ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
現在はiPadでぽちぽち打ち込んでるんですが使いこなしきれてないのでいろいろ誤字ってると思います。キーボードパッド買うのを検討中です。許して許して。
これからは多分こんなに間が空くことはないと思います。頑張ります。プロットなんて最初からあってないようなもの!!
そんなわけでこれからもよろしくお願いします。
「ラフレイア沈黙!! ミッションコンプリート」
植物型のEビーストの身体は、ネクサスの放った光条に貫かれ沈黙した。厄介な特徴である、誘爆する花粉もネクサスのメタフィールドによって完封。被害は最小限で済んだ。
「よくやった、コモン」
戦闘を終えて、チェスターから降りたワクラ隊長がコモンの肩を叩いて労う。だがコモンの表情は固いままだ。
「ありがとう、ございます」
視線も合わせず、そう返答してコモンは一人格納庫を去った。
「まーだ凹んでんのねぇ」
「……先のバグバズン戦で救助対象である一般人をロストした挙句、一人で伸びてたんだから肩も下がるってもんだよ」
ヒラキとイシボリがそう言って肩をすくめ合う。言葉にすれば確かに重大な過失だ。本来であれば懲戒処分ものである。だが現にコモンは大した処分もなく現場に復帰していた。
それにはいくつか理由があるが最も大きかったのは、予想以上に集まった上層部からの同情票だった。
一般人ジャーナリストの救助中に突如としてコモンを襲った男の名前は、ミゾロギ・シンヤ。かつてナイトレイダー副隊長であった男。そしてサイジョウの師でもあった。
人型の怪獣の群れを前にしている最中に、ましてほぼ一人で要救助者を庇いながらの状況で、元軍人による背後からの不意打ちにまで対処せよというのは流石に酷だと思われた。それゆえに、表向きコモンの失態は大きく取り沙汰されることはなかった。
(まあ、きっとそれだけじゃないんだろうが)
言葉には出さなかったが、ワクラにはもう一つコモンが処分されなかった理由に思い当たるところがあった。
バグバズンが出現した地下にあった急造の地下施設。コモンがいたというそこは、現在立ち入りが禁止されている。もう殆どの設備は引き払われ、どんな研究がなされていたかもわからなくなっているだろう現在でもナイトレイダーに立ち入りの許可は降りていない。
部下の失態は見逃す。代わりに『コレ』には手を出すな。そういう、わかりやすい口封じだ。
それでも納得できずに上官に詰め寄ったワクラだったが、皮肉げな笑みとともに返されたのはたったの一言だけ。
『ニード・ノット・トゥ・ノウですよ、ワクラ隊長』
最近になって急に現場に口を挟むようになり始めた、あのいけすかない若社長にそう言われ、それ以上踏み込むことは許されなかった。
これ以上嗅ぎ回ってもメリットはないだろうという判断で、ワクラは泣く泣く追及の手を緩めざるを得なかった。あるいはコモンの進退を犠牲にすれば、何かしら得ることがあったかもしれない。だが既にコモンはパイロットとして得難い実力者になりつつある。サイジョウが調子を崩している今、コモンを失うのはあまりに痛い。
すべてがなあなあとなって、ナイトレイダー隊は普段の任務に戻っていった。真面目なコモンにとっては、自分が糾弾されないことも、それが政治的な取引によるものであることも心にしこりを残していた。
TLTがひた隠す裏側に気づいてもあと一歩真相に迫れないまま。ネクサスと共にラフレイアを打破しても尚、コモンの表情は晴れなかった。
「隊長、私も失礼します」
「あ、ああ。だがサイジョウ副隊長、そちらはトレーニングルームだぞ」
「ええ。今日は不甲斐ないところをお見せしてしまいましたから、これからシミュレーターを動かします」
「いや、今日はもう身体を休めた方が……」
「私は大丈夫です。それでは失礼します」
そしてサイジョウも、明らかに調子を落としている。それが、かつての上官が理由であることは火を見るよりも明らかなのだが、強情な彼女はそれ認めようとしない。表面上は飄々としているが、TLTの裏にあと一歩迫れなかったことも手伝って、その内側は噴火寸前の溶岩のように煮えたぎっている。
そして今日のミス。ここぞという場面での『外し』は彼女からさらに余裕を奪っていった。いつもなら、浮かない顔をしたコモンに(彼女なりに)発破をかけにいくのだが、今は自分のことで精一杯であるらしい。
「困ったなぁ」
「ですねぇ」
ワクラはヒラキと顔を見合わせて溜息をついた。ホープとエースが両方とも調子を落としている今、TLTの真意を探る余裕は彼らにはなかった。
※
PCのモニターだけが薄暗い部屋を照らしている。その画面の中をクラゲが泳いでいた。電子の海に揺蕩うそれらを視界に収めながら、マサキ・ケイゴは背もたれに身体を預けた。
「全く、タンゴ博士にも困ったものだ」
マサキがスカウトした元GUTSの科学者であるタンゴには一研究セクションを任せていたのだが、彼は独断で地下施設に怪獣の死体とEビースト細胞を持ち込んでいた。功を焦っての行動だったが、セキュリティ管理が甘く、実験の過程で細胞を流出。結果、バグバズンが産まれる原因となった。
「科学者としては優秀なんだ。アレでもね。ただ、上昇志向を拗らせて『政治』をしだす悪癖があるのが玉に瑕だな」
セクション同士を競わせることでより良い成果をだそうというプロメテウス・プロジェクトの悪いところが出た。特に、タンゴ博士のような野心家にとっては、この仕組みはデメリットの方が大きいようだ。
「彼には僕のすぐ下に就いてもらおうか。立場を安定させてあげれば変に欲を出すこともあるまい。しばらくは頭を冷やしてもらおうか」
人事にメールを出してウィンドウを一つ閉じた。
「ナイトレイダーに要らぬ情報を与えてしまったことは問題だが、それも『コモン・カズキの失態の免除』で抑えられた。上々とは言えないが、及第点というところか」
ナイトレイダーがTLTに探りを入れていることをすでにマサキは察していた。そしてそれを命じているのがTPC極東であることも。
「遊撃ユニットとしては優秀だから手放せないんだ。TPCアメリカの部隊編成も難航しているようだし、今しばらくは使わざるを得ない。本音を言えばさっさと日本に突き返したいのだがね」
そうぼやきつつ、マサキはナイトレイダーの名簿に目を通していく。そして一人の隊員の名前で視線を止めた。
「コモン・カズキ。全く、君は特に私を困らせてくれる」
当初はただの一隊員に過ぎなかった。だが、今回の一件で件の研究施設を見つけてしまった。恐らくはそこでどのような研究が行われていたのかも察しているだろう。
そして同行していたというジャーナリストも、その情報を掴んだだろう。そちらはメモリーポリスが前々から目をつけていた厄介な男だ。その人物に情報を握られた可能性がある。おまけに今では所在が掴めていないときた。
「ミゾロギは何を考えているのだか」
ミゾロギ・シンヤという男も要注意だ。
「要注意というか、行動が読めない。TLTの裏を探る目的だけなら、ナイトレイダー隊を飛び出す理由にはならないだろう。ワクラ隊長やヨシオカ長官、可愛がっていた部下のサイジョウ隊員の信頼を裏切ってまで独断専行するような人物評でもない。私の把握していない何かがあるのか・・・・・・?」
ナイトレイダーはその目的に察しがついている分御し易い。だが彼の動向は不可解な点が多く、マサキの想定を外した行動を取っている。それがどうにも気持ち悪い。
とは言え、現状取れる手も多くない。ジャーナリストを連れ去ったというミゾロギの捜索をメモリーポリスたちには命じつつ、マサキは考え込むように腕を組み直した。
「最悪、情報統制は『レーテ』を使えばいい。問題はこちらの方だな」
非表示状態になっていたウィンドウを開く。そこには一人の女性のプロフィールが映し出されている。
「やはり安定しないか……」
Eビースト細胞埋め込まれた死体の中で、唯一自意識を取り戻した個体。
サイダ・リコ。あるいはコードネーム・マリア。その個体のパーソナルデータとこれまでの観測数値が纏められたものを次々に展開させながら、マサキは思考を深めていく。
「Eビースト細胞由来の『飢餓感』。これがピークに達すると思考と記憶が曖昧になり、自我が崩れる。食欲が満たされることで飢餓感は沈静化し、精神も回復するが、暴走している間の記憶は曖昧となる。・・・・・・飢餓感は、個体の感情および精神の状態が大きく関係している・・・・・・」
心が乱れれば容易く飢餓に人格が塗り潰されてしまう。だが逆に言えば、精神状態が安定していれば、それだけ『発作』は抑えられる。そう研究チームは早期に結論を出していた。
「生前のサイダ・リコのパーソナルデータを参考に環境を調整し、絵を描くという精神的行為によって『ガス抜き』もさせていた。・・・・・・だが」
あの男と出会って全てが狂い出した。
「そうさ。コモン・カズキとの接触。精神的な繋がり。・・・・・・恋愛感情という御し難いストレス要因の発生により『発作』の頻度は急上昇しだした・・・・・・」
唯一の成功例。その観察日記とも呼べる調査報告書に目を通し、マサキは誰かと会話する様に独り言を繰り出し続ける。
「確かに、問題点が早期に発見できたというのは良い。災い転じて、じゃないが、高頻度の発作から彼女と外部の他の細胞が共鳴反応を示していることを見つけられたというのも、一つの成果さ。そこからEビースト細胞の効率的増殖方法も確立されたし、マリア個体がEビーストの制御端末足り得る可能性も見えてきた。これで『パーセル』が完成すれば、怪獣の兵器化もいよいよ見えて来る」
だが、とマサキは画面の前で顔を顰めた。
「それは全て二次的なもの、副産物にすぎない。当初の目的である死の克服は依然道半ばさ」
マサキの当初の目的。現生人類から死という枷を取り除くという目標は果たされていない。
「彼と出会うまでは、彼女の精神はとても穏やかだったんだ」
画面の中に揺蕩うクラゲのような何かに語りかけるようにマサキは独白を続ける。
「学友と衝突して悲しむこともあった。教師に理不尽に叱責され怒りを覚えることもあった。一人異国の地にいることで郷愁に駆られることもあった。時には自分の『今』の状況を訝しむ時さえあった。それでも発作を起こすほどの精神の波風が立つことはほとんど無かった」
実験は順調だった。異形を身に埋め込まれた『人でなし』は日常を正しく送れていた。
「『恋』が彼女を狂わせた。ヒトに戻りつつあった彼女を化け物に引き戻してしまった」
コモン・カズキとの関係性が、彼女のヒトとしての仮面を剥がしていった。ケダモノの心を暴いてしまった。
「『愛』ならば良かった。親愛にせよ、友愛にせよ、愛するという感情は、心の内から生み出され、満たし満たされるもの。だが『恋』は駄目だった。恋するという感情は、貰い受け時に奪うもの、欲しがるもの。だから心を千々に乱すのだ」
恋。恋とはなんだ。何のためにある。
「だから私は考えたのだよ。そもそも恋という感情は、極論、雌雄がつがいをなすためのプロセスが前頭葉で誤作動を起こしたものに過ぎない。であるならば」
画面の中のクラゲはその続き促すように、その触手を揺蕩わせた。それを見て、マサキはわずかに口の端を緩めた。
「死を克服した新人類に、生殖は不要だろう。であるならば恋もまた、不要なものに他ならない」
デスクに置かれていた、冷めたティーカップを傾けて舌を少しだけ濡らす。
「これまでは極力介入は避けてきた。だが今回からは手を入れていこう。要らぬ枝葉は切り落とし、必要な枝と幹に充分栄養が行き渡るように」
そして、マサキは穏やかに微笑んだ。
「新人類のアーキタイプ。僕と『キミたち』で育てていこう。ヒトが遠いソラの彼方まで羽ばたけるように」
お花は大胆にカットしました。ごめんねラフレイアくん