百合思う、故に百合あり
(今回はちょっとだけ早くあげられました!!)
私は一人、ラウンジのソファに座って懐かしい教本を開いていた。一年次に使う、戦術理論Iの教科書だ。
教本の表紙には、可愛らしい丸文字の「一柳梨璃」のネームシールと、四葉のクローバーのシール。私のそそっかしいシルトが置いていったものだった。
『あっ、お姉様!』
『あの子ですか?まだ寝てます。ぐっすり』
『私、お姉様に戦術理論の講義で教えてほしいことがあったんですけど──』
『ああー!間に合わなかったぁ〜!これから講義なんです!』
『ごきげんよう、お姉様!』
そう言って嵐のように去って行ったシルトは、置き土産のようにこの教本を忘れていった。全く、本当にそそっかしいシルトだ。
だが、そんなところもまた彼女の魅力であることを私は知っている。一つ一つ、彼女の全てを可愛らしいと思ってしまうのは姉バカだろうか。
今回の件もそう。浜辺で保護した少女に梨璃は入れ込んでいる。自分で見つけたから気になっているのだろう。それは彼女の美徳であるとも、悪癖であるとも取れるが、私はそんな彼女の優しさを尊いと思うのだ。
「…………」
先ほどまで一緒にいた隊のみんなは、講義に行ってしまった。だから私は、ここで一人教本をペラペラと捲る。
梨璃の教本は、意外としっかり使い込まれている。ちゃんと勉強している証拠だ。そこは姉として嬉しいのだが、ところどころ間違って覚えているような書き込みも見られる。後で教えてあげなければならないな、と思いつつ、ふと顔が綻んでしまった。
「ゆーゆ。何読んでるの?」
「お姉様」
いつの間にか、私の隣には流瑠お姉様が座っていた。お姉様は隣から梨璃の教科書を覗き込む。途端、ふわりと良い香りが漂った。
「梨璃の教本?もー、梨璃ったらそそっかしいんだから」
「ふふ……そうですね。でも、それがあの子の可愛いところでもありますから」
そう答えると、一瞬お姉様はびっくりしたような顔になって、すぐに顔を緩めた。
「……夢結、最近よく笑うようになったね」
「そう、ですか?」
言われるが、自分ではよくわからない。気が抜けている、ということだろうか。
「違う違う。良いことだよ、夢結ずーっと難しそうな顔ばっかりしてたから。笑顔の夢結の方が可愛いもん」
そう言って、お姉様は私の腕に抱きついてくる。恋人のようで恥ずかしいが、そもそも私たちはそういう関係だった。だからといって恥ずかしいものは恥ずかしいが。
「…………そういえばさ。最近、夢結とは二人きりになる機会ってあんまりなかったよね」
抱きつきながらそう呟くお姉様に首肯する。言われてみれば、最近は梨璃や楓さんがずっと側にいて、こうしてお姉様と二人きりになる機会は無かった。
そう思うと、少しだけ罪悪感というか、居心地の悪さを感じる。
「夢結はさ、梨璃たちと居て楽しい?」
少しの沈黙の後、お姉様から聞かれ、私はおずおずと頷いた。
「……そう、ですね。あの子たちといると、ハラハラして、目が離せなくて……」
「そっか」
また沈黙。いつも話すことが好きなお姉様がこんな風に途切れ途切れにしか言葉を発さないのは少し珍しい。
「……じゃあさ、私は?」
呟き、不意に顔を近づけたお姉様に私は抵抗できなかった。
「え……」
「私は、どう?夢結は私といて、楽しい?嬉しい?」
「えっと、楽しいし、嬉しいです」
答えると、お姉様は満足げに笑って、さらに口を開いた。
「じゃあ……私のこと好き?愛してくれてる?」
「それは、もちろん──」
「好きだ」「愛している」。私はどう言おうとしたのだったか。
「夢結」
「───っ」
そんな直前の思考など、次の瞬間私の唇に充てがわれたお姉様の唇の感触の前に掻き消えてしまった。
「ゆゆ、すき、ちゅるっ、しゅきぃっ」
「おね、ひゃま……っ、そんな、んちゅ、急にっ」
後ろから回された片腕で顔をお姉様の方へ固定され、逃げられない。私の唇に交差するように重ねられたお姉様の唇からは、熱いモノがぬろりと私の中に侵入してくる。
「は、ぁ……ゆゆ、ゆゆぅっ……」
「ゃ、あぁ……っ、ちゅっ、くちゅっ、ぷぁ。
こ、こんなところで……誰かに見られたらぁ……」
ラウンジのど真ん中で、お姉様に求められる。それはなんとも恥ずかしい体験だった。たしかに今は誰もいないが、いつ誰に見られるかわからない。私たちのように講義のない生徒だっているはずなのだから。
沈み始めた夕陽が私たちを浮き彫りに照らし出す。まるで、この空間で殊更に私たちの秘め事が強調されているようだ。
「ごめん、夢結……私、ずっとこうしたかったの。
2年前、夢結と離れてから。ずっと寂しかった。ゆゆが欲しかった。すき、夢結、大好き……」
何故私なのか。その明確な答えを、お姉様は口にしなかった。
でも、言わなくてもわかる。きっと私と同じだ。
美鈴お姉様がいなくなって、お姉様には私が、私にはお姉様が。本当はお互いが必要だったのだ。同じ痛みを経験した二人として。なのにお互いにすれ違って、意地を張って。私たちは2年間を欠けたまま過ごしていた。
きっとこの胸に湧き上がる強烈な衝動は、その2年間の反動なのだ。ずっと埋まらなかった私たちの心を埋めようと、お互いを求め合う。欲しくて欲しくて、堪らなくなる。
「ふあん、だったの。夢結が私と一緒にいてくれるのは、梨璃が一緒だったからじゃないかって。梨璃さえそばにいれば、夢結は私なんていらないんじゃないかって……」
「そんな、そんなの、わたしだって」
それは私のセリフだ。お姉様はいつも私以外の誰かと一緒にいて、私は本当にお姉様に必要にされているのか不安だった。こんな風に想っているのは私だけで、お姉様には想われていないんじゃないかって。
「ゆゆぅ……っ」
「んむっ、おねえしゃま、おね、しゃまぁっ」
どちらからともなく、またキスを求めた。ゼロになった私たちの距離が、互いの思い人を瞳に映し出す。
いつも他の誰かを映しているはずの赤い瞳は、今はトロンと熱情に蕩け、私だけを映している。
私に夢中になっている。お姉様が私だけを見ている。梨璃や楓や、美鈴お姉様。他の誰でもなく、私だけ。
そう思うとゾクゾクして、お姉様がもっともっと欲しくなってしまう。
「ふ、はぁ……あは」
「ふにゅ……んぁあ……」
私の口を味わうために伸ばされたお姉様の舌を、唇で挟んで捕らえる。ピクン、と反応したお姉様に気分が良くなって、お姉様の舌を咥え込みながら舌の先でチロチロと弄る。
舌の先同士が粘膜を通して擦れ合って水音を立てる。
いつ誰に見られるかわからない。そんなスリルが私の胸をドキドキと脈打たせ、そのドキドキがさらに私を激しい行為へと駆り立てる。
多分今の私は、だらしない顔になってしまっているのだろう。目の前のお姉様と同じくらい。
身体を寄せ合い、顔を極限まで近づけ、これ以上無いくらい唇を押しつけ合う。互いの唾液が入れ替わってしまったのではないかと思えるほどねちっこいキスの後、やっと離された舌と唇は、ぬらりと光るコーティングをされていた。
「おねえさま……」
自然と、お姉様の太ももに手が伸びる。このまま、お姉様と──
「お姉様ーーーーー!」
と、思っていた矢先。私の耳に入ったきたのは梨璃の声だった。
「り、梨璃?」
予想外の声に驚いて、お姉様の太ももに這わせていた手は跳ねるように退かされた。
見られてしまっただろうか。幸い、梨璃以外にリリィの姿はない。声の主である梨璃はラウンジに駆け込んでくると、遠目に私たちを見つけて手を振った。
「お姉様ーー!お姉ちゃんも!すいません、また後で!ごきげんよー!」
そう呼びかけると、梨璃は反対方向に走っていってしまった。どうやらあの浜辺で保護した少女のことが気になって仕方ないのだろう、私たちの秘め事は見えていなかったらしい。
「……講義、終わったみたいだね」
流瑠お姉様は少しだけ残念そうに言うと、私の耳元に口を寄せた。
「……ねぇ、さっき何しようとしたの?」
「それは……」
さっきというのは、私がお姉様の太ももに手を伸ばした時のことだろう。お姉様の声色は悪戯っぽくて、私を揶揄っているのが丸わかりだ。思わず顔が赤くなるのを感じる。
「……夢結、私とシたい?」
今度は少し真面目なトーンで訊かれ、私は「えっ」と反応してしまった。
「梨璃や楓がいなくても……私とシたいって、思ってくれる?」
「それは、その」
口に出すのは流石に恥ずかしい。でも、お姉様と二人きりでこういうことをするのを、嫌だとは全く思わなかった。
最近はずっと梨璃や楓さんと一緒にいて、お姉様と一対一で向き合う機会なんてなかった。もちろん梨璃のことも好きだし楓さんのことだって嫌いじゃないが、私だってお姉様と二人きりで過ごしたくもなるのだ。そして、その中でお姉様を求め、お姉様に求められることがあれば、きっと幸せだろうとも思う。
……それに、さっきお互いの思いを共有して求め合えたのは、凄く嬉しかったし幸せだった。
そんな内心をどうにか言葉にして伝えようと四苦八苦していると、お姉様は不安げに目を伏せた。
「……私、ここにいてもいいのかな」
「──っ、良いに決まってます!」
反射的に、大きな声が出てしまった。しまった、と口を塞ぐが、段々と人の増えてきたラウンジでも声は響いていたらしく、増えてきた周囲のリリィ達が興味深げに私達に目を向けていた。お姉様自身も、ぱちくりと目を見開いている。
「……そんなの、良いに決まってるじゃないですか。お姉様は私の居場所です。私の大切な人です。その、私は口下手だから気持ちを伝えるのは苦手だけれど……でも、流瑠お姉様にはずっと一緒にいて欲しい。そう思ってます」
紛れもない本心をお姉様に伝える。もっと伝えたいことはあるはずだけど、今の私にはこれが限界だった。言葉にできないし、何よりも恥ずかしい。
でも不安そうなお姉様を見ていられなかったし、お姉様が私達に隠している不安を、少しでも減らしてあげたかった。そう思ったら、思わず大きな声が出てしまっていたのだ。
お姉様が何を不安に思っているのか、私には計り知れない。この前、御前というリリィと戦ってからお姉様はたまに不安げな顔を見せていた。お姉様は強情な方だから、私たちを巻き込みたくないとか何とかでその不安の種を教えてくれないかもしれない。でも、私の居場所がお姉様であるように、私もお姉様の居場所になりたい。そんな思いを込めて、言った。
お姉様は少しの間ぽかんと呆けていたが、やがて優しく微笑み、私の頬に唇を押し当てた。
「ありがと。じゃあ、もう少しこうしてても良い?」
「……もちろん」
「えへへ。ゆゆ、だいすき」
そう言って私の肩に頭を預けるお姉様は、どこか安心した様子だった。さっきまでの激しく私を求めるお姉様とは違う、私に全てを預けてくれるような様子。「私もです」と頷くと、お姉様は目を閉じた。
「……お姉様?」
夕暮れに照らされたソファの上。私に身体を預けたお姉様は、すぅすぅと寝息を立て始めていた。きっと疲れていたのだろう。
そういえば、お姉様が寝ているところを見るのは久しぶりかもしれない。誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きる。それがお姉様だ。いつも緊張していて、眠りも浅いから、何かあったらすぐに目を覚まして活動を始める。多忙な人だから仕方ないけれど、本当に休めているのか心配だった。
でも、そんなお姉様が私の肩で、私に全てを預けて眠っている。それがなんとも嬉しい。深く眠っているようで、髪を撫でたり、ぷにぷにのほっぺを恐る恐る触ってみても起きなかった。
「お姉様……かわいい」
安心しきった寝顔は、まるで天使のようだ。誰も知らないであろうお姉様の姿を私が独占している事実に、愛おしさが込み上げてくるようだった。
「ふぁ……」
お姉様の寝顔を見ていると、私まで眠くなってしまった。こんなに気を抜いたのは久しぶりかもしれない。
梨璃が助けてきた少女のこととか、梨璃に返し忘れた教本のこととか、考えなければならないことは沢山ある。でも、この穏やかな時間の中でくらい、その全部を忘れても良いかと思ってしまった。
「おやすみなさい、お姉様……」
私も、お姉様に寄りかかって目を閉じる。夕暮の静けさとお姉様の匂いに包まれたまま、私は気持ちよく意識を落としたのだった。
「あれぇ?えーっと、あの教本どこやったっけ……?」
「梨璃お姉ちゃん、どう?見つかりそう?」
「うーん、見つからない〜。ここにもない……」
保護された少女の病室では、梨璃と瑠璃が梨璃の鞄を漁っていた。気になる少女を見守りつつ、勉強を進めておこうと言う魂胆だったのだが、そのための教本がなかなか見つからない。
「はぁ〜、どこに置いてきちゃったん──」
「へっくし」
──と、二人の耳に聞きなれない声が届いた。
見ると、ベッドから少女が上体を起こしている。目もぱっちりと開いて、どうやら目が覚めたようだ。
「──!お、起きた!起きたよ梨璃お姉ちゃん!」
「うん!ぐ、具合はどう!?気分は?」
「お名前は!?あ、私は四ツ谷瑠璃っていうの!」
「………………?」
二人に質問攻めにされ、少女は黙りこくったままだ。目をぱちくりとさせ、どうやら現状が理解できていないらしい。
「あ、急に色々言われても困るよね……」
「あ、そっか……ごめんね。私、一柳梨璃っていうの」
「る、り……り、り」
二人の名前を反復した少女は……何がおかしいのか、「ぷっ」と吹き出した。
「わらった!わらったよ!」
「うん、うん!」
嬉しそうな瑠璃を見て、梨璃も嬉しくなってしまう。
顔を真っ赤にして笑う少女の可愛らしい笑みに釣られ、梨璃も瑠璃も笑顔になる。そして、テンションが上がって二人が少女の手を取った時。
「──え?」
「これ、もしかして……」
二人の指輪が、新たなマギの力に輝いたのだった。
「それで、二人はあの子のお世話係に、と」
「はい……」
「その、私頑張るから!だからお願いします!」
次の朝。梨璃と瑠璃は、レギオンの控え室でレギオンメンバー達を前に頭を下げていた。
あの後、少女に大層懐かれた二人は、「行く、ない!」と制服を掴まれ、中々病室から出してもらえなかったのだ。手を離そうとしない少女に困り果てていた折、祀から1週間ほど少女の「お世話係」になることを提案され、二人がそれを引き受けて現在に至る。
特に瑠璃は病室棟が閉館になるまで少女と遊ぶほど
レギオンのことや学業のことは学院側からサポートが約束されており、レギオンの運営自体には支障ないようにするとのことだ。
「……差し出がましいようですが、お二人とも。少々入れ込みすぎではありませんか?」
が、それでもレギオンの人手が取られていくのは事実だ。ヒュージの討伐や哨戒任務も梨璃や瑠璃抜きで行わなければならないし、レギオンリーダーである梨璃が抜ける穴は大きい。それも、記憶を無くしたどこの誰ともつかぬリリィのために。
そう、保護された紫髪の少女はリリィだった。出身地はおろか、自分の過去や名前すらも全て忘れてしまった哀れな漂流者。
少女がこの百合ヶ丘女学院に保護されたのは、大変な幸運だと言って良いだろう。どこぞの研究機関などで保護されれば、記憶の無いのを良いことに非人道的な研究の被験者になってしまっていたかもしれない。少なくとも百合ヶ丘は、少女を正式にリリィと認め、保護するように動いている。百合ヶ丘でなら、大きな危険は無いだろう。
だからこそ、レギオンメンバーからは梨璃と瑠璃が少女の面倒を見なければならない「必然性」について、疑問の声があがる。
神琳達だって意地悪で言っているわけではない。リーダーとしての自覚。リリィと世話係の二足の草鞋。そういったもので梨璃や瑠璃が潰れてしまわないだろうか、という心配からの意見だった。
でも、と梨璃は反論する。
「あの子にだって、家族や大切な友達がどこかにいるんです!それを思い出せないって、自分の全部が無くなっちゃったのと同じだと思うんです!だから──」
「…………」
「だとしても、それが梨璃さんや瑠璃さんの役割である必然性が無いことは、わかっていらっしゃいます?」
「それは……そうなのかもしれないけど……」
「…………」
「あの、お姉ちゃん……」
梨璃は助けを求めるように流瑠の方を見る。優しい流瑠なら、少女の世話をすることを後押ししてくれるんじゃないかと。
「……今の私は梨璃のレギオンの一員。私から梨璃の選択に口出しはしないよ。一柳隊のことは、リーダーである梨璃が決めなきゃ」
しかし、縋るような目線に返されたのは突き離すような言葉だった。流瑠の瞳は梨璃を試すように細められている。
「っ……はい……」
手助けは期待できそうにない。あくまでも「自分で決めろ」と流瑠は言う。それがこのレギオンの長である梨璃の役目なのだ、と。
みんなの視線が刺さる中、梨璃は一度深呼吸して、何かを決意したように顔を上げた。
「……私は、あの子のそばにいてあげたいです!それが私の役目じゃなかったとしても……私、あの子を放っておけないんです!」
梨璃の決意を聞いて、夢結は目を伏せた。自然、副隊長である夢結の言葉を待つように、しんと控室は静まり返る。
「……瑠璃さんは?」
誰もが事の行く末を見守る控室に、夢結の声が響く。静かながらも二人の意思を見定めんとする意志の込められた言葉が向けられた先は、先程から頭を下げたまま黙りこくる瑠璃だった。
「…………っ」
「瑠璃……」
鶴紗が心配そうに瑠璃を見つめる。
あの少女を見つけてから、瑠璃は明らかに変だった。少女のことを気にかけすぎているというか、何かに焦っているような。そんな瑠璃の変化を、鶴紗は敏感に感じ取っていた。
瑠璃は口をキュッと結んでいたが、やがて頭を下げたまま口を開いた。
「……私、研究所からここにきて、鶴紗との記憶を無くしてた」
ポツポツと語り始める瑠璃は、どうすれば自分の気持ちを伝えられるかと言葉を選んでいるようだった。
「怖かった。私にある記憶は、仲間に裏切られた記憶とG.E.H.E.N.Aでの酷い実験の恐怖だけ。
レギオンの仲間たちは、瑠璃の言葉に静かに耳を傾ける。自分の拙い言葉を聞いてくれる仲間達を、瑠璃は顔を上げてしっかりと見据えた。
「でも、流瑠お姉ちゃんや梨璃お姉ちゃんが私を掬い上げてくれた。記憶なんて無くたって、……自分が誰でもなくったって。お姉ちゃん達がいれば大丈夫だって思えたの。新しい自分を、思い出を、ここから作り上げていけばいいんだって。
その後鶴紗にまた会えて、記憶も戻って。私、気付いたら大切なものがいっぱい増えてた。鶴紗と一緒にいた私も、お姉ちゃん達がくれた私も、きっと両方とも私なの。どっちも大切なの」
「……瑠璃」
「私と梨璃お姉ちゃんが抜けてレギオンのみんなに迷惑になるのはわかってる。でも私、あの子にもそうなって欲しいの!いつか記憶が戻る時が来ても、私たちと作った思い出も、戻った記憶も、どっちも大事だって思って欲しい!それに、いつ記憶が戻るのかだってわかんないし、もし戻らなかったら、あの子の記憶って私たちと作った思い出だけだもん!だから、だから私──」
「瑠璃」
必死に思いを言葉にしていた瑠璃は、ポンと肩に手を置かれる感触に気付いて言葉を止めた。
見れば、隣には梅がいる。梅は瑠璃にニカッと歯を見せて笑うと、瑠璃の隣に立ってメンバー達の方を向いた。
「梅は瑠璃達に賛成だ!隊長と後輩がこんだけ言ってるんだ、サポートしてやるのが梅達の役目だロ?梅もあの子、気になるしナ!」
「梅お姉さん……!」
「よく言ったナ、瑠璃。えらいえらい!」
そう言ってクシャクシャと髪を撫でる梅に、瑠璃は笑顔が溢れてしまう。
「わたくしも、梨璃さん達に賛成です」
次に立ち上がったのは、意外にも神琳だった。
「神琳、さん?」
先ほどまで苦言を呈していたのにどうして、と首を傾げる梨璃に、神琳はクスリと笑った。
「少々意地悪しすぎてしまいました。梨璃さんと瑠璃さん、特に隊長である梨璃さんが、隊を空けるということをどれくらい重く見ているのかちゃんと見定めておこうと思いまして」
「え、それじゃあ……」
神琳は梨璃の隣まで歩いてくると、メンバー達の方をくるりと振り返った。
「リリィは助け合い。あの子もリリィとわかった以上、わたくし達の仲間。……こんな時代だもの。誰だって、身近な誰かが傷ついているわ」
「神琳さん……!」
「手の届くところにいるなら、手を伸ばしたいよね」
「雨嘉さん!」
神琳に続き、雨嘉も梨璃達の側に立つ。梨璃に向かって一つ頷く彼女の顔は優しさに満ちていて、隊が結成した頃よりもさらに頼もしく見えた。
「私も、梨璃達に賛成。譲れない、自分が守りたいっていう気持ち、私にもわかるから」
「しぇんお姉さん、ゆーお姉さん……」
雨嘉もまた、故郷を自分の手で守りたいと願ってきた誇り高きリリィ。守りたいものを自分の手で守る、その志は同じだと言う。
「ワシも協力させてもらうぞい。工廠科としての力、存分に役立ててほしいのじゃ」
「私もお手伝いします!データベースに無い謎のリリィ、これは良い記事が書けますよ〜!」
「ミリアムさん、二水ちゃん……」
ちびっ子組も梨璃達への賛成を表明し、残ったのは夢結、楓、鶴紗、流瑠の4人。既に多数決では勝っている状態だが、梨璃は「みんなに納得してもらいたい」と考えていた。
「鶴紗さん……その、どうでしょうか」
おずおずと梨璃が尋ねるが、鶴紗は気まずそうにそっぽを向くばかりだ。
「鶴紗、どうしたの?なんか変だよ?」
瑠璃も鶴紗と視線を合わせようとするが、鶴紗は逃げるように顔を背けた。
「変なのは瑠璃の方じゃん……」
「え?なに?」
隣にいた夢結に聞こえるか聞こえないかくらいの鶴紗の呟きは、もちろん瑠璃には聞こえていない。
「ちゃんと言ってよー、どうしたの鶴紗?」
本当にわかっていなさそうな瑠璃が鶴紗の顔を覗き込む。視線から逃れられなくなった鶴紗は、顔を真っ赤にして叫んだ。
「〜〜〜〜っ!!だから、変なのは瑠璃の方じゃん!」
「ほえっ!?」
普段大きな声など出すことのない鶴紗の叫びに、リリィ達は目を丸くする。その中でも最も驚いているのは瑠璃だった。なにせ、自分が変だという自覚が無いのだから。
「瑠璃、なんであの子のことがそんなに気になるの!?昨日もずっと付きっきりだったじゃん!遅くまであの子の世話して、帰ったらすぐ寝ちゃって、そんなのがあと1週間!?なんで瑠璃がそんなことしなきゃいけないの!?」
鶴紗はそこまで一気に言うと、慣れない大声を出したせいか、ぜーはーと肩で息をする。
瑠璃はそんな鶴紗に目をぱちくりとさせた後、呆けたように口を開いた。
「……つまり、鶴紗は……嫉妬してるってこと……?」
「うっ」と慄いた声をあげる鶴紗は、誰が見ても図星を突かれたと顔に書いてある。しばらくもじもじした後、「…………わるい?」と呟いた。
「〜〜〜〜もう鶴紗可愛すぎ!!!」
「や、ちょ、やめ……!」
「私が鶴紗を蔑ろにするわけないじゃん〜!もうもうもう!」
堪らないとばかりに抱きつきながら頭やら顎やらを撫でてくる瑠璃に、鶴紗は「うぅ……」とさらに顔を赤くする。
まるで子猫のじゃれあいのような可愛らしいやりとりに、控室はほっこりとした空気になってしまった。
「あらあら……」
「なんじゃ、二人は本当に仲が良いのぅ」
リリィ達が暖かい目で二人を見るものだから、鶴紗の顔の赤さはもう煙を上げるほどだ。
「不安にさせちゃったんだね。……ごめんね鶴紗。
でも大丈夫。鶴紗はいつだって一番だよ」
「…………ばか」
消えいるような音量での言葉を最後に、鶴紗は反対の声を上げなくなった。これで、残るは楓と夢結と流瑠だけだ。
「……梨璃」
「は、はい!」
3人のうち、先陣を切ったのは夢結だった。夢結は伏せていた目を開き、厳しく言葉を紡ぐ。
「あなたは一柳隊のリーダーよ。その穴は、誰にも埋め合わせることはできません」
「うぅ……」
「埋められないものは埋まりません。……が、それでもなんとかするしかないでしょう。安心なさい」
「……!お姉様っ!」
厳しい視線から一点、夢結は表情を微笑に変える。
「あなたは自分の意見を「我儘」だと思っているかもしれないけれど、それは「思いやり」よ。百合ヶ丘のリリィとしての美徳でもあるわ。胸を張って、堂々となさい」
「……はいっ!」
自分の正義、優しさを貫こうとすることのできるシルトの硬い意志を見て、夢結の顔は誇らしげだ。
「それから瑠璃さん」
「は、はいっ」
瑠璃は夢結に視線を向けられ、ピシッと背筋を伸ばした。
「そう畏まらなくていいわ。……あなたの思い、ちゃんと伝わったわ。言ってくれてありがとう。
誰かの世話をするというのは、大きな責任が伴う行為よ。あの子の思い出が良いものになるのも悪いものになるのも、あなた達次第。……頑張ってね」
「……うん!」
夢結が賛成に回り、梨璃も瑠璃も笑顔で頷き合う。
そして、隣で夢結の言葉を聞いていた楓も口を開いた。
「わたくしだって、異存ございませんわ。他ならぬ梨璃さんが決めたことですもの。梨璃さんの決断というだけで、それは既に尊いものなのですから」
まだ少し不満がありそうな顔だが、楓も賛成する。
先ほどの鶴紗の姿を見ていた梨璃は、その態度を見て楓の内心を察した。嫉妬しているのかな、と。
「……楓さん」
「え?な、なんですの?」
梨璃は楓に近づくと、楓の身体をぎゅーっと抱きしめた。
「ほ、ほぁっ!?」
唐突な刺激に、楓の身体が跳ねる。しかし梨璃は楓の身体が逃れようとするのを抑え込み、耳元に口を持ってきた。
「……ごめんなさい、楓さん。私、楓さん(とお姉ちゃんとお姉様)が一番だから、ちゃんと戻ってきますから。……それに、たまには会えない日があっても良いと思うんです。その方が後で……ね?」
梨璃に囁かれて、楓は妄想してしまう。長きに渡り(1週間)離れ離れだった梨璃と楓。幾年(1週間)もの時を越えてやっと再開した二人はその夜、それまでの空白を埋めるかのように激しくお互いを求め合い……
「ぶほっ!!!」
「か、楓さーん!?」
楓はそこまで妄想して、鼻血を噴いて倒れた。鼻血のあまりの量に、床が血に染まっていく、
「ふ、ふふ……愛にはスパイスも必要、ということ……です、わ、ね…………がくっ」
その言葉を最後に、楓は動かなくなった。そばには、鼻血で「小悪魔梨璃さん」とダイイングメッセージ。
あまりにもあっけない、「百合ヶ丘の至宝」の退場。控室には、それを悲しむ悲鳴が響くばかりだった…………。
「か、楓さーん!!鼻血キャラは私のものだったのではー!?」
「で、あとはお姉ちゃんなんですけど」
血溜まりに沈む楓(と鼻血キャラを取られた二水)をそのままに、梨璃は話を進めた。
梨璃としては、みんなに納得してもらった上で少女の世話をしたいと思っている。だから、流瑠にも納得して欲しいと考えていた。
話を振られた流瑠は、「私?」と首を傾げる。
「お姉ちゃん、どうですか?」
「どう?って、何が?」
「え?それはその、お世話係にお姉ちゃんも賛成して欲しいって……」
本当にわかっていなさそうな様子で訊く流瑠に、梨璃も違和感を抱き始める。まるで流瑠は、「もうその話は決着がついた」と言っているようですらあり……
「え?私はさっき言ったじゃない。『レギオンメンバーだから梨璃の決定に従う』って。梨璃が決めたことなら私は着いて行くよ」
「へ……?」
あまりにもあっさりとした賛成票。梨璃の口からは呆気にとられたような声が漏れ出た。
「もし梨璃と瑠璃が引き受けてくれなかったら私が面倒見てたしね。忙しいから助かるよ〜。ありがとね〜」
「え、え?」
あっけらかんと言う流瑠に、瑠璃と梨璃は戸惑い、夢結からは「はぁ……」とため息が溢れる。
「お姉様、一人で世話をするつもりだったでしょう?しかも教導官とリリィをやりながら」
「え?うん。そのつもりだったけど」
何でもないように頷く流瑠のワーカーホリックっぷりに、ついに夢結は頭を抱えた。
「……梨璃、瑠璃さん。グッジョブよ。是非あの子のお世話をお願いね」
「あ、はい……」
「うん……が、がんばるね……」
「なになに?どうしたの?なんで若干引き気味なの?」
未だにわかってなさそうな流瑠を置いて、二人が少女のお世話係を担当することで全員の意見が一致し、緊急レギオン会議は終わりを告げたのだった。
「しかし、瑠璃さんがあの子にあんなに入れ込むなんて意外でしたね」
梨璃と瑠璃が少女のお世話のために控室を去った後、二水はそう独りごちた。それに「いや」と反応したのは鶴紗だった。
「瑠璃は元々ああいうやつだよ。女の子好きで、お人好しで、前向きでコミュ力が高い。そういう奴だった」
それを聞いて、血溜まりから復活した楓が「ふぅん?」と髪をかき上げた。
「の割には、先程は瑠璃さんのことを変だなんだと仰ってましたが」
「む……」
痛いところを突かれて、鶴紗はまた赤くなりかけるが、観念したように息を吐いた。
「……さっき思い出したんだよ。元々瑠璃はああいう奴だってこと。最近の瑠璃はほとんど私と一緒に行動してたから忘れかけてた。……本当のあいつは、誰とでも仲良くなれるやつなんだよ」
後に続く「私と違って」と言う言葉を、鶴紗は飲み込んだ。その顔には、嫉妬や羨望、不満など複雑な表情が浮かんでいる。
「……ま、気持ちは理解しますわ」
「ええ。私たちにもよく分かるもの」
言いながら、同情するように鶴紗の肩をポンポンと叩いたのは楓と夢結だった。
「え、なに……」
「手の広い恋人を持つと大変ですわよね」
「全くよ。梨璃も流瑠お姉様も……」
「なんか同情された……」
「ま、まあまあまあ!御三方ともそれくらいで!」
変な流れになりそうなことを察した二水は、「そ、それはそれとして!」と強引に流れをぶった切った。
「しかし、不思議ですよねぇ。あの子がリリィならどこかにデータがあるはずなのですが……」
二水がつぶやくと、神琳が「最近リリィになったばかり、とかでしょうか?」と反応した。二水も「あ、それなら!」と一度納得しかけたが、「でも……」とまた思案顔に戻ってしまう。
「流瑠様は何かご存知ですか?噂では、全世界のリリィの顔と名前を把握してるとか……!」
行き詰まった二水は流瑠の非現実的な噂に縋るが、流瑠は首を横に振った。
「ううん。私が知ってる限りあんなリリィはいないよ」
「うーん、そうですか……ところで、さっきの噂って本当なんでしょうか?」
「さあ、どうだろうね?」
「あ、あは、あはは……」
流瑠は笑顔だが、なんだか若干目が怖い。これもあまりよくない話題だったか?と二水は流瑠から目を逸らした。
「それなら、わたくしのお父様にも訊いてみますわ〜。超一流CHARMメーカー・グランギニョルの情報収集能力は、この学院以上ですもの〜!」
楓が言うが、ソファに深く座り込んで足を組んだその姿は超一流CHARMメーカーの御令嬢とは思えない。
「うへぇ、いけすかねぇ」
「事実ですわ〜」
家柄の良さを鼻にかけていると取られかねない態度の楓に苦笑しながら、流瑠は思考の沼に浸っていた。
その顔には、珍しく険が浮かぶ。
(知らないって言ったけど、大体想像は付いてる。私の知らないリリィなんて世界に存在しない。でありながら、私の知らない彼女が実際にここに存在してる。つまりそれは、正式な手順を踏んだリリィではないということ。
考えられる可能性は2つ。G.E.H.E.N.Aによって普通の子が無理矢理にリリィにされた子か、もしくは────
G.E.H.E.N.Aによって、「造られた」リリィか)
「ルリ、あーん」
「はい、あーん♪」
一方少女の病室では、梨璃と瑠璃による少女のお世話が既に始まっていた。食事を手伝うことになった二人は、病院食に近い食べ物を少女の病室まで持ってきたのだが、さっそく瑠璃は少女に食べ物を与える。少女はまるで雛鳥のように口を開けて食べ物が来るのを待っていた。
「リリ、あーん」
「もう、自分で食べられるでしょ!」
嬉々として少女に食べさせてやる瑠璃とは反対に、梨璃は少女に自分で食べてもらおうとしていた。少女は長い間動けない状態だったのか、足は殆ど機能していなかったが、手はある程度動かせるようになったので、自分で食事をすることもできたのだ。
しかし、梨璃がいくら自立のために食事を促しても、少女は「リリが良いんだもん」とまた口を開けて待つ。
「自分で食べるの!」
「まあまあ、いいじゃん梨璃お姉ちゃん〜。ほらー、また私が食べさせてあげるね〜」
「わーい!ルリ、あーん!」
「瑠璃ちゃんも甘やかしすぎ!」
「だってぇ、パクパク食べてくれたら嬉しいんだもん!はぁ、かわいい〜」
瑠璃は少女の食べっぷり……というか少女自身が大層気に入ったようで、一口食べさせるたびに恍惚としている。その姿はまるで初めて妹ができた子供のようだった。
「だから、ちゃんと自分で食べなきゃ……」
「ふふ。梨璃さん、まるでお母さんみたいね。瑠璃さんはお姉さんかしら?」
少女の世話を巡って対立する(?)二人の前に現れたのは、祀だった。生徒会役員見習いとしてちょくちょく少女の様子を見に現れる祀は、二人の様子を見て微笑んだ。
「おかーさん……?」
「せ、せめてわたしもお姉さんと言ってください!」
「瑠璃お姉さんだよ〜♪」
「おねーさん……?」
わかっていなさそうな顔でオウム返しする少女を見て、祀は「そういえば」と二人に顔を向けた。
「そろそろこの子に名前をつけてあげたら?」
「……たら?って、ええ……?」
「名前がないと何かと不便でしょう?」
祀の言う通り、二人は少女のことを「この子」とか「あの子」とかでばかり呼んでいる。いつ記憶が戻るかわからないし、仮にでも呼び方を決めるのは急務だった。
「でも、私……」
「はいはい!私決めたい!!」
躊躇う梨璃の横で、瑠璃は元気よく手を上げた。「名付け親になる」という未知の体験を前に、目がキラキラと輝いている。
「じゃあ瑠璃ちゃんにお願いしようかな……」
「何言ってるの!?お姉ちゃんも一緒に考えるの!」
「え……い、いいのかなぁ?私がこの子の名前を付けて」
「名前をつける」ということを、特別な行為だと梨璃は認識している。自分がつけた名前で、この子がずっとそう呼ばれることになるかもしれない。それに、記憶が戻ったらこの子は自分達がつけた名前じゃなくなるかもしれないのだ。そう思うと、腰がひけてしまう。
「大丈夫だよ、お姉ちゃん」
「瑠璃ちゃん……?」
そんな梨璃の内心を察してか、瑠璃は梨璃の手を取った。
「さっき言ったじゃない。私たちと作った思い出も、戻った記憶も、どっちも大事になるようにすれば良いんだよ。そうすれば、もし記憶が戻って名前を思い出しても、私たちがあげた名前だって大切なものになってるはずでしょ?」
「瑠璃ちゃん……」
「私たちは、この子にただ他人に呼ばれるための名前を付けてあげるだけじゃない。この子と紡ぐ思い出に、名前をつけてあげるの」
言いながら、瑠璃は少女の頭を優しく撫でる。慈愛を讃えたその顔は、どこか流瑠に似ているような気がした。そんな瑠璃に撫でられながら、少女も気持ちよさそうに身体を預ける。
「……思い出に名前を、か」
「ふふふっ。瑠璃さん、結構ロマンチストなのね」
「ろまっ……!?」
梨璃が呟くのを他所に、カーテンの隙間から祀が愉快げに瑠璃のことを見ていた。
「ま、祀お姉さん聞いてたの!?」
「そりゃもうばっちりね。うん、いいじゃない。思い出に名前。ね、梨璃さん」
「……そうですね。瑠璃ちゃんのいう通りだと思います」
そう言って顔を上げる梨璃の瞳には、強い決意が宿っていた。
「私、この子に名前を付けてあげたい。そして、私たちと過ごした日々がこの子にとって大切なものになって欲しい。ちゃんと良い名前を考えてあげよう、瑠璃ちゃん。今回ばかりは、流瑠お姉ちゃんにも頼らない!」
「その意気だよ梨璃お姉ちゃん!」
燃える梨璃の傍らで、少女は二人のやり取りをどこか楽しげに見つめていた。
食事、歩行訓練、リハビリ。そして記憶。少女にとってのこれからの課題は山積している。これからこの謎の少女がどうなるのか、それは梨璃にも瑠璃にもわからない。
でもせめて、どうか私たちと紡ぐ思い出が美しいものでありますように。そう願わずにはいられなかった。
・少女
まだ名前は出ない。早く出したい。
・猫可愛がりする瑠璃ちゃん
妹ができた小学生女児みたいな生き物。かと思えば急に深いことを話し出したりする。相変わらず鶴紗とイチャついている。
はい、7話も中盤ですね。
後1話で終わる……と思います。
これからもこのペースを維持できれば良いですが、それも流石に難しそうなので、また少し時間が空くかもしれません。気長にお待ちください。
沢山の感想、お気に入り、UA等ありがとうございます!!
まだまだ物語も中盤、頑張って書いていきます!