ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

9 / 91
#9

「死んじゃったんですけど、俺」

 

 俺の初変身から、すでに2週間が経過していた。

 熊本の古代遺跡に運び込まれた俺は、そこで丸々2週間眠り続けた。そしてようやく目が覚めた俺は、大慌てで本調子でない身体を無理やり動かして地上へと戻ったわけだが、

 

「よもや、葬式の真っただ中とは……」

 

 勿論、送り出されていたのは俺である。

 自分の顔写真の前で坊さんがお経を読み上げながらポクポクしてて、それを聞きながらみんなが俯いて鼻をすすっている光景は、なかなかシュールなものだった。いや笑えなかったけど。

 

 母さんも父さんも俯いてずっと泣いてたし、あとまさかイルマがあんなに号泣するとは思わなかった……。

 

 居た堪れなくなって、ついついそのまますごすごと帰ってきてしまったわけだった。

 

『何で帰ってきてしまったのですか』

 

「か、帰ってきちゃダメだった? こ、ここからも追い出されてしまうのか俺は!!」

 

『いえ、そうではなく』

 

 ユザレは呆れたように言った。

 

『普通に生きていましたと報告すればよいのでは? こういう時は、おっぱっぴーとでも言いながら戻っていけば大体どうにかなると、私のデータベースはそう結論を出しています』

 

「いやだから貴重なリソースを何に使っているんだお前はァ!!」

 

 そしておっぱっぴーと言っても別に許されてはいなかっただろ。滑り倒していただろうが!! あとまだ小島〇しおは世に出ていない!!

 

『貴方の記憶は今後、大いに役に立つと予想されます。人間が忘れる生き物だということから鑑みても、私の方でバックアップを取っておくことは極めて有用なリソースの使用法だと思われますが』

 

「ええ……。ギャグパートでそういう真面目な返しは予想外だよ……」

 

 テンションの置き場所に困る。

 

『いえ。この状況、あまり笑い事では済まないのでは?』

 

 ギャグパートなどと現実逃避をしている暇はありません、とユザレは俺を切って捨てた。いや最初にふざけたの君じゃない?

 

 俺の抗議など何するものぞと彼女は話を進めた。

 

『現在の我々の置かれた状況を整理しましょう』

 

 真面目モードに切り替わった(彼女曰く最初から真面目だったらしいが)ので、俺もまた気持ちを切り替えて、彼女の言葉を受け取った。

 

「……当初の計画……マキシマ・エンジンの強奪は、ビースト・ザ・ワンと思われる個体の乱入により失敗。ザ・ワンと偶発的に戦闘に発展するも、とどめを刺すには至らず逃走を赦してしまった。ザ・ワンの呼び出したシーリザーの方は撃破には成功したけれど、それも当初の目的だったマキシマ・エンジンを犠牲にしてのものだった、と」

 

 そして俺は社会的に死亡してしまった。

 

「大分不味くないか…………?」

 

『ええ。当初の計画は大幅に変更することを余儀なくされました。早急に、次善策を練る必要があります』

 

 次善策と言われても……。

 

「まず、優先順位を決めないとな」

 

『優先順位ですか? それこそ、新たなエネルギー源の確保は最重要と思われますが』

 

 ユザレの言葉には、勿論一理ある。ただ、もうこの状況ではそうも言っていられなくなった。

 

「観測装置よりもザ・ワンの方を先にどうにかしたい。アレは放っておくと際限なく進化する。時間を置けば置くほどこっちが不利になる」

 

 俺の言葉に、ユザレは確かにと頷いた。

 

『では、防衛軍とアポイントメントをとって協力を要請しますか? 今後動きづらくなることにはなりますが、現在、ザ・ワンの出現を察知できるのはこの国では彼らだけです』

 

 マキシマ・エンジン亡き今、この古代遺跡に眠る観測装置群を動かすことは現状不可能になった。ザ・ワンの出現を早い段階で捕捉するには、もうこの国の防衛軍を頼るほかないように思える。

 

 だが、である。

 

「もうこの地球に居るかもなんだよなぁー、アイツが……」

 

 そう。ダークザギのことだ。

 

 映画ULTRAMANからネクサスまでの真の黒幕とも呼べるのが、ダークザギ──遠い星で生み出された、人造のウルトラマンだ。ダークザギは一足早くに地球に飛来し、自身のオリジナルであるウルトラマンノアを誘い出すために、ザ・ワンをこの星に呼び寄せた。

 

 奴は地球の人間──しかもネクサス本編における防衛隊組織「TLT」の人間に乗り移り、物語の裏で暗躍した。ノアの力に適合できる人類──適能者(デュナミスト)を闇へと染めるために様々な策を弄したわけだが、その手口は一切の情け容赦がなく、残酷でかつ陰湿なものだと言っていいだろう。例えば、サイジョウ・ナギに復讐心を植え付けるために彼女の家族をスペースビーストに殺害させたり、コモン・カズキの恋人を殺害し操り人形にしたりと、やることがいちいち陰湿というかねっちょりしているというか。ほんと、よくこれ朝の番組にやってたな……。

 

「防衛軍に助けを求めるのは却下だな。身内疑いながらとか、勝てる気がしないわ」

 

 既に暗黒適能者となった人間が防衛隊組織に所属している可能性があるわけだし。

 

 それに奴は適能者に近しい人間に危害を加えるなどの手口をとることが多い。実際、それが一番手に余る。

 

「ダークザギは将来適能者になり得る人間を見分けられる能力を持っていると考えられる。……それがウルトラマンノア限定なのか、それともすべての光の巨人に当てはまるのかは分からないが」

 

 もしも奴が、ノア以外の変身者も見分けられる能力を持っていたというならば、俺が表に戻れば、俺に近しい人たちが危険にさらされることになるかもしれない。

 

 ダークザギの方も、そもそもの動機が『自身の力を取り戻す』ことであるから、彼自身にもまだ多くの手段を取れるほど余裕はないはずだが、それでも不安は出来るだけ取り除いておきたかった。

 

「そう考えると、ダークザギには暫くの間、俺が死んだと思わせておきたい」

 

『となると、我々の行動は大分制限されることになりますが』

 

 それについては、と俺は手に持った紙の束を見せた。外に出た時に、何部か新聞を買い込んでおいたのだが、俺はそこで小さく防衛軍戦闘機の墜落事故に関する記事を見つけていた。

 

「ノアが……いや今は力を失っているからザ・ネクストと呼ぶべきか。ともかく彼は既にこの地球にやってきている。申し訳ないが、しばらく彼に注目を集めておきたい」

 

 きっと今は、マキ・シュンイチの中に眠っているであろう光の巨人。それがウルトラマン・ザ・ネクストだ。

 

 ザ・ネクストとザ・ワンの戦闘にダークザギの視線を釘付けにしておく。勿論、マキへのアシストは都度行うつもりだが、出来るだけ俺は彼と接触しないように動くことでダークザギの目から隠れる。そして、ザ・ネクストがザ・ワンを撃破する瞬間に割り込んで、細胞が飛び散らないように完全に焼却する。

 

 こうすれば、以降ダークザギの使役できるスペースビーストの数はぐんと少なくなるはず……。多分。

 

『多分ですか』

 

「多分だ。……ネクサス本編に出てきたスペースビーストたちはザ・ワンの細胞が由来らしいが、何もスペースビーストはザ・ワンだけじゃないしな」

 

 ネクサス以降の作品でもスペースビーストは何度か登場していた。

 

「でも、ダークザギも弱っている状態だ。宇宙からスペースビーストを呼び寄せるのにも、限界があるはず」

 

 特に、虎の子であろうザ・ワンを完全に滅せれば、奴の計画は大いに狂うだろう。問題は、スペースビーストを操るのに奴がどれだけ力を消費するのか、そして今のダークザギがどれくらいの力を維持しているのかだ。

 

「何分、計画の穴は多い。多いがそこは『彼ら』に補完してもらおう。というか今までべらべらと喋ったけど、『彼ら』に聞いてからの方がよっぽどいい。いいんだが、」

 

 そして俺は、視線を『彼ら』に向けた。

 

 遺跡の中にポツンと置かれた大きめの水槽を泳ぐ、クラゲのようなナニカ。M80さそり座球状星団の異星人にしてダークザギの産みの親。ネクサス本編では『来訪者』と呼ばれた彼らこそが、俺を海中からここまで運び込んでくれた張本人だ。

 

 ネクサス本編では、彼らはザ・ワンが地球に飛来する10年ほど前にこの星にやってきたということになっていたはずだが、この世界ではそうではないらしい。彼らはどうやらザ・ワンに追い立てられるようにこの星に辿り着いたようだ。青い球体に追われていた、あの光学迷彩を用いていた宇宙船に乗っていたのが彼らだった。なお、その宇宙船が今彼らが泳いでいる水槽の正体だ。

 

 それはつまり『来訪者』による事前準備──ナイトレイダーの装備とかレーテとか──なしで、人類はスペースビーストと接触してしまったという絶望的な状況を示唆しているのだが、今は置いておこう。

 

 ふわふわと泳ぐ『来訪者』の皆さんは、水槽の中からこちらに手を振っているようにも見える。見えるが──

 

「何言っているのか、全然わかんない……」

 

 ここに至って俺は言語の壁にぶつかっていた。

 

『残念ながら、私も彼らの言語の解読には時間を要します』

 

 俺の聞きたかったことを先回りしてユザレが言う。

 

 俺は期待が外れたとばかりに天を仰いだ。

 

 実際『来訪者』の協力を得られるなら、マキシマ・エンジンの不足を補ってなお余りある……くらいの期待があった分、落胆も大きい。彼らが何言っているのか全く分からないようでは協力しようがない。

 

「なんとなく……弱っているようには見えるんだが」

 

 水槽を泳ぐ『来訪者』たちの動きは随分と緩慢で元気がない。どうやら俺を海から引き上げるのに大分力を使ってしまったようだった。

 

「っていうか、ユザレ。彼らはどうしてここに俺を運んだんだ?」

 

 当然の疑問であった。俺がウルトラマンだったことに気付いて手を差し伸べてくれたのだとしても、この遺跡へ運んでくれたのは偶然とは言えないのではないだろうか。

 

『恐らく、貴方の記憶を読んだのでしょう』

 

「ってことは、彼らの方は、俺たちの言葉が分かるのか?」

 

『いえ。おそらく言語というよりも、映像として貴方の記憶を読み取ったのでしょう』

 

 だとしても、俺たちから彼らの方に意思を伝えることは不可能ではないわけか。

 

『とはいえ彼らがいくら我々の意識を読んだところで、結局彼らの伝えたいことが分からないのでは意味はありませんが』

 

「そうなんだよなあ」

 

 『来訪者』たちは今のところこの水槽の外から出られないようだった。つまりこちら側が水槽の中の彼らの意図を汲んであげないといけないのだ。

 

 何とも歯がゆいと、俺は腕を組んだ。

 

 マキシマ・エンジンは手に入らず、代わりとばかりに目の前に現れた『来訪者』とはディスコミュニケーション状態。ネクサス本編では存在していたTLTなどの人類による対スペースビースト組織も存在していないという状況で、ザ・ワンも(恐らくは地球に潜伏しているであろう)ダークザギの行方も分からない。

 

 救いと言えば、ザ・ネクストが既にこの地球に飛来しているだろうということだけだ。

 

 せめて『来訪者』からもう少し詳しく話を聞くことができれば、いくらか対策も可能だろうが……。

 

『確か、貴方の知識では、人類と『来訪者』は、人類側の超能力者を介してコンタクトを取っていたのでは?』

 

 ユザレの言葉にうなずいた。

 

 ネクサス本編では、人類側は『来訪者』と、超能力者──コンタクティと呼ばれる存在を介して意思疎通を行っていた。だが彼らは、TLTによって行われた極秘計画『プロメテウス・プロジェクト』によって誕生したデザイナーズ・ベイビーだ。TLTが存在しないこの世界には勿論そんなバカげた計画もない──とも言い切れないのが怖いところだが、いずれにせよそういった極秘計画によって生み出された存在がおいそれと研究施設の外にいるわけもない。現状、彼らに間に入ってもらう案は不可能と言っていい。

 

「プロメテの子なんて呼ばれる彼らもいないんじゃ、超能力者なんて早々——」

 

 いや待て。超能力者か……。

 

『気づきましたか』

 

 そう言うユザレに、俺は「ああ」と顎に手を添えて頷いた。

 

 この世界がウルトラマンティガをベースにした世界だというのなら、一人だけ、どこにも所属していない在野の超能力者がいるはずなのだ。

 

 かつてはメディアにもてはやされるも、その『本物』さ故に次第に化け物と称されようになり、果てには週刊誌に悪意ある報道をされたことで表舞台から消えてしまった超能力少年。ウルトラマンティガ第39話『拝啓ウルトラマン様』にて初登場したゲストキャラクター。その名前は、

 

「キリノ・マキオ……」

 

 

 




ネクサス関連の知識は結構怪しいので、割と自己解釈と設定捏造してます。ご容赦ください。

追記

流石にダイゴもおらん、TAKE ME HIGHERも流さんのでは盛り上がり切れん。この番組を機にTDGのフィギュアーツさえ出てくれれば文句はないので財団B頑張って♡

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。