ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#12

「どう考えても戦力が足りないわけだが?」

 

 グヌオオオ、と情けない声を上げて俺は頭を抱えた。ネクストも『来訪者』もキリノ・マキオもこちら側につけたのに、全然未来が明るくなった気がしない……。

 

「俺の中にいるウルトラマンも、結構厳しいって言ってるな……」

 

 マキが苦い表情で言った。そもそもネクストの能力は、たとえジュネッスになったとしてもネクサスのアンファンスほどの戦闘力しかないのだ。弱体著しいこの状況で、原作よりも強くなったザ・ワンを相手にするのは難しいか。

 

 どうやったらこの局面を打開できるかと俺とマキで頭を悩ませているところに、キリノが立ち上がった。

 

「な、何で『戦うこと』前提で動き出しているんだよ!? こんなの逃げるだろ普通!!」

 

 理解できないものを見るように俺たちを見たキリノは、訴えた。

 

「なんで、俺たちがどうにかしないといけないみたいな感じになってるんだよ!? 怪獣だぞ? 宇宙人だぞ? こんなの普通、政府とか軍隊とかの領分だろ!! 俺らみたいな一般人に戦う義務ないだろ!!」

 

 息を切らして、彼は叫んだ。

 

「俺たち、一般人か?」

 

「じゃあ『特別』だったら、何でもかんでもしなきゃいけないのかよ!?」

 

 マキの混ぜっ返しともとれる発言に、キリノは食って掛かった。そしてキリノの言葉は、きっとこれまでずっと超能力という『特別』を抱え続けてきた彼の本心からの言葉だろう。

 

「あんたら舞い上がってんだよ!! ウルトラマンなんかになって、世界を救わなきゃいけないなんて思い上がってるんだ!! そんな訳ない!!」

 

「急にどうしたんだよ。一緒に逃げてるときは、結構乗り気だったじゃないか」

 

 確かにキリノはマキを救おうと動いていた。知りもしない誰かのために、キリノ・マキオは命を賭けた行動をとることができる。そう思っていたし、俺が『正義の味方』に誘ったときも、決して嫌な雰囲気ではなかったはずだ。

 

「…………悪いけど、ミウラさん、貴方の記憶を読んだ」

 

「それは──」

 

「普通、そんな未来を知っていたら、僕だったら真っ先に逃げる。逃げて逃げて、逃げ切れなくなったら今度はあの世に逃げると思う。……そのくらい、貴方の知識から予想しえる世界は絶望でいっぱいだ」

 

少しだけ呼吸を置いて、彼は若干冷静さを取り戻した。

 

「あんたらは──僕たちは、確かに普通じゃないさ。……でもだからって『他人』を守らなきゃいけないわけじゃないだろう? 税金で食ってる政府の奴らや軍人とは違う。俺たちには身を粉にしてまで、『誰か』のために無償で働く義務なんてないだろ」

 

 俯きながら言葉を紡ぐ彼は、俺らに決して目を合わせようとはしなかった。

 

「僕だって、なけなしの善意くらいある。まだ何者でもない子供や謂れのない罪で追われている人間に、その場で手を差し伸べるくらいの善性は……。でも、どんな奴かもわからない顔も見えない『他人』のために、駆けずり回ってズタボロになって、それでも歯を食いしばって立ち上がって…………そこまでする価値が、人間にあるのか!?」

 

 それはきっと、キリノ・マキオの人生を振り返っての言葉なのだろう。生まれながら超能力という望まぬ力を持ったがゆえに、世間から迫害を受けてきた彼は、ずっと人間の悪意に触れてきたのだ。

 

 彼の問いに答えたのは、俺ではなかった。

 

「知らねえさ、そんなのは」

 

 突き放すような言葉で、マキは言った。

 

「俺は、まあ正直、今の状況にまだ戸惑ってる。人類存亡の危機とか、地球がヤバいとか、あとミウラの記憶がどうとかも分からん。ましてや、人間の価値なんてこともな」

 

 彼は噛み締めるように、言葉をつづけた。

 

「息子がいるんだ。……難病で、長く生きれないと医者に言われた。本人も、そのことは知ってるんだ。……それでもアイツはさ、前を向いて夢を語るんだよ」

 

 お父さんと一緒に、空を飛びたいと。

 

「ツグムの夢を叶える。俺はそのために今を生きている。……そこにザ・ワンやらダークザギやらがいたら、困るんだ」

 

 人類の価値なんて知らない。ただ大切な者のために、戦うのだと。

 

「今の人類に、怪獣の世話はキツいだろうし。俺らが頑張るしかねぇだろ」

 

 マキの言葉にキリノ・マキオは黙らざるを得なかった。気負っていない、自然体なマキの言葉は、それだけに父親としての重みがあった。

 

「俺も、まあ、そんなもんだな。大切な者のために戦うんだ。……一人だけ逃げたところで、その後笑えないだろ?」

 

「イルマを泣かせた男が言う言葉は違うな」

 

「そ、それを言われると立つ瀬がないが。それでも、最後に一緒に笑うためにやれることやった結果だ」

 

 マキの返しに、俺は苦笑するしかなかった。

 

「ともあれ、だ。結果どうなろうとも、諦めたりはしない。それだけはしないってずっと前に決めたんだ。より良い未来のために足掻き続けるよ、俺は」

 

 より良い未来の先で、大切な人と心の底から笑い合うために。

 

 言葉にすれば陳腐なものだ。それでも『世界を救う』みたいな英雄願望よりもよっぽど等身大なこの思いさえあれば、俺たちは立ち上がれる。

 

「絶望なんてしている暇はないんだ。やることやって、希望を少しでも繋ぐ。それしかないんだよ」

 

 俺とマキの言葉に、キリノ・マキオはいっそ呆れたような顔をした。

 

「理解できないよ……。本当に」

 

「なら、ここで抜けるか?引き止めはしないぞ」

 

 キリノは捻くれた笑いを浮かべた。

 

「はっ。一度した契約は破らないさ。……僕も生きていくうえで、自分で定めたルールがあるんだ」

 

 彼はボスんと、砕けるように腰を落とした。心からの納得ではないだろうが、それでも今は矛を収めてくれたらしい。

 

 ようやくキリノとの問答がひと段落したところで、俺の腕時計が声を発した。

 

『それではよろしいですか? そろそろやるべきことを詰めていきたいのですが』

 

「うおっ、何だよ今度は」

 

 驚くマキに、AIユザレの説明をすると、彼は「AIか……。まあ今更驚くほどでもないか」と簡単に引き下がった。順応してきているらしい。

 

『まずこの状況で一番やられると困ることを想定します』

 

 ユザレを中心に今後の計画を立てていく。

 

「一番まずいのは、ザ・ワンとダークザギを同時に相手取ることか」

 

 こちらの直接戦力はウルトラマン2体分。しかも内1体は弱体中だ。この状況でラスボス級2体を同時にというのはいささか現実的ではない。

 

「『ダークザギの方は、今のところ弱体中だから巨大化して襲ってくることはできないと思うぽよ』」

 

 再び通訳に戻ったキリノが、『来訪者』の言葉を話す。ザギ開発者がそういうのなら、一定の信頼を置けるだろう。

 

「『ザ・ワンは、先ほどノアがどれくらい弱体化しているかをペドレオンたちで測ってきたぽよ。それを考慮すると奴は数日中に人類に攻勢を仕掛けるはずぽよ。そこでザ・ワンを返り討ちにしたいぽよ』」

 

 好戦的なザ・ワンは、策を練ることはせずそのまま人類を攻撃するだろうというのが『来訪者』の考えだ。ノアも脅威ではなく、奴から見て正体不明の『この惑星のウルトラマン』=俺にも負けはしないと判断できたタイミングで現れるだろうということらしい。

 

『となると考えられる最悪としては、ザ・ワンと戦闘後、体力の限界のタイミングでダークザギに横やりを入れられるあたりが現実的ですか』

 

 ユザレの想定は、実際ありえそうなのが怖い。しかも現状、ザ・ワンがどれくらい強くなっているかは実際戦ってみないと分からないのだ。

 

「ザ・ワンと戦っている間に、ダークザギを抑える必要がある……」

 

 とすれば、俺かネクストどちらかが一人でザ・ワンの相手をする必要がある。

 

『ほかに、ダークザギを先に叩くという案もありますが』

 

「そっちは無理筋かもな。ダークザギに逃げの一手を打たれたら厳しい」

 

 不利となればすぐに身を隠すだろうダークザギについては、出来るだけあちら側に有利だと錯覚させておきたい。

 

『とすれば、現状立てられる計画としては』

 

 ユザレがまとめながら今後の計画を示した。

 

『ザ・ワンとタイマン、ちょっかいかけにきたダークザギをもう一人が仕留める。……かなり難易度の高い、そして場当たり的な対応を求められます』

 

「おまけに。ザ・ワンとダークザギ以外が割り込んでくる可能性も捨てきれない、と」

 

『例えばキリエル人ですか』

 

 俺は腕を組んだ。

 

「キリエル人の乱入は、可能性としては7:3で無しだと思う」

 

 連中のスタンスは「勝てない戦はしない」だと、個人的に考えている。あくまで勝てそうな敵にしか、奴らは喧嘩を仕掛けないはずだ。

ティガ本編の最終章でティガが敗北した際、キリエル人は『闇』に立ち向かうことは無かった。あそこでティガの代わりに戦えば、人類の支持を一身に集められただろうにも関わらず……だ。

 

「勿論、ザ・ワン撃破後とかのどさくさに紛れてっていうのはあり得なくもないが」

 

 それでも、キリエル人は動かないだろう。あいつらが欲しいのは人類からの信仰だ。人類を守ったばかりのウルトラマンに喧嘩を吹っ掛ければ、人類からの支持は得られないだろうと考えるはず。

 

「このあたりは考えてもきりがないか……。とりあえず、目下最大の問題は、ザ・ワン撃破か」

 

 どこまでザ・ワンが強くなっているか分からない今、戦力は足らないということは無い。

 

「もう一人、ウルトラマンがいたりしないのか?」

 

 マキの提案を考える。

 ティガ、ダイナ、ガイア、アグルはまだ変身者が覚醒できていない。コスモスもまだこの地球に来てはいないだろう。M78系のウルトラ戦士についても期待薄だとすると……。

 

「オーブとかこの宇宙にいてくれないかなぁ」

 

 さすらいのウルトラ戦士であるオーブはこの地球……いや、この宇宙のどこかの惑星にいてもおかしくはないが、何せ彼―――クレナイ・ガイは銀河の渡り鳥である。まだ太陽系外にいてもおかしくない。

 

 逆に、最も戦力として期待できるのがギンガやビクトリー、そしてロッソとブルである。

 ギンガは設定上1000年前にギンガスパークとともにこの地球に、ビクトリーも1000年ほど前にこの地球にやってきている。またロッソとブルも、その先代が1000年以上前にこの地球を訪れている設定のはずだが、

 

『銀河神社には、御神体は祭られておらず、綾香市に至っては見つけることさえできていない状況ですね』

 

 俺はこの世界の未来を知ってから、特に平成シリーズのウルトラ作品に登場した市や町の目星をつけ、調査をしていた。

 

 降星町についてはかなり早期に見つけていて、銀河神社の神主である礼堂ホツマにも既に接触を果たしていた。だが肝心の銀河神社の御神体はそもそも存在していないときた。

 

 ギンガSで舞台となった雫が丘にも訪れたが、残念ながら地下世界への入口を見つけることは出来なかった。

 

 また綾香市に至っては、地図のどこを探しても、そのような名前のついた市町村を見つけることは叶わなかった。

 

 市町村合併の政策がとられてからできた街の可能性もある。となれば、あやか星に関係する民間伝承にもあたってみたが、何せインターネットはまだこの時代では一般に広く普及しているツールでもない。捜索は難航していた。

 

 こうして、俺とユザレが頭を悩ませているとき、キリノが何かに気付いた。

 

「……この星雲荘に前の住人が住んでたのって、いつだった?」

 

 脈絡のない話題だった。

 

「確か、5.6年ほど前だったはずだが」

 

 そう答えてキリノの方を見た。キリノは、郵便受けに入っていた宛名も差出人もない封筒を取って見せた。

 

「前の住人のじゃないのか」

 

 マキの言葉に、いやとキリノは首を横に振った。

 

「多少雨風でふやけているけど、経って数か月ってところだと思う」

 

 キリノから手渡された茶封筒の中身を日に透かして見れば、何か小ぶりの石のようなものが入っているようだ。

 

 封筒の口を切れば、出てきたのは白い便箋。雨に濡れたせいか、インクがぼやけて所々が読めなくなっている。

 

【──この石を──て、雫が丘に─け。そこに─望は──てある】

 

「雫が丘……」

 

 何も知らないマキが首を傾げた。そんな彼を無視して、俺は慌てて封筒を逆さにして中身を取り出した。

 

「ビクトリウム……!!」

 

 その欠片が、そこには入っていた。

 

 手紙の最後には、やはり擦れて読むことのできない文字があった。

 

【ア──の古い友、─────より】

 




物語の開始時間を少しいじるかどうか悩んでいます。

時系列……、悩ましい……
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