ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#15

 悪魔を彷彿とさせる、禍々しき異形の怪物が東京の大地に立った。

 一度目の九州沖。二度目の東京郊外。そして第3の怪獣災害がここに発生した。よりにもよって、この国最大の人口を誇る首都東京メトロポリスのど真ん中で。

 

 一度目の怪獣災害は、九州沖で発生したため、軍人以外には被害者はでなかった。二度目のウミウシ型怪獣による災害は、東京にこそ現れたものの人口密集地ではなく、また出現した怪獣が小型であったこともあり、その被害は最小限で済んだ。人的被害も報告がない。

 

 だが、此度の第三の怪獣災害は、その怪獣が大地に降り立った時点で第一、第二の怪獣災害を越える被害を叩き出していた。

 

 50メートル級の怪物が歩を進めるだけで、コンクリートの大地が割れる。一つ雄叫びを上げれば、窓ガラスは叩き割られる。尻尾を無造作に振り回すだけで、避難中だった住民の自動車を吹き飛ばす。搭乗者の惨状など想像に難くない。

 

 正しく暴虐の化身。それは人々の想像する、悪魔そのもの。

 

 ザ・ワン・ベルゼブア・エヴォリュシオン。

 

 九州沖に不時着した異生獣は、最初にウミウシを取り込み、次に海中を漂う大型怪獣の細胞を取り込んだ。その後も、ザ・ワンは海中を中心に息を潜め、その間に地球上で休眠期にあった怪獣たちを次々に取り込んでいる。

 

 シーリザー、レイロンス、ディプラス、ソドム、ギール、ゴメノス。

 

 肩周りを中心に、取り込んだ怪獣たちの首が、あたかも首級のように表出している。

 

 様々な怪獣を取り込んだザ・ワンは、当初の海生生物を想起させる外見から、あまりにも怪獣らしい怪獣へと変わり果てていた。

 

 空を見上げ、人々は無意識のうちに口をついた。

 

「怪獣」

 

 抜けるような晴れた青空に、人類の絶望が降り立つ。見上げる人々は、ただ茫然とするばかり。本能に訴えかける捕食者による根源的な恐怖を、この平成の世に、人々は再び刻み付けられた。

 

 人々が言う。もうおしまいだと。あるいは、審判の時だと。

 

 顔を覆う人、泣き出す人、そのまま膝をつく人、遅ればせながら逃げようとする人、恐怖で最早足が一歩も動かない人。

 

 東京の人々の反応は様々だったが、彼らの心中は共通していた。

 

 もう終わりだ。

 

 だが、涙を流す子供が手に持つ人形を握りしめて、それでもと声を上げた。

 

「ウルトラマンが、来てくれる!!」

 

 その子供の声に応えたわけではない。ただ、その男は自らの息子に危害を加えられた怒りでもって光となっただけ。

 

 だが、それでも。一児の父であるその男は、子供が泣いているのに黙っていられる人間では、決してない。

 

 光が、降る。視界を奪う白銀の光。誰もが思わず目を閉じ、そして目を開いた次の瞬間には、既に目の前に輝ける希望の光があった。

 

 銀色に輝く光の巨人が舞い降りる。

 

「————ウルトラマン!!」

 

 コードネームは、ウルトラマン・ザ・ネクスト。

 

 その涙を拭うため、我らがウルトラマンが東京の大地に立った。

 

 

 ザ・ネクストへと変身したマキは、怒りの中にありながら、冷静さを持ち合わせていた。

 

 己の姿、そして力を確かめるように、彼は両の掌を握りしめる。

 

(この前とは、違う)

 

 前回の変身では、大きさは10mほどしかなかった。だが今回は目の前の大怪獣と比較しても決して劣らない大きさにまでなっている。

 

 そして全身に伸びる、血管を思わせる赤いライン。これが体の隅々までエネルギーを張り巡らせている。

 

 ジュネッス。マキと、彼の中に眠るウルトラマンの意思が一つになった末に至った強化体。

 

(これならば、やれる!!)

 

「ゼアッ!!」

 

 頭は冷静でありながらも、大切な存在を傷つけられた怒りが彼の心を燃やす。

 

 一方、相対するザ・ワンも応じるようにして吠えた。

 

 両者がぶつかる。

 

 ザ・ネクストの右ストレートがザ・ワンの顔面を差し込むように痛打する。だが、異常なまでのタフネスを誇るザ・ワンはそれを意に介することなく鋭い爪で切り裂いた。

 

 ザ・ネクストの胸から出血のような火花が散る。

 

 だが、彼はよろめかない。再び、渾身のパンチ。

 

 鳩尾に入った、重い一撃にザ・ワンは後退を余儀なくされる。

 

 追撃。両肘が光を帯びて、それを放つ。エルボーカッターだ。

 

 まともに入った斬撃は、ザ・ワンを大きく吹き飛ばした。

 

 ビルが倒壊し、そこにザ・ワンが倒れこむ。

 

 マウントポジションを取りに行くザ・ネクストに、しかしザ・ワンの尻尾が巻き付き、そして投げ飛ばした。

 

 ザ・ネクストが投げ飛ばされた先の地面が、大きくひび割れた。

 

「グオオッ」

 

 立ち上がったザ・ワンの肩。そこにあるのは、取り込んだ怪獣たちの首だ。そのうちの一つ、超高熱怪獣ソドムの目が赤く光った。

 

 ソドムの口から放たれる、灼熱の火炎球がザ・ネクストにぶち当たる。

 

「ズアアアッ」

 

 仰け反るザ・ネクスト。そしてザ・ワンが追い打ちをかける。

 

 ディプラスの首が伸び、ザ・ネクストの首に巻き付き、肩に噛みついた。

 

(ま、不味い!!)

 

 マキが唸る。首に巻き付かれて呼吸がままならず、また体の自由も奪われている。おまけにこの怪獣の体温が、急激に上昇しているのを感じた。ウルトラマンの頑丈な皮膚さえ貫く灼熱がザ・ネクストの体力を急速に奪い取っていく。

 

 敗北の二文字が、脳裏にちらつく。

 

(この、ままじゃあ……!!)

 

 しかし、銀色の巨人の危機を救う者がいた。

 

 ディプラスの首にミサイルが撃ち込まれ、束縛が一瞬緩んだ。その隙を逃すことなく、ザ・ネクストは拘束を力ずくで引き千切った。

 

 悲鳴を上げるザ・ワン。そして、ザ・ネクストはそのミサイルを撃ち込んで窮地を救ってくれた存在に視線を向けた。

 

(あれは!!)

 

 6機からなる編隊を組んで空を征く鋼鉄の鳥。科学の翼が、巨人の危機に駆け付けた。

 

 

「全機、あの巨人を援護せよ!!」

 

 指令室で檄を飛ばすのは、今回の作戦の責任者であるヨシオカ長官である。

 

 東京に突如現れた巨大怪獣と、それを追うように現れた光の巨人。何かの冗談かと思われる非現実的な光景を前に、しかしこの国の守護を仰せつかった身である防衛軍は現実的な対処を迫られた。

 

 WING。現在の防衛軍空軍部隊の主力戦闘機にヨシオカは指示をだす。自在に飛び回る鉄の翼が巨人を援護しているのを見ながら思う。

 

「やはり圧倒的に火力が足りないか」

 

 事前に予期していたことであったが、現在WINGに搭載している装備ではおそらくあの怪獣は止められない。故にヨシオカは未知の存在でありながら、人類を守るような行動をとったあの光の巨人——ウルトラマンを援護することを決めた。

 

(ウルトラマンに手を貸して、あの怪獣を撃破。……その後、ウルトラマンを確保する)

 

 ウルトラマンは確かに人類を守護するような行動をとっている。だが、だからといって彼を無条件に信頼できるか。ヨシオカはその任じられた職務の責任からも、楽観的な行動をとることは出来ない。ましてや、あれが一人の人間が変じた姿というのであれば、なおさらである。個人が軍に匹敵する力を手にしているなど、到底認められるものではない。

 

 とはいえ、撃退ではなくあくまで確保という言葉を使うあたりに、ヨシオカの心情は見て取れるが。

 

 何にせよ、今はウルトラマンの力でしかあの怪獣に対抗できまい。

 

「せめて、あともう少しWINGが使えればな」

 

 現在ウルトラマンを援護しているWINGは6機だが、実はWINGの機体は既に30機ほど準備されている。だがWINGを実戦レベルで飛ばすことのできる現役パイロットは現在数える程度しかいないのだ。

 

 九州沖での第一の怪獣災害では、訓練生の乗るWINGが緊急スクランブルした。だがあの後のメディアによる「学徒動員だ」という批判に、政府はすっかり及び腰になっている。とはいえヨシオカも学生を戦場に送り出すことはしたくないのが本音だ。やはりWINGの養成コースにもっと現役を送り込むべきだったのだ。

 

 後悔先に立たずとはいえ、爪を噛むしかないヨシオカだったが、指令室に届いた通信回線を見て気持ちを切り替えた。

 

 相手は仇敵にして旧友でもある、あのサワイからだ。

 

 普段は憎まれ口の一つ二つは欠かさない二人であったが、今回ばかりはいきなり本題に入った。

 

「間に合ったぞ!!」

 

 単刀直入に叫ぶサワイに、ヨシオカは膝を叩いた。

 

「ぃよしっ!! すぐに発進許可をだせ!!」

 

 この土壇場に、人類は新たなる翼を手に入れていた。

 

 

「WING2、発進する!!」

 

 防衛軍二等空尉のムナカタ・セイイチは、一つ大きく気合を入れた。

 

 WING2は今までのWING1に次いでカシムラ教授が開発した大型航空機である。従来のWING1を格納し、遠隔地での作戦を可能とするために開発された中~大型の機体だ。

 

 WINGシステムの最大の特徴は、その機動力にある。今までの航空機の軌道からは考えられない飛行軌道をとるWING1は、それゆえにパイロットの習熟度が問われる。

 

 一方WING2はその大型の機体故に小回りが利かない。だが、そのためWING1ほどには従来型航空機の軌道からは外れない。WINGの機動性を犠牲にこそするが、一般の航空機と同様の運用も可能である。要はWINGの専用訓練を受けていないパイロットでもその操縦を任せられる。

 

 ムナカタは第2期養成パイロットとして志願していたが、今回先んじてWING2への搭乗が許された。

 

「速いな!!」

 

 WING2のスペックに驚きながらも、彼は戦場の空に到着した。

 

 6機のWING1が怪獣の目をくらまし、その隙にウルトラマンが攻撃する。

 

 一見、それは上手くいっているように見える。だが、実際にはそうではない。

 

「まるでダメージがないな」

 

 冷静にムナカタは状況を正しく捉えた。

 

 ウルトラマンの攻撃は、怪獣には有効のはずである。だが、怪獣側はウルトラマンの攻撃を上手く受け流しているようだ。身体の特に硬い部分でウルトラマンの光線技を受け止めている。

 

 ムナカタは察する。怪獣がここまでウルトラマンの攻撃を受け流せているのはWING1に火力がないからだ。

 

 WING1はあくまで目くらましにしかなっていない。急遽搭載されたミサイルも、奴には蚊に刺された程度の威力しかないのだろう。だからウルトラマンの攻撃にだけ、奴は集中していればいい。

 それに奴の体温が異常なまでに上昇しているのも原因の一つか。ウルトラマンが近接攻撃を仕掛けられず、光線技一辺倒の単調な攻撃しかできていない。

 

「WING1各機に告ぐ。煩く飛んで注意を引け」

 

「「「ラジャー」」」

 

 冷却弾の方は、指令室を介して陸軍部隊にすでに命令が飛んでいるはず。こちらは、奴に一撃を浴びせればいい。

 

「こちらにも攻撃力があると分かれば、ウルトラマンばかり見ているわけにもいくまい」

 

 そうすれば怪獣の防御にも隙ができる。

 

 WING1が怪獣の目の前を飛び、注意を逸らす。その間に、こちらは準備を整える。

 

「この空中停止、新鮮な感覚だな」

 

 言いながら、ムナカタはWING2を空中に静止させた。

 

「WING2、ハイパーモードに移行!!」

 

 WING2の機体の中央部が開き、左右に展開される。そこから露になるのは超大型の砲門——ハイパーレールガン。本来はWING1を待機的に搭載するスペースに、急遽詰め込まれたそれにエネルギーが充填されていく。

 

 何かを察したウルトラマンが、WING2から怪獣の目線を逸らすように攻撃を仕掛ける。

 

 ウルトラマンが、飛んだ。

 

 高速の空中飛行がWING1と抜群のコンビネーションを繰り出しながら、怪獣に的を絞らせない。制空権を取って、ウルトラマンは次々と光線を撃ち込んで確実に怪獣の体力を奪っていく。

 

 さらに地上部隊が冷却弾を撃ち込んで、さらに怪獣の体温を下げるとともに軽微ながらもダメージを与える。 

 

 そしてウルトラマンの肘から放たれた三日月様の斬撃波が丁度怪獣の顔面を直撃し、ついに奴が怯んだ。

 

(今だ!!)

 

 ウルトラマンが急速旋回して射線から飛びのいた。今やWING2と怪獣の間には何も遮るものはない。

 

「デキサスビーム、発射ァ!!」

 

 ハイパーレールガンから放たれる、現代科学では最高火力を誇る一撃が怪獣目掛けて発射される。

 

 いままでWING1を無視してきたザ・ワンにとっても、この一撃は脅威に映った。

 

 ザ・ワンは腹部の一番柔らかい部分に直撃するはずだった光線に、僅かに身を逸らせる。

 

 肩———ソドムの首にデキサスビームが当たる。

 

「やったか!?」

 

 指令室で見守っていたヨシオカが、そう叫ぶ。

 

 爆撃音と煙で覆われていた視界がクリアになったとき、その光景は人類が期待したものではなかった。

 

「効いたは効いた。だが……!!」

 

 ムナカタが口惜しいとばかりに声を上げた。

 

 右肩は大きく抉れ、その肩に首級の様に取りついた怪獣の首も吹き飛んだ。

 

 だが、奴は二本足で立っている。

 

 怒りの衝動に身を任せて、吠えた。

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 大地を揺らす、破滅の咆哮。それがどうした、とばかりに絶望の象徴——怪獣は高らかに人類の科学への勝利宣言を上げた。

 

 ザ・ワン、人類渾身の一撃を受けてなお健在。

 

 

 ウルトラマンと人類による即席のタッグによる攻撃は、ザ・ワンのタフネスの前に屈した。希望を見せられて、そしてそれが通用しなかったとき、その落差は容易に人々に膝を折らせる。人々が再び、絶望をその心に抱いた。

 

 ザ・ワンは嗤う。知生体の恐怖、そして絶望こそが自らをより強くする。

 強く強く強く!!!!

 

 飽くなき欲求。悪意から芽吹いた、歪んだ征服欲が今、現実に満たされようとしている。

 

 空を飛ぶウルトラマンに、お返しとばかりに光球を吐く。躱すウルトラマンだが、しかしザ・ワンがWING1の1機に目標を定めたのを察知した彼は、慌ててその身を投げ出した。

 

 直撃。

 

「デュアアアアア!?」

 

 ウルトラマンが、地に堕ちる。それはあまりにも分かりやすい絶望的な光景。

 

 地に這いつくばるウルトラマン・ザ・ネクストを目いっぱいに踏みつけて、ザ・ワンは勝利の咆哮を上げて嗤った。

 

——コイツヲ喰らッテ、オレハもっト強クナル。

 

 足もとに無様に転がる仇敵を見下ろして、ザ・ワンは涎を垂らして口を開いた。

 

 絶望(かいじゅう)が、希望(ウルトラマン)の芽を摘まんと、その牙を突き立てようと———

 

「させないさ」

 

 青い光の直線が、轟音とともにザ・ワンに突き刺さる。

 

 全くの意識外からの一撃に、今度こそザ・ワンの体勢が崩れた。

 

 巻き込まれて崩れるビルを背に、彼は誰に聞かせるでもなく、もしくは自分自身を鼓舞するように呟いた。

 

「ああ、調子に乗るのもそこまでだ」

 

 


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