ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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髑髏の火炎竜様よりイラストを頂きました!!
めちゃくちゃクオリティ高くてビビっております。本当にありがとうございます。
1枚目はゴルザとメルバ襲来シーン。2,3枚目はこの二次創作よりムーン・ダランビアです。ムーン・ダランビアは本作オリジナルなんですが、元のデザインを崩さず、それでいて月由来のゾアック鉱石が身体を構成する岩石に含まれていたりと、愛にあふれたイラストで感無量です。
なかなか更新の遅い私ですが、これからもどうぞよろしくお願いします。
頑張って週2更新に戻さなきゃな……(モン〇ン握りつつ


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#29

 リガトロンとの戦闘から2週間が過ぎようとしていた。

 

「ふっ」

 

 息を吐いて拳を鋭く前へ突き出す。続いて肘、膝。一旦、身体を引いてタメを作ってからの回し蹴り。円を描くようにして、もしくは流水を頭の中でイメージしながら体を動かしていく。

 

「もう随分と普段通りの動きに戻ってきてるな」

 

 俺の演武を見てそう言うキリノは、欠伸を噛み殺してポテチなんぞをほおばっている。

 

「普段通りなものか。まだまだ元通りとはいかない」

 

 一日休めば元通りには三日かかる、というのがこの手の武術の通説である。1週間も休んだのだから、この程度では技のキレは戻るまい。

 

 月でムーン・ダランビア、そして地球へ戻ってリガトロンを討った俺は、あの後5日間ほどをベッドの上で過ごす羽目になった。これと言った重症こそ負わなかったものの、連戦と長距離移動の疲労が祟ったのか、もしくはその前のキリエロイド戦でのダメージが回復しきる前だったのが良くなかったのか、翌日以降酷い倦怠感に苦しんだ。

 

「ウルトラマンの肉体とはいえ、無理をし過ぎたのか……」

 

 正直、これは予想外で誤算でもある。

 

 前世で数々のウルトラ作品を見てきたが、大体次週では主人公はピンピンしていたし、墜落した機体は大体元通りになっていた。だが、現実となった今、1話完結を前提としているが故のご都合主義は通じないのだ。

 

「ま、考えてみればセブンだって最終話付近じゃボロボロだったわけだし。ウルトラマンも過度の連勤は体に毒だよな」

 

 ウルトラマンも(規格外とはいえ)生物である。自分の限界値というのも追々把握していく必要があるだろう。

 

『適合が進めば、回復力も上がると思いますが』

 

 ユザレ曰く、俺とウルトラマンの適合率が上がれば、俺の素の身体能力や回復力も上昇するらしい。変身を繰り返せば、適合率も上がるのだとか。

 

 ウルトラマンと同一化した地球人の身体能力が向上する、という描写は前世でも見てきた。ウルトラマンゼロと同一化したタイガ・ノゾムやイガグリ・レイトがそうだ。

 

 ただ、俺とは違って、彼らは最初から人間時でもウルトラマンの身体能力がフィードバックされていた。この相違は、一体化した光の巨人に意識があるのかどうかによるのかもしれない。考えてみれば、M78組と他の出自の光の巨人が、果たして本当に同じウルトラマンなのかは不明なのだ。

 

 ともあれ、何だかんだで俺のウルトラマンとしての実戦もまだ十に満たない。まだまだこれから、ということなんだろう。

 

「ウルトラマンの肉体に慣れる。それと並行して、武の技術も磨けば、それだけ戦うときの幅が増える」

 

 ウルトラマンが強くなるには、いくつか方法がある。一つは先ほどの通り、まずウルトラマンに慣れ、戦うことに慣れること。もう一つはパワーアップアイテムを手に入れること。あと一つは、地道に技術を磨くこと。

 

 ニュージェネ組はパワーアップアイテムが多くあるが、平成3部作にはそれがない。ティガもダイナもタイプチェンジこそあれ、その手のアイテムは無く、最初から最後まで姿かたちが大きく変わることは無かった。ガイアに関してはV2とスプリームヴァージョンがあるが。

 

 とはいえ第1話のティガと最終話付近のティガが果たして全く同じ戦闘力かと言われればそうではないだろう。実戦を積んで経験を積めば、ウルトラマンも成長するのだ。

 

 そして人間体の時でも、こうやって身体に武術を馴染ませれば、それは変身したときにも活かされる。レオやメビウスでも、そういった描写はあったしな。

 

「ジープは流石に嫌だけども」

 

「ジープ?」

 

「いや、何でもないよ……」

 

 昭和だから許されたのだ。平成では置いていく。

 

「ともあれ、自分の限界を見極めつつも強くなるための訓練を欠かすわけにはいかないってことだ」

 

 一通り身体を動かし終わって、噴き出た汗を拭う。そしてテレビを点けた。未だに各局はジュピター3号の一件について報道している。まあ流石にそろそろトピックは移り変わりつつあるが。

 

「ジュピター3号が木星で見つけたものって、何だったんだろうな」

 

 イルマからもたらされた情報だった。クルーたちは木星で確かに何かを回収していたらしい。それはジュピター3号とTPC本部との通信記録で明らかになっている。

 

 ただリガトロンに飲み込まれた後、ジュピター3号の中の記録媒体は復旧不可能なまでに大破し、クルーたちもまた、木星到着以降の記憶を失っていた。

 

 彼らがスフィアにとって不都合な何かを回収したことは状況的に明らかだが、思い当たるものもない。

 

『木星についても気になりますが、月についても気になることがありますね』

 

 ユザレの言葉に頷く。

 

 問題は月でも起きている。ムーン・ダランビアとの戦闘で、月の大地が大きくめくれ上がった。これにより月の地中に、未知の鉱石——恐らくはソアッグ鉱石だろう──と、古代遺跡のようなものが新たに発見されたという。

 

「ソアッグ鉱石の方はまだいいとして、遺跡の方は……。ヌアザ星人イシリス──ダイナで登場した、月の古代遺跡に封じられていた古代の宇宙人がいたけど」

 

 宇宙帝王ヌアザ星人イシリスはダイナに登場した宇宙人だ。だが、あれはあくまでヌアザ星の生き残りが月に漂着したのであって、必ずしも最初から月で文明を築いたわけではないというのがポイントだ。

 

「見つかった遺跡の規模が、ちょっと合わない。少なくとも『王家の谷』よりも外にまで分布している……」

 

 現時点では、ガロワはこれ以上の探索を中断している。というのも彼らに課せられた任務はヘリウム3の安定的な供給と月と地球の防衛にある。割ける人員もいないというのが現状だ。

 

「しばらくイシリスの封印が解かれることはないだろうけど、それでも気になるなあ」

 

 見つかった月の遺跡は、本当にヌアザ星人によるものなのか、それとも別のナニカなのか。とは言え藪蛇になっても仕方ない。この問題は後回しだ。

 

「むしろ問題は、闇の巨人の方だな」

 

 スフィアを撃退しようとしていたティガを邪魔したのは、恐らく奴らだ。だが、目的が分からない。連中に、スフィアに肩入れするような事情でもあったのか?

 

「どちらも人類の脅威には違いないが、目的は違うはずだ……」

 

 世界を闇で包む──そしてティガの堕落を目論む闇の3巨人と、人類の宇宙進出を快く思わず、地球ごと同一化して一つとなることを目論むスフィア。この2勢力が手を組む必然性は薄い。それに今まで接点もなかったはずだ。とすれば、闇の3巨人の気まぐれということもあるのかもしれない。

 

『彼らの考えていることは分かりません。時に彼らは合理的でない、破滅的な手段を取る場合もある』

 

 ユザレの言葉は尤もだ。理由のない暴力。いかにもらしいといえば、らしいだろう。

 

 彼らが一体何を考えているのか、そしてこれからどう動くつもりなのか。予測はつかないが、現実は待ってはくれない。

 

「──というわけで、本日は『空の神秘!! クリッターについて迫る!!』をお送りしました。解説のミズノ博士、本日はありがとうございました」

 

「いえいえ、こちらこそ」

 

 映しっぱなしのテレビから流れるそんな会話に、俺は大きな溜め息を吐いた。

 

 そろそろ、次の事件が起きようとしている。

 

 

 空中棲息生物クリッター。

 

 地球の電離層に息を潜める、群を作って生きる生物。グレムリンの童話の原形とも言われているが、その生態系は未だ謎に包まれている。どうやらそれなりの知能を有しているのではないかとは言われているが。

 

 気象学専門のミズノ博士はこのクリッターとのコンタクトを目標に研究活動を行っているその道の権威でもあり、GUTS隊員ホリイの師でもある。ホリイが3000万年前の古代言語を解読できたのも、彼に師事した過去あってのことだ。

 

 ミズノ博士は、クリッターとの接触を求めて度々大規模なフィールドワークを実施しているのだが、恐らく今回は、そのフィールドワークは初めての成果を上げることになるだろう。勿論、結果は最悪の形で。

 

「探査機の出発は……やっぱり止められなかったか」

 

 イルマに情報を流して、調査中止の圧力をかけてもらおうと思ったのだが、残念なことに今回、ミズノ博士に資金提供を行っているのはTPCなのである。

 

 未知の解明を標榜するTPCと言えども、眉唾もののUMA調査にいちいち資金提供をすることは普通ない。

 

 だが5年前の新宿事変で、ザ・ワンが電離層に棲んでいるクリッターに呼びかけて操り、取り込んだ。この一件が、クリッターの存在証明となってしまっている。

 

 原作と異なり、クリッターの存在は既に証明されてしまった。あとは人類と友好的な関係を築けるかどうか、その調査が今回である。当然、止めることは出来ない。

 

 となれば次善策を練る必要がある。

 

「……チェックオーケー。オールグリーン」

 

 原作での描写では、クリッターは電離層から地上へと近づく際に、巨大な積乱雲を繭にして移動する。つまり不自然に消えない、発達した積乱雲を追いかければ、クリッターに辿り着くことができる。

 

 原作知識を活かして、ミズノ博士がクリッターの巣を見つけてしまう前にこちらで黒い雲を発見し、繭ごと焼き尽くす。

 

『聊か乱暴な作戦ですが』

 

 クリッターは共食いをして今日まで生存してきた。同胞さえ生存の糧としてしまうその生体。それゆえに、人類との相互理解は不可能に近い。

 

「人類の横暴なのは理解しているけどな。でも、やつらの生存圏が電離層から下に降りてきているのは確かだ」

 

 このままクリッターの巣とミズノ博士の探査機が接触すれば、クリッターはミズノ博士を探査機ごと捕食してしまう。そうなれば連中は人間の味を覚えてしまうだろう。

 

 おまけにクリッターは既に人類が発する電磁波を大量摂取して、すでにその生態系を歪ませている。刺激を与えれば、怪獣化──ガゾートとなって実体を得、地上を荒らすだろう。人類との共存は不可能に近い。

 

「コスモスがいたら、もしかしたら……とも思うが」

 

 今いないウルトラマンを当てにしても仕方ない。今やれることをやるしかない。

 

 ガッツシャドーに火を灯す。整備を担当してくれていた来訪者たちが手を上げて〇の字を作るのを確認して、俺は地下遺跡から飛び出した。

 

 

 クリッターの巣と化している黒い積乱雲は、TPCの衛星から幾度か捉えられている。だが、他の気象現象と混じってしまい、ロストしてしまっているのが現在だ。

 

 ミズノ博士は、ある程度場所を絞った後は手探りで探そうとしていたようだが、こちらには高スペックの人工知能がある。より正確に位置を予測できる。

 

「見つけた……!!」

 

 不自然なまでに発達した、黒い積乱雲。クリッターの巣だ。

 

 あとはこれを焼き尽くすだけなのだが、下手に刺激してガゾートになられても困る。

 

「ユザレ、あとは頼むぞ」

 

 ウルトラマンとなり、最大火力で一撃で葬る。これが最も安全な手だろう。

 

『──いえっ、少し待ってください』

 

「どうした?」

 

 掲げかけたスパークレンスを止めて、ユザレに問う。

 

『待ってください……。今、周波数を合わせます』

 

 ジジジ、とノイズが走る音が続いた後、徐々にクリアとなってきた通信に耳を澄ませる。同時に、この発信源を確認する。

 

 発信元は、

 

「ステーションデルタ、だと……?」

 

 何だか、猛烈に嫌な予感がする……!!

 

 その予感は、果たして正しかった。

 

 聞こえてきたのは、男の声。その後ろでは、混乱した人たちの声が漏れ聞こえている。

 

「ステー……ンデル……り、こち……ナセ。正……不明の……宙船が」

 

 正体不明の宇宙船、だと?

 

 そしてその通信の内容を裏付けるように、目の前の黒雲よりも上から、2機の宇宙船がこちらに接近してきた。

 

 追われるものと追うもの。あの2機はそういう関係にある。追われる1機は、ビーコンが示すようにステーションデルタから発進した小型艇であろう。そして、それを追いたてるのは、現在の人類科学では飛ばすのも難しそうな形状のUFO。

 

 恐らく、それを駆るのは、

 

「レギュラン星人か……!?」

 

 原作ではガゾートとの戦いの後に登場するはずの敵性宇宙人が、このタイミングで地球へと飛来した。

 

 ステーションデルタからの飛行艇は、最悪なことにクリッターの潜む黒い雲へと高速で接近している。

 

 もう、間に合わない。

 

 自身に近づく飛行物体にクリッターは気付いたのか。黒い積乱雲が雷を発し、そしてその中から異形の翼を羽ばたかせた空の怪物が飛び出してくる。

 

 変形怪獣ガゾートが、黒き繭を巣立つ。

 

 そのままガゾートは2機諸共に攻撃。さらに飢えを満たさんと、大口を開けてレギュラン星人の船に噛みついた。

 

 その隙にステーションデルタからの飛空艇は地上へと不時着し、レギュラン星人の船も間一髪ガゾートの口内に光線を吐き出して難を逃れた。そしてそのまま、全くの別方向へと姿を消した。

 

 そして餌を見失ったガゾートもまた、諦めて雲の中へと姿を隠し、そして黒い雲が急速に電離層へと去って行く。

 

 僅か数十秒の出来事であった。

 

「……とりあえず、人命最優先か」

 

 クリッターの巣を追うか考えたが、結局その結論へと至った俺は、山岳部に不時着した彼らの救援に向かうのだった。

 


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