ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
怪獣の兵器化。プロメテウス・プロジェクトに取り上げられるより前から、その動きは各国であったという。だが、様々な技術的な障害を前に、絵に描いた餅以上にはならないと言う結論に至ったはずだ。
「特に怪獣災害の多発地域である日本では、クローン怪獣の計画もあったらしいが、まあサナダ・リョウスケの一件があって、日本国内のどこも今は様子見の状態だった。……そのクローン研究も軌道にのって成果が出るには数年かかるって触れ込みだった」
だが、怪獣を兵器とするというエッセンスは、別の方法を以て実現することになる。
「一からクローンを作るのではなく、元々ある死体を活かす。そういうことか」
ヒメヤの呟きに、ネゴロは首肯した。
「Eビースト細胞を用いた、死の克服という研究は、詳細は分からんが一定の成果をだしたらしい。だが、実際にヒトに試すにはまだ早いってんで、連中は都合の良い被検体を探していた」
そこで停滞していた別ラインの研究を抱き込んで、Eビースト細胞研究は臨床研究の段階に至ったというわけだ。
「死んだ怪獣にEビースト細胞を埋め込んで蘇生させて兵器として運用する。成功すりゃあ、それこそノーベル賞ものだ」
「成功すれば、な」
深刻そうなヒメヤの表情は、それが成功する目は薄いと考えていることが見て取れた。
コモンも、聞いたことを咀嚼しながら、やはり首を振った。
「そのEビースト細胞を使った蘇生はただでさえ知性が低下するって話でしたよね? その状態で怪獣をコントロールできるんですか?」
「別にサーカスのライオンよろしく調教しようってわけじゃないらしい。ここら辺は俺もまだ調査しきれてねぇんだが、そこらへんをクリアできる目途はたっているらしい」
ネゴロは見つからないようにと物陰に無理やり、中年太りしたお腹を押し込みながら続けた。
「日本で最近、飛び級で大学に入学したっていう奴が発表した基礎論文を応用すればっていう話だったが」
「すごい人もいるんですね……」
「アルケミースターズって知らねぇか? 十代前半から急に頭角を現し始めだす人間が同世代に、しかも世界中で見られたっていうんで、その世代の天才たちをそう呼んでいるんだが」
「アルケミー、スターズ……」
「確か、論文発表者はフジミヤって名前だったかな。……話がそれたな。今はその天才どもの話をしてる場合じゃねぇ」
ネゴロはそう言って、話を戻した。
「怪獣の蘇生。そのためには出来るだけ綺麗な、欠損の少ない怪獣の死体が必要だが、それを保管するにはそれなりの広さの敷地が欲しい。それで人目を避けられる場所が必要になった」
ヒメヤは、納得したように頷いた。
「だからこんな場所が『急遽』欲しくなったわけか」
身長が50メートルはくだらない怪獣の死体を、そのままで保管するとなると、それだけで場所を取る。だからこんな場所で、研究が行われているわけだ。
「そうだ。連中も、結構場当たり的というか。現場監督している奴が無能なんだろうな。だから、研究過程でEビースト細胞が外部に漏れた」
ここで、話は今日現れたあの怪獣……バグバズンに繋がった。
「これは推測だが、昼間に外で大暴れしたあの蟲みたいな怪獣は、元はこの研究所にあったEビースト細胞が大元だろう。そして奴はウルトラマンに負けて、地下に潜った。恐らくは」
「次は勝てるよう、ここにある怪獣の死体を取り込むつもりか……!!」
ネゴロはニヤリといやらしく笑って見せた。
「そういうことだ」
「そ、そんな!? それじゃ、今すぐここにいる人たちを逃がさなきゃ」
慌てて走り出そうというコモンの手をネゴロは掴んだ。
「馬鹿野郎。そんなことしたら見つかっちまうだろうが」
「いや、でも」
「ここは直に戦場になる。その混乱に乗じようというわけですか」
ヒメヤの言葉に、ネゴロは若干気まずそうにしながらも、強く頷いた。
「そうだ。今が、決定的な証拠をつかむチャンスなんだ」
「でも、それじゃあ、ここにいる人たちを見殺すっていうんですか!?」
「ここにいる連中は、どいつもこいつも、ここでやっている研究が法に反していることを分かっててやっている。その危険性もな。自業自得だろ」
「そ、そんな……。善人じゃないからって……。悪人とは言い難い彼らを、見殺しにしていい理由なんてない。そもそも悪人だからって、見殺しにしてもいいはずがない。そうでしょ!?」
コモンに肩を掴まれたネゴロは五月蠅そうにしてそれを振り払った。
「こっちだって命張ってんだ!! 全部思い通りになんて行くか!!」
そしてネゴロはそのまま続けた。
「それに、あの怪獣がここを襲う可能性だってわかっているはずだ。……見てみろ」
白衣を着た研究員たちが、何かに追われるように忙しなく動き回る傍らで、黒を基調とした戦闘服を身に纏った強面の男たちが銃器を手に徘徊している。
「TLTお抱えの警備員だな。あの蟲野郎対策のために警備を増やしやがったんだ」
警備員たちは、怪獣の死体を中心に円を描くように警戒態勢を敷いている。おかげで、コモンたちが気づかれる心配はなさそうだが、代わりにこのままでは近寄ることも難しい。
「……だとしても、僕は」
思い悩むコモンの肩にヒメヤがポンと手を置いた。そして、ネゴロに向けて謝罪の言葉を口にした。
「ネゴロさん、すいません。俺もこのまま待つっていうのは反対です。……あの警備員たちの装備程度では、バグバズンは止められない」
「はあ!? ヒメヤ、お前もかよ!? ジャーナリストっていうのがどういう仕事かなんて、お前が一番判っているはずだ!!」
ネゴロは感情を昂らせたまま、ヒメヤの胸倉をつかんだ。
「死ぬ間際のガキの写真で賞を獲ったテメェが何をほざきやがる。『あの写真』を撮っておいて、今更お高く留まってんじゃねぇよ」
ネゴロの胸倉をつかみ返し、ヒメヤは目を光らせて言い返した。
「『彼女の写真』を撮ってしまったからこそ、俺は同じ過ちを繰り返すわけには行かないんだ」
そのままネゴロを突き放し、ヒメヤは居住まいを糺した。
「何より、俺はもうジャーナリストを辞めてますから。今更ジャーナリストの何たるかを説かれても、聞くつもりはありません」
ヒメヤの言葉に、ネゴロはガシガシと頭を掻きむしって、最後にはそっぽを向いた。
「……やるなら勝手にやれ。テメェらが研究員どもを避難させている間に、どうにかここのサーバーにアクセスして証拠をつかむ」
「いや、怪獣がこれからくるかもしれないんですから、ネゴロさんも安全なところに」
コモンがそう説得しようとするが、ネゴロは聞く耳を持たなかった。
「馬鹿言え。自分の命可愛さにジャーナリストなんてやってられねぇんだ」
「コモン、この人は一度こう言いだしたら梃子でも動かないんだ。諦めろ」
ヒメヤにそう言われ、コモンは引き下がるほかなかった。
そのコモンの耳元にヒメヤは口元を寄せた。
「それに、ネゴロさん一人くらいなら、俺が戦っている間にお前なら助け出せるだろう?」
「それは、」
「頼む、コモン」
そう言われたら、請け負うしかなかった。コモンは頷き返した。
「それで、どうやってあの研究員の人たちをここから逃がしますか? 流石に、馬鹿正直に言っても拘束されて終わりですよ」
そう言われ、ヒメヤはバックパックの中を開いた。
「この爆弾を使う。小さいものだが、この非常時に小規模でも火災が起きればすぐにここにいる連中は避難を始めるはず、」
ヒメヤがそう言いながら、バックに手を入れたところで、何か生物めいた息づかいが大きく響いた。
「使う必要はなくなったな」
ヒメヤの言葉に頷いて、コモンは物陰から飛び出した。
「皆さん、急いで避難してください!! 怪獣がここに近づいてきています!!」
いきなり姿を現したコモンを見て、警備員も研究員たちも一瞬硬直した。
「僕はナイトレイダーです!! ここまで怪獣を追いかけてきたんです!! ほら、急いで避難を!!」
コモンが実際にナイトレイダーの隊員服を着ていたことが、コモンの言葉に真実味を持たせた。そしてコモンの勢いに流されるまま、研究員たちはいっせいに荷物を抱えだした。
コモンは勢いのまま今度は警備員の一人を捕まえて言った。
「研究員たちは、半分パニックになっているから、警備隊の君たちが誘導するんだ!!」
「で、ですが我々はここを死守せよと」
警備隊の一人が言い終わる前に、岩盤が崩れた。
ひび割れた岩盤の隙間から、バグバズンの複眼を覗いている。
「あれを見て、君たちの装備で勝てると思うのか!?」
「そ、それは……」
「怪獣退治は僕たちナイトレイダーが請け負う。君たちは、人命救助に専念するんだ!!」
コモンの勢いに押されたのか。あるいは初めて間近に迫った怪獣という脅威を前にして、恐怖心に屈したのか。コモンに詰め寄られた警備兵は、引き攣った顔でがくがくと頷いた。そして、周囲の警備兵たちに合図を送りながら、研究員たちと共に撤退を開始した。
「アドリブにしては良い出来だぜ」
「あ、ちょ、ネゴロさん……!?」
はったりで彼らを避難させたコモンのすぐ隣をネゴロが走り去っていった。恐らくサーバー室に向かったのだ。
「ああもう!!」
走るネゴロを追うコモンの後ろで、一際大きな破砕音が鼓膜を貫いた。
「這い出てきたのか!!」
厚い岩の壁に穴を開けて、甲虫を模したビーストが侵入してきた。
「キシャアアアアア!!」
甲高い鳴き声が狭い空間に反響する。もはや一種の音響兵器だ。
激しく鼓膜を揺らされて、足もとをふらつかせながらもコモンはホルスターに手を伸ばした。
だが、コモンが銃の引き金を引くよりも前に、銀色の光が怪獣の背後より立ち現れた。
「デュアッ!!」
ウルトラマンネクサス。ヒメヤが変じた、絆を力に戦う光の巨人。
ネクサスはバグバズンの尾を脇に挟んでその歩みを強引に止めた。そしてそのまま綱引きの要領で引き込んだ。
「グギュアアア!?」
何が起きたのか、まだ理解していないバグバズンは背中から落ちるようにして引きずられた。仰向けに倒れこんだところをネクサスが馬乗りになって、自由を奪った。
「急いでください、ネゴロさん!!」
「そんなこと言ったってなぁ!!」
パソコンをいじるネゴロの手は、なんだか覚束ない。恐々とした様子でコモンはネゴロに訊いた。
「もしかして、パソコンをあまり触ったことないんですか……?」
「…………」
「……え? ホントに?」
「………………」
「ちょ、あんだけ大口叩いておいて? この土壇場で!?」
「AV〇VAには通ったもん!!」
「AVI〇Aじゃハッキングなんて教えてくれるわけないでしょ!! ていうか『もん』じゃないですよ!!」
「あ、慌てるな。このUSBを挿すだけでいいんだ。この中には情報抜き取り用のソフトが入ってる!!」
「じゃあ早く挿してください!!」
「それが挿さんないから困ってるんだ!!」
「端子は!? Aですか、それともBですか!?」
「???」
「ああもうだめだこりゃ!!」
頭を抱えたコモンは、一瞬息を吸い込んで冷静になった。そしておもむろにパソコンを引っこ抜いた。
「お、おい。その箱を持ってどうするんだ?」
「こっちがパソコンの本体です!! 情報が抜き取れない以上、この本体ごと持っていくしかない!!」
とはいえ、この末端のパソコンに置かれているデータがどれほどのものなのかは不明だ。大元のデータは別に管理されているであろうが、それを言い出したらネゴロが駄々をこねるのは明白なので、コモンは黙っておくことにした。
「ホラ、持ってください!!」
「うおっ」
持ち上げたパソコンをネゴロに押し付けて、コモンは銃を再び手に取った。そして、部屋の外に出た。
「ウルトラマン!!」
狭い空間の中での戦闘は、バグバズンに優位に働いていた。動きを制限されたネクサスは思うように戦えず、苦戦しているようだ。
背後を取られたウルトラマンを助けるように、コモンが引き金を引いた。そして叫んだ。
「僕たちは大丈夫だ!!」
その言葉に、ネクサスは頷いて見せた。
そして、ネクサスは岩盤が崩れる勢いで走り出した。これまでコモンたちを気にして自らの動きに制限をかけていたのだ。
連続して指先から光の矢を放つ。瞬きの間に放たれたそれに、バグバズンは避ける術もない。
「ギシャアアッ!?」
汚い悲鳴を上げて、怪獣が仰け反る。バグバズンは形勢不利と判断し、上に向かって口から光線を吐いた。
天井が崩壊し、月の光が地下に降り注ぐ。その月光に向かってバグバズンは跳躍した。
「デュアッ!!」
それを追って、ネクサスも地上に向かって飛翔する。
舞台は地下から地上へ。月の光が照らす中で、ネクサスとバグバズンのセカンドマッチが始まった。