ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#37 NEXUS

 サナダが変貌した果ての姿。エボリュウの誕生を、GUTSはいち早く捕捉していた。

 

「ネオリゾート付近に怪獣出現!!」

 

「ホリイ隊員とシンジョウ隊員とは連絡は取れる?」

 

 イルマの指示を受け、ヤズミが二人のPDIに連絡を入れた。

 

『こ、こちらホリイ……。今、リョウスケが、怪獣になってもうて……』

 

 ユーモアに富みながらも、科学者としての視点から要点を押さえた報告を上げてくるホリイにしては、珍しいほどの動揺が声音から伝わってきた。

 

『こちらシンジョウ。俺たちが追ってたサナダが、研究していた細胞に取り込まれて怪獣になっちまったんです!! こっちは住民や観光客の避難で手一杯で、怪獣にまではとても対処できません!!』

 

 イルマは、メインモニターに映る、醜い怪獣の姿を凝視した。

 

「あれが、もとは人間だったというの……!?」

 

 驚愕はある。目の前に見えるのは、人の間違いが生んだ禁忌だ。人類が行く末を間違えば、こうなってしまうのか。

 

 天に咆哮し、地を踏み荒らす。身体から放射される黒と緑の稲妻が天に迸り、地上を無造作に焼いていく。

 

 その姿に理性無く。その振る舞いに知性無く。

 

 振るう雷撃が民を焼く。そこに躊躇いはない。故に、何よりも心が無かった。

 

 これが、人類の進化の果てだとでも?

 

「隊長、指示を!!」

 

 ヤズミの言葉に、イルマは我に返った。

 

「ムナカタリーダー、レナ隊員、ダイゴ隊員はWING各機で現場に急行して」

 

 イルマの号令で、GUTSは現地に飛んだ。

 

 

「クソッ。一足遅かったか!!」

 

 サナダのセーフハウスに向かっていた俺は、逃げ惑う人々の中、暴れ狂うエボリュウを視界に納めていた。

 

 狂乱するその姿。そのカタチは、原作ティガに登場する異形進化怪獣エボリュウのそれだが、色は異なっている。

 

 皮膚の色は黒く、体表に浮き出た赤黒い血管が、ドクドクと脈を打つ。見るものに生理的嫌悪感を与えるのは、スペースビースト譲りといったところか。

 

 エボリュウは暴走しているのか、無秩序に放電して周囲に被害を加えている。その行動に理性らしきものは感じないが、

 

「放電して腹が減ったら……!!」

 

 食欲に突き動かされるまま、エボリュウは近隣の発電所を襲うだろう。そうなれば、体の中のEビースト細胞が活性化し増殖してしまうだろう。

 

 スペースビーストの氾濫。

 

 真実、あのエボリュウは理性無く暴れ回る怪獣であるとともに、怪物たちの揺り籠でもあるのだ。対処を誤れば、『孵化』してしまう可能性もある。

 

 そうこうしている内に、GUTSが急行してきた。そして、ウルトラマンティガも。

 

 此度の怪獣災害で、件の発電所は稼働を停止しているだろうが、施設に蓄えられた電力はまだ相当量あるはずだ。それがまかり間違ってエボリュウの手に渡ってしまうのは避けたい。

 

「今は、任せるしかないか……」

 

 その間に、発電所からエネルギーを回収すれば……。

 

 急ぐ俺の行く手に、しかし不敵に笑う人影があった。

 

「そんなに焦ってどうしたんだ?」

 

「そうだぞ。……俺たちと遊んでいこうぜ」

 

 相対すは、闇の戦士。それが二人。

 

「……マジかよ」

 

 状況は絶望的だ。だがやるしかない。今、ここで。

 

「光よっ!!」

 

 俺はスパークレンスを手に取った。

 

 

 ティガとエボリュウの戦いは、一方的なものとなった。

 

 人が変じた姿であるエボリュウ相手に、ティガは手が出せないでいたのだ。

 

「ギュオオオオッ!!」

 

 絶叫して四方八方に雷撃を飛ばすエボリュウ。ティガは手を交差させて身を守る。致命傷こそないものの、雷撃はティガの身体の芯を通りながら大地へと逃げていく。超人的な肉体を誇るティガであろうとも、何度も受け切れる攻撃ではない。

 

「シュワッ!!」

 

 ティガがついに攻勢に出た。

 

 駆け寄って、ボディーブロー。そこからチョップ、回し蹴りの連携を決める。

 

 普段であれば、この猛攻を受けた相手は体力を奪われて動きが鈍るものだ。だが、エボリュウは止まらない。

 

 スペースビーストの暴力性を帯びた本能が、恐怖の感情を麻痺させる。そして、エボリュウ細胞から齎される超パワーが、エボリュウの馬力をさらに引き上げている。

 

 触手に似た形状の腕が、ティガの胸をひっかいた。

 

 胸から火花が飛び散る。仰け反ったティガが、二歩三歩後ろに下がった。

 

 それでも、ティガは耐える。決して、攻撃を加えようとはしない。

 

「何だ? どうしてティガは攻撃しねぇんだ?」

 

 ダイブハンガーで盗み聞いたスクープになりそうなネタを追いかけてその場に偶然居合わせたオノダは、ティガとエボリュウのすぐそばで状況を観察していた。

 

 避難命令はとっくに出されていたが、記者としてオノダは引けないと、無駄に命を張っていた。

 

「……人が、中にいるんだ」

 

「はあ? 人が? あの怪獣の中に? ……いや、全然見えねぇけど」

 

 古い友人から預かった、まだ若い青年。今は、カメラマンとしてオノダに同行していた後輩が、カメラを覗きもせずにそう呟いた。

 

「分かる。……分かるんです。今の俺には……」

 

 ヒメヤが見つめる中、ティガはエボリュウの猛攻を耐え忍んでいた。

 

 このままでは、敗北は必至。だが、ティガには勝算があるようだ。

 

 エボリュウの身体能力は、その身に蓄えられた電力に依存している。ティガはそれを見抜いていた。

 

 このまま耐え、エボリュウが力を使い果たすのを待つ。それが、ティガが今、唯一とれる手段だった。

 

 ティガは、攻撃を躱しながらも、上手くエボリュウを市街地から、そして発電所から引き剥がそうとしている。

 

 周囲を旋回するWINGも、ティガを援護するべくエボリュウに威嚇射撃を継続する。放たれる稲光をスレスレのところで躱しながら、足もとにレーザーを照射して市街地に近づけさせない。

 

「グオオ、グ、ガアア」

 

 ようやく、エボリュウの動きが衰え始めた。上げる咆哮も、幾分か弱弱しい。

 

 エボリュウが、膝をついた。

 

「おお、やったか!!」

 

 オノダが、喝采を上げようとしたが、ヒメヤは首を横に振った。

 

「……発電所が、おかしい」

 

 ヒメヤが指さした先には、避難命令が出され、無人となったはずの発電所があった。

 

 だが、その停止した発電所から怪獣に向けて、高圧の電流が投射される。

 

 ティガも遮ることができないまま、エボリュウに電流が注がれていく。

 

「グゴガアアアアアアッ!!」

 

 エネルギーを失ったはずのエボリュウが息を吹き返してしまった。いや、息を吹き返したどころか、先ほどよりも強力になっているようにさえ思える。

 

 戦闘のど素人であるオノダでさえ、怪獣の存在感とでも言うべきものが増したのが肌で分かった。

 

 オノダは、一人の記者としてその光景を記録に残そうとポケットに入れっぱなしのレコーダーを口元に当てた。

 

「11月13日、天気は曇天。グロテスクな怪獣がネオリゾートに出現。ティガもGUTSも手が出せない。理由は不明。怪獣のスタミナ切れを狙ったようだが、無人のはずの発電所から電力が怪獣に向けて供給され、パワーアップされてしまった。……どうなる、ティガ」

 

 一息に実況をレコーダーに吹き込むと、オノダは隣にいるヒメヤの肩を揺さぶった。

 

「お、おい。ヒメヤ、いいから撮れって。ジャーナリストだろ!?」

 

 だが、様子のおかしいヒメヤは、カメラをオノダに押し付けた。

 

「俺は……もう撮れない。誰かが苦しんでいる、生き死にの場をファインダー越しに見ていられない。いや、見ているだけでは許されない」

 

「なあっ、ちょ、おい!?」

 

「これは、きっと俺に与えられた清算の機会。唯一の、贖罪のチャンスなんです……!!」

 

 言うだけ言って、ヒメヤは駆けだした。

 

 止めようとしたオノダだったが、直後降り注いだ稲妻がヒメヤとオノダの間に落ちて、瓦礫がその先を塞いだ。

 

「だー、もう!! 勝手にしろっ!!」

 

 オノダの叫びは、怪獣の叫び声によって掻き消された。

 

 

 男は、戦場を走っていた。

 

 手には、いつも手にしていたカメラが/見たこともない『棒きれ』があった。

 

 最初から/いつの間にか、彼はそれを握り締めていた。

 

 覗き込む/仰ぎ見る。

 

 誰かを追いかけるように/何かに追い立てられるように。

 

 何故見過ごしたのか/何のために戦うのか。

 

 知っている/考えた。

 

 怖かった/怖い。

 

 死んでしまうことが/生きていくことが。

 

 だからもう、間違わない/迷わない。

 

 これは罪だ/これは罰だ。

 

「過去は変えられない。でも、未来なら変えられる」

 

 男は、あの日に消えない十字架を背負った。そして今日、その重みにようやく意味を見出した。

 

「見ていてくれ、セラ」

 

 白いボディに赤いラインが入った『棒きれ』は、鞘に納められていた。

 

 彼は、それを引き抜いた。

 

 それは棒きれなどではなかった。

 

 短い刀だった。運命を切り拓くための、刃だった。

 

 刀身が、赤い光を放つ。そして、彼を包み込んだ。そして────

 

 

 今までティガが戦ってきた怪獣たちの中でも、屈指の膂力とタフネスを誇るエボリュウ。一度はスタミナ切れを起こしたものの、電力の供給を受けて復活。それどころか、さらに強化されてしまった。

 

 最早、ティガにはその猛攻を受け止め切れるほどの余力はない。胸のカラータイマーは、すでに点滅を始めてしまった。

 

 GUTSもまたティガをフォローすべく、怪獣の意識を引き付けるよう飛び回るが、決定打には欠けていた。

 

 狂奔する怪獣。その正体は、我々と同じ人である。

 

 その事実が、ティガとGUTSの動きを鈍らせている。

 

「攻撃の許可を!!」

 

 ムナカタが通信機に吠えるが、本部からの応答は芳しくない。

 

 目の前で暴れるソレを、怪獣と見るか、人と見るか。

 

 TPCが平和主義を掲げる組織であることも影響して、上層部の方針が定まらないのだ。度重なる、多岐にわたる怪獣災害に、組織が追い付いていない。

 

「クソッ!! 上層部には、この光景が見えていないのか!!」

 

 任務中は冷静沈着なムナカタが、怒りで声を荒げた。

 

 だが、レナはそれでも気丈に声を張った。

 

「でも、ティガはまだ諦めていない!! 街の人の命も、怪獣になった人の命も!!」

 

 ただ倒すべき存在として、見ていない。ティガはこの状況でも、エボリュウの内側で苦しむ男に手を差し伸べようとしている。

 

「デュアッ!!」

 

 致命傷にならない程度に攻撃を加えるが、その程度ではエボリュウはもう止まらない。

 

 ついに、エボリュウの放つ雷がティガを貫いた。

 

「デュアアアッ!?」

 

 ティガは痙攣したように身を震わせ、そして地に臥した。

 

 カラータイマーの点滅が早くなっていく。ティガが、今、力尽きようとしている……。

 

 その時だった。

 

「な、なんだ……!?」

 

 光が、天に立ち昇った。

 

 厚い雲を貫いて、空を通って、宙まで到達するほどの、力強い光の柱。

 

 それが一瞬だけ収束して、そして次の瞬間、膨張した。

 

 誰もが、視界を失った。そしてホワイトアウトした世界が戻った時、そこには、日の光を跳ね返す眩い銀色の巨人が、静かに佇んでいた。

 

「あれは、」

 

「オルタナティブ・ティガじゃ、ない……」

 

 呆然と、人々は見上げる。

 

 光の巨人。

 

 鎧兜を思わせる特徴的な頭部。全身は銀色でありながら、灰に近い黒が各所を引き締めている。そして胸部には、弓に似た形のエナジーコアが、赤い光を放っていた。

 

「ウルトラマン……なのか……?」

 

 答えは、どこからも返ってはこなかった。

 

 巨人は言葉なく、ティガに背を向けて立つ。そして怪獣へと相対した。

 

「シュアッ!!」

 

 ウルトラマンネクサス。

 

 後にそう呼ばれることになる、この世界にとって第五のウルトラマンが、この日初めて人類の前に降り立った。

 


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