ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
宇宙から落ちてきた3000万年前のメッセージ。地球星警備団団長ユザレのホログラムから語られる、現代に蘇る脅威。真偽は不明ながらGUTSはその対応を迫られていた。
「ティガねぇ」
青森県のとある山中を歩きながら、シンジョウがぼやいた。
「本当にこの土地のことを言っていたんやろか」
スキャナーを片手に、ホリイがシンジョウと同じく懐疑的な言葉を漏らした。
あの宇宙からのタイムカプセルに込められた警告。そしてティガの巨人という言葉。いまいち要領を得ないものであったのは確かだ。
「この山の名前がテイガってだけですからね。探せば他にもあるかも」
青々と茂る木々の枝をかき分けながらレナが零す。彼女は今回の調査が無駄骨になることを予想していた。
「気持ちは分かるがな。だがこういう地道な調査もGUTSの仕事だ」
モチベーションが上がらない部下たちを前にムナカタがそう制した。
「でも、怪獣がでたっていうのに、これで無駄足だったら」
先日モンゴルに出現した超古代怪獣ゴルザへの対抗策もまだだというのに、イースター島ではつい先ほどメルバと思われる怪獣の出現が観測された。TPCオーストラリアが中心となって迎撃策を練っているが、どれほど対応できるか。
新宿での怪獣災害から5年。残念ながら、人類の次に対する備えは万全とは言い難かった。
サワイを中心にTPCの設立まで漕ぎつけたものの、東西冷戦は今も尾を引いていた。宇宙進出やそれにともなう新エネルギーの開発も進んではいるが、現場への配備は滞っている状況だった。
『5年という月日は、むしろ長過ぎたのかもしれない……』
GUTS隊長であるイルマの言葉を、ムナカタは思い出した。
できてしまったこの時間が、国家間での政治的駆け引きを行う余裕を生み出してしまったのだ。アメリカ、ロシア、そして最近では中国までもがTPCへの協力を謳う傍ら、裏で自国だけでの研究開発に躍起になっている。
そしてTPCの組織理念を盾に、各国がTPCの武装化を遅れさせている。特捜チームであるGUTSの武装化も同様で、これがGUTSがゴルザをみすみす取り逃がすことになってしまった原因でもあった。
5年越しに現れた巨大怪獣の出現にようやく尻に火が付いたものの、その動きは緩慢と言わざるを得ない。彼らGUTSにとっても忸怩たる思いだった。
この5年の間にウルトラマンは観測されていない。もしくは既に宇宙へと去っていったのかもしれない。この危難に、我々人類は立ち向かう必要がある。
彼らは謎多きユザレの言葉を信じて、この地に調査に訪れていた。
「そういえば」
レナが言った。
「ダイゴは?」
彼女の言葉で、彼らは慌ててあたりを見渡すのだった。
※
「どこだ……」
ダイゴは他のメンバーから離れ、一人奥へ奥へと歩を進めていた。
「どこから聞こえてくるんだ、この声は」
何かが呼んでいる。吸い寄せられるようにその声に従って歩いていたら、いつの間にか他の隊員たちとも逸れてしまった。通信も不通となり、仕方なく彼は先へ進むことにした。
鬱蒼と繁る草木をかき分け、傾斜の厳しい地面を四つん這いになりながら進んでいく。そうこうしてダイゴは唐突に視界が開けた場所に出た。
「これは……」
突如目の前に現れたのは、光で構成されたピラミッドだった。
「ここから、僕を呼んでいるのか」
躊躇いつつも、ダイゴは近寄った。入口となるようなものは見えない。困ったダイゴだが、間近でピラミッドを見て閃くものがあった。この建造物は信じられないことに本当に『光』でできている。つまりはホログラムと一緒で、容易に貫通できる。
壁に手を伸ばし、そして一息に両腕を突っ込んだ。
抵抗はない。驚くほどすんなりと、彼はその内側に辿り着いた。
「……ここは」
光に囲まれた巨大な伽藍。見上げれば、そこには3体の巨大な石像がダイゴを見下ろすように佇んでいる。
「ウルトラマン……!!」
ダイゴは思わずそう叫んだ。
5年前。想像の世界から現れて、怪獣から人々を救った光の巨人。それが目の前にいる。
「君の目の前に立つのは、超古代の戦士たち。その器だ」
「誰だッ!!」
ホルスターに手をかけながら振り向いた。
視線の先。見たことのない男がそこにいた。
その男は青年と呼ぶべき風体で、ダイゴと同年代のように思われた。だが草臥れた眼が、人相以上に彼を年嵩に見せている。
「俺が誰かは、訳あって明かせないんだが、この巨人のことは説明してあげられるよ」
男は3体の巨人を見上げた。それにつられて、ダイゴもまた視線をその巨人に移した。
「彼らは3000万年前にこの地球を守るために立ち上がった光の巨人たち。その肉体だけがこうして石となって今にまで遺された」
「光の、巨人」
「人類の希望を護るために戦うのがウルトラマンだというのなら、彼らは確かにウルトラマンなんだろう」
これがあのユザレが言っていた巨人だというのか。
「ティガ。それは超古代の戦士の中でも随一の存在。闇から光となったもの」
「それが、ティガ」
「そうだ。そして、」
男はダイゴの胸に人差し指を突き立てた。
「君だ」
呆けたようにダイゴは彼を見た。
「無理強いはしない。だがもしも、人類に襲い掛かる脅威に立ち向かいたいというのなら、君には選択肢がある」
ユザレの言葉が、頭の中で反響して目の前の男の言葉と重なった。
『「巨人を蘇らせる方法はただ一つ、それは」』
ダイゴが光になること。
「僕が、光に」
男は頷いた。
「ああ。君には、光が与えられている。難しく捉える必要はない。ただ、自分の気持ちに正直にな」
言って、男はピラミッドの外に視線を投げた。
「君の仲間が探している。会って安心させてくるといい」
振り向いて耳をすませば、確かにピラミッドの外から「ダイゴぉー」と自分を探す声が聞こえた。
「あの、」
貴方は、と聞こうとして、しかしダイゴはもうあの男を見つけることは出来なかった。
彼の姿は、もうどこにもなかった。
※
青森県悌枒、地下古代施設。
既にこの地下の多くは引き払われている。今回の戦闘で、この地下施設はもう使い物にならなくなるだろうからだ。
『彼は、どうでしたか』
問いかけはAIユザレのものだ。
「想像通りだったよ」
一度、面と向かってマドカ・ダイゴと会ってみたかった。俺は彼を映像作品のキャラクターとして一方的に知っているが、実在の人物としての彼に改めて向き合いたかった。
なるほど、彼ならば俺よりもよほど『光』として適性がある。
『もうすぐこの地にゴルザとメルバがやってきます。……カツヒト、これからどうするつもりですか』
「正直ここにきても迷ってる」
まず問題なのは、原作では壊されることになるティガ以外の2体の巨人の処遇だ。このままだとゴルザとメルバに破壊されることになってしまう。
「残してもいいが、変に人類側に利用されたり、闇の巨人になられても困るんだよなぁ」
それに残す選択をしたとして、どこまで俺が今回の戦闘に関与するかという問題もある。
『ティガと共闘するのではないのですか』
確かにティガとタッグを組んでゴルザとメルバに2対2で挑むというのも有りだろう。だがここで俺がでるのも時期尚早な気がするのだ。
「ティガがどこまで戦えるのか確認しておきたいのが一つ目。他に息を潜めている敵勢力に対する伏せ札として、俺を残しておきたいというのが二つ目の理由だな」
特に二つ目の理由が大きい。超古代の闇以外の大物──例えばカオスヘッダーや根源的破滅招来体なんかを同時に相手取る必要が出来た場合を考えると、情報は出来るだけ隠蔽しておきたい。
『つまり、今回は様子見ですか?』
不満そうに述べるAIユザレを宥めるために俺は口を開いた。
「ティガ本編だと、ここでゴルザを逃がしてしまうだろ? そこを叩こう」
幸い、ゴルザとメルバが暴れようと人気のないこの土地ならばある程度の森林破壊で収まる。ここでティガには経験を積んでほしい。ゴルザの方は見逃すのも癪なので後でさっさと討ち取っておくが。
そんな思惑を秘めて、方針は定まった。丁度そのころになって、大きく地下が揺れた。
「来たな」
大地を揺るがす怪獣ゴルザ。
空を切り裂く怪獣メルバ。
超古代の闇の先兵が、怨敵たる巨人の復活を阻止せんと行動を開始した。
今ここに、ウルトラマンティガの最初の戦いが切って落とされようとしている。
※
日本に上陸したゴルザは明らかに目的意識を持って侵攻を開始した。そして同時期にイースター島からメルバも日本に向かってきている。
この情報を受け、GUTSは突如目の前に現れた黄金色のピラミッドの調査を断念。WINGでの出撃を選択した。
「くっそ、ダイゴどこ行ったんや!!」
悪態をつきながらホリイが進行するゴルザの調査解析を進める。
「もしかしたらあのピラミッドの中にいるんじゃ……」
心配そうに地表を探しながらレナが飛ぶ。
そのピラミッド向けてゴルザは狙いをつけた。額から放たれる光線がピラミッドを構成する光を薙ぎ払っていく。
剥き出しになったのは、そのピラミッドに納められていた3体の巨人。その石造が全貌を露にした。
「ウルトラマン、か……!?」
ムナカタが驚きの声を上げるが、それをかき消すようにシンジョウが叫んだ。
「リーダー、ダイゴが!!」
かき消されたピラミッドの光の中。3体の巨人像の足もとにダイゴがいる。
「ダイゴぉー!!」
皆が口々に叫ぶも、その声が彼に届くわけがない。
「レナ隊員!! 前を見ろ!!」
地表のダイゴに気を取られていたレナがWING2の機首を上げて間一髪で避ける。
「空を切り裂く怪獣、メルバ……!!」
ユザレが警告したもう1体の怪獣までもがこの地に。
ゴルザがその強靭な剛腕で巨人像の1体の左腕を叩き壊す。
メルバが鋭い嘴でもう1体の巨人の右肩を砕く。
「ダイゴおおおお!!」
聞こえないと分かっていてもなお、叫ばずにはいられなかった。それでもレナの叫びも虚しく、巻き上げられた土煙に地表は覆い隠され、ダイゴの姿はついに見えなくなった。
※
ゴルザが右の巨人の首をもぎ、胴体を真っ二つにして勝鬨の咆哮を上げる。
メルバが左の巨人の肩を執拗に突き、石の身体を細かく砕いて嬌声を上げる。
「何てことを!!」
希望が、砕かれようとしている。その光景に何にもできないでいる自分に怒りがわく。
いや、何もできないわけではない。あの男は己の胸を指さして言ったはずだ。光になれと。
いつの間にか、あの男の指さした場所に──胸ポケットに『光』があった。
これはと手に掴む。柄のついたクリスタルのデバイス。それは巨人の胸のもとのよく似ていた。
怪獣の魔の手が中央の巨人にまで伸びようとしていた。ゴルザに突き倒され、巨人が後ろに斃れる。
光に、なる───!!
「やめろおおおおおおおおお!!」
クリスタルの輝きが己を光へと変換していくのを感じた。自分とあの巨人が一つになっていく───
光の粒子が、巨人の額へと入っていく。そして、
※
倒された巨人像の頭部を踏みつけて砕こうとゴルザが足を振り上げ、そしていきおいよく振り下ろす──ことができない。首をかしげるゴルザは、次の瞬間足もとから強烈に押し上げられて、吹き飛んだ。
「あれは!!」
石の姿から様変わりした、赤と紫のラインが鮮やかな姿。眉目秀麗と称すべき調度品のような美しさから、強い生命力を迸らせる。
3000万年の時間を越えて、最強の戦士が命を吹き返した。
※
呆気にとられるGUTSの隊員たちを差し置いて、真っ先に我に返ったのは巨人に相対するゴルザだった。
憤怒に燃えるゴルザが雄叫びを上げながら巨人に襲い掛かる。
受けて立つ巨人は足を高く振り上げて、打撃。ゴルザの威勢を削ぐ。足踏みするゴルザにさらにもう一撃、今度は回し蹴りで大きく蹴り飛ばす。
このままゴルザへ追い打ちをかけたい巨人だったがそれに待ったをかけたのはもう1体の怪獣メルバだった。背後から鋭い嘴を使った攻撃で巨人の肩を強打する。
衝撃で膝をついた巨人。ゴルザとメルバが双方向から襲い掛かる。
「2対1じゃあ具合が悪いぜ」
シンジョウが漏らしながら残りの信号弾を撃ち込んで援護をする。
僅かにできた隙。この間にティガは次の手を打った。
両腕を交差させて額のクリスタルが赤に輝いた。
「赤くなった!!」
レナが叫ぶ。より筋肉質なマッシブな体格へと変化した巨人は、そのまま猛然とゴルザに殴りかかる。息もつかせぬ連打を腹に浴び、ゴルザは失神したようにダウンした。
そこに背後から襲い掛かるのはメルバ。一発をくらうものの反転して二度目は避けることに成功する。だが、巨人の胸のクリスタルが青から赤へと点滅しだした。
制限時間はあとわずか。ダイゴは本能的にそれを悟った。
再び額のクリスタルに力を集める。今度は紫の光だ。
体色が赤から紫へ。痩身の姿となった巨人は空で悠々と旋回するメルバに空中戦を仕掛ける。
「デュアアアアッ!!」
空中で飛び蹴り。メルバは翼を断たれ、敢え無く墜落した。
地上に落ちたメルバに対し、巨人は全身の力を集め、とどめの一撃を放つ。
ランバルト光弾がメルバに直撃し、怪獣の身体は爆散した。
「やった!!」
「だがゴルザが!!」
メルバが撃破され形勢不利と判断したのか。ゴルザは既に地中に半分以上身体を埋めていた。巨人の方も、胸の点滅がこれ以上の戦闘が不可能であることを示している。
巨人は腕を上に挙げ、空へと飛翔した。
レナは空へと去っていく巨人を見上げて、
「行っちゃった……」
激動の時間だった。間違いなく、人生の中でも一番密度の濃い時間だった。呆然と巨人の去って行った方角を見続けるレナの耳に、喜びを滲ませたシンジョウの声が無線で届いた。
「ダイゴがいるぞ!!」
次々に聞こえる同僚たちの安堵の声に、レナはようやくほっと息をついた。
※
ウルトラマンティガのデビュー戦は終わった。危ないところはあったが流石は超古代の戦士の中でも最強と評されるだけはある。俺が手を出すまでもなかった。
あとは逃げたゴルザの方をこちらで処理しておけばいい。
「このまま地下で潜伏されてビクトリアンの国に突っ込まれても面倒だしな」
逆に、ビクトリアンたちを地上の表舞台に引きずり出す好機になるという考えもあるが。
『流石にあくど過ぎます』
「わかっているさ」
失われるだろう命を考えれば、この選択肢は取れないし取らない。効率は重要だが、効率を追い求めた先にあるのは情を挟まぬ機械の論理だ。ギルバリス顔負けの闇の戦士の誕生とか笑えない。
ぽっかりと空いた地下大空洞。そこに眠るゴルザを見上げた。
そしてスパークレンスを空にかざそうとして、
『カツヒトッ!!』
ユザレの警告。そして首筋をなぞる死神の気配にその場を飛びのいた。
パシンッと、光でできた鞭がさっきまで俺がいた地面を爆破させた。
「あら」
女の声だった。ねっとりと湿度を多分に含んだ、情に狂った女の声。
その女の両脇を固めるように、二人の男が続く。
「おいおい。腕が鈍っているんじゃねぇか」
一人は筋骨隆々な身体をした、粗暴さを隠そうともしない大男。
「ケヒヒッ。オレがやれば、一発だった」
もう一人は、細身な身体を猫背にした、酷薄な雰囲気の蛇のような男。
「おいおい……」
くらくらする。何故だ。何故、こいつらがもう目覚めている!!
「…………カミーラ!!」
「自己紹介はいらないみたいね」
情に狂う女は、唇を弓引いた。
「このゴルザ、ちょっと今殺されると困るのよ。だから回収に来たの」
一挙一動が男を絡めとる娼婦のような仕草で、女は自分の唇に触れる。
「今回は、私の鞭を躱したご褒美で見逃してあげる」
女が──カミーラが右手を挙げたのを合図に、ダーラムが拳を地面に叩きつけた。
「グッ!?」
地盤が崩れ、地下空洞の天井が崩壊していく。
ようやく状況が落ち着いた後には、闇の3巨人もゴルザも、忽然と姿を消していた。