ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#3のAIユザレが起動停止した理由を
エネルギー切れ→システム不具合
に変更しました。


#4

 1983年・東京。

 日本の首都たる東京は、およそ5年前に東京メトロポリスへと再編された。国の重要機関を首都東京に一極的に集中させるという意図の下での大改革だった。

 

 インターンと称して、世界を飛び回るサワイ・ソウイチロウの補佐をしていたイルマ・メグミは、2年ぶりにその東京メトロポリスにある大学に復学することになった。

 

「───それで、ETH関連については何か展開はありましたか」

 

「相変わらず、何某かの受信は定期的に起きているが、解読にはまだまだサンプルが足りない」

 

 電話の相手のサワイは、溜め息を吐いたが「そう言えば」と続けた。

 

「最近、面白い報告が挙がってきたのだったか」

 

「面白い?」

 

「ああ。今までのパターンにない電波を受信したという報告だ。これまで我々は宇宙から一方通行で送られてくる電波を受信してきたが、今回のは逆なんだそうだ」

 

「……逆? それはいったい何がでしょうか」

 

「方向さ」

 

 好奇心を抑えられないという風にサワイは言った。彼がこれまでETH関連を国連で中心的に取り扱ってきたのは、人類を正しい道に導きたいという決意もあるだろうが、その根底には未知への飽くなき探求心があることも知っていた。

 

「その電波は、地球からのものだろうとね」

 

「この星から宇宙へ……。いったい誰が……」

 

 確かに今までにないことだった。

 これまで、宇宙から地球には多くの発信源不明の電波が送信されている。それを未だ人類は解析出来てはいないが、そこには地球外知生体の存在が常にちらついてきた。

 さらに、ここ数年では冷戦の混乱の中で、実際に宇宙人との遭遇や未確認飛行物体の目撃という報告も寄せられている。その多くは、虚偽や勘違いによるものだったが、中には崑崙での事例もある。

 

 宇宙から地球を見つめる瞳は、かつてイルマが怖れた想像そのままであった。

 

「誰かについては今を以て調査中だが、場所は特定できた。聞いて驚くなよ、どうやら発生源は日本らしい」

 

「日本で……!!」

 

「まあ、特定できたのはそこまで──恐らくは東日本だろうというところまでしか言えないらしい。しかも、たったの一回限りだったこともあって、現在国連科学部はこれが自然現象か故意によるものかで半分に割れているらしい」

 

 サワイは電話越しで笑った。

 

「まあ、ともかく我々の抱えた命題はいよいよもって至急のことになったということだ。君のことも待っている」

 

「はい。肝に銘じているつもりです」

 

「そんなに固くならなくてもいい。今は、人類の最先端科学を肌で感じることに集中するといい。きっと、気持ちいいだろうな。アレに乗って空を飛ぶのは」

 

 イルマがメトロポリス大学に復学した最大の理由。それはWINGシステムの開発に参加することだった。彼女はシステム開発に携わる傍ら、パイロットの養成コースにも参加していた。

 

「ええ。まだ中途段階ですが、きっと満足のいくものができるという確信があります。──っと、すいません。これから模擬戦が始まるようです」

 

「そう言えば今日だったか。WINGに過剰に武力を搭載するのは反対なんだが、情勢が情勢だ。仕方のないことなんだろう……。聞くところによれば、君の教官が各国のエースに交じって飛ぶらしいが」

 

「え、ええ。よくご存じですね」

 

「いやなに、幼いころから知っている、君の『気になる男性』だという話じゃないか」

 

 思わぬ言葉が飛び出して、イルマは携帯を取りこぼしそうになった。

 

「い、いったい誰がそんな」

 

「君のお父さんだよ。最近、気が気でないらしくて使い物にならないんだ」

 

 イルマの父は、現在イルマと入れ替わりでサワイの補佐役に就任していた。

 

「余計なお世話だと伝えておいてください」

 

「いや、ハハハ。失言だった、申し訳ないね。ともかく、良い報告を期待しているよ」

 

 WINGシステムのことか、それとも別のことなのかと問い詰める前に電話は切れてしまった。

 

 イルマはそっと溜め息を吐いた。色恋から遠かった生活を送ってきたイルマは、この手の話題にどう反応すべきか知らなかった。

 

 携帯を握ったまま溜め息を吐くイルマに話しかける男がいた。

 

「電話なんかしている場合かよ。愛しの教官様のフライングが始まっちまうぞ」

 

 そう急かすのは、随分と整った容姿の男だった。スタイルの良さも相まって、もしもボタンを掛け違っていれば舞台俳優になっていてもおかしくないその男は、しかし着古して草臥れた訓練生用のパイロットスーツを身に着けていた。

 

「分かっている、ハヤテ。あと、お前にも訂正しておくが教官殿とはそういう関係ではない。幼いころに一度出会ったことがあるだけだ」

 

「ハッ、冗談の通じねぇ女だ」

 

 憎まれ口をたたく同期とともに、イルマは速足に先を急いだ。

 

 

 ここ10年の間に、地球外生命体を思わせる目撃情報は相次いでいた。特にUFOと称される未確認飛行物体との遭遇は年を追うごとにその件数を右肩上がりに上昇させている。哨戒中の某国軍の航空部隊が飛行するUFOを目撃、追跡を試みたものの逆に迎撃されるという事態まで発生していた。

 

加えて崑崙に不時着したエイリアン・クラフトの一件は、一般には秘匿されたが、各国に衝撃を持って受け止められた。

 

そのような情勢の中で、各国が新たなる航空技術を欲することは当然の摂理であった。これまで何度も地球外生命体への対処と称して各国へ共同を呼び掛けていた国連事務員サワイの音頭の元、日本に最先端の技術が集結していた。

 

その一つがWINGシステム。それは既存の航空技術では対処不可能になりつつある、未確認飛行物体への対処を目的として開発されていた。

 

「たく、いつまで焦らしてくれるんだ」

 

 隣で悪態をつくハヤテを尻目に、イルマはテイクオフの号令を持つWING1を見つめた。

 

 いよいよリリース段階へと移行しつつあるWINGシステムの、幾度目かのテストフライトが行われようとしていた。

 

 しかも今回は、今までの試験飛行とは異なる。各国のエースと称されるパイロットたちによる模擬戦が計画されていた。

 

「本当は調査や地球外生命との接触を主任務に開発されているWINGシステムに、こんなことをして欲しくはないのだけれど」

 

 過剰な防衛戦力は地球外生命体に対し、誤ったメッセージになるというのが、サワイとイルマの意見であった。

 

 誰に聞かせるわけでもないボヤキであったが、隣にいたハヤテは「またか」と呆れたように言った。

 

「崑崙での一件では、中国の機体が何機も落とされたらしいじゃねぇか。SOSで駆け付けたソ連軍の機体もやられたっていうしな……。最低限の自衛は必要だろう?」

 

「でも、私たちが開発してきた翼は、戦うためではなかった……」

 

「その開発の資金を出してくれているのは各国政府だろ。クライアントの意向は無視できないさ」

 

 それより、とハヤテが話題を変えた。

 

「ようやく教官殿の本気が見られそうなんだ。俺は今から滾って仕方ないね」

 

 ハヤテは挑戦的に笑った。WINGシステムの養成パイロットコースの教官役を担っているかの男に、未だにハヤテは勝てていなかった。おまけに、彼はまだ底を見せていない。負けん気の強いハヤテはこれを機に目標の男を見定めるつもりだった。

 

「カツヒトくん……」

 

 教官と生徒として再会した、かつて少年だった彼の名前を呟いた。

 どこか疲れたような、しかしその底に炎を燻らせた目を持った青年。歳は3,4つほどしか違わないのに、その差以上に年上に見える落ち着きを持った不思議な人物だった。

 

「おお!! 始まるぞ!!」

 

 逆にこちらは並み以下の幼さだな、と興奮するハヤテの声を隣で聞きながら、エースたちが駆るWINGが次々に離陸していくのをイルマは見つめた。

 

 

「どうしてこうなったんだろうな……」

 

 WINGの搭乗席で一人溜め息を吐く。我ながらおっさんみたいだなと思うが、考えてみれば前世も合わせればもう定年間近の年齢なのである。むべなるかな。

 

 熊本のトンカラリン遺跡を初めて訪れてから早くも10年が経過していようとしていた。未だ地球の平穏は保たれているが、水面下では地球外生命体の活動が活発化し始めている。

 

 あれから何度も遺跡を訪れては、3000万年前のオーパーツをサルベージしたり解析したりしていたが、進捗は芳しくはなかった。機械いじりは得意だと言う自負があったのだが、如何せん未知の技術の前ではその自信も儚く散ってしまった。

 

 ここ10年でのささやかな成果といえば、AIユザレの小型化に成功したくらいか。

 ホログラム映像をオミットして太陽エネルギーで稼働できるようにはなったが、小型化した故に記憶容量は外付けにせざるを得なかった。遺跡にある本体に記録の蓄積と大半の演算を依存する設計なのだが、その本体はエネルギーが無くて動いていない。

 現状おしゃべりくらいにしか使えない。流石にペッ〇ー君よりかはマシなはずだが。

 

「随分と辛辣な評価のようですが、反論できる材料を持ちません。せめて、本体のエネルギー問題さえ解決できれば」

 

「そのためにこんな遠回りしているんだろ」

 

 埒が明かないと、俺は遠回りを承知で一連の計画を立てた。エース級のパイロットになるというのも一連の計画の一部なのだ。

 

「まずは日本で一番のパイロットになる、か。難しい話だ」

 

 その上で今回の模擬戦は重要な位置づけにある。WINGシステムの習熟度を内外にアピールできるまたとない機会なのだから。

 

 今回、この模擬戦に参加している日本国籍の人間は3名。誰もが、一廉以上の実力者だ。果たしてその中から頭一つ抜け出すことができるのか……。

 

 緊張に汗ばむ手をぬぐっていると、個人回線で通信がきた。

 コールに出れば、映像に映ったのは件の日本人パイロットの一人だった。

 

「……すでに作戦のコンセンサスは取ったはずだが」

 

 今回の模擬戦は、即席のチームによる6vs.6だった。すでにチームでの打ち合わせは済ませた後だった。

 外向きの少し固い話し方での受け答えに、相手は苦笑した。

 

「いや、申し訳ない。話し相手が欲しくてね」

 

「話し相手と言っても、初対面です。交わす言葉も特にありませんが」

 

「ははは。噂通り堅苦しいんだな」

 

 堅苦しい話し方なのは、気を抜いて俺しか知らないアレコレをうっかり口走らないようにしているだけだ。

 

「噂にされているのですか」

 

「研究もできるくせにパイロットの腕もピカ一。おまけに顔も悪くないときた。女に放っておかれないだろうっていうのに、本人の方は無口で無愛想。いつも眉間に皺を寄せていてとっつきにくい。噂にもなるさ」

 

 そりゃあたった一人で全人類の命運を背負ったら眉間に皺くらい寄るわ。

 

「自分の知らない人間に周知されるというのは、あまりいい気分はしませんが」

 

「おおっと悪い。俺の方ばかり知っているっていうのも据わりが悪いか。自己紹介もまだだったな、そういえば」

 

「別に、今回限りでしょう。貴方は航空自衛隊所属で、俺はWING開発部専属。接する機会もありません」

 

「ははは。まあそうなんだが、お互い名前を知っているくらいはあってもいいだろ」

 

 いい加減そろそろ集中したかった俺は、痛恨にも続く彼の言葉を聞き流した。

 

「俺はマキ・シュンイチ。第204飛行隊所属の二等空尉だ。まあ、短い間だがよろしく頼む」

 




用語集
ETH…Extraterrestrial Hypothesis の略。要は宇宙人のこと。EBE(Extraterrestrial Biological Entityとも。
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