ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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感想を頂けて大変うれしい限りです。すぐに返信することは難しいのですが、それでも読ませていただいております。やはり創作の気力がわくのは感想を貰えた時が一番ですね。
感想返し滞っておりますが、明日辺りからぼちぼち返信させていただきます。




#47

 両面の鬼討伐を終えて暫し。

 

 俺たちは封印の楔となっていた刀を手に、トンカラリン遺跡最奥部に舞い戻っていた。

 

「で、どうなんだ」

 

 帰ってすぐ、いくつものコードと計器類に繋がれてスパゲッティと化した刀──景竜曰く『星斬丸』──を目の前にして、俺はクラゲ型の宇宙人に尋ねた。

 

「『……少なくともこの刀剣を構成している鉱石は、地球産のものではないぽよ』」

 

 キリノの翻訳を通して、来訪者が観測したデータが次々と羅列されていき、それをAIユザレが即座に纏め上げていく。

 

「……隕石を素材にして刀剣の類を鍛造するっていうのは、ない話ではないが」

 

 宙から落ちてきた石つまり隕石は、過去においては信仰の対象となるなど何かと特別視されることが多い。これを素材にした祭具も例があって、刀剣の類も、時代においては神具の一種として扱われることもある。隕鉄が使われていること自体は、不自然なことではないが。

 

「『不自然なのはそれだけじゃないぽよ。……この刀から、救世主と同等……もしくはそれ以上の力の残滓を観測したぽよ』」

 

「なんだと……!?」

 

 来訪者の言う救世主とは、一人しかいない。ウルトラマンノアだ。

 

 数あるウルトラ作品の中でもチート級のウルトラ戦士であるノアと並び立つ存在など、それこそ数えるほどもいない。

 

「ノアと同列で、星斬丸に由来のある存在って言われたら、思い当たるのは……」

 

 ウルトラマンキング。

 

 ウルトラマンレオに初めて登場した、伝説のウルトラマン。その力の残滓が、この刀に残っているというならば。

 

「景竜は、このことを知っていたのか……!?」

 

「知らん……何それ……怖」

 

「知らないのかよ……」

 

 何も知らずに伝説の超人ウルトラマンキング、その力の一端を腰に佩いて生きていたっていうのか……。本当に、何なんだコイツ……。

 

「質問なのだが」

 

 一人置いてけぼりの景竜が、ここで声を上げた。

 

「この『星斬丸』とやらの銘が、どうしてそんなに問題になるのだ?」

 

 自分の頭の中の整理もかねて、景竜に解説をしておくべきか。俺は、こほんと咳払いした。

 

「『星斬丸』という銘の刀を持つ宇宙人がいるんだ。……名前はザムシャー。強者を求めてさすらう宇宙剣豪だ」

 

 ウルトラマンメビウス16話にて登場したザムシャーは、ウルトラマンヒカリに挑戦するために地球に飛来。ウルトラマンメビウス、ヒカリと剣を交え、ヒカリに愛刀『星斬丸』を折られて負けを認めつつも、再戦を誓って地球を去った。

 

 その後、メビウス最終章においては、メビウス作品での防衛隊組織──GUYSの危機を救う活躍を見せ、エンペラ星人相手にヒカリらと共闘している。

 

「ザムシャーの折れた刀を修復したのが、ウルトラマンキング……光の巨人の中でもさらに伝説と呼ばれ、全知全能の力を持っている巨人だとされている。来訪者たちが検出した力の残滓も、このキングのもので間違いないと思う」

 

 ノアに匹敵する力の正体は、恐らくウルトラマンキングだろう。となると、この刀は実際にウルトラマンメビウスで登場した『星斬丸』そのものということになる。

 

「でも、それだとおかしい」

 

「おかしい?」

 

 首をかしげる景竜に、俺はさらに解説を加える。

 

「ザムシャーは、GUYS基地を庇う形で消滅している。その後『星斬丸』はウルトラマンヒカリに受け継がれている。ヒカリが、ザムシャーの形見であるこの刀をおいそれと手放すはずがない……」

 

 俺は腕を組んで、背もたれに深く寄り掛かった。

 

「ヒカリの性格上、星斬丸を放棄している可能性は無いに等しい。となると、誰かに譲渡した、あるいは手放さざるを得ない状況に陥った……?」

 

 いや、その前に、もっとおかしいことがある。

 

「『古代の闇が、スフィアが、根源的破滅招来体が、カオスヘッダーが、スペースビーストが、ボガールが、闇の四天王が、スパークドールズが、世界の穴が、太平風土記に記された怪物が、狂信者な小説家が、星をリセットする狂獣が、光も闇も無意味と嗤う闇の巨人が、遊技と称して文明を殺す快楽主義者がやってくる』……ええ。私は、確かにそう予言しました」

 

 ユザレと初めて出会ったときと、一言一句違わない言葉を彼女が繰り返した。

 

「預言の脅威の一つ……闇の四天王っていうのは、エンペラ星人が率いる幹部の称号だ。そいつらが『これから』やってくるんだと、預言では語られている」

 

 預言の通りならば、まだエンペラ星人は蜂起していないはずだろう。だが、そうするとキングによって修復されたこの星斬丸はいったい何なのか。

 

「既に、メビウス本編は終了している……? いや、だとしてもここに星斬丸がある理由にはならないか」

 

 そもそも。そもそも、だ。

 

「…………この世界にM78星雲があるのか?」

 

 これまで、俺たちの宇宙を、原作ティガの宇宙──フロンティアスペースに類似した宇宙と考えていた。だからM78出身のウルトラ戦士の不在も不自然には思わなかった。この宇宙の歴史には『ない』ものだと想定していた。

 

 それが覆りつつある。

 

「ま、待ってくれよ。……この宇宙にM78由来のウルトラマンがいる? ……なら、」

 

 ならば。

 

 どうして、彼らはこの地球にやってこない?

 

 キリノが、訳が分からないと頭を抱えた。

 

「地球がこんだけピンチなんだぜ? それなのにM78からウルトラマンが来ていないって、そんなのおかしいだろ」

 

「……何も、彼らが無条件で人類の味方をしてくれるわけじゃない。……ただ、そもそもこの世界のどこを探しても、ウルトラマンがやってきた事実はないから、メビウス原作の発生条件を満たしていないだろうし」

 

 それ以前に目の前のこの刀も、本当に『星斬丸』かどうかも確証がないわけで……。

 

 こんがらがってきたな。

 

 あまりにも情報が不足している。これ以上は、推測に推測を重ねて、もはや妄想になってしまう。

 

「ことの初めに戻ろう。……この刀の出自がどこなのか。まずはここを知らないと」

 

 俺は景竜を見た。

 

「そう見つめられても、拙者はこの刀を譲り受けただけであるしなあ」

 

「譲り受けた……? 当時刀なんて一財産だろ。それを譲るって殿様かなんかだったのか?」

 

 キリノの問いに「いんや」と景竜は首を振った。

 

「当時の刀は言うほど希少なものというわけでもなかった。まあ、これくらいの名刀となれば話は違うがな。……この刀を拙者に寄越したのは、二人組の女子であった。後で聞くに、流れの巫女だとかなんとか」

 

「二人組の巫女、だと……?」

 

 二人の巫女、と聞いて思い浮かぶのは、新宿事変の際に力を借り受けたビクトリアンの姫の言葉だ。

 

 千年前に、シェパードンの暴走をウルトラマンビクトリーと共に止めたという、二人の巫女。名前も風化してしまったという、その巫女たちが景竜にこの刀を譲った……?

 

「いや、景竜の生きた戦国時代は今からせいぜい五百年前だしな……。同一人物とは考えにくいか……」

 

 ううむ、と頭を抱えた。恐らく、この刀の来歴もその二人の巫女が知っていそうだが。

 

「何か、その巫女たちについて知っていることとかないのか?」

 

「恥ずかしながら、そのころの拙者は幾分か尖っておったからなぁ。人に何かを聞くということがまずなかったというか、裡なる自分とばかり会話していたというか、口数少ない寡黙な男こそ真の漢だと思っていたというか、適当に頷いていたらいつの間にかこれを渡されていたというか。そう言えば、名前も聞いておらんな……」

 

「お前、よくそんなので今まで生きてこられたな……」

 

「今は生きてないですぅー。もう死んでますぅー」

 

「つまんない揚げ足取りをするなよ」

 

 もしかして、この男はこれでマシになった方だと言うのか……? 生前はどれだけ社会不適合者だったんだよ……。

 

「兎も角、その二人組の巫女がこの刀をお前に譲った。……その時に、この刀の来歴について説明されたってことか?」

 

「うむ。刀の来歴については、先に説明した通りよ。…………まあ、他にも何か小難しいことを言っていた気もするが」

 

「おい」

 

 おい。

 

「まあ、覚えていないということはさして重要なことでもなかったのだろう」

 

「そんな訳ないだろ……」

 

 この男、真面目にどうやって生きてたんだ。興味のあること以外は本当にすっぽ抜けているのか。

 

「まあ、あくまで霊体の身であることを考慮すべきでしょう。霊体になると、生前の情報に欠落ができることもままありますから」

 

 ユザレのフォローに「その通り。拙者がおかしいわけではない」と深く頷く景竜。尊敬の念がガリガリ削られるな……。

 

 それよりも、とユザレが話題を変えた。

 

「景竜殿はいつまでその身体を借り受けるつもりですか?」

 

「そう言えば、確かに」

 

 景竜は、宿那鬼復活の原因となった古美術泥棒の一味の一人の身体に入り込んだままだった。

 

 星斬丸の件が衝撃的過ぎて、今までスルーしてしまっていたが。

 

「ああ。このウエムラとかいう男、だいぶ拙者と相性が良いのでなぁ。しばらく身体を間借しようと思ってな。これからを想えば、霊体だけでは都合が悪いことも多いであろうし」

 

 何でもないように、そう放言をかました景竜はさらに続けた。

 

「拙者、しばし旅に出るから」

 

「はあ!?」

 

 いきなりのことに口をあんぐりと開けていると、景竜はいやに真面目そうな顔をした。

 

「この刀のこともそうだが……。少し、過去の文献を探るべきだと思うてな」

 

「過去の文献ですか?」

 

 ユザレの問いかけに、景竜は深く頷いた。

 

「各地に眠る民間伝承の中には、未来を予知したようなものや過去に実際に姿を見せた怪獣の姿を記したものもある。実際、拙者は生前、それらを調べながら妖怪退治に勤しんだものだ。それらの情報があるのとないとでは、動きやすさも変わってこよう」

 

 景竜の言葉は、そうと頷ける部分も大いにある。

 

「素人がそういった古文書の真贋を見抜くのは難しい。その点、拙者は経験もあるし適役であろう」

 

「確かに言っていることは一理あるか」

 

 怪獣のこともそうだが、星斬丸の来歴なんかも是非知りたいところだ。その調査をかってでてくれるのは素直にありがたい。

 

「お主らでは、手が回らんだろうしな。適材適所という奴だ」

 

「助かることは間違いないが……。そのウエムラさんが、あまりにも不憫というか」

 

 景竜が今、身体を借り受けているのはウエムラというただの一般人なのだ。彼が景竜の旅の道連れになるのを黙って見過ごすのも……。

 

「ふん。相性の良さを鑑みるに、こやつは拙者の子孫であろう。であるならば身内も同然。親孝行ならぬ先祖孝行をしてもらおう。警察に突き出されないだけありがたいと思ってほしいわ。根性鍛えなおしてやる」

 

 ふんす、と鼻息荒げてそう言い放った景竜は「よっこらしょ」と膝をついて立ち上がった。その手には、風呂敷に包まれた旅支度が一式、すでに用意されていた。

 

「善は急げ、というからな。……その刀は置いていく。銃刀法違反でしょっぴかれても困るしな。……二人とも、鍛錬をさぼるなよ」

 

「僕もかよ……」

 

 キリノが露骨に顔を顰めたが、景竜はガハハと豪快に笑うばかりだった。

 

 では、と。立つ鳥跡を濁さずとでも言わんばかりに、颯爽と景竜はここを発ったのだった。

 

 嵐のような男だったな、と溜め息も吐きたくなるが、それよりもなによりも、驚かされたことが一つ。

 

「アンタ、それで妻子持ちだったのかよ……」

 

「あんなんでも子供つくって、現代まで血を残しているのか。なんか負けた気になるな……」

 

 妙な敗北感を、俺とキリノは抱かされたのだった。

 

 

 景竜がトンカラリン遺跡を旅だったころ。ほぼ同時刻。

 

「グルオオオッ」

 

「グ、ルオオオォォォ……」

 

 巨体を誇る、二体の怪獣が相対する。

 

 一方は、燃え盛る溶岩をその身に取り込み、かの光の巨人に復讐を誓う超古代文明を滅ぼした闇の先兵──ゴルザ強化。後の世界ではファイヤーゴルザとも称された、炎獄の悪魔。

 

 応えるのは、古より星の結晶を守りし地下の民に祀られた、聖なる守護獣──シェパードン。

 

 天蓋は地の裏。大地の底の世界を舞台に、両雄がついにぶつかった。

 

 咆哮。そして斬撃。それらの応酬。

 

「……やはり、今のシェパードンでは……」

 

 崩壊するビクトリアンの集落の中、女王と呼ぶにはいまだ幼い少女が険しい表情で戦況を見守っている。

 

 両者の戦闘が拮抗することはほとんどなかった。

 

 聖獣シェパードンをして、超古代の先兵ゴルザの相手は荷が重い。まして全開とは言えない状態のシェパードンでは、マグマエネルギーを蓄積したゴルザには歯が立たない。

 

「引きなさい。シェパードン……!! 今のあなたでは、無駄に命を散らせることになる!!」

 

 キサラの叫びにシェパードンが反応する。後退し、戦意を陰らせたシェパードンを一瞥し、ゴルザは視線を別に移した。

 

 その先にあるのは、彼らビクトリアンが先祖代々守り継いできた奇跡の結晶ビクトリウム。その巨大な原石がある。

 

「やはり、奴の狙いは……!! クソッ」

 

 忌々し気に、そして悔しさを通り越して憤怒の表情を浮かべて、キサラの腹心カムシンが臍をかんだ。

 

 シェパードンでは全く歯が立たず、巨人の力を振るえるものも今はいない。最早ビクトリアンにビクトリウムを守るだけの力はなかった。

 

 ゴルザはビクトリウムの巨大結晶を豪快に捕食し、勝利の雄叫びを上げた。

 

「グガアアアアアアアアアッッッ!!!!」

 

 ゴルザの肉体が脈動し、背中には新たなる発光器官が生成されていく。

 

 勝利の雄叫びにして、それは産声でもあった。

 

 ティガに復讐を誓う超古代の怪獣は、敗北のその日から大地の裏側に潜んで溶岩の力を蓄え、そして今日、遂に星の結晶を取り込み更なる進化を遂げるに至った。

 

 ビクトリウムゴルザ。

 

「……至急、彼らに伝えなければ……」

 

 満足げにビクトリアンの集落を後にするゴルザ。地下深くに再び潜っていったかの怪獣は近いうちに必ず地上に被害をもたらすだろう。

 

 キサラとカムシンは、地上の彼らに危機を伝えるべく行動を開始した。

 


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