ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける 作:ありゃりゃぎ
「超能力者の子供たち……プロメテの子か。そして、キリノ・マキオという男」
ヒメヤは腕を組んでこちらを見た。
「ミウラ、この男はお前の」
「俺の活動を支えてくれていた裏方の一人、って感じかな」
俺はヒメヤとコモンに、キリノが何者かに拐われ、それを追いかけてアメリカに来たことを説明した。
「ええっと、つまりこのキリノさんが彼ら子供たちの主導者ってわけではない?」
「ああ。キリノも巻き込まれた側の人間だろう。ただ、今もそうだとは限らないけどな」
これは推測になるが。そう前置きして、俺は口を開いた。
キリノは、おそらくプロメテの子らに浚われたとみて間違いない。彼らがキリノを攫った理由とはなにか。
「キリノ・マキオの遺伝子が、プロメテの子らの『製造』に使用された……つまりキリノは遺伝子上、彼らの親にあたるんだろう」
「身寄りのない子供たちが、自己のルーツであるキリノ・マキオの存在を求めた、といことか?」
ヒメヤの言葉に俺は首を振った。
「いや。彼らプロメテの子たちがそういう感傷的な感情で動いたとは考えていない。面識もない遺伝子学上の親に出会うためだけに、わざわざ日本に来てキリノを浚うというリスキーな行動をとるとは思えない。もっと切実な理由があるはずだ」
プロメテの子らが抱えている致命的な問題を、俺は把握している。原作知識だ。だが今ここで二人に転生がどうのこうのと言うのはあまりにも説明が面倒になりすぎるな。
言い回しをどうするか、頭の中でどうにか言葉を組み立てていく。
「プロメテの子らが『作られた』のは、どれだけ長く見積もっても、5年前がせいぜいだろう。だが、写真で判断するに、彼らの見た目はそれ以上の年齢に見える。プロフィールの年齢欄もすべて『推定』という注釈がつけられている」
俺の指摘に、ヒメヤが改めて資料を見直し、この日何度目かの驚愕を示した。
「もしやここにいる子供たちは、見た目よりもずっと……」
ヒメヤのつぶやきに頷く。
「彼らは、成長を不自然な形で早められている。間違いないな?」
その問いにコモンは瞑目した。
「……ええ。その通りです。彼らはホルモンバランスを人工的に調整され、成長が早められています」
「つまりそれだけ、身体と細胞に負荷がかけられているわけだ。まして『人造』である彼らの細胞は」
「細胞に、負荷……」
ヒメヤが顎に手を添えた。
「成長を早める……つまりは、劣化も早い……?」
ヒメヤの独り言に近いつぶやき。それにコモンが重々しくうなずいた。
「押収した研究資料に、記載がありました。彼らプロメテの子の細胞はある一定の段階で急速に劣化する可能性が高い……。つまり通常の数倍の速度で老化すると。ただ、これも今後の研究次第で改善できるだろうと。研究者たちは、現在はその治療薬の研究を行っていたんですが」
「資金繰りが悪化して、研究はストップ。彼らの急速な老化に対する特効薬の完成は見通せないわけだ」
コモンの言葉を引き取って、そして続ける。
「そんな中で、常人よりもはるかに才能があり、超能力という特別な力ももつ当事者たちがどう動くか」
プロメテの子たちが特別なのは、単に超能力者というだけではない。キリノ以外にも複数の分野の天才たちの遺伝子が、彼らには『使われている』。そしてトップレベルの教育を受けた彼らの頭脳は、すでに子供の範疇にはない。
コモンが、目を見開いた。
「自分たちで、特効薬の完成を目指している……!? でも、そんなこと、出来るはずが……。天才が数人集まってどうこうっていう話じゃない。だって薬の開発って莫大な費用と施設設備、それに人手と時間がかかるんですよ?」
「子供特有の向こう見ずって片づけるには話が大きくなりすぎたな。彼らはただの子供じゃない。彼らには、少なくともそう考えて実行に移せるくらいには能力があった」
「……能力は大人顔負け。だが、経験値は年齢相応だ。大人の俺たちからは不可能に見えても、彼らから見れば可能だと『見える』。実際の可能不可能は置いておいて、だ。俺たちにだって、経験のある話だろう。ガキの頃は、お年玉で5万も手に入れば、欲しいものがなんでも手に入るように感じたもんだ」
子供のころ特有の一種の全能感。大概は成長する中で、親に叱られたり、適度に鼻っ柱を折られたりして身の程――自分だけでできることとできないことを学んでいくものだ。
だが、プロメテの子にはそれがあった。その全能感を裏付けてしまうほどの才能があり、超能力という特別な力があった。
だが、プロメテの子にはそれがなかった。叱ってくれる親も、経験を積み重ねられるような時間と環境もなかった。
あくまで実験対象として――モルモットとして、大人たちに蔑ろにされてきただろう彼らは、決して大人たちを頼ろうとはしないだろう。
1年という月日が経ち、自分たちだけでは特効薬の完成は不可能だと、心のどこかで悟ったとしても、もう彼らは素直に大人に頼ることはない。
「そのためにキリノ・マキオを浚った。彼らにとってみれば、自分たちの遺伝子上の親……特効薬作成の上で、貴重なサンプルの一人だ」
使われた天才たちの遺伝子。その持ち主たちはリスト化されている。そのほとんどは確固たる地位をすでに確立しているか何かしらの組織に属しており、おいそれと接触できる立場にないか、すでに故人となっている。
唯一、明確な社会的な立場がなく(無職)、誰でも接触することができる人間(希薄な人間関係)――つまりニートだったキリノは、彼らにとって最も接触しやすい……あるいは浚いやすい人物に映った。
「あまりにも辛辣な評価ですけど、なるほど。彼らプロメテの子たちの目的が何となく見えてきましたね」
「やや憶測が過ぎるがな。……手がかりゼロで、いたずらに追いかけたところで出し抜かれるのが関の山な現状、この憶測をもとに先回りするっていうのは悪くない」
「プロメテの子らの目的が『特効薬の作成』と仮定すると、彼らにはそれなりに施設が整った研究施設が必要なはずです」
コモンがそういうと、ヒメヤが改めて資料をめくった。
「子供たちが目撃された地点……よく見ると、どこも賭場が近い。アメリカ各地を飛び回っているのは、捜査のかく乱と資金獲得が目的だろうな」
ヒメヤの助言に、コモンが力強くうなずいた。
「カジノ施設と、研究所。この二つを重点的に当たってみます」
ナイトレイダーが手を焼いているプロメテの子らの捜索。そのめどが立ちそうだ。
「ここに来て良かったです。これが上手くいけば『次』に移れますから」
次、という言葉。その言葉を口に出す時だけ、コモンの表情がどこか厳しく見えた。
プロメテの子だけではない。本来、ナイトレイダーが……そして俺たちが行方を追わなければならない者たち。
マサキ・ケイゴ。そして、サイダ・リコ。プロメテウス・プロジェクトの根幹をなしていた不死の研究。その首謀者と唯一の成功例。中核にあったこの二人は依然として行方をつかめないままだ。
「ナイトレイダーはプロメテの子の捜索に想定以上に時間を取られてしまっています。マサキ・ケイゴも……リコも、すぐにでも捜索を開始したいんですが」
クトゥーラ戦のあと、人造怪獣とともに姿をくらませたマサキ・ケイゴ。そして、謎の女――サイテック・コーポレーション幹部の一人と目される、偽名の女――カミイ・ララに拉致されたままのサイダ・リコ。この両者の捜索は現在全くの手がかりがないまま1か月が過ぎようとしていた。
「人造怪獣ゲオザークが掘った地下通路は途中で意図的に崩落させられていました。GUTSにも協力してもらい、地下を捜査しましたが、途中で別の地底怪獣の住処らしき場所に行き当たり、安全のために捜索は中断。以降は全く手掛かりがつかめていません」
コモンが悔し気にそう言い、そこにヒメヤが付け足した。
「ネゴロさんとサクタさんも奴の居所はつかめていないらしい。一応、最後にマサキと会っているわけだから、何か手がかりを掴んだかもと期待したんだが」
そう言えば、ネゴロとサクタ女史は今どうしているのだろうか。この1か月、彼らは一度もこのセーフハウスを訪れていない。というか、俺はこれまで一度もそのお二方とは会ったこともないのだが。
「さすがに日本に帰ってもらったよ。マサキ・ケイゴの……ひいてはサイテック社とTLT、米国政府の蜜月を暴くことはできたわけで、一応ひと段落ってことだしな」
「よく二人とも帰ってくれましたね。絶対に揉めると思ったんですが」
「実際、アメリカに残ろうとどうにかこうにか抵抗してたみたいだけどな」
コモンの言葉に、ヒメヤは苦笑いした。
「サクタさんはもともと一新聞社の一社員でしかない。今回アメリカに来たのも有給使ってきてるから、今年分の有給無くなっちゃったって泣いて帰っていった」
「あ、ああ。なんてかわいそうに……」
「ネゴロさんは単純に金欠でアメリカの滞在費が足りなくなったらしい。老後の資金が……って泣いて帰っていった」
「あ、ああ。なんてかわいそうに……」
世知辛いなぁ。
「ま、たとえあの二人がアメリカに残ると言い出したとしても、マサキやサイダ・リコの捜索を任せるつもりはなかったが。いくら彼らが記者として優秀だとしても、ここから先は単純に武力が足りていない。生中なボディーガードを雇ったところで意味ないしな」
「……それこそ、彼ら二人を『こっち側』に抱き込むっていうのはどうですか? ミウラ先輩の協力者として」
コモンの言葉に、俺は首を振った。
「……考えないわけではなかったけどな」
確かに自由度が高く、そして捜査能力に優れた協力者というのは欲しい人材ではあった。
だが、彼らは何の訓練も受けていない民間出身の一般人に過ぎないのだ。
「自衛力のない彼らの身を守ろうとしたら、俺たちが四六時中張り付かなきゃならない。そんなの本末転倒だ」
『もしも』はいつだって付き纏う。最低限の自衛力を持たない二人を巻き込むことはできない。
「なにより、サクタ女史はともかく、ネゴロ氏は……何ていうか……信用できない。これに尽きる」
言い淀みつつも、そう評さざるを得ない。彼のキャラクターを鑑みるに、目先のスクープがあったら絶対に飛びつく。『待て』なんて絶対できない。こっちが危ないから近づくなと言っても絶対動く。その確信があった。
「あ、あー……」
コモンが「確かに」とうなずき、旧知の中であるヒメヤも苦笑するだけだった。
「……だが、喫緊の課題ではあるな。ナイトレイダーはプロメテの子で今は手一杯。こっちはヒメヤがまだ本調子じゃない。俺が唯一空いているけど、アメリカは土地勘ないし、ユザレのバックアップ体制もまだ完璧じゃない。……マサキとサイダ・リコ、両方を追いかけるのは」
「なら、サイダ・リコの捜索は任せてもらおう」
唐突に玄関が乱暴に開かれた。入ってきたのは、黒いコートを纏う長身の男。
「お、お前は!!」
「……ミゾロギ・シンヤ」
濃厚な闇の気配を携えて、男は不機嫌そうに顔をゆがめた。