アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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前書きが思いつきません!!
遅くなってすみませんでした!!!

(夢結様の旅/新たな絆)


ムラサキクンシ その5

 

 

百合ヶ丘から何本か電車を乗り継ぎ、やってきたのは山梨県甲州市。梨璃の故郷だというそこに、私     白井夢結は、あるものを探しに来ていた。

 

     ラムネ。噂に聞く梨璃の好物。ガラス瓶にビー玉で蓋をした、炭酸入り清涼飲料水。

半世紀前ならどこにでも売っていたというそれを1本買うために、私はわざわざ鎌倉からここまで出てきたのだ。

全ては、梨璃に喜んでもらうため。

 

 

しかし。

 

 

「ここは………………どこ?」

 

 

恐らく、中心部は未だにヒュージが出没するのだろう。嘗て甲州の主体となる駅があったであろう場所を線路は迂回して、目に映る色は田園と山々の緑に染まっていく。

そして、そんなところで「甲州〜甲州〜」というアナウンスを聞かされ、降ろされたとなれば……私が山と田んぼに囲まれた緑の中心部に呆然と佇むことになるのは、殆ど必然と言ってよかった。

 

 

 

 

 

さて。無論、この辺りの出身ではない私に、土地勘などあろうはずもない。鶴紗さんの「ファンタズム」や二水さんの「鷹の目」のような便利なレアスキルもなく、使えるのは「ルナティックトランサー」という戦闘以外に一切使い道のないスキルだけ。

幸いだったのは、降ろされたこの場所が山の中腹辺りにある駅であったことだ。標高が少し高めだから、ここから見下ろせば目的地を探すことができるかもしれない。そも、ここでずっと呆然としていたところで、事態が好転しないのは目に見えている。そう考えて、兎にも角にも、私は開けた場所を探しながら山を下ることにしたのであった。

 

整えられた山道を少し降りると、傍の木々の間から、眼下に長閑な田園風景を望むことができた。もう少し木のない場所まで行けば、視界も開けるだろう。そう考えて、私は歩を進める。しかし、鬱蒼と茂る樹林は視界を塞いで下界を一向に見せてはくれず……結局、私は下の景色を見ること叶わず、そのまま下山してきてしまったのであった。

 

山道の入り口……私からすれば出口だが……と思われる場所まで出てくると、私の視界は漸く広がる。目に映ったのは、舗装された道路と、その傍にまるで植物の楽園かと言うほど立ち並ぶ、田んぼ、畑、花園たち。その合間に民家と思われるものがポツポツとあるだけで、土地のほとんどは植物のためにあるかのような、そんな場所だった。

 

暑い。まだ六月も半ばとは言え、湿度は高く、照りつける日差しは強い。蒸すような暑さと焼くような暑さ。その相乗効果は、黒くて厚い制服に身を包んだ私の体力を容赦なく奪っていく。山道は、天井のようになっていた木々によって日差しが少し抑えられていたが、山道を降りた今、そんな都合の良い日除けなどあろうはずもない。仕方なく、持ってきていた日傘をさすことで、少しでも暑さを凌ごうと試みた。

 

さて、ここからどうしようか。私は少し考え込んだ。ふと携帯端末を見ると、私が百合ヶ丘を出てから4時間ほど経って、今は朝の9時といったところだ。あまり悠長に時間を掛けていれば、梨璃の誕生日パーティに間に合わなくなる。

私がここにきた目的は、「ラムネ」を手に入れることだ。であれば、私が目指すべきなのはそれを売っている店だろう。そして、それがありそうなのは……

 

「梨璃の故郷の人達が、避難している場所……」

 

それしか考えられなかった。恐らく、ここから歩けばまた時間がかかるだろう。しかし、ここまで来た以上、撤退という選択肢はない。私は、強い日差しが照りつける砂利の道に、強く一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……………………………………どこ?」

 

で、迷った。ぶどう畑を通り過ぎ、ヒュージ出現地区を避け、長い長い一本道を進んでいたと思ったら……いつの間にか十字路が何本も交差する田園地帯のど真ん中に出ていて、迷った。

前を見ても、田んぼ。後ろを見ても、田んぼ。右を見ても左を見ても、田んぼ田んぼ田んぼだ。

クラリ、と倒れそうになる。太陽は頭上まで登っており、恐らくもう昼だ。ジリジリと照りつける暑さが身体の水分を奪い、私の意識を朦朧とさせる。

 

(そういえば、起きてから何も食べてなかったわね……)

 

兎も角水分補給を。そう思ってバッグを開くが、出てくるのは財布とハンカチ・ティッシュ程度。食べるどころか飲むものすら何も持ってきていなかったことに、今更気が付いた。こんな時期に外を出歩いたら、こうなることはわかっていたはずなのに。

クラリ、クラリ。自覚した瞬間、空腹感と脱水感、無計画な自分への苛立ち、ここからどうすればいいかという焦燥。それらが一気に襲いかかって倒れそうになり、私は済んでのところで膝をつくだけで抑えた。しかし、完全に倒れ込んでしまうのも時間の問題だろう。

 

(梨璃、お姉様……ごめんなさい。どうやら私はここまでのようです……)

 

諦めて目を閉じそうになった、次の瞬間。

 

 

 

「……ん?あ、あそこ!誰か蹲ってるよ!」

「ほんとだ!おいあんた、大丈夫かい!?」

 

私に、救いの手は伸ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ありがとうございました。本当に……」

「いいのいいの、困った時はお互い様だからね!」

 

優しい地元の方に助けてもらった私は、軽トラに乗せられ、家に上がらせてもらって、お水をいただいた。水道水を沸かして冷やしただけとは思えない、美味しい氷水。私はそれを一心不乱に飲んだ。喉が脈動するごとに、私より中に生の活力が戻ってくる。やがて、口の渇きを感じないほどに身体が潤ってやっと、どうにか生きながらえることができたと実感したのだった。

気のいい口調で話す奥さんにお礼を言い、私は改めて家の中を見渡す。質素、と言えば言い方は悪いが、昔ながらの長屋に近い造りの家。冷房は付けられていないものの、外から通り抜ける風が心地よく、なんとも快適だ。

そして、懐かしくも感じる畳の匂い。慣れた匂いではなかったが、心が安らぐようだった。

 

「……おねーさん、大丈夫?苦しくない?」

「ええ、大丈夫よ。ありがとう」

 

ここのお子さんだろうか、小学生くらいの男の子が、私を心配して声をかけてくれる。どうやら、この子が倒れた私を見つけてくれたようだった。

少し男の子と話していると、台所から奥さんの声がかかった。

 

「ほら、少し早いけどお昼時だし……あなたも昼ごはん、食べていって。さっきからお腹鳴ってたし、まだ食べてないんでしょ?」

 

そう言って、奥さんが私が座っているテーブルの前に、どんどん料理を並べていく。どうやら、私は水を飲むことで精一杯で、自分のお腹が鳴っていたことにまるで気づかなかったらしい。恥ずかしくなりつつも、私は恐縮してしまった。

 

「い、いえそんな……これだけお世話になって、この上ご飯までいただくなんて……」

 

しかし、奥さんは快活に笑って、食事の準備を終えてしまった。食卓には既に料理が私の分まで並べられ、箸も置かれている。ここまで来て食べない、というのは逆に失礼だろう。

 

「いいのいいの!遠慮なんてしないで!ほら、あんた達もお昼にするわよ!」

「ああ、今行くよ」

「はーい」

 

奥さんの声に、今まで声を聞いていなかったお父さん、そして先程の男の子が反応し、食卓につく。どうやら、私はこのお昼ご飯から逃げられそうになかった。

否、「逃げられない」というのは違う。ほかほかと湯気をあげる白いご飯、漬物、しっかり色の通った煮魚、お味噌汁、ほうれん草の胡麻和え。良い匂いを放ち、私の空きっ腹の食欲をさらに刺激するそれらの誘惑に、私は最初から負けていたのだ。

 

「では、手を合わせて……」

 

「「「「いただきます」」」」

 

家族の中に混じり、一つのテーブルを囲んで合掌。それを私はどこか懐かしく感じながらも。

そんな感傷は、結局は美味しそうな料理達の誘惑に負け、まずは味噌汁から、と手をつけ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふう。ご馳走様でした」

「ええ、お粗末様!それにしてもいい食べっぷりだねぇ!」

 

食卓の上に大量に並べられていた食べ物達も、いつの間にかすっかり腹の中に収まってしまい、私はやっとこさ一息吐いた。

お嬢様学校として有名な百合ヶ丘の生え抜きである私は、礼儀作法を幼い頃から叩き込まれている。故に、米粒ひとつ残さず、作法も違わずに食べた。……のだが、あまりにお腹が空いていて、少し……いやかなり、がっついてしまったかもしれない。それをはしたなく思って謝ると、「いいよいいよ!年頃の子はしっかり食べないと!」と、奥さんは私の肩を叩いて、ご飯をよそってくれた。結局3杯はおかわりした。リリィはカロリー消費が多く、健啖家が多いから仕方ない。仕方ないのだ。

 

「……ねえ、お姉さんって百合ヶ丘の人だよね?」

「え?ええ、そうよ。どうしてわかったの?」

 

食後に出してもらったお茶を楽しんでいると、男の子の言葉が私に向けられた。それに頷いて聞き返すと、男の子は奥さんの方を向き、「やっぱりそうだよ!」と言う。

はて、何が「やっぱり」なのだろうか。そう首を傾げていると、今度は奥さんが私の隣に座り、空になった湯呑みにお茶を注ぎながら、言葉を紡いだ。

 

「そう……やっぱり百合ヶ丘の生徒さんだったんだね。制服を見たことがあってね、それでわかったのよ」

 

奥さんはそう言って、少し複雑な顔をした。寂しそうな、期待しているような、色々な感情が入り混じった表情だ。私がよくわからずに首を傾げていると、奥さんは意を決した顔で、私に疑問をぶつけた。

 

「梨璃……一柳梨璃という娘を、知ってますか?」

 

先程までの気の強そうな口調とは一転した、何かに縋るような丁寧な聞き方。そこから出た名前に、私は驚くと同時に、納得もした。

梨璃の名前が出たこと、それ自体にはたしかに驚いた。しかし、言っては悪いがこんな田舎で、百合ヶ丘に受かる人間はかなり少ない。ならば、同じ故郷から百合ヶ丘のリリィが出たとなれば、梨璃の名前を知っている人が多いのも当然だろう。

 

「え、ええ。梨璃のことはよく知ってます」

 

そう答えると、奥さんと男の子はガタッと立ち上がり、私にずいと顔を近づけた。

 

「り、梨璃は元気にしてますか!?あんまり連絡もないから、心配で……!」

「梨璃お姉ちゃん、怪我とかしてない!?ちゃんとご飯食べてる!?」

「え、ええと……」

 

急な質問攻めに、私はたじろぐ。きっと、ここまではリリィに関する情報も回ってこないのだろう。まして、梨璃はまだなりたてのひよっこリリィだ。テレビや雑誌などでの注目度も薄いから、情報が少ないのも無理ない話ではあった。私個人としては、どこぞの馬の骨ともわからないリリィなんかより、梨璃の方がよっぽど魅力的だと思うのだが。

 

「ええ、梨璃は元気にしてますよ。怪我もほとんどないですし、ちゃんと食べて……」

 

そこまで言って、私の頭には疑問が芽生えた。

 

「……梨璃、お姉ちゃん?」

 

男の子から発せられたその言葉。それを疑問のまま復唱すると、男の子……ではなく、奥さんから返事があった。

 

「は、はい。梨璃はうちの……一柳家の娘なんです」

「…………………………へ?」

 

その言葉を、私の思考回路はかなりの時間をかけて咀嚼することになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……つまり、ここは一柳さんの家で、梨璃のご実家、なんですね……?」

「ええ。そちらこそ、かの有名な白井夢結さんで、しかも梨璃のシュッツエンゲルだったなんて……。白井の御令嬢さんに、こんな家の普通のご飯を食べさせてしまって……」

「い、いえ、そんな!とても美味しかったです」

 

話を整理すると。

私を助けてくださったのは梨璃の実家の人たちだったようで、男の子は梨璃の弟らしい。向こうも、私が百合ヶ丘のリリィだということは制服で分かったらしいが、私が白井夢結であるとは認識していなかったようだ。こんな偶然があるだろうか。

で、あれよあれよという間に、私は質問攻めにあい、百合ヶ丘で梨璃がどのように過ごしているのかを語った。

 

「そう……梨璃は元気にしてるのね……。しかも白井さんに懇意にしていただいてるなんて……。

梨璃、貴女とシュッツエンゲルになるんだって、すっごく勉強して百合ヶ丘に入ったんです。今まで目標とか夢も、ふわっとしたものしかなかったんですけど……貴女に助けられてから、『絶対百合ヶ丘に入るんだ』って。

白井さん。梨璃の夢を作って、そして叶えてくれて……ありがとうね」

 

梨璃のお母さんの言葉は、私には少し意外だった。目標に向かって突っ走っていくタイプだと思っていた梨璃が、目標や夢を持てていなかったなんて。でも、私が梨璃の夢や目標を作ることができたのなら……それは、とても嬉しいことだと思った。

 

「いえ、いいんです。私も梨璃には、いつも救われて、助けられてますから……」

 

そう口に出すと、私の頬は梨璃のことを思い出して、自然に緩んでしまう。それを見たのか、梨璃の弟さんは「……ふーん?」と何かに納得したような声を出した。

 

「あ、ちなみにお姉さんがさっき使った茶碗とかお箸、あとその湯飲みも、梨璃お姉ちゃんのやつだよ」

「ぶほっっ!?」

「ちょ、あんた!白井さんの前で何てこというのよ!」

 

唐突に告げられた衝撃の事実に、私は口に含んでいたお茶を勢いよく放出してしまった。まさか、先程まで使っていたのが梨璃の食器だったとは。嬉しいような恥ずかしいような……いや、間違いなく恥ずかしい。いややっぱり嬉しい。なんせ殆ど間接キスのようなものだ。見ていたかしら楓さん?これが運命力と言うものよ。

などと、暫し混乱しながらゲホゲホと咳き込む私に、梨璃のお母さんは頭を下げた。

 

「ご、ごめんなさい。なんせ来客なんて滅多にないもので……使える食器がそれしかなかったんです……」

「い、いえ、お気遣いなく……」

 

「寧ろラッキーだった」などと、梨璃のご両親の前では口が裂けても言えないが、平謝りする梨璃のお母さん宥める私を見て、弟さんはそれまで口を出さなかった梨璃のお父さんと顔を見合わせ、どこか得心顔で頷き合った。

 

「……白井さん。不束な娘だが、梨璃のことをどうかよろしく頼む」

「お姉ちゃんをお願いします」

「へ?え、ええ……もちろん。梨璃は私が全力で守って見せます。彼女のシュッツエンゲルとして」

 

よくわからなかったが、梨璃のことを身内の方から直接頼まれてしまった。ならば、それに応えないわけにはいくまい。私は戸惑いはしたものの、力強く頷いた。

決意を改めた私に、「そういえば」と梨璃のお母さんは首を捻った。

 

「白井さんはなぜ遥々百合ヶ丘からこんなところに?」

「……あ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほど。梨璃の誕生日プレゼントにラムネを。あの子、ラムネ大好きだものね……」

「そのためにわざわざこんなところまでご足労いただいて……ぜひ持って帰ってやって欲しい。娘も喜ぶだろう」

 

事情を伝えると、ご両親は納得したように頷いた。そして、梨璃のお母さんは「あ、ちょっと待ってて」と台所の方へ引っ込んでいった。何かあるのだろうか?と首を傾げていると、私の裾を弟さんが引っ張るのを感じたので、そちらに顔を向ける。

 

「どうしたの?」

「百合ヶ丘ってラムネ無いの?お姉ちゃん、ラムネ大好きだったから、寂しがってるだろうなって……」

「……そうね。瓶入りのラムネは、今はほとんど作られていないみたいなの。百合ヶ丘の購買にあるのは、お菓子のラムネだけよ」

 

私の答えに、弟さんは「そっか……」と残念そうだった。

その表情に、少し気まずくなっていると、台所の奥から梨璃のお母さんの声が響いた。

 

「お父さーん!?あれ、あれどこだっけ!?クーラーボックス!」

 

よく通るその声に、梨璃のお父さんは腰を上げ、お母さんの方へ歩いて行った。

二人は何をしようとしているのだろうか。そう首を傾げていたが、再度梨璃のお母さんの顔がひょこっとこちらを覗いた。

 

「白井さん、今日は何時までに帰らなきゃならないとかあるかしら?」

 

そう言われ、私は端末で時間を確認した。

今は昼の12時。駅に着いたのが9時で、助けられてから昼ごはんをいただくのに1時間くらいかかったから、駅からここまで大体2時間歩いたのだろう。

梨璃のパーティに滑り込むなら、せめて百合ヶ丘には17時に着いていたい。

その旨を伝えると、「なら、3〜40分ほど時間を貰ってもいい?」と尋ねられた。しかし、ここから歩いて2時間かけて駅まで行き、さらに電車で4時間かけて帰るとなれば、まず間違いなく間に合わない。そう思っていると、梨璃のお父さんが提案をしてくれた。

 

「ここから駅まで送っていこう。車なら15分かそこらで着く」

 

正直、ありがたい申し出だった。この暑い中をまた2時間かけて戻るのは、いくらリリィであっても正直キツい。だが、そんなに何から何までお世話になってしまっていいのか、という申し訳なさが、即答という選択肢を私に躊躇わせた。

 

「いいのよ!ここから歩いて駅まで帰ってたら絶対5時には間に合わないだろうしねぇ。そのかわり、今から3〜40分ほど時間をくれない?持って帰って欲しいものがあるのよ」

 

そう言われ、私はおずおずと頷く。そうまで言われたら、頼らせてもらわざるを得ない。申し訳なく思いつつも、私は梨璃のお母さんの言う「持って帰って欲しいもの」を待つことにしたのであった。

 

 

 

ご両親が戻ってくるまで、宣言通り3〜40分ほど時間が空いた。その時間を、弟さんと雑談して過ごす。流石に弟さんだけあって、梨璃の色々な情報を私に教えてくれた。例えば、梨璃は虫が苦手だとか、ジャンクフードが大好きだとか、何歳までおねしょしていたとか。

興味深い弟さんの話に耳を傾けていると(弟さんからは「お姉さん、目が血走ってて怖かった……」と後で言われてしまったが)、台所の奥から梨璃のご両親が何かを持って帰ってきた。

 

「はいこれ!欲しかったのはこれでしょ?」

 

差し出されたのは大きめのクーラーボックス。その中に入っていたのは     大量のラムネ瓶だった。

 

「こ、これは……?」

「梨璃が帰ってきた時のためにと思って、買い貯めてるんだよ。どうせなら、これを持って帰ってあげてくれない?」

 

10本……いや20本あるだろうか。沢山のラムネが、綺麗に並べられている。梨璃のために、これだけ買い貯めていたらしい。それを見て、本当に梨璃はラムネが好きなんだと思い知った。

しかし、こんなに持って行かせてもらうとなれば、相応の値段がかかるだろう。帰りの電車賃で少し心許ないものの、私は流石にこんなに貰ってしまうのは申し訳なくなって、財布を取り出した。

 

「お、おいくらでしょうか……?」

 

恐る恐る聞くと、梨璃のお母さんは一瞬ポカンとした後、大きな声で笑い始めた。

 

「あっはっは!いや、ほんと真面目だね白井さん!そんな調子じゃ、梨璃のお世話も大変でしょ?あの子、突っ走っちゃうことあるからね!」

 

そう言って私の財布を持つ手を押し返し、「そんなのいいから、みんなで飲んでね」と私にクーラーボックスを押し付けた。

 

「それに、こっちも持って帰って貰わないといけないからね!」

 

さらには、私に2つ目のクーラーボックスを押し付ける。わざわざ鼻を動かさなくても、中から何かとてもいい匂いが私の鼻をくすぐった。

 

「あの、これは……?」

 

尋ねると、梨璃のお母さんはお茶目な表情でウインクし、口の前で一つ指を立てた。

 

「内緒♪食べ物だけど……帰ってからのお楽しみよ!急遽だったから、さっきの白井さんの話に出てた4()()の分しか作ってないけど、ごめんね!」

 

「食べ方は、梨璃に中身を見せたらわかると思うわ!」という補足の声を聞きながら、私はさらに申し訳なくなってしまった。4人というのは、私が梨璃の百合ヶ丘での生活を話した時に中心的に話してしまっていたお姉様、私、梨璃、楓さんのことだろう。何を作ってくれたのかはわからないが、この短時間に4人分も何かを作ってくれるなんて感謝しかない。

 

「本当にありがとうございます。梨璃と一緒に食べさせていただきます。……でも、いいんですか?こんなにもらってしまって……」

「いいのよ!……私達、みんな梨璃が心配だったの。元気でやってるかとか、怪我してないかとか……あの子、あんまり筆マメな方じゃないから。だから、貴女みたいな頼れるリリィが一緒に居てくれるってわかって安心したの」

 

その言葉に、梨璃のお父さんも弟さんも、大きく頷く。

それなら……そう思って私は手を出しかけるも、思い直して、手を引っ込めた。

 

「……あの、やっぱりお金を払わせてください」

「白井さん……真面目なのは美徳だけど、そう言わずに」

「いえ、そうじゃないんです。

私は、私が梨璃に贈るための誕生日プレゼントを買いに来ました。……でも、みなさんから貰ったものを持って帰るだけじゃ、私からの誕生日プレゼントだとは言えないと思うんです。だから、私のプレゼントは私が買わないと」

 

そう言うと、梨璃のお母さんは「……そう。そうね」と頷き、頭を下げた。

 

「ありがとう、白井さん……いえ、夢結ちゃん。梨璃のこと、本当に考えてくれてるのね……。私、あの子の母親として、夢結ちゃんみたいなお姉ちゃんができてすごく嬉しいわ!」

「そ、そんな……」

 

手を握ってくる梨璃のお母さんに少し戸惑ってしまうものの、私はその握手を受け入れた。

梨璃のお母さんの手は、暖かい。まるで梨璃の手みたいだ。やはり親子だからだろうか、と少し考えてしまう。

 

「……プレゼントなら、近くに駄菓子屋がある。そこでラムネを買って行ってやってくれないか」

 

お母さんとの握手を止めるタイミングを失ってオロオロしていると、今度は梨璃のお父さんから声がかかる。

これだけラムネをいただいたのに、この上まだラムネが必要なのだろうか?そう思って首を傾げると、梨璃のお父さんは少し苦笑した。

 

「百合ヶ丘にはラムネが無いんだろう?なら、きっと梨璃は寂しがっている。何本あっても困ることはないはずだ」

「そういうものですか……?」

「ああ、そういうものだ」

 

「あの子は……本当にラムネが好きだからな」。そう言う彼の顔はとても穏やかで。

これが「家族」なんだと、久しぶりに私は実感した気がした。

 

 

 

 

 

 

 

そういうわけで、私は梨璃のお父さんに駅まで送って行ってもらう途中、梨璃の行きつけだったという駄菓子屋に寄ってもらい、ラムネを購入した。

梨璃のお母さんが店主さんに梨璃にプレゼントすることを伝えると、「おお、梨璃の嬢ちゃんにけぇ!」と笑顔で頷いて、5本ほどのラムネの束を綺麗にリボンでラッピングしてくれた。「あんたらリリィのおかげでワシらも商売できとるけぇ」と、お金はいらないと言ってくださったが、事情を説明して払わせてもらった。厚意を無碍にしたようで申し訳なかったが、店主さんは笑って納得してくださり、「梨璃の嬢ちゃんをよろしく頼む」と言われてしまった。

 

 

こうして、2つのクーラーボックスとラムネの束という大きなプレゼントを抱えた私は、山の中腹にある仮設の甲府駅まで帰ってきた。ここまで私を送ってくれた梨璃のお父さんやお母さん、弟さん達は、電車に乗り込む私を最後まで見送ってくれた。

 

「もう行っちゃうの?お姉さん……」

「梨璃に、『ラムネを飲みに、友達を連れてたまには帰ってこい』と伝えておいてくれ欲しい。……梨璃を、よろしく頼む」

「夢結ちゃん。ほんと、梨璃をよろしくね」

「は、い……」

 

弟さんの寂しそうな顔、お父さんの真剣な眼差し、そしてどこか梨璃によく似た、梨璃のお母さんの橙色の瞳。それらに見つめられて、私は目を逸らしてしまった。

みんな一様に、不安そうというか、どこか必死というか。本当に梨璃のことが心配で仕方なくて、でも、私に頼ることしかできない。そんな無念のようなものを感じた。

 

(私が、梨璃を守らなきゃ……)

 

前からずっとそう思っていた。どこか私と似ていて、でも私とは正反対な梨璃。大好きで、大切な梨璃。あの子を守るためなら、私は何だってすると。

でも、梨璃の家族を見てしまって、「家族」という特別な絆を感じてしまって。きっとこの人たちは、いつ死ぬかもわからない戦場に向かった娘を守ってくれるかもしれない私を見て、期待と希望を抱いてしまった。

なら、私はそれに応えなければならない。この人たちのためにも、私は梨璃を「絶対に」守り抜かなければならないのだ。

例え、この命を     

 

そんなことを考えていた私は、目を前に向けて、やっと梨璃のお母さんの顔が私の目の前に来ていたことに気付いた。

 

「夢結ちゃん、貴女もよ。梨璃の姉ってことは、貴女は私たちの娘も同然なんだから」

 

そう言って、彼女は私をぎゅっと抱きしめた。

流瑠お姉様や梨璃の抱きしめ方ともまた違う。何というか、全身を包み込んで温めてくれるかのような、そんな抱きしめ方。

 

「夢結ちゃんも、死んだりなんかしちゃダメよ。私達には、リリィのみんなの事情とか苦労とかはわからないけれど……でも、夢結ちゃんには死んでほしくない。だから、生きてまたここに帰ってきてね。今度は盛大に歓迎するから」

 

ホロリと、私の頬を涙が伝うのを感じた。

嬉しかった。私は生きていてもいいのだと、そう言ってもらえている気がして。流瑠お姉様にそう言われた時とは、また何かが違う。「リリィじゃない人に、私は応援してもらっているんだ」という自覚。「家族として、梨璃の姉として認めてもらっているんだ」という感覚。

胸があったかくなって、いっぱいになって。私達の因縁の場所……美鈴お姉様という「姉」を失ったこの甲州で、私は新たに「家族」を得られたような気がした。

 

「ありがとう、ございます……!私は絶対死んだりしません、梨璃も死なせたりしません!今度は梨璃と一緒に、またここに来ます!」

 

私が抱きしめ返すと、梨璃のお母さんも頷いて、背中を撫でてくれる。

言葉は、いらなかった。私も、梨璃のお母さんも、家族のみなさんも。言いたいことはお互いによく伝わった。

「梨璃を守り抜く」。その誓いは、梨璃の家族との出会いで「梨璃を守り、私も生きる」という新たな力を得た。

 

私と梨璃の家族の間に流れた優しい時間は、ガタンゴトンという電車の足音で終わりを告げた。

お世話になったお礼を言って電車に乗り込む私を、梨璃の家族はずっと手を振って見送ってくれていた。

大きな二つのクーラーボックス。そして、新しい家族。

ラムネ1本買いに来た私は、予想していたよりもあまりにも多くのものを抱えて、百合ヶ丘に続く道を帰っていったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、これも美味しかったゾ!梨璃も食べてみるか?はい、あーん♡」

「ま、梅様……もうお腹いっぱいでふ……」

「梨璃!こっちのシチューも食べて!自信作だから!」

「お姉ちゃ……うぷっ。も、もう入らないですよぅ」

「梨璃さ〜ん♡お口直しにわたくしを召し上がりませんこと?♡」

「楓さんはちょっと黙ってて」

「はい」

 

「……なにこれ」

 

私が乗り込んだ電車は、予定通り17時前後に百合ヶ丘に到着。重たいクーラーボックスを   食べ物の方はパーティ会場に持っていくのはどうかと思ったから、部屋に置いておいたが   抱えたまま、急いで梨璃の誕生日パーティが行われているという会場に駆け込んだ私の目に入ったのは……

梅、流瑠お姉様、楓さんに囲まれて、口の中に食べ物を突っ込まれている梨璃の姿だった。周りのレギオンメンバー……神琳さん、雨嘉さん、二水さん。それから鶴紗さんと瑠璃さんは、それを楽しそうに眺めるばかりで止めようともしていない。

 

「……なにこれ」

「あ、夢結様!ごきげんよう!どこに行ってたんですか?梨璃さんの誕生日なのに……」

 

もう一度戸惑いを口に出すと、梨璃達の様子を楽しげに眺めていた二水さんが私を見つけ、声をかけてきた。

 

「ごきげんよう。ええ、ちょっと梨璃の誕生日プレゼントを買いに……」

「ちょっとって距離じゃなかったでしょー?もう、夢結ったら何の相談もなく行くんだから」

 

私の言葉を耳聡く聞きつけ、お姉様がこっちに近づいてきた。

「ごめんなさい……」と反射的に謝罪の言葉が出た私を、お姉様はギュッと抱きしめる。

 

「おかえり、夢結。……甲州で、何か得るものは……あったみたいだね。よかった」

 

その言葉に、私は目を見開き、苦笑する。どうやらこの人には、何でもお見通しらしい。

 

「……はい。新しい絆と、沢山の贈り物。そして新たな決意を貰いました」

「そっか。なら行かせた甲斐があるねー」

 

久しぶりに感じる、お姉様の感触。それを、お姉様の胸に顔をぐりぐりと擦り寄せることでしっかりと楽しんでから、私は梨璃達の方に目を向けた。

 

「……それで?貴女達は何をしているの?」

 

椅子に座った梅は梨璃を膝の上に乗せ、わしゃわしゃと撫でたり頬擦りしたり、料理を食べさせたりして梨璃に構っている。見たこともないような笑顔だ。されている方の梨璃は、困惑に近い苦笑を浮かべていて、梨璃から望んだ訳ではなさそうなのは明白だった。

知らず、ジト目になってしまう。私がいない間に梨璃に何をしていたのか、問いたださねばならない。

そんな私の内面など露知らず、梅は梨璃を後ろから抱きしめたまま、私の方に顔を向けた。

 

「シルトっていいナ、夢結!梨璃みたいな可愛いシルトなら梅も大歓迎だ!」

「は?何を言っているのかしら、梅。梨璃は私のシルトなのだけれど」

「そのシルトの誕生日パーティに遅れたシュッツエンゲルがいるみたいだけどナ〜?」

「ぐぬっ……!」

 

売り言葉に買い言葉。言い返せなくなってしまった私に見せつけるかのように、梅は梨璃を抱きしめる。

 

「梨璃、パーティに遅れてくるお姉様達よりも梅の妹にならないカ?呼んだらいつでも縮地で来てやるゾ♡」

「ぐぬぬぬ……!」

「そ、そうだよね……私なんて梨璃のパーティに遅れちゃうダメなお姉ちゃんだし……」

「し、仕方ありませんわよお姉様。大切なお仕事だったのでしょう?」

 

梅の言葉は私だけでなくお姉様にまで飛び火してしまう。ズーンと項垂れたお姉様のフォローを楓さんに任せて、私は首を捻った。

仕事でパーティに来れない、と聞いてはいたが、確かにお姉様が仕事を優先するのは意外だった。大切な行事があるときは、かなり前に仕事を終わらせてから参加するタイプの人だ。それほど緊急の要件だったということだろうか。

 

「ま、梅様……私は気にしてませんし、お姉様達をそれ以上悪く言うのは……」

「そうですよ梅さん。それに、夢結さんがプレゼントを買いに甲州まで行ったのはともかく、流瑠様に緊急で仕事を依頼することになってしまったのは私たちです」

「……史房様?」

 

私たちの会話に入ってきたのは、生徒会長三役の一つ・ブリュンヒルデを務める出江史房だった。

史房様から依頼?つまり、生徒会……ひいては「百合ヶ丘女学院」自体からの依頼だった、ということだろうか。それならお姉様が断れないのも頷ける。

 

「ありがとうございました、流瑠様。これでかなり周辺状況もスッキリすると思います」

「そう?それならよかったよ。これからはもっと早く仕事の依頼を……って、史房ちゃんたちに言っても仕方ないしね」

 

二人が話している内容はよく分からなかったが、ともかく、どうしても外せない仕事であった事はよくわかった。

ならば、次に視線が刺さるのが私になる事は、ある意味必然だったと言えるだろう。

 

「夢結は?どうなんだ?」

「私は……これよ」

 

私は、持っていたクーラーボックスを地面に置く。中のラムネはガラス瓶に入っているから、割れないように、なるべくゆっくり。「このクーラーボックス、見たことあるような……」という梨璃の声を聞きながら、その中からリボンでラッピングされた5本のラムネの束と、事前に持ってきていたお菓子のラムネが入った袋を取り出した。

 

「パーティに遅れてごめんなさい。それと……お誕生日おめでとう、梨璃」

「わ……!ありがとうございます、お姉様!これ、校門前の自販機のやつですか!?」

「え"?」

 

その言葉に、私の頭は真っ白になった。

校門前の自販機?なんだそれは。そんなものは聞いていない。

私が困惑の渦の中にいると、コソッと流瑠お姉様がこちらに近づいてきて、耳打ちした。

 

「実はね、校門の前に蔦に隠れた自販機があって……そこに、瓶入りのラムネがあるんだ」

 

それを聞いて、私はくらりと倒れそうになる。つまり、私は甲府まで行かなくてもラムネを手に入れることができたと?あの暑い中、何時間も歩いた私の努力は    

 

「……あ」

 

そう考えかけたが、すぐに思い直した。そうだ、私はあの因縁の地で、新しいものを沢山手に入れた。新しい家族。誓い。きっとお姉様は、自動販売機のことを知っていて私を甲州に行かせたのだ。そこで、何か得るものがあると信じて。

そして、恐らくはお姉様の思惑通り、私は色々なものを手に入れた。お姉様が私が帰ってきて一番に「何か得るものがあったか」と聞いたのは、そういう意味だったのだ。

 

「……本当に、お姉様には敵わないわね」

 

だから、私は自分の努力が無駄だったなんて口が裂けても言わない。

梨璃のパーティに最初から参加できなかったのは残念だけれど、きっと私が持って帰ったものは、私や梨璃にとって大きな意味を持つ。だからこれでいい。甲州までプレゼントを買いに行った事は、恥ずかしいことなわけでも、失敗でもないのだ。ならば、全部話してしまおう。

私は梨璃を抱きしめる。私より一回り小さくて暖かい梨璃の身体は、私の腕の中にすっぽりと収まった。「お姉様……」と梨璃が嬉しそうに抱き返してくるのを感じながら、私は梨璃に話し始めた。

 

「梨璃。改めて、お誕生日おめでとう。私、あなたの故郷まで行ってきたの」

「故郷……甲州までですか!?」

「ええ。そこで、貴女の家族と会ってね     

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様!わざわざ私のために甲州まで……!ありがとうございます!」

「いやぁ、やっぱ本物のシュッツエンゲルには勝てないかー」

「当たり前でしょう、梅。私はこの子の姉なんだから」

 

甲州に行ってきた話を終えると、梨璃は心底嬉しそうに私に抱きついてくれた。梅はようやっと梨璃のことを諦めたのか、梨璃から離れる……と思ったらスッと近づいて「夢結のことが嫌になったらいつでも梅のとこに来ていいからナ」と言うのが聞こえたからひと睨みすると、やっと渋々下がってくれた。

 

その後は、梨璃のご家族にいただいてきたラムネを、「いつでも買えるから」と言う梨璃に許可をもらってレギオンメンバー(いつの間にか鶴紗さんと瑠璃さんが入っていて、梅も入ると宣言していた)とお姉様で一緒に飲んだり、まだ残っていたパーティ用のディナーを、お姉様が仕事に行く前に大半を作っていたと知って驚きながら舌鼓を打ったりして、まったりとパーティを楽しんだ。

梨璃へのプレゼントは他のレギオンの面々からも次々に渡されていって、梨璃がどれだけこの学院から注目される存在であったのかを改めて認識した気がする。

 

レギオンメンバーからもプレゼントを貰って、梨璃は喜んだり驚いたりと忙しそうだった。

特に、楓さんが例の如く発注していた巨大ケーキ(もちろんウェディングケーキ仕様)と、瑠璃さんが「はい!梨璃お姉ちゃんが欲しがってたやつ!」と言って手渡した、表がピンク、裏が青で、両面に文字が書かれている枕……即ち「YES/NO枕」には、全員が度肝を抜かれていた。そんなもの、どこに売っていたのだろうか。梨璃本人も少し引きながらも「あ、ありがとう……」と受け取り、顔を赤くしながらチラッと私やお姉様、楓さんの方を見ていたが……いや、それをどうするつもりなのだろうか。あと、瑠璃さんはYES/NO枕の影に隠すように何かを梨璃にコソッと渡していたのが見えた。なんだったのだろう。

 

流瑠お姉様からは、四葉のクローバーの形を模したペンダントが贈られた。金色で縁取られたクローバーの4つの葉に相当する部分には赤・青・緑・白の宝石が埋め込めれていて、とても美しい。どうやらそれぞれ、ルビー・サファイア・エメラルド・ダイヤモンドでできているようだ。

お姉様曰く、それぞれの宝石は楓さん、私、梨璃、お姉様をモチーフにしているようで、「私たちは4人揃って幸福のクローバーになる。誰か一人でも欠けたら幸福は無くなる」という意味を込めているらしい。重い。

それをお姉様から直接首から掛けられた梨璃は、嬉しそうにクローバー型のペンダントトップを手で弄ぶ。

 

「楓さん、お姉様、お姉ちゃん、私……。ありがとう、お姉ちゃん。大切にするね」

 

言いながら、愛おしそうに宝石を撫でるその姿は、2年前に私が美鈴お姉様からロケットペンダントを貰った時とよく似ている気がして。

ああ、やっぱりこの娘は、私とどこが似ているんだ。そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     というわけで。これで一柳梨璃さんの誕生日パーティは閉会とします。最後になりますが改めて、梨璃さん、お誕生日おめでとうございます。貴女と貴女のレギオン……一柳隊、正式名称『ラーズグリーズ』のこれからの活躍を期待しています」

 

テーブルに並べられていた大量の料理も、今やすっかり燃費の悪いリリィ達の腹の中に収まり、このパーティを主催していたらしい史房様の挨拶で梨璃の誕生日パーティは幕を下ろした。

各々のレギオンが解散する中、一柳隊も現地で解散する。

「わたくしたちも戻りましょうか」と楓さんを筆頭に部屋へ帰ろうとする私たちを、「ちょっと待って」と引き止めたのは、流瑠お姉様だった。

 

「お姉様?どうかなさいまして?」

「あのね、今日、生徒会のみんなから許可を取れたからさ……みんなで、私の部屋に泊まりに来ない?」

 

みんなで、というのは、お姉様が話しかけている「みんな」だろうから、私、梨璃、そして楓さんのことだろう。しかし、4人で1部屋に泊まるというのは聞いたことがないし、学院のルール上大丈夫なのか疑問ではある。

 

「4人でってことですよね?大丈夫なんですか?」

 

私の代わりに疑問を尋ねてくれた梨璃に、流瑠お姉様は大きく頷いた。

 

「うん。私に仕事を任せちゃったお詫びだって言ってたよ。パーティの準備を史房ちゃんたちも手伝ってくれたんだから気にしないで……って言おうと思ったけど、こんな機会もあんまりなさそうだから、ありがたく受け取っといたんだ」

 

なるほど、と私たちは納得する。史房様達は、どうやら流瑠お姉様がかなり怖いらしい。今の3年生……すなわちデュエル年代は、かなり1対1で扱かれてきたという話だから、その影響もあるのだろう。

ともかく、違反にならないのなら好都合だ。楓さんも梨璃も特に異存はなく、満場一致で、私たちはお姉様の部屋にお泊まりすることになったのであった。

 

「お姉ちゃんのお部屋で、みんなでお泊まり……!楽しそうです!」

「お姉様や梨璃さんと一緒に寝られるなんて……やりたい放題じゃありませんか!最高ですわ!」

「何をするつもりなのよ……」

 

梨璃はともかく、楓さんの調子はいつもと全く同じで呆れてしまう。しかし、口ではこう言いながらも、私もお姉さまや梨璃と一緒にお泊まりというのは、柄にもなく心が弾んでしまう。

 

「じゃあ、着替えとパジャマ、それからタオルとか必要なものを全部持って、私の部屋に集合してね。あ、お風呂は入ってこなくていいよー」

 

お姉様のその言葉で、各人は意気揚々と自分の部屋に荷物を取りに帰った。私も、心が浮かれて自分の部屋へ向かう足は早足になってしまう。

そうやって、心が浮かれていたからだろうか。私は、梨璃を呼び止める声に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「梨璃さん。少しいいかしら?」

「あれ?えっと……史房様?どうかされたんですか?」

「ええ。貴女に、私からの誕生日プレゼントがあるの」

「し、史房様からですか?」

「というか、百合ヶ丘からね。貴女が適任だと判断した、というだけで誕生日プレゼントというのは語弊が無いこともないのだけれど……コホン。

 

私からの誕生日プレゼント。それは     流瑠様よ」

「……へ?」

「流瑠様を、貴女のレギオンに入れて欲しいの」

 

 




・夢結様
安定のポンコツ。かわいいね。

・梨璃ちゃん
前回のが決定打で梅様までたらし込んだ。楓さんにはちょい辛辣に見えるが、みんなの前だから。

・流瑠様
相変わらずプレゼントが重い。今回は手作りじゃないよ。





はい。遅くなりました。ほんとごめんなさい。最近マジで忙しいんですほんと。
ところでみなさん、GWは楽しく過ごせましたか?私はお仕事してました。お休みは1日だけでした。ええ。

次回は4人のお風呂シーン(?)とベッドシーン(語弊)、あとデートとかまでいけるかな?
遅くなっても書くことはやめないので、どうか気長にお待ちください!

いつもお気に入り、UA、評価、感想などありがとうございます!精進していきます!!
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