アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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はい。遅くなりました。はい。マジでごめんなさい。

頑張って続けていくんで。はい。ええ。

ホントダヨ?


ムラサキクンシ その7

ムラサキクンシ その7

 

 

「むにゃ……おはようございま、す……?」

「はぁ、はぁ……♡あ、おはよー梨璃!そこにおにぎり作ってあるから食べていいよー……あっ、ちょっ♡かえでぇ

♡今梨璃が起きたばっかり、だからぁ……んむっ♡み、見られてるよぉ♡」

「……おはよう、梨璃。あっちは気にしないで、取り敢えず朝食をいただきましょう」

 

起きた私を迎えたのは、艶やかに髪を乱し、朝から汗をかいている服のはだけたお姉ちゃんと、それを組み伏せている楓さん、そして呆れ気味な表情のお姉様だった。

 

 

リリィとしての習慣で朝7時くらいに起きた(それでもみんなの中では一番最後だったけれど)私は、お姉ちゃんお手製のおにぎりをありがたくいただいた。もちろん美味しかったのだが、隣でベッドの軋む音が鳴るのを聞きながらのご飯は気が気ではなかった。私の向かい側で紅茶を飲んでいた夢結お姉様も同じ気持ちだっただろう。……お姉様のその視線に、どこか羨ましそうなものが混じっていたのも事実だが。

食べおわって、我慢できずに朝からおっぱじめていたお姉ちゃんと楓さんを見て、昨日の行為を思い出してなんだか恥ずかしくなっていたところを、「……梨璃も、する?」というお姉ちゃんの誘惑に抗えず、お姉様もろともベッドに引き摺り込まれ……結局、なし崩し的に2回戦に巻き込まれた。

 

 

で、結局今はもう11時を回ろうかという時間だ。せっかくお姉ちゃんが外出届を出してくれているので、今から街に繰り出すという案もあったけど……昨晩と今朝のなんやかんやで、思ったよりもずっと体力を奪われてしまったので、申し訳ないけれど何故か体力の有り余っているらしいお姉ちゃんにお昼ご飯の準備を任せていた。必然的に、私は楓さんとお姉様と私が一緒にいることになった。どうやら二人も相当に体力を消耗したらしい。

 

「ふぅ、へとへとですわ〜。やりすぎてしまいました」

「本当よ。朝からあんな……」

「愛に時間なんて関係ありませんわよ。ね、梨璃さん?」

「でも、梨璃もやりすぎだと思わないかしら?」

「あ、あはは……」

 

結果、私は二人に挟まれることになった。両腕を抱きしめられ、胸元まで持ってこられると、腕にふにふにした感触が伝わって、どうしても昨日と今朝の行為のことを思い出してしまう。

初めてだった。知識としてだけはそういう行為を知ってはいたが、誰かとするのは初めて。

まあその、嫌ではなかったけど、毎日するようなことでもないな、と思った。色んな意味で、かなり疲れるから。

とはいえ、初めてを大好きな3人とできたのは凄く嬉しかったり。心も身体も愛で満たされるという感覚。自分が求められているんだという物理的な実感。あれは、クセになってしまいそうだ。

 

運動した後のような心地よい気怠さに身を任せると、私の身体はぽすんと楓さんに預けられた。

 

「り、梨璃さん?大丈夫ですの?」

「えへへ……ちょっと疲れちゃいました。……少しだけ、このままでもいいですか?」

「……ええ。もちろんですわ、梨璃さん」

 

楓さんの肩に頭を預けてみる。楓さんにとっては突然のことだったはずだけど、そのまま受け入れてくれた。

目を閉じて、楓さんの温もりを感じる。「この人なら任せられる」、「この人になら自分を預けても大丈夫」。そんな風に思える、凄く安心する暖かさだ。

セクハラがなんだ。えっちな視線がなんだ。楓さんは、本気で私のことを想ってくれてる。私も楓さんを愛してて、楓さんも私を愛してくれる。セクハラも、えっちな視線も、愛しい人から向けられるならそれは幸せの一部分に過ぎない。だから、私は楓さんに全てを預けられるのだ。

そのまま目を閉じていると、私の頭を撫でる手の感触があった。多分、これは楓さんだろう。壊れ物を扱うかのように繊細で、だけど愛情をいっぱいに込めてくれるあったかい掌。思わず、甘えるように頭を胸元に擦り付けてしまう。

 

「えへへ。楓さん、大好き……」

「り、りりしゃん、か、かっわ……」

 

どうやら心の声も漏れてしまっていたみたいだが、もう今更だ。昨日あんなに愛しあったのだから、愛の言葉の一つ二つで今更恥ずかしがることもない。……と自分に言い聞かせても、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいのだが。

とはいえ、恥ずかしいからといって離れるのもなんだか名残惜しい。ならばと、恥ずかしさを隠すためにさらに楓さんに抱きつくことにした。

楓さんの胸に顔を埋める。……安心する柔らかさだ。

 

「しょ、しょんな……りりしゃんからわたくしに抱きついてくだしゃるなんて……」

 

案の定というか、楓さんはボトボトと鼻血を落としていた。苦笑いが出てしまうけど、やっぱり楓さんの温もりが気持ちいいし安心するので、そのまま抱きついていることにする。朝からあんなことをしてはいても、楓さんはちゃんと整容を済ませていたようで、ふわりといつもの香水の匂いが鼻を包んだ。私の好きな楓さんの匂いだ。

 

「大好きですよ、楓さん……」

「梨璃さん……わ、わたくしも、……大好き、ですわ」

「えへへ。おそろい、ですね♪」

「っ……(ああああああ可愛すぎますわ!!!!!!!わたくし幸せすぎて死んでしまうんじゃありませんの!?!?)」

 

普段はあんなにセクハラしてくるくせに、楓さんは私から大好きって言われると顔を真っ赤にして目をぐるぐる回してる。かわいい。

 

しばらく抱きついていると、服の裾がクイクイと引かれる感触があった。

 

「ねえ、梨璃。私も……」

 

見ると、お姉様がこちらに懇願するような表情を向けていた。言いたいことをなんとなく察する。「自分にも甘えて欲しい」といったところだろうか。

 

ここ最近わかったのだが、お姉様はかなり寂しがり屋だ。それが私たちの前だからなのかはわからないが、特に私やお姉ちゃんにはその傾向が強い気がする。

現に、こうして楓さんやお姉ちゃんにばかり甘えていると、お姉様は捨てられそうな子犬のような目で私に訴えかけてくる。

……その表情が、何故か私にはとても可愛く見えてしまうのだ。

 

「ふふっ、わかりました。じゃあお姉様の肩に失礼しますね」

 

そう前置きして、「あっ……」と残念そうな楓さんの声に申し訳なく思いながらお姉様の方に寄りかかると、お姉様は安心したようで、私の頭を優しく撫でてくれた。

お姉様の撫で方は、優しい。優しすぎる。まるで、自分が触れたら壊れてしまうんじゃないかと恐れているような……いや、実際にそう思っているのだろう。

そんな撫で方も大切にされてるんだってわかるから好きではあるけど、でも――

 

「もっと……強く撫でて欲しいです、お姉様」

「梨璃……」

 

お姉様は、もっと愛情表現を表に出してもいいと思う。お姉様が口下手で、不器用なことは知っている。でも、もっとがむしゃらに、もっと目一杯愛して欲しいと思うこともあるのだ。

お姉様の手は私の訴えを聞いて、ほんの少しだけ撫でる力を強めた。だけど、まだ足りない。

 

「もっとです、お姉様」

「こ、こうかしら?」

 

またほんのちょっと強くなる。

 

「もっと強くです」

「う、うぅ……」

 

次は結構強くなった。もしかしたら、大分開き直ってきたのかもしれない。

なら、あと一押しだ。

 

「お姉様……私、お姉様の愛の全部が欲しいんです。全部全部……私に、くださいませんか?」

「っ、梨璃……!」

 

お姉様はついに、私を掻き抱いてくれた。身体全体を使って、私をぎゅ〜っと強く、痛いほど抱きしめてくれる。でも、その痛さが心地良い。痛みと温もりを通じて、お姉様の愛がダイレクトに私に伝わってくる。

 

「愛してるわ、梨璃……」

「私もです、お姉様……」

 

抱きしめられているから、自然とお互いの顔が近くなる。

だから……私を見つめるお姉様の瞳が熱を帯びていると分かるのも、自然なことなのだ。そんな瞳を見ていると……私もお姉様が欲しくなってきてしまう。

 

「梨璃……」

「お姉様……」

 

そして、お姉様のアメジストの瞳に引き寄せられるように、私たちの顔はだんだんと近づいて――

 

「ストップストップですわ!お二人とも、その流れだとまたおっぱじめることになりましてよ!?」

 

と、あと寸前のところで楓さんに割って入られた。

 

「はっ!?そ、そうね。危なかったわ……これ以上は1日を完全に潰してしまいそうだもの」

「全く、夢結様も人のこと言えませんわよ?」

 

たしかに、今の流れだとどこかのタイミングで楓さんとお姉ちゃんが乱入してきてそのまま丸一日コースだっただろう。不完全燃焼ではあるけど、楓さんが止めてくれてよかった。

 

「コホン。では気を取り直して……」

 

混沌としそうになった場は、楓さんの咳払いでようやく前に進む様相が見えてきた。

 

「今日はどうするんですの?ちゃちゃっと決めておかないと、いつまたさっきみたいな流れで1日をおじゃんにするかわかりませんわよ?」

「そうね。……今日は梨璃の誕生日の続きなのだし、梨璃は何かしたいことはないの?」

「そうですね……」

 

うーん、と少し考えると、色々と思いつくことはある。外に出るのもいいし、身体を動かすのも良い。あと、せっかく凄いリリィに囲まれてるんだから、リリィについて教えてもらったりとか、そういうのもある。

でも   

 

「じゃあ……今日はこのまま、ゆっくりしていたいなー、なんて……」

 

私の決断は、動かないことだった。

もちろん、私が昨晩や今朝のアレで疲れているというのもある。でも理由はそれだけじゃない。

今まで、私たちは4人で一緒にいると誓い合いながら、ゆっくりと過ごす機会なんて全くなかった。私たちはリリィで、戦う使命があって。それは確かにそうなんだけど、だからって愛しい人と一緒に過ごせないのはつらい。

それに、お姉ちゃんはめったに休む暇なく働いてたって聞いている。私の誕生日っていう免罪符がないと、またお姉ちゃんは仕事人間に戻ってしまうだろうと言う確信があった。

だから、今日はせめてお姉ちゃんに休んでもらいたい。今日だけは、私たち4人だけの優しい世界にいたい。

 

「そうですわね」

「ええ。梨璃の希望通りにしましょう」

 

そんな思いが伝わったのかどうかはわからなかったが、お姉様も楓さんも、私の提案に快く頷いてくれた。

 

「何の話ー?お昼ご飯できたよ」

 

と、そんなタイミングで、お姉ちゃんから声がかかった。

そうだった。お姉ちゃんはお昼ご飯を作ってくれたんだった。休んでもらおう、なんて思っていながら、結局お姉ちゃんはなんやかんやと世話を焼いてくれる。それを無駄にしたいわけではないけど、少しは休んで欲しいものだ。

 

そんなことを言う暇もないまま、「ほらほら、いこー!」というお姉ちゃんの声と、良い匂いに呼応するかのように鳴った腹の虫にせかされて席に着くと、そこには綺麗な黄色の塊が皿の上に鎮座していた。楕円形というには横に広いそれに、私は見覚えがあった。横にはスープも付いている。この香りはコンソメだろうか。さらには、テーブルの上にはケチャップや、スパイシーな香りのするトマトのソースだろうか?それに、デミグラスのようなソースまで用意されている。これはつまり……

 

「お姉ちゃん、これ……」

「うん。オムライスだよ!」

 

オムライス。ケチャップライスを薄い卵で包んだご飯料理。昔から定番の家庭食で、私もよくお母さんに作ってもらっていた。

テーブルに置いてあるケチャップやソースは、つまり「自分でオムライスにかけていいよ」ということなのだろう。

しかし、お姉ちゃんの作ったオムライスはいっそ芸術的なほどに見た目がいい。しっかりと混ざった卵は焼きムラや混ざりムラが一切なく、まるで黄色い布に包まれているようだ。卵のいい匂いにお腹が鳴るが、見た目が良すぎて食べるのがもったいなくなってしまう。

 

「まあ、オムライスですの?美味しそうですわ!」

「お姉様のオムライス……食べるのは久しぶりね」

 

釣られて楓さんとお姉様も席に着く。お姉ちゃんは「ほんとはもっと色々作ってあげたかったんだけど……」と残念そうだが、運動?した後とはいえそんなに食べられそうにないので、私にとってはこれくらいが丁度いい。

みんなで「いただきます」と手を合わせてから食べ始める。お姉様の誕生日の時に食べたからお姉ちゃんの料理の腕は知っているが、天下一品だ。お姉ちゃんの料理はなんでも美味しい。今回も期待していいだろう、とオムライスにスプーンを入れてみる(見た目を崩してしまうのはもったいなかったけど)。

少し厚めの卵の中から現れたのは、綺麗な紅色のケチャップライスだ。どうやら小さく切った鶏肉も入っているようだから、チキンライスなのだろう。それを、卵の生地と一緒に口に運ぶ。ケチャップライスの甘さが私の舌を刺激して……と、思っていたのだが──

 

「これ……とっても優しい味ですわね」

 

どうやら、同じタイミングで食べた楓さんも同じことを思ったらしい。

このオムライスの味はすごく優しい。私の語彙力に当て嵌めてしまえば、薄めなのだ。でも、嫌な薄さじゃない。ケチャップの味も、鶏肉の味も、野菜の味もしっかりと染みた上で、ケチャップライスにありがちなクドい味の強さがない、と言えばいいだろうか。

現に、「優しい味」だと評した楓さんのスプーンは止まる気配がない。私もそうだ。まるでお姉ちゃんの優しさを味覚にしたような味に、口が休まらない。

「薄かったらケチャップもあるよ?」とお姉ちゃんは言うが、それが余計ですらあると思えるほど、そのオムライスの味は完成されていた。

 

「どんな魔法を使ったんですの?味を薄めればクドさも薄まりますが、その分ケチャップライスはこんなに綺麗な紅色にはならないはずですわ。それに、この優しい味は……」

 

楓さんの言う通りだ。ここまでクドさを薄めるには、ケチャップの量もかなり抑えているはず。なのにこんなに綺麗な紅色なのは、食紅でも使ったのかと思えるほどだ。本当に使っていたらもっと強い色になるはずだから違うとは思うけど。そして、単に薄いだけではない優しい味。

お姉ちゃんはその疑問に、少しだけ自慢げに笑って、「さあ、どうかなー?」とお姉様に目を向けた。

 

「夢結はわかった?前に食べた時、夢結もおんなじように気にしてたけど」

 

そういえば、お姉様はこのオムライスを食べるのが「久しぶり」だと言っていた。うーんうーんと考えている楓さんの横で、お姉様はオムライスを一口口に含み、じっくりと味わってから結論を出した。

 

「……人参、かしら。前に食べたのは2年前だったけど……あの時も、すごく優しい味だった。あれからオムライスを食べるたびに考えていたのだけれど……ええ。人参の味だと思うわ」

 

お姉様が出したその結論に……お姉ちゃんは、目を見開いて喜んだ。

 

「すごいすごい!夢結、よくわかったねぇ!今まで誰にもバレたことなかったのに!」

 

どうやら、お姉様の答えは当たっていたらしい。お姉様の「ドヤっ」とした顔が可愛らしい。人参……さっき食べた時は、特に人参が入っているような感じはしなかった。もう一口食べて人参を探してみるも、人参特有のコリっとした感触はない。

どういうことだろうか、と聞いてみると、お姉ちゃんが言うには、

 

「人参を細かくすりおろしてしっかり水気を切ったのを、チキンライスを作る途中でご飯に混ぜ込むことで、ご飯の色付けをしていた」

 

ということらしい。

なるほど、すりおろしていたなら人参の食感なんてしないはずだ。それに、人参の自然な甘みがチキンライスの味を優しくしてくれている。

「流石お姉様ですわ!」という楓さんの言葉に同意して感心しながら箸を進めていると、夢結お姉様はテーブルの上のトマトソースを手に取ってオムライスにかけ始めた。

そうだ、そういえばソースもあったんだ。と思い出した私は、お姉様に「私もそれ、かけてみていいですか?」と尋ねてみた。しかし、お姉様は少しだけ渋い……というよりは、私を心配するような顔を見せた。

 

「えっと、梨璃は辛いの大丈夫だったかしら?これ、結構辛いのだけど……」

「えっ?」

「あ、そのトマトソースね。夢結用のやつで辛くしてあるんだよー。他の人用のはこっちね」

 

確かに、トマトソースはテーブルに2つ用意されていた。その上、1つは完全にお姉様用のであるかのようにお姉様の席の前に置かれている。なるほど、お姉様は辛いのが好きだからわざわざ分けておいてくれたんだ。

でも、お姉様が食べている辛いトマトソースもすっごく気になる。気になってしまう。だって、それを食べているお姉様はとても幸せそうな顔をしてるんだもん。

 

「お、お姉様!私もやっぱり一口食べてみたいです!」

 

お願いすると、お姉様は心配そうな顔をしながらも、「じゃあ、一口だけね?無理はしないのよ?」と、スプーンに少しだけソースを入れて私に差し出してくれた。

 

「はい、梨璃」

「あ、あーん……」

 

期せずして「あーん」の体勢になったわけだが、いつもとは違う意味でドキドキだ。なんせ今から口の中に入って来るのは、「あーん」なんてして食べるような甘ったるいものじゃないはずなのだから。

 

お姉様のスプーンが私の口の中に入ってくる。途端、私の舌が感じたのは、激烈な辛味……ではなく、トマトの酸味とスパイスの旨味だった。

 

「あ、おいし……」

 

あれ?と首を傾げる。美味しい。とても美味しいソースだ。複数種類を混ぜてあるであろうスパイスは複雑な香りと旨味を醸し出しており、形の残ったトマトピューレの酸味もそれを助長して   

 

「……!?!?」

 

と、無事だったのはここまでだった。

じわじわと、旨味の奥から辛味が出てくる。それは段々と大きくなってきて、私の舌だけでなく、口全体をヒリヒリとした辛味で支配し始める。

 

「か、か、かりゃ……!」

 

辛さの肥大化は止まらない。確かに、今でもトマトとスパイスの旨味は口の中にある。でも辛い。かなり辛い。

アラビアータに近い辛さと旨さ、と言えばいいだろうか。しっかりとトマトを噛んで飲み込んでしまった後の喉の奥から来る辛さに、私は声を言葉にできないまま悶えてしまう。

 

「り、梨璃!お水飲んで!お水!」

 

促されるままに、私は冷水を口に含んだ。ひんやりとした水が私の口内を癒そうとしてくれるが、まだ辛味は治まらない。

「梨璃さん、もう一杯飲んでくださいまし!」と楓さんもお水を注いでくれる。お姉様はその横でオロオロと戸惑っていた。私に食べさせたのを気にしているのだろうか。

 

「ご、ごめんなさい梨璃……。やっぱり止めておくべきだったわ……」

「ごほっ、ごほっ……そ、そんな!私が勝手に食べたいって言っただけなので!それに……辛かったけど、美味しかったです!」

「梨璃……」

 

まだ口はヒリヒリと痛むけど、美味しかったのは事実だ。

お姉様の食べている辛いものはかなり辛い、ということもわかったんだし、いい経験になったと思えば   

 

「ごほっ、ごほっ……ちょっと辛く作りすぎたかな……

 

と、私だけでなく、お姉ちゃんまで咳き込んでいるのが見えた。お姉ちゃんまであの辛いのを食べてしまったんだろうか?

 

「お、お姉様?大丈夫ですの?」

「ごほっ……あ、うん。大丈夫大丈夫。夢結、辛いの好きだからねぇ。結構辛く作っちゃったんだけど夢結は平気なの?」

「ええ、とても美味しいわ。その……ごめんなさい、わざわざ私のためだけに……」

「いいのいいの!美味しく食べてもらうのが私にとっては1番嬉しいんだから!」

 

お姉ちゃんの言葉に、お姉様も「あ、ありがとう……」と言うしかない。お姉ちゃんはみんなの味の好みを全部把握して「一番おいしいと思える味」を出してるみたいだから、これはもう仕方ないことなのだろう。

 

お姉ちゃんの優しさと気遣いに感心しながら、私は優しい味をまた一口口の中で噛み締め、辛さに震えていた舌を慰めるのだった。

 

 

 

 

 

 

「おいしかったですわ〜」

「そうね……。梨璃、舌はもう大丈夫?」

「もう大丈夫です!辛かったけど美味しかったですし!」

「おそまつさまだよ〜」

 

なんやかんやで全部美味しくいただいた私たちは、食後の気だるさに身を任せてぐて〜っとしていた。

何度も言うが、お姉ちゃんの部屋は広い。しかも埃ひとつないくらい綺麗だから、ついついカーペットに腰を下ろしたり寝転んだりしてしまう。

すぐ近くにベッドもあるのだが、なんとなく、今はこうして寝転びたかったのだ。

行儀が悪いのはわかっているが、こうして寝転がっていると、お姉ちゃんの匂いがして落ち着く。

 

「梨璃、疲れてる?お姉ちゃんが膝枕してあげよっか」

 

寝転んでいると、皿洗いを終えたお姉ちゃんが私に声をかけながら近くに座った。「うん」と返事もそこそこに、私は衝動に身を任せてお姉ちゃんのところまでゴロゴロと転がっていって、柔らかな膝……というか太ももに頭を乗せた。

 

「んにゃ……」

 

ふかふかだ。ふかふかすぎて変な声が出てしまうくらいに。

「梨璃、猫みたいだねぇ」と言われてしまうが、今の自分の姿なんて気にならないし省られない。お姉様からは「梨璃、あなたお行儀が……」と、多分ゴロゴロ転がってお姉ちゃんのところまで行ったことに対してのお小言を貰ってしまうが、「ごめんなさぁい」と私の口から出る言葉には反省の色など全く無かった。

ごめんなさい、お姉様。今はお姉ちゃんの太ももを堪能するので精一杯なんです。

お姉ちゃんは更に、ふとももに乗った私の頭をよしよしと撫でてくれる。「可愛いねぇ、梨璃」という声と共に私を癒してくれるお姉ちゃんの手はとってもあったかくて、お姉ちゃんの安心する匂いも相まって、お姉ちゃんという心地よい沼に沈んでしまいそうになる。

 

「ぐぬぬ……梨璃さん、羨ましいですわ……。で、でもなんでしょう、何故かお二人がイチャついているのを見ると、こう、湧き上がるものがありますわ……!」

「ええ……なんでしょうね、この感じ……」

 

しかし、今日はお姉ちゃんにも休んでもらいたいと思っていたのに、結局お姉ちゃんに可愛がられてお世話されてしまっている。世話を焼いてくれるのは嬉しいし心地良いが、なんだか申し訳なくなってしまう私がいるのも事実だ。

「ええい、我慢できませんわ!梨璃さん、お隣失礼します!」と、私の隣に寝転がって同じようにふとももに頭を乗せる楓さんに、お姉ちゃんと一緒に苦笑しながら場所を開けつつ、私はお姉ちゃんに尋ねてみることにした。

 

「あの、お姉ちゃん。こうして色々やってくれるのはいいんだけど、その……私も、何かお姉ちゃんのためにできること、ある?」

 

隣で「ふかふかですわぁ……」と涎でも垂らしそうな顔で膝枕を堪能する楓さんの頭を撫でながら訊くと、同じく楓さんの頭を撫でながら、お姉ちゃんは「んー」と片手を顎に当てた。

 

「気持ちは嬉しいけど……私はみんなと一緒にいられるだけで幸せだよ?それに、みんなにはいっぱいいっぱい貰ってるのに、お世話も焼かせてくれなかったら私泣いちゃうよ〜」

 

「昨日だって梨璃にハンバーガーご馳走してもらったしね」と笑うお姉ちゃんは、本当に幸せそうだ。そんなお姉ちゃんを見て、私はお姉ちゃんの腿に顔を埋めた。

どうやら、お姉ちゃんの幸せの邪魔はしないほうが良いのかもしれない。もちろん、私たちと一緒にいることがお姉ちゃんの幸せになってくれていることは、すごく嬉しい。でも、やっぱり私は……

 

未だに「うへへぇ……うへへへぇ」と大丈夫なのか心配になりそうな笑い声を漏らしながら、私の隣でお姉ちゃんのふとももを摩ったりなんだりしている楓さんと、そんな楓さんを見て「ぐぬぬ……」と唸っているお姉様。今はこんな感じだけど、きっと二人も同じように、お姉ちゃんに何かしてあげたいと思っているはず。

二人にも相談して……と思っていた時。

 

「……ありがとね、梨璃。でもほら、今日は梨璃の誕生日の埋め合わせだから。ね?もうちょっと甘やかさせて?」

「あ……」

 

久しぶりに聴いた、お姉ちゃんの思考をドロドロに溶かすような声。それが頭に充満していく。

 

抵抗する力を奪われていく。

思考を塗りつぶされていく。

暖かい沼に沈んでいく。

 

「……ちがう」

「え?」

 

それを───私は、寸前で振り払った。

 

「そうやって「私の誕生日だから」って言うけど、お姉ちゃん、そうじゃなくても甘やかしてくれるでしょ?」

 

お姉ちゃんの頬に手を添えると、お姉ちゃんの顔はピクリと動いた。図星だったらしい。

 

「……仕方ないから、今日は大人しく甘やかされておきます。でも、今度は私たちから、お姉ちゃんに何かさせてほしいな」

 

と、そこまで抵抗したのはいいが、さっきのお姉ちゃんの声で、私の頭がぐらりと揺らされたのは事実だった。抵抗する力はさっきので最後だ。再び、私はお姉ちゃんの腿に埋まる。

 

「ふふっ……うん。期待してるね、梨璃」

 

「参った」とでもいうような声で苦笑するお姉ちゃんは、再度預けられた私の頭を撫で始める。なんだか一矢報いてやった気がして、少し気分が良い。

 

その心地よさに身を任せ、私は今度こそ、お姉ちゃんの声と頭を撫でてくれる手のひらに抵抗することなく、暖かい沼に沈んでいく。

 

 

こうして、私たちの優しい時間は流れていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、どういうことなんですか?百由さん」

 

梨璃の誕生日パーティの翌日。「梨璃の観察に徹する」と言っていた百由からの報告を受けるため、生徒会長達は理事長室に集められていた。

そして、第一声とばかりに百由から齎された結果を聞いて、生徒会長の一人である出江史房は胡乱げな目を向けた。

 

「どういうこともなにも、言葉通りですよ〜。『カリスマはレアスキルではなくサブスキル』です。暫定的だけどね」

 

糖分補給用だろうか、ドーナツを咀嚼しながらも、百由は断言した。学会を揺るがしそうなその発言を事も無げに語る百由に、部屋中から視線が集まる。

その熱視線を受けて、百由は一度、ドーナツを食べる手を止め、全員に見えるようにモニターを表示した。

 

「これ、見てください。レアスキルごとのマギの出力数値比較です。ランクやスキルによって多少の差異はありますが、大体似通ったマギの出力数値を示しています。でも……」

 

そこまで百由が言った時点で、他の全員も言いたいことに察しはついた。

 

「……カリスマは、出力数値がレアスキルと認められるにはあまりにも低い、ですか」

「大正解!それも、どちらかと言えばサブスキルに近い数値しか出てない。カリスマだけ例外っていう言い分もあるかもだけど……多分それは無いわね。だって、似たようなスキルであるヘリオスフィアの7割以下程度しか出力されてないんだもの」

 

難しい顔をして「納得できない」というような顔をする他の面々を気にすることなく、百由は再度ドーナツを手に取る。

 

「言っときますけどこれ、流瑠様と梨璃さんの観察結果を伝える前の「大前提」に過ぎないですからね?この仮説自体は前々から考えてましたし」

「まだあるの……?」

 

カリスマがサブスキルかもしれない。いや、百由は根拠のないことや研究段階のことを殆ど口に出さないから、多分これはほぼ確定事項なのだろう。それを「大前提」として、百由はそこからさらに何かを話そうとしている。そんな様子に、史房は「聞かなければならない」と思いつつも、辟易してしまう。

 

「まだありますよー。で、カリスマはサブスキル。これはほぼ確定なんですけど、じゃあカリスマには「レアスキル」にあたるスキルがあることになりますよね?それが──」

「……ラプラス、ね」

「……っ」

 

祀から出たその名前に、理事長室は騒めく。「そういうこと!」と嬉しそうな百由の声に、しかし食ってかかったのは史房と眞悠理だった。

 

「ラプラスは御伽噺のレアスキル。カリスマの上位スキルだという予言はあるけれど……」

「そう。今までに覚醒者はいないはずよ」

 

反論する二人に、しかし百由は余裕を崩さない。

 

「でも、もしもいたとしたら?」

「確認できたの!?」

「まだ確定じゃないわ。でも、私はそうだと思ってる」

「……そう」

 

言葉としては曖昧ながら確信を持った言い方に、眞悠理は溜飲を下げる。

 

「話を続けるわね。ここからが本題よ。

カリスマの上位スキルはラプラス。じゃあ、「ファムファタール」……流瑠様と梨璃さんのスキルは、なんだと思う?」

「なんだと思う?って……」

「そう言われても……貴女だって詳しいことはわからないって言っていたじゃない。確か、ラプラスとは別方向のカリスマの進化じゃないかって」

 

百由から投げかけられた質問に、生徒会長達は困惑の色を見せる。そんな彼女らの前で、百由はここ一番に真面目な表情をした。

 

「……私は、ファムファタールは「カリスマの変異スキル」だと思ってるの」

「変異……スキル?」

 

新しく出た単語に、場の混乱はさらに深まりそうになる。しかし、史房の「パンッ」という手拍子で、理事長室は静かになった。

 

「騒いでも仕方ないわ。……百由さん、説明してくれるんでしょう?」

 

もちろん、と百由は頷き、モニターを変更した。

 

「まず、ファムファタールのおさらいからね。ファムファタールの効果は主に4つ。

一つ。ヒュージ側のマギエナジーの変換と、『味方への積極的な譲渡』。

二つ。マギの流れに敏感になり、レアスキルやリリィの身体状況まで把握できるようになる。

三つ。ブレイヴを使用しない、マギ交換による負のマギの残滓の除去。

そして四つ。マギを通じた、擬似的な『読心』。

この中で注目して欲しいのは、『味方への積極的な譲渡』よ」

 

「……どういうこと?たしかに、カリスマから変異したスキルとしては一番納得できる要素だけれど」

 

その言葉に頷きつつも、百由は「そうなんだけどね……」と言葉を濁した。

 

「サブスキルっていうのは、基本的に「レアスキルの下位互換」よ。レアスキルの7割の出力を発揮できるスキル。だけど、サブスキルからレアスキルになったからと言って、「効果が変わる」ことなんてないわ。S級特異点のように新しい能力が付与されるならまだしも、自分のマギを積極的に回復する「カリスマ」から、自分のマギ回復を後回しにする「ファムファタール」には移行しないはず」

 

「……何が言いたいの?」

 

冗長ないい方にじれったくなって、眞悠理が急かすようにせっつく。百由はそんな眞悠理を「まあまあ」と手で制して続けた。

 

「つまり、私が言いたいのは「ファムファタールはカリスマのレアスキルとしての姿ではない」ってことよ」

「なるほど、それで「変異スキル」という言葉を使ったんですね」

 

納得したような史房の言葉に、百由は満足そうに頷いた。

 

「ついでに言うと、出力係数的におそらく今の「ファムファタール」もサブスキルね。レアスキルには至らない程度だわ。あくまで、「カリスマというサブスキルが、なんらかの要因でファムファタールというサブスキルに変異した」。その要因が生まれ持った素質なのかなんなのかはわからないけどね」

 

そう言って、百由は話を切った。

情報量が多すぎる。百由は、「ファムファタールもサブスキルだ」と言った。つまり、さらにその上にレアスキルが存在する可能性を示唆している。

疲れた。百由を除くこの場の全員が共有するその感覚で項垂れる中、ここまで静かに成り行きを見守っていた理事長代行が口を開いた。

 

「……百由くん。君はファムファタールというスキルをどう考える?」

 

その質問に、百由は「そうですねー」と手を顎に置いて考えた。

 

「御台場の船田姉妹。彼女たちの特異点としての力は、二人のルナティックトランサーによる感応現象です。彼女たちは、ルナティックトランサーによって冒された心の狂気の奥底で繋がっているんだと思います。

ファムファタールは、おそらくその逆。「正気」の中にあって、マギによって自分と他人を強く結びつけ、感応させる力。

私、昨日パーティで梨璃さんに挨拶する時、こっそり挨拶しながら彼女のマギの波形データを取ってたんです。そしたら……梨璃さんのマギは、私と話しているうちに、段々と私のマギの波長に似てきていました。相手のマギの波長に合わせる……この力は、カリスマとはまるで別物です。多分、この「波長のシンクロ」こそが、読心や身体状況の把握につながるんだと思う。

しかも、その力がよりにもよってこの学院に2つもある。2つの感応の力が感応し合うと、どうなるんでしょうね?

例えば……お互いの感覚が共有されてきたり、とか」

 

長々と語った百由は、楽しそうな、でもどこか不安そうな、複雑な表情をしている。研究者として流瑠と梨璃、二人の実験を優先するようなら釘を刺しておこうと思っていた史房は、その表情を見て口をつぐんだ。

 

「……百由さん」

「あぁ、安心してください。二人には取り敢えず特別手出ししたりしませんから〜。今は経過観察。何かおかしなことが起こったら、その時は緊急的に手を出すかもしれませんけど、それ以外では見守りますよ〜。

やっと、流瑠様と夢結が掴んだ幸せだもの。壊したりなんかしないわ

 

ボソボソと何事かを呟いた後、「見守るだけ」という宣言に意外そうな顔をしている全員に、努めて明るい顔を見せた。

 

「それに、私がどうこうしなくてもきっと事態は進んでいくしね〜。あ、史房様。アレ、ちゃんと梨璃さんに伝えてくれました?」

 

急に話を振られた史房は、「え?ええ」と反応した。

 

「一応、昨日のパーティの後で伝えました。『誕生日プレゼント』なんて言ってしまいましたが。……しかし、本当に良かったのですか?」

 

目線を向けられた理事長代行は、何かを感じ入るように、それでいて重々しさを感じさせず、頷いた。

 

「いいのだ、あれで。……本人からの希望と両リーダーからの受諾。それさえあれば、脱退も加入も自由というのは百合ヶ丘のルールのはずだろう?」

 

それを聞いて、史房ははっと目を開いた。

 

「そう……ですね。ええ、そうでした。私たちはあの人の背中の大きさ故に、大切なことを忘れていた。それを思い知ったばかりでしたね。ですが、それが百由さんの言う「事態の進展」に関係するのですか?」

 

最初のような胡乱げな目を向けられて、百由はカラカラと楽しそうに笑った。まるで、これから起こることが楽しみで仕方ない、というように。

 

「しないわけないじゃない。あの人は梨璃さんが大好きだから、最初は困惑するかもしれないけど絶対断らない。そして、二人が一緒にいれば、あのスキルの本質も見えてくる。さて、忙しくなるわよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あ、そういえば忘れてた。お姉ちゃん!私のレギオンに入りませんか!?」

 

「…………へ?」

 




・いつもの4人
一晩経ってしっかり愛を深めあった後でも大体いつもと同じ。多分翌日瑠璃ちゃんにあったら速攻でバレる。

・百由様
色々考えてるし企んでるけど一線は超えない。冬佳様を実験に使わなかった世界線なので。



はい。ほんと遅くなって申し訳ないです。
でもちゃんと書くよ。ホントダヨ。

沢山のお気に入り登録、UA、感想など本当にありがとうございます…!
最近めっちゃ忙しくて中々書けませんでしたが、これからも続けていく所存です。
俺は止まんねえからよ……
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