ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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大変お待たせしました。諸事情で今年度末まで余裕がない状況ですが、それでもぼちぼち更新していく予定です。宜しくお願いします。なお来年度が余裕あるとは(


#88

 大光量が視界いっぱいに広がり、全てを白く塗りつぶした。

 

――さて、現代での復帰戦だ。気張って行きますか。

 

 全身に満ちる力に瑕疵はなく、不調らしい不調もない。巨人への変身はつつがなく済んだようだ。俺はゆっくりと指先にまで力を行き渡らせるように拳を握り込んだ。

 

「デュアッ!!」

 

 敵はクトゥーラ。原作ウルトラマンネクサスにおいては、中盤の大ボスに位置した強敵だ。クラゲやウミウシ、イソギンチャクといった海棲の不定型生物をモデルにしたこの異生獣は、そのあまりにも正気度を削ってくる外見で、全国の子供たちにトラウマを植え付けたと言われている。というか大人でさえ無理な人は無理、な見た目をしている。

 

 それが目の前で、生きた本物として目の前にいる。その衝撃たるや。

 

――ウネウネネトネトしやがって。これでもくらえ!!

 

 ハンドスライサーの連続発射。これでチェスターδを狙っていた触手群を一度に焼き払う。

 

「ギシャアア!?」

 

 恐らくは悲鳴だろう。耳にやけに残る叫び声をあげて、クトゥーラは残りの触手を引っ込めた。そして、その本体が俺を初めて認識した。

 

 これで、奴のヘイトはこちらに向いた。チェスターδは俺の思惑を察してくれたようで、一気に急旋回して、磔にされたネクサスの元に飛んでいった。

 

 クトゥーラはネクサス救出に向かったチェスターδをわずかに気にしたそぶりを見せたが、目の前の俺を無視してまで止めようとは思わなかったようだ。あるいは、脅威と認識されているのか。

 

 それならそれで、こちらとしては好都合だ。

 

「デアッ!!」

 

 クトゥーラ本体に向けて、牽制の意味を込めてハンドスライサーを数度放つ。これは、全て触手群によって妨げられた。触手の一本一本に痛覚はあるようだが、一度に十数本焼き払ったところで本体に分かりやすい消耗はない。流石にこの触手群が無尽蔵ではないと信じたい。

 

 次の手は、と考えていたところで、首筋にチリリと火花が散るような感覚が走る。巨人の超感覚が、周囲の空間の異変を感じとった。

 

 膝下に時空の裂け目が開く。その穴から、一度に数本の触手がこちらを絡め取ろうとしてきた。

 

「デュアッ!!」

 

 一本目を右の手刀で斬り払う。二本目は左足で踏みつけ、三本目は上体を逸らして躱す。戻ってきたところを掴んで引きちぎる。気分はモグラ叩きだ。

 

 クトゥーラはさらに手数を増やしてきた。さらに後方の空間が突如ひび割れ、その間から触手が伸びてくる。回し蹴りで対応し、一度に二本をまとめて払う。次いで来た触手をハンドスライサーで撃退。だが、片手では足りない。両腕の指先から光刃を連射。その射程外から、なおこちらに伸びてくる触手をタイマー光線で焼き払う。だが、それでも対応しきれなかった一本に足首を絡め取られた。

 

「デュア!?」

 

 重心が一気に傾く。腰を落としてなんとか堪えるが、触手に対応する手は確実に澱んだ。

 

 好機とばかりに、周囲の空間がひび割れ、次々に触手が迫ってくる。手、足、首を一気に掴まれた。

 

――こいつは、厄介だな……!!

 

 無尽蔵とばかりに迫る触手の群れは、まさしく数の暴力の極致と言っていい。こちらの体力以上に気力を削いでくる。だが、この触手は全てクトゥーラの体の一部であるはずなのだ。無限に湧いてくるわけではない。まして、空間に穴をあけての奇襲は確実に奴も体力を使うはず。もしも制限がないのであれば、奴は初手で俺の視界いっぱいに『穴』をあけ、そこから触手を放出することだってできた。

 

 それをしないと言うことは、奴にも縛りがある。制限があり限界がある。であるならば、あとはどちらが先に音を上げるかだ。

 

――なら俺に負けはない!! 

 

 額のクリスタルが赤色に輝いた。瞬間、全身の血管に溶岩を流し込まれたかのような灼熱感。次いで、腹の奥底から湧いてくるような力の衝動。

 

「デエエエエアアアアッッッ!!」 

 

 トルネード。ダーラムから奪い取った闇の力を解放し、俺は己を縛っていた触手を一度に引きちぎる。

 

「デュア!!」

 

 両の掌を深く握り込んで、構える。仕切り直しでもう一度、俺と異形の化け物は正面から向かい合った。

 

 

 突如としてこの戦場に現れた、ネクサスではないもう一人の巨人。過去、日本近辺で出現が報告されていた四番目の巨人――オルタナティブ・ティガ。

 

「この半年、一切の目撃報告がなかったあの巨人が、なぜ今になって……」

 

 疑問が浮かぶ。理由が気になるところだが、それを気にしている時間はない。どうあれ、好機であることには違いがないのだ。

 

「飛ばすわよッ」

 

「りょ、了解!!」

 

 サイジョウは、一段階チェスターδのスピードを引き上げた。これまではいつどこからやってくることもしれないクトゥーラの触手を警戒して思うように速度を上げられなかったが、今はオルタナティヴ・ティガに怪獣の意識が集中している。この状況下であれば、最短最速でネクサスの元に辿り着ける。

 

「射程圏内到達!! これより発射シークエンスに入ります!!」

 

 後部座席のコモンが、仮設された専用のコンソールを引き出した。ネクサスに光エネルギーを与えるための砲塔。その制御は、コモンに託された。

 

「できるだけ機体のバランスを保つわ。だから、確実に狙いなさい」

 

「了解」

 

 目標は、胸のエナジーコア。過去、巨人がこの器官を中心にして外部からの光エネルギーを吸収したことが報告されている。そこに光線を当てれば、ネクサスは再び立ち上がれる――かもしれない。

 

(この作戦が不確実であることは間違いない……。今からでも作戦を変更してオルタナティブ・ティガに加勢した方が……)

 

 サイジョウは内心でそう思う。オルタナティブ・ティガが戦場に現れた以上、最低限の火力は保証されたとみていい。ならば、このチェスターδに積み込まれたエネルギーを合わせられればクトゥーラを葬れる可能性はある。

 

 だが、

 

「頼む。頼むから、起きてくれ……!!」

 

 コモンが縋るように、絞り出すように声を上げている。必死の形相で、揺れる光条をどうにかまとめ上げ、ネクサスの胸へと集中させている。

 

(願っている。コモン隊員が、みんなが。……誰よりも、私自身が)

 

 信用。そして信頼。

 

 これまで、ウルトラマンネクサスが築いてきたもの。誰よりも前で、彼は戦ってきた。言語によるコミュニケーションはなかった。だが、彼の行動が、その結果が、人々を信じさせるにたる希望だった。

 

(ウルトラマンネクサスを呼び起こす。その方が、きっと、分のいい賭け)

 

 これまで巨人を信用することができなかったサイジョウの心にさえ、そう思わせた。だから、

 

「起きなさい……!!」

 

「起きてくれ!!」

 

「「ウルトラマン!!」」

 

 チェスターδから巨人に届けられた光が、巨人の胸に解けるように溶けていく。δ機に備え付けられた観測器が、ネクサスの生体パルスの増加を告げている。確かに効いている。かの巨人に、光は届いた。

 

 でも、

 

「足りないんだ……まだ……!!」

 

 胸のコアが、両目が、淡く光り、点滅を繰り返す。だが、まだ巨人が立ち上がる様子はなかった。

 

 

 クトゥーラ出現より、丸一日が経過していた。

 

 ニューヨークの中心部は瓦礫とかし、住人の多くは避難所へと退避していた。

 

 そんな伽藍堂になった街に、それでも残っていた者たちがいた。

 

「協力、感謝するよ」

 

 銃口を背中に押しつけられてなお、マサキ・ケイゴは余裕ぶった笑みを浮かべて笑った。

 

「減らず口を叩くなッ」

 

 マサキに銃を突きつけていた、黒服の男――ミゾロギ・シンヤは声を荒げて差し込むように持っていた銃をマサキの背に押し付けた。肉を抉る勢いで押しつけられたマサキは、顔を顰めた。

 

「ま、まあ、ミゾロギも落ち着け、な?」

 

「そうよ。それに、マサキさんも、挑発するような発言はやめてください。今は、そんな状況じゃないってわかっているんでしょう?」

 

 今にも殺し合いを始めそうな二人を、同行しているネゴロとサクタが引き剥がして落ち着かせた。

 

 なんの偶然か。この状況下で四人は行動を共にしていた。

 

 怪獣出現時に取材を受けていたマサキは、真っ先にビルを飛び出し、それをミゾロギとネゴロが追いかけ、そこにサクタが合流した。どこかへと向かうマサキを追いかけているうちに、ミゾロギ、ネゴロ、サクタの三人はニューヨークの地下に流れる下水道に突入することになったのだ。

 

 追いついた三人は、マサキを捉えることができたものの、そのタイミングで、ネクサスの敗北を知ることになった。

 

 どうすべきか。というか、ここはどこなのか。どうやったら地上に戻れるのか。後先考えずにマサキを追ってきた三人には、帰り道がわからない。サクタの持ち込んだラジオからは、ネクサス敗北という絶望的なニュースが流れ込んできていた。

 

 そのタイミングで、マサキは三人にこう提案してきたのだ。

 

 この状況をひっくり返す方法がある、と。

 

「その方法とやらが、これか」

 

 地下水道の隠し部屋を用意し、マサキが地下に隠し持っていたのは、一見よくわからない機材の集合体だった。少なくともその手の最新テクノロジーには疎いサクタには、その使用方法は見当もつかない。

 

 ネゴロも同様のようで「戦車か何かの兵器だと思ったんだが」と眉間に皺を寄せている。

 

 だが、ミゾロギという男は、この機械の使い方に思い当たる節があるらしい。

 

 ミゾロギ・シンヤ。ネゴロを攫ったという、元ナイトレイダーの副隊長。サクタとヒメヤ、そしてコモンが追いかけていたこの男は、一体何を知っているのだろうか。これまでに行動を共にしていたネゴロならともかく、つい数時間前に顔を合わせただけの関係であるサクタには、それを推し量ることもできない。

 

「マキシマ・コンバーターだな?」

 

「おや、正解だ。随分と詳しいんだね」

 

 なんだか、二人の間だけで理解が共通しているようだ。待っていてもこの二人が解説してくれるわけがないので、ネゴロが割り込んで問うた。

 

「その、マキシマ・コンバーターってのはなんなんだ?」

 

「高濃度のエネルギーを光エネルギーへと変換させて放出させる物です。マキシマ・エンジンはご存じでしょう?」

 

 TPCが開発したという、光をエネルギーに変えるという新テクノロジーエンジン。それがマキシマ・エンジンだったはずだ。目の前のこの機械は、その新型エンジンを参考にして作られた物だという。

 

「こんなものをニューヨークの地下に隠し持ってて、一体何に使うつもりだったんだ?」

 

 ネゴロが問うが、マサキは肩をすくめた。

 

「何、ただの研究用に取り寄せただけですよ。想像以上に大きかったので、地下の施設を借りて保管していたに過ぎません。調べてもらっても構いませんが、入手経路から保管まで、全て合法です」

 

 マサキはそれより、と続けた。

 

「これで、これから何をするか。そちらの方が重要でしょう?」

 

「こいつで、磔にされて動かなくなったネクサスに、光を与える。そういうことだな?」

 

「理解が早くて助かります」

 

 ミゾロギの言葉に、マサキは頷いた。

 

「光を? それで、巨人が復活するの?」

 

「ええ。巨人は、光エネルギーを活動力にしている。ならばこのマキシマ・コンバーターであれば」

 

「だが、燃料は足りるのか? 見たところ貯蓄された燃料では、力尽きた巨人を甦らすには足りない」

 

 ミゾロギの問いに、マサキは首肯した。

 

「もちろん足りません。ですが、おそらく地上では今ごろ事態解決に向けて動いているはず。情報源がラジオなので、若干不安ではありますが、TPCアメリカ支部は瀕死。ナイトレイダーもすぐにチェスターの現行機は再出撃できないくらいに損耗している。他国からの援助は期待薄で、米国空軍は手をこまねいている。というならば、この状況下で、人類側がとれる手は非常に限られている」

 

 マサキはマキシマ・コンバーターを起動させながら、会話を続けた。

 

「大方、試作機のチェスターδを引っ張り出している頃合いでしょう。それでもたかが一機であの怪獣を打ち倒せるとは誰も考えない。倒れた巨人を復活させるために動くはずです。……チェスターδに搭載したエネルギーユニットは、もちろん強力ですが、やはり巨人を目覚めさせるには一歩足りない」

 

 地上で、ネクサス救出部隊が動くタイミングを見計らって、こちらからもエネルギーを照射する。マサキはそう計画を立てた。

 

「機材のセッティングには人手が必要です。あなたたちにも、手伝ってもらいたい」

 

 マサキはそう言い、そして予想外にも頭を下げた。

 

「わ、わかった。協力する」

 

「ええ。それしかないみたいですから」

 

 ネゴロに続いて、サクタも頷いた。彼女には、技術的なことはわからない。まして目の前のマサキという男が、信用ならざる男だということも理解していた。だが、こうして真摯に頭を下げてきたマサキの今の言葉に嘘はないと彼女とネゴロは信じた。

 

 ミゾロギは、頷くことはなかった。

 

「お前を見張る誰かが必要だろう。その役目は俺がやる」

 

「ああ、構わないさ」

 

 そう嘯くマサキにミゾロギは問うた。

 

「……お前の目的は、なんだ。なぜ、巨人を助ける? マサキ・ケイゴ、お前は一体何を考えている?」

 

「僕にとっても、今回の状況は不本意なんだ。だからまあ、自分の不始末は自分で片さなくちゃあね」

 

 その答えに、ミゾロギはさらに眉間に皺を寄せた。

 

「……お前は、人類の敵なのではないのか……?」

 

 その言葉に、マサキは面食らったような表情を浮かべた。ついで、一瞬だけ寂しいような表情を浮かべたように、サクタには見えた。だがそれは本当に一瞬で、瞬きの間にマサキはいつも通りの余裕げな表情に戻っていた。

 

「まさか。僕ほど人類を憂いている人間は、そうはいないよ」

 

 

 かくして、状況は成った。

 

 空から差し込む光が途絶える。巨人の胸の光は、未だ微かだ。

 

 そこに、地上からの光が差し込んだ。

 

 大光量の白線が、空を逆巻きに駆け上がる流星になって巨人の胸に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

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