アサルトリリィPRESERVED   作:(確信)

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No Yuri, No Life




(アニメ3話は明るめな話が多くなりそうです)



ネジバナ その1

「はぁあ〜〜〜〜〜〜〜っ!」

 

 

穏やかな朝。

朝食後のラウンジには、梨璃の感極まった声が響いていた。

 

その手には、一枚の紙。それを梨璃は何度も何度も見返し、愛おしいもののようにかき抱いた。

その紙には、こう書かれている。

 

 

『シュッツエンゲル誓約書

 

下記の誓いをもって、両名を当学院においてシュッツエンゲルとして認める

 

わたし達二人は シュッツエンゲルの契約を交わします

これからは 幸せな時も、困難な時も

健やかなる時も、病める時も

お互いを尊重し、慈しみ、支え合うことを誓います

 

姉 白井夢結

妹 一柳梨璃』

 

 

それは、今しがた夢結から「シュッツエンゲルになるために必要な書類よ」と言って梨璃に手渡されたものだ。

 

「これで私、夢結様とシュッツエンゲルになれたんですね!」

 

「夢みたい……嘘みたいです……」とトリップしている梨璃の向かいで、夢結はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アサルトリリィPRESERVED

第三話 ネジバナ

Spiranthes

―あなたを思う心

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夢結は生来、かなり生真面目な性格だ。

そんな彼女が、昨日の流瑠との戦闘や感情を曝け出したことで疲れているからと言って、「シュッツエンゲルになる」と宣言したことを後回しにするわけもなく。

夢結はその日のうちに、生徒会にシュッツエンゲル誓約書を申請しに行ったのだった。

 

もうその頃には日が傾くとかそういうレベルではなく、既に夜。生徒会室に入った瞬間、生徒会の実質のトップである出江史房(いずえしのぶ)のイイ笑顔から発せられる『この時間に仕事を増やすな』みたいなオーラを全身で感じ取った夢結は、そそくさと書類を受け取って帰ってくるしかなかったのである。

幸運だったのは、夢結のルームメイトである(はた)(まつり)が生徒会執行部にいて、口下手な夢結の要件を察した彼女が、「普通この時間は受け付けてないんだけどね」と苦笑しながらも書類を渡してくれことだろう。

 

 

部屋に戻った夢結は、手に持った書類……「シュッツエンゲル誓約書」を改めて見返した。

そして夢結は    何を思ったのか、或いは疲れているからか、『シュッツエンゲル誓約書』の()()()()を始めてしまった。

 

「『幸せな時も、困難な時も』……これは、お互いの精神の状態が良好か、そうでないかを表しているのよね。

そして、『健やかなる時も、病める時も』……こちらは身体の健康に関して、かしら。

いえ、精神的な面でも、「健やかである」、「病んでしまう」と言うことはあるわね。つまりこれらは、精神的・身体的に良好か、それとも不良であるかに関わらず、いかなる状態でもこれらの誓いを達成しなければならないということね」

 

夢結には、生来の生真面目さ故か、簡単なことを難しく表現してしまうという悪癖がある。良くも悪くも、「感じるな、考えろ」を地で行く理論派なのだ。勉強がそこまで得意ではない感覚派の梨璃とは真逆である。

 

「『お互いを尊重し、慈しみ、支え合う』……これは、その前の『いかなる状態でも達成しなければならない』という部分が掛かってくるのがポイントね。

精神や身体が良好な場合の達成は容易。それなら、考えなければいけないのはその逆……精神や身体の不良時。

私は今、試されているということね。身体や心が弱ってる時でも、ちゃんと梨璃のお姉様として、彼女を導いていけるかどうか     !」

 

ならばそのためのプランを練っておかなければ、とあーだこーだ考え始める。

 

「お互いを尊重する……となれば、やはり肝になるのは意見の相違をどうやって収めるか、といったところかしら。いかに喧嘩に発展させず、慈しみをもって妥協点に持っていくか……しかも精神が弱っている時に……そんなの、私にできるのかしら……?」

 

あーでもないこーでもないと暫く考えて、はたと気づく。

 

(美鈴お姉様とシュッツエンゲルを結んだ時って、どんな感じだったかしら。確か、その時もこうやって色々考えて     )

 

 

     相変わらず、夢結は生真面目だねぇ。そんなに考えなくても、夢結はちゃんと立派なお姉様になれるよ。さ、手を出して』

 

(そう、その時も確かこんな感じで、美鈴お姉様が言ってくれた。それで、こんな感じで私の手を取って、名前を一緒に書いてくれて……)

 

名前を書き終えた夢結の手は、しかし捺印の前で止まった。

 

『……夢結は、不安?』

 

「……はい。私、ちゃんとあの子のお姉様としてやっていけるのか……あの子の理想のお姉様でいられるのか……」

 

『別に、必ずしも理想のお姉様でいなきゃいけないわけじゃないと思うけどね。ボクが言うのも何だけれど、弱いところも、本音も話せる。それがシュッツエンゲルだろう?』

 

「でも私は、私を慕ってくれる梨璃の期待を裏切りたくない。梨璃のお姉様として、完璧でありたいんです!」

 

『……十分だよ。その心構えだけでね。それだけで、夢結はボクよりもずっと立派な「お姉様」だ。……ほら、指輪をここに』

 

「あっ……」

 

夢結の指輪が光り、誓約書に捺印する。

 

 

 

 

……ふと、自分が今まで目を瞑っていたことに気付く。眠たかったのだろうか、と目を開けてみると、夢結はいつの間にか、誓約書への記入を終えていた。

 

(美鈴お姉様が、背中を押してくれたんですね……)

 

「ありがとうございます、美鈴お姉様……」

 

夢結にとっては色々あった一日。どっと疲れがきたのか、夢結は布団にも入らずにウトウトしてしまう。

 

微睡の中にいる夢結に、ハラリと毛布が掛けられた。

 

 

 

『全く、本当に……ボクにはもったいないシルトだったよ、夢結は。

……流瑠に、よろしくね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、起きたのが朝4時。同室の秦祀に、いつの間にか掛けられていた毛布のお礼を言うと、お礼を言ったこと自体に驚かれたり、毛布なんて掛けたっけ?と記憶が飛んでいたりと、どうも昨日の生徒会での激務がまだ身体に残っている様子だったので、そっとしておくことにした。

 

夢結は日課の朝練をいつもの訓練場で終えた後、朝食を摂り、講義の時間までラウンジでお茶を楽しむ。これが夢結のいつもの生活スタイルだった。

今日は最初の講義から出なければならないので、その前に梨璃に誓約書を渡しておこうと、紅茶と共にラウンジに居座っていたが……そのまま時間は過ぎていき、そろそろ講義の準備を始めようという時間になっても、梨璃はラウンジには来ない。

 

(……連絡先をちゃんと交換しておくべきだったわね。というか、まだ起きてないなんてことは……無い……わよね?)

 

心配になり始めた夢結の背後から、「夢結様〜!」と言う声が聞こえたのは、その時だった。

 

「ごきげんよう梨璃。貴女、少し遅かったんじゃ……」

「す、すみません夢結様!私、今起きたところで………」

 

梨璃の声に振り返った夢結が見たのは     髪は跳ねっぱなし、制服はヨレヨレ。どう贔屓目に見ようと『今起きてきました!』感の塊であった。

 

「………梨璃、ちょっとこっちへいらっしゃい」

「はえ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……梨璃。貴女が朝に弱いのはよくわかったけれど、今日からは貴女達も講義が始まるわ。こんな乱れた格好で教官や先生方の前に出ては、恥をかくのは貴女よ」

「は、はいっ」

 

夢結に連れ出された梨璃は、夢結に髪を解いてもらっていた。

夢結の口調は強めだが、その手つきは口調とは裏腹に優しげだ。

梨璃は、なんとも言えないギャップを夢結から感じていた。

 

「少し生活リズムも変えたほうが良いかもしれないわね。予習ができないだけならまだしも、講義に遅れて、単位を取れなかったなんてことになったら、百合ヶ丘のリリィとして示しがつかないわ」

「ご、ごめんなさい……」

 

夢結の言葉に縮こまる梨璃。それを見て、夢結は昨日散々考えていた、「シュッツエンゲル誓約書」の内容をはっと思い出した。

 

(……お互いを尊重し、慈しみ、支え合う。だったわね。もう私たちはシュッツエンゲルなのだから、こんな強い言い方では梨璃のためにもならないわ)

 

「……ごめんなさい、梨璃。怒っているように聞こえたわね。ただ……そうね。

今度から、早く起きることができたなら、また私がこうして髪を整えてあげましょう」

「ほ、ほんとですか!?私、頑張って早起きします!」

 

嬉しそうな様子を見て、夢結は美鈴・流瑠と三人で一緒に居た時のことを思い出す。

 

 

 

『明日は私に夢結の髪を解かせてよー』

『いやいや、これはシュッツエンゲルであるボクの特権だからね。いくら流瑠でもこれは譲れないな』

『えー!?美鈴ばっかりずるいよ!じゃあ私は夢結に解いてもらうんだから!』

『お、お姉様達……くすぐったいです』

 

 

自分がお姉様達に髪を解いてもらう時……今から考えれば、なんてことはない、ただ髪を解いてもらうだけのことだったのに、自分はとても楽しみにしていた。

 

鏡に映った梨璃の顔は、きっとあの頃の自分の顔なのだろう、と夢結は微笑んだ。

 

「……それで、このお寝坊さんは、なんで寝坊なんてしたのかしら?」

 

服を整えながら言う夢結に、梨璃は苦笑いしながら答えた。

 

「あ、あはは……その、昨日流瑠様に教えてもらったマギの込め方を練習したりとか……あと、夢結様がシュッツエンゲルになってくれたことが嬉しすぎて眠れなかったりとか……」

「全く、貴女って子は……」

 

そう言いながらも、夢結の口元は緩んでいる。

 

「はい、できたわ。……梨璃に渡さなきゃならないものもあるし、ラウンジに戻りましょう」

「あ、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これが……」

 

「そう。シュッツエンゲルの誓約書よ」

 

ラウンジに戻った夢結は、梨璃に誓約書を手渡す。昨日、自分が一晩悩んで記入したものだ。夢結は、再度梨璃に注意を促す。

 

「いい?梨璃。これに記入をして提出すると言うことは、その時点で私たちは学院にシュッツエンゲルとして認定されると言うことよ。一度シュッツエンゲルになったなら、特別な事情がない限り解消されることはないし、解消されたとしても再度シュッツエンゲルを結ぶのは難しくなるでしょう。特に、貴女はまだ一年生で、入学してから二日しか経っていない。そんな状態でシュッツエンゲルを結ぶ人は稀よ。本当に結んでいいのかよく考えて、そしてシュッツエンゲルとなるからにはそれなりの覚悟と心構えを持って」

 

「書きました!」

 

夢結の注意を聞いているのかいないのか、梨璃は渡された紙に速攻で名前を書いて捺印する。

自分が話している最中に書き終わってしまった誓約書を見て、夢結は梨璃との感覚のギャップに愕然とした。

 

(早い   !?)

 

「り、梨璃?こういう契約書の類は、もっと慎重に書くべきよ。特に指輪で捺印するものは取り消しが効かないし、もし怪しい書類だったらどうするの?」

「え?でも、夢結様の持ってくるものが悪いものなわけないじゃないですか〜」

 

やだなー夢結様、とピュアっピュアな笑顔の梨璃に、夢結は頭を抱える。

 

(ダメだわこの子……純粋すぎる……!そういえば、昨日も遠藤さんに襲われかけたとかなんとか聞いた気がするわね……)

 

改めて、夢結は梨璃の顔を見る。昨日と同じ、愛嬌に溢れた可愛らしい顔つきだ。口元は、何が嬉しいのかゆるゆるに緩み、無防備なマヌ……笑顔を作っている。どこからどう見ても騙されやすそうな顔だ。

 

(この子は……私が守護天使(シュッツエンゲル)として守護(まも)らなきゃ……!)

 

「梨璃。貴女が何か他人から誘われたり、勧誘とかにあったりしたら、まず私に相談なさい。いいわね?」

「は〜い。えへへ、これで夢結様とシュッツエンゲルなんだぁ〜」

 

「夢みた〜い……嘘みたいです〜……」と、夢結の話を全く聞いちゃいない梨璃に、夢結はため息を吐くしか無かった。

 

 

「……喜ぶのはいいけれど、貴女そろそろ講義の時間でしょう?初日から遅れてしまうわよ。誓約書は私から提出しておくから、早く行ってきなさい」

「えへへ〜…………はっ、そうでした!私、行ってきます!」

 

ガタンと立ち上がり、走っていこうとする梨璃を、夢結は呼び止める。

 

「少し待ってちょうだい。……その、連絡先を交換しておきましょうか」

「え、いいんですか!?」

「私たちはもうシュッツエンゲルになったのだから、それくらいはしておくべきでしょう」

 

夢結のそっけない言葉に、梨璃は眼を輝かせた。

 

「ありがとうございます!」

「それと……くれぐれも、教室まで走っていくなんてはしたないことはしないように」

「あ、はい!じゃあ行ってきます!……そう言えば、流瑠様とはもう別れたんですか?」

 

唐突に梨璃の口から出た流瑠の名前に、夢結は疑問符を浮かべる。

 

「……お姉様?なんでお姉様の名前が出るのかしら?」

「いや、だって昨日約束してましたよね?……あ、私そろそろ行きますね!」

「え、ええ。行ってらっしゃい」

 

夢結は梨璃から出た「流瑠」「昨日」「約束」というワードから、記憶を探ってみる。

 

(昨日は……確か、お姉様と仲直りして、梨璃とシュッツエンゲルの契りを結んで、その後      )

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お姉様、その、こんなことになってからで申し訳ないのだけど……私もお姉様のシュッツエンゲルの戦闘訓練に参加してもいいかしら……?』

 

『もちろん、大歓迎だよ!あ、じゃあ明日の朝、一緒に()()()()()()朝練しない?それでその後、講義までラウンジでお茶しようよ!』

 

『ええ。……ふふ、またお姉様と一緒にお茶できるなんて……』

 

『私も嬉しいよ……ほんとに。今まで話せなかったこと、いっぱい話そうね。大好きだよ夢結〜』

 

『もう、お姉様ったら……そんなに抱きつかれたら動けないわ』

 

『えへへ〜。もう離してあげないんだからね〜♡』

 

『ふふ。しょうがないお姉様……♡』

 

『夢結〜♡』

 

『お姉様♡』

 

『夢結〜♡』

 

『お姉様♡』

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆぅぅぅぅぅぅぅゆぅぅぅぅぅぅぅ?」

 

「お姉様♡………あっ」

 

夢結がトリップから帰ってくると、そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

般若のようなイイ笑顔を浮かべた流瑠が立っていた。

 

 

「ごきげんよう夢結〜?私との約束をすっぽかしてシルトとお茶なんて、さぞ楽しかったでしょうね〜?」

 

「……ご、ごきげんようお姉様。ええと、その……今日は天気がいいわね」

 

 

「夢結の……バカーーーーーーーーー!!」

 

春の晴れた空に、大きな雷が落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私、不安だったんだから……また夢結に嫌われちゃったんじゃないかって……」

「……本当にごめんなさい。弁明のしようもないわ……」

 

 

昼休み。夢結と流瑠は改めてラウンジにてお茶をしていた。

聞くと、流瑠は第二訓練場の前で、まるで飼い主を待つハチ公のようにずーっと突っ立っていたらしい。朝4時から。それで、「夢結様ならラウンジで見ましたよ?」という後輩の言葉を受けてラウンジまで夢結を探しに来たのだとか。

 

流瑠は膨れっ面で夢結の片腕にくっついたまま、全く離れようとしない。いや、それ自体は嬉しい。あんなにも一緒にいたかったお姉様と一緒にいられて、そしてお姉様の温もりを感じることができるこの状況はとても嬉しいのだが……。

夢結が周囲を見渡す。夢結達の周りには、何故か野次馬が集まってきていた。

 

 

「あ、流瑠様と夢結様だわ」

「やっと仲直りできたんですのね!」

「流瑠様にあんなに抱きつかれて……羨ましい……」

「そういえば、夢結様は昨日シルトを作ったばかりだとか」

「まあ!なかなかの女たらしっぷりですわね」

 

 

そんな噂話を耳にした夢結は、居た堪れない雰囲気になってしまう。

 

「あ、あの、お姉様?そろそろ離れて貰えると」

「やだ」

「あ、はい……」

 

離れてくれるよう言ってみるも、流瑠はすげなく却下。当分はこの居づらい空気の中にいなきゃいけないのかとどんよりしていたが、そこに救世主が現れる。

 

 

「お姉様〜!」

「夢結様〜!」

「ま、待ってくださいよお二人ともー!」

 

現れたのは、講義が終わった楓と梨璃、そして二水であった。

楓を見つけた流瑠は、眼を輝かせる。

 

「あ、楓〜!会いたかったよ〜!」

「わたくしもですわお姉様〜!」

 

ひしっと抱き合う二人。流瑠が離れたことで、夢結はやっと解放された。

 

「た、助かったわ。ありがとう、楓さん、梨璃、二水さん」

「助かった……?よくわかりませんけど、夢結様のお役に立ったなら嬉しいです!」

 

夢結は、イチャイチャしている流瑠と楓を尻目に、「一緒にどうかしら」と一年生達をお茶に誘う。

 

「いいんですか!?」

「で、ではご一緒させていただきます!」

 

後輩達の初々しい反応に夢結は微笑む。ちなみに、楓は誘われるまでもなく夢結とは反対側の流瑠の隣に座っており、流瑠とイチャイチャし続けている。

 

「お姉様、ケーキをどうぞ。はい、あーんですわ」

「あー…ん。おいひー!楓もあーんしたげよっか?」

「い、いいんですの!?お姉様のフォークで!?」

「いいのいいの。ケーキいっぱいあるし」

 

微妙にすれ違った会話をしながらずーっとイチャイチャしている二人に、夢結は段々とイライラしてきた。

 

「……二人とも、ラウンジで騒がしくするのははしたないわよ。あと、流瑠お姉様はそもそも私とお茶をしていたのだけれど?」

 

それを聞いた楓は、勝ち誇った笑みを浮かべる。

 

「あ〜ら夢結様。孤高の一匹狼とも言われた貴女がわたくしにヤキモチですか〜?それに、わたくしたちが来た時、貴女はお姉様に離れて欲しかったのでしょう?よかったじゃありませんか、貴女のご希望通りになって」

 

夢結は煽る楓に「ギリっ」と歯を鳴らし、青筋を浮かべるも、なんとか笑顔を保つ。

 

「……私はお姉様と静かにお茶がしたかったの。目立つのは本意ではなかった、というだけの話よ」

「そこがおかしいのですわ、夢結様。聞きましたわよ?お姉様との約束をすっぽかしたらしいじゃありませんか。お姉様が離れなくなったそもそもの原因はそれなのではなくて?」

 

痛いところを突かれた夢結は、「ぐっ」と声を上げる。

 

「であれば、夢結様の自業自得なのですから、目立ってしまうのも甘んじて受け入れるべきでしょうに。っていうか、お姉様に離れて欲しいとかどんだけ贅沢な悩みなんですの!?

ああ、可哀想なお姉様……約束をすっぽかされた挙句、離れて欲しいなどと酷いことまで言われて……わたくしが癒して差し上げなければなりませんわね!ささ、お姉様。一緒にお風呂でも……」

「ぐぬぬぬぬ……!」

 

煽り倒す楓に、夢結の歯軋りは止まらない。

さすがに見ていられなくなった流瑠と梨璃が二人を止めに入る。

 

「わ、私なら大丈夫だから!夢結が私のこと嫌いになんてなってないのはちゃんとわかったから!あ、夢結もケーキあーんしてあげるから、ね?」

「そ、そうですよ!楓さんも、ちょっと落ち着いて!あ、ラムネ食べますか?さっき購買部で買ってきたやつですけど……」

「いただくわ」

「いただきますわ」

 

モグモグしながら流瑠と梨璃を挟んで睨み合う二人。

二水はそれを野次馬根性で見ながら、楓・夢結・流瑠の三角関係……いや、梨璃も入れた四角関係を新聞の連載記事にしようと手を動かしていたが、ふと思い至って手を止めた。

 

 

(……あれ?そもそもなんでここに来たんでしたっけ?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどね。梨璃ちゃんはチャームの使い方を教えて貰いたくてここにきたと」

「はい!私、まだ全然シロウトだから……みんなより遅れてるから、やらなきゃいけないんです!それで、今日は午後から講義もないから、もしよかったら夢結様や流瑠様に教えてもらえたらなーと……」

 

 

二水の一言によって本題を思い出した一年生組は、夢結と流瑠に相談を持ちかけた。梨璃のやる気に溢れた相談に、夢結も流瑠も先輩として悪い気はしない。

 

「梨璃ちゃん、昨日教えたマギの込め方、どう?ちょっとやってみた?」

「あ、はい!」

「昨日、晩にそればかりやっていたお寝坊さんがいるらしいわね?」

 

夢結の告げ口に「あ、あはは……」と頬を掻く梨璃。それを見て流瑠は「まあ、ほどほどにね」と苦笑した。

 

「ごめんねー、私、午後からちょっと忙しくて……。中等部の方に顔を出しに行ったりとか、相談室の方の予約が入ってたりとか……」

「あ、そうですよね……。気にしないでください!」

「相談室?なんですの、それ?」

 

楓の疑問に、流瑠……ではなく、二水が答える。

 

「流瑠様のお悩み相談室のことですね!主にメンタルケアの目的で、流瑠様がご好意でされているというカウンセリング活動のことです!流瑠様と一対一で濃密な時間が過ごせるとのことで、百合ヶ丘のリリィからは人気なんだとか!」

「お、お姉様と一対一の濃密な時間……!?」

 

「わたくしも予約しなきゃ……!ジュルリ」と(よこしま)な笑顔の楓に、「楓さんに悩みなんてあるんですか?」と二水は辛辣にツッコむ。

 

「失礼な!わたくしにだって悩みの一つや二つありますわよ!恋の悩みとか!」

「はいはい、わかりましたから。……それで、流瑠様がお忙しいとなると、どうしましょうか?」

 

「ちょっとわたくしの扱いが雑じゃありませんのちびっ子ー!?」という楓の声を無視して、流瑠が提案する。

 

「なら、夢結にお願いしてもいいかな?」

「わ、私が……?でも、人に教えるなんて……」

「夢結ももう梨璃ちゃんのシュッツエンゲルなんだし、梨璃ちゃんのこと導いていかなきゃ。それに、昨日『卒業したら百合ヶ丘の教官になる』って言ってなかった?」

 

夢結は「むぐっ」と言葉を詰まらせる。

 

「そういえば言ってましたわね〜。ま〜さか、流瑠様に(コク)るための口から出まかせ、なんてことはありませんわよねぇ?」

「そ、そんなわけないでしょう?わかりました。私のシルトの指導くらい、私がやります」

 

それを聞いて、梨璃はぱあっと眼を輝かせる。

 

「ほんとですか!?夢結様!」

「梨璃、私がやるからには手は抜きません。初心者だからと言って流瑠のように甘い指導はしませんから、覚悟するように」

「はい!頑張ります!」

 

気合を入れる梨璃と夢結を尻目に、楓は流瑠に腕を絡ませる。

 

「では、わたくし達は行きましょうか、お姉様〜」

「ごめんねぇ、そうしたいところなんだけど、私一人で行かなきゃいけないから……。楓も梨璃ちゃんと一緒に鍛えてもらっておいで。私から一本取りたいんでしょ?」

 

今度は楓が「うぐっ!?」と言葉を詰まらせる番だった。それを見て、夢結は済ました顔で言う。

 

「貴女も参加していいわよ?まあ、貴女は実践経験者なのだし、特別に厳しくしてあげましょう」

「ま、まあ?どうせ貴女に勝てないようではお姉様に一撃当てるなんて不可能ですし?今日は百合ヶ丘のエース様に胸を貸していただきましょうか」

「頑張ろうね、楓さん!」

 

可愛らしい笑顔で言う梨璃に、楓はその手を取る。

 

「ええ、梨璃さん!一緒に夢結様を倒しましょうね!」

「何を言っているのかしら。梨璃は私と組むのよ。貴女のような不審者に任せておいたら、どこを触られるかわからないわ」

「だーれが不審者ですのこのスットコドッコイ!貴女こそ、梨璃さんに向ける目が怪しいんじゃありませんの!?」

「私たちはシュッツエンゲルなのだから、何も問題はないわ」

「ムキー!」

「ゆ、夢結様!?楓さん!?引っ張らないで〜〜!」

 

わいわいガヤガヤと騒がしい三人の外で、二水と流瑠は苦笑いしていた。

 

「流瑠様、流瑠様がいなくてもあの二人はあんまり変わらないかも知れませんね……」

「うーん、ちょっとジェラシーだなぁ。二水ちゃん、慰めてー」

「え!?わ、私ですか!?」

「うん!ギュ〜ってしていい?っていうかするね!」

「あ、あわわわわわ……!?」

「あ、ずるいですわ二水さん!?わたくしも……!」

「ちょっと待ちなさい、二水さんが大変なことになってるわよ……!?」

「二水ちゃん鼻血!鼻血が今までにない量出てるよ!?」

「り、梨璃さん。私、もうダメかもしれませぇん……でも、流瑠様の腕の中で息絶えるなら、本、望……ガクッ」

 

「ふ、二水ちゃーーーーーーーん!?」

「っていうかお姉様はいい加減二水さんを離してください!!」

 

ラウンジの喧騒は、もう暫く収まりそうになかった。

 

 

 

 




流瑠様のお悩み相談室
第二回〜安藤鶴紗〜


「……失礼します」

「はーい。お名前をどうぞー」

「……もう知ってますよね?」

「まあまあそう言わずに。お名前は?」

「………安藤鶴紗です」

「はい、よろしくお願いしますね。こっちのソファにどうぞ」

「その……そのソファ、二人がけですよね?」

「うん!だから隣にどうぞ〜」

「あの……えっと……流瑠様……」

「……鶴紗ちゃん。誰も見てないんだし、いつも通りでいいよ」

「……うん。会いたかった、流瑠ねえ」

「私も会いたかったよ〜。さ、おいでおいで」

「うん……」










「最近はどう?高等部に入って友達はできた?」

「いや……まだ2日目だし。こんな私に、友達なんて……」

「そんなこと言っちゃダーメ。鶴紗ちゃんはこんなに可愛くていい子なんだから。ほら、お菓子食べてもいいよ」

「ん……。相変わらず自分で作ってるの?」

「そうだよ〜。簡単なのだけどね」

「……おいしい。流瑠ねえは……いつも凄いね。明るいし、なんでもできるし……強いし」

「……そんなことないよ。私が何でもしようって思えるのはね、リリィのみんながいるから。みんなが大好きで、守りたいって思えるからだよ」

「それが凄いって言ってるんだけど……。やっぱり、私は流瑠ねえみたいにはなれない……」

「別に私にならなくていいよ〜。鶴紗ちゃんは鶴紗ちゃんで、私は私なんだから」

「……簡単に言ってくれるよね。私、人と話すのも苦手だし、不器用だし……そんなに強くもないし」

「大丈夫。私は鶴紗ちゃんが優しい子だってよくわかってるし、同じように思ってくれる子もいるよ。……不安なら、また私がギュ〜ってして勇気をあげる。だから、ね?自分を悪く言っちゃダメだよ」

「じゃあ………勇気、貰ってもいい?流瑠ねえ……」

「うん。ほら、おいで」

「………あったかい。……流瑠ねえは、自分が成長しないの、あんまり好きじゃないみたいだけどさ。私……いつも同じようにあったかい流瑠ねえが……その、好きだよ」

「……ありがとね、鶴紗ちゃん。私も、そんな優しい鶴紗ちゃんが大好きだよ」

「ん……。もう大丈夫。ありがと、流瑠ねえ」

「もういいの?もっとギュ〜ってしててもいいんだよ?」

「もういいから……。大丈夫。私、頑張れるよ」

「……そっか。また来てね?私が寂しくなっちゃうから」

「流瑠ねえも忙しいでしょ……。ほんと、そういうところが流瑠ねえの悪い癖だよ」

「えー!?ど、どこのこと!?」

「そうやって………流瑠ねえ無しじゃ生きていけないようにしちゃうことばっかり言うところが、だよ」






はい。第二回流瑠様のお悩み相談室でした。鶴紗さんと流瑠様は鶴紗さんが中等部の時からの知り合いです。G.E.H.E.N.A繋がりですね。

今回は割とあっさり目な百合だったので、ちょっと成分薄かったかな?という思いは有りますが……。


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