百合はNLより尊し。
(終わんねぇぜアニメ2話!仕方ないからこのままいけるところまで突き抜けるぜ!)
百由の話を聞き終わった後。
その場にいた四人ともが、暫く何も喋らなかった。
テーブルを沈黙が支配し、周囲の生徒たちの会話すら聞こえてこないほどの静けさの中、梨璃・楓・二水・ミリアムはそれぞれに、百由の話を自分なりに噛み砕いていく。
やがて紅茶も冷めてしまった頃、最初にその沈黙を破ったのは、ミリアムだった。
「はぁ……。まさか、こんな特大の爆弾が出てくるとはの……」
一人が話し始めれば、次々と言葉は出てくる。
「……楓さんは、亜羅椰さんから百由様に聞けって言われたって言ってましたけど……亜羅椰さんも知ってたんでしょうか?」
「ま、十中八九知っとったじゃろな。じゃなきゃそんなことは言わん」
「そうですよね…」
そう話し合うミリアム、二水、梨璃とは反対に、俯いたまま黙っている楓。顔は、長い髪に隠れて見えない。
梨璃とミリアムは、楓が落ち込んでいると思い、気を遣って話しかけた。
「楓さん……」
「おい、ショックなのはわかるが、ここで落ち込んでても何も変わらんじゃろ。今日はもうゆっくり休んで 」
「梨璃さん!」
ミリアムの声を遮り、楓がガタンと立ち上がる。
「わっ!?」と驚く梨璃の声も気にせず、楓は続けた。
「梨璃さん。協力すると言った手前で申し訳ないのですけれど、夢結様のシュッツエンゲルの件、少しだけ待っていただいてもよろしいでしょうか?」
「え?あ、はい。大丈夫ですけど……ど、どうしたんですか?」
顔を上げる楓。その眼は爛々と輝いており、ショックを受ける どころか、むしろイキイキとしているようにすら見える。
「……わたくし、また一つ流瑠様のことを知ることができました。流瑠様の学年に関する疑問も解決して、わたくし とてもスッキリしましたわ!!
精神が成長しない?だからなんですの?
身体が成長しない?それがどうかしまして?
どれだけ言葉を並べ立てようと、『失ったものよりも多くのものを守る』ために、そして『もう失わない』ために何年も何年も戦ってきたお姉様のリリィとしての道に、嘘なんかございませんわ!!
やはりお姉様は素晴らしいリリィです!『
自分を責めすぎてしまうのが玉に瑕ですが、そんなお姉様だからこそ!わたくしはあの人の『妹達の一人』ではなく!『特別な存在』になりたいのですわ!!!
というか身体が成長しないとかずっと今のお姉様を愛でられるのでむしろオトクなのでは?触り放題なのでは!?」
「「………へ?」」
「いや、触り放題ではないじゃろ……」
唐突に異様なテンションで思いの丈を吐き出し始めた楓に、困惑する二人とツッコむミリアム。
そんな三人の様子にハッとしたのか、楓は席について一度息を整えた。
「……コホン。つまりですね。わたくし、そんなマジ
なので お二人で、ちゃんと本音で話し合っていただきたいのです。どうもあのお二人、どこかですれ違っているだけのような気がしますので……ちゃんと話せば、分かり合えるはずですわ」
流瑠、夢結、そして亡くなったという美鈴。この三人の関係こそが、流瑠と夢結双方の問題の原因であると、楓はあたりをつけた。であれば、今できる最高の処置は、夢結と流瑠が仲良くなることだ、と楓は考えたのだ。
それは、梨璃にとっても望んだことに他ならない。
「楓さん……うん!私も、流瑠様と分かり合えれば、夢結様もきっと昔みたいに戻ると思う!」
「じゃの。わしも何かできるなら協力するぞ」
「楓さん、いいこと言いますね!」
三人の同意に、楓は安心した様子をみせる。
「……ありがとうございます、皆さん。この話し合いがうまくいけば、おそらく夢結様と梨璃さんのシュッツエンゲルの件も少しは難易度が低くなると思いますの。ご協力をよろしくお願いいたしますわ」
「 それ、
突如として、四人の話に入ってくる人影。それを見て、二水はまた鼻血を抑え始めた。つまり 二水の鼻血で判断するのはいかがなものかとは思うが 彼女は名の知れたリリィであると言うことに他ならない。
「協力の申し出は嬉しいですが……貴女は?」
楓の疑問に、口では「悪い悪い」とはいいながらも悪びれる様子もなく、乱入者 緑のショートヘアの少女は自己紹介を始めた。
「話が聞こえちゃってさ。私は
「これは失礼しましたわ、梅様」
楓の言葉に「気にするなー」と緩く答えると、梅は言葉を続けた。
「流瑠様と夢結を仲直りさせるんだろ?私も流瑠様にはお世話になったし、夢結のことも気になってたしなー。それに、そこの子は夢結のシュッツエンゲルになりたいんだって?」
梅は梨璃の方を見つめる。その視線は、品定めしているというよりは 単純に、興味深いものを見るような、好奇心に満ちた目だった。
「は、はい!私、一柳梨璃です!」
「わたくし、楓・J・ヌーベルですわ。こちらが、ちびっ子1号と2号」
「1号じゃありません!二川二水です!」
「2号こと、ミリアム・ヒルデガルド・v・グロピウスじゃ。よろしくな梅様」
それぞれの自己紹介を聞くと、梅は満足げにうんうんと頷いた。
「そっかそっか!梨璃に、楓に、二水に、ぐろっぴだな!よろしくなー。
……夢結もきっと、シルトができれば色々変わると思うんだよな。梨璃には期待してるゾ」
梅は一瞬寂しそうな顔をしたが、すぐに元の元気な笑顔に戻る。
「二人に話し合いをさせるんだったか?なら、私は夢結の説得に行ってくる。お前達には流瑠様を任せたいんだけど、いいか?」
その提案に、梨璃は待ったをかける。
「梅様、私も夢結様の説得に行きたいです!だ、ダメですか…?」
「おっと、そうだったな。もちろんいいゾ。梨璃は夢結のシュッツエンゲルになりたいんだもんな。楓達も、それでいいか?」
寛大な梅に、楓も頷く。
「ええ、それはもちろん……なのですが、梅様。梅様も、流瑠様の学年の件、ご存知なんですか?」
「おう、知ってるゾ」
楓の言葉に、何でもないかのように答える梅。少しは気まずそうな顔をしたり、答えにくそうにするかと思っていた楓は、梅の反応に拍子抜けしてしまった。
「流瑠様も色々苦労してるよな。……でも結局さ、みんな何かしら苦労してるんだし、ここには流瑠様みたいなG.E.H.E.N.A出身のブーステッドリリィだってたくさんいる。誰が流瑠様みたいな苦労を経験してもおかしくない状況だけど、その苦労を通り越して、流瑠様は梅達のことみーんな、「大好きな妹だ」って可愛がってくれてるんだ」
流瑠のことを話す梅は嬉しそうで、まるで自慢の姉を自慢している妹のような語り口だった。
「身体の成長が止まってようが、心の成長が遅かろうが関係ない。さっき、楓が言ってたろ?梅たちもみんな、同じ考えだ。
百合ヶ丘の2年生以上や中等部から通ってる生徒は、ほとんどみんな流瑠様の過去のこと知ってるけど……入学式の、流瑠様が出てきた時の歓声、聞いただろ?あれが答えだ。みんな、流瑠様のこと大好きなんだゾ!」
そう締め括る梅に、「その通りですわ!」と楓は一度大きく頷くが、その後すぐに思案顔になった。
(んん……?それってつまり、この学園の大半がわたくしのライバル……?)
その事実に気づいて愕然とする楓。「ちなみに、流瑠様とのシュッツエンゲルは例外的に3年生でも結べるゾ」という梅の一言で追い討ちを喰らい、さらに頭を抱えることになった。
「やだ……わたくしのライバル、多すぎ……!?」
「あっはっは。流瑠様のシルトには並大抵の努力じゃなれないゾ。がんばれよ楓ー」
梨璃達がラウンジから出ると、既に外は夕焼けに染まり始めていた。
時計を見ると、時刻は4時ごろ。ここからは短期決戦だ。
楓たちは、この話し合いを「明日には持ち越さない」と決めていた。
先程百由に聞いた話を信じると、流瑠は「フリーレン」の影響で心の成長が乏しい状態にある。しかし、楓が流瑠を引っ叩いた時、流瑠は涙を見せ、楓の「今から変えていけばいい」という言葉にも頷いた。
どんな理由があるのかはわからないが いや、理由なんて無いのかもしれないが、流瑠はあの時、間違いなく「心を揺り動かされた」のだ。
流瑠の心は、今まさに成長しようとしている。ならば、それを次の日まで持ち越すのは悪手。楓たちはそう判断したのである。
上級生が生活しているという旧館へ一同が歩く中、楓は梨璃に顔を向けた。
「……梨璃さん。改めてお聞かせください。梨璃さんは、何故夢結様とシュッツエンゲルを結びたいのですか?」
「え」と歩みを止める梨璃。ミリアムも、「それ、今聞かにゃならんことか?」と足を止めた。
「聞かなければならないことですわ。どうなんですの、梨璃さん?」
楓の言葉に暫く俯いて考えた梨璃は、顔を上げて言った。
「……私、昔夢結様に助けていただいて……夢結様に憧れてリリィになりました。でも、夢結様は昔と全然違って……何が夢結様を変えたのか、夢結様が胸の内に何を抱えているのか知りたかったんです」
「それは 」と言いかける楓を制して、梨璃は続きを話す。
「多分、夢結様のシュッツエンゲル、美鈴様のことなんだと思います。夢結様は、それをずっと気にして……だから私、夢結様に笑顔になって貰いたいんです!私を助けてくれた夢結様を、今度は私が助けたい!」
「それを、夢結様が望んでいなくともですか?それとも、梨璃さんなら夢結様を変えられる、と?そんなのは、エゴでしかありませんわよ?」
厳しい顔の楓に、「それは、そうかもだけど……」と再度俯く梨璃。
しかしそれも束の間。「でも!」と梨璃は、決意に満ちた顔を上げる。
「それでも、私は夢結様を助けたい。夢結様のことをもっと知りたい!
夢結様にシュッツエンゲルを断られても、仕方ないかもしれません……。けど、何かする前から諦めたりしたくないんです!」
梨璃の決意を聞いた楓は、ふっと息を吐き、顔を綻ばせた。
「……それでよろしいのですわ、梨璃さん。自らの望みを叶えるためには、それが人のためだと思っても、多少エゴにならなければならない時もあるでしょう」
「楓さんは多少どころじゃない気も……」
「おだまりちびっ子!」
「とにかく!」と、二水と言い合いをしていた楓は梨璃の方に向き直り、手を握った。
「わたくし達の動機は流瑠様と夢結様のためですが、これがエゴであることも忘れてはいけませんわ。……同時に、だからこそエゴイスティックに自分の目的を突き詰めていくことも、重要なことですわ。
……先程の夢結様への思い。全部ぶつけてきてくださいな、梨璃さん」
「……!はい!ありがとう、楓さん!」
「じゃあ行ってきます!」と、梨璃は楓の激励に満面の笑みを浮かべ、夢結の部屋へ走っていった。
その後ろで、久しぶりの笑顔にノックアウトされかけている楓に気付かずに。
(あ〜!やっぱり梨璃さんかわいいですわぁ〜!ナチュラルにスキンシップもできましたし、梨璃さんのモチベーションも上がったしで、いい事づくめでしたわね!!さて、次はどんな手で……グフフ……)
それを見ていた二水は、楓に白い目を向ける。
「楓さん、顔が邪悪な感じになってますよ……」
「え、ええ〜?この顔のどこが邪悪だといいますの〜?二水さんったら〜オホホホ」
「わざとらしいのう……」
二水の言葉に目をパチクリさせて言う楓に、二水とミリアムはため息をつく。
そのやりとりを見ていた梅は、楽しそうに笑った。
「あっはっは!やっぱり面白いなーお前達!
お前たちなら、もしかしたら夢結も、そして流瑠様も……」
「……?何かおっしゃいまして?というか、梨璃さんを追いかけた方がよろしいのでは?」
楓の言葉に、梅も「おっとそうだった」と梨璃の方へ走り出す。
「じゃあそっちは流瑠様を頼んだゾ!」
「ええ、お任せくださいな」
こうして二組は、互いの戦場へ向かった。
、
「ここが……」
「流瑠様の部屋、ですね」
楓、二水、ミリアムは、流瑠を説得するため、旧館に来ていた。入学初日から旧館に入る一年生を見て不思議そうにしている上級生達の視線を感じながら、三人は流瑠の部屋にたどり着いた。
「流瑠様、さっき寝ちゃってましたけど、起きてますかね?」
「どうでしょう……しかし、この話を明日に回す手はないですわ」
「んなら、叩き起こしてでもいくしかないじゃろ」
「 あら、その様子だと、百由様から色々聞いたみたいだわね」
ぐずぐずと話している三人の後ろから、今日散々聞いた声が話しかけてくる。
「亜羅椰さん……」
「お姉様なら中で待っているわ」
そう言って流瑠の部屋の扉を開ける亜羅椰。三人は「お邪魔します……」としずしずと中に入っていった。
流瑠の部屋は、あまり物がなかった。
目立つものといえば、一つのベッドに二人がけ程度のソファとテーブル、小さな本棚を兼ねたラックと写真立てくらいだった。
「……いらっしゃい、三人とも」
流瑠は、そのベッドの上に座っていた。窓から差し込む夕焼けが逆光になり、流瑠の表情はよくわからない。
「流瑠様、ごきげんよう。お昼はありがとうございました」
「ううん、こちらこそ。昼は情けないところを見せちゃって」
申し訳なさそうな流瑠の言葉に、「そんなことありませんわ!」と楓は首を振る。
「流瑠様の気持ちが少しでも楽になったなら、これほど嬉しいことはありません!」
「あはは、ありがと」
流瑠は曖昧に笑うと、声音を少し変えた。
「……亜羅椰ちゃんから聞いたよ。百由から話を聞いたんでしょ?」
その言葉に、二水とミリアムはビクッと反応した。
それを見て流瑠は笑って言った。
「気にしなくていいよ。私が百由に、知りたい人には教えてあげてって頼んでることだから」
その言葉に二水とミリアムはわかりやすく「ほっ」とするが、楓は口を開き、本題を話す。
「でしたら、話は早いですわ。わたくし達、流瑠様と夢結様に仲直りしていただきたいんですの。しっかりと、話をして」
それを聞いて、流瑠は目を見開いた後、申し訳なさそうな様子になった。
「……入学初日の後輩にこんなに気を遣わせちゃうなんてね……みんな、本当にありがとう」
流瑠は三人に礼を言った後、ベッドから立ち上がり、ラックに置かれていた写真立てを持ってきて、三人に見せた。
そこに写っていたのは、満面の笑顔で写真に映る三人の少女達。
「これは……流瑠様、夢結様と 」
「真ん中の方が、川添美鈴様、ですか?」
二水の言葉に、流瑠は頷く。
「そう。これが美鈴。夢結のシュッツエンゲルで、私のシルト。
私たちは、『ノルン』だったんだ」
「ノルン…か」
「1、2、3年生のシュッツエンゲルとシルトの関係で構成される、三姉妹のことですわね」
「まあ、当時の夢結は中等部三年、美鈴は高等部一年だったんだけどね」と流瑠は補足する。
「この写真の夢結様……いい笑顔ですね……」
「ええ、今では考えられないくらいですわ」
二水と楓の言葉に、流瑠は寂しげに笑う。
「そうでしょ?美鈴と一緒にいた時、夢結はとっても穏やかに笑ってた……」
一旦言葉を区切った流瑠は、三人に顔を向けた。
「……私たちの話、聞いてもらっても、いい?」
「私と美鈴はね、美鈴が中等部3年生の時に出会ったんだ。美鈴が私のシュッツエンゲルの戦闘訓練に興味を持って 多分最初は、美鈴は腕試し程度に考えていたんじゃないかと思うんだけど 美鈴に勝負を挑まれた。
もちろん勝ったよ?でも、美鈴は中々諦めなくてね。私に勝負を挑み続けた。それで、その年の夏頃かな?美鈴は私から一本取ったんだ。
初めてだったよ。一撃当てられて、私は本当にびっくりした。
それで、美鈴は私のシルトに、私は美鈴のシュッツエンゲルになったの。
……百由から話を聞いたなら、これも聞いたかな?私、美鈴と出会って変わったんだ。
それまでの私は、ヒュージと戦うことを第一に考えてた。第四世代型チャームの犠牲になった子が倒すはずだったヒュージを倒す。ヒュージを倒すことで、ヒュージに殺されるリリィを一人でも減らす。ヒュージを減らすことで、G.E.H.E.N.Aに「酷い実験をしなくてもヒュージは倒せる」ことを知らしめる と、色々言葉を並べても、結局私はヒュージとの戦闘に固執して、依存していたってだけなんだけど。
でも、美鈴といるとね、なんて言うんだろうな……。『グルグル同じところを回って終わらない道に、他の道が作られていく感じ』っていうか……。
私は、美鈴といる間は、ヒュージと戦うこと以外を考える頻度が増えた。例えば……後輩の育成とか、学院内の揉め事をどうにかしたいとか。あと、それまでもずっと思っていたことではあるけど、美鈴と出会ってから、リリィのみんなのことも、もっともっと好きになった。年上として お姉ちゃんとして守りたいって思ったし、愛してるって思った。
もちろん、美鈴のことも大好きだった。
美鈴は不思議な子でね。超然的な雰囲気なんだけど、どこか抜けてるところがあって、一緒にいて楽しかったんだ。
私はいつの間にか、美鈴にとても心を許していて……美鈴もいつの間にか、二人でいる時は私のことを「流瑠」って呼んで、敬語も抜けるようになった。一緒に遊んだり、プレゼントを贈りあったりもした。お互いに本音を曝け出して、愚痴を言ったり、秘密を喋ったりした。そんなことをしたリリィは、美鈴が初めてだった。
美鈴は、私の中で「特別」になったんだ。
次の年、美鈴は高等部になった。
高等部になってすぐ、美鈴は生徒会に入って シュッツエンゲルにもなった。つまり、シルトができたんだ。
それが、夢結。美鈴から聞いたところによると、夢結から美鈴にお願いしたらしいよ?「私を美鈴様のシュッツエンゲルにしてください」って。
私と美鈴は、それはもう夢結を可愛がったし甘やかした。
夢結は真面目で素直で、あんまり笑うのが得意じゃなかったけど、笑顔がとっても素敵な子だった。
夢結も夢結で、私や美鈴……特に美鈴にはすごく良く懐いて、中等部と高等部は校舎も寮も違ったけど、よく会いにきてたよ。夢結に出会って、私はリリィのみんなの笑顔を見るのが大好きになった。
私と美鈴と夢結で、色々やったよ。美味しいもの食べたり、ヒュージを倒したり、一緒に訓練したり、夢結の希望でオペラを見にいったり、美鈴が欲しがってた本を買うために関東中を駆けまずり回ったり……短い間だったけど、本当に楽しかった。
……そんな日常が終わったのが、甲州撤退戦の時。
夢結は当時中等部三年生だったけど、緊急事態だったから、美鈴と一緒にアールヴヘイム あ、今のアールヴヘイムじゃなくて、前のアールヴヘイムね に組み込まれた。
私?私は単独行動。他のレギオンが作戦に集中している間、私ははぐれたヒュージを討滅したりとかね。
……あとは、昼間話した通り。私は急に現れた巣無しのアルトラをどうにか倒したんだけど……マギをオーバーロードしすぎてすっからかんになり、さらに最後の悪あがきを食らって致命傷。どうにか夢結達のところにいこうとしたんだけど、出血が多すぎて気絶しちゃって……
目が覚めた後、美鈴が死んだって報告を聞いたの」
流瑠は言葉を切って、「はぁ……」と息をついた。
「その報告を聞いた時、私は涙すら出なかった。現実感が無くて、なんで夢結が泣いてるのかも、なんで夢結が美鈴を殺したとか言われてるのかも、全然わからなかった。
ただ、心に大きな大きな穴が空いて……何もできなかった。夢結にも、夢結を守って死んだ美鈴にも報いてあげられなかった。
でも、美鈴が死んでも、美鈴や夢結が私にくれたものは無くならなかった。
ヒュージを倒すことだけじゃなく、リリィのみんなのことを考えたり、「みんなのお姉ちゃん」としてみんなを導いていこうって思えたり。あと、リリィのみんなの笑顔を見ると、なんだか救われた気分になったり。
私がこうして立ち直れたのは、みんな美鈴と夢結がくれたもののおかげ。
それなのに……私は夢結に何もしてあげられなかった」
「流瑠様……」
夕焼けは段々と落ちていく。逆光が無くなって見えた流瑠の顔は 静かに、涙を流していた。
「楓ちゃん。みんな。私……夢結と、仲直りしたいよ。
今までしてあげられなかったこと、いっぱいしてあげたい。一緒に悲しんで、一緒に喜んで、一緒に居たい。
だから 私に、勇気をください」
「 もちろんですわ、お姉様」
流瑠の言葉に、楓は頷いて流瑠に近付き ハグをした。
「ぎゅ〜っ……ほら貴女達も」
「え、わ、私なんかが流瑠様にハグなんていいんでしょうか?」
「ま、ええじゃろ。役得と思っておくんじゃな。楓の性格からすると、この機会しかハグなんかできんかもしれんぞ?」
「そ、そうですね!ぎゅ〜っ、です!」
「ぎゅ〜っ、なのじゃ」
「わっ、わっ?」
後輩三人にハグされた流瑠は、戸惑いを隠せない。
オロオロしている流瑠に、もう一人後輩が近づいてくる。
「お姉様。僭越ながら私も……ぎゅ〜っ」
「あ、亜羅椰ちゃんまで……」
楓、二水、ミリアム、そして亜羅椰。四人にハグされた流瑠は、戸惑ってばかりだ。
楓はそんな流瑠に向かって言う。
「流瑠様お姉様。貴女は今、
大丈夫。貴女なら 前に進めますわ」
「そうですよ流瑠様!私、応援してます!」
「流瑠様、ファイトじゃぞ!」
口々に皆が応援する中、亜羅椰は苦悩しているようだった。
「……正直、お姉様と夢結様が仲良くなるくらいなら、私ともっと仲を深めて欲しいのですが……」
突然正反対のことを言い出す亜羅椰に楓は焦り出す。
「ちょっと亜羅椰さん!?今わたくし達がいい感じのことを 」
「でも!」
楓の声を遮って、亜羅椰は続けた。流瑠を見上げるその顔には、「不本意」と書かれているようだったが。
「でも私、また昼間のようなお姉様の笑顔をもっと見たいです。なので 頑張ってください、お姉様」
「みんな……ありがとう。私、頑張ってくる」
流瑠は後輩達をしっかりと抱きしめ返し、宣言した。
『〜〜〜〜〜〜〜♪』
「あ、すみません。私のです」
そんな中、この場にそぐわない音を出し始めたのは、二水の携帯だった。
「二水さん!?このいい雰囲気をぶち壊さないでくださいます!?」
「ご、ごめんなさい!あ、でも梨璃さんからです。あっちで進展があったんですかね。えっとなになに……ひえっ」
二水が小さく悲鳴を上げて落とした携帯には、短くこう書かれていた。
『訓練場ニテ 待ツ 白井夢結』
〜流瑠様のお悩み相談室〜
第一回〜王雨嘉〜
「はい、次の方〜」
「あ、ご、ごきげんよう……流瑠様」
「はい、ごきげんよう。まずはお名前を教えてもらってもいいかな?」
「あ、はい。
「よろしくー。まあまあ、そんなところに立ってないで、ソファにでも座って座って」
「あ、あの、ソファって……1つしか無いんですけど……」
「うん、そうだね」
「それで、そのソファには流瑠様が座っていらっしゃるんですけど……」
「大丈夫大丈夫、これ二人がけだから」
「いや、そういう話じゃなくて、どこに座れば……」
「私の隣に座っていいよ。あ、もしかして膝の上がいい?大胆だなー雨嘉ちゃん!」
「……隣で、いいです……」
「ち、近いです流瑠様……っていうかほぼ密着です……」
「うん。あ、テーブルの上のお菓子食べていいよー。紅茶も飲んでいいからね」
「あ、はい。ありがとうございます……」
「……雨嘉ちゃんって、目が綺麗だね」
「ち、近い!?近いです流瑠様!」
「あらら、ごめんごめん。雨嘉ちゃん、あんまり人と話すの好きじゃない?」
「いえ、そういうわけじゃないんですが……その、自分に自信が持てなくて……」
「自信って?リリィとしてってこと?」
「……それも、あります。けど、私、姉や妹に比べて出来が悪いので、何をやってもダメっていうか……」
「うーん、そっかー。ここにきたのも、そんな感じの相談?」
「……はい。どうやったら、自信がつくようになるのかなって」
「そうだねー……ねえ、雨嘉ちゃん。雨嘉ちゃんって、目標とかある?」
「目標、ですか?」
「そうだねー、例えば『ヒュージを1年で1000体倒す!』とか」
「せ、1000体ですか!?一年でそれはちょっと……」
「あはは、そうかな?でもね、雨嘉ちゃん。『目標を可視化すること』って、とっても大事なことだと思うよ。自信をつけるには、ね」
「目標の可視化……ですか」
「そ。目標は短期的なものと、長期的なもの、両方あった方がいいかもね。例えば、『次の試験で100点を取る!』と、『この一年での試験の合計スコア2800点以上取る!』とかね。そうすれば、短期的な目標が簡単に達成できたなら長期的な目標を高くしていけばいいし、達成できなかったなら長期的な目標に向けて自分に足りないものがわかるでしょ?自分の力を正確に知ることもできるから、目標が失敗しても成功しても、次の自分に繋げることができるんだねー」
「な、なるほど……」
「あとはー……『自分の得意なものを伸ばし続ける』ことが大事かな?」
「得意なこと、ですか」
「うん。つまりね、誰かと比べて自分がダメだと思うなら、自分にその人と差別化できる部分を作ればいいんだよ」
「差別化……」
「雨嘉ちゃん、何か得意なことある?」
「いえ……あ、でも料理なら多少は……」
「料理!いいじゃない!料理が得意な女の子、私好きだなー」
「いや、そんな……流瑠様に食べていただけるようなものじゃ…それに、リリィとしての才能じゃ無いし……」
「そんなことないと思うけどなー?雨嘉ちゃん、料理は自分が食べるために作ってたの?」
「いえ、家族みんなの料理を作ったりもしてました……みんな美味しいって言ってくれてたので、その時はとても嬉しかったです」
「雨嘉ちゃん。料理を作って他の人に「おいしい」って言わせることができる人はね、他の人のことを考えることができる人なんだよ」
「え……」
「料理を作る時、レシピ本と睨めっこするばっかりじゃないでしょ?料理を食べた時、その人がどんな反応をしたのかとか、どんな味付けが好きなのかとか、よく食べてるものは何かとか、栄養バランスとか、もっと多い方が、もっと少ない方が、とか……料理する側って、色々と無意識に考えるものなんだよ。
それってつまり、『相手のことを考えることができる人』ってことでしょ?」
「え、ええ、まあ……」
「それってね、レギオンでヒュージと戦う時でも同じなんだ。あの人は突っ込みがち、とか、あの人はサポートしないと負傷することが多いとか、今誰か射線上に入ってこようとしてるかとか……特に雨嘉ちゃんは狙撃手だから、レギオンで戦う時にはそういう力が必要になってくる。そして、レギオンでの活動が長くなればなるほど、その力は有用性を増してくるんだよ。レギオンメンバーのことをより深く理解していけるからね」
「……」
「他の人の影響を受けることなく自分を通すことは一種の才能だけど、『他の人に合わせる』こともまた、一種の才能なんだよ。特に百合ヶ丘は、ノインヴェルト戦術というリリィ同士がどうしても協力しなきゃいけない戦術に重きを置いてる。もちろん、『レジスタ』や『ファンタズム』みたいな有用視されるスキルもあるけど……雨嘉ちゃんみたいな、優しくて他の人のことを考えられる『性格』も、ノインヴェルトではレアスキルと同じくらい必要なんじゃないかって、私は思うんだ」
「……流瑠様」
「料理、いいじゃない。私も食べてみたいな、雨嘉ちゃんの心が籠った料理♪」
「は、はい!いつか、必ず…!」
「うん。期待してるね。……で、雨嘉ちゃんには宿題を一つ出します」
「宿題……ですか?」
「そうそう。さっき言ってた『短期的な目標』と『長期的な目標』ってやつね。そうだねー、まず短期目標は『レギオンに入ろう!』、長期目標は『レギオンでの実戦でノインヴェルトを決めよう!』って感じで」
「れ、レギオンですか……?」
「そう。さっきも言ったように、雨嘉ちゃんの才能はレギオンでこそ活かされる。それに、留学生だから知り合いも少ないでしょ?
あ、でも、いいレギオンが見つからなかったからって焦らなくてもいいからね。焦って自分に合わないレギオンに入ったって息苦しくなるだけだから。まずはじっくり、人を見て、人の繋がりを見てから決めればいい。……どうしても無かったら、自分で作っちゃえばいいしね」
「そ、それはちょっと……」
「あはは。……どう?頑張れそう?」
「……は、はい。私、やってみます!」
「そっかそっか!大丈夫、雨嘉ちゃんならできるよ。
……自分が何をやってるかわからなくなったり、何をしたらいいかわからなくなったり、悩んだり落ち込んだりしたら……また、ここに来て。私はいつでも、雨嘉ちゃんの味方だよ。
途方に暮れても、周りが全て敵になっても……ここに、絶対に貴女の味方がいるから」
「は、はい…!流瑠様、ありがとうございました…!」
「頑張ってねー」
(……次来る時は、流瑠様に何か差し入れを持ってこよう)
……はい。そういうわけで、流瑠様のお悩み相談室、後書きにて不定期で開催します。主に後書きに書く情報が無くなった時に。
日刊ランキングにちょくちょく載せていただきました、本当にありがとうございます!
また、沢山のUA、お気に入り、評価、感想、誤字報告等、ありがとうございます!これを励みに、みなさんに百合をもっともっと届けられるよう精進して参ります!!