ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

49 / 94
更新遅れてしまいました。

某月姫発売に加えて、この話自体が難産だったものでして……。



#49

 光の柱が立ち上がり、その輝きの終わりに光の巨人が姿を現した。

 

 オルタナティブ・ティガ。この世界における、第四のウルトラマンにして最初の巨人。

 

 青き瞳に銀の身体の戦士が、異形の進化を遂げた怪獣に立ち向かう。

 

「デュアッ!!」

 

 オルタナティブ・ティガを前にして、なお悠然とした態度を崩さないビクトリウムゴルザ。先手必勝とばかりに銀の巨人が果敢に攻め込んだ。

 

 一息に懐まで踏み込み、一閃。左手に携えた光の刃ゼペリオン・スピアがゴルザの喉元を正確に貫く。

 

 が、

 

 ビクトリウムゴルザは僅かに首を動かすことで、狙いをずらした。そしてあろうことか、首に迫る光の剣目掛けて噛みついたのだ。

 

 ガキン、と。鏡の割れる音。今まで数々の敵を屠ってきたオルタナティブ・ティガの光剣は、一合ともたなかった。

 

 光の粒子が舞う。一瞬ばかり自失したオルタナティブ・ティガを前にして、ゴルザが嗤った気がした。

 

 今度は自分の番だ、とばかりにオルタナティブ・ティガの胸に爪を突き立てる。

 

「デュオッ!?」

 

 火花が散る。堪らず、たたらを踏む銀の巨人に追撃とばかりに蹴りが入った。

 

「デュアアアッ!?」

 

 大砲のような一撃。鳩尾に怪物の膝が食い込み、腰から身体が折れる。衝撃を殺しきれず、オルタナティブ・ティガは大地に転がった。

 

 身体を転がしながら距離を取る。

 

 身を起こし、膝立ちで構えをとる。

 

 腰で溜めをつくり、手刀の形をなして光弾を放つ。ハンドスラッシュ。

 

 光で構成された白刃が、ゴルザに迫る。だがこれを、ビクトリウムゴルザは真正面から受けた。

 

 ゴルザはびくりともしない。いかに牽制の意味合いが強い攻撃であっても、これまでの怪獣たちであれば僅かにでも怯む動作を見せたものだ。だが目の前のビクトリウムゴルザは痒みさえ覚えた様子はない。

 

 オルタナティブ・ティガが続けて攻撃を放つ。

 

 ティガスライサー。

 

 胸のプロテクターから発されたエネルギーを大型の刃へと変じて放つ。

 

 衝撃音と火花が散る。白煙が湧きたつ。

 

 漂う煙を山から吹き下ろす風が掃き清めていく。クリアになった視界の先、依然仁王立ちの構えを崩さぬビクトリウムゴルザが獣の唸りを上げていた。

 

「グゴガアアアアアアアアアッッッ!!」

 

 ビクトリウムゴルザが咆え声を上げてオルタナティブ・ティガに突き進む。銀色の巨人はそれを全身で受けて立つ。が、オルタナティブ・ティガの全体重をかけてなお、ビクトリウムゴルザは止まらない。

 

 電車道が出来上がる。長さにして一キロはくだらない。

 

「ぐ、オオッ」

 

 どうにか、そこまでで進行を食い止められた。だが、それで精いっぱいだった。

 

 ゴルザの牙が、オルタナティブ・ティガの肩を捉えた。

 

「デュアアアッ!?」

 

 苦悶の声が漏れ出る。肉食竜を彷彿とさせる生え並んだ牙が、巨人を捕らえて離さない。カラータイマーが点滅し、残りの体力が心もとないことを示した。

 

 そんなゴルザの圧倒的優位な状況を崩したのは、地下より飛び上がってきた赤と紫の巨人。地底より現れた光の巨人は、そのまま空中まで飛び立ち急降下する。

 

 ウルトラマンティガの急降下キックが、ゴルザの脳天を直撃し、僅かにだが顎の力が緩んだ。どうにかその隙をついてオルタナティブ・ティガが拘束から抜け出す。

 

 疲弊し、片膝をついたオルタナティブ・ティガに代わって、今度はティガが相対する。

 

 モンゴルでの敗北を思い出したのか。ゴルザに宿る殺気は、より濃密な物となって発される。

 

 獣性が狂奔し、その瞳に凶の相が現れる。怒りが闇の力となり、ビクトリウムゴルザの身体が一段階膨れ上がったようにさえ見える。

 

 ティガは恐れることなく攻めの姿勢を見せる。小手先の技ではただ隙を見せるだけ。殴打の一つ一つに全霊の力を込めて、ティガは拳を振るう。

 

 巨人のフルパワーに、ビクトリウムゴルザも怯む。だが、その怯懦を怒りに転化させてティガと打ち合う。

 

 クロスカウンター。

 

 ティガの拳とゴルザの剛爪が、互いの身体を吹き飛ばし合う。

 

「デュアッ!?」

 

「グルオオオッ!?」

 

 間合いは開いた。

 

 ティガは両腕を体の前で交差。身体中の光のエネルギーを集めて、必殺の一撃の構え。

 

──ダメだ!!

 

 カツヒトの叫びとティガのゼペリオン光線のタイミングは、ほぼ同時だった。

 

 L字に組んだ両腕から放たれた白熱の光。今までどんな怪獣さえも吹き飛ばしてきたティガ最大の必殺技は、

 

「嘘や……。ティガの光線を、吸収しおったんか……!?」

 

 戦闘を解析していたホリイの驚愕が空に響く。

 

 驚きに揺れるティガ。それはやはり致命的な隙になった。

 

 背中の鉱石が青白く輝きを放って点滅する。ゴルザが顎を開く。喉奥から漏れ出る、青い灼熱の光が目を焼いた。

 

 閃光。そして、大気を揺らす轟音。

 

 まるで真横に伸びる雷のよう。ティガは避けられない。後ろには街がある。これまで地下でピーパーに閉じ込められていたダイゴに、避難の進捗状況など知りようもない。彼はその破滅を正面から受け止め切るしかない。

 

 両手を前にして造り出した光の壁は、わずか一秒ばかりの猶予をつくって霧散した。

 

 爆発。

 

「デュ、ア……」

 

 膝をつく。胸のカラータイマーがタイムリミットを知らせる警告音を発した。

 

 人類の守護者だった二人の巨人が、相次いで敗北する。悪夢染みた光景に、地上の人々が息をのむ。

 

「────ティガあああああ!!」

 

 体力が尽きつつあるティガにとどめを刺そうとするゴルザ目掛けて、科学の翼がようやく戦場の空に辿り着いた。

 

 WING1を駆るレナが、ゴルザの鼻の先を飛ぶ。

 

 視線を誘導し、その隙をムナカタが乗るWING2が狙う。

 

 ウルトラマンの攻撃を容易く跳ね返した外皮に対し、人類の科学力は極めて非力だ。考え無しに撃ったところで意味はない。

 

 狙うは眼球。どんな生物であろうともウィークポイント足り得る、生物の克服しきれぬ弱点の一つ。

 

 一人で機体を動かしながらの攻撃は、どうしても手元が鈍った。顔面にこそ着弾したが、それではゴルザに手ごたえはない。

 

「くそ。シンジョウがいてくれたら……」

 

「リーダーにそう言われたら、やるっきゃないですねぇ……!!」

 

 開きっぱなしだった回線に、聞き慣れた頼れるスナイパーの声がした。

 

 頭から血を流し、意識も朦朧としながら、シンジョウはピーパーのコンソールパネルを動かしていく。

 

 スピンドラ―の鼻先から放たれる青い熱──フューザーZがビクトリウムゴルザの目を焼いた。

 

「グルオオオッ!?」

 

 視界を奪われたゴルザが怯んだ。

 

 その隙に、二人の巨人が動く。

 

 奇しくも、両者が選んだ技は同一のもの。光の巨人が導いた超直感が、この場での最適解を採らせた。

 

 ティガとオルタナティブ・ティガの両者から放たれたのは、ティガ・フリーザー。

 

 両者の指先から発された冷凍光線がゴルザの頭上で衝突し、降り注いだ絶対零度がビクトリウムゴルザの熱を奪っていく。

 

「と、止まったぁ~」

 

 ピーパーの車内で凍り付くゴルザを見届けたシンジョウは、そのまま再び意識を失った。

 

 

 停止したゴルザを見届けて、二人の巨人は共に力尽きるように姿を消した。

 

 残されたのは、氷河の中で一時の眠りにつく巨大怪獣だけ。そう、怪獣はまだ死んでいない。

 

 TPC科学技術部が解析の結果だした結論は、八時間。それが、ゴルザが再び動き出すまでのタイムリミットだ。

 

 TPCの天幕の中は大忙しだった。多くの怪我人たちが急ごしらえの簡易ベッドに寝かされ、医療スタッフたちが次々に手当を行っていく。

 

 頭に包帯を巻き、片手を吊ったままの姿で、ダイゴはそこから抜け出していた。

 

「っく……」

 

 歩くたびに、傷が響いた。シンジョウの妹……医務局のマユミには絶対安静を言い渡されていた彼は、痛みに呻きながらも歩みを止めない。

 

 今の自分に何ができるとも知れない。むしろこの状態では周りの邪魔になってしまうだろう。

 

 理性ではそうと判っていても、感情は納得してくれない。

 

 見上げれば、満月が昇る空に吠えるようにして、ゴルザが氷の彫像となってそびえ立っている。

 

 ダイゴが意識を失っている間に、もう五時間が過ぎていた。時間はもう夜になっている。

 

 一人でに、言葉が漏れた。

 

「僕が……」

 

「僕が、もっと強かったら……?」

 

「誰だっ!?」

 

 すぐ後ろ……というか耳元で囁かれた声に飛び上がった。視線の先には、フードを被った女が、口元に薄く笑みを張り付けて佇んでいた。

 

「お前は……」

 

 ダイゴの問いに、女は答えない。ふふ、と薄ら寒くて艶めかしい、笑い声とも言えない吐息を零した。

 

「それを」

 

 女が、ダイゴの手元を指さす。その指先を目で追うと、手に取った記憶もないモノを、固く握りしめている自分の手があった。

 

「う、うわっ」

 

「あら。落とさないでほしいわね」

 

 ダイゴの反応が面白かったのか、女はくつくつと笑った。鈴を転がすような音。先ほどのような艶はない。

 

 握りしめていた物を、改めて見やる。

 

「黒い、スパークレンス」

 

 それに黄金の輝きはない。あるのは、新月の夜よりもなお暗い黒。カタチは同じでも、中身がどこまでも異なっている、闇のデヴァイス。

 

「使いなさい。強くなりたいのなら」

 

 顔を上げた先に、女の姿は、影も形もなかった。

 

 

 夜の世界。怪獣災害の爪痕が生々しい瓦礫の中を、一人歩く。

 

 じくじくと、今更になって傷が痛む。傷は広がり、奥深くまで届く。そしてそのままであれば、いずれは膿んでいく。

 

 心の話だ。

 

「僕が……」

 

 女は言った。この黒いスパークレンスを使えば、より強い力が手に入ると。

 

 瓦礫と化した家々は、まるで遊び飽かれた玩具のよう。荒廃した街に、ひっそりと息を潜める住民たち。彼らは恐怖におびえている。今もなお、氷の彫像となっている破壊の権化の復活に恐れおののいている。

 

 本当ならば、彼らは何でもない日常を今日も生きてこれたはずなのに。

 

「僕が、もっと強かったなら……」

 

 成す術はなかった。戦士としては先輩にあたるオルタナティブ・ティガさえ一矢報いることも許されなかった。辛うじて凍らせることで時間こそ稼いだが、果たしてこれは意味のあることだったのだろうか。

 

 単純な性能差。己ともう一人……ティガとオルタナティブ・ティガが、今度は同時に立ち向かったところで、まるで勝機が見えない。

 

 光の戦士の直感が、あくまで冷徹に、そしてシビアに絶望的な勝算をはじき出す。

 

 懐に仕舞い込んだままの黒いスパークレンスを、服の上から強く握りしめた。

 

 正体不明の女の言葉がリフレインする。──強く、なれる。

 

「でも、」

 

 やはり直感が告げる。これは『良くない』ものだと。これに頼れば最後、取り返しのつかないことになる。その確信がダイゴにはあった。

 

 答えの出ないまま、ダイゴは半壊した市街地の中を歩いていく。

 

 満月の夜空とは言え、明かりは心もとない。瓦礫は散乱し、足もとを取られては無様に転びかける。それでも、彼はどうしてか戻る気にはなれなかった。

 

「……ん?」

 

 月明かりだけの夜に、どこかで音が聞こえた。動物の鳴き声とも建物の壊れる音とも違う。これは、楽器の音だ。

 

 音を頼りに、ダイゴは歩いた。

 

 少し行ったところで、優しい明かりを見つけた。焚火の光だ。

 

 どうやら元は公園だった場所で、人々が集まって焚火を囲んでいるらしい。

 

「これ、ギターの音かな」

 

 あまり音楽に明るくはないダイゴだったが、この音には流石に聞き覚えがある。他にも音はたくさんあるが、一番目立つのは、やはりギターの音だ。

 

「これは……」

 

「おお、GUTSのお兄さん。寒いだろ、ちょっとこっち寄っていきなよ」

 

 集まっていた人々の中で、中心となってギターを弾いて歌っていた少年がダイゴに声をかけてきた。

 

「いや、僕は……」

 

 らしくもなく輪に入れず気後れしていると、見かねた少年は周囲の人たちに何か声をかけて演奏を代わってもらい、ギターを担いだままダイゴの下に駆け寄ってきた。

 

「お兄さん、結構重症っぽいけど。大丈夫……?」

 

「あ、ああ。大丈夫だよ。応急手当は、ちゃんと受けてあるから」

 

「そっか。そりゃ良かった」

 

 屈託なく笑う少年を、改めて見やる。小学生の高学年くらいであろうか。近づいてみると、想像以上に幼い。それにしては、随分と演奏は堂に入ったものだったが。

 

「ここで、何をしてるんだい?」

 

「ああ。みんなで集まって、ちょっと演奏会」

 

 そう言って、少年は首から下げたギターの弦をはじいた。

 

「ギターの音を聞いてここまで来てみたんだけど、君だったんだね。すごい上手だった」

 

「そうでもないよ。両親がロックやってて、その影響ってだけなんだ。本気でやってる人たちは、もっと上手い」

 

 そう言いつつも、少年は満更でもなく笑った。

 

「たまたま日本に帰ってきて、観光でここに来てたんだけど、こんなんなっちゃってさ。……皆暗い表情だったから、物は試しでコレをね」

 

「君がこれだけの人数を集めたのかい……?」

 

「俺と、うちの爺ちゃん。あそこで太鼓叩いている人ね。最初はその二人で……それと、TPCの制服着たおじさんを手始めに巻き込んで」

 

 少年が言っているのは、恐らくは彼らなのだろうと、ダイゴはその集まりの中にいるそれらしい人物を見つけた。

 

 白髪の柔和でありながらどこか掴みどころのないお爺さんが、この瓦礫の中でどうやって拾ってきたのか、年季の入った太鼓を打ち鳴らしている。

 

「ほらほら。ヒビキ殿もいい加減そろそろやってみたくなったのでは?」

 

「い、いえ私はリズム感が無くて……。それに、昼間に世話になった少年を探していてですね……」

 

「なあに、こうやって音を鳴らしていれば、その少年の方から近づいてきてくれますとも」

 

「い、いやあ。ですが……」

 

「ねえ、おじさん。わたし、おじさんのたいこききたいよ」

 

「は、ハルナちゃん……」

 

 TPCの隊服を着ている中年の男が、幼い少女にせがまれてやけになって太鼓を叩き、周囲が囃し立てながらもそれに合の手を入れる。

 

「最初は俺のギターだけだったんだけどさ」

 

 最初は少年とその祖父の二人だけだった演奏会は、TPCの隊員から始まって、多くの人々が集っていった。

 

 それぞれお互いに楽器を持ち寄り、あるいは楽器でさえない音が出るだけのガラクタを携えて、彼らは輪になって火を囲んだ。

 

「すごいな」

 

「うん。皆すごいんだ。会ったばかりなのに、こうやって一つに集まってさ。……本当は怖いはずなのに、音楽で他の誰かを笑顔にしたいって、そういう想いでここに集まってる。ここにいない人にも届くくらい演奏するんだって」

 

 すっかり輪になった人たちを、外から眺めて、少年は「でも」と笑った。

 

「もう深夜だもんなぁ。そろそろ怒られちゃうか。……ギターじゃなくて、ハーモニカで子守唄でも歌おうかな」

 

「ああ。それもいいかもしれないね」

 

 薄く笑って、ダイゴは答えた。

 

「皆で、か」

 

 力を持った責任感が、いつの間にかダイゴを孤独にさせていた。自分がやるしかないのだ、と。

 

「それは、すっごく傲慢だった」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

 問われて、首を横に振った。

 

「いや。少し、頭に血が上り過ぎてたなって」

 

 これまでも……そして今日も、TPCそしてGUTSの力が無ければ、人々を守ることは出来なかった。敗北の動揺が、こんな当たり前のことさえ忘れさせてしまっていた。

 

 ダイゴは、ふう、と息を吐いた。

 

「例え力が強くとも、一人きりじゃ戦えないんだ」

 

 少年は、すこし首を傾げた。

 

「ん? まあ、一人じゃできないことばっかなのは確かだよなぁ。演奏だって皆でやった方がずっといいし、サッカーも一人じゃできないし」

 

「そうだね」

 

 頷いて、肩の荷が下りたとばかりに腕を伸ばして背伸びしようとするが、ギプスが邪魔で様にならなかった。

 

「おおい。ヒカルぅ、そろそろ戻って演奏しよう」

 

 向こうで、少年の祖父であろう人が手を振っている。少年はそれに答えて手を振って返した。

 

「お兄さんも、来る? 一緒に歌おうよ!!」

 

「……ほんの少しだけ、ね?」

 

 ダイゴは少年に手を引かれて、焚火囲む人々の輪の中に入っていった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。