ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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真骨頂ティガ予約敗北者です


#20

 九州地下。トンカラリン遺跡未踏区域。

 

 ここには今までサルベージしてきた数々の超古代のオーパーツたちが保管・管理されている。今ではここを本拠地として秘密裏に活動していた。

 

「というわけで」

 

 ブリーフィングルームとして改めて整備された一室で、俺は今回の議題を打ち出した。

 

「目覚めてしまったあの闇の3巨人についての対策を考えたいわけだが」

 

 AIユザレが久々にホログラムを使って会話した。

 

「彼らは超古代の闇の戦士……。その目的はもちろん世界を『闇』で満たすことでしょう」

 

「問題はその手段だな。……あいつら、確実にティガに接触するだろ」

 

 闇の3巨人は劇場版ウルトラマンティガに登場した超古代の闇の戦士だ。彼らは光の戦士と戦い、そして敗れた末に海底神殿にて封印された。だが、GUTSの調査団がその封印を解いてしまったために彼らは目覚め、ガタノゾーアとの死闘で変身能力を失ったマドカ・ダイゴに再びティガになることを強要する。

 

 なぜ、彼らは変身できなくなったマドカ・ダイゴを再びティガにしたかったのか。

 

 その昔、ティガは闇の戦士として共に彼ら3巨人と轡を共にしていたという。だがユザレと出会い『光』に目覚めたティガは彼らから離反したという背景がある。

 

 彼ら3巨人の目的は、世界を『闇』で満たすだけでなく、かつて仲間だったティガを再び闇の戦士へと戻すことだろう。いや、ティガという人類の光を闇へと落とすことで人類を絶望させることか。

 

 闇の3巨人は、3人とも当然ながら強力な戦士だ。

 

 残忍な性格で、素早い身のこなしとそれから放たれる切れ味抜群の高速格闘を得意とする、俊敏戦士ヒュドラ。

 

 寡黙かつ粗暴で、類まれなる怪力を武器に一撃必殺の破壊力で敵を仕留める、剛力戦士ダーラム。

 

 3巨人のリーダーであり、かつてはティガの恋人だった女性戦士。謀略と暴力を効果的に使い分ける戦略家、愛憎戦士カミーラ。

 

 こいつらが現代に蘇るのはティガテレビ版終了後のはずで、本来ならばこのタイミングで出てくることなどあり得ない。だというのに、連中は俺の目の前に現れた。恐らくはザ・ワンによって刺激されたのだと思われるが。

 

「ダークザギを封印したと思ったらこれだ」

 

 溜め息を吐く。こんな風に暗躍されると、こちらの動きがひどく制限される。これが嫌だったんだが、現実は上手くはいかない。

 

 超古代の戦士3人を相手にして、その上でこれから迫り来る怪獣や宇宙人の脅威に対応することが、はたして人類にできるのか。

 

「今更だが、やはり2体分の巨人が壊されるままに任せたのは失敗だったか……」

 

 リスクとリターンをとっての行動だった。人類にそのままあの巨人の躰を渡しても碌な結末を生みはしなかった。敵性宇宙人に利用される可能性だってあった。だから巨人像の破壊の判断が間違いだったとは、今でも思えない。

 

 だが、今でもその判断を間違いと思えないことが、俺の限界なのかもしれない。

 

「貴方は賢く、理性的でもある。……ですが、それが足枷になっているとも思います」

 

 ユザレの言葉に頷く。

 

 ウルトラマンは1%でも──いや、それよりもっと低くとも、可能性が僅かにでもあれば、それを現実にする。奇跡を起こす。

 

ウルトラマンという作品に登場するウルトラマンに与するもの──仲間たちは、絆を重んじ、正義を愛し、奇跡を信じている。時に聞いていてむずかゆくなるような綺麗ごとを並べ立てることもある。

 

 だが、最後には必ず勝つ。奇跡を起こして、計算を覆し、現実を超越する。

 

 思うに、ウルトラマンの真価とは、綺麗ごとをどこまで押し通せるかなのだ。

 

 そしてその綺麗ごとを貫き通すための熱量が『絆』であり『勇気』であり『愛』なのだろう。

 

 翻って、俺は。

 

「俺は、彼らのように無垢に奇跡を信じることは出来ない。絆という不確かなものに縋れない。計算に打算を重ねて自分に思い込ませることを勇気とは呼べない。愛なんてもってのほかだ」

 

 俺は、それを心の底からは信じられない。それが大事なものであることも、重要であることも、時に奇跡なんてものを起こすほどの力を持っていると分かっていて、それでも。

 

 現実の厳しさを、人の愚かさを、世界の醜さを俺は知り過ぎていたし、そしてそれを払いのけて、笑い飛ばして、なお可能性を信じる強さが無かった。

 

「貴方は賢く、先を見通す力にも優れている。だからこそ不確実なものを、貴方は必要以上に遠ざけているように思うのです」

 

「…………そうだな」

 

 もしかしたら、人類は正しくあの巨人像を扱えたのかもしれない。もしかしたら、今後マドカ・ダイゴやマサキ・ケイゴに次ぐ光の遺伝子をもつ者が現れるかもしれない。もしかしたら​──────

 

「悲観が過ぎれば、千載一遇のチャンスを見逃すことにもなるか」

 

 今回の判断は、間違いだったのかどうか。これは現時点でも分からないし、もしかしたら今後も判定はつかないかもしれない。それでも俺の考え方を改めて見直すきっかけにはなった。

 

「それでも、とても楽観論には至れないけど。俺の楽観と油断で人類滅亡とか、背負いきれない」

 

 薄く笑って、反省はここまでとしよう。

 

 ここからは奴らの思惑とそれへの対策を論じよう。

 

 あの闇の3巨人の目的は、世界を闇へと覆うこと。そう仮定した場合、彼らの行動には疑問がわく。

 

「ルルイエの古代神殿には、原作通りであればシビトゾイガーの群れがいるはずだ。あれをさっさと解き放てば、今の人類に勝ち目はない」

 

 小型の怪獣でありながら、世界中の空を覆えるほどの数と、人間を苗床として増殖する特性は現状の人類にとって手の打ちようがないほどの脅威であるはずだ。それが分らぬほど奴らは馬鹿ではないだろう。

 

 だとするなら、連中の狙いは他にある。それは、

 

「ティガの堕落。彼らの狙いがそれだというのなら」

 

 考えられるのは、ダークザギがノアに対して画策した手口とかだろうか。変身者であるマドカ・ダイゴを唆すか、もしくは絶望させるかして人類から離反させるとか。

 

「どっちみち具体案までは想像もつかないが」

 

 現状できることと言えば、彼らの動きをいち早く捉えられるように計画を前倒しにすることぐらいか。

 

 俺とユザレが意見を交わせながら今後の方針を練っていると、ここで今まで黙って腕を組んでいたキリノが初めて口を開いた。

 

「闇の巨人も確かに重要だけどさ」

 

 指をトントンと苛立たし気に動かしながら、彼は言った。

 

「僕の今月の収入はどうした?」

 

 バン、と彼は怒りをあらわにして机をたたいた。

 

 俺はさっと目を逸らした。

 

「い、一応、食費や家賃やらの生活費は出しているじゃん?」

 

「そんな最低限を誇られても困るんだが?」

 

 目を合わせようとしてくるキリノに、俺は再び目を逸らせた。

 

「ほら、今月もあれだけ収入があったんだ。今月はちょーっと出費が多かったけど、来月はまとめて出すからさぁ」

 

「もう3か月前からおんなじこと聞かされとるんだこっちは!!」

 

 そ、そうだっけ?

 

「そうだっけじゃないんだよ。そりゃ、事務所の収入は多いさ。ネット上の証券取引も安定してきたし、インターネット掲示板の管理とアフィリエイトブログの複数運営で広告費も入ってきてる。……でもこんだけ出費も多けりゃ赤字にもなるわ!!」

 

 キリノは真新しいドックにある、あるものをビシッと指さして言った。

 

「アレにいくらつぎ込んだんだ、ええ?」

 

「あ、あれは移動のために必要なんだよ」

 

「だからってステルス機能までつける必要あったのかよ!!」

 

 彼が指さしたのは、小型の最新型戦闘機WING1──そのカスタム機だ。

 

 大幅に前倒しの形で実戦配備されたWINGシステムは、現在各国でも急ピッチで製造されている。その仕組みは当然トップシークレットだが、部品の一つ一つは下請けに発注しているため実はそこまで隠し通されたものでもない。個人でもハードは案外組み立てられるのだ。

 

尤も、飛行機を飛ばすにはソフトの方も重要だ。だがここに開発段階から参加してきた俺がいるのでその点も問題ない。というか『来訪者』の協力もあってむしろパワーアップしているまである。

 

 各地から部品を集めて、ここで組み立てたのが俺個人用の迷彩機能付きのステルスタイプのWING1だ。ダイナに登場した機体から名前を貰ってシャドーと呼んでいる。

 

「ウルトラマンになって飛んでいけば済む話だろ」

 

「移動のためだけに変身できるか。ウルトラマンになるにはそれ相応の理由が必要なんだよ」

 

「それにしたって絶対オーバースペックだろ。ていうか飛んでいったとしてどこに停めるんだよ」

 

「…………」

 

「おいなんだその『そういえば』って顔はぁ!!」

 

「ハハハ。大丈夫大丈夫」

 

そのはずだ。従来のWING1よりさらに小型化させているし、ステルス機能もある。ちょっとした森の中に停めて置ける。

 

「燃料代だってバカにならないんだぞ? それに高速回線を秘密裏に引いたり、スパコンバカスカ買ったり、金の使い方が荒すぎるんだよ」 

 

「だが全部必要なものだ」

 

 むしろこれだけに絞ったぶんだけ頑張った方だ。本当なら監視衛星だって打ち上げたかった。

 

「できるかそんなもん!!」

 

 ぜぇはぁと荒い息を立てるキリノだが、こればっかしは我慢してもらうしかない。今が頑張り時なのだ。

 

「何が悲しいって、広告費やらなんやらって全部キリノ・マキオ名義の口座に入っていることだよ。なんで自分の口座の金を自分で使えないんだ」

 

「そりゃあ、死人もAIも宇宙人も口座は作れないからな」

 

 キリノは諦めたように大きな溜め息を吐いた。

 

「初期投資に金がかかるのは仕方ないとして……。このスパコンやサーバーやらは何に使うんだ」

 

 最新鋭の機材の山を見てキリノが問うた。

 

「監視衛星の打ち上げは流石に非現実的だし。かといって監視の目は持っておきたいからな」

 

 オーパーツの中には、超古代に使われたそれらしきものもあるのだが、残念ながら反応してくれなかった。宇宙にある本体は既にデブリと化しているのだろう。宇宙からの観測システムの用意は残念ながら(そして当然ながら)できなかった。

 

「だから監視の目を監視することにした」

 

「はあ? ……ああ、さてはTPCにハッキングするつもりか!?」

 

「その通り」

 

 TPCネットワークにハッキングを仕掛けて、監視衛星の情報をこちらから盗み見て解析できるようにする。世界を見渡すには、もうこれしか思いつかない。

 

「バレたりしないのか? そういうのって厳重に守られているものだろう?」

 

 TPCの機密情報は基本的にネットからは隔離されていて、外部からのハッキングは不可能だ。それに万が一、TPCサーバーにアクセスできたとしてもあの天才プログラマー・ヤズミの眼をどこまで誤魔化しておけるのかという問題もある。

 

「でも策がないわけじゃない」

 

 欲しいのはTPCの機密データではない。人工衛星の映像情報が欲しいのだ。

 

「人工衛星から放たれる電波さえ傍受できればそれでいい」

 

 暗号化されて地上へと送られている人工衛星の映像情報をこちらにも転送させる。細工はTPC内部のサーバーではなく、人工衛星に施す。

 

「これなら早々バレることもない、はずだ。少なくとも、TPC内部に仕掛けるよりはよほどな」

 

「どちらにせよ人工衛星へのアクセスが必要じゃないか。そんなのTPCからでないと」

 

 キリノの言葉に俺はその通りだと頷いた。

 

「俺たちはこれからTPCに潜入する」

 

 こうして俺とキリノの初めてのスニーキングミッションが幕を開けるのだった。

 

「え!? 僕も行くのか!?」

 

 行きます。

 


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