ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
機械人形ゴブニュは、ウルトラマンティガに登場した絡繰り仕掛けの敵性兵器だ。
彼らは、何物かによって『マキシマ・エネルギーを手に入れた文明』を攻撃するようプログラミングされており、地球上で行われたマキシマの起動実験を原因に地球に訪れた。
機械島を母艦とし、人と同程度の大きさの歩兵……ゴブニュ・ヴァハを端末として稼働する。現在、各地で確認されている『動く機械兵』はこれのことなのだろう。
本来であれば、マキシマ・エネルギーの発信源を捜索するための探索用端末であろうヴァハシリーズだが、どうやら今回は別のものを探して回っているらしい。
「そっちの様子はどうだ」
プツプツとアンテナの感度は悪い。通信先では、まだ声変わり前の少年の声が聞こえた。
『ダメだな。……連中、いよいよここを嗅ぎつけつつあるらしい』
あの後、ショウには今後を見越したユザレの指示で地下世界に戻って貰っていた。
そのショウの声は、柄にもなく緊張をはらんでいる。それも無理はないだろう。何せ、彼らの住む地底世界の入口にまでゴブニュたちが現れ始めたのだから。
「となると、やはりゴブニュの目的はビクトリウムか……」
ビクトリウムゴルザの死体を回収した奴らは、この地球にはマキシマ・エネルギーと同等かそれ以上のエネルギー源があることを認識してしまった。
星の結晶。ビクトリウムの存在を、彼らは無視できない。彼らの製作者の安全を脅かす可能性を少しでももつのなら、それを滅ぼさないわけにはいかないのだ。
「それでも最悪の状況ってわけじゃない」
ゴブニュは、未知の鉱石であるビクトリウムのサンプルを求めている。それが見つかるまでは、安易にこの地球を攻撃してきたりはしない。
「奴らは、まだ調査のプロセスで停止している。これが殲滅に移行しないうちに、片をつけたい」
俺の言葉に、通信先でショウが頷いたのが分かった。
『キサラ女王にも伝えてある。……俺たちは籠城して、できるだけ連中がビクトリウムを見つけるのを遅らせる』
この地球のビクトリウムは、そのほとんどをビクトリアンが管理している。地上との出入口を完全に封鎖すれば、しばらくはゴブニュたちも見つけられないはずだ。
『その代わり、俺たちも地上に出れないからさ。こっちからの援護は期待しないでくれ』
「分かっているさ」
『それに、俺たちが管理できているビクトリウムは、地球上のすべてじゃない。カムシンが言うには、ナンベイ? っていうところのビクトリウムは俺たちが把握できていないものもあるって』
すでに日本国外でゴブニュの目撃証言が出始めている。もう時間的な猶予はない。
「あとはこっちでどうにかするさ。……心配するな、って伝えてくれ」
『ああ。アンタも無茶すんなよ』
年齢不相応にこちらを気遣うような言葉を残して、通話は切断された。
これ以降は無線通信さえもするつもりはない。ゴブニュたちの用いる技術であれば通信傍受も可能だろう。
「しばらく、彼らとは会えないな……」
地上と地下世界を繋げる『門』は今回破棄されることとなった。高度な技術で造られている『門』が再び出来上がるまでには相応の時間がかかるだろう。それに、今回の騒動を契機にビクトリアン側で反地上運動が展開される可能性も大いにあった。
一抹の寂しさを抱く。だが、その寂寥感に浸っている余裕はない。
「こっちも動かなきゃな」
※
獣道ばかりの山を、木々をかき分けて進んだ先に、使い古されたテントが見えた。
煤けた化学繊維の布。その汚れは、きっと戦場の火によるものなのだろう。
「……よくここが判ったな」
とうに日は沈み、獣と虫の鳴き声が木霊する時間だった。男は一人、折り畳みのこじんまりとした椅子に座って、火を焚いている。
火を挟んで彼と向かい合う形で、誰も座っていない椅子がすでに広げられていた。
「まあ、座れ」
促されて、素直に座った。
「俺が来ると、判っていたのか」
問えば、男……ヒメヤ・ジュンは曖昧に頷いた。
「……ああ。俺の中の光が、教えてくれた。正直、半信半疑だったが」
どうやって見つけたんだ、と問われたので正直に話した。
「人気がない場所に、地元でもない人間が急に訪れたなら目立ちもする」
「……確かにそうだな」
フッ、とヒメヤは少しだけ笑った。そして、黙ってコーヒーを淹れたカップを差し出してきた。
「あ、ありがとう」
「余りものだ。感謝しなくていい」
彼の纏う、独特の、どこか重苦しい空気が俺の口先を鈍らせる。元々コミュニケーション能力には自信がないのもあって、話をどう切り出そうか悩む。
手渡されたマグカップに視線を落とした。傷んでいるが、手入れはされているようで汚れてはいない。口をつけると温かさと、酸味の強さが舌の上に広がった。
俺がコーヒーを飲んだのを見て、彼も一口啜った。そしておもむろに口を開いた。
「お前たちだけでは……ウルトラマンティガとオルタナティブ・ティガだけでは、手に負えないか」
地上の明かりに乏しいこの場所では、星の光が想像以上に明るく見える。だが、今は夜空の一点に不自然な光が煌々と灯っている。
「俺は、この胸の内に宿った光の意志に沿って、人の手で進化してしまったビースト細胞の行方を追っていた」
サナダ・リョウスケの手が加えられたスペースビーストの細胞。それはEビースト細胞と呼ばれている。サナダの死後、その細胞を人間の死体に植え付けることで生み出された七体のEビーストヒューマンの内、六体の行方が分からなくなっていた。
ヒメヤはこれまで、所在不明となったそのEビーストを探して回っていたのだという。
「他の怪獣たちはお前たちがいたからな。……俺は、スペースビーストだけに集中できていた」
コーヒーをまた一口すすって、ヒメヤは、ほうと息を吐いた。
「借りがあると、一方的にだが思っている」
「スペースビーストは、こっちも貴方に任せきりになっていたから、むしろ感謝するのはこっちの方なんだが……」
居心地悪く肩をすくめた。
「今までに四体のEビーストを討伐してきたが、機械の相手はしたことがない。正直、戦力になるかはわからないぞ」
「そんなことはない。貴方は、得難い戦力だよ」
妙に自己評価の低い、目の前の第二の適能者を見てそう言った。過去のことがそうさせるのか。彼は内向的で自罰的な性格であるようだ。
ともあれヒメヤ・ジュンの協力は取り付けることができた。あとは、GUTSのダイブハンガー奪還作戦に合わせてこちらも動くだけだ。
席を立った俺の去り際に、ヒメヤは声をかけた。
「ミウラ・カツヒト」
初めて、名を呼ばれた。そう言えば、今になって自分の名前を告げていなかったことを思い出したが、どうやらヒメヤは俺の名前を既に把握していたらしい。
「お前が戦う理由はなんだ」
つい最近にも、同じようなことを問われた気がした。俺は、苦笑を浮かべて答えた。
「特に難しい理由はないよ。……ただ知ってしまったから。そして他の誰かよりも、どうにかできる立場があって、偶然どうにかできる力を手に入れたから」
幸運に助けられてここまで来たに過ぎない。
「そうか。……つまらないことを訊いた」
どこか思いつめたようにそう言って、彼は顔を背けた。背中越しに、事が始めるときには連絡しろ、とだけ言って目を閉じた。どうやらそのまま眠るらしい。
「いや、連絡先知らないんだけど」
言うと、気まずそうに彼は目を開けたのだった。
※
次元のはざま。元はかぼちゃ頭の見た目だった、次元を超える魔女の城は今の持ち主たちの趣味に沿うようにリフォームが施されていた。
近未来的な黒一色のボディに、赤い光が幾何学模様のラインを走らせている。
内部にも手が入れられており、趣味の悪い標本や甘ったるい匂いを振りまく菓子類はすべて廃棄されていた。
最低限の設備と家具だけが置かれ、やや殺風景な内部となったそこで、一人の女が膝を抱えていた。
「どうして」
苛立ちを隠すこともせずに、カミーラは爪を齧る。
「どうして、闇の力を使わない……」
ティガを闇の勢力に再び取り込むために、ゴルザの傷を治しビクトリウムを与えて強化させて地上に放った。
そうすれば、強大となったゴルザを前に、彼は力を求めるだろうと思った。そうして闇に手を伸ばせば、あとは転がり落ちるようにティガはまた闇の虜となると、そう思っていたのに。
途中までは上手くいっていた。だというのに、なぜかティガは闇の力に手を伸ばすことはなかった。
「……で、どうするんだ」
頭の後ろで手を組んで、椅子に座っていたヒュドラが欠伸交じりに問うた。
「決まってる。あのゴルザで足りないなら、もっと強い怪獣を用意するだけよ」
「マジか。まだ諦めるつもりないのかよ」
若干辟易した感情を漂わせて、ヒュドラが唇を突き出した。
「あいつのことは、スパッと諦めてよぉ。さっさとシビトゾイガーどもを復活させればいいんだ。そうすりゃ、今の人間どもの世界なんて一発で台無しにできる」
「……時間はまだいくらでもある。ティガを諦める理由にはならない」
シビトゾイガーを解き放てば、ヒュドラの言う通り世界を一変させることはできるだろう。だがそうすれば、ティガをこちら側に引き込むことなくすべてが決してしまう。
それでは意味がない。
譲る気のないカミーラの様子をみて、ヒュドラは首をすくめた。そしてもう一人の闇の巨人に話を振った。
「ダーラムは、どう思う? まだティガをこっちに引き込むのを諦めないか?」
一人黙々と腕立て伏せを繰り返していたダーラムは、ヒュドラに話を振られて動きを止めた。
「……俺は、また我が友と拳を交したい。轡を並べて、蹂躙を為したい」
「ちっ。お前もよくよくティガが好きだなぁ」
ダーラムは、首を横に振った。
「俺は、強い奴が好きなだけだ」
腕を組んで、巨躯の男は続けた。
「そういう意味では、あのオルタナティブとやらも、良い」
「あのそっくりさんがか?」
うむ、と深く頷いた。
「明らかに、強くなっている。成長している。素晴らしいことだ」
ダーラムの言葉に、カミーラが反応した。
「オルタナティブ……。オルタナティブ・ティガ……。奴さえいなければ、ティガは闇に手を染めたであろうに……!!」
ガンッ、と拳を叩きつけ、情に狂う女は、その瞳に狂気を宿らせヒステリックに金切り声を上げた。
「まだ、続いている。あの機械島を利用できれば」
再び、ティガに闇に手を伸ばさせることができる。
「あの紛い物の首を持ってこい!! 奴を失えば、ティガも闇に手を伸ばさざるを得ないはずよっ!!」