ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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更新大幅に遅れてごめんなさい!!




#69

 現れたネクサスを前に、バグバズンは嘲弄する仕草を見せた。

 

 鋭い牙の並ぶ口に指先をかき入れ、歯間に詰まった食残物を掘りだす。つまようじを使う人間めいた動きで吐き出されたのは、細かい金属片や噛み切れなかった筋繊維。

 

 それが元はなんだったのか。それは口に出すまでもなかった。

 

 奪った命を愚弄する怪獣の行動に、しかしネクサス=ヒメヤは冷静だった。戦場カメラマンとして働いてきた彼の経験が、ヒメヤに怒りで我を忘れさせることを赦さない。

 

 動じない精神性からくる安定したパフォーマンス。それが、ヒメヤが変身したネクサスの一番の強みだ。

 

ネクサスとバグバズンが互いに構えた。

 

 まずは探りを入れるための小手調べと、ネクサスが指先から光弾を放つ。

 

 それをバグバズンは尾を振り回して弾いた。弾かれた光弾が地面に着弾し、土埃を盛大に上げる。だが両者はそれに目をくれることもない。目線を切れば、その瞬間に相手にイニシアチブを握られてしまう。互いにそれを理解していた。

 

 バグバズンは距離を詰めることなく、長い尾を生かした中距離からの攻撃を選択した。

 

 空を裂く鋭い音と共に襲い来るそれを、ネクサスは一歩後退することで回避。だが鞭のようにしなる尾は、別の生き物のようにウルトラマンを襲った。

 

 手の甲で、弾く。だが、その衝撃によってネクサスは吹き飛んだ。

 

「デュアアアッ!?」

 

 頑丈な甲殻に包まれたバグバズンの尾は、その長さもさることながら、中身には高密度の筋線維が隠されている。重量と筋力の掛け算がネクサス=ヒメヤの想像力を越えた破壊力を齎したのだ。

 

——単純に、蟲が怪獣化したわけじゃないのか……!!

 

 見た目こそ甲虫のそれだが、スペースビーストに地球の常識は通用しえない。異星の理を敷く敵を前に、ネクサスはもう一度ファイティングポーズをとった。

 

 ネクサスは一息に怪獣の懐に飛び込んだ。そして顎に向けて、渾身のアッパーカットを放つ。

 

「ギシャアッ」

 

 怪獣が悲鳴を上げる。ネクサスは畳みかけるように、パンチやキックを次々に放つ。

 

 固い甲殻が怪獣の身を護る。だがネクサスはその隙間。装甲部が覆いきれない関節を執拗に攻めることで損傷を与えていく。

 

 バグバズンが長い尾で反撃に出た。頭部に衝撃を受けていようと、その神経は昆虫のつくりをベースにしている。頭部からの命令を待たずに身体が動いたのだ。

 

 背後から迫り来る尻尾を、ネクサスは冷静に対処した。すんでのところで躱し、脇に抱えて力任せに振り切った。

 

 引っこ抜かれ、バグバズンの足が地から離れた。投げられたバグバズンは、しかし空中で体勢を整えると、そのまま羽を開いた。

 

 地上では不利と判断したのか。バグバズンは空からネクサスを攻撃する判断を下した。

 

 本能に根差した狡猾さがネクサスに牙を剥く。だが、これにはここまで蚊帳の外だったナイトレイダーが動いた。

 

「今だっ」

 

 コモンが放った誘導ミサイル三発が、連続してバグバズンに直撃し爆発した。

 

 着弾した箇所はどれも甲殻部のため、本体に大きなダメージは与えられなかった。だが、爆発による衝撃はバグバズンの飛行能力を大きく削いだ。

 

 大きく体勢を崩したバグバズンに、ネクサスが追い打ちをかける。指先から放った光の矢がバグバズンに直撃。バグバズンの翼の関節を焼き斬った。

 

「グギャアアッ」

 

 身体の破損による痛覚信号が、バグバズンに悲鳴を上げさせた。そのまま怪獣は地上に落下。受け身をとることも出来ず、落ちた時の衝撃で怪獣は意識をもうろうとさせている。

 

 ネクサスが更なる追撃の構えをとる。だが、それは成功しなかった。

 

 肩に奔った衝撃に、ネクサスが身を竦ませた。

 

 全くの意識の外からの攻撃。ネクサスは攻撃の主を探し振り向いた。

 

巨人の視線の先には青い翼。背後から巨人を襲ったのは、共闘していたはずのナイトレイダーだった。

 

 

 時間を少し巻き戻す。

 

 ネクサスとバグバズンの戦闘を、周囲を飛行しながら隙を伺っていたナイトレイダー。コモンがようやく敵の間隙を突いて攻撃を通した。ここから畳みかけようと攻撃指令を出しかけていたワクラだったが、その出鼻を挫くように通信が鳴った。

 

『こちらTLT本部。ワクラ隊長、応答願えますか』

 

 聞いた覚えのない男の声だった。ワクラはいぶかしみながらも通信に応じた。

 

「こちらワクラ。申し訳ありません、今は戦闘中ですので」

 

『それはこちらでも把握しています。本部で新たに方針が制定されましたので、そのご報告を』

 

「……方針が変わった?」

 

『ええ。ナイトレイダー隊は、これより巨人を……コードネーム・ウルトラマンネクサスを攻撃してください』

 

「な、何を!?」

 

 予想外の言葉に、ワクラが声を裏返して動揺した。

 

「現場の状況を把握していますか!? ウルトラマンは、現在我々と共に怪獣と交戦中です!!」

 

『これは決定事項ですよ。……ワクラ隊長、貴方方の指揮権は現在、TPC極東からTPCアメリカ、ひいてはアメリカ政府に移譲されています。命令に背けば、日米間で大きな外交問題になりますが』

 

「ふ、ふざけっ」

 

『そして、私は貴方方の上官でもある。ナイトレイダー隊が武力を保有する組織である以上、命令には従ってもらわねば』

 

 組織に属する以上、ナイトレイダーには命令を実行する義務がある。そして、武力を持った組織が規律を乱すことがどのような結果を招くのかは、語るまでもなかった。

 

「作戦に従わない場合、我々は戦闘終了後に拘束される。そういうことですか」

 

『ええ。話が早くて助かりますよ』

 

 ワクラは苦虫を嚙み潰したように表情を顰めた。ヨシオカ長官の密命で、ナイトレイダーがアメリカの裏側を探っていることに感づかれたのか。

 

——いや、まだ確信には至っていないはず。こちらが無茶な命令に服従するかどうかを計っているのか……?

 

 それにしたところで、たかだかそれを確かめるだけのために巨人を攻撃させるだろうか。下手をすれば、巨人がすべて敵に回る可能性さえあるというのに。

 

 ヨシオカが先日語った言葉が、ワクラの脳裏をかすめる。巨人が人類の敵になる可能性。それをアメリカが想定していなはずがないのだが。

 

——それとも、アメリカは巨人を敵に回しても勝てると考えているのか……!?

 

 あるいはその自信の源こそが、ナイトレイダーが探り当てるべきアメリカの裏側なのか。いずれにせよ、ここで軍務規定違反を行えば、これまでの捜査が水の泡になるどころか人類間での亀裂を作りかねない。

 

「……すまない、ウルトラマン」

 

 これが自己満足に過ぎないと分かっていてなお、ワクラは小さい声で呟いた。

 

「了解、しました」

 

 奥歯を噛み締めて応えたその言葉を、通信越しの男は満足げにして受け止めた。

 

『それではよろしくお願いいたします。ナイトレイダー隊長』

 

 男の言葉。ワクラは感情を噛み殺しきれず、怒気を堪えたまま問うた。

 

「貴方の名を、まだ聞いていませんでした。これまでの通信員ではなさそうですが」

 

 男は「それもそうでしたね」と軽い口調で言い、名乗った。

 

『今日付けでTLT特別理事に就任しました、マサキ・ケイゴと申します。これから長い付き合いになると思いますが、どうぞよろしくお願いしますよ』

 

 

 現場の誰も承服できない、非情な決断がなされた。

 

「そんな、どうして!! やめてください、副隊長!!」

 

 コモンが悲鳴染みた声で同乗するサイジョウを止める。だが、サイジョウは表情を変えない。

 

「私たちは武力を持った組織である以上、上の決定には従わなくてはならないの」

 

 ナイトレイダーはその始まりから武装組織としてデザインされている。捜査を第一とし、武装制限こそあるものの高い裁量を許されているGUTSとはあり方が異なるのだ。

 

「そんな……」

 

 そう冷酷に諭すサイジョウも乗り気では決してないようだった。初撃を当てて以降は、牽制に勤めており巨人に直接攻撃を行ってはいない。それでも巨人の行動に大きな制限をかけたのは間違いがなかった。

 

 ネクサスの攻撃の手が緩む。バグバズンはそれを好機と見て、逃走を図った。

 

 翼を失ったものの、地中を掘り進む能力は依然として健在だった。怪獣は盛大に砂埃を上げて地中を掘り進み、姿を消した。

 

 そして、それに呼応してネクサスもまた忽然と姿を消したのだった。

 

 

 上層部の承服できない命令によって現場は大きな混乱を生じさせていた。それでも、この怪獣災害に巻き込まれた被害者たちには関係のない話だ。その点、救命活動にまで、上層部が口を出してくることは無かったのは救いと言えば救いではあった。

 

 コモンとサイジョウは、チェスターαから降り、地上で逃げ遅れた被害者がいないかどうか確かめて回っていた。

 

 Eビースト細胞から生じた怪獣——Eビーストが出現した現場では高頻度で小型の怪獣が目撃されている。その掃討も任務に含まれている。

 

 警戒は解かないまま、二人は黙々と歩く。お互い思うことはあったが、それを口に出すことは無かった。

 

 重たい雰囲気を引きずったままの二人が歩く中、コモンが木々の隙間から人影らしきものを見つけた。

 

「あれは……」

 

 耳をすませば、木の枝が踏まれて折れる音も聞こえてくる。明らかに誰かが居るはずだ。

 

「あっちに人影が見えた気がしたんですが」

 

「……本当に?」

 

 コモンが指さす先には、既にその影はなかった。先ほどの歩行音も、サイジョウは耳にしていないと言う。

 

「この先にもまだ未探索区域があるし、もうすぐ日も落ちる。ここは手分けしましょう」

 

 サイジョウの言葉に頷く。コモンはその人影の正体を確かめに、サイジョウはこのまま予定していた未探索域の捜索に赴くことになった。

 

 彼女と別れてすぐ、コモンは大きく息を一つ吐いた。あのまま二人で行動していてもどこかで意見が衝突していただろうことを思うと、この状況はありがたかったかもしれない。

 

 一人、草木の合間をかき分けてけもの道を進む。アメリカの田舎ともなれば、所によっては日本以上に道路の手入れが行き届いていない。進めば進むほど、景色は緑で覆われていく有様だった。

 

 木々をかき分けた先。ようやく開けた視界の先には、大きな口をあけた洞窟があった。

 

「うっわぁ。雰囲気あるなあ」

 

 かつては坑道として使われていた場所だろうか。人の手から離れて相当の時間が経っているようだ。廃坑道と称すよりは、やはり洞窟と言うのがしっくりくる。

 

 いかにも何かが住み着いていそうな、そんな想像を駆り立てる洞窟。生唾を飲み込んで、コモンはそこに足を踏み入れた。

 

 コツコツと足音が反響する。コモンも最初は足音を消そうと躍起になったものの、固い靴底のナイトレイダー戦闘用の靴ではどうしようもなかった。

 

 そうして歩みを進めた先。洞窟の奥深くで、二人は再び相まみえた。

 

「誰だッ!!」

 

「動くなッ!!」

 

 お互いに銃口を突き付けた先を見て、互いに息をのんだ。

 

 コモンの視線の先にて、肩を押さえながら銃口を向ける満身創痍の男。彼をコモンは知っていた。

 

「ウルトラマン、ネクサス……」

 

 

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