アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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百合の、百合による、百合のための、百合。



(今回、いつもの2倍程度の文章量があります)



ブーゲンビリア その6

 

「構えなさい、流瑠」

 

「夢結……」

 

 

百合ヶ丘女学院高等部の訓練場。

既に日も落ちつつあり、もう他のリリィも自主訓練を切り上げて訓練場から出ていってしまっている。

 

そんな時間に、訓練場のど真ん中で向かい合う二人の姿があった。

 

 

 

一人は、百合ヶ丘のエースと称されることもあるトップリリィの一人・白井夢結。

 

もう一人は、最強とも言われるリリィ・三巴流瑠。

 

 

二人は、互いにチャームを携え、訓練場にて一触即発の空気を作り出していた。

 

 

「構えないなら……いくわよ」

 

「っ、夢結……!」

 

 

悲しげな顔をする流瑠に、夢結はチャームを振りかざして突っ込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

「あーもう!なんでこうなるんですの!?話し合いで解決できると思ってましたのに!」

 

「ごめんなさい、楓さん……私、失敗しちゃった、かも……」

 

 

夢結の説得に行っていた梨璃は、頭をわしゃわしゃと掻く楓に、自分の失敗を詫びる。

落ち込んだ様子の梨璃に、楓は「り、梨璃さんは悪くありませんわ!悪いのはあのわからずやの夢結様で……」とフォローする。

 

 

「そうだゾ。気にしすぎるな、梨璃。あれでダメなら多分誰が説得してもダメだろうからなー」

 

梨璃と共に夢結の説得に向かった梅も、呆れたように笑う。その顔は、しょうがない姉妹を見ているかのようだった。

 

 

 

(どうしてこんなことになっちゃったんだろう……)

 

 

梨璃は後悔と共に、夢結の説得に向かった時のことを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前。

 

 

梨璃と梅は、夢結の部屋に向かって歩いていた。

 

旧校舎の廊下は、既に食堂に夕食を食べに行っているリリィが多いのか、人が少なかった。

そんな中を、梨璃達の向かい側から歩いてくる人影が一つ。

 

夢結だった。

 

 

 

「あ……ご、ごきげんよう」

 

「……」

 

挨拶する梨璃のそばを無言で通り過ぎようとする夢結。それを呼び止めたのは、梅だった。

 

「夢結。慕ってくれてる後輩に挨拶の一つも無しなんて、ちょっと酷いんじゃないか?」

 

「……梅」

 

梅の言葉を聞いて、夢結は渋々と梨璃達の方に向き直る。

そして、極めて事務的に、

 

 

「ごきげんよう。……それじゃ」

 

とだけ言って、去ろうとした。

 

 

「ま、待ってください夢結様!」

 

梨璃の声に、こちらを向きはしないものの、足を止める夢結。

それを、話を聞いてくれるのだと判断した梨璃は、夢結に本題を突きつけた。

 

 

「私、夢結様に助けてもらって……夢結様に憧れてリリィになりました!私は、夢結様とシュッツエンゲルの契りを結びたいんです!」

 

その告白に、夢結は冷めた反応をする。

 

「……貴女が誰に憧れようが勝手だけど、それと貴女が私のシルトになることとはなんの関係もないわ。貴女とシュッツエンゲルの契りを結んでも、私の作戦遂行能力が低下するだけよ。……それが貴女の望み?」

 

その棘のある言い方に、梅もさすがに夢結に怒る。

 

「おい夢結、その言い方はちょっと    

 

 

「関係あります!!」

 

そんな梅の声を遮って、梨璃は夢結に反論した。

 

「私は夢結様に憧れました!夢結様の隣で戦いたいって思いました!夢結様に助けてもらって、今度は私が夢結様を助けたいって思いました!それが、私がシュッツエンゲルの契りを結んでほしい理由です!!

だから    関係あります!!」

 

「梨璃……」

 

そんな梨璃の言葉に、夢結は露骨に不快そうな顔になり、梨璃に背を向けて歩いていこうとする。

しかし、梨璃は諦めない。夢結の背中に向かって声をかける。

 

 

 

「それに、夢結様にだって、憧れの人が()()()()はずです!」

 

   え」

 

それを聞いた梅は声を上げ、夢結は    立ち止まった。

背を向けていて顔はわからないが、夢結は明らかに動揺しているようだった。

 

 

 

暫くの沈黙の後、夢結は感情を押し殺すように声を絞り出した。

 

「……もう、私に憧れの人なんていないわ。あの人はもう   

 

「そ、そうだぞ梨璃。あの人は、美鈴様は    

 

「いえ、違います梅様。……違いますよね、夢結様?」

 

「………」

 

 

動揺する梅の声を遮った梨璃の言葉に、夢結は何も答えない。

梨璃はそんな夢結に、爆弾を放り投げた。

 

 

「夢結様。流瑠様と、ちゃんとお話ししませんか?私とのシュッツエンゲルのお返事は、その後でもいいです」

 

「………」

 

 

 

またも、夢結は何も答えない。

梨璃もまた、夢結の答えを聞くまで何も言わない。

そんな時間が続いて、やがて夢結は震える唇を開いた。

 

 

「……なぜ、私が流瑠と話をしなければならないのかしら」

 

その疑問に、梨璃は毅然とした態度で答えた。

 

 

「そんなの簡単ですよ。私が夢結様だったら、そうしたいからです!」

 

    ッ!貴女に何がわかるの!?

 

わかります!!

 

 

夢結は梨璃との会話の中で、今初めて()()()()()()()()()()

それでも梨璃はやはり、怯むこともなく言い返す。

 

 

「……わかりますよ。だって、夢結様と私は同じだと思うんです。

憧れの人を追いかけて、隣に並びたいって思って、支えたい、支えてもらいたいって感じて、そして    大好きだって、思ってるから」

 

 

「…………ッ」

 

 

夢結は梨璃の言葉を受けて、目を見開き、歯を噛み締める。

 

梨璃はそれ以上何も言わない。

夢結も、答えない。

夕日が沈んでいく中、梅は    そんな二人を、眺めていることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

やがて、1分、2分、5分と時間が過ぎていき    夢結は重たい口を開いた。

 

 

「…………わかったわ。その申し出を受け入れます。

流瑠と、話せばいいのね?」

 

「……っ!は、はい!ありがとうございます!」

 

「夢結……」

 

夢結の答えにほっとする梨璃と梅。

しかし、夢結は一筋縄ではいかなかった。

 

 

「なら、その方法は私が指定するわ。これが受け入れられないなら、この話は無かったことにします」

 

「は、はい……方法、ですか?」

 

 

「ええ。流瑠にこう伝えなさい」

 

 

 

 

『訓練場ニテ 待ツ   白井夢結』

 

 

 

 

そして、夢結は梨璃に皮肉気味に言い放った。

 

「この戦いをよく見ておきなさい、一柳さん。これが    貴女がシュッツエンゲルにしようとしている人間よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、言うわけなんです……」

 

「あの方は頭まで筋肉か何かでできてるのですか!?」

 

 

梨璃からことの次第を聞いた楓は、夢結の頑固っぷりに呆れ返る。

 

しかし、もう戦いは始まってしまった。

流瑠と夢結。二人の戦闘は、今まで見たどんな戦闘よりもハイレベルだ。

夢結は攻撃し続け、流瑠は防御に徹しているが    まるで踊っているかのような、それでいてどこまでも苛烈な戦い。

 

もう、他の人間には止められない。

 

「夢結様……」

「お姉様……」

 

二人の和解を願う者たちは、ただ二人が無事に仲直りしてくれることを願うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夢結!なんでこんなことを……!」

 

「……っ!はぁあああああっ!」

 

 

チャームとチャームがぶつかる。それは、互いの感情がぶつかっているかのようだった。

しかし、二人には決定的な違いがあった。

 

流瑠は疑問を、夢結は怒りを、そのチャームに乗せて戦う。その結果、流瑠はチャームの動きを鈍らせ    夢結は流瑠を追い詰めていた。

 

しかし、流瑠は最強とも呼ばれるリリィ。動揺や疑問があったからといって、早々やられはしない。防ぎ、流し、受け切る。

 

「埒が明かない」    そう判断したのか、夢結は切札を躊躇なく切った。

 

 

「うぅ……うぁああああああああああっ!」

 

何かに怒っているような   それでいて何かに怯えているかのような叫び声と共に、夢結の綺麗な黒髪は真っ白に染まっていく。

 

「あれは……ルナティックトランサー!?」

 

「夢結!!」

 

戦いを見ていたミリアムや梅の言葉を聞いて、梨璃は思い至る。

 

(多分これが、夢結様がさっき言ってた「よく見ていなさい」ってこと、なのかな……)

 

 

 

「夢結……私のこと、そんなに……」

 

「あ”あ”あ”あ”あ”っ!」

 

「くっ!?」

 

流石の流瑠も、ルナティックトランサーを発動した夢結に攻撃もせずに戦い続けることには限界がある。流瑠は、どうすればこの戦いを終わらせられるのかを思案し始めた。

 

(私、どうすれば……攻撃?いや、今の夢結にそんなことしたくない……!きっとそれをしたら、私たちはもう   )

 

 

なんで……

 

流瑠の思考を遮るかのように、夢結の声が耳朶に入り込む。

 

「……え?」

 

「なんで、こんなことを、ですって……?」

 

 

夢結はルナティックトランサーを発動しながらも、言葉を発していた。

まだ話が通じるかもしれない   そう思った流瑠は、戦いを止めようとした。

 

 

「そうだよ夢結!なんでこんな……ルナティックトランサーまで使って……」

 

それはこっちのセリフよ!!

 

「うぐっ……!?」

 

 

夢結の叫び声に応じるかのように強力な攻撃が流瑠を襲う。

 

 

「なんで、なんで、なんで!?」

 

「ゆ、夢結……うあっ!?」

 

 

一際強い攻撃が、動揺した流瑠のチャームを弾いた。

夢結は尻餅をつく流瑠の襟首を掴んで持ち上げる。

 

 

「なんで!!なんで今更話し合いなの!?」

 

   

 

 

夢結は    泣いていた。

 

「何もしてくれなかったじゃない!何も言ってくれなかったじゃない!『私が悪い、夢結は悪くない』って、そればっかり!!」

 

「っ、私は、夢結が美鈴を殺すことなんてないと思って   

 

「違う!美鈴お姉様を殺したのは私!私なの!!私のチャームが美鈴お姉様を貫いて!!」

 

 

夢結は流瑠の襟首を掴んだまま    感情のままに、流瑠を()()()

流瑠は着地もまともにできず、地面に叩きつけられた。

 

 

「なんで責めてくれなかったの!?なんで私が悪いって言ってくれなかったの!?私は責められるべきだったの!断罪されるべきだったのよ!!」

 

「夢結は悪くない……悪くないよ!悪いのはヒュージでしょ!?」

 

「違う違う違う!違うぅううううう!」

 

流瑠の言葉に、夢結は苦悩するかのように頭を抱えて振るう。

 

 

 

「私は……私は!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は流瑠お姉様のことが好きなの!!誰よりも!なによりも!!美鈴お姉様よりも!!!

 

 

 

    え」

 

その言葉に、流瑠は固まる。

 

 

「私は()()()()()()()()()()()()()()()()!流瑠お姉様を追いかけて百合ヶ丘に来た!!そして、いつか流瑠お姉様のシルトになるために自分を鍛えてきた!!でも!!

 

でも……流瑠お姉様は、もうシルトを持っていた!だから私は、せめて流瑠お姉様の()()()()()()()()()()()、美鈴お姉様にシュッツエンゲルを申し込んだ!!

 

そして美鈴お姉様が死んだ時、私は思ってしまった!!

()()()()()()()()()()()()()()()って     !!」

 

 

      

 

 

流瑠は、夢結の告白に絶句している。

 

 

梅は梨璃に向かって、先程の会話の意味を問いただしていた。

 

「梨璃、さっきの、夢結の憧れの人って……」

 

「……はい。流瑠様のことです。夢結様は、流瑠様に憧れてリリィになったんじゃないかって、そう思ったんです」

 

 

 

梨璃は、検疫室での夢結とのやりとりを思い出していた。

 

 

 

    流瑠様は悪い方には見えませんでしたし、夢結様を心配していらっしゃる感じでした』

 

『それは貴女の見間違いよ、一柳さん。

私があの人に力不足だと嘲笑われるならまだしも、心配されるなんてあり得ない。それに、あの人は私のことなんて   

 

 

きっとあの発言は、流瑠への罪悪感と、流瑠に認めてほしいという心の表れだったのではないかと、梨璃は思った。

 

 

 

「それで、『私が夢結様に取り返しのつかないことをしたらどう思うか』って夢結様と重ね合わせて考えたら、きっと、ちゃんと話をしたいだろうなって」

 

「……なるほど、それで梨璃と夢結が同じ、か」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がっかりしたでしょう?失望したでしょう!?……これが、私。

卑怯で、浅ましくて、救いようのない嫉妬の化け物!!」

 

「そんなことない!!」

 

 

自分を卑下する夢結を、流瑠は否定する。

流瑠はチャームを手に取って立ち上がった。

 

 

「そんなこと、ないよ……きっかけは、私だったのかもしれないけど。でも、美鈴と一緒にいる時の夢結はあんなに楽しそうだったじゃない!

あの笑顔は嘘なんかじゃない!夢結は……美鈴が大好きだったはずだよ!!」

 

「ならなんで!!なんで美鈴お姉様が死んだ時、私は、あんなことを!?」

 

 

再び流瑠に振り下ろされる夢結のチャーム。それを   流瑠は、しっかりと受け止めていた。

 

 

「なら私も聞かせてよ!なんで夢結はルナティックトランサーを発動したの!?」

 

「っ!?」

 

 

流瑠から返された言葉に、夢結は目に見えて動揺する。

 

 

「美鈴の遺体についてた傷は、そのほとんどがヒュージによるものだった。……夢結が美鈴をどうこうする前に、既に美鈴は致命傷を負ってたんじゃないの?」

 

「それ、は……」

 

 

言い淀む夢結に、流瑠は穏やかに笑いかける。

 

 

 

「……やっぱり、悪いのは夢結じゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「……っ!あああああああああああっ!!」

 

 

流瑠の言葉に頭が沸騰したのか、渾身の力を込めてチャームを振るう夢結。

 

それに対して流瑠は     チャームを持つ手を、だらんと落とした。

 

「……っ!?」

 

「流瑠様!?」

 

 

観戦していた一年生達から悲鳴が上がる。

夢結も、ルナティックトランサーの中、流瑠が防御すらしない様子に気づいた。

 

しかし、チャームは無常にも空を切って流瑠の首を断ち切らんとする。

もう、止められない     

 

「お姉様   !」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ほら、ね。夢結はやっぱり、殺してないよ」

 

果たして、そのチャームの刃は    流瑠の首元寸前で止まっていた。

 

 

「……っ!はぁっ…!はぁっ…!」

 

ルナティックトランサーが解除される夢結。同時に、事態を見守っていたリリィ達もどっとへたり込んだ。

 

「ひ、ヒヤヒヤさせてくれますわね、お姉様……」

 

「よ、よかったですぅ……」

 

「あとであの二人はお説教だな、まったく」

 

 

 

 

「……さっき、言ってなかったことが一つあってね。夢結はさっき、『私のチャームが美鈴お姉様を貫いて』って言ったよね?

確かに美鈴の遺体には、ヒュージによる傷と夢結のチャームによる刀疵が両方あった。けど……夢結が言うような、『チャームに刺し貫かれた傷』なんてものは、なかった」

 

「え……」

 

「あったのは、ヒュージの触手に貫かれた腹部の傷だけ。……夢結は、殺してなんかないよ」

 

 

その言葉に、夢結は力を失ったかのように座り込んだ。流瑠もまた、緊張から解放され、チャームを手から落とす。

 

傷だらけになってしまった訓練場の上。そこに残ったのは、もはや戦う気力もない、ただの少女二人だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

沈黙が場を包む。誰も、何も言わない。

だだっ広い訓練所を埋めるものは何もなく、ただ空白が佇んでいた。

 

 

やがて夢結は、その空白を埋めるかのように、ポツリポツリと話し始めた。

 

 

「なんで……今なの?今まで、私の話を聞いてもくれなかったのに……私の二年間は、一体何だったの……?」

 

「夢結……」

 

一度溢れ出した感情は、言葉は……そして涙は、止まらない。

涙でぐずぐずになりながら、夢結は流瑠に訴え続ける。

 

 

「……流瑠お姉様は、あの日から変わってしまった。『夢結は悪くない、悪いのは私だ』って、それだけしか言わずに、勝手に抱え込んでた。

美鈴お姉様がいた頃は「夢結」って呼んでくれて、私はこの人の特別なんだって思えていたのに……いつからか、私のことも「夢結ちゃん」って呼び始めて。何の相談もしてくれなくなって……私が「流瑠」って呼び捨てにしても、私がお姉様の悪口を言っても……ただ曖昧に笑うだけだった」

 

「……ごめん」

 

「頼って欲しかった。頼らせて欲しかった。寄り添って欲しかった。寄り添わせて欲しかった。甘えて欲しかった。甘えさせて欲しかった。

私を    求めて欲しかった!

なのにお姉様は、私から離れていくばかりだった!!」

 

「夢結……ごめんね……」

 

「いっそ責めて欲しかった!「お前が悪いんだ」って、否定して欲しかった!断罪して欲しかった!!

何もしてもらえずに離れられるのが、一番、つらかった……!」

 

「ごめんね…ごめんねぇ……」

 

今まで触れようとしてこなかった夢結の内面に触れ、流瑠の目からも涙が溢れる。謝ることしかできず、流瑠も嗚咽を漏らした。

流瑠は夢結に抱きつき、謝り続ける。

 

 

「お姉様は、三人でいる時から、きっと美鈴お姉様のことばかり考えていたんでしょう!?私のことなんてどうでもよくて!私は!!美鈴お姉様の付属品でしかなくて!!美鈴お姉様がいなくなれば、『夢結ちゃん(リリィの一人)』になってしまう程度の存在でしかなかったんでしょう!?」

 

「そんなこと、ない!私は美鈴も夢結も、同じくらい大好きだった!!」

 

「ならなんで!!私をシルトにしてくれなかったんですか!?私を貴女の『特別』にしてくれなかったんですか!?なんで……お姉様のお側に居させてくれなかったんですか……」

 

「それ、は……」

 

 

流瑠は答えを言い淀み、夢結は何も言わない。

訓練場には、二人の嗚咽だけが響く。

 

 

「夢結様、流瑠様……」

 

「………」

 

それを見守る梨璃達も、口を出せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だって………」

 

数秒か、それとも数分か。長いようで短い沈黙を、流瑠の漏らした声が破った。

 

 

「……ったら、また、私……」

 

「流、瑠……?」

 

俯いてボソボソと呟く流瑠に、夢結は違和感を覚える。

 

「何を、言って……」

 

 

 

「だって!夢結が美鈴みたいに特別になったら、また私置いていかれちゃうよぉ!」

 

 

顔を上げた流瑠は    端正な顔を歪め、大粒の涙をボロボロと溢していた。

 

 

   え」

 

 

「なんなのみんなして!?シルトとか『特別』とか!!楓も亜羅椰も夢結も美鈴も!!みんないつか私を置いて行っちゃうのにぃ!!」

 

「流瑠、お姉様……?」

 

「もうやだよぉ!なんでみんな私を置いていくの!?なんでみんな私を一人にするの!?『特別』とか言ってたくせに!!ずっと一緒だって言ってたくせに!!

私だけ変わらない!変われないのに!!みんなばっかり卒業して!大人になって!!また私だけ置いてけぼりにするんでしょ!?

大好きなのに!離れたくないのに!!置いていかれたく無いのに!!」

 

 

それは   流瑠の、心の叫びだった。

自分だけ成長しない。見た目も、心も。

流瑠は、この百合ヶ丘を出ることを怖がっていた。嫌だったのだ、()()()()()()()()()()()()()()()ことを認識するのが。だから、今も卒業できずにここにいる。

そして、自分を置いて立派に卒業していくリリィ達を見るのが、嬉しくもあったが    同時にとても悲しく、恐ろしくもあった。

 

流瑠がシュッツエンゲルの条件として、厳しい    ()()()()()()()()()()()()を課したのは、そんな現実から()()()()()()()でもあった。

特別な人(シルト)を作ってしまえば、いつかその人は自分と同じ歳になり、いつのまにか年上になり、卒業して置いていかれてしまう。その人が特別であればあるほど、きっと流瑠は深い絶望に取り残されてしまう。

 

誰も自分を待ってはくれない。そんな絶望から自分を守るために、流瑠はシルトを作らないようにしていた。

    川添美鈴が、現れるまでは。

 

 

「………お姉様」

 

「美鈴がシルトになって……私、毎日が楽しかった。シュッツエンゲルとして一緒に過ごす日々がこんなに楽しいなんて、私知らなかった……。

夢結とノルンになって、三人で遊んで、いろんなとこ行って、いろんなことやって……暖かくて、幸せだった。

だから、美鈴がいなくなったあの日、私の心にはぽっかりと穴が空いちゃったの。その穴から大事なものがどんどん溢れていく気がして……寒くて、苦しくて、寂しくて、悲しかった。シルトを、大切で特別な人を喪うことがこんなに苦しいってことも……私は、知らなかった」

 

 

「……」

 

 

流瑠の独白に、夢結は言葉も出てこない。

流瑠は、夢結を抱きしめる力を一層強くした。

 

 

「ごめんね、夢結。私、もっと夢結に寄り添ってあげるべきだった。

一緒にいて、一緒に泣いて、一緒に悲しんで……一緒に、美鈴の死を乗り越えるべきだった。

でも    怖かったの。そうしたら、夢結がどんどん特別になって、夢結のことが大好きになって、夢結のことしか見えなくなって   そうしていつか、夢結に置いていかれちゃうって思ったら………。

ごめんね。ごめんなさい。つらかったよね。苦しかったよね。私の我儘のせいで、夢結を一人ぼっちにしちゃった。

でも、でもね      

 

 

流瑠は、一度言葉を切り   子供のように泣きじゃくった。

 

 

 

「もう、独りはやだよぉ……ずっと、ずっと一緒にいてよ……独りにしないでよぉ……」

 

 

「流瑠、お姉様……」

 

 

初めて見る流瑠のか弱い背中に、夢結は手を回そうとする。しかし、夢結は流瑠を抱きしめ返すことはできなかった。

 

自分に何が言えるだろうか。

「ずっと一緒にいる」?無責任な。

「愛している」?そんな言葉は、大切な人と離れることを怖がる流瑠を余計に追い詰めるだけだ。

 

何も、言えない。流瑠も夢結を想っていて、夢結も流瑠を想っているのに、何も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お姉様、お姉様。こっちを向いてくださいな」

 

 

嗚咽だけが響く空間を壊すような優しい声がしたのは、そんな時だった。

いつの間にか流瑠のそばまで来ていた楓は、流瑠の傍から声をかける。

 

 

 

「楓、ちゃん?どうして    んんっ?」

 

 

 

声をかけられた流瑠が夢結を抱きしめる腕を緩めて楓の方を向いた瞬間      

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楓は、流瑠の唇を自分の唇で塞いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     !? むー!?んんー!!?」

 

 

「か、かかか楓さん!?」

 

「なんと   !?」

 

「楓さん……女の子同士なのに、何してるんだろ……?」

 

      な、な……」

 

 

野次馬の声も気にせず、そのままたっぷり1分ほどキスを堪能した楓は、満足したのか「ぷはっ」と唇を離した。

 

 

     え、あ?か、楓ちゃ……」

 

 

言いかける流瑠に、楓は人差し指を立てて流瑠の唇に付け、言葉を止めた。

 

 

「もう、イヤですわお姉様。「楓ちゃん」なんて他人行儀な呼び方はやめてくださいまし。わたくしのことは、「楓」と呼び捨てにしてくださいな」

 

「あ、あぅあぅ……」

 

 

まだ困惑して顔を真っ赤にしている流瑠に、楓は小悪魔のような笑みを浮かべ、悪魔のような提案をした。

 

 

「流瑠お姉様。わたくしがここ(百合ヶ丘)を卒業する時、一緒にフランスに来ませんか?」

 

「……え?」

 

「わたくしの実家がチャームメイカー・グランギニョルなことはご存知でしょう?そこで、チャームのテストリリィをしていただきたいんですの」

 

「テスト、リリィ……?」

 

 

訳も分からず反芻する流瑠に、楓は「その通りですわ」と答える。

 

 

「チャームの実用性や運用性を実測する、大事なお仕事ですわ。本当にリリィにとって有用なチャームであるのか、そしてリリィへの負担がどれくらいなのか……そういった、リリィの命を守る縁の下の力持ちのような仕事であると言えますわね」

 

 

唐突な提案をする楓に、やっと正気を取り戻しだした流瑠は疑問を呈しようとする。

 

 

「で、でも、楓ちゃ   

 

「か・え・で、ですわよ♪」

 

 

流瑠の疑問を遮って呼び方を訂正する楓の口調は、かなり圧が強い。

流瑠は戸惑いながらも、「か、楓……」と呼び直した。

 

 

「なんで急に……?」

 

「なんで?そんなの簡単ですわ。わたくし    流瑠お姉様が欲しくなっちゃったんですもの!

Win-Winな関係だと思いますわよ?グランギニョルは有用なテストリリィを得ることができ、同時にわたくしは愛して止まないお姉様を手に入れることができますわ。

そして、お姉様は    

 

 

楓は、ペロリと舌舐めずりして言った。

 

 

 

「ずっと、ずーっとわたくしと一緒にいられますわ♡だって、わたくしが絶対にお姉様を手放してあげませんもの。

わかります?お姉様。これ、プロポーズですのよ?」

 

「え    

 

 

楓は座り込んだまま困惑している流瑠を抱きしめ、あやすように頭を撫でた。

 

 

「もちろん、無理強いはいたしません。でも、わたくしは絶対にお姉様から離れたりしませんわ。例え、お姉様がフランスに来てくださらなかったとしても。

ですから……もう、孤独に悩むのはおやめください、流瑠様。前にも言いましたわよね?抱え込みすぎるのは身体に毒ですわ。悩みがあればこうして、わたくしにお話しください。……いつでも、どんな手を使っても、わたくしは必ず貴女の側にいますから」

 

「あ……うん、楓……」

 

 

楓の甘い言葉に流瑠は安心したのか、目をトロンとさせて楓に身を預け、されるがままになる。

 

そんな様子を見た楓は、人を堕落させる悪魔のような優しい目を流瑠に向けた後    それまで瞬き一つせずに楓と流瑠のやりとりを放心状態で眺めていた夢結に声をかけた。

 

 

「そういうわけですので、夢結様。貴女が何も言わないなら、わたくしが流瑠お姉様を貰ってしまいますが……よろしいですわよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        は?」

 

 

「ひいっ!?」

 

 

楓の挑発的な言葉に、底冷えするようなドスの効いた声を発する夢結。

その声は決して大きくは無かったが、離れた位置から見ていた梨璃達の耳にも届く。

それを聞いて、二水は悲鳴を上げた。

 

 

「あまり調子に乗らない方が良いわ、楓・J・ヌーベルさん。流瑠お姉様と一番長くいたのは私よ。私だって、ずっとお姉様の側にいるわ」

 

「夢結……」

 

「あら怖い。ですが、わたくしは将来の明確なビジョンをお姉様にお伝えしましたわ。この時点で、わたくしが一歩リードしているのではなくて?」

 

楓の言葉に、夢結は「ギリッ」と歯軋りをする。

 

「……私にだってあるわ。将来のビジョンくらい」

 

「へーえ?お聞かせいただいても?」

 

「私は……百合ヶ丘を卒業した後、ここの教官になるわ。お姉様は、この学院にずっといてくれればいい。ヌーベルさんの手を煩わせるまでもないわ。私が流瑠お姉様と一緒にいるから、貴女はさっさとフランスに帰って自分の仕事に専念してはいかがかしら?」

 

「あら、それは素晴らしいプランですわね。でも残念ながらそれは叶いませんわ!流瑠お姉様は私と一緒にフランスに行くんですもの。ね、お姉様?」

 

「いいえ、私と百合ヶ丘で暮らすのよ。そうでしょうお姉様?」

 

「え、えっと、えっと…?」

 

 

二人からずい、と迫られる流瑠。迫られた流瑠は、全くついていけずに困惑するばかりだ。

そんな流瑠は、いきなり後ろに引っ張られる力を感じて「わぁっ!?」とつんのめるも、誰かに抱きかかえられた。

 

 

    あらぁ、お二人ともいい度胸だわねぇ?私を除け者にしてお姉様の所有権を争うだなんて」

 

 

流瑠を助けに……いや、事態を拗らせに来たのは、亜羅椰だった。

 

 

「亜羅椰さん?今は引っ込んでおいてもらえませんこと?わたくしと夢結様の問題なので」

 

「ハッ。そういうのは私に勝ってから言ってもらえる?そもそも貴女達、別にお姉様のシルトでもなんでもないでしょうに」

 

「……いや、それは貴女もでしょう、遠藤さん」

 

「ぐっ!?ぐぬぬ……」

 

 

不満げな亜羅椰に、楓はため息を吐く。

 

 

「はぁ……そもそも亜羅椰さん、貴女はどうやって流瑠様と一緒にいるおつもりで?」

 

その質問に、「待ってました」とばかりに亜羅椰は胸を張る。

 

 

 

「私は     お姉様と結婚するわ!!」

 

「「なっ……!!」」

 

「え……?い、いつもみたいな冗談だよね?」

 

 

亜羅椰の爆弾発言に「その手があったか!」という反応をする二人(夢結・楓)と、情報量の洪水で頭がパンクしそうになってきている流瑠。

 

 

「お姉様。私、お姉様に冗談なんて言ったことはありませんよ?」

 

「え?冗談……じゃ、じゃあ、いつも私との訓練の時に言ってた『結婚してください』とか、『(ピーーー)してください』とかも?」

 

「本気に決まってるじゃありませんか」

 

「なっ……貴女、お姉様にそんなこと……!?」

 

「ちょっと亜羅椰さん、下品ですわよ」

 

 

夢結と楓はあっけらかんとした亜羅椰の発言に苦言を呈するが、流瑠は    少し顔を赤らめて恥ずかしげにしていた。

 

 

「私……嬉しい、かも……」

 

「お、お姉様!?」

 

「お姉様、既にそっちのケが……?では是非わたくしも    

 

「いやいや、そうじゃなくて!」

 

 

かぶりを振って否定した流瑠は、やっといつも通りの穏やかな笑顔に戻って続けた。

 

 

「みんなにこんなに想って貰ってるっていうのが……その、凄く嬉しくて……。私、一人で勝手に諦めてただけ、なのかな。誰かとずっと一緒なんて、絶対無理だって」

 

 

流瑠の恥ずかしげな声を聞いた楓は、ふわりと微笑みかけた。

 

 

「……お姉様、わかっていただけましたか?貴女には、色んな選択肢があり、色んな可能性があるのですわ。身体が成長しなかろうが、心の成長が遅かろうが関係なく。

大丈夫ですわ。ここには、こんなにも貴女と一緒にいたいと思っている人が    貴女の居場所があるのですから」

 

    うん!」

 

 

流瑠は    寂しさと訣別するかのように、涙を拭い去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今まで放っておいてごめんね、夢結。    また、私と一緒にいてくれる?」

 

    はい。はい!もちろんです、お姉様……!」

 

 

ギュッと抱き合う二人。ハグに慣れていない夢結は万力のような力で流瑠を抱きしめるが、流瑠はどこ吹く風。ミシミシと嫌な音を立てる骨を気にもせず、慈母のような笑顔で夢結を抱き返していた。

ともあれ、この儀式をもって、『二人の仲直り』という本来の目的は達せられたのであった。

 

 

「はぁ〜。本当に遠回りでしたわ……」

 

「じゃの。ま、大団円だったんじゃから良しってとこじゃろ」

 

「夢結様も流瑠様も良かったです〜」

 

「……ほんと、夢結も流瑠様も、世話が焼けるんだからなー」

 

 

 

 

 

そして    もう一つの本題も片付けねばならない。

夢結は流瑠を抱きしめるのを名残惜しそうにやめると、俯く梨璃の方に向き直……らずに、梨璃と目を合わせないようにそっぽを向いた。

迷っていたり都合が悪くなったりすると人の目を見なくなる、夢結の悪い癖だ。

 

「……一柳さん。今貴女が見たのが、私と言う人間よ。醜くて浅ましい、嫉妬の化け物。……こんな私でも、まだシュッツエンゲルにしたいと思う……?」

 

 

申し訳なさげなその言葉に、梨璃は何事かを呟く。

 

「私……私っ……!」

 

「え?ひ、一柳さん……?」

 

 

夢結はどんな反応が返ってくるか戦々恐々していたが、梨璃はそんな心配は杞憂だと言わんばかりの輝いた顔を上げた。

 

 

「私、夢結様のこと、もっと好きになりました!」

 

「待ちなさい」

 

梨璃の予想外の回答に、夢結は頭を抱える。

 

 

「えっと、一柳さん?」

 

「はい!」

 

「貴女、さっきの私と流瑠お姉様の一部始終を見てたのよね?」

 

「はい!全部見てました!」

 

「私の発言も全部聞いてたのよね?」

 

「はい!一言一句聞き逃しませんでした!」

 

「それで?私のことは嫌いになったって?」

 

「逆ですよぉ!私、夢結様がもっと好きになりました!!」

 

「やはり私の聞き間違いでは無かったのね……」

 

 

今度は天を仰ぐ夢結。助けを求めて周囲を見ると……自分以外はみんな、この状況がどう転ぶのかワクワクした顔で夢結達を眺めていた。

 

(ダメだわ……味方がいない……)

 

「……コホン。一柳さん。私の、ど、どこが好きになったのかしら」

 

(これで照れて言い淀んでくれるなら、まだ私が話の主導権を握ることもできるはず……!)

 

「えっと、最初は夢結様に助けてもらって、綺麗な人だなぁって憧れてて。それで、夢結様のこともっと知りたいなーって感じだったんですけど。

今は、夢結様のこと、少しずつわかってきた気がして、凄く嬉しいんです!」

 

(語彙力ッ!!)

 

「で、でもその、私、一柳さんが想っているような大層な人間じゃないわ。それに、自分で言うのも何だけれど、私、なかなか面倒な女よ?」

 

 

「お姉様がメンド……愛の深い人なのは、今日見ててよくわかりました!

でも、それも含めて私がシュッツエンゲルになって欲しいのは、他の誰でもない夢結様なんです!!」

 

    身体が成長しないとか、精神がどうとか、そんなの関係ありません!わたしがシュッツエンゲルになって欲しいのは、他の誰でもない流瑠様なんです!』

 

 

 

     あ」

 

 

梨璃の声に、誰かの声が重なる。

 

 

「私、夢結様に憧れてリリィになったんです!」

『私、流瑠様に憧れてリリィになったんです!』

 

「今度は、私が夢結様を助けたいって思ったんです!」

『貴女の隣で、一緒に戦いたいって思ったんです!』

 

「だから     

『だから     

 

 

「『私のシュッツエンゲルになってください!!』」

 

 

精一杯の思いを伝える声。

どこか不安そうで、しかし期待に満ちた眼。

そのどれもを、自分は知っているような気がした。

 

 

 

(     ああ、そうか。

この子(梨璃)     昔の私なんだわ)

 

 

 

目を閉じて、夢結は梨璃を昔の自分に重ね合わせた。

 

さっきの声は確か、いつか強くなった時、流瑠お姉様にシュッツエンゲルを申し込もうと思って、何度も何度も鏡の前で練習していた時の声だ。

自分の思いの丈を伝えようと思って、何回も台詞を考え直した。どうすれば流瑠様に自分を見てもらえるのか、ずっと考えていた。

……結局、美鈴お姉様が先にシルトになってしまって、それを流瑠お姉様に伝える機会は無かったのだが。

 

 

 

憧れて、憧れを追い続けて、ただそれだけの日々だった。

戦力がどうのとか、二人の関係がどうとかなんて、一切考えずに。

憧れの人の欠点を知ったところで、憧れという感情の前では欠点すら輝きを放っているように見えてしまった。

 

言われる側になって、初めて気づく。なんとも答えづらいというか、「いきなりシュッツエンゲルって言われても……」という感じの告白だ。

 

でも、夢結には理解できる。

ただ憧れたから、ただ隣にいたいから、シュッツエンゲルになりたい。

その人に魅せられた日から、ただ憧れだけを重ね続けて、自分の中で精一杯美化して、それを相手に押し付ける。

    いい迷惑だ。

 

 

笑えてしまう。それを流瑠お姉様にやっていた自分が、まさかやられる側になるなんて。

 

 

     でも。

 

 

 

 

(不思議と    悪くないわね。この子(梨璃)の前では、「梨璃の理想の私になれるように努力しよう」と思えるというか、一つ、私が目指すべき道のようなものが見えてくる気がする、というか)

 

 

 

不意に、美鈴の生前の言葉を思い出す。

 

 

『ボクは、夢結や流瑠がいなかったら、今とは全く違う自分になっていたかもしれない。夢結、君は確かに流瑠が目当てでボクのシルトになったのかもしれない。でもね、ボクは夢結がいてくれたから、夢結の理想のボクでいようと思えたんだ。夢結が道を決めてくれたから、ボクは今、後悔せずにここにいられる。

だからね、ボクは夢結に    本当に感謝してるよ」

 

 

憧れてくれるシルトの存在が、自分を正しい理想の方へ導いてくれる。

そして自分は、憧れてくれるシルトが正しい道に進めるように導く。

 

導き合い、支え合う存在。

 

 

(ああ     やっとわかりました。これが、シュッツエンゲルというものなんですね。………美鈴お姉様)

 

 

 

眼を開いた夢結は、目の前の少女の顔をもう一度正面からよく見る。

愛嬌に溢れた、可愛らしい顔だ。見つめていたら、不思議と惹かれてしまう。

その桃色の眼は期待と不安に揺れているが、同時に強い決意も感じた。

 

多分、断られても何度でも申し込もうと思っているのだろう、と夢結は理解した。自分だって、一回断られたくらいでは諦めない。挙げ句にはノルンになるほど、憧れを拗らせていたのだから。

 

 

それに、何よりも    今自分は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ってしまっている。それはかつて、自分が伝えられなかった思いを伝えているこの少女の笑顔こそが、自分にとっての救いになると思っているからなのだろうか。

 

ここまで自分の心に梨璃という少女の存在が深く刺さってしまえば、もう観念するより他無い。

 

 

(私の、負けね)

 

 

潔く負けを認めた夢結は     憑き物が落ちたような、晴れやかな気持ちになった。

 

 

 

 

      わかりました。私、白井夢結は、一柳梨璃さんのシュッツエンゲルとなることをここに宣言します。

 

……これからよろしくね、梨璃さん」

 

 

 

 

 

 

               い、

 

 

 

 

 

 

 

いやった                !!」

 

「おめでとうございます、梨璃さん!」

 

「梨璃さん、やりましたわね」

 

「うむうむ、ハッピーエンドじゃな!」

 

「夢結にもついにシルトかー、感慨深いなー」

 

「本当にモノにしてしまうとはね……」

 

「やったね、梨璃ちゃん」

 

 

 

果たして、満開の(ソメイヨシノ)のような笑顔を咲かせた梨璃の周りには、沢山の仲間の笑顔が集まる。梨璃も、二水も、楓も、梅も、亜羅椰も    そして流瑠も、みんなが笑顔だ。

それを見た夢結は、満足げに微笑んだ。

 

 

 

「梨璃さん、後悔の無いように……いえ、違うわね。

 

『梨璃』。私は貴女に、私のシルトになったことを後悔させはしないわ。

流瑠お姉様と……美鈴お姉様に誓って」

 

 

     はい!私も、お姉様が私をシルトにしてくれたことを後悔しないように、精一杯頑張ります!!」

 

 

 

 

 

涙の雨の跡に、色とりどりの笑顔が咲く。

 

 

春はまだ、始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 




・流瑠様
百合大魔神。君めっちゃモテるやん?
自分よりも年下がどんどん卒業していくのを見続けたが、精神の成長がほぼ止まってしまった結果、どこかのタイミングで諦めたり、擦り切れていくことすらできなかった。「みんなのお姉ちゃん」を自称し、全てのリリィを愛していながら、その心はいつも孤独に苛まれ続けていた。
特別な存在だった美鈴が亡くなって深く絶望してしまい、人間関係に一線を引くこと(流瑠の中では「ちゃん付け」がそれに当たる)で自分を守ろうとしていた。それもこれも楓さんにぶっ壊されたけど。
楓のおかげで解決の糸口が見え始めたので、これからテンション高くなってくると思われる。
最近ラスバレに流瑠様が出てる幻覚を見る。

・夢結様
今作では美鈴様を直接的に殺したわけでは無い、という設定。一応これにはアニメから読み取れる確固たる理由というか推測があるけど、これはまたいつかの活動報告で話せたらいいな。
クソデカ感情を拗らせまくった結果、ノルンになるという奇行に走るに至った流瑠様ガチ勢。ノルンになった後は美鈴様とも関係は良好で、流瑠が多忙なのもあって二人で過ごす時間も多かった模様。
梨璃に昔の自分を重ねた結果、アニメよりもかなり爽やかなシュッツエンゲルの契りになった。今の夢結様は様々な悩みから解き放たれているので、最強モードに入っている。

・楓さん
や、やったッ!俺たちにできないことを(ry
今回もやらかしてくれたお嬢様。流瑠の心を救おうという心算で……と言えば聞こえはいいものの、要は「これはお姉様の心を救うため……!」などと正当化して熱いベーゼをかました。
流瑠争奪戦で今のところ一歩リード中。

・梨璃ちゃん
かわいい。かわいいけど語彙力が微妙。けどそこがかわいい。とりあえずシュッツエンゲルを結べたので一安心。ほんとに。
カリスマの求心力が強すぎる。

・亜羅椰さん
なんやかんや最後まで見届けた上に梨璃の祝福までちゃんとしている。育ちがいいしね。
これまでは流瑠お姉様シルト争奪戦トップだったが、夢結が参戦してしまうため立場が危ぶまれることに……。まあ、今の亜羅椰さんなら夢結様ともいい勝負しそうだけど。
なんでラスバレに出てないん?なんでなん?



やっとアニメ2話が終わりました。ここからちょくちょく時間が飛んだりするので、間話とか入れることになるかも?


たくさんのUA、お気に入り、評価、感想等、ありがとうございます!

今回の話は冗長になってしまったので、食傷気味の方もおられるかもしれませんが、私の書きたい百合を書き切ったつもりです。
もっと皆様に百合イチャを届けられるよう、精進していきます!


追伸:せっかく感想をくださった非ログインユーザーの方を、一時的にブロックしていた可能性があります。筆者のシステムへの理解不足でご迷惑をおかけしました。現在はブロックを解除させていただいております。
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