ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
「なるほど。貴殿は、妻を護るために、ここで一人非道な宇宙人の目を引き付けようとしておったというわけか……」
『……妻、というわけではない』
異星人ザラと謎の浪人景竜は、洞窟の中で向かい合っていた。
「何、それは些細なことよ。愛するものを指す言葉で間違いない」
『? この星では、妻と恋人は同じ意味の言葉なのか』
ザラは首を傾げ、それを見て景竜は苦笑した。
「いや、一応違う言葉だ。ううむ、やはり異文化交流とは難しいものよ」
『そうだな。確かにこの星の言語は難しい。土地によって異なるというのも含めて』
「いやはや確かに。拙者からすればエゲレス語もザラ殿の母星の言語も同じように分からんからな。その点ザラ殿はすごいで御座る。ほんの僅かな時間で、この国の言葉をここまで話せるようになるのだから」
『私は、ムザン星人に滅ぼされる前は自分の星で学者をしていた。専攻は宇宙考古学だ。その関係で、宇宙言語学を学んでいた時期もある。この日本語と言うのも、今までに学んできた言語の中に似ているものがあった。だから、こうして辛うじてだが話せている』
ザラは、そう言って僅かに表情を緩めた。この地球に来てからずっと強張っていた表情筋が少しだけ柔らかくなった。
だが、ザラは眉を再び悲し気に下げた。
『ルシアの方は、私ほど言語学に精通していない。この惑星の人々はテレパシー能力もないようだから、苦労しているだろう』
「やはり惚れた女は大事か」
『それは、勿論。彼女のためならばこの命が惜しくはないほどに』
「そうかそうか。いやはや、いつの世でも……いや、どこの星であっても惚れた女のために戦うのが男というものか」
景竜はカカ、と笑い、納得したように頷いた。
「生まれ出でた星は違えど、男女の仲というものには違いがない。愛したものへの強い思いと、その境遇に共鳴したか……」
『共鳴……? なんのことだ?』
「なに、此方の話よ。気にすることは無い」
はぐらかすように笑う景竜であったが、そのとき彼の常人を超えた感覚が、こちらを伺う悪意を捉えた。
「どうやら、来たようだ」
スッと、音もなく立ち上がる。そして、異邦の男へと手を差し伸べた。
「これも何かの縁。我が剣、一時であるが貴殿に預け……いや、違うか」
ふっ、と侍は笑った。
「貴殿の肉体を、我に預けてはみぬか?」
※
俺たちは、各所の監視カメラをハッキングすることでルシアの足取りを追っていた。映像による追跡により、ルシアがダイゴらに保護されたところまでは確認している。
「イルマにも先ほど報告が来たらしい。ダイゴたちはこのままルシアと共に、ザラがいるであろう付近に移動するとさ」
原作では一時、ダイブハンガーまで護送・保護される形となったルシアだったが、今回はそうはならなかったようだ。彼女は意識を保ったまま、ダイゴたちにその場で事情を伝えることができたらしい。
GUTSはその報告を受け、ルシアとザラの保護に乗り出ている。ダイゴらが先行してザラの捜索を行い、その他のメンバーは追って合流する方向のようだ。
ダイゴたちは現在、関東地方の北部から東北地方にかけてにあるという山に向かっている。問題は、その山の名前がどうにも聞き覚えのある名前であったことだった。
「……嫌な予感しかしないんだが」
その名を目にして、俺は頭を抱えることになった。
その山が、原作ウルトラマンティガに登場することは一度もない。
名を、二人山。
戦国の世にて引き裂かれた、男女の怨霊が祀られる土地である。
※
二人山とは、ウルトラマンコスモス第18話『二人山伝説』の舞台となる東北地方のとある山である。
二人山という名前はそこに封じられ、そして祀られているとある怨霊の逸話に基づいている。
封じられていたのは、怨霊鬼・戀鬼。戦国時代にて敵国同士だったが故に結ばれることなく、遂には自国同士の合戦が始まってしまったためこの世を恨みながら自害した姫と若君が、成仏できずに怨霊となった姿──妖怪変化の類だ。
化生と成り果てた戀鬼は、姫と若君の両方の国を相次いで滅ぼしたが、その後『とある侍』によって山に封じられることとなった。
その山の名が、後に『二人山』と呼ばれるようになったという。
「早くザラを見つけ出さないと……」
枯れ葉に覆われて足場の悪くなった斜面を急ぐ。
この山に、実際本当に戀鬼が封じられているかは定かではない。だが、今までのことを思い出してみても、悪い予感というものはよく当たるものだ。
ムザン星人とザラの戦闘の余波で、封印が解かれるというのは十二分にあり得る。これ以上の混乱は避けたい。
残念ながらGUTSチームの方も捜索が難航しているようだ。通信を傍受するに、どうやらルシアが衰弱しているようだ。これまで一人で、恋人を想いながら異郷の地で逃げ延びていたのだ。ここに来て身体に無理が来てもおかしくはない。
いったんルシアを本部に移送したいGUTS側と、無理を押してでもザラを探したいルシアの間で押し問答が起きているようだ。彼らはしばらく当てにできそうにない。
ここはこっちが頑張るしかない。俺は、一緒に来ていたキリノと二手に分かれて捜索を続けていた。
一人で探し出してから、少し経ったころだ。
「……何か……っ!!」
金属音に似た鋭い音が耳朶を叩いた。そして、低くて重い重低音──爆発音だ。
「出遅れたか!!」
音のする方向に急ぐ俺の足もとに、何かが落ちてくる。
ドスンッ、という大きな音を立てて枯れ葉と土埃が舞う。
「く、何が……」
視界が戻って、俺の目に飛び込んできたのは、予想外の絵面だった。
「グ、ギィ」
昆虫のような顔をした怪人が、背中を押さえて転げ回っている。
「ムザン、星人……!?」
狩る側であるはずのコイツが、どうしてここまで追い詰められているんだ?
ガサリ、と枯れ葉を踏む音がして、俺はそちらを見た。
「……ザラ、か?」
ユラリ、とそこに男が立っていた。
ムザン星人によって宇宙に放たれた、ムザン星人主催のハンティングゲームの標的である男。彼が、柳のように佇んでいる。
そこに居るはずなのに、そこにいる気がしない。そのことが、どこか恐ろしい。
「……むむ。この男、知り合いか?」
ザラと思われる男が口を開いたが、おかしい。その口調が、原作ティガのそれとかけ離れている。というか日本語を話せたんだっけか?
そしてなによりおかしいのは、このザラと思われる男が、状況的に見て、ムザン星人を吹き飛ばした張本人だろうということだ。
外見こそ、原作ティガと共通した特徴を持っている。だが、ザラはルシアと共に放たれた、ムザン星人のハンティングゲームの標的……狐の役割なのだ。原作ティガの描写を信じるならば、彼らは逃げることはできても、立ち向かったり、ましてや打ち負かすことは出来ないはず。だってそうでなければ、このゲームは成立しえないのだから。
「初対面か、なるほど」
ザラは、頷いた。
「ならば、ムザン星人の輩か」
「な、何……!?」
「なるほど、よく見れば物の怪の類に見える。差し詰め、この宇宙人の『狩り友』という奴か」
いやそれは使い方が違うだろ。
「……何、心配には及ばぬ。ザラ殿は大船に乗った気持ちでいるが良い」
そう言うや、ザラ……と思われる男が一歩前に出た。
「────っうおぉぉぉッ!?」
目で捉えられない速さではなかった。少なくとも、ウルトラマンの力と同化し、一般人からはやや逸脱しつつある俺の動体視力で追えないスピードではなかった。
なのに、もう奴と俺の間が五メートルは詰められている。俺とザラの間の距離は、おおよそ四尺ほど。踏み込みも合わせれば、丁度刀剣の類の適性範囲というところだ。そして既に、ザラは身を捻って振りかぶっていた。
ザラがその手にもっていたのは、長さにして二尺ほどの細身の木の枝。
「嘘だろ!?」
その木の枝でムザン星人吹っ飛ばしたの!?
僅かに首を引いて、紙一重。それでも振りぬかれた木の枝が、僅かに掠った。
鮮血が舞う。胸から肩にかけて、深めの傷が一筋走っている。枝の先が僅かに届いただけにしては、傷が深い。
「マジかよ……」
傷口を押さえながら呻くように漏らす。目の前の男は今、そこらへんに落ちているだけの木の枝で、ソニックブームを起こしたのだ。
対するザラは、手元で折れた木の枝を見て顔を顰めた。
「やはり耐えきれなんだか……。だが、弘法筆を選ばずと言う。修行が足りぬ証か」
修行ってレベルじゃないだろ。
「ていうか、誰だお前」
話し方や身のこなしも含めて、目の前のこの男がザラとは到底思えない。それに、こんなに強いんだったら、ルシアがあれだけ心配するはずない。
男は、口の端をゆがめた。
「なに、ただのしがない流浪人よ」
そう言って、男は折れた木の枝をどこかに放り投げると、地面に落ちていた別の木の枝を拾った。
「形も長さもイマイチだが、致し方なし」
言って、男は腰で溜めをつくって構える。
素人目でもよくわかる。居合の構えだ。
居合はあらゆる剣技の中で最速の技。鞘走りが肝心のこの技だが、男の腰に鞘はない。けれど先ほどの一撃を見るに、楽観視などできはしない。
「む」
僅かに男が片方の眉を上げた。
「グギギギギィィィィッ!!」
俺の背後からムザン星人が飛び掛かるのと、男が木の棒を抜くのは同時だった。
「ぐ、ぎゃ……!?」
再び、ムザン星人が地に沈んだ。だが、
「むう。やはり修行不足か」
木の枝は、今度は振り切る途中に折れてしまった。故に、技は完成せず、ムザン星人の首を刎ねるには至らなかった。
足を震えさせながらも、ムザン星人は立ち上がった。
「ユ、ルサヌゥゥゥ」
人間大の大きさでは不利であると悟ったムザン星人は、遂にその正体を露にする。全長五十メートルの巨大な怪獣の姿へと変貌した。
「おいっ。このままじゃ踏みつぶされるぞ!! 早く逃げろ!!」
「悪鬼や妖怪、化生の類こそ我が獲物よ。拙者の剣は人の身で化け物を切るための術理。『大物狩り』に特化した化け物退治の剣術ぞ!!」
男は、そう大見得を切った。だが、
「何? どうしたザラ殿……。腕がもう限界? 何を言うか日本男児というものここぞというときに無理をせんでどう──あ、ほんとだ全然腕上がんないわ」
「いいからさっさと逃げてくれよ……!!」
そうこうしている内に、第三者が戦場に現れた。ウルトラマンティガだ。
「シュワッ!!」
天に拳を高く突き上げたポーズで、ウルトラマンティガがムザン星人の前に立ちふさがった。
ティガとムザン星人の戦いが始まった。このまま足もとにいたのでは、ティガが安心して戦えないだろう。
「おい、早く逃げよう!!」
「おおう、何ということだ。すっかり足も小鹿のように……」
「もうふざけんなよお前ぇ!!」
先ほどまで死闘を演じていたはずの男を肩に担いで、俺はどうにか戦場を離脱することに成功するのだった。