アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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言葉は要らぬ。ただ百合に身を任せれば良い。



(まさかまたしても分割することになるとは思わなんだ……ブーゲンビリア、あと1話くらい続きます)


ブーゲンビリア その3

 

 

 

訓練場という名の戦場には、二人の戦士が立っていた。

 

 

「この戦いに勝って、流瑠様のハグをわたくしのものに……!」

 

一方は、チャームメーカー・グランギニョル総帥の娘、面食いの楓・J・ヌーベル。

 

 

 

 

 

「見ていてください、お姉様。お姉様のハグを守るため、不肖、遠藤亜羅椰。怨敵を抹殺します」

 

一方は、世代最強格とも言われるAZ、筋肉痛の遠藤亜羅椰。

 

 

 

 

 

今、一人の女性のハグを巡って、女の戦いが始まろうとしていた     !

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんか緊張感に欠けるモノローグですね……」

「二水ちゃん?誰に言ってるの?」

「いえなんでも」

「ふむ、興味深い戦いじゃの」

 

 

見守る1年生組に、流瑠は声をかける。

 

「梨璃ちゃん、二川二水ちゃん、そしてぐろっぴ」

「は、はい!」

「あ、わ、私の名前…!」

「ぐろっぴ!?」

「これが、君たちの世代の最高峰戦力の戦いだよ。よく見といてね」

 

 

「楽しそうなことしてますね、流瑠様」

「ご、ごきげんよう、みなさん……」

 

そこに、天葉と樟美も加わる。

 

「あ、ごきげんよう……」

「二年生の天野天葉様と、一年生の江川樟美さんですね!お二人は既にシュッツエンゲルで   」

「今は解説は後ね。さ、はじまるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「行きますわよ、亜羅椰さん。後で筋肉痛なんて言い訳しないでくださいませ……!」

「ハッ!『ちょうどいいハンデ』の間違いじゃない?」

 

 

両者の言葉と同時に、楓がチャームをシューティングモードへと変更。

二人の距離は50mほどだ。遠距離射撃が適正だと思ったのだろう。

しかし   

 

 

「フェイズトランセンデンス!」

「なっ!?その距離から   」

「いくわよ!はあっ!!」

 

 

亜羅椰はマギを後ろに放つことで『吹き飛ぶ』。流瑠との戦闘訓練の時に見せた高速移動術だ。

 

 

50mの距離を一瞬で詰める亜羅椰。しかし。

 

「くっ!」

「っ!止めた   !?」

 

即座にチャームの形態を変更、ソードモードでギリギリ攻撃を止める。

 

 

(止めたは良いものの   この攻撃、重すぎますわ!)

 

フェイズトランセンデンスを使用した攻撃に、明確に押される楓。

 

(これが……筋肉痛でさっきまで動けなかった人の放つ攻撃!?筋肉痛なんて詐欺ですわよ詐欺!)

 

フェイズトランセンデンスを使っているとは言え、楓には目の前の亜羅椰の動きが鈍っているようには一切見えない。

 

(こうなったら、守りに徹してフェイズトランセンデンスが解除されるのを待つしか   !)

 

 

 

 

 

 

 

 

(ま、耐久戦に切り替えようとするわよね)

 

攻め手を緩めて防御に徹しようとする楓を見て、亜羅椰は相手の戦術を理解する。

 

(でも   )

 

筋肉痛を抑えてチャームを構え直す亜羅椰。その形態は、やはりソードモードのままだ。

 

(この攻撃を、10分間ずっと耐え切れるかしらね?)

 

 

 

 

 

 

「ぐっうぅ!」

 

楓は接近戦ばかり仕掛けてくる亜羅椰の攻撃を、なんとか凌いでいた。

 

(もう5分くらい経ってるはず……!なのに、全然出力が落ちてない!)

 

接近戦が不利なことはよくわかった。しかし、シューティングモードにするのを楓は恐れていた。

 

(シューティングモードに切り替えたら、『アレ』が来る……!)

 

亜羅椰が最初に見せた、マギを放出して吹き飛ぶ高速移動術。それが、楓の遠距離戦への移行を躊躇わせていた。

 

(例えその最初の一撃を躱したとしても、距離を詰められているのは同じで     いや、違いますわね)

 

楓は亜羅椰の高速移動術への恐れを一旦脇に置いて、落ち着いて考える。

その間も、身体は亜羅椰の攻撃を防ぐので精一杯だ。

 

(あの移動方法は一直線にしかできない。それがわかっていれば、躱せますわ。であれば    常に高速移動の直線上を避け続けて、その『最初の一撃』を躱し続ければ……!)

 

勝機はある。楓はそう判断した。

 

 

 

 

 

「あら……?」

 

亜羅椰は、楓の動きが変わったのを察した。

 

(シューティングモードに変えた?突っ込んでくれって言ってるようなもんじゃない)

 

亜羅椰は、またも高速移動術で接近する。しかし   

 

 

「ふっ…!」

 

(躱した……)

 

さらにもう一度高速移動術。しかしこれも

 

 

「余裕でしてよ!」

 

(……なるほどね。躱し続けて時間切れを狙おうって?)

 

 

「亜羅椰さん。貴女のソレ(高速移動)、初見殺しではありますけど、何度もやられると見飽きてしまいますわ」

 

「……あらそう。それはごめんなさい?なら   」

 

 

 

少し趣向を変えましょう。

 

 

亜羅椰はそう呟いて、もう一度マギを放出して突っ込む。

 

 

「っ!?ですがそれは   」

 

「もう見たって?ならこんなのはどうかしら」

 

 

既に高速移動の直線上から回避を終えた楓。亜羅椰は高速移動の最中、再(・)度(・)マ(・)ギ(・)を(・)放(・)出(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)で(・)、(・)無(・)理(・)や(・)り(・)自(・)分(・)の(・)移(・)動(・)方(・)向(・)を(・)楓(・)の(・)方(・)面(・)へ(・)変(・)え(・)た(・)。

 

「なっ!?」

 

楓はこれもなんとか回避する。しかし、亜羅椰はまたも無理やり自分の身体をマギ放出で吹き飛ばし、しつこく楓に迫った。

 

「はぁあっ!!」

 

そしてそのまま、上から下にチャームを振り切る。

楓は回避しきれずに防御するが   

 

「ぐううっ!」

 

(お…おっも!このフェイズトランセンデンス、いつまで続きますの!?崩され   )

 

「まだまだ!」

 

さらに一撃、二撃、三撃。

流石に耐えきれなくなり、楓は後ろに跳んで離脱する。

だが   

 

「   大分、貴女がいつどこに逃げるのかわかってきたわ」

 

楓が後ろに跳ぶのとほ(・)ぼ(・)同(・)じ(・)タ(・)イ(・)ミ(・)ン(・)グ(・)で(・)、亜羅椰は再度楓に向けて吹き飛ぶ。

もちろん、楓が後ろに下がる速度よりも亜羅椰が飛んでくる方が早く   

 

「フィニッシュよ!」

「がっ!?」

 

そんな不安定な体勢からではまともにガードできるはずもなく、楓は完全に崩されて地面に倒れる。

そして、首元に刃を突きつけられた。

 

 

「……参りましたわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一年生組は、その8分の戦闘を眺め、絶句していた。

 

「どうだった?三人とも」

「……えーっと、何が起こったんでしょうか?」

「これが、私たちと同じ歳のリリィ……?」

「まさか、フェイズトランセンデンスがここまで持続するとは……予想外じゃの」

 

三人の言葉に、流瑠はうんうんと頷く。

 

 

「大丈夫。何が起こってたのかは、今はまだ理解できなくて良いよ。大事なのは、今見たのが『外から見たリリィの戦闘』だってこと。これが実戦になるとまるで違う。……それは、昨日実戦を経験した梨璃ちゃんもよくわかったでしょ?」

「は、はい。今日は、亜羅椰さんがすごく攻めてて、楓さんが防御してて……。昨日はヒュージを目で追いかけて、躱して、攻撃一回に必死になって……なんか、全然違うって言うか……」

「そうだね。外から見る戦闘と実戦のギャップ。それのせいで、どれだけ見て学んでも、実戦に落とし込めないって子、結構いるんだよ。大丈夫、そういうところも講義や訓練でやっていくから」

 

「それがわかっただけでも重畳、重畳」と感心する流瑠。

 

 

「二水ちゃんは、鷹の目を使って見てた?」

「あ、はい!俯瞰視点の方が、戦況がわかりやすかったので……」

「うんうん。リリィの戦闘を見るときは、なるべく鷹の目を使う様にした方がいいかもね。これから二水ちゃんは何度も戦いを見ることになると思うけど、戦況を正しく理解して報告することは大切な仕事になってくるだろうから。で、二水ちゃんの理想の形は……」

 

「理想の形、ですか?」と二水が聞き返す。

 

「二水ちゃんのリリィとしての完成形ってことね。それはいくつかあるんだけど、一つは鷹の目を使いながら戦闘ができるリリィ。二つ目は、『ファンタズム』持ちや『この世の理』持ちと連携して支援・指示出しに徹するリリィって感じかな」

「た、鷹の目を使いながら戦闘なんて……」

 

自信がない様子の二水に、流瑠は優しく笑って続けた。

 

「でも、いざと言う時に戦闘に干渉できる戦闘力があれば、『鷹の目』は誰よりも戦況を正しく把握しながら攻守の要になるゲームメイカーに化ける。レギオンを戦闘で引っ張っていくリリィになることもできるんだよ」

 

「まあ、自分の目指す道は追々考えていけば良いから」と流瑠は締めくくった。

 

 

「ぐろっぴは、亜羅椰ちゃんと同じフェイズトランセンデンスだったかな?」

「そうじゃな。しかし、一撃使えばもう枯渇状態じゃ…ぐろっぴ?」

「フェイズトランセンデンスはその性質上、最後の一撃みたいに扱われがちだけど……鍛え上げれば持続時間を大幅に伸ばすこともできる。亜羅椰のあれは、かなり厳しい訓練を長い時間かけてやってきたからこその持続時間だね」

 

「とはいえ」と、流瑠は言葉を続ける。

 

「別に、『頑張って訓練しなさい』って言ってるわけじゃないよ?フェイズトランセンデンスは、レベルが高くなくてもかなり重宝されるレアスキルだし。亜羅椰ちゃんのレベルまで鍛え上げるのは相当な時間が必要だから……その時間を何に使うのか。どこを目指すのかは、ぐろっぴ自身が決めなきゃいけないことだからね」

「なるほどのう……参考にさせてもらうのじゃ、流瑠様」

 

 

一年生三人組の感想を聞き終えた流瑠は、「天葉ちゃんと樟美ちゃんはどうだった?」と話を振る。

 

「ヌーベルさんの誤算は、亜羅椰のフェイズトランセンデンスの持続時間でしょうね」

「亜羅椰ちゃん……すごく強くなってた」

 

「そうだね」と流瑠は同意する。

 

「フェイズトランセンデンスが終わるまで耐え切っていれば、楓ちゃんにも勝ち筋は充分にあった。とは言え、防御しようものならそこから崩され、回避すればしつこく追われてやはり崩される。今の亜羅椰ちゃんのフェイズトランセンデンスを耐え切るためには、純粋に技量とスタミナで勝たないといけないね」

 

妹の成長に、流瑠は嬉しそうにニコニコとしている。

 

「でも、今見たのはあくまでも個人での強さ。レギオンとして戦うからには、他のサポート系レアスキル持ちとの連携は必須。その辺りは、レギオン単位での実習の中で見させてもらうことになるけど……樟美ちゃんも、連携頑張らないとね」

 

「は、はい!」

 

樟美のレアスキル『ファンタズム』は、強力な未来予知に近いスキルだが、周囲との連携があってこそ真価を発揮する。人とのコミュニケーションがそこまで得意ではない樟美だが、亜羅椰の強さを見て、気合を入れ直した様だった。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、楓ちゃん!」

「ぐう、負けてしまいましたわ……」

 

戦闘を終え、フラフラと戻ってくる楓に、流瑠は声をかける。

 

「いやいや、今の亜羅椰ちゃんにあそこまで食らいつけるなら十分だよ!話には聞いてたけど、やっぱり強いんだね、楓ちゃん」

 

流瑠からの褒め言葉に、楓は首を横に振る。

 

「いえ……亜羅椰さんを見てよくわかりましたわ。流瑠様はこう仰りたかったのでしょう?シュッツエンゲルの契りとは、単純な目先の利益に囚われるのではなく、関わり合いの中で培ってきた相手への思いが、互いを愛し慈しむ心や支え合う力になって結ばれる契りだ、と」

「……。」

 

楓の言葉に流瑠は何も返さないが、嬉しそうな、そして愛おしそうな姉としての表情を楓に向けていた。

 

「……流瑠様、改めてお願いします。わたくしに、流瑠様のシュッツエンゲルの契りの約束を含めた戦闘訓練をつけてくださいませんか?」

「うん、もちろんだよ楓ちゃん。これからよろしくね」

「ええ、お願い致しますわ。そして     」

 

楓は胸を張って宣言した。

 

 

「わたくしは絶対に、流瑠お姉様のシルトになってみせますわ!誰にも   亜羅椰さんにも、絶対に負けません!!」

 

(やはり、このお方は素晴らしいリリィですわ。流瑠様とイチャイチャできることも魅力的ですが    流瑠様から、リリィとして、シュッツエンゲルとしてのあり方を学んでみたい。そして願わくば、この人の「数多いる妹の一人」ではなく    この人の『特別な存在』になりたい!)

 

楓は「やってやりますわよー!!」と、志を新たにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様〜〜!亜羅椰は勝ちました〜〜!」

「亜羅椰ちゃん、お疲れ様〜」

 

亜羅椰は筋肉痛に痛む身体を動かして、流瑠の元に駆け寄ってきた。

 

「お姉様!約束のハグを!」

「はい、ギュ〜〜っ!頑張ったねぇ、亜羅椰ちゃん」

 

頭なでなでのオプションを付けて亜羅椰を褒める流瑠。

 

嬉しいはずの状況に、亜羅椰は   涙を流していた。

 

 

 

「ぐすっ……あれ……?わ、私……」

「亜羅椰ちゃん?だ、大丈夫?」

「あれ……?ぐすっ……あれ?」

 

悲しくはない。悲しいはずはない。なのに、涙は流れ続ける。

拭っても拭っても、涙は止まらない。止まらないので、亜羅椰は顔を流瑠の胸に押しつけた。

 

「お姉様……私、寂しかったです……」

「……うん」

「半年もいなくなって……ぐすっ……いない間、お姉様に褒められたくて、たくさん我慢して、たくさん訓練、して」

「うん」

 

亜羅椰はこの半年間の努力を思い出した。

 

お姉様に「私がいない間、誰も襲わないように」と言われ、「できたらご褒美をあげる」と釣られ。

その言葉通りに我慢した。そして、お姉様から教わったことは反復して練習したし、新しい技を身につけんと努力も怠らなかった。

時にはヒュージ討伐に出て、大きな戦果を上げた。

自分が半年間頑張ってきたのは、全てお姉様のためだった。

 

    でも、そこに自分が一番褒めて欲しかったお姉様はいなかった。

 

「なのに初日から……ひっく……こんなスパルタばっかり……」

「……ごめんね、亜羅椰ちゃん」

 

謝る流瑠に、亜羅椰は顔を押し付けたまま、ふるふると横に振る。

 

「いいんです……そんなお姉様が……私……わだじぃ……」

 

 

    だいすきなんです。

 

亜羅椰の言葉に、流瑠は彼女を一際ギュッと抱きしめた。

 

 

「……ただいま、『亜羅椰』」

「……おがえりなざい、お姉様ぁ」

 

 

大好きなお姉様の温もりに包まれて、亜羅椰は心の穴が埋まっていくのを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あの二人、もうほぼシュッツエンゲルじゃないですか?」

 

「おだまりちびっ子1号!もうわたくしは決めましたの!絶対にお姉様のシルトになってやりますわ…!」

 

「1号!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさいお姉様、お召し物が……」

 

「いいのいいの。亜羅椰ちゃんの本音が聞けてよかったよ」

 

 

亜羅椰の色んな汁でベットベトになった制服を予備のものに着替えた後、流瑠は梨璃、楓、二水、ミリアムを集め、本題を話していた。

 

「私に訓練をつけてほしいってことだったよね、梨璃ちゃん」

「は、はい!あ、でも、さっきみたいのは私にはまだ無理、かも……」

 

梨璃は先ほどまで行われていた亜羅椰と楓の戦闘訓練を思い出した。チャームもまともに扱ったことがない自分では、あんなことはできない、と。

 

「いやいや、初心者にあそこまで要求しないよ。……んー、ほんとはある程度学院の講義を受けてから訓練する方がいいんだけど」

 

暫し考えた後、流瑠は梨璃に言った。

 

「梨璃ちゃん。梨璃ちゃんは自分のレアスキルってわかる?」

「え?い、いえ。それがまだ……」

 

「そっか」と納得し、流瑠は次の提案をする。

 

「私としては、レアスキルに合わせた訓練をしたいんだけど……取り敢えず、梨璃ちゃん。チャームを起動してみて貰っていい?」

「あ、はい!えーとえーと……」

 

梨璃がモタモタしていると、楓が手を取って「こうですわ」と指導してくれた。

 

「わっ!」

 

音を立て、みるみる内に変形するグングニル。そのグングニルを見て、流瑠はさらに提案を重ねる。

 

「じゃあ、グングニルのコアに触ってみてもいいかな?」

「は、はい。別に構いませんけど……何をするんですか?」

「私、マギの波長である程度レアスキルがわかるんだよね」

 

梨璃は素直に「へー、わかるものなんですね!」と感心しているが、他のメンツは違う。

 

「……いやいや、おかしいですわよ!?普通ではないですからね梨璃さん!?」

「え?そうなの?」

「なんらかのレアスキルかの?じゃが、そんなレアスキル聞いたことも……」

 

「まあまあ、あんまり細かいことは気にしない気にしない。じゃあちょっと失礼してー……」

 

「お、お願いします!」

 

「………え?これは………」

 

「ど、どうですか流瑠様、わかりましたか?」

 

「…………」

 

「えっと……流瑠様?」

 

「……」

 

 

暫しの沈黙。

 

 

「……うん、ごめん!わかんなかった!」

 

あっけらかんと言う流瑠に、全員が肩を落とす。

 

「なんじゃ、やっぱりわからんかったのか」

「いやーごめんごめん。ちょっと波長が弱すぎて……」

「弱すぎ!?」

「いやほんとごめん、梨璃ちゃん!」

「だ、大丈夫ですわよ梨璃さん!レアスキルがリリィの全てでは無いですし」

 

全員で梨璃のフォローをするが、当の梨璃はまだへこんでいた。

 

「弱すぎ……弱すぎって……」

「流瑠様……?」

 

こうなると、期待させるだけ期待させて一番下まで落とした流瑠に全員の視線が向いてしまう。

 

「あ、あははー。あ、そうだ!訓練の件だけど」

 

露骨に話を逸らす流瑠。周りからは責めるような視線があるが、梨璃は少し立ち直ったのか、話を聞く姿勢だ。

 

「取り敢えず、チャームにマギを込めるところから始めようか。どんなに強力なチャームでも、マギが籠ってなければただの刃物。ヒュージと戦うには一番重要な部分だからね」

「あ、はい!じゃあ今から……」

 

やる気を見せる梨璃に、流瑠は首を振って否定する。

 

「今日は取り敢えず、チャームにマギを込める方法だけ教えるよ。それを、空いてる時間にちょくちょくやってみて。で、次の時に私がどれくらいできてるかを見てあげるから」

「わ、わかりました!」

「じゃあ見てて。まずは     」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マギの込め方を指導した流瑠は、「今日はこのくらいで」と亜羅椰とともに訓練所を出ようとする。

それを止めたのは梨璃だった。

 

「ま、待ってください流瑠様!」

「うん?なーに梨璃ちゃん?」

 

梨璃は一番気になっていたことを流瑠に質問した。

 

「夢結様と、何があったんですか?」

 

それを聞くと、流瑠の顔は笑顔を失う。

 

「夢結ちゃん……ね。なんで知りたいの?」

「私、2年前の甲州撤退戦の時、夢結様に助けていただいたんです」

「   甲州、撤退戦」

 

流瑠の顔色が変わるのにも構わず、梨璃は言葉を重ねる。

 

「夢結様、あの時と全然様子が違って。だから、なんで夢結様が変わってしまったのか、知りたいんです!」

「………」

 

それに、流瑠は何も答えない。どう答えていいか迷っているようだった。

 

「あの、夢結様ってチャームを持ち替えてますよね?」

「……そうだね」

「なぜ夢結様は、チャームを持ち替えたんですか?」

「……………ふぅー」

 

梨璃からの質問攻めに、流瑠は息を大きく一つ吐いた。

 

 

「    私から、夢結ちゃんの事情は話せないかな」

「……っ!なんで   」

「夢結ちゃんの事情だからだよ。リリィの情報は、本人が望まない限り、一定期間の間秘匿される。夢結ちゃんが望まないことを、私が話すわけにはいかないのさ」

「……あっ。そう……ですよね」

「でも」

 

一呼吸置いて、流瑠は声に出した。

 

 

「『私の事情』なら、話せる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

流瑠の話は、衝撃の一言から始まった。

 

 

「2年前、甲州撤退戦の時。私は巣無しのアルトラと戦ったんだ。で、倒したのはいいんだけど     」

「……ちょちょちょ、ちょい待ってくださいまし?今なんておっしゃいました?」

 

なんでも無いかのように流した一言に楓が突っ込むので、流瑠は再度同じことを言った。

 

「だから、巣無しのアルトラと戦って倒したんだけど、その後   」

「あの、流瑠様?巣無しのアルトラを倒す話ってのは話の枕程度の扱いなんじゃろか?」

「うん」

「うん、じゃありませんわ流瑠様!」

「だって大事なのはそこじゃないし」

「あのー、すみません……」

 

流瑠の発言に次々とツッコミが入る中、梨璃が申し訳なさそうに手を挙げた。

 

「巣無しのアルトラって……なんですか?」

 

「うむ。巣無しのアルトラと言うのはじゃな……」

 

 

巣無しのアルトラ。文字通り、「巣を持たないアルトラ級ヒュージ」のことである。

 

アルトラ級ヒュージと言うのは、ギガント級ヒュージよりも大きい、ヒュージ中最大規格の存在。

その大きさはギガント級とは比較にならないものの、普段は巣(ネスト)の運営に忙しい為攻撃などは行わない種でもある。

 

しかし、一度巣を失ってしまえば、その性質は凶暴化の一途を辿る。

巣を探して暴れ回る為、そのサイズも相まって手がつけられない。

通常、この種を討伐する場合は複数の一流レギオンが協力して挑まなければならないほどの難敵だ。

さらに周囲にはギガント級以下のヒュージを多数連れていることも多く、この種の出現だけで周囲への甚大な被害を覚悟しなければならない。

 

 

「……ということじゃな」

「す、すごく強いヒュージってことですね」

「いわゆるラスボスですわね」

 

「大事なのはそこじゃないんだよ。アルトラ級を倒しはしたんだけど、私の力不足で遅くなってしまって……リリィが、一人死んでしまったんだよ」

「あ……」

 

流瑠は顔を俯かせ、ポツポツと喋る。

 

「もっと早く倒せば、助かった命かもしれない。これは、私の罪なんだ」

 

「………」

 

「……さて、私の話は終わり!この続きは夢結に   」

 

 

 

 

流瑠が締めようとする中、立ち上がったのは   楓だった。

そのまま楓はズンズンと流瑠に近づいて    

 

 

 

 

 

 

 

パチン!と流瑠の頬に平手を打った。

 

 

 

 

「か、楓さん!?」

 

「流瑠様!貴女、少し傲慢になりすぎではなくて!?アルトラ級ヒュージを倒しておいて、『もっと早く倒せばよかった』!?バカバカしい!貴女はできる精一杯のことをやられたのでしょう!?そもそも、今の話からすれば、貴女と共にアルトラ級と戦ったメンバーはみんな生きていたのでしょう!?」

 

「え、あ、いや。一人で戦ったんだけど……」

 

 

一瞬なんとも言えない空気になるが、楓は続ける。

 

 

「……そ、そうですか。でしたら尚更!貴女は一人でアルトラ級を討伐すると言う快挙を成し遂げ、多くの人の命を救ったんです!その上でまだ救えたかもしれない!?馬鹿にしないでくださいませ!皆、決死の覚悟でヒュージと戦っているんです!いつ死ぬかなんてわからない、いつ死んでもおかしくない!それでも!!わたくしたちは戦っていかなければならないんです!貴女の言っていることは、その覚悟を持ってヒュージと戦っている、全てのリリィへの侮辱ですわ!」

 

「いや、でも」

 

「でももかしこもございませんわ!『私の罪』ぃ!?巫山戯るのも大概にしてくださいませ!ならば罰を与えますわ!そ(・)の(・)時(・)貴(・)女(・)に(・)救(・)わ(・)れ(・)た(・)人(・)全(・)員(・)に(・)感(・)謝(・)さ(・)れ(・)て(・)来(・)な(・)さ(・)い(・)!!それが、その時の貴女の行動の意味そのものです!!」

 

「っ   !」

 

「それと、もう一つ    その方は、何の意味もなく亡くなられたんですの?貴女が居なかったからというだけで、何(・)を(・)守(・)る(・)こ(・)と(・)も(・)な(・)く(・)た(・)だ(・)無(・)為(・)に(・)命(・)を(・)散(・)ら(・)し(・)た(・)だ(・)け(・)だ、と?」

 

「え    」

 

 

それを聞いた流瑠の脳内に、2年前の記憶が蘇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『る、流瑠お姉様……美鈴お姉様が、私を庇って……ぐすっ……ヒュージの触手に……それで私、ルナティックトランサーを   』

 

 

 

 

 

 

 

『美鈴様の遺体には、ダインスレイフの刀疵も残ってました。恐らくは   』

 

 

 

 

 

 

 

『お姉様。ボクはたまに、どうしようもなく、愛する貴女達二人を     』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねえ、お姉様。もしもボクに何かあったり、ボクが何かしようとしたら     どうか、夢結を頼むよ』

 

 

 

 

「あ……」

 

「違いますでしょう?本当に貴女がその人のことを思うなら   貴女が背負うべきはその人の命ではなく、『遺志』なのではなくて?」

 

 

(     ああ、そっか)

 

 

 

私は、なんて勘違いをしていたのだろうか。

私は、なんて簡単な間違いをしていたのだろうか。

 

 

彼女は     川添美鈴は、最後の最期に自(・)分(・)の(・)欲(・)望(・)に(・)打(・)ち(・)勝(・)っ(・)た(・)のだ。

自分に打ち勝ち、夢結を私に託して逝ったのだ。

 

それなのに私は、「私が悪い」なんて言葉で自分を守って、夢結をほったらかしにして。

「私の罪」なんて言葉で夢結を救った気になって   多分、夢結はまだ苦しんでいる。

 

 

夢結を助けて貰ったのに。夢結を託してくれたのに。

失ったものばかり見て、助けられたものなんて見向きもせず。

そんなんじゃ、夢結に嫌われるに決まっている。

 

 

寄り添ってあげるべきだった。

一緒に悲しんで、一緒に泣いて、一緒に乗り越えるべきだった。

 

 

私はあの日から、夢結にも、美鈴にも。

 

何も、してあげられていない    !

 

 

 

「あっ………あぁ………っ!」

 

 

流瑠の目から涙が溢れる。

もう何年も流していなかった。美鈴が死んだ時でさえ、流瑠は泣くことができなかった。

今まで堪えていたものが全て出てしまうかのように、溢れる涙は止まらない。

 

「助けられたもの。本当に貴女がすべきこと。ちゃんとわかりました?」

 

「……うん。わかった。ちゃんとわかったよ、楓ちゃん。だから、だからね」

 

 

流瑠は涙をポロポロと零しながら、楓を見上げた。

 

 

「    ギュ〜ってして、いい?」

 

 

「……もう、仕方ありませんわね」

 

 

楓は手を広げ、受け入れる。

 

 

「胸をお貸ししますわ、流瑠様」

 

「……夢結……美鈴……う、うぇ、うわあああああっ!!ああああああああっ     !!」

 

 

 

 

 

 






・流瑠
過去の一端が明かされた。もちろんこれで全部じゃ無いけど。ええ。
気付けばアルトラ級を一人で撃破してた。やべえなこいつ。
でもギガント級程度じゃ流瑠を止められないので仕方ない。
泣いたり泣かせたり忙しい。

・亜羅椰さん
マジで一途なお姉様っ子。梨璃ちゃんへのちょっかいは本当に一時の気の迷いでしかなかったらしい。
筋肉痛状態で楓ママを一方的に叩きのめすレベルに強い。ちょっと強くしすぎたかもしれない。
後半空気だけどちゃんといるよ。

・梨璃ちゃん
主人公なのに最近影が薄い。夢結様とちゃんとシュッツエンゲルになれるか心配になってきた。

・楓ママ
いや、ここまでするつもりじゃなかったんです。流瑠が過去の一端を今言える部分まで話したら、なんか急に楓ママのビンタ+お説教とハグが入りまして……。
こんなことにはなったけど、流瑠をまだ慕ってくれてる良い子。というか、最後は勝負に負けたのにハグまでしてるので役得だと思ってる節まである。っていうか思ってる。

・美鈴様
愛と◾️意の狭間で悩み続けたが、最期の最期で愛を選ぶことができた。
託したい人がいた。託されてくれる人がいた。
きっとそれは、幸福な結末なのだろう。彼女にとっては。



今回は自分の苦手な描写やらなんやらが多くて難産でした……
次は多分時間がかかると思いますが、どうぞお待ちください!

沢山の応援、ありがとうございます!励みになります!なのでもっとください!!(欲張り)
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