アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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お久しぶりです。
前回までがアレだったので、今回からマジメに行きます。


アジュガ その1

「よっ!ほっ!はっ!」

 

貸切状態の静かな訓練室に、少女の高い声だけが響き渡る。

 

「やぁ!とぅっ!……わわっ!?」

 

声と共に、少女は身の丈以上もある武器を振り回していた。……いや、正確には「少女が武器に振り回されていた」。

少女の身の丈ほどもあるそれ……ユグドラシル社製の第二世代型CHARM「グングニル」は、小柄な少女には重すぎたのか、あるいは大きすぎたのか。慣性と遠心力によって少女の軽い身体を容赦なく宙に舞わせる。

 

「うぐっ……!おりゃっ!わ、わ、わっ!?」

 

空中で尚もグングニルを振おうとした少女は……力強く訓練場の地面に刃を叩きつけてしまい、刃はしっかりと地面に埋没。反動で少女の身体は今度こそひっくり返る。

世界が反転する中で、「手を離さない方がまずい」と悟った少女は、大人しくグングニルから手を離して宙に身体を躍らせる。そして、空中で華麗に体勢を整えて、逆さまに地面に埋まったグングニルの柄に器用に着地した。

 

「はぁ……なんか慣れないなぁ」

「お、やってるナ瑠璃!」

 

グングニルの柄の上でボヤく少女───瑠璃に訓練場の扉を開けながら声をかけてきたのは、朗らかな笑顔の緑髪のリリィだった。

 

「あ、梅お姉さん!ごきげんよー!」

「おう!……瑠璃一人か?珍しいな。鶴紗はどうしたんダ?」

 

緑髪のリリィ、吉村・Thi・梅は、いつも瑠璃と一緒にいる安藤鶴紗の姿を探してキョロキョロと首を動かす。

そんな姿に、瑠璃はグングニルの柄から「よっ」と地面に降り立って、いたずらっぽく笑った。

 

「鶴紗は梨璃お姉ちゃん達を呼びに行ってるけど……梅お姉さん、そんなに鶴紗のことが気になるの?最近仲いいみたいだしね〜。私から盗ろうと思ってたりとか〜?」

「は、はぁ!?何言ってんだお前!鶴紗とはそんなんじゃ……!」

「でもチューしたことあるんでしょ?」

 

「ほっぺだけど」とクスクス笑う瑠璃に、梅は戦慄する。

 

(し、したっていうか、アレはされただけっていうか……あの場面は誰にも見られてないはずだし、鶴紗も自分から言うタイプだとは思えない。こいつ、どこまで知ってるんダ……?)

 

顔を強ばらせてしまった梅に、張本人である瑠璃は小悪魔のような笑みを崩さない。

 

「まあまあ、落ち着いてよ梅お姉さん。私は怒らないよ?だって鶴紗の1番は私だもん。ところで……」

 

瑠璃は露骨に話を打ち切って話題を変える。「鶴紗の1番は私」という言葉に「むっ」と表情を動かしてしまった梅だが、深追いは危険だし、何より鶴紗と自分の関係は本当にそういうものではない、と思い出して、口を挟むことはしなかった。

 

「梅お姉さん、ずいぶん早かったね?集合時間まで結構あると思うけど」

「え?あー、それはだナ……」

 

今日は一柳隊が結成されてからはじめてのレギオン訓練だ。瑠璃は自分で自主練習が必要だと思っていたから早く集合したが、そんなものに早くから梅が来るとは思っていなかった。何かを言い淀んで頬を掻く梅に、瑠璃はジトッとした懐疑の目を向ける。

 

「もしかして梅お姉さん……」

「ち、違うゾ!?ほら、あれだ!瑠璃の訓練を見てやろうと思って!サボりとかじゃないからナ!?貸切の訓練場ならサボれると思ったんだけどナ……

「ふーん?」

 

「全く信じていません」とばかりの懐疑的な声に、梅は「は、ははは……」と冷や汗をかく。そんな先輩を見て、瑠璃は息を吐いた。

 

「……まあいいや。なら、私の訓練を見にきてくれた梅お姉さん?ちゃんと教えてくれるんだよね?」

「お、おう!もちろんだゾ!だからここにいたことは内緒に……」

「え〜?お姉さんは最初から私に教えにきてくれたんでしょ?なら言っても問題ないと思うけど〜」

「勘弁してくれ……」

 

一通り梅を揶揄って満足したのか、瑠璃は「ふくくっ!」と愉快げに笑った。

 

「じょーだんじょーだん!さ、訓練お願いします、梅センパイ!」

「全く……」

 

グングニルを抜き取って構える瑠璃を、梅は腕を組んで見守る。そして、瑠璃は競技会で行うような演武を始めた。……始めたかったのだろう、と梅は推測した。

 

梅から見たそれは、酷いものだった。完全にグングニルに振り回され、「おっと」「おっとと!」とたたらを踏み、終いにはジャイアントスイングでグングニルを投げてしまう始末。

あんまりにもあんまりな演武に、梅は頭を抱える。瑠璃がこうなっている原因は、梅にはすぐに分かった。

 

「……マギ、ほとんど込めてないだロ。そんなんじゃ振り回せないゾ」

 

呆れ気味な梅の言葉に、投げてしまったグングニルを取ってきた瑠璃はため息をつく。

 

「うん……わかってるんだけどね。なんかね、最近まともにマギを込められないんだ。込めようと思ったら込めすぎちゃうっていうか……」

「込めすぎる?」

 

あまり聞きなれない言い訳に、梅は首を傾げる。

初心者のリリィにありがちな失敗は、リリィになりたての頃の梨璃のように、「集中してマギを込める」ということ自体ができない、というものが多い。マギが込められていなければCHARMは巨大な刃物と変わらない。そんな状態ではリリィの膂力でも振り回すことはできないだろう。逆に言えば、込め方さえわかればCHARMの操作自体はそこまで苦戦するものではないはず。

なのに、「込めすぎる」とはどういうことなのだろうか。梅が不思議に思っていると、瑠璃は言いづらそうにしながらも、目線を梅の方にやった。

 

「……見てもらった方が早いか。梅お姉さん、一緒に謝ってくれる?」

「は?」

 

梅の困惑の返事も気にすることなく、「じゃ、やるからね?」と瑠璃はグングニルを構えて目を閉じた。

 

「むむむ……!」

「お、おい……大丈夫なのカ?」

 

瑠璃の言葉に嫌な予感を覚える梅を無視して、瑠璃はCHARMに少しずつマギを込めていく。

少しずつ、少しずつ。まるで、一気に込めてしまったら全てが終わってしまうかのように慎重に。

そんな様子を見て、流石に梅も真剣な悩みなのだろうかと理解しはじめる。

 

「むぐぐ……!」

「…………」

 

梅や夢結のような歴戦のリリィであれば、とっくに10回はCHARMにマギを込め切っているであろう時間を費やし……しかしそれでも、瑠璃は冷や汗を流してボソリと呟いた。

 

「あ、やば。ダメだ」

「え?」

 

途端、瑠璃の身体から莫大な量のマギがCHARMに流れ込み───「ボンっ!」と嫌な音を立てて、グングニルは瑠璃の手から弾かれるように離れた。床に落ちたグングニルは、よく見ると煙を上げている。誰がどう見ても無事とは言い難い状態だった。

 

「あちゃ、またやっちゃった……」

「またって、お前」

 

以前にもやったことがあるのか。そのニュアンスを汲み取って、瑠璃は頷く。

 

「うん。いっつもこうなるんだよねー。百由お姉さんが言うには、私がマギを込めすぎてるらしいんだけど」

 

肩を落として言いながら、瑠璃の脳裏にはここ数日の自分の努力が思い出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

 

第6話 アジュガ

Ajuga

A relaxing home

―心休まる家庭

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

梨璃の誕生日パーティで正式に一柳隊に加入してから数日。瑠璃は、しばらくリリィとして戦っていなかったが故に鈍っている身体を元に戻そうと、自主訓練をしていた。

強化リリィになる前は同世代の中では割と優秀なリリィだったと自覚している瑠璃は、すぐに勘を取り戻せると思っていた。

 

……しかし、結果は無惨なものだった。

CHARMにマギを通せば即暴発し、煙を上げて動かなくなる。マギの込め方が足りなければ、体格の小さい瑠璃はどうやってもCHARMに振り回されてしまう。これでは到底戦場に出られようもない。

瑠璃は焦った。CHARMを壊したことがどうのではなく、鶴紗や流瑠、梨璃たちと一緒に戦えないということが1番怖かった。瑠璃を拾ってくれた、受け入れてくれたみんなの役に立ちたかった。

だから、何度もCHARMを壊して工廠科の生徒に呆れられ、百由に頭を下げながらも、少しずつマギを込める練習をしていたのだ。

 

こんなはずじゃなかった。福岡にいた頃はもう少し戦えていたのに。あまりにも情けなくて、鶴紗にも流瑠にも相談できなかったし、こんな有様じゃ訓練になんて参加できないと思っていたのだり

百由は「ちょっと待ってて。あなたがちゃんと戦えるよう、私もどうにかしてみるわ」とは言ってくれたものの、できれば自分自身の力でどうにかしたかった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで、ここ数日間一人でマギを込める練習をしていた、と語る瑠璃に、梅はなるほどな、と自分では解決できなさそうだということを察して頷きながらも、一つ腑に落ちないことがあった。

 

「鶴紗にも流瑠様にも相談しなかったんだロ?なんで梅には相談したんだ?」

 

その疑問に、瑠璃は「うーん」と人差し指を口に当てる。

 

「……梅お姉さんが私にとって特別な人じゃなかったから、とか?」

「お前なぁ……」

 

人に教えを請っておいてそれか。梅の口には出さなかったその訴えを感じ取って、瑠璃は「冗談だよぅ」と苦笑いした。

 

「別に梅お姉さんのこと嫌いじゃないよ?でもほら、なんていうか……梅お姉さん、相談しやすくって」

 

「私自身でもなんて言っていいのかわかんないんだけどねー」と嘯く瑠璃を怒る気分でもなかった梅は、瑠璃の隣で未だに煙をあげるグングニルに目をやった。

 

「……で、そいつどうするんだ?」

「ああ、うん。工廠科に持って行くよ。……梅お姉さん、訓練はちょっと遅れるってみんなに言っておいて。私、今から持って行ってくるから」

 

「ちょっくら怒られてきますかー」といつもの様子を保ちつつも少し無理矢理な笑顔を浮かべる瑠璃に……梅の中で、何かがピクリと反応した。

 

「……梅も一緒に行くゾ。ほら、乗れ」

 

瑠璃の前にしゃがみ込んで、梅は自分の背中に乗るように促した。

 

「へ?……いいよ、さっきはああ言ったけど梅お姉さんまで謝る必要ないもん」

 

瑠璃は断るも、梅は「さっさと乗れ」と譲らない。

 

「……わかったよ」

 

梅の意図はわからなかったが、瑠璃は大人しくその提案に乗る。

背中から梅にくっつき、首に手を回して捕まる。梅は瑠璃の膝裏に手をやり、体勢を整えて立ち上がった。

 

「じゃ、行くゾ」

「うん」

 

瑠璃の返事と共に、瑠璃を背負った梅は訓練場から走り始めた。

 

 

 

 

 

「梅お姉さん」

「喋ったら舌噛むゾ?」

「大丈夫、私だってリリィだから」

 

生意気な、と思いながらも、梅の口元には笑みが浮かぶ。

 

梅と瑠璃は、そこまで関係があったわけではない。瑠璃が鶴紗を見て倒れた時、保健室まで運んだのが出会いで、あとはちょっと梨璃の誕生日パーティでも一緒にご飯を食べたくらいだ。

瑠璃と鶴紗との関係や瑠璃の事情は鶴紗から聞いているから、深い仲だと言うのは知っているし、梅自身も瑠璃は悪い人間ではないとわかってはいる。しかし、最初に見た幼いイメージがどうも頭から離れなかった。

だが、そんな瑠璃は前とは様子が変わって、一人前とは言い難いものの、リリィとしての意識も垣間見えるようになってきた。それが、何故だか梅には少しだけ嬉しいような、少しだけ寂しいような気がしていた。

 

「ねえ、なんで一緒に行ってくれるの?」

 

自分の後ろから聞こえるその質問に、梅は少しだけ逡巡してから口を開いた。

 

「……なんでだろうナ」

 

「瑠璃一人で行くよりも早いから」とか、何か言い訳することは簡単だった筈だ。でも、梅には何故かできなかった。

梅には最近、たまにこうなることがあった。いつものように飄々と、適当な言い訳でも言えばいいのに、それができない。特に鶴紗や瑠璃、梨璃の前だとそうなってしまうように感じていた。

 

鶴紗。瑠璃。梨璃。自分に向けてくる笑顔。それを見ていると、その顔がだんだんとブレてきて───

 

 

 

『───お姉ちゃん』

 

 

 

「……っ!」

 

違う、と頭を振ってそんな思考を逃がす。

そんなわけがない。そんなこと、思っていいはずがない。

───まるで、瑠璃達が◼︎みたいだなんて。

 

「……どしたの?具合悪い?」

 

心配げな瑠璃の声色に、「いや、なんでもない」となるべく明るく返し、梅は思考を打ち切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあやあいらっしゃーい!そろそろ来る頃だと思ってたわー!」

「あ、瑠璃ちゃん!それに梅さんも!入って入って〜」

 

壊れたグングニルを工廠科に運び込んだ二人を出迎えたのは、想定よりもずっとテンションの高い百由の声と、アーセナル達の歓迎だった。

工廠科の鍛冶場に入っていくと、アーセナル達は壊れたグングニルを瑠璃から受け取り、「任せて!ちゃんと直しとくから!」と笑みを浮かべた。どうやら瑠璃は何度もCHARMを壊す中ですっかり工廠科の常連になってしまっていたらしい。

瑠璃が「いつもごめんなさい」と頭を下げると、アーセナル達は「いいのいいの!あの破械大魔王ヘキサゴンと比べれば可愛いもんよ!」と瑠璃の頭を撫でてくれた。一体何者だろうか。

 

CHARMを預けてさらに工廠科の奥に行くと、こちらに背を向けていた百由が顔を見せた。目の下には大きな隈があるものの、その顔は声色と同じく笑顔だ。

 

「あら?梅も来たの?珍しいわね」

「ま、成り行きでナ」

 

梅の答えに「そう」とだけ答えて興味を失ったのか、百由は爛々と輝かせた目を瑠璃に向けた。

 

「できてるわよ、瑠璃さん!貴女がちゃんとマギを使えるようになる……はずのアイテム!」

「え!?も、もうですか?」

「今『はず』って言ったカ?」

 

瑠璃が百由と話したのは、ほんの2〜3日前だ。あまりにも仕事が早い。

瑠璃としては、どうにか自分一人で戦えるようになりたかった、が……限界を感じていた部分もある。「ありがとうございます」と瑠璃はお礼を言うしかなかった。

 

「いいのいいの!貴女が引き起こす現象にも興味あったし……それに、リリィがしっかり戦えるようにするのも、私たち工廠科の仕事だもの!というわけで、はいこれ!」

 

そう言って百由が瑠璃に手渡してきたのは……金属の素材でできた、銀色の手甲だった。両手に嵌めるために2つ用意されているそれを受け取って、瑠璃は百由に促されるままに装着してみる。金属の重みが瑠璃の手を覆い、いつもよりも手を持ち上げているのがきつくなってくる。

 

「なんか重いんだけど……これ、どう使うの?百由お姉さん」

「だいじょーぶ、着けてれば勝手に起動してくれるから!」

 

百由の言葉を最後まで待たず、瑠璃の手を覆う手甲から「ブォ……」と音がしたかと思うと、先ほどまでの重さからは考えられないほど軽くなった。

 

「え、え?なんか急に軽くなったんだけど!」

「原理としては、CHARMにマギを通した際に軽量化するのと同じよー。瑠璃さんがCHARMを装着した時点で、身体の周りに纏っている微弱なマギを吸収して……って、原理の説明はいらないかしら。要は、CHARMと同じ方法で軽くなってるってことねー。あ、瑠璃さん、そこにある擬似CHARM、ちょっとマギを込めて振ってみて?」

「え、いいんですか?また壊しちゃうかも……」

 

心配げな瑠璃に、「だいじょーぶだいじょーぶ!そうならないためのアイテムなんだから!」と心強い言葉で背中を押す。瑠璃は百由からの太鼓判に少し安心した様子で、立てかけられていた擬似CHARMを手に取った。

 

「ぐぬぬ……!」

 

少しずつ、少しずつマギを込めていく。すると、いつものように急激にマギを込めてしまう感覚が訪れた。まずい、と瑠璃は冷や汗を垂らしたが……しかし、瑠璃の心配とは裏腹に、CHARMは壊れることなく正常に起動した。

 

「……で、できた!」

 

黒煙も上げず、明らかに壊れたような音も出ていない。どうやらうまくいったらしいことがわかって、瑠璃は顔をパァッと明るくしてCHARMを振り回す。幸い、ある程度の広さがあったので、嬉しそうに瑠璃はCHARMを振りまわし始める。先ほどまでのCHARMの重さに振り回された振り方ではない。荒さはあるが、梅が見る限りではかなり正確なCHARM捌きだと感心する。

 

「だから言ったでしょ?ま、もう試験運用は済ませてあったから問題あるわけないんだけどね!そもそもそのグローブは……まあそういう話はいいか」

 

言いながら、百由はパソコンでカタカタとデータを取っている。どうやら、瑠璃が装着したそのアイテムを実測しているらしい。途中で原理の説明をやめたのは、瑠璃と梅が興味なさげだったからだろうか。一通りデータを取り終えたのか、「よし、理論値。まあ及第点かしらね?」と満足そうにしている。

梅が「結局、これどういう道具なんだ?」と聞くと、待ってましたとばかりに百由はパソコンに向かっていた顔をあげた。

 

「この子は『マギ・ダイバージェンス・グローブ』!その効果は読んで字の如く、リリィからCHARMに流れ込む余剰マギを発散(divergence)させることよ!」

「余剰マギを……発散?」

 

興味深げにグローブをつけたり外したりして遊んでいる瑠璃を尻目に、梅は首を傾げる。その言葉通りに受け取るなら、リリィのマギが減ってしまいそうだが……。

首を傾げた梅が興味を持ったと思ったのか、百由は目を光らせて先ほどの説明の続きを始めた。

 

「そうよ。梅の考えている通り、そのグローブは『リリィから込められるマギを減らす』ためのもの。より詳しく言えば、『CHARMに込められる規定量までしか込めないように制御する』って言えばいいかしら?それを超えたマギは、大気に放出してるの」

 

要するに、瑠璃のCHARMのオーバーヒート現象は、有り余るマギを込めすぎてしまうことによるものだった、ということだろう。そう梅は察する。

そしてそれは同時に、施術されるまでは普通のリリィとして戦っていたはずの瑠璃が、何らかの理由──おそらくは度重なる強化施術によるマギ総量の急激な増大──によって、マギを制御できなくなってしまっているということでもある。

そのためのグローブだということだ。しかしこれは……

 

「なあ百由、これ……」

「そうね。めちゃくちゃ効率は悪いわ」

 

自分の考えを先回りして答えた百由に、梅は「やっぱりそうだよナ」と頷く。

 

「CHARMに入りきらない余剰マギを全部大気に放出してる。つまり、込められるはずだったマギに対して、実際に効力を発揮するマギは極僅かってことになるわ。放出されたマギはなんのエネルギーになることもなく、何に使われることもなく空に溶けていく……あまりにもエネルギーの無駄ね」

 

「はぁ……」と百由は物憂げな様子を見せる。研究者、開発者として、こういう形でしか瑠璃を戦わせてあげられない自分が不甲斐ない、といったところだろうか。

 

「私の天才的な頭脳でもこんな方法しか思い浮かばないなんてぇ!これだけの余剰マギがあれば何体のメカルンペルくんが動かせることか!あーもー!」

 

……どうも買い被りすぎだったらしい。というか、そういえばこういうやつだった。頭を掻き毟る百由に、梅はため息を吐いた。

 

「……まあでも、余剰マギが大気に放出されるのは悪いことばっかりじゃないわ」

「?どういうこと───」

 

だ、と百由の言葉の真意を問おうとした梅は──直後、「ガァン!」という何かを壊すような大きな音が聞こえて身構えた。

 

「っ!?なんだ、敵か!?」

 

周囲を見渡して音の原因を探っていた梅が見つけたのは……工廠科の分厚い防音壁に深々と突き刺さる、擬似CHARMの姿だった。

 

「──は?」

「うわぁ……これはまた派手にやったわねー」

 

工廠科は大きな音に対する防音や熱への耐性を上げるため、ただでさえ全面防音な百合ヶ丘の中でもさらに厚くて硬い壁を使っている。にも関わらず、その壁を傷つけるだけならまだしも、深々と突き刺さっている光景はあまりにも異常だった。

 

「あ、あ……あは、は……」

 

第一容疑者はまず間違いなく、顔をヒクつかせて曖昧に笑う四ツ谷瑠璃その人だった。手には、持っていたはずの擬似CHARMは無い。第一容疑者は既に被疑者になった。

 

「瑠璃、お前……」

「ち、違うの梅お姉さん!ちょっと……そう!ちょっと調子に乗ってCHARMを振り回してたら手からすっぽ抜けちゃって!」

「すっぽ抜けたって……」

 

たしかに、今瑠璃がいる位置とCHARMが刺さっている壁までは距離がある。しかし、すっぽ抜ける程度でこの頑丈な壁に刺さるほどの威力が出るだろうか?首を傾げど答えは出ない。

 

「これが、余剰マギが大気に放出された影響よ。梅さん」

 

そんな疑問を解消したのは、またしても百由の言葉だった。

 

「……どういうことだ?」

「超局所的かつ急激なマギインテンシティ(空間マギ飽和量)の上昇よ。マギインテンシティが高ければ高いほど、リリィもヒュージも力を増す。瑠璃さんは余剰マギを大量に自分の周囲にばら撒くことで、自分の膂力(スペック)を大幅に強化している状態なの。そしてもちろん、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()わ」

 

「ね?悪いことばかりじゃないでしょ?」と笑う百由に、苦労が増えそうだ、と梅はまた溜め息を吐くことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、梅様達来ました〜!」

「遅いわよ、梅」

「あはは、悪い悪い」

 

梅と瑠璃が訓練場に戻ってくると、既に一柳隊のメンバーは集まっていた。

主将(リーダー)の梨璃、副将(サブリーダー)の夢結。二水、楓、ミリアム、神琳、雨嘉、鶴紗……そして、何故か流瑠まで。

流瑠に指導してもらうつもりなら、相当気合の入った訓練なのだな、と梅は身構える。瑠璃の方はというと呑気なもので、流瑠を見つけると「あ!流瑠お姉ちゃーん!!」と駆け出して、流瑠の胸に飛びついた。

 

「おー、瑠璃ちゃん!ごきげんだねぇ!ぎゅ〜してあげよっか〜。いいことでもあったの?」

「わーい!えへへ、うん!ちょっとね!」

 

飛び込んだ瑠璃を、流瑠は抱きしめてはしゃぐ。楽しそうな瑠璃を見て、「呑気だナ……」と梅は呆れた。

流瑠がこの場にいると言うことは、これから始まる訓練は相当厳しくなるはずだ。楓や梨璃や夢結は抱きしめられる瑠璃を羨ましげに見ているが、梅はそんな浮かれた気分にはなれない。……とは言え、羨ましいと言う気持ちが無いわけでもないが。

 

微笑ましげに瑠璃たちを見ているミリアムや神琳、雨嘉、二水らの視線に気付いたのか、一度瑠璃を降ろした流瑠は、パンと1つ手を打った。

そして……梅たちにとっては衝撃となる一言を放った。

 

「さ、それじゃ訓練を始めよっか!……と、その前に。

今日から一柳隊に入ることになりました、三巴流瑠です!もうみんなとは知り合いだけど、これからよろしくね!」

 

 

「………………え?」

 

「「「「「ええええええーーーーっ!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「流瑠様!?流瑠様はレギオンに所属されていたはずでは!?」

「うーん、解体されちゃってね」

「で、なぜ梨璃のレギオンに入ることにしたんじゃ?」

「誘われたからね〜」

「よく生徒会の方々が許されましたね?」

「うん、流瑠様は色んなところから誘われそうなのに……」

「生徒会の方から梨璃に要請があったらしいよ?私をレギオンに入れてあげてって」

「お姉ちゃーん!おんなじレギオン!?やったー!」

「流瑠ねぇ……!」

「うん、一緒に戦えるねぇ」

 

怒涛の勢いで出てきた疑問に一通り答えた流瑠は、もう一度手を打って、話を進めた。

 

「はいはい、取り敢えず話はそこまでー!今日は訓練のために集まったんだからねぇ。一柳隊の結成式っていうか、結成祝いみたいなのはまた今度やるから、そこで色々お話しようね!」

 

流瑠は一度言葉を切ると、訓練場に集まった一柳隊の面々をぐるりと見渡した。

ミリアム。二水。神琳。雨嘉。梅。鶴紗。瑠璃。楓。夢結、そして梨璃。

──このレギオンなら、きっとみんなで戦っていける。そんな期待を抱かせる、良い顔が並んでいた。

 

「……ふふ、私は幸せ者だねぇ。こんないいレギオンでこれから戦えるなんて」

「お姉ちゃん……」

「ん……ありがと、梨璃」

 

感じ入るように目を閉じる流瑠に寄り添う梨璃を、流瑠はぎゅっと抱きしめた。暫くそうして抱きしめていた流瑠は、名残惜しげに梨璃を優しく離すと、顔を上げてしっかりと前を向く。まるで、今までの自分から生まれ変わるかのように。

きっと、流瑠だってこの決断をするために大いに悩んだはずだ。大切な人を亡くして、大切な人がいなくなることを誰よりも恐れて、独りで戦ってきた。その流瑠が誰かと一緒に、ましてやレギオンに入って戦うなんて、去年までは考えられなかった。そして今、梅と流瑠はなんの縁か、同じレギオンにいる。それを嬉しいと感じる自分に、梅は意外だと思いながらも、悪い気はしなかった。

 

変わった、と梅は思う。流瑠も、夢結も、そして梅自身も。流瑠のことが苦手だった梅を変えて、夢結と流瑠を向き合わせて、そして流瑠自身を大きく変えた立役者──一柳梨璃。彼女のレギオンに入ったのは、幸か不幸か。

これから楽しくなりそうだ。梅は、自然に頬が緩むのを感じた。

 

「……さて!もう私は梨璃のレギオンの一員だからね。梨璃、今日のメインの話をしよっか?」

 

切り替えが終わったのか、流瑠は梨璃に話を振る。指名された梨璃は、「は、はい!」とみんなの前に出た。

 

「えっと、今日は一柳隊?結成初日ってことで、はじめてのレギオン訓練をします!お姉様のレギオンのはずだったんだけど……2時間したら次のレギオンが使うそうなので、2時間頑張りましょう!」

 

梨璃の言葉に、はーいと元気な返事が聞こえる中、ミリアムは「して、訓練とは具体的にどういうことをするんじゃ?」と疑問を呈した。

 

「え?えっと、えっと……ら、ランニング、とか?」

「いや、それはもう講義中に散々やっとるじゃろ……」

「だナ。なんか他のないのかー?」

「梨璃さんがそう仰るなら、地の果てまでも……!」

 

どうやらノープランだったらしい梨璃の脳筋気味な答えに、ミリアムは呆れた表情を見せる。梅としても、ただランニングするだけなのはちょっと味気ない。楓はそうでもないらしいが。勝手に一人でやってろ。

「お、お姉様〜」と夢結に縋る梨璃に、夢結は頼られたのが嬉しかったのかなんなのか、フンスと鼻を鳴らした。

 

「まったく、梨璃は仕方ないわね。ならランニングではなく全力ダッシュよ。力尽きるまでダッシュするのよ」

「お前はまた……」

 

梨璃よりもさらに脳筋な答えを出した夢結に、梅はまた呆れた声を出した。最近の夢結はかなり吹っ切れたのか、ちょっと天然気味というか、本来の箱入り娘っぽい発言が増えてきている気がする。いい傾向なのだろうが。

他の面々からぶーぶーとブーイングを受ける夢結を見かねて、今度は神琳が口を出した。

 

「講義でやっていることとは別が良いのではないでしょうか。せっかく流瑠様がいるのですし、身になるようなことの方が」

「だね。流瑠様に教わりたいこと、いっぱいあるから」

「そうですね!私としては、流瑠様から色々なリリィの皆さんのマル秘情報とか聞ければ……!」

 

神琳や雨嘉、二水からも反対を受けて、梨璃は「うう〜……」と唸り声をあげる。そもそも何故ノープランでレギオン訓練だったのだろう。これだけ悩んでいるということは流瑠発案というわけではないはずだ。要するに、梨璃が自分で言い出したことだ、と。

梨璃の後ろで助け舟も出さずにニコニコしている流瑠の意図は、つまりそういうこと(梨璃の成長)なのだろう。性格がいいのやら悪いのやら、と梅は苦笑いするしかない。

 

「じ、じゃあ何をすれば……」

「───お困りのようね、一柳隊の皆さん」

 

うーん、うーんと唸っていた梨璃と、それを呆れ顔で見守っていた一柳隊の面々の耳に届いたのは──訓練場の扉が力強く開けられた音と、その後に続く自信ありげな声だった。

 

「あ、あなたは……」

「亜羅椰さん!?どうしてここに……!?」

 

ピンク色の長髪を優雅に靡かせた、アールヴヘイムの切り込み役、遠藤亜羅椰。いるはずのない彼女が、訓練場に現れたのだった。

 

「どうして?流瑠お姉様のいるところ、この遠藤亜羅椰、いついかなる時でも馳せ参じるつもりですわ」

 

ふふん、と髪をかき上げながら説明になってない説明を一方的に終えた亜羅椰は、流瑠を見つけると、顔を輝かせて一直線に駆け出した。

 

「流瑠お姉様〜!!!」

「おおー、亜羅椰ちゃん!おいで〜!」

「は〜い!!」

 

胸に飛び込んだ亜羅椰を、流瑠はぎゅっと受け止める。先程も見たような光景だが、まあいつものことなのであまり気にしない。流瑠の浮気性というか、誰にでも愛を振り撒くのを一々気にしていては仕方ないのだ。

 

「うう〜……」

「むむむ……!」

「…………」

 

……いつもの3人(梨璃、楓、夢結)は、どうしても気にしてしまうようだが。

 

「それで、今日はどうしたの?亜羅椰ちゃん」

 

流瑠が尋ねると、亜羅椰は流瑠に抱きついたまま、意味ありげな……というか挑発するような顔で、いつもの3人の方を向いた。

 

「ええ、ええ。流瑠お姉様が所属される一柳隊の皆さんがお困りとのことで、この遠藤亜羅椰が助太刀に来て差し上げました。仮にもお姉様が所属されるレギオンが弱っちいままでは、お姉様が心配で心配で、アールヴヘイムに引き抜きたくなってしまいますから」

 

……イヤミな言い方ではあるが、よわっちぃのは事実だ。

一柳隊は、できたばかりの新生レギオン。流瑠は新しく発足したレギオンについて行ってサポートすることもあるから、みんなに合わせることはできるだろう。

しかし、レギオンに所属するとなると話は違う。一柳隊は「流瑠という戦力」を手に入れることになるのだ。流瑠の力を存分に発揮させるには、一柳隊自体がもっとレベルアップしなければならない。

亜羅椰の言い方に「むっ」と顔を顰めながらも、誰も言い返せないのがその証拠だ。

 

「あら、噛み付いて来ないの?自分達のことがわかっているようでなによりだわね」

「……!」

 

またも挑発気味に言う亜羅椰に対し、梨璃は言い返そうとしたが、それを楓に手で制された。梨璃を止めた楓は、みんなより一歩前に出て、亜羅椰に向かって堂々と口を開いた。

 

「確かに。わたくしたちのレギオンは、今は生まれたての雛のようなもの。チームワークも何もないひよっこですわ。対し、あなた達のアールヴヘイムは個の力もあり、レギオンとしての完成度は段違い。それは認めましょう。

……ですがわたくしたち、一人一人のリリィの質であなたたちに劣るとは一切思っておりませんわ!いずれわたくしたちは、流瑠お姉様が共に戦うに相応しいレギオンになってみせます!」

 

ビシッと挑戦状を叩きつけるかのように指を向ける楓に、亜羅椰は一瞬呆気に取られたような顔をした後、フッと顔を笑みの形に変えた。

 

「ふーん?補欠合格二人を抱えても?」

「梨璃さん達を舐めないでくださいます?そんなヤワな方々じゃありませんわ」

「なら私の手助けは必要なさそうね?」

「百合ヶ丘のトップレギオン様は困っている新生レギオンに手を貸す余裕すらないんですの?大変ですわね」

「………」

「………」

 

売り言葉に買い言葉……に見えて、二人はこのやり取りを楽しんでいるようにも見える。強い視線をぶつけ合っていた彼女たちだったが……しばらくして、亜羅椰の方が「はぁ、私の負けね」と肩を竦めた。

 

「楓がいるレギオンが弱っちいままなわけないわね。いいわ、手を貸してあげましょう。……それから、遅くなったけれど、レギオン結成おめでとう。流瑠お姉様が所属することに賛否色々あるだろうけれど、私は応援しているわ」

「え?あ、ありがとうございます……?」

 

手のひら返しとも取られかねない亜羅椰の発言に、言い返そうとしていた梨璃も困惑する。どうやら、亜羅椰は敢えて挑発して反応を窺っていたらしいが、

「まぁ、流瑠お姉様を最後に幸せにするのは私ですけれど!」という余計な一言を華麗にスルーした楓は、「それで?手助けとはどういうことですの?」と話を変えた。どうやら、この二人にとってはこれくらいの距離感がいつものことらしい。悪友、と表現すれば良いだろうか。

楓の言葉に、亜羅椰は一度流瑠から離れ、腰に手を当てた。

 

「訓練内容で困っているのでしょう?あなたたち、日頃の訓練で身体の方はしっかり鍛えているんだし、そろそろ“サブスキル”の習得なんていかが?」

「なるほどナ」

「サブスキルのう」

「さぶすきる……ですか?」

 

亜羅椰の最もな提案に頷くメンバーが多い中、梨璃は不思議そうに首を傾げた。……いい加減、講義で教えられている時期のはずだが、割と講義を真面目に聞かないタイプなのだろうか。苦笑し、流瑠が説明を始める、

 

「サブスキルっていうのは、レアスキルとは別に、複数持つことができるスキルのことだよ。基本的にはレアスキルと同じような効果なんだけど、出力が7割くらいに落ちてるの。例えば、梅ちゃんのレアスキル「縮地」は高速移動できるスキルだけど、そのサブスキルである「インビジブルワン」は、その7割……梅ちゃんはスキルランクが高いからもうちょっと出力は下がるかな?それくらいの速度で走れるようになったりするの」

「な、なるほど……?」

 

かなりわかりやすかった流瑠の説明だが、やはり梨璃はピンときていないらしい。「みんながやってるようなことを、梨璃もできるようになるってことだよ」と付け加えると、「そうなんですね!」と梨璃は少しやる気を出したみたいだった。

 

「じゃあそうしましょう!一柳隊は、サブスキルの習得を目標にします!」

 

リーダーである梨璃が意気込んで声を上げたことで、他の面々も力強く頷く。どうやら、亜羅椰の言った方向性で決まったらしい。

亜羅椰と流瑠も、盛り上がり始める話の輪に入るため、彼女らの方へ向かっていった。

 

 

 

 

 

 

「サブスキル……それはリリィにとっては、『自分の方針を固める』ことと同義です。このレギオンをどんなレギオンにするか、それが決まると言っても過言ではありません。梨璃さん、貴女はこのレギオンをどんなレギオンにしようと?」

「え?えーと、えーっと……」

 

訓練の方針を話し合う中、梨璃に飛ばされたのは、神琳の鋭い質問だった。神琳はこのレギオンにおける司令塔だ。レギオンメンバーのサブスキル(できること)が増えることは、司令塔としては気になるだろう。

梨璃はもちろんそんなことは考えているはずもなく、神琳の質問にしどろもどろになって、流瑠や夢結、楓に助けを求めるように視線を向けた。が、夢結も流瑠も助け舟は出そうとしない。楓に至ってはニコニコと「さぁ!なんでも言ってくださいまし!」とばかりに目を輝かせて待っている。他の面々も同様に、梨璃に期待した目を向けるばかりだ。

 

どうやら助けは見込めそうに無い。そう悟った梨璃は一つ息を吐いて、顔を上げた。

 

「……みんな、好きなレアスキルを目指してやってみたら良いと思います!私、このレギオンをどんなレギオンにしたいとか、あんまりわかんないですけど……でも、みんながやりたいことを、みんなで協力してやれるような、そんなレギオンになったら良いなって思うので!」

 

開き直ったのか、それとも考え抜いた結果なのか。どちらにせよ、彼女の顔は明るい。「自分の意見を出せた」と言わんばかりだ。

「こ、こんな感じでいいでしょうか?」と自信なさげにしている梨璃に、しかし彼女の笑顔とその寛容さによって集まったメンバーたちは、優しく頷いた。

 

「うむ、それでこそ梨璃じゃな!」

「はい!私、梨璃さんは大物になると思います〜!」

「梨璃。それって、私たちを信頼してくれてるってことだよね。私、梨璃の信頼に応えたい!」

「意地悪な質問をしてしまいましたね。でも、やっぱり貴女のレギオンでなら……」

 

ミリアムも、二水も、雨嘉も神琳も。みんな、梨璃の答えに満足している。

楓や夢結、流瑠は言うまでも無く、梨璃の言葉に頷く。鶴紗も瑠璃も、無論文句などあろうはずもない。

そして、梅は……梨璃のその言葉に、脳をよぎる思考があった。

 

(みんながやりたいことを、みんなで協力して……。もしかしたら、このレギオンでなら、梅の──)

 

しかし、梅は強く頭を振った。こいつらは本当に良い奴らだ。お人好しどもだ。瑠璃の面倒を見ていたことだって聞いていたし、自分なんかをレギオンに誘った。

きっと、梅の事情を話せば喜んで協力してくれるだろう。……だからこそ、巻き込みたくなかった。

 

特に、「他人のために命までかけてしまいそう」な、梨璃のことは。

 

「……梅ちゃん?大丈夫?」

「え?あ、ああ。大丈夫大丈夫!」

「そう……?」

 

どうも顔が険しくなってしまっていたのか、流瑠は梅の顔を覗き込んで心配していた。

この人もきっと、私を助けてくれようとするだろう。

でも──

そんな迷いを、梅は結局、捨てられないままだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで?訓練、するのでしょう?時間はどんどん過ぎていくわよ」

 

静観していた亜羅椰が口を開く。たしかに、2時間あった訓練場の予約時間は既に30分ほど経ってしまっていた。

 

「取り敢えず、上級生を中心に幾つかのグループに分かれて訓練しよっか。亜羅椰ちゃんも協力してくれるんだよね?」

 

流瑠からの言葉に、「ええ」と亜羅椰は胸を張った。

 

「これでも現アールヴヘイムだから、私の所に来るなら覚悟することね。徹底的に扱いてあげるわ」

「頼もしいねぇ!じゃあ、夢結、梅ちゃん、亜羅椰ちゃんのところにみんなそれぞれ分かれるよー」

 

流瑠の呼びかけに、1年生組はゾロゾロとグループに分かれ始める。どこにしようか迷っていた梨璃は、「あ、梨璃と瑠璃ちゃんは私のとこにおいで」という流瑠の声に誘われ、同じく呼ばれた瑠璃と共に流瑠の元へ向かった。

 

何人か、どこにしようか迷っていたメンバーもいたものの、数分ほどでそれぞれがそれぞれの場所に落ち着いた。

二水、鶴紗は梅の所に。神琳、雨嘉は夢結の所に。そしてミリアムと楓は亜羅椰の所に。瑠璃と梨璃は流瑠に呼ばれ、流瑠の所に。それぞれが「何を学びたいか」がしっかりと表れている分かれ方だと言えるだろう。

 

「じゃあ、訓練始めよっか!上級生や生え抜きの子達はちゃんと引っ張っていってあげること!時間になったら再度集合ね!解散!」

 

4つのグループに分かれた面々は、流瑠の掛け声と共に、それぞれの訓練に向かうのだった。

 




はい。お久しぶりです。
ほんともうすみません。言い訳するつもりは微塵もございませんが、色々忙しくてですね……。

そういうわけで、やっとアニメ6話(?)に入っていきます。
まあ6話本編というよりは、間話多めという感じになるでしょう。色々とやりたいこともありますし……。

そういえばですが、「流瑠様のお悩み相談室」、最近あまりできてませんね。
読者の皆様の中で「この人の悩み相談が見てみたい!」みたいなのがありましたら、是非感想欄にて教えてもらえると嬉しいです。もしかしたら書くかも?
あとR-18の需要とかが存在するなら……という感じでしょうか。あまり風呂敷を広げると収集が大変なのでアレですけど。(?)

いつも沢山のお気に入り、感想などありがとうございます!
このシリーズを終わらせるつもりはございませんので、これからも気長にお待ちいただければ……!

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