ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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#52

 地下プラントが上昇し、ダイブハンガーのハッチがゆっくりと左右に開く。

 

「スタンバイ、オーケー」

 

 操縦桿を握り締めるのは、GUTS随一のパイロット、ヤナセ・レナ。今日初めて触るはずの機体であることを感じさせないほど、その手際に澱みはない。

 

 TPC所属宇宙作戦用母艦アートデッセイ号。TPCの科学力が詰め込まれた、人類初の宇宙活動に適応した大型航空母が、地上へと初めて顔を出した。

 

「マキシマ・エンジン、起動」

 

 頭部に包帯を巻いて、復帰直後のシンジョウがマキシマ・エンジンに火を灯す。

 

 メカニックとしてホリイ、ヤオが乗り込み、作戦指示としてムナカタが席に座る。

 

 そして、艦長席にはGUTS隊長イルマ・メグミが座り、本作戦の全体指揮を統括する。

 

「ダイゴ隊員、ハヤテ、準備はいい?」

 

『勿論です、隊長』

 

『ま、久々の地球の重力下で飛ぶからな。無理はしない程度にかっ飛ばすぜ』

 

 ダイゴ、ハヤテの二人がWING1でアートデッセイ号に先行する。そのほかにも、各国TPCの部隊やガロワ基地からの応援を含めた総勢十機が、ゴルザに対する牽制と囮を引き受ける。

 

 二人の返答を皮切りに、それぞれのパイロットたちが、めいめいに準備完了を告げる。

 

 即席編成のWING部隊の点呼が終了し、イルマが作戦開始の号令を発した。

 

「各国からの応援に、深く感謝します」

 

 日本の危機に駆け付けた、各国のパイロットたちに謝意を告げ、彼女は続けた。

 

「我々は、これより霧門岳山麓に出現したゴルザ撃滅の任に就きます。総員、戦闘態勢に入ってください」

 

『各員、これより発進シークエンスを開始します』

 

 ダイブハンガーで一人、通信を担うことになったヤズミがカウントダウンを開始した。

 

 3、2、1────

 

「アートデッセイ号、発進ッ!!!!」

 

 

ピシリ、と亀裂の走る音が虚空に響いた。

 

「来るぞッ」

 

 アートデッセイ号の現場到着とほぼ同時刻。ゴルザを抑え込んでいた絶対零度の氷山に大きな亀裂が走る。

 

「総員、構え。……シンジョウ隊員、行けるわね」

 

「勿論です!!」

 

 怪我を押して本作戦に参加したシンジョウの気迫のこもった返答を受けて、イルマは不敵にほほ笑んだ。

 

「マキシマ砲、展開!!」

 

 砲門が迫り出し、複数連結されたマキシマ・エンジンが轟音を上げて回転する。

 

「目標まで1000。エネルギー収束率89%。放射後エネルギー拡散率、1.9%で推移中。砲身角度、右に1度修正。……対象停止中、ターゲットロックオン!!」

 

 一つ、息を飲み込んだ。

 

「ッてェッッッ────!!」

 

「発射ァ!!」

 

 白光が、鈍色の砲身を塗りつぶす勢いで放たれる。それは大気を焦がしながら、吸い込まれるように目標に向かっていった。

 

 衝撃、轟音。

 

「目標に命中!!」

 

 白煙が晴れていく。

 

「やったか!?」

 

「……いいえっ。目標、依然健在!!」

 

 ムナカタの言葉を、ホリイが否定で返す。

 

 視界の先では、氷の檻から解き放たれた超古代の怪獣がゆっくりとその瞼を上げていた。

 

 

 マキシマ砲の第一射は、ゴルザに見事命中し、その身体を焦がした。身体の中央、腹部を白光で貫かれたはずのゴルザの腹は、確かに黒く焼け爛れている。

 

 だが、そのダメージはゴルザの硬く発達した外皮を貫くには及ばなかった。ダメージはあれど、それで身を竦ませるような恐怖の感情をゴルザは持たない。

 

 氷解した身体をゆっくりと、確かめるように動かす。そして、声帯を大きく振るわせた。

 

「オオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 大気を震わせる轟音。身に宿る怒りを発散させるように、怪獣は天を見上げた。視線の先には、生意気にも自身に傷をつけた小癪な鳥がいるではないか。ゴルザは、無造作に尾を振った。

 

 爆発的な速度で振るわれる靭尾。だが、それからアートデッセイ号を守るように十機のWINGが動き出す。

 

 五機がタイミングを合わせて放ったレーザーが、怪獣の尾を焼いた。

 

「ぐ、ルアッ」

 

 僅かな痛みにゴルザが呻く。狙いは外れ、尻尾は何もない地を叩いた。

 

 残りの五機がゴルザの前方を過ぎ去り、旋回と同時に射撃。後頭部を撃たれたゴルザは振り向かざるを得ない。

 

 アートデッセイ号から、視線が外れる。

 

「第二射、用意!!」

 

 イルマの号令で、二度目の白条の光が放たれる。だが、ゴルザはマキシマ・エンジンがうなりを上げる音を聞いて、その砲撃に反応した。

 

 蠅のように飛び回るWINGを無視し、脅威となる攻撃に集中する。口を開け、その光を無理やりに吸い込んだ。

 

 ゴルザは餓えを満たしたような錯覚を覚える。取り込んだ熱が背中の鉱石に蓄積されるのを感じた。

 

「ゴオオ」

 

 勝ち誇るように唸り声をあげる。

 

「第三射、充填まであと1分っ!!」

 

「っ長い……!!」

 

 ゴルザは悠然とその歩を進め始めた。

 

 周囲を舞うWINGは、アートデッセイ号を守るべく再び動き出す。

 

「アートデッセイ号はこの作戦の切り札だ。あれが落ちればすべてご破算だぞ!!」

 

 ハヤテの号令のもと、かき集められてきた各国のパイロットが操縦桿を握り締めた。

 

 タイミングを合わせて、レーザーを放つ。光の束となった光線は、ゴルザの身を確かに焼いた。だが、それでもゴルザの注意はWINGには向かない。

 

「あの野郎、完全にこっちを舐めてやがる……」

 

 ゴルザは完全にWINGを意識から外していた。これに、自身を傷つけることは能わないと見切りをつけているのだろう。

 

「くそ。シンジョウ並みの技術があれば、動き回るWINGからでも目を狙えるんだがな」

 

 高速機動を保ちながらの射撃はおいそれと可能になるものではない。長い訓練と、なによりも操縦者のセンスが問われる。その点で言えば、シンジョウはやはり傑出した才覚を誇る。今、現場で空を飛んでいるWING部隊には、パイロットとしての技術と才能はあれどもスナイパーの才能まで備えた人間はいない。

 

「……アートデッセイ号、急速旋回。ゴルザの正面を回避」

 

「ですが、それでは推力の分だけマキシマ砲の再装填に時間が」

 

「構わないわ。落とされたらそこで終わりよ」

 

 イルマの号令で、アートデッセイ号がその巨体を揺らした。もとより無重力圏での活動のために造られたこの艦は、重力下での本格戦闘を行うには機動力があまりにも不足していた。

 

 回避行動をとろうとしたアートデッセイ号を、ゴルザは決して見逃さない。

 

「コォ……!!」

 

 大口を開いて、空気を吸い込むような姿勢。ブレス発射の挙動だ。

 

「あれを撃たせるな!!」

 

「了解!!」

 

 ハヤテの命令に、一番に反応したのはダイゴだった。

 

 急速旋回から、レーザー発射。ブレス発射間近のゴルザの喉元を、正確に焼いた。

 

「グルゥ」

 

「うわあああああ」

 

 ブレスを邪魔されたゴルザは、苛立ち混じりに尻尾を振った。狙撃に神経を注いでいた

ダイゴは、それを回避することができない。

 

「ダイゴ隊員っ……!! クソッ」

 

「ゴルザ、再びブレス発射姿勢に入りました!!」

 

 周囲に散っていたWINGが一斉に旋回して銃撃態勢に入るが、もう間に合わない。

 

 だが、

 

 突如として、光の御柱がゴルザ直下に立ち昇る。そして、その光から現れた巨人が、アッパーカットでゴルザの顎を強制的に閉じさせた。

 

「ティガ……!!」

 

 アートデッセイ号内部で、レナが歓喜の声を上げた。

 

 宿敵ティガを前に、ゴルザはその全神経をその巨人に向ける。その隙をついて、空からもう一つ、光が輝いた。

 

「……オルタナティブ・ティガ」

 

 イルマが、そっとその巨人の名を告げた。

 

 オルタナティブ・ティガは、急降下キックをゴルザの脳天に食らわせた後、空中で一回転して着地。ティガの横に並び立った。

 

「デュアッ!!」

 

「ズェアッ!!」

 

 ビクトリウムゴルザを正面にして、二人の巨人は同時に構えた。

 

 月下の光が、怪獣と巨人たちを照らす。彼らの第二回戦が切って落とされた。

 

 

 ビクトリウムゴルザの懐まで駆け寄り、ティガが渾身の蹴り。反動を利用して後退し、入れ替わるようにオルタナティブ・ティガが重い拳を差し込む。

 

 二体の巨人に、さしものゴルザもたたらを踏んだ。一歩、二歩と後退する。

 

 一見、巨人の有利な状況のように見える。だが、彼らの胸に宿る光は早くも赤い点滅を開始していた。

 

 クールタイムの短い中での変身に加え、先の戦いでの傷が癒えていないのだ。

 

 戦える時間は長くはなく、体力も僅かの状況。二人の巨人は、光線技を撃つことも躊躇わざるを得ない。

 

 ビクトリウムゴルザが再び口を開いた。背中の鉱石が発光し、熱量が喉頭に集まるのが外から見ても分かった。

 

 オルタナティブ・ティガが走る。だが、それはブラフだった。

 

 ゴルザは即座にブレス攻撃を取りやめ、尻尾を横薙ぎに振るった。

 

 側面からの衝撃をまともに喰らったオルタナティブ・ティガは、受け身もとれずに吹き飛んだ。

 

「デュアアアア!?」

 

 地に墜ちる巨人を目にして、ビクトリウムゴルザがまるで笑うかのようにグッグッと喉を鳴らす。

 

「巨人を援護せよ!!」

 

 アートデッセイ号内部からムナカタの指令が飛んだ。

 

 それに合わせて、WINGの編隊が一斉掃射。今回は、ティガたちがゴルザの注意を引いていたおかげで狙いをつけるには十分な時間があった。

 

「発射ぁ!!」

 

 ゴルザの目に光の束が集中する。苦しむようにビクトリウムゴルザは後退。視界が覚束なくなったゴルザ目掛けて、もう一人の巨人が走った。

 

 走り、勢いそのままに跳躍。横っ飛びで矢のような跳び蹴りが決まる。

 

 重心を動かされ、不沈要塞めいていたゴルザが、初めて膝をついた。

 

 だが、

 

「デュアッ!?」

 

 意志を持っているかのように尻尾が、着地したティガを強かに打ち付けた。

 

 三者ともに、膝をつく状況。戦局はほんのわずかに硬直した。

 

「充填完了しましたッ!!」

 

 その瞬間、神の差配を想わずにはいられない状況で、第三射が間に合った。

 

「撃てーーーーッ!!」

 

 イルマが立ち上がり、手を振るう。

 

 そして一条の光が三度ゴルザを襲う。

 

 ゴルザは、吸い上げるように口からその光を飲み込んだ。だが、先ほどの充足感は得られなかった。吐き出してしまいそうな、えずくような挙動で、苦しそうに胸を掻きむしる。

 

「う、ぐごお」

 

「やったぜ!! ゴルザめ、そんなに食うからだ!!」

 

 シンジョウが声を上げる。

 

 ようやくビクトリウムゴルザに一矢報いた。その事実に、艦内が僅かに沸いた。だが、天秤はまだどちらにも揺れ動く。

 

 湧き上がる吐き気を堪えながらも、ゴルザは自身の敵を強く睨みつけた。そして咆哮。憎しみのままに天に向かって光線を放つ。

 

「これは、」

 

 直上に放射された光は放散し、雨のようになって地上に降り注ぐ。

 

 レーザーレイン。

 

 予期していなかった広範囲攻撃に多くのWINGが翼をもがれた。

 

「WING隊、全機が墜落!! 戦線復帰は不可能と思われます!!」

 

「アートデッセイ号、二番、三番エンジンに損傷!!」

 

 レナの甲高い声が響く。

 

「四射目は!?」

 

「不可能だ!! 発射のための物理演算がエラーを吐いている!! これでは発射シークエンスに移行できない!!」

 

 ヤオが表情を歪めて、拳を固い机に打ち付けた。

 

 アートデッセイ号に最も詳しいヤオの言葉は、それだけに重みがあった。ティガもオルタナティブ・ティガも、先の光の雨に身体を焼かれて、まだ動けそうにはない。

 

「ここで、諦めるわけにはいかない……!! せめて巨人たちが態勢を整えられるまでの時間は稼がなくちゃ……」

 

 イルマは通信を開いた。

 

「陸上部隊の各隊長へ。総員、一斉射。弾が尽きるまで撃ち続けてっ!!」

 

 続いて、ダイブハンガーへの回線を繋いだ。

 

「ヤズミ隊員、予備の戦力はどれくらい残っている?」

 

「……が、——……で、っ!!」

 

「どうしたの? 聞こえるなら返事をして!!」

 

 ダイブハンガーからの返答に意味のあるものは無かった。酷い雑音にかき消され、聞き取ることは出来ない。

 

「回線に故障……?」

 

「分かりません……。アートデッセイ号の回線設備は無事です。あの光の雨のせいで電波状況が悪うなっとるのか、それとも……」

 

 ここに来て、本部に何かしらのアクシデントがあったのか。

 

 どちらにせよ、本部からの追加の応援は望めなくなった。

 

 イルマは、そっと受話器を置いた。

 

「総員、外に出て陸戦部隊と合流。少しでもゴルザの意識をこちらに向けさせます」

 

「そ、そんな無茶な!! 僕らが今携帯している装備なんて雀の涙以下にもなりませんよ!!」

 

「そんなこと言ってられないでしょ、ホリイ隊員。ここで黙って、指をくわえていることだけはできない。どんな状況でも、出来得る限りの最善を尽くす。それが私たちに許されている唯一のことよ」

 

『いいえ。その必要はありません』

 

 突如として聞こえてきた、女の声。どこかイルマの声に似た、機械的な声質の言葉が艦内に響いた。

 

「……これは!? ソフトが再び発射シークエンスの演算を始めている!?」

 

『破損した物理演算はこちらで補助します』

 

 突如として現れた、その女の声の主がそれを行っているのは状況的に明らかだった。

 

「誰かは分からないけれど、今は、貴方を頼っていいのね?」

 

『ええ』

 

 イルマは、再び腰を下ろして告げた。

 

「総員、席について。これより第四射の準備に入ります」

 

 

 光の雨が地上を焼き、人々からは翼を奪いつつある。そして巨人さえも、その光に身を焼かれて膝を屈したままだ。

 

 ゴルザは、未だ苦しそうに喘いでいるが、光の雨を放ったことで幾分か身体の貯蔵機関に余裕ができたのだろう。先ほどまでの切羽詰まった様子はない。

 

「ご、ぅ」

 

 背中の鉱石器官が発光し、熱量が喉に集中しだす。

 

 ビクトリウムゴルザ最大火力を誇るブレスによって、二人の巨人を諸共に葬ろうと言うのだろう。

 

「そうはさせないさ」

 

 未だ幼いながらも、戦士の表情を携えて、その少年は再び地上へと舞い戻っていた。

 

 構えた。

 

 ショウが握り締めているのは、今回特例で貸し与えられたビクトリアンの秘宝……ビクトリーランサー。

 

 これの銃身部には、特殊な回路が取り付けられている。

 

 キサラ女王とカムシンが説き伏せた長老衆の一人が提供したというこの装置には、ビクトリウム鉱石を一時的に不活化させる効果があるらしい。

 

キサラ女王は勿論、カムシンも他の多くの長老衆もその存在を知らなかったというのだから、驚きだった。

 

 『とある過去の出来事』を再び繰り返さないために極秘で開発され、秘密裏に受け継がれていたというこの装置は、ある意味ではビクトリアンの存在否定にもつながりかねないものだ。その危険性を憂慮し、その長老衆の一人は、自分の代を最後に時代の闇に葬るつもりであったという。こんなことが無ければ、本当に、この装置は日の目を見ることもなく忘れ去られていただろう。

 

「秘密になんてせずに、みんな仲良くしてくんないかなぁ」

 

 溜め息を零す。大人たちの政治を理解するには、彼はまだ幼過ぎた。

 

「まあ、それは今考えることじゃないか」

 

 ショウは、一人そう呟いて銃口を怪獣に向けた。今まさに熱線を吐き出そうとしているゴルザ目掛けて、引き金を引いた。

 

 思ったほどの反動もなく、その弾丸はゴルザに突き刺さった。

 

 

 僅かのタイムラグの後、その効果は劇的に表れた。

 

「グギ、ガァアアアアァァァァッ!?」

 

 背部の鉱石器官が点滅を繰り返している。今まで取り込んできたエネルギーがゴルザの体内で暴れだす。ゴルザはもう、それを押さえつけていることで精いっぱいだ。

 

 そこに、四射目のマキシマ砲が到来する。避けることも吸収することも出来ず、ゴルザはそれを真正面から受けるしかなかった。

 

 爆音。熱と衝撃波が一帯を包む。

 

 白煙の煙の中で、今もなお怪獣は立っている。だが、その体表は黒く爛れていた。

 

「デュアッ」

 

「ゼェヤッ」

 

 その隙を、巨人は決して見逃したりはしない。最後の力を振り絞り、彼らは立ち上がった。

 

 ティガが両腕を体の前で交差させ、そして開いた。

 

 そして放つ、ゼペリオン光線。

 

 直撃。最早、ゴルザに一片の膂力もなく。絶命を待つのみに近い。それでもゴルザは憎しみだけを力に変えて、一歩踏み込んだ。

 

 取り込んだエネルギーを一気に放ち、ティガ諸共自爆するつもりだったのだろう。だがそれは、もう一人の巨人の手によって防がれた。

 

 左手に光剣を携え、オルタナティブ・ティガが一閃。喉を貫かれ、その執念さえも、遂に絶えたのだった。

 

 

 胸のカラータイマーは、もうこれ以上はないくらいの限界を告げている。連続変身とダメージの蓄積は、想像以上に身体に負荷をかけている。

 

 そっと右手で左手首を押さえながら、光の剣の実体化を解いた。

 

 俺と同じく疲弊したティガと頷き合う。ようやく、戦いは終わった。ゴルザは死んだ。これで、因縁が一つ終わったのだ。

 

 喉を貫かれ絶命したゴルザの身体を、俺は持ち上げた。ビクトリウム鉱石を取り込んだこの怪獣の身体を残しておくわけにはいかない。爆散させるにしても、肉体の破片が飛び散らないようにしなければ────

 

 胸に衝撃。プロテクターが火花を散らせた。

 

「デュアッ!?」

 

 掲げていたゴルザの死体を落とした。よろめいた身体は持ち主の意思に反して、膝を屈する。

 

 何が起きたかもわからない。隣を見れば、呆然とティガが宙を見上げている。

 

 視線の先。空と宙の境目に、それはいた。稲妻を迸らせて浮かぶ、人知未踏の孤島がそこにある。

 

 機械島。宇宙を漂う、何者かによる保障機関。

 

 それが、地上に向けて光を放つ。それはゴルザの死体に当たった。

 

(ま、不味い不味い不味いっ!!??)

 

 それの意味するところを理解して、警報が頭の中で鳴り響く。だが俺もティガも、そしてGUTSも、その孤島の暴挙を止めることができる余力は残っていなかった。

 

 捕食されていく。

 

そうして、中空に漂う未知の島に怪獣の身体は奪われた。

 


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