ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#26

 キリエロイドの強襲から2週間ほどが経過した。東京の復興も徐々に進んできており、市民の生活も普段のものに戻ってきている。そんな中で明るいニュースが宇宙から届いていた。

 

 木星探査船ジュピター3号が、その調査任務を終えもうすぐ地球に到着するという情報が届けられたのだ。

 

「木星探査船ですか……。夢がありますよね」

 

「夢じゃねぇぜ、ダイゴ。これは現実だ。人類はついにそこまで自力で辿り着いたんだよ」

 

 何気ないダイゴの言葉にシンジョウが口を開いた。

 

「何やシンジョウ。やっぱ、アストロノーツの血が騒ぐんか」

 

 ホリイが混ぜっ返すが、シンジョウはそれに当然とばかりに頷いた。

 

「こういう瞬間に、やっぱり痺れるんだよ俺は。人類の未知なる領域に、一歩踏み込んだっていうのが」

 

 元アストロノーツであるシンジョウの言葉には熱意だけでなく実感も込められていた。人類の先駆けという存在がアストロノーツである。彼はそれを実体験として知っているのだ。

 

「ジュピター3号のクルーリーダーはあのエザキ博士やろ? すごいんよなぁ、あの人」

 

「確か、高エネルギー備蓄基地なんかに採用されている電磁シールド装置の開発者でしたっけ」

 

 ヤズミの言葉にホリイが「そうや」と頷いた。

 

 アストロノーツは人類にとって未知領域である宇宙を活動領域とするため、クルーに求められるスペックもそれなり以上になる。そのリーダーともなれば、なおさらだ。

 

「アストロノーツって成績優秀かつ身体能力も一定水準以上じゃないといけないから大変よねぇ」

 

 レナが腕を組んで、そしてシンジョウを見た。

 

「身体能力は、まあいいとして」

 

「な、なんだよ」

 

 レナに引きずられて他のメンバーもシンジョウに視線を向けた。

 

「成績優秀……」

 

「うーん。一芸特化枠……かもしらへんな」

 

「お、おい!! これでも試験の成績は結構いい方だったんだぞ!?」

 

 失礼な連中だぜ、と憮然としてシンジョウが口を捻った。

 

 これまで彼ら部下の話に口を挟んでいなかったムナカタが、ここで口を開いた

 

「ジュピター3号の帰還日時が決まったら、TPCでも盛大にお出迎えだ。サワイ総監からもお達しが既に出ている」

 

「お、いいですねぇ。たこ焼きでも焼いたろうかな」

 

「たこ焼きって、ホリイ隊員はいっつもそればっかなんですから」

 

「ええやろがい。たこ焼きは冠婚葬祭あらゆる場面に適応する万能料理なんや」

 

「冠婚と祭はまだしも、葬式でたこ焼きはいやですよ」

 

「結婚式でもごめんだわ。青のりを歯につけた新婦なんて笑えないでしょ」

 

 ダイゴ、レナがホリイに突っ込んで、そして笑いが起きた。

 

「ともあれ、GUTSとしても何かしらしたいよな」

 

 やる気を見せるシンジョウに、ムナカタが口角を上げた。

 

「常識の範囲内でな。それにイルマ隊長の意見も聞かねばならん」

 

「確かにそうですよね……。あれ? ところでイルマ隊長はどちらに?」

 

 レナが首を傾げた。そういえば、とダイゴが思い出すように言った。

 

「ここに来る前に見たんですけど、なんだかすごく上機嫌で携帯もって外に出てってました」

 

「イルマ隊長が上機嫌で? 何や、気になるなぁ」

 

「うーん、案外男の人だったりして」

 

 何気ないヤズミの言葉だったが、それを聞いたムナカタが手に持っていたコーヒーを落としかけた。

 

「……気にするな」

 

「リーダー……」

 

 シンジョウは可哀そうなものを見る目をした。

 

「気にするな。気にするなったら気にするな」

 

「五七五になってる。さすがTPC六歌仙」

 

「いや、松島ちゃうんやから」

 

 GUTS作戦室のそんな穏やかな時間が続いたのは、イルマが作戦室に入ってくるまでだった。

 

 ダイゴ曰く笑顔で携帯片手に作戦室を出ていったらしいが、今の彼女はどうにも難しい顔をしていた。

 

「ヤズミ隊員、ステーションデルタにつないで。衛星の映像をメインモニターに」

 

 有無を言わさない勢いに、ヤズミは緩んだ気を一気に引き締めた。そして隣にいたレナはステーションデルタの名前を聞いて僅かに眉間に皺が寄った。

 

「え、映像、出ます」

 

 ステーションデルタから送られる映像には変わりがないように見えた。映っているのは、相も変わらず青い地球である。

 

「特に異常は……いえ、これは!!」

 

「何だ。宇宙から、何かやってきたのか!?」

 

 映像解析ソフトを並列して走らせていたヤズミがいち早く気付いた。ムナカタの言葉に否で答え、そして続けた。

 

「逆です。地球から宇宙に向かって、銀色の光が……」

 

 直に肉眼でも捉えられるまで大きく見えてきたのは、銀色の光。それが人の形をとっている。

 

「いや、これは」

 

 人にしてはあまりにも大きい。それは、巨大な人型。輝く巨人だった。

 

「オルタナティブ・ティガ……」

 

 銀色の巨人が一直線にどこかに向かっている。

 

 イルマ隊長が動いた。

 

「ステーションデルタとガロワに至急連絡を。オルタナティブ・ティガを追って」

 

「お、追うったって、彼はいったいどこに向かっているんですか!?」

 

 ダイゴの疑問にはヤズミが答えた。

 

「この軌道は……!! このままだとオルタナティブ・ティガはジュピター3号の軌道線上に出ます!!」

 

「なんだと……!?」

 

 慌ただしく動き出すGUTS作戦室の中、イルマは人知れず、携帯を握ったまま僅かに拳に力を入れた。

 

 

時間はほんの少しだけ遡る。

 

「もしもし」

 

 努めて冷静だが、僅かに言葉尻が上擦ったイルマの声が電話越しに耳に届く。

 

「俺だ」

 

「『俺だ』って……。オレオレ詐欺でも今時もうちょっと気の利いたこと言うわよ」

 

「誰に聞かれるか分からないんだ。最低限、これぐらいはな」

 

 盗聴の可能性はどこにだってある。これぐらいは気を付けておきたい。

 

 電話越しではいささか呆れたようにしたイルマがため息をついていた。

 

「それで、貴方から早速お電話いただいたわけだけど。世間話ってわけじゃないんでしょう?」

 

「ああ勿論」

 

 話が早くて助かる。

 

「ジュピター3号に不審な影が近づいている。このままじゃクルーは全滅だ」

 

「なんですって?」

 

「これから俺はジュピター3号に向かう。GUTSでもフォローに動いてくれると助かる」

 

「ちょ、ちょっと待って。いきなり言われてもすぐには……。それにGUTSはまだ宇宙活動用の装備が配備されていないの」

 

 そうだ、まだこの時点では、GUTSはあくまで地球ひいては日本での活動に限定されている部隊だった。彼らが宇宙にまで作戦活動の領域を広げるにはアートデッセイ号の完成を待つ必要があるのか。

 

「WINGも……。大気圏を越えるための装備が間に合わないか」

 

「そうね。準備期間があれば……。いきなりすぎるわ」

 

「ジュピター3号の調査任務の終了時期が読めなかったんだ。そのあたりはどうしても現場次第だからな」

 

 木星から地球への通信は不安定な状況だ。地球側は、ジュピター3号が月に近づくまでその動向を正しく把握できないでいたのだ。

 

「……ステーションデルタと月面基地ガロワに繋ぐわ。彼らであれば宇宙戦闘も不可能じゃない」

 

「そうだな。だが、どうやって彼らを動かす?」

 

「貴方が行くんでしょう? なら貴方が姿を現したことを理由に警戒態勢で出動させるわ」

 

 なるほど。それならば無理がないな。

 

「宇宙用の装備であっても今の人類ではせいぜい月までしか戦闘行動は出来ない。……そこから先は貴方一人になる」

 

 いかに宇宙戦闘用にチューニングされたWINGであろうと安定して作戦行動がとれるのは現状月まで。燃料を無視すれば火星までは飛べるかもしれないが、木星までなんて不可能だ。それだけジュピター3号が特別製であるということだ。

 

 月に辿り着くまで、俺一人で彼らを護衛する。だが、それは勿論織り込み済みだ。

 

「それは分かっているさ。……月まで来たらよろしく頼むよ」

 

 言って、通話を切った。今頃イルマはお冠だろうが、仕方ない。

 

 ウルトラマンティガ第4話『サ・ヨ・ナ・ラ地球』。それが今、始まろうとしている。

 

 ティガ原作では、ジュピター3号は木星からの帰還途中に謎の発光体に襲撃され、クルーごと吸収されてしまう。謎の発光体は複合怪獣リガトロンとなって地球に飛来し、地球のエネルギー施設を襲い始める。そういうあらすじだ。

 

 この一件、俺は動くつもりはなかった。というか、動けるとは思っていなかったのだ。

 

「木星から地球まで、ジュピター3号でおよそ3年間かかる。その間のどこかで謎の発光体に襲われると知っていても、対策のしようがないからなぁ」

 

 彼らにずっとついて護衛するというのも、その期間の長さでは非現実的である。この悲劇を止めるには、そもそも彼らが木星に旅立つのを阻止する必要があった。だが、彼らが地球を発ったのは今から6年ほど前。そのころ、俺に彼らを止める手立てはなかった。

 

 現在、ジュピター3号は予想に反し、無事に月の手前にまでやってきている。人類の現状の宇宙監視網は月の内側までであるため、謎の発光体に襲われるとしたら、原作での描写も踏まえるに、その監視網の手前ということになるだろう。

 

 もうすぐ彼らは月の衛星軌道上付近に到着する。そして月面基地ガロワのレーダー網が発光体を捉えられないギリギリの距離となると、今から明日にかけてが最も襲撃の可能性が高い。

 

「手の届く範囲の命は、出来るだけ救いたい」

 

 それがこの力を授かったときに誓ったことだ。

 

 宇宙の闇を光となって駆ける。

 

 ウルトラマンの飛行速度は地球上と宇宙とでは全く違う。最高速度で月を通り越し、ガロワのレーダー網圏内も超えた。

 

──あれか。

 

 木星帰りの箱舟が星の海を越えて戻ってきている。

 

 そしてその背後。

 

 急速にその船に近づく謎の発光体。その光は、球体に近く。そしてその色は毒々しい青。

 

──想定内だが……!!

 

 想定していた中では、最悪。

 

 宇宙球体スフィア。

 

 複合怪獣リガトロンはジュピター3号が謎の発光体に吸収されたことで誕生するわけだが、無機物を取り込み怪獣化するというプロセスは、ティガの次作ウルトラマンダイナに登場したスフィアの性質に類似していた。

 

 設定集でも、その関連性を指摘するものは多くあったが、結局明確に語られることは無かった。だがスフィアは地球人類の宇宙進出を契機に地球に目をつける。つまりこのジュピター3号はスフィアの注目を集めて然るべきであるのだ。

 

 ジュピター3号を追いかけるスフィアの数は10。それをハンドスラッシュで連続して撃ち落とす。

 

 人の進歩の象徴。宙の箱舟。その帰路を邪魔立てさせるわけにはいかない。

 

 ジュピター3号とすれ違う。瞬間、窓から驚いて俺を見るクルーの姿が見えた。

 

 視線をやり、行けと頷く。操縦席に座る壮年の男が目を見開き、しかし次の瞬間には何かを悟って、俺に頷き返し、サムズアップで返した。

 

 言葉こそ交わさなかったが、それでも視線だけで通じるものもある。

 

 庇うようにして、スフィアとジュピター3号の間に身体を滑り込ませる。ジュピター3号は意図を察して速度を上げた。

 

 襲い来るスフィアはその数をさらに増やした。クリアさせる気のないシューティングゲームみたいに、一面に現われるスフィア。マジか。いったい、どこに隠れていやがった。

 

 スフィア一体一体の防御力は紙同然。牽制扱いのハンドスラッシュで撃墜できるが、数が多すぎる。こっちの手は2本しかないんだよ。

 

──くそ、撃ち漏らした!!

 

 あくまで目標はジュピター3号なのか。俺を越えて船に迫るスフィアだが、こっちはこっちでこれ以上後ろに通さないようにするだけで精いっぱいだ。

 

 迫るスフィア。逃げるジュピター3号。あわやというタイミングで、光の矢がスフィアを焼いた。

 

 ガロワからの救援。青いWING1が宙を縦横無尽に飛び回ってスフィアを駆逐していく。

 

──あの飛び方……ハヤテか!!

 

 WINGパイロットコース第1期生の中でも、随一の実力を誇るエースパイロット。ガロワに赴任していたアイツが、ここで窮地を救ってくれた。

 

 ジュピター3号の周囲を青いWINGが盾になるように飛んでいく。

 

 見る見る数を減らしていくスフィア。だが、これで終わるほど奴らは甘い存在ではなかった。

 

 撃ち落とされたスフィアの一つが、月面の一部に不時着する。まだ死んでいない。

 

 月面の岩石を吸収し、粘土が練られるようにカタチを変えながら、収束していく。

 

 無機物に怪物として命を与える。宇宙の悪意スフィアが齎す奇跡。

 

 蜘蛛型の身体。月の岩でできた三足で月の大地に立つ。

 

 ダランビア。いや、月の岩石で身体を構成しているから、原作のものとはまた違うか。言うならば、ムーン・ダランビア。

 

 眼前には、数こそ減らしたがいまだ十数のスフィア。背後の月には、三本足の蜘蛛が産声を上げた。

 

 ムーン・ダランビアが放つ光線が俺の背中を焼く。

 

「グアッ!!」

 

 撃ち落とされた俺は、月の引力に引き寄せられ月面に墜落した。

 

 スフィアか、ダランビアか。天秤にかけるしかないのか。

 

 胸のカラータイマーが青から赤へ。片膝をつきながら、俺は三本足の蜘蛛に向かい合った。

 

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