ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
超古代文明の遺跡に残された数々のオーパーツを、カツヒトはいくつかの拠点に分散させて保管していた。これはリスクマネジメントの一環であったが、今回はそれが功を奏した。
星雲荘地下。彼が買い上げた古びたアパートの地下には、3000万年前の超古代の兵器がいくつか運び込まれている。
ビクトリアンとの交渉後、ほとんど間を置かずに発生した第三の怪獣災害。ウルトラマン・ザ・ネクストとビースト・ザ・ワンの決戦を目の前に、カツヒトたちは三手に別れて急ピッチで行動を開始した。
星雲荘地下に仕舞われたままの超古代兵器のリブートを行っているのは、同じく超古代に開発された人工知能。通称AIユザレ。そして相方に選ばれたのは、遥か彼方より飛来した地球外生命体。クラゲ型の宇宙人である『来訪者』たちだ。
大型の砲台タイプである超古代の兵器のシステム面を調整しながら、AIユザレは自身の演算能力が大きく向上していることを実感していた。
『ビクトリウム……。あれほどの大きさでこれだけのパフォーマンスを得られるわけですか。彼らも慎重になるわけです』
大きな力は、扱い方を間違えば大きな混乱と災いをもたらす。未成熟な人類にこの力を与えるのは、薬よりも毒になる可能性の方が高いだろう。それを分かったうえで、彼らはこのエネルギーを僅かであるが託してくれた。信用には信用で応えるべきだ。
地球の秩序を守護するビクトリアンの協力で得られたビクトリウムの欠片をエネルギーにして、AIユザレは一時的に本来の演算能力を取り戻した。そしてその演算能力を大いに活用して急ピッチで組み立てを行っているのは、3000万年前に用いられた大型ビーム兵器である。
データベースの破損で名称は失われて久しいが、カツヒトは便宜上、これをマキシマ砲・プロトタイプと称していた。本来はマキシマ・エンジンによる光エネルギーで稼働するこの兵器のエンジン部を、今回はビクトリウムによって稼働するものに置き換えている。
そして砲身部にも手が加えられることになった。スペースビーストの生体に詳しい『来訪者』たちの知識を基に、スペースビーストの細胞を崩壊させる特殊な波動を含んだ光線を発射できるよう今回は調整される。
これらの物理的な手入れはAIユザレの手ではなく『来訪者』自らの手によって行われている。
クラゲ型の不定形存在であり水槽の外からは出られない彼らは、念動力を使ってこれらの作業に当たっていた。
『彼らの力には得手不得手がある。物理的な干渉は特に不得意な分野のはずですが』
ここに残り手伝おうとしたカツヒトとキリノに対して、彼ら『来訪者』は独力で行うとその手伝いを断った。
彼らの言葉をAIユザレは理解できない。だが、彼らの内心を慮ることは人工知能である彼女にさえできた。
彼らは、この平和な地球にこれらの凶事を持ち込んでしまったことの責任を痛感しているのだ。だからたとえ力を使い果たして消えてしまったとしても、この責任を果たそうとしている。
その意気に応える。応えたい。
AI故に合理的な判断をする彼女は、しかし疑似人格のモデルとなった人間による影響か、合理以外の基準で判断を下すときがある。それがAIにあるまじき好き嫌いを作り出しているのだが、彼女はそれに自覚的ではない。
彼女は『来訪者』に、3000万年前の人類を重ねた。
過ちを犯し、母星を失った。放浪の果てで、所縁のない地球という辺境の星のために彼らは行動している。AIユザレには分かるのだ。失った者にとってこの地球が、人類がどれほど輝かしく見えるかが。
『貴方たちに敬意を』
通じてはいないだろうが、彼女は彼らにそう言葉を贈る。
『来訪者』の一人? が手を上げるような動作をして、そして丸の文字を作る。
どうやら準備は整ったらしい。ここからは彼女の出番だ。
『ハッチオープン。砲身展開』
星雲荘の床が開き、プロト・マキシマ砲が地上へとせり出した。
『迎撃目標を確認。砲身角度を右に8度修正』
丁度、敵はウルトラマンを踏みつけにして調子に乗っている最中だ。ここでこの攻撃を放てば、奴に大きなダメージを与えられるだろう。この反撃を狼煙にしてチャンスを作れば、あとはあの二人とザ・ネクストがそのチャンスを必ずものにしてくれる。
『プロト・マキシマ砲、発射』
宇宙人とAI。人類ではない、けれど人類を想う者たちの光は、確かに届いた。
※
キリノ・マキオは走っていた。
「何で、こんなに、必死になってんだっ」
息も絶え絶えになりながら、運動不足の身体に鞭をうつ。心臓は早鐘をうってドクドクと血液を回すが、それでも酸素が足りない。溺れるような呼吸で、鼻水を垂らしながらそれでも走る。
キリノ・マキオは正直言って人間が嫌いだ。
その超能力故に人間の汚いところを何度も見せつけられた。自身の親にさえ、何度失望したか分からない。そんな自分が、誰のためかもわからずに走り回っている。
あの男の言葉に、心のどこかで舞い上がった。正義の味方という、小さなころに憧れた言葉にのぼせてしまった。その結果がこの状況だ。たかだが月30万で人類の命運を背負わされ、使い走りのように走り回ることになってしまった。全くもって割に合わないし、民衆から賞賛を得られることもない。
状況に流され、己を雇うなどと宣ったあの男に踊らされている。それは百も承知だが、しかし己で選択してここにまで辿り着いた。その自覚はあるから、無責任に投げ出すこともなかった。
彼には自分で決めたルールがある。その一つは、一度した契約は必ず果たすということ。それがキリノ・マキオの矜持である。
矜持はあるが、それでも情けなく恨み言は沸いて出る。
何がウルトラマンだ。何が正義の味方だ。あの日の俺が得られなかった正当な評価をどうして、ウルトラマンだけが受け取れているのか。
「クソったれっ。畜生、そんなの分かりきってるだろ」
ヒーローになりたくて、ヒーローになろうとした。でもそんな動機じゃあきっといけなかったのだ。
マキ・シュンイチは家族のために立ち上がった。
ミウラ・カツヒトは隣に立つ誰かのために立ち上がった。
僅かな付き合いであるが、記憶を読める彼はたやすく彼らの人生を追うことができる。彼らの生きざまを見て、感じて、彼はそう結論をだした。
だが己は、利己的な存在である。今更、得も益もないのに誰かのために走ることは出来ない。ならば、ここまで来たら今は徹底して自分のためにやってやる。そう思った。
「俺が!! 俺がいたからウルトラマンは勝てたんだとそう叫ぶために!!」
だから受け取れ、ウルトラマン。寝てんじゃねえぞ、マキ・シュンイチ。
彼がオーバースローで投げ込んだのは、ビクトリアンの女王から託された、二人の巫女からの贈り物のひとつ。
クリスタル。
それはとある二人組のウルトラマンが変身する際に使用した、それぞれのウルトラマンの力が込められた結晶。
そのクリスタルは、カツヒトの知識にさえ無い──つまり、原作では登場さえしなかったものだった。
クリスタルは通常、その秘められた力を開放するために専用のアイテムが必要であるが、それは今回手元にない。だが今回、想像以上の強さを手に入れたザ・ワンへ対抗すべく、このクリスタルに希望を託した。
それは不確実な賭けにも思われるだろう。だが、賭けというには勝算がありすぎた。何せ、あの超人の力である。奇跡の一つ二つ当然の如く起こし得ると、カツヒトさえ確信していた。このクリスタルに秘められた存在ならば、とそう思わせるだけの説得力がそれにはあった。
宿る属性は『創』。創世の力。
刻まれた名は、ウルトラマンノア。
※
ザ・ネクストがそれを手に取った。
青白い光が彼を包み込み、ザ・ワンが堪らずに後ろに引き下がる。
立ち上がった光の巨人。光が収まったときにそこに立っていたのは、それまでの姿ではなかった。
全身の銀は、より輝かしく。背中には翼のようなオブジェクト────ノア・イージス。静かに、そして力強い立ち姿は王──いや、神に近い畏敬を見る者に与えるだろう。
ウルトラマンノア。ザ・ネクストが本来の力を取り戻した究極最終形態であり、数あるウルトラ作品の中でも屈指の能力を持つ伝説の超人。
(すごい……!! これが、あなたの本来の力だっていうのか)
マキ・シュンイチは、確かめるようにその手を握りしめた。キリノから投げ渡されたメダル状のナニカは、彼の中で光となって解けた。あれにはこの巨人に由来する力が込められていたことを直感的に理解した。
奇跡と呼ぶことさえ生温い、超越的な光の力。己と同化しているウルトラマン本来の力を取り戻し、マキは獰猛に笑った。
(これならやれる!!)
構える。踏み込む。
たったそれだけの動作で、マキはこの身体のスペックを正確に把握した。
マキ本人にも自覚はないが、彼の戦闘スペックは極めて高い。恐らくはネクサス本編での適能者を合わせても、ウルトラマンとして戦うことに一番の適性を持っていると言っていい。
最初と同じ、右のストレートパンチ。だがザ・ワンは反応さえできずに吹き飛ばされた。
「グオオオ!?」
さらに追撃。拳と蹴りを適時織り込みながら、ザ・ワンに反撃の隙を与えない。
何が起きているのかもわからぬまま、ザ・ワンは唸り声を上げるほかなかった。
ザ・ワンは己の敗北がすぐそこに来ていることを本能で悟る。どこかで逆転を、そこまではいかずともせめてその布石は打ちたい。
ザ・ワンは取り込んだ怪獣の力を使うことにした。
ゴメノスの眼が赤く光る。
「ゼアッ!?」
途端にザ・ワンの身体が著しく硬化した。有効だったはずの打撃を意にも介さず、ザ・ワンは逆襲の咆哮を上げた。
吐き出される火球を、しかしノアは事も無げに弾き返す。
返す刀でノアは拳からエネルギー波を撃ち込む。ノア・シュートだ。
連続して放たれる光撃は、牽制と呼ぶにはあまりにも高い破壊力を秘めている。ザ・ワンは次の切り札を切った。
シーリザーの力。エネルギーを取り込む能力だ。この能力はザ・ワン本来の体質にも合致した能力で、ともすればシーリザー以上の吸収力を発揮している。
2発目までザ・ワンはそれを吸収し、しかし3発目には身体が耐えられなかった。ノアにとっては牽制程度の攻撃でありながら、ゼペリオン光線さえ飲み込んで見せたシーリザーの吸収能力の上限値をやすやすと越えて見せた。
続いてレイロンスの能力として痺れる泡を吐き出して、どうにか動きを止めようと藻掻くが、ノアはその泡を無視してザ・ワンに近づいてくる。
格が違う。
多くの怪獣を取り込み全能感に浸っていたザ・ワンの意識は、目の前の超人を前に恐怖で塗り替えられた。スペースビーストの本能も、そこから生まれ出た征服欲も、もはや吹き飛んだ。残るのは、生物にとって根源的な欲求。生存欲求のみ。
ザ・ワンは何かを呼ぶように咆えた。
その咆哮に引き寄せられるように、空から妖精が舞い降りてくる。
「何やて!! あれは、クリッターやないか……!!」
この東京メトロポリスのどこかで関西弁の科学者がそう叫んだが、ノアには無論届かない。
この状況に、ノアも一瞬攻撃の手が緩んだ。
地球の電離層に棲むと言われる謎の生物クリッター。その姿は妖精あるいはクリオネと評すべき見た目だった。その生命体を呼び出して、ザ・ワンは捕食した。
ザ・ワンの変化は目に見える形ですぐに表れた。
一対の翼。それは、ティガ本編に登場した変形怪獣ガゾートを連想させる異形の翼だった。
飛んだ。
翼を手に入れたザ・ワンは、この期に及んで逃走を選択した。
(待て!!)
ノアもそれを追って飛び立つ。
彼らの戦いの舞台は空へと移行した。
※
醜悪な怪獣と、光の巨人の目を見張るような戦いを見つめる男が一人。
その男は、踏みつけにされていたはずの巨人が、更なる力を取り戻して立ち上がる場面を見て、呆然とせざるを得なかった。
「何故だ…………。何故、力を取り戻せた……!?」
彼の見立てでは、あのウルトラマンが本来の力を取り戻すまでには多くの時間を必要とするだろうと思われた。だというのに、現実は彼の予想を大きく裏切った。
「なんだ、それはァ……!! ふざけるなよ!!」
悉く計画が狂っている。男は頭を掻きむしった。
完璧な計画のはずだった。だというのに、いつの間にか手下だったザ・ワンは命令を無視して暴走しだして手に負えなくなり、かと思えば目的のウルトラマンはこちらの企みをあざ笑うかの如く、数段飛ばしで本来の力を取り戻してしまった。
「いや、まだだ……。あの適能者の家族を殺せば」
今ウルトラマンノアとして戦っているあの男は、家族思いの父だ。ならばその家族を惨たらしく殺してやれば、奴は容易に闇に堕ちるだろう。
「そうだ……。勝手に力を取り戻してくれたんだ、これで手間が無くなったと思えばいい」
むしろ計画が早まった分好都合だ。ここにきてようやくツキが回ってきた。
男はほくそ笑んだ。
笑みを噛み殺しながら、それでも酷薄な性情を隠しきれずに、男は怪獣と巨人との戦いに背を向けて歩みだした。
だが、彼の進む先には、立ち塞がるようにして若い青年が佇んでいた。
年齢に比して、随分と疲れたような目をした男だった。だが、その奥に炎は燃え尽きることなく盛っている。そう幻視させるような目を持つ男だった。
青年が、不敵に笑った。
「よお、出来損ない。ちょっと面貸せよ」
────────。
「────殺す」
そうして、誰も知らない路地裏の闇の中。もう一つの戦いが切って落とされた。
真骨頂でティガ出るのすんごい嬉しいけど、予約できる気がしない……。
一般販売やめてくれ……。