ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#31

 右の拳が空を切る。

 

「ハハハッ!! そんな攻撃当たるかよ!!」

 

 ヒュドラは分かりやすい挑発を口にしながら、スウェーバックでこちらの拳を躱していく。

 

 身のこなしの素早い相手であることは分かっていたが、こいつのストロングポイントはそれだけじゃない。

 

 ステップからのフェイントを織り交ぜた攻撃。体重移動で狙いを誤魔化し、左右のパンチをワンツー。それさえ囮にした組み立て。上半身に注意を向けさせ、本命の蹴りを確実に──

 

「だーかーらー、通じねェって」

 

 これだ。

 

 先ほどから悉くこちらの狙いを読まれている。いや、観られているというべきか。

 

 並はずれた動体視力。見てからでも余裕で間に合う反射神経。しなやかな筋肉による素早い身のこなし。この三つを極めて高いレベルで融合させた格闘スタイルが、ヒュドラの真骨頂ということか。

 

 俊敏戦士の名に恥じない強さ。正直、想像以上だ。原作では割とあっさりティガに敗北していたのだが、腐っても古代の戦士なだけある。

 

「おいおい、どうした? それで終わりかァ?」

 

 相変わらず分かりやすい挑発だが、こうまで攻撃が当たらないと流石に苛立ちが沸く。

 

 だが冷静さを失うわけにはいかない。これでまだ、奴は本気を出していない。こちらの攻撃を躱すばかりで、手を出してこないのだ。

 

 手招きで、かかってこいという仕草。これだけ余裕なら、回避で精いっぱいで反撃できない、というわけでもあるまい。遊ばれているのだ。

 

「チッ」

 

 舌打ちを一つ。やはり3000万年前の戦争を生き抜いてきた戦士である。その技術には、あちらに一日の長がある。

 

 人間体では勝ち目はない。ウルトラマンになったならば、まだ勝機はあるだろうか。

 

 胸元のスパークレンスに手を伸ばそうと、ヒュドラから一瞬注意がそれた。

 

「こないなら、こっちから行くぜ」

 

 はや──

 

「な、グガッ」

 

 スパークレンスを握っていた手に衝撃。吹き飛ばされたスパークレンスの先を追う暇もなく、顎にクリティカルヒット。

 

 視界が揺れる。点滅する。

 

 何をされた? 回し蹴り? まさか。どうしてこんなに距離を詰められている? 近づかれたのか、この一瞬で?

 

 不味い。思考が止まっている。受け身を取って、次の動作が決まっていない。固まったままが一番ダメだ。

 

 地に臥した俺に向けて、追撃の踏みつけが迫る。文字通りに転がってどうにか回避するが、後が続かない。

 

「おらよッ」

 

 ヒュドラのつま先が鳩尾に突き刺さる。身体が浮き上がる気持ち悪い感触と、それを余裕で上書きする激痛にえずく。

 

「が、は」

 

 呼吸ができない。ゲホゴホと咳込む俺を、ヒュドラが見下す。

 

「さて、これで終わりだ」

 

 奴の手には小ぶりの刃物。木漏れ日の光を跳ね返した刀身が、狙い澄ましたように光った。

 

「くそ」

 

 毒づくが、今はそれしかできない。ダメージを受け過ぎた身体は言うことを聞いてくれなかった。

 

 ここまでか、そう思ったところで、ヒュドラの手が止まった。

 

「チッ。もう終わりかよ」

 

「な、に……?」

 

「命拾いしたな、お前」

 

 それだけ言うと、ヒュドラはダンッと踏み込んで、そのまま木の上に飛び乗った。そのまま猿のように木々を飛び移りながら去って行く。

 

「一体、何が」

 

 ヒュドラが去って行った方向とは逆の方向から、バタバタと草木を踏みながら近づく足音が聞こえた。

 

「お、おーい!! ……っておい!? 結構ヤバい感じじゃないか……!?」

 

「キリノ、か」

 

 慌てた様子のキリノの肩を借りて、どうにか立ち上がる。

 

「ユザレが、悪い予感がするっていうから来てみたけど、正解だったな」

 

「ああ。助かった」

 

 どうやらユザレがキリノをこっちに向かわせてくれたらしい。

 

 どうにか膝の震えが収まった、丁度その時。地響きとともに、向こうの森から天に向かって黒い光が立ち上った。

 

 そして、暗黒の光が止んだ時。そこには一体の怪獣が佇んでいた。

 

「あ、あれがレギュラン星人か……?」

 

 キリノの問いかけに、俺は「いいや……」と首を振った。

 

 何故だ。どうして、ここであの怪獣が出てくるんだ……!?

 

「ゴモラ、だと……」

 

 

 古代怪獣ゴモラ。

 

 初出は初代ウルトラマンだが、以降も多くのウルトラ作品に登場してきた怪獣だ。ウルトラギャラクシー大怪獣バトルやウルトラマンXでは、主人公とも共闘したりと物語の中核を担うポジションで描写されることもしばしばであった。ただ、初登場のウルトラマン第26、27話では大阪城を破壊するなど凶暴な姿を見せていて、作品においてその立ち位置は大きく異なる怪獣でもある。

 

 ゴモラは作品によって設定も異なるのだが、初代ウルトラマンにおいては恐竜の生き残りとも言われており、学名もゴモラザウルスと設定されている。ジョンスン島で生きたまま発見されたゴモラは、そのまま万博に展示するために輸送する途中に覚醒。大阪城を破壊するなど、大暴れした末にウルトラマンのスペシウム光線によって倒された。

 

 特徴は、頭部の三日月状の二本角と長い、強靭な尻尾。そして鼻先には三本目の角が生えている。怪力を誇るパワー型の怪獣で、その格闘能力のみで初代ウルトラマンを苦戦させた。

 また『ウルトラギャラクシー大怪獣バトル』以降は角から放つ超振動波という遠距離技も獲得している。

 

 前世においては、多くのウルトラマン作品でゴモラは登場していたが、少なくとも平成三部作では、一度も登場したことはない。

 

「何故、ゴモラが急に……。地下に眠っていたのが覚醒したのか? いや、それにしたってこれはあまりにもタイミングが……」

 

 ヒュドラが俺を見逃して引いていったのは、このため? だとしたら、これは闇の三巨人の仕業なのか。

 

「『闇』から生み出された超古代の怪獣でもないのに、連中にゴモラを意のままに操る術があるのか……?」

 

 ゴモラと闇の巨人に接点を見出せない。単純に、偶然に目についた怪獣を適当に手なずけた?

 

 分からないまま、状況は進む。

 

 ゴモラを追うように、ウルトラマンティガが姿を現した。

 

 構えるティガ。それに対抗してゴモラが咆える。

 

「くそ、始まったか」

 

 レギュラン星人がどうなったかも分からないのに、勝手に状況が転がってしまっている。

 

 この状況に加えて、通信機が鳴った。ユザレからだ。

 

『クリッターが再び都心部に近づいています……。いや、もう既にガゾートになって巣を飛び出している!!』

 

「次から次へと……!!」

 

 天にガゾート、地にゴモラ。まさに天変地異だ。

 

「ゴモラはティガに任せるしかない。俺はガゾートを仕留めに行く」

 

「ちょ、その身体でか!?」

 

「行くしかないだろ……!!」

 

 正直、かなりボロボロだ。この状態で行って勝てる見込みも薄い。だが、俺以外に誰がガゾートを止められる。

 

「キリノはこのままレギュラン星人を探してくれ。ただ自身の身の安全を最優先にしていい。いざとなれば逃げてくれ」

 

 言うだけ言って、俺は蹴り飛ばされていたスパークレンスを拾い上げ、天に掲げた。

 

 

 ティガへと変身したダイゴは、意識を失っていたレナら4人を手のひらに載せて、安全なところへと下ろした。

 

「グルオオオオッ」

 

 その隙を狙って、レギュラン星人が変じたゴモラが唸りを上げる。足を振り上げて地面を蹴り上げると、角を前面に押し出した突進攻撃でティガを迎え撃つ。

 

 巨体による突進をティガは真正面から受け止めた。

 

──ダメだ、押し込まれる……!!

 

 ゴモラの怪力はダイゴの想像を超えていた。踏ん張り切れず、地面が滑る。そのままかち上げるように、ゴモラが首を上に振った。

 

「デュアアア!?」

 

 掬い上げられたティガが空を舞う。そのまま地面に背中から落下。碌な受け身もとれずに、大きなダメージを負ってしまう。

 

──この怪力に対抗するなら……。

 

 額のクリスタルの前で、両腕を交差。バランスの取れたマルチタイプから、怪力のパワータイプへタイプチェンジ。

 

 ゴモラの再びの突進。パワータイプとなったティガはこれをまたも真正面から受け止める。

 

 今度は力負けしない。赤きティガががっぷり四つで、ゴモラの巨体を受け止め切った。

 

 そこからの上手投げ。倒れこんだゴモラの尻尾を掴んで、ジャイアントスイング。今度はゴモラが宙を舞った。

 

 落下し、地面へ激突するゴモラ。

 

「ぐ、グルウウオオオオォォォ」

 

 ゴモラは立ち上がることも覚束ない。上手く自分の身体を使えていないようだ。

 

──そうか。あの宇宙人は、まだ怪獣の身体に慣れていないんだ。

 

 膂力こそゴルザに勝るとも劣らない目の前の怪獣は、しかし単調な攻撃しか仕掛けてこない。宇宙人が不慣れなのか、もしくは、明らかにおかしかった変身前の状況を引きずったままなのかもしれない。

 

 どちらにせよ、今が有利だ。

 

 ゴモラが身動きとれない今ならば、必殺の一撃を躱される心配もない。

 

 全身から光のエネルギーをかき集め、右の手に一点集中。それを光球として打ち込む。

 

 デラシウム光流。

 

 ドガガガ————ンッ!!

 

 真面に躱す素振りさえ見せず、ゴモラに直撃。その威力に耐え切れず、ゴモラはその真価を発揮する前に爆散したのだった。

 

 

 東京メトロポリス上空では、黒い積乱雲から突如ガゾートが襲来。着陸間際の航空機が何機も被害にあっていた。

 

 ガゾートの正体は、地球の電離層に生息するクリッターである。人類が垂れ流す電磁波のせいで怪獣と化してしまったガゾートを止めるべく、ホリイとミズノ博士が地上で奮闘していたが……。

 

『トモダチハ、ゴチソウ!!』

 

 トランスレーターから流れ聞こえる、無邪気な声。そこに悪意はなく、だからこそ、人類とクリッターの間にある深い溝が埋めがたいものであることを如実に現わしていた。

 

「何を、言っとるんや……」

 

 力なく、ホリイがトランスレーターを落とした。

 

 ミズノ博士もまた悄然とした面持ちで、人々を襲う怪獣を見上げていた。

 

「きっとクリッターは、電離層という過酷な環境を、共食いすることで生き残ってきたんだ……。たとえ知能があろうとも、その倫理観はもう人類とは相いれない……」

 

 肩を落とす二人の前で暴れるガゾートが、空を見上げた。

 

宙の彼方より、銀色の巨人がやってくる。

 

「オルタナティブ・ティガ……」

 

 青い目に銀色の身体を持つ巨人が、ガゾート目掛けて攻撃を仕掛ける。

 

「デュアッ!!」

 

 ハンドスラッシュの連打がガゾートを襲う。怯んだガゾートは、それを怒りへと変換すると空へと飛んだ。

 

 奇妙な形態のガゾートだが、その形態ゆえに空を泳ぐように飛ぶことができる。

 

 瞬く間にオルタナティブ・ティガに追いつくと、その肩に牙を立てた。

 

「オルタナティブ・ティガをトモダチやと、餌やと思っとるんや……」

 

 涎を垂らしながら噛みつくガゾート。オルタナティブ・ティガはそれを振りほどこうと、錐揉みしながら空を飛ぶ。

 

 僅かに緩んだ顎を、半ば強引に振り解く。カラータイマーは赤く点滅しだした。

 

 空中戦は明らかにオルタナティブ・ティガに不利だ。だが、それでもオルタナティブ・ティガは空での決着を考えているようだ。

 

「地上の被害を、これ以上広げないようにか……」

 

 一人WING1を駆るムナカタは、オルタナティブ・ティガの意思をくみ取った。だが、同時にこうも思う。

 

「いつもより動きに精細さを欠いている。このままでは……」

 

 オルタナティブ・ティガの敗北はもう目前に迫っている。ムナカタは急ぎ、援護に回ろうと舵を切った。

 

「レナやシンジョウ、せめてダイゴがいれば……」

 

 別件に当たっている部下たちは、この場にいない。

 

もう一機あれば、と嘆くムナカタ。その思いが天に届いたのか、戦場の空にもう一機のWING1が駆け付けた。

 

『ムナカタリーダー、オルタナティブ・ティガを援護するわよ』

 

「い、イルマ隊長……!?」

 

 指令室に居るはずのイルマ隊長の声が、通信から聞こえてくる。発信元は勿論、件のWING1だ。

 

『これでもクラスでは次席級の成績だったのよ。心配はいらないわ』

 

「……存じておりますとも」

 

 イルマは、九州沖での最初の怪獣災害では、学生の身ながら戦場を飛んでいる。その腕は折り紙付きだ。

 

 二機が同時にガゾートの注意を引く。片方が狙われれば、もう片方がガゾートを攻撃し牽制する。オルタナティブ・ティガから注意を逸らし、少しでも彼が態勢を整えるまでの時間を稼ぐ。

 

──感謝する……!!

 

 内心で、短くそう呟いて、オルタナティブ・ティガは再び加速した。

 

 食欲に支配されたガゾートは、WING1に夢中でオルタナティブ・ティガの接近に気付かない。

 

 空中で一回転。急降下の飛び蹴りがガゾートの翼を射抜いた。

 

「グギュアアアッ!?」

 

 いかに空を泳ぐガゾートであろうとも、翼が傷つけば飛行能力は大きく低下する。

 

 墜落するガゾート目掛けて、オルタナティブ・ティガのゼペリオン光線が、そして二機のWING1からのビームが一斉に直撃した。

 

ズガガガガッ!!

 

 空に、二つ目の太陽ができたかと見紛うほどの爆発。そうしてガゾートは沈黙した。

 

 オルタナティブ・ティガはWING1に頷くと、宙の彼方へと去って行った。

 

 この日、同時に起きた天と地の災いは二人のウルトラマンとGUTSの手によってどうにか退けられた。

 

 

 

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