アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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遅くなりました(定期)
今回は短めです。そのかわり次話を早めに投稿するので許して……。


ユズリハ その1

「……あれ?」

 

気がつくと、一柳梨璃は不思議な場所にいた。

眩く差す陽光は強すぎるほどで、視界が白くぼやけて見える。

目を凝らしてみると、そこは見慣れた百合ヶ丘のカフェテラスのようだった。いくつもあるテーブルには誰も座っていない。梨璃以外は全くの無人だった。

 

「──やあ、お嬢さん」

 

否、一人だけいた。梨璃の耳に届いた声は、後ろからだった。

梨璃が振り返ると、テラス席でカップを傾けるリリィの姿がある。後ろで束ねた翠の髪が楽しげに揺れ、切長な金眼が梨璃を射抜いていた。顔は見たことがないが、制服からして百合ヶ丘の生徒らしい。身のこなしは優雅で、どうやら先輩だと直感した。手元のカップからは、嗅ぎ慣れてきた紅茶の良い匂いが鼻腔を擽る。

 

「あなたは……?」

「私かい?私は……そうだね。CHARMの妖精、とかどうだい?」

「はえ?」

 

冗談めかして言う彼女は、あっけに取られたような梨璃の反応に気を良くしたのか、くつくつと笑う。

 

「CHARMの妖精って……チャーミィ?でしたっけ。CHARM基礎理論の教科書に出てましたけど……」

 

そう返された自称CHARMの妖精は、不思議そうに首を傾げた。

 

「ふぅん……?今はそういうのがいるのか……。うん、じゃあそういうことにしよう。私はCHARMの妖精チャーミィさ」

 

かなり怪しいが、そういうことになったらしい。「お嬢さんも座りなよ」と促され、梨璃もその席に腰掛ける。

 

「私はね、お嬢さんと話してみたかったんだよ」

 

梨璃の分のカップにトポトポと紅茶が注がれていく。今更ながら、梨璃は自己紹介がまだだったことを思い出した。

 

「あ、私は一年椿組の──」

「一柳梨璃。一柳隊の隊長、だろ?知ってるよ」

 

「はい、どうぞ」と差し出された紅茶を受け取って、梨璃は紅茶を一口含んだ。途端、爽やかな香りが梨璃の喉を通り抜けた。

 

「……美味しい。お姉さん、淹れるのお上手なんですね」

「はは、ありがとう。……最近、他人にお茶を淹れるなんてことはなかったから少しばかり心配だったけれど。口に合ったなら何よりだよ」

「そうなんですか……?もったいないですよ、誰かに飲んでもらわないと!」

 

梨璃が感じたところによれば、自称チャーミィが淹れた紅茶は、梨璃が飲んだどんな紅茶よりも美味しかった。お姉様である夢結や良いところのお嬢様である楓、そして流瑠など、色んな人の淹れるお茶を飲んできた梨璃だが、掛け値なく最高峰と言えるレベルだ。

 

「……そう言ってくれると嬉しいよ。こう見えても本当に心配だったんだよ?腕が鈍ってないかってね」

 

どこか自嘲気味に言う彼女に、梨璃は不思議な感覚を覚えた。それが何なのかは言葉にできなかったが。

 

「あの、それで私と話したいことって?」

「ああ、うん。そうだね。……うーん、こう面と向かうと、色々と聞きたかったはずなのに思い浮かばないものだ」

 

悩むようにカップの中の紅茶を回すチャーミィ(自称)。しかし、梨璃から何か質問できるわけでもない。梨璃も紅茶を啜りながら、彼女が口を開くのを待つ。

 

「……そうだな。最近、百合ヶ丘での生活はどうだい?」

 

やっと口を開いた彼女の口から出たのは、そんな世間話のような質問だった。

 

「え?は、はい。みなさん良くしてくださいますし、私には勿体ないくらいで……」

「そう謙遜することはないさ。なんせ、お嬢さんは()()流瑠を落としたんだろう?充分に特別だよ、君は」

「そ、そうでしょうか……」

 

自信なさげな梨璃に、チャーミィ(?)は大きく頷いた。

 

「そうとも。君自身は今、自分の力に悩んでいるようだが……まだその才は目覚めきっていないだけ。君には無限の可能性がある。そう、世界の支配者になる可能性すら──」

「し、しはいしゃ……?」

「おっと、流石に言葉のアヤだよ?君には無限の可能性がある、それを伝えたかっただけなんだ」

 

慌てて訂正され、逆になんだか気になってしまう。とはいえ支配者だなんて現実味がなさすぎるし、梨璃は深く考えないことにした。

 

「……ふむ、そうだな。それなら、次会った時、私がCHARMの扱いを見てあげようか?」

 

唐突な提案に、梨璃は首を傾げた。

 

「CHARMの扱い、ですか?」

「うん。リリィには様々なレアスキルがある。レアスキルを基準にして戦略を立てることは、現代の基本戦術だ。ではレアスキルを除いた時、次に大切なのは何だと思う?」

「それがCHARMの扱い、ですか?」

 

少し考えて答えを出すと、チャーミィは首を横に振った。

 

「少し違うな。レアスキルの次に大切なのは、身体を動かす技術。つまり基礎練習。そしてその次に必要なのは知識。ヒュージやCHARM、戦術に関する知識だ。そして、さらにその次にCHARMの扱いが来る」

「えぇ……?」

 

せっかく流れに乗って答えたのに、と梨璃は肩を落とすが、チャーミィは構わずに続ける。

 

「だが大切だ。基礎練習や知識は学院が補ってくれるだろう。CHARMの扱いもある程度は学院がやってくれる。だが、正直に言えばCHARMの扱いに関しては学院のやり方はぬるい。何故かわかるかい?」

「……わからないです」

「CHARMが人によって違うからさ。百合ヶ丘は色々なところから一流のリリィを連れてくる。連れてこられた彼女らは一流ゆえ、特殊なCHARMを既に持っていることが多い。だからCHARMの扱いはそこまで深く教えないのさ。全てのCHARMに共通な部分くらいだろうね」

 

なんとなく、言いたいことはわかった。そして、目の前の放っておいたらずっと喋りそうな人が、CHARMが好きなのだろうということも。

 

「だから、そこを私が見ようか、と言っているんだ。……どうだい?ことこの分野において、私はかなり強い。なんせCHARMの妖精、チャーミィだからね」

 

ウインクしながら言うチャーミィを名乗るふし……女性を少々胡散臭く感じながらも、梨璃はなんとなく、この人は信じられそうな気がした。

 

「じゃあ、お願いします。そんなに頻繁に来れるかはわからないですけど……」

「うん、大丈夫だ。君が暇そうな時間を見つけてこちらから出向くさ。まだ話したいこともあるしね」

「そうですか……?わ、わかりました。よろしくお願いします」

 

頭を下げると、自称チャーミィは「うん」と返事をした。

そして、梨璃が顔を上げると……

 

「……梨璃さん?どうされましたの?」

「へ……」

 

そこには、困惑する楓の姿があったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

第7話 ユズリハ(false daphne)

──世代交代(Next Generation)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──それで、用を足しに言った梨璃は、そこでぼーっとしていたと?」

「ええ。なにやらうわ言のように呟いてたような気もしますが……」

「あっ、そういえばそうでした!」

 

いつものように流瑠、楓、夢結とお茶していた場所まで戻った梨璃は、さっきまでお手洗いに行っていたことをやっと思い出した。

 

「そういえば?……それで、梨璃さんはあそこで何をなさっていたんですの?」

「え?ええと……なんだったかな」

 

梨璃は先程の不思議な体験のことを思い出そうとしたが……何故かうまく思い出せない。誰かと会ったような、そして

 

「こう、ちゃ?」

「紅茶ですの?あ、梨璃さんの分を新しくお注ぎいたしますわね」

「え、あ、ありがとう楓さん。でも……誰かと紅茶を飲んでいたような」

「そうなの?でも立ったままぼーっとしてたんだよね?」

 

楓は梨璃に紅茶を差し出すと、流瑠の質問に「そうなんですのよ」と首肯した。

 

「ですから、何かお悩みなのかと……。何かあるのなら、是非わたくしにご相談ください、梨璃さん」

「そうそう。私も梨璃の力になりたいよ」

「遠慮しなくて良いのよ、梨璃」

 

楓と流瑠、夢結に心配げな目を向けられるが、梨璃本人にはそういった悩みは無い。どちらかと言えば流瑠のことの方が心配だ。お姉様である夢結は最近調子が良いし、楓は……まあ、心配することはないだろう。

少しばかり居た堪れないの悪い空気に、梨璃はお茶を啜った。

 

「いえ、私は大丈夫です……あっ、この紅茶」

「その紅茶ですの!?そちらは先日、母国(フランス)より送ってもらった高級茶葉で──」

 

梨璃の言葉を早とちりして楓が目を輝かせるが、「あ、ごめん、そうじゃなくて」と梨璃は遮った。

 

「この紅茶、なんだかさっき飲んだような……」

「この紅茶を、ですの?ですがこちらは、梨璃さんがお手洗いから帰っていらした時に飲んでいただこうと思って用意していたもので」

 

楓はそう説明するが、梨璃はデジャブが拭えない。香り、味ともにさっき飲んだような……しかも、さっき飲んだ方が美味しかったような。

 

「うーん……た、多分気のせいですね!あは、あはは……」

 

しかし、「さっき飲んだ方が美味しかったような気がする」などと口が裂けても言えない。梨璃は紅茶を飲み干して、精一杯の笑顔を作った。

 

 

 

 

「全く、派手にやらかしてくれたものですわ」

 

楓は、砂浜に打ち上げられた死屍累々を見てうんざりとした様子で呟いた。

いくつもの死骸。その中には肉と呼ばれる部分は無く、どれも骨や軟組織ばかり。しかも、どれもこれもが酷い臭気を放っている。これらは全て、ヒュージの死体だった。

 

「さて、ここで問題。ヒュージを形作るものとはなんでしょうか?はい梨璃ちゃん」

「え!?えっと、えっと……マギ、ですか?」

 

梨璃の少しばかり危うげな回答に、流瑠は「はい、大正解」とオッケーサインを出した。

 

「ヒュージはその身体の殆どがマギでできてるの。だからマギを失ったヒュージは、こうしてマギ以外の物質が含まれている部分のみが死体として残る」

「残った死体も、軟組織は1日、骨は数日程度で無機質まで分解されて大気に消えます」

「その死体から、こんな匂いを出すのはやめてほしいけどね……」

 

雨嘉の言葉に梨璃が「そうだね……」と同意すると、珍しく静かにしていた瑠璃が、我慢の限界が来たと言わんばかりに騒ぎ始めた。

 

「むーーーりーーーーー!!くちゃいくちゃいくちゃーーーい!!!やだやだやだもうこんなとこやだーーー!!!」

「いや、瑠璃が付いて来たいって言ったんじゃん……。今日はそんなに手が要る哨戒じゃないから待機で良いって言われたのに」

 

瑠璃を宥める鶴紗の言うように、今日梨璃たち一柳隊は初めての哨戒を行っていた。今回は、朝「ヒュージの死体が見つかった」と目撃情報のあった海岸への偵察と、その周辺の警戒、索敵が主な任務だ。

流瑠からは、「ヒュージを発見しても直ちに交戦するんじゃなく、出撃待機しているレギオンへの連絡を優先しなさい」と散々言い含められている。どこかの誰かさんが、ヒュージと見るやすぐに突っ込んでいくからだろう。

 

「だってだって!みんなだけ仲良くお散歩で私だけ置いてけぼりなんて嫌だもん!」

「いや散歩じゃないからナ……」

 

瑠璃はヒュージの死体が放つ悪臭に駄々をこねるが、これからヒュージを倒していくリリィの運命として、この臭いとは付き合っていかなければならない。

 

「でも、こんなに死体が散乱してるなんて……昨日ってこの辺で戦闘ありましたっけー?」

 

梨璃は周囲を警戒する楓に訊いてみるが、肩をすくめるばかり。無かった、ということだろう。

 

「いえ、昨日は戦闘はなかっだはずでず……」

「共食いでもしたんじゃろうか?」

「ヒュージはマギでできてますし、食事をする必要は無いはずですが……」

 

鼻をつまみながらそう返す二水を尻目に、梨璃はさらに死体が重なった場所を探る。と、そこに瑠璃が寄ってきた。

 

「りりおねーちゃーん……くちゃいよー」

「あはは、そうだね……。でももうちょっとだから」

「え、まだそっち行くの!?もっと臭くなるよ〜!」

 

文句を言いながらも着いてくるあたり、今日の瑠璃の気分は梨璃らしい。片手で制服の裾を掴み、もう片手で鼻を摘んでひっついていく。

 

「……?これ、なんだろう」

「どれどれ?」

 

と、梨璃はヒュージの肢体の隙間に不思議なものを見つけた。テカリを持った黄色いカプセルのようなもので、覗き込む梨璃と瑠璃の顔を反射している。

 

「てかてか……たまご?」

「卵……なのかな?」

 

そう言われれば、そう見えなくもない。

ともあれ、中身を調べなければ。でも中から何かでてきたらどうしよう。恐る恐るCHARMを近づけてみると……突然マギクリスタルコアが輝き、ビリビリっとCHARMから電流のようなものが卵?に流れた。

 

「うわ!?」

「にゃっ!?な、なに今の?」

 

慌ててCHARMを離して確認してみるが、CHARM自体に異常はない。未知の現象に梨璃は首を傾げた。

 

「なんだったんだろ、今の……」

「あ、あわ、あわ、あわわわわわ……!」

「どうしたの、瑠璃ちゃん?」

 

CHARMに異常がないことを確認した梨璃は、隣であわあわ言い出した瑠璃を不思議に思うが、「梨璃さーん」という二水の声に反応してしまった。

 

「何かありましたかー?……はっ!?」

「うん、なんかCHARMがね」

 

CHARMから発生した謎の電流のことを話そうとする梨璃だったが、先に「それ」に気付いた二水から声が上がった。

 

「いやいや梨璃さん!後ろ後ろ!」

「梨璃お姉ちゃん!これ!これなに!?」

「え?なに?」

 

瑠璃に裾を引っ張られて梨璃が振り向くと、先ほどまで卵のようなものがあったはずの場所には──

 

「…………へ」

「……………へ?」

「へ…………

 

 

へっくち!」

 

素っ裸の、少女がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……バイタル安定。SpO2も98%。目立った症状は少しばかりの栄養失調のみ……うん、大丈夫そうだね」

 

少女を百合ヶ丘まで連れて帰った梨璃達は、何度もくしゃみを繰り返す少女を兎にも角にも学校内の医療施設に預けた。専門のスタッフと一緒にテキパキと少女の身体を調べていた流瑠は、一連の作業がが終わったのか、着ていた医療用のガウンを脱いでそう結論づけた。見守っていた梨璃達は、流瑠からのOKサインにホッと胸を撫で下ろす。

結梨の病室から出てきてすぐに駆け寄った梨璃に、流瑠は笑顔を見せた。

 

「とりあえず大丈夫そうだったよ。至って健康体。数時間もしたら目を覚ますと思うよ」

「ほっ……よかったぁ」

「……あのこ、身元わかったの?」

 

安心する梨璃の裾を掴みながら、どこか心配そうに瑠璃が尋ねた。流瑠はその質問に首を横に振る。

 

「ううん。まだ今のところわかってないみたい。しばらくはここで預かることになるかもね」

 

流瑠の返答に「そっか」と答えた瑠璃は、梨璃の袖を掴みながら病室の中の少女を見守る。

 

「……ずっとここにいても、これ以上わたくしたちにできることはありませんわ」

「できることはしたわ、梨璃、瑠璃さん。行きましょう」

 

楓の言を受け、夢結はまだ病室内の少女を見守っている梨璃と瑠璃に言うが、二人は首を縦に降らなかった。

 

「あの……私、もう少しここにいても良いですか?」

「私も。梨璃お姉ちゃんと一緒にいる」

「瑠璃……?」

 

いつもとは何となく様子の違う瑠璃に鶴紗は違和感を感じるが、それ以上のことは言えなかった。二人の言葉にみんな一瞬押し黙るが、一番最初に首肯したのは流瑠だった。

 

「いいよ。少しだけ待っててね、物を取ってくるから」

 

そう言ってパタパタとどこかへ何かを取りに行った流瑠に、夢結も「ふぅ」と息を吐いて笑みをこぼした。「仕方ないわね」と言わんばかりに。

 

「わかったわ。じゃあ、私たちは先に行くわね」

「はい……ごめんなさいお姉様」

「謝らなくても良いわ。後でね」

 

病室に背を向けて歩き出す夢結について、楓や梅たちもゾロゾロとその場を後にする。鶴紗は最後まで瑠璃と梨璃を見ていたが、やがてその場を去っていった。

 

「……ねえ、お姉ちゃん」

「瑠璃ちゃん?」

 

二人きりになった瑠璃と梨璃は窓越しに病室の中の少女を見ていたが、不意に瑠璃が梨璃に話しかけた。

 

「なんかあの子……不思議な感じがする」

「それは……そう、だね」

 

瑠璃に言われて、改めて梨璃は自分が保護した少女をよく観察した。

薄い紫色の長髪。小柄な瑠璃と同じくらいの体格。そして、一見不健康そうにすら見える薄くて白い肌。少し栄養失調があると流瑠が言っていたから、その影響かもしれない。

しかし何よりも梨璃の心を掴んで離さないのは、少女の持つ不思議な雰囲気だった。

梨璃の中の「力」が、少女の雰囲気を感じて共鳴しているかのようだ。

多分、瑠璃が言っている「不思議な感じ」もそれなのだろう。

 

「なんだろう……。この子、なんか」

「お待たせ〜二人とも……あれ?邪魔しちゃった?」

 

と、そこへ何かを色々と携えて戻ってきたのは流瑠だった。隣には、梨璃がいつか見た銀髪の少女も一緒だ。

 

「あ……祀様!ごきげんよう!」

「あら、梨璃さん。ごきげんよう。お久しぶりね」

 

祀を見て「だれ?」と問うてくる瑠璃に、梨璃は祀を紹介した。

 

秦祀(はたまつり)様だよ。お姉様のルームメイトなの」

「夢結お姉ちゃんの?そっか。えっと、ごきげんようです。四ツ谷瑠璃です。よろしくです」

「はい、ごきげんよう。あなたが噂の瑠璃さんね。話は聞いてるわ」

「ほら、みんな立ってないで。中に入ろうよ」

 

廊下で話していた3人は、流瑠の催促に促されて、少女の眠る病室へと入るのだった。

 

 

 

 

 

 

「……なかなか、目を覚ましませんね」

「言ったでしょ?数時間はしないと多分覚めないよー」

 

3分の椅子を並べた流瑠は、ぐっすりと眠る病院着の少女の心音と肺音を聞きつつ、梨璃の言葉に答える。

3人で座るには少し手狭な病室だが、梨璃も瑠璃も、少女を側で見守りたいようだった。

 

「ところで、祀様はどうしてここに?」

「私?ほら、私は生徒会役員の見習いだって言ったでしょう?その一環で来たんだけど」

 

祀は病室のカーテンの向こうから答えた。なぜそんなところから答えるのか梨璃は首を傾げたが、祀は少し困ったように笑った。

 

「あのね、病室っておしゃべり禁止なのよ。生徒会役員見習いの私としては、本来注意しなきゃいけないのよね」

「あっ……す、すみません祀様」

 

申し訳なさそうに梨璃が頭を下げると、祀は「いいのよ、ごゆっくりー」と病室を出ていった。

 

「……何か気になるの?瑠璃ちゃん」

 

いつも元気な瑠璃は、今日に限ってずっと押し黙っている。簡単な身体検査を終えた流瑠は、そんな瑠璃に話しかけた。瑠璃は少女に何かを感じているかのように見続けながら頷く。

 

「……うん。なんかこの子、不思議なの」

「どんな風に?」

 

流瑠の質問に「うーん」と少し考える瑠璃は、なかなか自分の感覚を言葉にできないようだった。

 

「なんか、ふわふわしてるっていうか」

「現実感が無い?っていうか」

 

瑠璃に続いて不思議さを言葉に表した梨璃に、瑠璃は「そう!それ!」と同意した。

 

「なんだろう、すごく不思議な子。こんな感じ、初めて」

 

そう胸の内を告げる瑠璃と梨璃に、流瑠は「……そっか」と頷いた。

 

「二人はやっぱり、私に似てるね」

「流瑠お姉ちゃん?」

「そしてこの子も、私たちに似てる」

 

流瑠は、梨璃と瑠璃をその両腕でぎゅっと抱きしめた。どこか久しぶりに思えるその抱擁に、二人は違和感を覚える。その温かい両腕が、震えてるように思えたのだ。

 

「お姉、ちゃん?」

「二人とも、もし私が………………ううん、やっぱりなんでもない」

 

言いかけて止める、いつもの流瑠の悪い癖。何かを隠そうとしているのを察した二人は口を開こうとするが、それよりも先に流瑠は二人を離して言った。

 

「さ、二人ともそろそろ講義の時間でしょ?ほら、行かないと間に合わないよー」

 

時計を見ると、確かにもう次の講義まであまり時間がない。

 

「つ、次の講義ってなんだっけ?」

「戦術理論じゃなかった?」

 

梨璃はそれを聞いて、「そういえば!」と立ち上がった。

 

「お姉様に戦術理論の講義で教えて欲しいところがあったんだった!お姉様を探さなきゃ!」

 

梨璃は手早く荷物を纏めると、「じゃあ私行きます!」と病室を慌ただしく出ていった。

 

「あ、梨璃お姉ちゃん!それなら私が……もう、梨璃お姉ちゃーん!」

 

瑠璃も、少し流瑠を気にするそぶりを見せたものの、梨璃を追いかけて病室を出て行く。そんな二人を微笑ましそうに見送って、流瑠もまた立ち上がった。

 

「……生まれてきてくれてありがとう。私の新しい(リリィ)

 

そんな呟きを、眠る少女に残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眠る少女以外に誰もいなくなったはずの病室。そこには、いつの間にか翠の髪がたなびいていた。

 

「…………」

 

翠髪の少女は先ほどまで流瑠が座っていた椅子に座ると、眠る少女の顔を覗き込む。

 

「……やっとだ。やっと、解放の時が来る」

 

どこからか取り出した、病室内には持ち込み禁止のはずの紅茶を一口啜る彼女は、感慨深げに、しかしどこか決意に満ちた顔で少女を見つめた。

 

「私は絶対に失敗したりしない。必ず助け出してみせる。……そうだろう、みんな」

 

ざわり、ざわり。眠る少女と翠髪の少女しかいないはずの病室は、どこかから聞こえる沢山の人の話し声のようなものに包まれる。

 

「……ああ、絶対に成し遂げようとも。私たちの置いてきてしまった未練を果たそう」

 

決意の言葉と共に中の紅茶を飲み干されて空になったカップは次の瞬間、取り出された時と同じようにまた何処かへと消えた。

 

そして、先ほどまでいたはずの緑髪の少女もまた、立ち上がることすらなくいつの間にか消えてしまったのであった。

 




・チャーミィ
みんな大好き(?)マスコット。需要はどこ…?

・チャーミィを名乗る不審者
みんな大好き(?)お姉さん。素性の全てが謎に包まれている。
その正体は一体……

・浜辺で保護された少女
みんな大好き。色々とアニメやラスバレとの変更点も出てくると思われる。

というわけで、アニメ7話に入っていきます。
ここまで長かった……本当に。
7話は駆け足で進んでいく予定ですが、8話からは結構長く重くなるかも……。
今回短かった分、次は早く出します!(決意表明)

沢山のUA、お気に入り、感想などありがとうございます!!
これからも頑張っていきます!

追伸:このSS専用のTwitterアカウントを立ち上げました!
更新情報やご質問などこちらで受け付けます!
https://twitter.com/asltPreserved
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