ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#1を一部改訂しています。
1972年の時点でサワイ・ソウイチロウの役職を
国連事務総長→国連事務員のひとり
と変えています。




#3

平成から令和までを駆け抜けるウルトラマンRTA、はっじまっるよーーー☆

 

「ついに狂いましたか」

 

「これが狂わずにいられるか!!」

 

 俺は頭を抱えて座り込んだ。

 

「本当なのか? 俺の知る限りの星を滅ぼしかねない連中がこの地球を訪れるって……。しかも、俺がそれから地球を救うって?」

 

 否定してほしかった言葉を、しかしユザレは肯定する。

 

「貴方の知る『全て』が来るとは限りませんが……。しかし、私がさきほど挙げたモノはまず間違いなくやってくるでしょう」

 

「……それは、いつ?」

 

「全てを正確に予期することは出来ません。ですが十数年のうちには『古代の闇』は確実に覚醒するでしょう」

 

 今から十数年と言われると、まだ少し余裕があると思われるが。

 

 俺の考えることを読んだのか、ユザレは「確かにまだ余裕はあるように思われるでしょう」と頷き、しかしと続けた。

 

「本来であれば、こんなに早い段階で地球の自己防衛機構──つまりは貴方のことを指しますが、それが働くなどあり得ません。恐らくその前に何かしらの脅威がやってくるでしょう」

 

 『古代の闇』の覚醒を待たずして、何かしらがこの地球を訪れるというわけか。そしてそれがスフィアなのか、根源的破滅招来体なのか、それとも別のナニカなのかはわからないと。

 

「地球も焦っているのです。だから、貴方を異世界から呼び寄せたり、人類の進化を数段飛ばしで引き上げたりと打てるだけの手は打っている。……それでも、貴方風に言えば『防衛隊組織』ですか。その準備は間に合わないでしょう」

 

 ティガ本編の設定よりも10年早く、俺とイルマ隊長がであったのはそのためか。地球が運命を捻じ曲げて、人類に準備を促している。

 

 この地球もまた、生き残るために必死なのだ……。そしてそれでも人類がGUTSを組織するまでの間に、何かしらの脅威がこの地球に迫るという。その時、きっと人類は無防備だ。

 その無防備な地球を、俺に護れと、ユザレは言う。

 

「背負いきれるのか、俺に……」

 

 思わず天を仰ぎ見る。何でできているかも分からない白い天井が見えるだけだ。

 

 目を瞑る。

 考える。

 思い浮かべる。

 瞼の裏に映るのは、今世の父と母。クラスの友人に先生。この十数年で出会ってきた、多くの人々。

 特に両親には随分と心配をかけただろう。何せ、前世を持った子供だ。きっと戸惑うことも多くあっただろうに、それでも俺を温かく受け入れてくれた。

 それを、見捨てられるか? 事実を知って、このまま知らんぷりで日常に帰れるか?

 

 それこそできない。できることをやらずに怠惰に過ごすなど、罪悪感で死にそうになるだろうが。

 

 そして、あの日に星を見上げていた少女を思い出す。

 彼女に、俺は言ったはずだ。未来は輝いているはずだ、と。俺はその未来に背を向けられるのか?

 

 答えは、否だ。

 

「……俺が、光の継承者と言ったよな」

 

「!! ……ええ。貴方もまた、光となれる遺伝子を持っている」

 

「俺にもなれるのか……。マドカ・ダイゴのように、光に」

 

 ユザレは、重く頷いた。

 

「じゃあ、この上にいる3体の巨人の内の一体と」

 

「いえ。上の3体と貴方では聊か相性が悪い」

 

 どうやら巨人とは相性があるらしい。これも設定として聞いたことは無かったが、それも当然か。マドカ・ダイゴとマサキ・ケイゴ以外に光となって巨人になろうとした人間はいなかったしな。

 

「となると──九州、熊本の」

 

「ええ」

 

 思い当たる記憶を引っ張り出すように土地名を口に出した。

 

「通称はトンカラリン遺跡。そこにある巨人とならば」

 

 こうして俺は、東北から九州へ行くことになるのだった。

 

「ところでワープ装置なんてあったりしません?」

 

「ありますが、もはや動きません」

 

「そ、そっかー」

 

 あるにはあるんだな、なんて思いつつも、俺は腕を組むほかなかった。

 

 世界を救うための第一歩が母親に旅費をねだることになるとは、締まらないもんだなぁ。

 

 ※

 

 熊本・トンカラリン遺跡の未踏区域。名もなき地下神殿にそれはあった。

 

「イーヴィルティガ……!!」

 

 時期は夏の盛りを迎えていた。

 過去にピラミッドを訪れたのは、中学生と高校生の境の春休みだった。それから早くも数か月。俺は高校生になっていた。

 

 人生二周目ともなれば、流石に高校受験程度は片手間でできる。それに前世のころから学校の成績は良かった方だ。まあ、出来が良かったのはテストの成績だけで、研究の世界ではなかなか芽が出なかったが。

 

 母の望み通り、東京でも有数の進学校に入学を果たした俺は、その事実を盾に今回の旅費を母に要求したのである。

 

「苦労した甲斐があるな……」

 

 見上げる巨人に、やはり心が浮足立つ……ということもなかった。

 どちらかと言えば、やっと一つタスクを熟したという安心感にも似た達成感があるだけだ。勿論、この地球を救うためのタスクはまだまだ数えきれないほどあるが。

 

「それでも、この神秘的な光景には感動もするけど」

 

 一人、目の前の巨人を想う。

 

 ウルトラマンティガ本編においては、天才科学者マサキ・ケイゴによって強引に目覚めさせられた光の巨人。彼が間違った心を抱いたまま『光』となってしまったために暴走し、悪の巨人としてティガに滅されてしまった哀れな被害者である。

 

 そして隣に侍るのは、同じく巨躯を誇る二足歩行型の犬型怪獣、超古代狛犬怪獣ガーディー。この怪獣もまた『光』をその身に宿すことで動き出す。ティガ本編では、マドカ・ダイゴを遺跡に導いた小型犬が『光』となることで、暴走したイーヴィルティガを止めるために戦い、散っていった。

 

「やっと、来ましたか」

 

「ユザレ……」

 

 透き通る光の身体で、彼女は俺を迎え入れた。

 

「この遺跡にも超古代の科学技術が眠っているのか……」

 

「ええ。私もまたこの遺跡に眠る人工頭脳です。そしてあちらの遺跡とこちらの遺跡はネットワークを繋いでいる。……貴方が来るのを、ずっと待ち望んでいました」

 

 どうやら4か月近く俺を待ち続けていたらしい。だとしたら申し訳ないな。

 

「貴方にもまた、人としての生活があることは理解しています。護るべき日常こそが、戦士を強くすることもまた」

 

「ご理解どうも。でも軽率に思考を読むのはやめてほしいな」

 

 軽口をたたきながら、俺とユザレはその巨人を見上げた。

 

「──この巨人は」

 

 そういえば、俺はこの巨人の本当の名前を知らなかった。外見にはティガに類似した点もあって、作中ではイーヴィルティガなどと呼称されていたが、よもやそれが本当の名前ではあるまい。

 

 そのことを問えば、ユザレは残念そうに首を振った。

 

「この巨人の名を、私は答えられません。すでにデータベースはその多くが破損しています。しかし、目の前のこの巨人と貴方の波長は、よく似ている」

 

「波長ねぇ」

 

 ここに至って、未だ俺にはピンと来ていない。マドカ・ダイゴのように光に導かれるような感覚もない。

 

「それは、貴方も、そしてこの巨人もまた目覚めきってはいないから」

 

「目覚める? それっていったい何時なんだ──って、おい。なんか、画像乱れてないか?」

 

 ユザレのホログラムに砂が入りだした。音声もまた聞き取り辛くなってきている。

 

「どうやら遺跡のシステムに不具合が生じたようです」

 

「ちょ、おい!! どうすんだそれ!?」

 

「しばらく休眠モードに入ります。この遺跡に眠る機材類は自由にしていただいて構いません。それでは、またいずれ───」

 

 ブツンと、そんな音もない。跡形もなくユザレは俺の目の前から消えていなくなってしまった。ホログラムだから当然なんだが。

 

「どうすんだよ、これから」

 

 早くも水先案内人を失った俺は、一人途方に暮れるのだった。

 

 

 この遺跡にあるものは自由に使っていいとユザレは言っていたが、しかしその肝心の3000万年前の遺産たちはどれもこれも、うんともすんとも言わなかった。

 

「おまけに、地殻変動で遺跡のどこもかしこも崩れてるときた」

 

 それなりに広かったのであろうこの遺跡は、プレート移動のせいか各所で崩落が起きていた。

 

「青森の方の遺跡も同じようなものだったしな。……地震の多い日本で地下に建物なんて造るもんじゃないな」

 

 3000万年と言う月日と地球のエネルギーの前では、超古代の遺産も形無しというわけだ。むしろ、よくここが残っていたものだ。

 

 サルベージしてきた椅子にどっかりと腰かけ、俺は今後の計画を練ることにした。

 

「兎にも角にも目と耳がないとどうしようもないな……」

 

 多くのウルトラ作品において、主人公は防衛隊組織の一員として活動していた。そういった公的な組織にいれば、各地の異変の情報も勝手に集まってくるわけだ。

 

 しかしこの世界にはそもそも、まだ防衛隊組織ができていない。勿論、中には組織に属することなく活動した戦士たちもいるが、彼らにはウルトラ戦士特有の超感覚と各地を一っ飛びできる飛行能力があったから、各地の事件に関与することができたのだ。

 

 俺には、どちらも備わっていない。今のところ、ただの一般人である。

 

 となれば俺にできることと言えば、この遺跡の調査と発掘品であるオーパーツの解析くらいしかないわけで。

 

「これは、長丁場になりそうだな……」

 

 本当にこんなので、俺はこの地球を救えるのか? そんな不安を抱きながら、俺はオーパーツとは名ばかりに思えるガラクタの山に、独り立ち向かっていった。

 


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