな」

「……らむね?」

 

ミリアムから出てきた意外な単語に、夢結はオウム返ししてしまう。「わしゃ飲んだことないがの」と付け加えるミリアムに夢結は、自分が知る限りのラムネの情報を口に出した。

 

「ラムネ……というのは、ガラス瓶にビー玉で蓋をした、炭酸入り清涼飲料水のことかしら」

「……ラムネをそこまで堅っ苦しく言い表す御仁は初めて見たわ……」

 

ミリアムには呆れられてしまったものの、反応から察するに、どうやらそのラムネで間違ってはいないらしい。そう判断した夢結は、情報を精査すべく、ミリアムの居室を立ち去って他のリリィの元を訪ねることにした。

 

 

 

「……じゃが、夢結様がくれるものなら、梨璃はなんだって喜ぶと思うぞい!……あれ?」

 

そんなミリアムの気遣いに耳を貸すこともなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでね、明日は梨璃の誕生日パーティをしようと思ってて。梨璃は何か食べたいものある?」

 

「え、えーっと……」

 

ところ変わって梨璃達は、流瑠・梅と合流し、明日の誕生日パーティのプランを練っているところだった。

……いや、正しくいうなら、プランを練ろうとしているのは流瑠一人で、他の一年生達……梨璃・楓・二水・鶴紗は、全く別のところに気を取られていた。

 

「梨璃さんの誕生日パーティはいいんですけれど……お姉様?」

「うん?なあに、楓?」

「その……左腕にくっついている梅様は何なんですの?ひっつきもっつきか何かで?」

「ひっつきもっつきて」

 

一年生達が梨璃の誕生日パーティよりも気になって仕方なかったもの。それは、流瑠と腕を絡ませている梅の存在だった。絡ませている、というよりは、梅が一方的に流瑠の腕を取っているように見えるが。

 

梅が流瑠の部屋に行ってから大体30分後、梅は梨璃達の元に戻ってきた。流瑠に連れられて。その時から今に至るまでずっと、梅は流瑠と腕を絡ませているのだ。

 

当然、一年生達は困惑する。さっきまで流瑠が苦手だとか何だとか抜かしていた梅が、自分から腕を絡ませて、流瑠と仲良く(?)帰ってきたのだから。

 

だが、なぜか流瑠に寄り添う梅本人は、「自分、不機嫌です」と言わんばかりのムスッとした顰めっ面でそっぽを向いている。なのに、頬は赤くなっていて、恥ずかしがっているのも見てとれた。

 

「……え、何なんですのこれ。梅様これどういう感情なんですの?」

「梅先輩……落とされた?」

 

鶴紗が切り込むと、梅は赤くなっていた頬をさらに紅潮させ、らしくなく必死に慌てた声を上げた。

 

「お、おおお落とされてないゾ!流瑠様に落とされてなんてないんだからナ!?」

「別に流瑠ねえにとは言ってないけど……」

 

鶴紗の冷静な返しに「うぐっ……」と梅は言葉を詰まらせるも、「と、とにかく私は流瑠様のことなんか好きじゃないからナ!」の一点張りを続ける。

 

「え……?私のこと、好きになってくれてないの……?」

「ない!私は夢結のことが好きなんだって何度も言ってるだロ!?」

 

そう主張する梅に、流瑠はニコリと笑って、先程やったように、梅の顎をクイっと持ち上げた。

 

「じゃあ、梅ちゃんが私のこと好きになってくれるように、もっともーっと……キス、しないとね?」

「ふぁ……」

 

顎クイされてキスを迫られた途端、梅の抵抗は弱くなる。

それどころか、恥ずかしそうに目を逸らそうとしながらも、流瑠を見上げる瞳は潤んで、吐息には熱が混じり、完全に受け入れ準備OKな体勢になってしまっていた。

 

「……いやあれ、完全に恋する乙女の顔じゃありませんの。「ふぁ……」ってなんですか「ふぁ……」って」

「梅先輩のあんな顔、初めて見た……」

「はわわわ……梅様、なんか可愛いです……」

 

ボソボソと梅の様子に慄く一年生達を尻目に、目を閉じて完全にキスを求める体勢な梅を見て、流瑠はクスっと笑った。

 

「……なーんて、冗談だよ。みんなの前でなんて、梅ちゃんも恥ずかしいだろうしね?」

 

そう言って梅の顎から手を離すと、キスを期待していた梅からは「え、あ……」と残念そうな声が出てしまう。

 

「……もしかして梅ちゃん、キスしたかったの?私のこと嫌いなんでしょ?」

 

梅の反応を見て愉快そうにクスクスと笑う流瑠に、梅は「うぅ、うぅぅ……」と顔の赤みを強めて呻き声を出した。

 

「い、イジワルだゾ流瑠様……別に梅は流瑠様のことが嫌いなんじゃなくて、夢結の方が好きなだけで……」

「うん。梅ちゃんが夢結のことが好きなのは知ってるよ。()()()?」

 

流瑠は「イジワルだ」と評された意趣返しに、さらにイジワルに聞き返した。梅には、流瑠の聞きたいこと……梅から引き出したい言葉が、よくわかっていた。

 

「それで?って……その、だからぁ……」

 

モジモジして何も言い出せない梅の前で、流瑠は再度微笑み、目線を梅から梨璃に向けた。

 

「梅ちゃんは私のこと別に好きじゃないんだって。寂しいな〜。梨璃、寂しいからキスしよ?」

「……ふふ。はい、いいですよお姉ちゃん」

 

流瑠の意図を読み取った梨璃は、梅の方に一瞬だけ顔を向ける。その顔には、勝ち誇ったような笑みが浮かんでいる。

挑発されたと理解して「んなっ!?」と声を上げる梅を尻目に、梨璃と流瑠は唇を近づけていった。

 

「あ、あぁ……」

 

どんどん二人の顔は近づいていく。

梅の口からは、知らずのうちに唸り声が出てしまう。

 

「ううぅ……」

 

どんどん、どんどん近づいていく。

それにつれて、梅の唸り声も大きくなっていく。

 

「ううぅぅぅぅ!」

 

そして、二人の唇がもう触れる、という瞬間。

 

「に、にゃあああああああああ!!」

「え、梅様!?」

 

顔の赤みが限界まで到達した梅は、目をグルグル回しながら猫のような鳴き声をあげて、レアスキルまで使ってどこかへ走り去ってしまった。

 

「……あー、行っちゃった」

「ちょっとやりすぎましたかね?」

「いやいや、お二人とも冷静すぎでは!?梅様のあんな様子初めて見ましたわよ!?」

「私、梅先輩の様子見てくる」

 

ドタドタと走り去る梅をやけに冷静に見送った流瑠と梨璃に、ツッコミを入れる楓。そんな3人に背を向けて、鶴紗は梅が走っていった方向へ向かおうとする。

そんな鶴紗を、流瑠は「あ、ちょっとまって!」と呼び止めた。

 

「梨璃の誕生日パーティの予定が決まったら連絡するから、よかったら来てあげてね。鶴紗が来てくれたら、梨璃も絶対喜ぶから」

「……ん、わかった」

 

短く返事をして、鶴紗は梅の元へ駆けていった。

その背中を見送って、流瑠は小さくため息をついた。

 

「……うーん、梅ちゃんやっぱり私のこと苦手なのかなぁ」

「あの、お姉様?さっきのどこをどう見たらそうなりますの?」

「というか、なんで梅様とキスがどうのっていう話になったんですか?お姉ちゃん」

 

梨璃からのジト目の疑問に、流瑠は笑って答える。

 

「ほら、梅ちゃんって夢結のことが好きじゃない?」

「そうですね」

「そうですわね」

 

流瑠から周知の事実だと言わんばかりに出てきた言葉に、二人もまた即座に頷く。それだけ梅の態度がわかりやすかったということだが。

 

「でも、いくら梅ちゃんが夢結のこと好きだとしても、私は夢結を渡す気はないよ。夢結は私達のものだもん。そうでしょ?梨璃」

「……はい。お姉様は私たちのものです」

 

どこか覚悟を決めたような顔で返事をする梨璃に、流瑠は満足そうに頷いて続ける。

 

「でも、恋敵になるからって仲が悪くなるのは、私はイヤなんだ。私は梅ちゃんのことも好きだし。だから、梅ちゃんが私のこと好きになってくれたら、夢結を取り合ってる間も仲良しでいられるかなーって」

「そ、そんな理由で……?」

 

流瑠は楽しそうに語るが、梨璃や楓は流瑠が誰にでもすぐにキスして「愛している」と語ることに不満が無いわけではない。

流瑠の「多くのリリィが幸せになってほしい」という願いも、「リリィ達と仲良くありたい」という思いもわかる。

しかし、それはそれとして、梨璃達はもっともっと流瑠からの愛が欲しいのだ。

 

「……むう。お姉ちゃんはわかってないです。私たちがどれだけお姉ちゃんのことが好きか」

「そうですわ。お姉様にはわたくしたちだけ見ていて欲しいのに……」

「二人とも……」

 

そもそも、梨璃も楓も、ここに居ないが夢結も、流瑠に惚れた原因は、その包み隠すことのない愛の深さとカリスマ性に他ならない。

リリィであるというだけで自分を愛してくれて、抱きしめてくれて、好きだと言ってくれる。癖になるほどあったかくて、涙が出るほど優しくて。それが、戦いの宿命に囚われた思春期真っ盛りの10代女子にとってどれだけ救いになっているか、梨璃達は身を以って知っている。

 

そして、流瑠の愛に魅せられたリリィのほとんどが一度は辿る道、それが……その大きすぎる愛を、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という好奇心であり、愛多き流瑠にとっての()()()()()()()という思いだ。

 

その中の一つ、「流瑠の特別になること」を、梨璃達は既に達成している。だが悔しいことに、今はまだ「流瑠の全ての愛」を手中に収めることはできそうにない。

 

だから、楓と梨璃に今できるのは、流瑠を挟み込むように両横から抱きついて、耳元で熱を含んだ思い(ことば)を吐き出すことで、流瑠に挑戦状を叩きつけることだけだった。

 

「今は無理かもしれませんが……いつか、お姉様から与えられる全てのリリィへの愛も、幸せも」

「全部ぜーんぶ、私たちだけのモノにしちゃいますから。覚悟してくださいね?お姉ちゃん♪」

 

流瑠からの愛を受ける『全てのリリィ』というあまりにも大きな対象への嫉妬。それでも、いつか流瑠の全ての愛を自分たちのものにしてみせる。両横からそう宣言する二人に、流瑠は恋する乙女のように頬を染めてはにかんだ。

 

「……嬉しい。うん、嬉しいなぁ。一番大好きな子達にそんなこと言われたら、嬉しすぎてどうにかなっちゃいそうだよ」

 

確かに、自分の中で梨璃や楓、夢結の優先度が他のリリィ達よりも格段に上がり、3人を求める思いがどんどん強くなっていることを、流瑠は自覚している。

しかし、自分はきっと、自分の根幹に根差している全てのリリィへの愛も捨てられないんだろうな、ということも、半ば確信していた。

 

だから、「ありがとう」と一言告げて、流瑠はこの話を終わらせる。

 

「……さて!じゃあ明日の誕生日パーティの予定もちゃんと練らないとね。大好きな梨璃のために♪」

 

    いつか、本当に自分の全てが最愛の彼女たちに落とされ、彼女たちしか見えなくなってしまったら、私はどうなってしまうのだろうかという好奇心と不安を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鶴紗は、梅を追って百合ヶ丘校内の木々の間を駆けていく。

足の速さではまず梅に追いつけないということは、鶴紗自身よくわかっている。しかし、それでも梅に追いつくことができるという自信が、鶴紗にはあった。

 

森のように木々の生い茂る庭園を抜け、人気のない開けた場所に出る。「ここに梅先輩がいる」と、鶴紗には確信があった。

 

鶴紗が周囲を見渡すと、果たして、鶴紗は木漏れ日の中で大きな木に寄りかかって膝を抱えている梅を見つけた。

 

「梅先輩、見つけました」

「た、鶴紗!?なんでここが……」

 

突然声を掛けられた梅は、俯かせていた顔をバッとあげて驚愕する。

絶対に見つからないと思っていた、と言いたげな梅の様子を見て、改めて鶴紗は今自分がいる場所を見渡した。

鬱蒼と木々が茂る、まるで森のような場所だ。よくこんな場所を梅は知っていたものだ、と感心すらしてしまう。

梅とは少しの間、猫を探したりぼんやりしたりと一緒の過ごしたこともあるが、それでもこんな場所に来たことは無かった。

なら、それなのになんで自分にこの場所がわかったのか。梅の当然の疑問に、鶴紗は自分の目を指さした。

 

「……これ(レアスキル)ですよ」

 

鶴紗の言葉に納得したのか、諦めたのか。梅は身体の力を抜いて、背中を木に預けた。

 

「……あー、ファンタズム。そういやお前、そんな便利なスキル持ってたナ……」

 

そう言う目には、どこか力がないようにも見える。

レアスキル「ファンタズム」。求める結果に辿り着くための道筋を幻視するスキルだ。これで、鶴紗は「梅を見つける」という結果のための道筋を幻視したのだと、梅は理解した。

鶴紗が近づいてくるのを感じながらも、梅はそれを拒絶せず、口をさらに動かした。

 

「お前がどっか行ってた時も、そのスキルのせいで見つけられなかったよナ?」

 

「どっか行ってた時」というのは、鶴紗がノスフェラトゥの施術を受けに行った時だろう。梅の口から出た皮肉混じりの言葉を、鶴紗は「まあ、そっすね」と流し、梅の隣に座る。そしてそのまま、鶴紗はしばらく何も喋らなかった。

突然隣に来たのに何も喋らない鶴紗に業を煮やし、梅はため息を吐く。

 

「……なんだよ、梅のこと笑いに来たのか?」

 

鶴紗は梅の言葉に首を横に振る。

 

「……そんな趣味の悪いことしませんよ」

 

そう言う顔は、至って真面目そうで。そう言えばコイツは、誰かをからかうほど話が上手くはなかったな、と梅は苦笑した。

 

 

しばらく、二人は何も話さなかった。

二人の間には、木々の隙間を心地よい風が通り抜け、サワサワと木の葉が舞い散る音だけが流れていく。

 

不思議と、梅はこの時間が嫌いでは無かった。基本的にはお喋りが好きなはずの梅だが、何も言わず、何も伝えず、なのにお互いがお互いを尊重しあっている。そんな時間のように思えた。 

 

静かだからこそ、相手の吐息までも感じ取れる。鶴紗の吐息のリズムは一定で、梅という先輩の前でもまるで緊張していないことがわかった。梅も鶴紗の呼吸のリズムに合わせてみると、段々と心も身体も緊張が解けて、まるで温泉に浸かっているときのような心地よさが梅を包んだ。

 

鶴紗は、ただ寄り添ってくれている。梅が話すのを待っているわけでもなく、自分から話すわけでもなく。ただ寄り添って、この不安定な心を抱えた自分と、一緒に居ようとしてくれているのだ、と梅には感じ取れた。

 

あまりにもリラックスしすぎて、口の緊張までも解けたのか、梅は自然にポツポツと話し始めていた。

 

「……梅はさ、夢結のことが好きなんだ」

 

その言葉に鶴紗は何も返さず、目線で続けるように促した。

 

「最初は、危なっかしいやつだって思ってたんだ。レアスキルは使おうとしないし、使っても制御できないし。

精神的にも不安定でさ、梅が出会ったのは中等部の頃だったけど……元々、真面目ちゃんで責任感が強いタイプなんだ。だから、同行したリリィが怪我したり亡くなったりしたら、自分のせいだって、いつも自分を責めてた。

そんなだから、美鈴様を亡くしてそれを自分のせいだと言われ、流瑠様と喧嘩した後の夢結は……見るに耐えなかった」

 

鶴紗は、やはり何も言わない。しかし、なんの相槌も打たないその聞き方が、梅の口をさらに動かさせる。

 

「それから、私は夢結を良く見るようになったんだ。見ておかないと、どこで壊れるかわからなかったから。んで、あいつお嬢様育ちだから、割と世間に疎いところとかあって、梅が世話を焼いて。戦闘でも突っ込みすぎるから梅がサポートして。そんなことやってたら、いつの間にか……好きになってたんだよ、夢結のこと」

 

一通り夢結との馴れ初めを語り終えた梅に、鶴紗はやっと口を開いた。

 

「……梅先輩が白井様のこと好きなのは知ってましたけど……」

 

口下手にそう言う鶴紗に、梅は大仰に驚いた。

 

「そ、そんなわかりやすかったカ?」

 

「まあ、割と」と鶴紗は短く答えて、再度目線で続きを話すように促した。

 

「お前、梅は先輩なんだからもうちょっと……まあいいか。今更だしナ。

それで、私は夢結のことが好きになっちゃったんだけど……当の夢結はずーっと流瑠様のことばっかりだった。喧嘩してる間も、流瑠様流瑠様って……凄かったんだゾ?流瑠様が悪い、いや自分が悪いってずっと悩んでて……梅のことなんかこれっぽっちも見てくれなかった。私、あれでも結構頑張ったんだけどナ……」

 

そう言って、梅は寂しそうに笑う。脳裏には、夢結のために尽くした日々が過ぎっていた。

ヒュージに突っ込みすぎてボロボロになった夢結を抱えて離脱したり、ルナティックトランサーの発動を察知して、夢結が誰も傷つけないように他のリリィ達を退避させたり、どんどん悪くなっていく夢結の印象を変えるために奔走したり。この二年間、梅は夢結のために走ってきた。

 

「……けど、梅じゃ夢結を笑顔にできなかった。全部、梨璃と流瑠様のおかげなんだよ。二人が夢結を笑顔にした。……くやしかった。私が夢結を笑顔にできたならどれだけ良かっただろうって……梨璃の手を借りて、流瑠様と仲直りさせることでしか夢結を救えなかったのが、一番悔しかった。梅じゃ、流瑠様の代わりにはなれなかったんだ」

 

梅の思いの丈を聞いて、鶴紗は聞く体勢を変える。

 

「……その割には、さっきは流瑠ねえと仲良さそうでしたけど?」

 

鶴紗の質問に、「やっぱりきたか」と梅はため息をついた。

 

「梅は夢結のことが好きだ。でも、流瑠様も夢結にお熱だろ?つまり流瑠様は梅の恋敵なんだよ。流瑠様だってそれをわかってる。なのに、なのにさ……流瑠様は私にキスしたんだ。ファーストキスだったんだゾ?「夢結のことを好きなままでいいから私のことも好きになって欲しい」とか訳わかんないこと言うし、その後も何度も何度もキスされて、梅のこと「可愛い」って、「好きだ」って言うんだ……」

「……梅先輩は、どう思ったんですか?」

 

先を促すような鶴紗の聞き方に、梅は顔を赤くして、瞳を潤ませる。その顔はまるで、恋する乙女のようだった。

 

「……うれし、かった。だって今まで誰からも、「可愛い」とか「好きだ」とか、「好きになって欲しい」なんて言われたことなかったんだ。キスも、想像してたよりずっと気持ちよくて、心が満たされていくみたいで……流瑠様は梅の恋敵のはずなのに……」

 

「はぁ……」と吐き出された梅の吐息は、溜息というには熱を含みすぎていた。

 

「……また、流瑠ねえとキスしたいですか?」

「そ、そんなわけ……!」

 

鶴紗に尋ねられて梅は反射的に否定しようとする。しかし、聞かれてしまったら、何故か自分の唇に意識が集中してしまう。

自分の唇に押し付けられた柔らかくて優しい感触。それを思い出すと、梅の頭の中はふわっとして、暖かな熱に侵されていく。

 

「いいですよ。私の前でくらい、正直に言っても。流瑠ねえには言いませんから」

 

梅の頭の中を見透かしたような鶴紗の言葉に、梅はおずおずと頷いた。

 

「……したい、かな。どうしても忘れられなくて……」

「じゃあ、白井様とはどうなんですか?キス、したいですか?」

「へ……夢結と、キス……?」

 

そう聞かれて、梅は夢結の姿を思い浮かべる。そして、その夢結と自分がキスをする姿を。

夢結の綺麗な顔が自分の目の前に迫って、その柔らかな唇を梅の唇に押し付け     

 

そんな想像をすると、ただでさえ既に赤かった梅の顔は、さらに赤くなっていく。

 

「し、したい、けど……うぅぅ……。も、もう夢結のことも流瑠様のことも、まともに見れない……!」

 

普段見せない、梅の恥ずかしがっている様子。顔を赤くして瞳を潤ませ、モジモジしている梅を見て、鶴紗は思わず、「梅先輩かわい……」と呟いてしまった。

 

「な、なんだよ鶴紗まで……」

 

そう言って恥ずかしそうに身を縮こまらせる梅に、鶴紗はなかなか懐こうとしない猫を幻視した。

 

「まあ、それはいいとして。……流瑠ねえ、しっかり愛してくれるし……褒めて欲しいところを的確に褒めてくれるから、そういうところがモテるんですよね。梅先輩だって、流瑠ねえが本気で愛してくれてるの、わかってるでしょ?」

 

強引に話を変えた鶴紗に、梅は不承不承と言った感じで頷いた。

 

「……まあ、そりゃナ。中等部の頃から流瑠様のことは見てたし、わかってるけどさ……」

「……それに、私もその気持ち、ちょっとわかるんで」

 

鶴紗は、梅の気持ちに寄り添うかのように、自分の身体を少し梅の方に寄せた。

 

「私が流瑠ねえのこと好きなの、知ってるでしょう?」

「まあナ。でも当の流瑠様は()()3人にお熱みたいだけど」

 

梅の皮肉混じりの言葉にも、鶴紗は特に気にした様子もなく、「そっすね」と答えた。

 

「でも、私も割と好きなんですよ。梨璃のこと」

「梨璃?それって……」

 

梨璃と言えば、夢結のシルト……つまり梅の恋敵っぽいもので、かつ流瑠にも深く愛された、鶴紗の恋敵でもある。

そんな名前を、鶴紗が「好ましい」として出してきた事に、梅は少し驚いた。

 

「ええ。私にとっては、流瑠ねえを取り合う恋敵です。……けど、あいつは狂化現象で倒れた私を真っ先に助けに来てくれた。誰に頼まれたわけでもないのに、ですよ?それに私のことを、憐れみの目でも見ないし、蔑んだ目でも見ない。あいつは、私を他のリリィと同じように見てくれる。……『血煙のリリィ』なんて呼ばれて、気味悪がられてた私を」

「……だから、好きになった?」

 

梅の確認するかのような聞き方に、鶴紗は頷くでもなく少しだけ笑った。

 

「だって、あいつくらいですよ。椿組(同じクラス)で私に積極的に話しかけてくるの。自分が話しかけにくい人間なのはよくわかってますけど、それなのにあいつは物怖じせずに話しかけてくれる。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「鶴紗……」

「……梅先輩だってそうなんじゃないですか?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だから流瑠ねえのことが気になってる。……違いますか?」

「それ、は……」

 

梅はその言葉を否定しかけたものの、一度落ち着き、自分自身と向き合う。鶴紗の言葉をしっかりと咀嚼し、自分の現状と照らし合わせる。

そうしてやっと、梅は頷くと言う結論に至った。

 

「……そう、なのかもナ」

 

「かわいい」、「好きになって欲しい」。流瑠にそう言われた時の胸が締め付けられるような感覚は、梅にとって初めてのものだった。もしかすると梅は、リリィとしてではなく、一人の女の子として見られたかったのかもしれない。

 

     梅ちゃんは、夢結のことも私のことも好き。それでいいじゃない』

 

不意に、流瑠の言葉が脳裏に蘇ってくる。

そんな梅の内心を感じ取ったのか、鶴紗は口を開いた。

 

「梅先輩。恋愛とそれ以外の愛の境目って、そんなにハッキリしたものなんですかね?たまに友達で、たまに恋人で、たまに家族で……そんな、名前のない関係でもいいんじゃないかって、私は思ってます」

「……なるほど、ナ」

 

それは、まるで。

最近になってやっと、「好き」という感情に名前をつけることを覚え始めた流瑠へのアンチテーゼのようだ、と思った。それが、こともあろうに流瑠を慕う鶴紗から出た言葉なのだから、梅は苦笑するしかない。

 

「……それに、梅先輩って、相手を好きになるのに立場や関係を気にするタイプの人でしたっけ?」

「……」

 

鶴紗の言わんとすることはわかった。確かに梅は、みんなのことが大好きだと公言しているし、事実そうだ。そこに、相手の立場や自分との関係なんてものは考慮されていなかった。そこから考えれば、流瑠が梅の恋敵であろうがなかろうが、()い人間である流瑠のことを、梅は好きだと言えるはずなのだ。

 

「……梅は、自分を見失ってたってことカ?」

 

自分は、自分の在り方に外れて「苦手」という感情を流瑠に抱いていたのだろうか?そう思って、梅は声に出す。

しかし、鶴紗は少し微笑んで、首を横に振った。

 

「……違いますよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……それだけの話です」

 

その言葉に、梅は目を見開く。

流瑠が自分にとって特別。そう言われて、欠けていたピースがハマったような感覚を梅は感じた。

 

 

梅は、リリィ達のことが大好きだと公言している。でも、それは流瑠も同じだ。それに、流瑠がリリィ達に向ける愛情は梅のそれとは一線を画す。

そして、流瑠は梅と同じように夢結のことを好いている。でも、流瑠は梅と違って夢結からも好かれているのは明白だ。

梅は、自分に一流のリリィとしての実力があると思っている。でも、リリィとしての実力も、流瑠の方がずっと上だろう。

 

優しくて、強くて、綺麗で、寛大で。多くのリリィを愛し、多くのリリィに愛される。正に完璧なリリィだ。

その在り方は、きっと梅がいつか至るべき在り方で……

 

 

(ああ、そっか。私は……流瑠様に嫉妬し(あこがれ)てたのか)

 

わかってしまえばなんてことはない。要は、梅は流瑠のようなリリィになりたかったのだ。

あの人みたいになりたい。あの人のようなリリィでありたい。そんな羨望が、いつの間にか嫉妬になってしまっていた。

苦手、という気持ちはそれだ。流瑠を前にすると、いかに自分があの人と遠いかを自覚してしまう。絶対に追いつけない背中を幻視してしまう。それが嫌だったのだ。

 

梅は、中等部時代、初めて流瑠とあった時のことを思い出した。

キラキラして、愛をくれて、そして強くて。「この人がいればなんとかなる」という圧倒的な安心感があって。

だから、その背中に憧れたのだ。

 

「……なーんだ。梅も流瑠様のこと、大好きだったんだ」

 

梅は、自分の気持ちをやっと理解して、クスッと笑った。

いつから、流瑠の背中を見るのが嫌になってしまったのだろう。いつから、その背を追うことが億劫になってしまったのだろう。

 

でも、いつも梅の前には流瑠の背中があった。いつも梅は、流瑠の背を追いかけてばかりだった。

今ではもう忘れてしまったが、みんなが大好きだと公言し始めたのも、多分流瑠への憧れが影響だったのだろう。

そして梅は、そんな憧れの人にキスしてもらって     自分を一人の女の子として見てもらって、嬉しかったのだ。

 

「なあ、鶴紗。さっきお前、「たまに友達で、たまに恋人で、たまに家族」って関係でもいいって言ってたよナ?」

「はい。言いましたよ」

 

梅の笑顔に対する鶴紗の顔は、いつの間にかいつもの無表情に戻っていた。

 

「それってさ……たまに憧れの人で、たまに友達で、たまに恋敵で……たまに好きな人っていう関係でも、いいと思うカ?」

「いいかどうか、それを決めるのは梅先輩自身ですよ」

 

「そっか」と、どこか吹っ切れた顔で鶴紗の答えに頷いた梅を見て、鶴紗は「言いたいことは言い切った」とばかりに立ち上がった。

「ありがとナ」という梅の礼に「いえ」と言葉少なに答えた鶴紗は、梅に背を向けようとして、「あ、そうだ」と立ち止まる。

 

そして、座っている梅の近くまで身を屈ませて、梅の頬に軽くキスを落とした。

 

「…………へ?」

「……実験を受けに行った私を探してくれたり、狂化した私を助けてくれたりした時の、お礼です。私には、これくらいしかできないので。……じゃ、これで」

 

早口にそう言って、恥ずかしそうに、顔を赤くしてそそくさと立ち去る鶴紗を、梅もまた顔を赤く染めて見送るしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ええ、梨璃はラムネ好きです」

「偶に分けてくれますよ。お口の中で、ホロホロと溶けて行くのが面白いですね♪」

 

一方夢結は、「梨璃はラムネが好き」という情報を精査するために、知っている一年生を片っ端から当たっていた。

そんな中、雨嘉と神琳から出た情報に、夢結は崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。

 

(ラムネとは、飲み物のことではなかったの……?というか、私は梨璃に分けてもらったことないのだけど!?助けて流瑠お姉様……助けて美鈴お姉様……)

 

どうやら、夢結が答えに辿り着くにはまだ時間が掛かるらしい。

 




・たづまい
すき。イチャついてほしい。

・ゆゆまい
すき。イチャついてほしい。けどゆゆりりには勝てない。

・るるまい
色々複雑。でも概ね流瑠様の思惑通り。


はい。遅くなってすいませんでした。
言い訳をすると、ウマやってたとかラスバレやってたとか色々ありますが、一番は同じ話を2回書いたことですね。納得いかなかったので最初から書き直しました。見捨てないで……。

沢山の感想・評価・UA・お気に入り等ありがとうございます!
次はなるべく早く書きたいです!


あ、ピクなんとかでえっちぃ奴を投稿し始めました。多分こっちには書かないです。見たい方は私のTwitterアカウントからどうぞ。ついでにフォローしてくれると泣いて喜びます。アサルトリリィのことしか呟きませんけどね!
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追記
当然向こうのやつはR-18なので閲覧注意です!自己責任でお願いします!
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