ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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いつも感想ありがとうございます。いつも読ませていただいております。頑張るぞーって執筆モチベ上げさせてもらっております。なかなか更新頻度安定しませんが、ご容赦ください。


#70

互いに銃口を突き付け合ったまま、二人は身体を硬直させていた。

 

「っぐ……」

 

 凍り付いた時間は案外早くに解けた。着古した革のジャケットを羽織った男の方が、顔を歪めて膝をついたからだ。

 

「だ、大丈夫ですか……!?」

 

 苦悶の表情で倒れこんだ男を、コモンは慌てて駆け寄ってささえた。

 

「っこれ、すごい熱だ……」

 

 倒れこんだ男の身体は、想像以上に熱かった。おおよそ真面な状態ではない。全身にかいているこの汗も、いわゆる脂汗という奴だろう。とても健常な状態には思えなかった。

 

 男はコモンを遠ざけようとしたそぶりを見せたが、膝を折ってから一気に身体の疲労を自覚したのだろう。それ以上抵抗するようなことはなかった。

 

 コモンはそのまま男を引きずるようにして、奥に進んだ。進んだ先は行き止まりで、周囲を見れば、食べかけの缶詰や飲み物、バックパックなどが無造作に置かれていた。ここで暫くの間、男は身を潜めていたらしい。

 

「もう、いい。俺にかまうな……」

 

 背中で男がそう言ったが、擦れた声には力がない。

 

「いいわけないじゃないですか」

 

 そう言って、コモンは携帯していた医療パックを広げながら、男を寝かしつけた。

 

 

 男は、そのあとすぐに眠りついた。寝ている間寝息は浅く、時折顔を顰めてうなされていたから、十分な休息になっているかは微妙なところだが。

 

「……お、れは」

 

 その男が、ようやく目を覚ました。

 

「おはようございます、ヒメヤさん」

 

 すぐ近くにいた、コモンを見て、ヒメヤはばっと身を起こしたが、その後すぐに意識を失う前のことを思い出したようだ。

 

「すいません。盗み見るつもりはなかったんですけど、見えてしまって」

 

 コモンの指がさすそこには、ジャーナリスト時代に使っていた顔写真付きのパスポートがあった。どうやらバッグの中から出てきてしまっていたようだ。

 

「いや、それはいい。……それよりも、この手当は、お前が……?」

 

 ヒメヤの肩は真新しい包帯で固定されていた。

 

「ええ。一応、救急手当の講習はそれなりに受けているので、大丈夫だと思うんですが」

 

「……ああ、別にきつくもないし、むしろ動かしやすいくらいだ」

 

「それは良かった」

 

 コモンがほっと息をなでおろす。ヒメヤはその姿を見ながら口を開いた。

 

「コモン・カズキ、だな」

 

「……どうして僕の名前を。まだ、自己紹介をしていませんよね」

 

「お前たち——ナイトレイダーのことは、調べたからな」

 

「いや、調べたからって分かるものでもないんですけど……」

 

 当然ながらナイトレイダーのメンバーリストなどは、GUTSと異なり原則非公開となっている。コモンもサイジョウも、ワクラを含めたその他の隊員たちもTPC局員であることまでは公開されているが、どのような部署に配属されているかは明かされていないはずだ。

 

「どうして、僕たちを調べていたんですか……?」

 

 コモンの問いは、しかし別の問いで返された。

 

「コモン・カズキ、お前はどちらだ」

 

「ど、どちら……?」

 

 何を言われているか理解できないと困惑気味に首をかしげるコモンを見て、ヒメヤはやや毒気を抜かれたようにして続けた。

 

「……マツナガが自ら抜擢したというから、疑っていたが。どうやらその様子だと何も知らないらしい」

 

「何も、知らない……?」

 

 僅かな休息だったが、それでも幾分か体力が回復したのだろう。ヒメヤは上体を起こした。

 

「なるほどな。本当に、ただの新人だったわけか。これは俺の独り相撲だったな」

 

「わ、分かるように言ってくださいよ」

 

 コモンの言葉に、ヒメヤは頷いて続けた。

 

「アメリカ政府、TPCアメリカ、そしてTLT。この三つの組織が共同で一つの大規模プロジェクトを動かしている。非合法で、非倫理的なプロジェクトを」

 

 

 プロメテウス・プロジェクト。

 

 人類に叡智という名の火を与えたもうたギリシャ神……プロメテウスにあやかって名づけられたそれは、複数の研究を並列させて運営するという大規模な総合科学プロジェクトだ。

 

 人に次の『火』を。人類を新たな段階に押し上げる。それを目標に、多くの研究が独立したラインで動かされている。

 

「お前たちナイトレイダーが使用している兵器も、その計画の産物だ」

 

「僕らの武器が……!?」

 

 コモンはホルスターに仕舞われている小型の銃に視線をやった。これもその計画によって生み出されたものだというのか。

 

「まあ、それは可愛い方だが」

 

 ヒメヤが言うには、プロメテウス・プロジェクトは複数の研究が並列して行われているという。

 

 その全容を把握することはできていないというが、そのうちのいくつかは調べがついているらしい。

 

 一つは、ナイトレイダーが運用する新型火力兵器の開発。

 

 一つは、無人運用を前提にした、超大型航空戦艦の開発。

 

 一つは、人類に散発的に生まれる天才の遺伝子の研究。

 

 化学、物理、生物といった分野の垣根を超えたこれらの研究は、時に非合法あるいは非倫理的な実験を繰り返しながら、今日まで続いている。

 

「だが、ここ最近になって、プロジェクトの中のある一つの研究に急に多くの予算が計上されるようになった」

 

 複数の研究グループを資金獲得のために競争させる名目もあるというこのプロジェクトにおいて、急に耳目と金を集めるようになったという研究があった。

 

 その研究テーマは、

 

「死の、克服……」

 

 ごくり、と知らず知らずのうちに生唾を飲み込んでしまったことをコモンは今更に自覚した。荒唐無稽にも思えるその話に、しかしどこかリアリティを感じている。

 

「始まりは、日本での一件だ」

 

 一人の研究者が造り出した人造細胞……Eビースト細胞。その実験中に観測された事象に焦点があてられたのだ。

 

「Eビーストの生みの親であるサナダ・リョウスケは、実証実験の際に、人間の死体にその細胞を埋め込んだんだ」

 

 サナダからすれば、単に手ごろな大きさの哺乳類を確保したかっただけだったようだが、これが思わぬ副産物となった。

 

 死んだはずの人間が動く。しかも、僅かとは言え、生前の知性を感じさせるそぶりを見せた。その知性こそ、当初は小型哺乳類程度のものしか確認されていないが、それでもその事実が多くの人間に「夢」を見せたのは間違いなかった。

 

「死者蘇生は、人の判断を誤らせるのには十分すぎる果実だ。アメリカが危険を承知で裏から手を伸ばして、廃棄されるはずだった被験者を確保して実験を強引に始めてしまった。それが、ここ最近アメリカで頻発している怪獣災害の原因にもなっている」

 

「そ、そんな!!」

 

 ヒメヤによれば、ここ最近出現する怪獣たちは、みな、その研究のせいで出現したのだと言う。

 

「細胞が外部へ流出したんだろうな」

 

「そ、それじゃあ、これまでの被害は全部、元をたどればTLTのせいだったっていうのか……」

 

 愕然とした表情で膝を屈するコモンは、悔やむように嘆いた。

 

「言いづらいが、この一連の事件は全てTLTのマッチポンプだ。……だから、俺はお前たちナイトレイダーから距離を取らざるをえなかった。お前たちが、TLTに与していた場合、どこかで対立する可能性があったからな」

 

 ヒメヤからすれば、ナイトレイダーの立ち位置が判別できなかった。だから、コモンたちから一定の距離を置いていたのだという。

 

「いえ、それについては……。僕らも、今日、ウルトラマンを撃った。結果的にアナタの考えは間違いじゃなかった」

 

「何故、ナイトレイダーがウルトラマンを撃ったのか、理由を聞いていいか。ここまで話を聞くところから判断するに、お前たちナイトレイダーはTLTの裏事情を知らされていなかったのだろう? 少なくともこれまでは人類のために怪獣と戦っていた。暗黙の了解とは言え、俺とも協力する姿勢があった。……だというのに、何故」

 

 問われ、コモンはゆるゆると首を横に振った。

 

「詳しいことは何も。ただ、直前に隊長に上層部から何かしらの通信があったということだけで」

 

 その答えを聞いて、ヒメヤは考え込むように顎に手を当てた。

 

「ということは、原因は上層部……それがTLTの人間なのか、アメリカ政府やTPCアメリカの人間なのかは分からないが」

 

「でも、理由がわかりません。……どうして上の人たちはウルトラマンを撃て、なんて命令したんだろう。だって、外に漏れた怪獣を倒さなきゃいけないのは変わりないはずなのに」

 

 ヒメヤは「恐らくだが」と枕詞をつけて推測を語った。

 

「あの怪獣をまだ倒されたくなかった、ということかもしれない」

 

「そ、そんな!! あの怪獣にどれだけの人が犠牲になったか分からないのに!!」

 

 コモンが憤りを隠せないと怒りをあらわにした。

 

 TLTがどのような研究をしているにせよ、人類の敵となり得る怪獣を打倒することを邪魔する理由はないはずだ。著しく人道に反しているとはいえ、彼らは人類のためという名目で研究を行っているはずだ。だというのに、今回の命令は怪獣に利するばかりに見えた。

 

「TLTがどんな研究をしているかなんて関係ない!! あの怪獣は、できるだけ早く倒さないといけなのに!!」

 

 人を嘲笑うかのような悪い意味での知性を見せたあの怪獣を放置する理由などないはずだ。少なくとも、コモンには思いつかない。

 

「……確かに、その通りなんだ。俺もそこが釈然としない」

 

 TLTが裏で行っているEビースト細胞の研究と、今回の対ウルトラマン攻撃命令が繋がらない。何かしら別の理由があるのだろうか。

 

「それについては、俺が教えてやれるぜ」

 

 すると、洞窟の入口から、二人のものではない、違う男の声がした。

 

「誰だ!!」

 

 コモンが警戒態勢に入るが、それをヒメヤが手で押さえた。

 

「身構える必要はない。この人は、多分俺の知っている人だ」

 

 入ってきたのは、若干薄汚い恰好の、中年の男だった。人種はアジア系——日本語がネイティブであるから普通に日本人だろう。

 

 いつ洗濯したのか分からないような白いタンクトップで、かけた眼鏡にも罅が入っている。見た目はそのまま浮浪者として通用するレベルだが、その手にしっかりと抱え込まれた大きなカメラとぎらついた眼が、その予想を否定している。

 

「まさか、こんなところで会うとは思いませんでした。ネゴロさん」

 

 ネゴロ、と呼ばれた男は、ヒメヤに向かって歯を見せた。

 

「こっちこそ驚いたぜ。オノダんところを飛び出したとは聞いていたが、まさかこんな場所にいるとはなぁ」

 

 そう言って、ネゴロ・ジンゾウは特有の人を食ったような笑いを浮かべた。

 

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