ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
喧噪の中、痩身の男が歩く。
浮世離れした服装のその男は、しかし衆目を集めることは無かった。それは、この街に集まる若者たちの一部にも、同じような趣味の装いをしている者がいたこともあったが、街自体が騒めき立っていたことも理由の一つだった。
「やばいって。宇宙から侵略者みたいなのが来るって」
「あのジュピターなんちゃらってのを追っかけてきたんでしょお? 何余計なの連れてきてんのっていうか」
「いや。だから言ったんだ。宇宙なんてまだまだ人類が足を踏み込むべき場所じゃないんだって」
口々に自分勝手なことを話しては過ぎ去っていく周囲の人間たち。時代は移ろい、これだけ発展しようとも、人間の愚かさというのはここまで変わらないのか。
呆れるような思いを抱く。いっそ気まぐれに殺して回ってみてもいいのだが、あの気狂いの女に余計な真似はするなと言い含められていた。
享楽的で刹那的な思考である男でさえ、あの話の通じない女をわざわざ刺激したいとは思わなかった。
舌打ちを一つ。何か適当に食える物でも探すか、と歩を進めようとして、男の常人離れした耳が、通りすがりの会話を拾った。
「ティガが来たってさ。もうこれで大丈夫でしょ」
ティガ。ティガか。
「へへへ。ちょっとばかし、ちょっかい掛けてみようかねぇ」
こうして。
痩身の男の気まぐれが、事態を最悪の方向へと加速させることになる。
※
スフィアの群れを月の手前で迎え撃ったオルタナティブ・ティガだったが、月の鉱石を取り込んで怪獣化したスフィア──ムーン・ダランビアに足止めを喰らい、寄り道を余儀なくされていた。
それでも月面基地ガロワ、ステーションデルタより出撃したWING隊によってスフィアは次々に落とされていった。
彼らの尽力もあって、ジュピター3号はどうにか地球の成層圏に突入。地球の空にまで戻ってきていた。
「どうにか助かったか……」
およそ6年ぶりの地球に、命からがら舞い戻ってきたジュピター3号のクルーたちは、ここにきてようやくほっと一息をついた。
特にクルーリーダーでもあるエザキの心労は計り知れなかった。彼は腰が抜けるように自身のシートに身体を投げ打った。
「……まさか、ウルトラマンに助けられるだなんてなぁ」
新宿事変の折りには既に地球から飛び立っていた彼らにとって、かの巨人の存在は驚天動地であった。ガロワからの通信が無ければ、もっと混乱していたところだ。
「だが、ウルトラマンか……」
「これは……ひょっとすると、ひょっとするかもですよね」
操縦桿を握るクルーの言葉に、思わずエザキは後部に積み込んであるトランクを見やった。
このトランクの中には、ジュピター3号が木星にて発見したとあるものが仕舞い込まれている。
木星にあるはずのないソレ。彼らはそれを今回、回収していた。
「いったいなぜ木星にこんなものがと驚いたものだが……」
続く言葉は、しかし突如としてなったアラートが強引に遮った。
「何が起こった!?」
「あいつら……ガロワの部隊を越えて追いかけてきやがった!!」
最早、地球の大地まであと少しというところでスフィアがジュピター3号に追いついた。その数は十を超える。木星帰りで満身創痍のジュピター3号では到底逃げ切れない。
絶体絶命に覚悟を決めたクルーたちだったが、彼らを襲うスフィアを迎え撃つ者たちがいた。
「ここは我々が……!!」
黄色と黒のカラーがジュピター3号を守るように飛んでいく。GUTSがここでようやく間に合った。
そして、並走するように飛ぶ、赤と紫の巨人。ウルトラマンティガがスフィアの群れを焼いていく。
一体、また一体と青い球体生物を共同作業で撃ち落としていくGUTSとティガ。そして最後の一体に、ティガがとどめを刺そうとし──
突如、青と黒の光弾がティガを狙い打った。
「デュアアアっ!?」
全くの意識外からの一撃。今度はティガが撃ち落とされた。
そして続く第二、第三の光弾がWINGとジュピター3号を狙う。
WINGはその機動力を持ってギリギリで避けた。だがジュピター3号はどうしようもなかった。エンジン部を破壊され、機体が火を噴く。
「ああっ!! そんな!!」
悲痛なレナの叫びが空に虚しく響いた。
そして高度を著しく下げたジュピター3号に、スフィア唯一の生き残りが取りついた。
毒々しい光を放って、ジュピター3号がその姿を変えていく。
人類の発展を一身に背負う科学の箱舟は、癒されることない飢餓を抱えた破滅の怪物に堕ちた。
人々が見守る中、ジュピター3号──否、複合怪獣リガトロンが、産声のような、悲鳴のような嘶きを上げて大地に立つ。
誰も望まない形で、誰にも望まれない形で、彼らは地球に帰還した。
※
リガトロンが進撃する。
「奴はいったいどこに向かっている!?」
「進行方向には発電所があります!!」
TPC本部にて、険しい表情でモニターを睨むのはGUTS隊長のイルマ・メグミ。そしてTPC総監のサワイ・ソウイチロウ、そして警務局長のヨシオカだ。
「奴はエネルギーを狙っているのか……」
サワイが腕を組んだ。
ヤズミが悲鳴を上げるように更なるデータを上げる。
「こ、このままの進路だと、病院に直撃します……!!」
「何だと!?」
モニターに映し出されるのは、真新しい病院の建物だった。山岳部に降り立ったあの怪獣は、一直線で発電所に向かっている。病院をわざわざ迂回していくとは思えない。
「避難の状況は」
「入院患者だけでも百数人の規模です。とてもではないが間に合わないと……」
クソッ、と珍しくサワイが口調を崩した。そこまで内心で焦っているのだ。
「サワイ。もう考えている時間はないぞ」
ヨシオカは画面越しに怪獣を睨みつけた。
「病院に辿り着く前に奴を討つ」
だがイルマがそこに待ったをかけた。彼女はモニターに映るジュピター3号だったものを指さした。
「待ってください!! あの中には、まだクルーたちが乗っています!!」
「ジュピター3号のクルー3人と、病院の患者が100人。どっちを取るかははっきりしている」
「我々のWINGが足止めをすれば、まだ時間は稼げます」
「時間を稼いでどうする。助けられるかもわからないんだぞ」
ヨシオカの言葉に、ホリイが抗弁した。
「僕が……GUTS科学担当の僕が突破口を見つけます!! エザキ博士たちの帰りを待っとる人がおるんです!!」
「最初から人命を諦めるわけにはいきません!! 我々には最善を努力する義務がある」
ホリイにイルマも続いた。
しかしヨシオカは瞑目して、腕を組んだまま言った。
「だが失敗すれば多くの命が失われる。とてもじゃないが、賭けにでるわけにはいかない」
イルマらとヨシオカがにらみ合う中、サワイが口を開いた。
「GUTSはあの怪獣の進行を全力で阻止。その間にジュピター3号のクルーたちの救出を考えるんだ」
「サワイィ!!」
怒気を強めたヨシオカに、サワイは目をやった。
「……ヨシオカ、ナイトレイダーは出せるか?」
「っ!? ああ、今はアメリカに出向中だが、連絡すればすぐにでも使える」
「GUTSが救出に間に合わない場合、もしくは更なる被害拡大が考えられる場合に備え、ナイトレイダー隊を準備させる。……やむを得ない場合は」
サワイは険しい顔でそれでも告げた。
「発砲を許可する。その時は、全力で敵性怪獣として駆逐するんだ」
※
関東山岳部に上陸したリガトロンは、GUTSの攻撃に足を止められながらも、その足を止めることは無い。
進行方向の先に位置する病院は、入院患者を移送させるために多くの人員が割かれていた。
GUTS隊員であるマドカ・ダイゴもまた、避難誘導に従事していた。
「落ち着いて!! どうか落ち着いて行動してください!!」
声を張り上げるが、その度に脇腹が痛んだ。恐らくは肋骨の骨が折れてしまっている。
1時間ほど前まで、ダイゴはティガとなってスフィアと戦っていた。だが途中、正体不明の敵からの攻撃を受けて、変身状態を解除されてしまっていた。
変身が解けた後、GUTSメンバーと合流したダイゴだったが、脇腹の負傷をムナカタに見抜かれ、こうして避難誘導の係に回されてしまった。
「……くそ。僕があの時、油断していなければ……」
最後の一体と、明らかに気が緩んだ。その一瞬を何者かに突かれたのだ。
あの青黒い光線を放った正体は依然不明のまま。そして、ジュピター3号は怪獣化し侵攻を開始してしまった。
この病院からは付近の山が邪魔で怪獣の姿は確認できない。だが、点けっぱなしのテレビでは報道ヘリが怪獣の侵攻を逐一訴えている。
『ああっ、何ということでしょう!! GUTSのWING1が被弾してしまいました……!!』
『GUTSの動きが緩慢ですね。どうにも動きに精彩がありません』
それはそうだ、とダイゴは好き勝手に言う報道に拳を握り締めた。あの中にはジュピター3号のクルーたちがいる。簡単にあの怪獣を攻撃できないのだ。
だが、彼らはそれを知らない。だからGUTSの動きに疑問を感じてしまうのだ。
「に、兄ちゃん。アンタ、GUTSの隊員なんだろッ?」
避難誘導されていた集団の中にいた中年の男が、突然掴みかかった。報道に気を取られていたダイゴは、咄嗟に反応することができない。
「な、何を……!!」
「あの怪獣をどうにかしてくれよ!! なんであんな温い攻撃しかできないんだっ」
「そ、それは。あの中に、まだ人がいるんですっ」
「知るかっ。ティガもやられちまってるんだぞ!! 俺らがどうなってもいいっていうのかっ!?」
唾を飛ばして怒鳴るその男は、周りのほかのTPC職員の手によって引き剥がされていく。
離せ、離せ、と喚きたてる男が連行されていく。
「……自分のためになら、誰がどうなってもいいっていうのか……」
漏れ出た言葉を誰も否定しない。周囲の人々の反応を見るに、それはきっと的外れな指摘ではないのだろう。
避難を促されていく人々は、恐々と、もしくは後ろめたくダイゴから目を逸らして足を速めている。
さっさとあの怪獣を倒してくれ。
そんな無言の圧力が、ダイゴの手を無意識に胸元へと導いていた。
握りしめたのは、彼に光をもたらす奇跡のデヴァイス。一度の変身からは、ある程度の間を置かねばならないらしいそれが再び輝きを取り戻すためには、あと数十分はかかる。
だが変身できるようになったとしても、日に二度の変身は、まだダイゴも試したことがなかった。明確な根拠のない予感ではあるが、身体への負荷は相当なものになるだろう。
ままならない現実に、ダイゴは唇を噛み締めた。
スパークレンスは、まだ光らない。
※
一方、月ではムーン・ダランビアとオルタナティブ・ティガの戦いが佳境に入っていた。
「グオオオオッ!!」
岩石でできた三本の足を器用に動かして、ムーン・ダランビアは月面基地ガロワに進路を取る。
基地を守るべく、オルタナティブ・ティガ──俺が、動く。ガロワ基地と怪獣の間に身を滑り込ませる。
だがムーン・ダランビアはその瞬間を狙っていた。俺が着地した、丁度その地面を狙い打つように、地下からムーン・ダランビアの岩でできた触手が伸びる。
鈍重な怪獣の見た目とは裏腹に、スフィアの狡猾な悪意を、この怪獣は埋め込まれている。ガロワを狙う動きをブラフにして、誘い込んだのだ。
──その動きはスペースビースト相手に経験済みだ!!
地下から狙ってくる魔の手を、冷静に対処していく。一本を手刀で払い、二本目をゼペリオン・スピアで切り捨てる。そして三本目をつかみ取って、大きく引っ張り上げた。
浮き上がるムーン・ダランビア。地を這う蜘蛛の体型故に、足が浮けば途端に動きが制限される。
勢いよく振り下ろす。月の地面に、怪獣を叩きつけた。
強かに体を打ち、ダメージを負ったムーン・ダランビアは反撃とばかりに複眼から光線を放つ。
三つ足の蜘蛛が目から放つ光線を、紙一重で避けていく。
そして高く舞い上がって、急降下。高高度からのキックでビームの発生器官である複眼を一気に破壊する。
汚い悲鳴を上げるムーン・ダランビア。光線技を使えなくなったこの怪獣に怖いところは何もない。
腕を広げて、力を貯めこみ、そしてL字に組んで放つ。
ゼペリオン光線。
ムーン・ダランビアに直撃し、爆散。跡形もなく、怪獣は吹き飛んだ。
だが今回は、これで終わりではないのだ。
周囲を飛ぶガロワ所属のWING1に頷きを返し、俺は両腕を高く挙げた。
『助かったぜ、ウルトラマン……』
ハヤテのそんな声を聞きながら、そのまま飛び上がって地球へと急行する。
月から地球へ。ウルトラマンの飛行能力であれば、このくらいの距離であれば問題はないが……。
地球に近づくにつれ、頭に直接響くテレパシーの声がノイズ交じりに聞こえだした。それは最初、雑音がひどかったが、地球との距離が縮まっていくにつれて鮮明になっていく。
『聞こえるか!? 聞こえるか、ミウラ・カツヒト!!』
『キリノか。そんなに焦って、何があった』
『ジュピター3号が!! ジュピター3号が取り込まれた!!』
そんなバカな。スフィアは数こそ多いが、一体一体はGUTSの現行装備でも十分対処可能だ。それに、地球にはマドカ・ダイゴだっている。
『一体、何故だ。ティガは何をしていた』
『スフィアじゃない、正体不明の別の敵から襲撃されたんだ!! ユザレが言うには、闇の巨人だって!!』
──ここで動くか、あいつらが……!!
さらに加速させて、俺は地球への帰還を急いだ。
ウルトラマントリガー、遂に発表されましたね……!!
ティガの系譜ということですが、続編なのかリブート(というの名の並行世界線)なのか……。題名の下にある英文字のNEW GENERATION TIGAの文字を見るに後者と予想してますが。
期待もありつつ、古参ファン特有の不安もあり……。とにかく夏が待ち遠しい