ハードモード地球で平成から令和を駆け抜ける   作:ありゃりゃぎ

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3か月近く放置してすいませんでした!!


#93

突如としてこの場に姿を現した男。ミゾロギ・シンヤ。

 

『原作』においては、ダークザギに心の中の闇を暴かれ、闇の先兵に堕したナイトレイダーの元副隊長。

 

この世界で、彼がどのような状態に置かれているのか、俺は把握していない。ダークザギを先んじて封じた今、彼が闇の力に目覚める原因はないはずだと考え、マークを外していた。

 

だが、ヒメヤから伝え聞いた話によれば、ミゾロギはやはり原作通りにナイトレイダーから離反。それだけでなく、明らかに『闇の力』に目覚めてしまったようだ。

 

目の前にいる男を視る。特別な力を持たずとも分かる、濃密な闇の気配。それが彼の中で暴れ狂っている。

 

それを抱えるように、あるいは宥めるように寄り添う『朝日のような』穏やかな光。

それを諫めるように、あるいは突き立てるように抑え込む『剣のような』冷たい光。

 

二つの光が闇とともに彼の裡にある。

 

闇と光。相反する二つの危うい均衡の上に、ミゾロギは立っている。

 

 一体、なぜ。そしてどうやって。――だが、彼の中にある光を俺は知っている。

 

――――そうか。やはり『君たち』なのか。

 

 ミゾロギは、おそらく『原作』とは全く異なる経緯で、そして『原作』同様に、彼は闇の巨人へと誘われた。そして『原作』を超えて、彼は今、闇とともに正道を歩いている。

 

 ミゾロギ・シンヤ。あるいは、その男のもう一つの名は、

 

「ダーク、メフィスト……!!」

 

「俺の真名を識る、か。なるほどな。そういうお前こそが『四番目』。もう一人のティガ。オルタナティブ・ティガ」

 

 一拍おいて、ミゾロギが続ける。

 

「ミウラ・カツヒト。『空で最も自由な男』『三人目のライト兄弟』『最後のカミカゼ』……数々の異名で呼ばれた、TPC黎明期における陰の立役者。よもや、死んで伝説になった男こそが、光の巨人になっていたとはな。驚いたよ」

 

「……ああ、俺も驚いたよ」

 

 俺ってそんな風に呼ばれてたんだ……。

 

 俺が羞恥心をどうにかこうにか抑え込んで、シリアス顔をキープしようと必死こいているのをよそに、コモンがミゾロギに食って掛かった。

 

「み、ミゾロギ!! お前にリコを任せられるはずがないだろう!!」

 

「ハッ、何を言うかと思えば。こっちは親切で言っているんだ」

 

 ミゾロギは、扉のすぐ隣の壁に体重を預けた。

 

「お前の代わりに、サイダ・リコを殺してやる」

 

「そ、そんなことさせない!! リコは――「ならば、どうする」

 

 ミゾロギは、コモンの言葉を遮って、冷たい真実を突き付ける。

 

「……奴は、死人だ。化け物だ。そして殺したんだ、多くの罪なき人々を」

 

「そ、れは」

 

「罪には罰を。そして、死者には安らかな眠りを。――それが摂理だ。それこそがサイダ・リコを救う唯一だ」

 

 ミゾロギの視線が、重圧となってコモンを縛り付ける。唇が戦慄いて、しかし二の句を告げることもできなかった。

 

 それは目を逸らしていただけで。頭ではわかっていたことを改めて突き付けられただけのこと。

 

「……何も答えられないか。ひどい無様だな、コモン・カズキ」

 

 苛立たし気に、舌打ちを一つ。ミゾロギの語気は強くなる。

 

「そんな覚悟でサイダ・リコの前に立って、お前は何をしようというんだ?」

 

 重ねられるコモンへの問い。俯いて黙り込んだコモンをかばうように、ヒメヤが口を開いた。

 

「お前が、それを言うのか。闇に浸かったその身で、サイダ・リコを断罪すると」

 

 ヒメヤの言葉はミゾロギの今の状態を見通したからこそ出てくる言葉だった。ミゾロギが闇の巨人の力を手にした理由の一端は、彼自身の内なる闇にあるのだから。

 

「そうだ。俺だから、言うのだ」

 

 視線をわずかに下にして、ミゾロギは続ける。

 

「俺は確かに、己の裡の闇に、一度は屈した。そんな俺が罪を犯さなかったのは、一重に出会いに恵まれたからだ。そういう意味で、俺は彼女を糾弾する権利はない。……だが、だからこそ、罪を犯した人間の『こころ』を慮ることはできる」

 

 ミゾロギは瞑目し、続けた。

 

「愛する者に、見られたいとは思わない。罪を犯し、闇に浸り、手を血で染めた己の姿を、たった一人の愛する男に見られたいと、誰が望む?」

 

「……」

 

 その迫力と真実味に、ヒメヤでさえ二の句を告げられなかった。堕ちた先で光を見上げたときの絶望と羞恥と悲哀と慚愧を、彼だけが同じ地平で理解していた。

 

 今この時に限っては、コモン・カズキよりもよっぽど、ミゾロギ・シンヤはサイダ・リコの理解者だった。

 

 顔色を蒼白にして、コモンは唇を嚙み締めた。胸中の敗北感はどれほど言い繕おうとも拭い難く。何よりも、ミゾロギの語る彼女の『くらがり』を晴らすことができると、そう断言することもできない自分自身の弱さに、コモンは膝を折った。

 

 黙りこくったコモンを一瞥して鼻を鳴らした後、ミゾロギは口を開いた。

 

「サイダ・リコは、現在カミイ・ララ――カミーラという闇の巨人のうちの一人に捕まっている」

 

「……想定されていたこととはいえ、不味い状況だな」

 

 サイダ・リコは、カミーラの手中にある。世界を闇へと広げようという、彼ら闇の巨人にとっては、サイダ・リコという存在はいくらでも利用価値がある。今この瞬間にも、世界中にスペースビーストが溢れかえったところで不思議がない。

 

「確かに状況は予断を許さない。だが、想定していた最悪からは程遠い」

 

「サイダ・リコが闇の巨人の手中にある。Eビーストが氾濫していておかしくない状況だ。本来なら、すでに人類は絶滅している。……そうはなっていないということは、闇の巨人側にも不測の事態が起きたのか?」

 

「その通りだ」

 

 ミゾロギは首肯した。

 

「女型の巨人と、爬虫類もどきの巨人。あの二体はサイダ・リコの処遇を巡って争っていた。状況的に、あの二人は仲違いしたとして間違いないだろう」

 

「カミーラと、ヒュドラが……」

 

 俺がダーラムを斃し、3000万年前の眠りから復活した闇の巨人は二人だけになった。合理的な面で考えれば、仲違いなんてしている状況だとは考えないだろう。だが、彼らの思考は『闇』に長く汚染されているという。客観的に見れば不合理な選択もしてしまうのだと。

 

「推論になるが、あくまでティガに固執するカミーラとヒュドラの間で意見の相違ができた、ということか? それで、二人で争うことになった……」

 

 そうなってくると、サイダ・リコがカミーラ側に渡ったのは、決して最悪ではなかったということか。彼女は、ティガに強い執着を抱えている。その愛憎は、合理を超えさせるだろう。

 

「カミーラの目的は、ウルトラマンティガの心を折ることにある。ヒトなど守るに値しないと、輝きなどまやかしだと、そう思わせること。そして自分自身の下に帰ってきてもらうこと。それが彼女の願いだ。だから、カミーラはすぐには動かない」

 

 サイダ・リコは人間の醜い欲望――闇から生まれでた存在だ。その背景情報は、カミーラの目的に大いに利する。

 

 ティガ=ダイゴの心を闇に落とす。その目的のために、サイダ・リコという存在を効果的に扱うには、それなりの舞台と演出が必要になる。ましてダイゴは、幾度も戦いを乗り越え、戦士として成熟しつつある。心身ともに強くなりつつある彼の心に忍び寄るというのなら、より一層の仕掛けが必要だ。そうカミーラは考えるはず。

 

「準備期間に相応の時間がかかる。その間、カミーラは大きな動きを見せないだろう」

 

「さらに付け加えるなら、カミーラはそのヒュドラと交戦し、その直後には『あの方々』と交戦している。それなりに深手を負わせたとのことだから、その回復にも時間がかかるだろう」

 

 ミゾロギの言葉に、コモンとヒメヤが首を傾げた。

 

 俺はミゾロギを見やる。彼の言う『あの方々』とは、きっと彼女たちのことだろう。

 

「『彼女たち』は元気でやっているのか」

 

「ああ。伝言もあずかっている。――『人事を尽くすも未だ天命を待つには至らず』『お互いにやるべきことを』だそうだ」

 

「了解だ。……俺の方からも伝言を頼んでいいか」

 

 俺にとってはつい最近だが、彼女たちにとっては気が遠くなるほどの時間がたったことだろう。せめて、そんな彼女たちに言葉だけでも礼を伝えておきたい。

 

「あの時の『ビクトリウム』と『クリスタル』、すごく助かったって、そう伝えてくれ」

 

「何のことかはよくわからんが、承ろう」

 

 コモンとヒメヤが何か聞きたそうにしている。だが、これを話し始めると大いに時間がかかるので今は置いておこう。

 

「俺たち以外の、人類側に認識されていないウルトラマンが、少なくとも二人いる、ということでいいのか?」

 

 ヒメヤの言葉に曖昧にうなずく。

 

「あー、まあ二人というと語弊があるかもだが」

 

 そこら辺の説明は面倒なので濁しておこう。

 

「彼女たちは彼女たちで、やるべきことがある。俺からも頼んだことだしな。だからまあ、これ以上頼るのも憚られるんだが」

 

 そこでミゾロギが「いや」と口をはさんだ。

 

「お二人もちょうど手が空いたところだ。それに俺もいる。先に言ったように、カミーラとサイダ・リコ捜索の件はしばらくこちらで預からせてもらう」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!! リコは僕が――」

 

 そう言い、立ち上がってミゾロギに詰め寄ろうとしたコモンを手で制す。

 

「コモン・カズキ、君は今、ナイトレイダーだろう。その職務を全うしろ。……何より、今の君がサイダ・リコと会ってもいいことなんて一つもない」

 

「そ、れは」

 

 唇を引き結んだコモンを一瞥して、ミゾロギは鼻で笑った。そして黒いコートをバサリと翻した。

 

「伝えるべきは伝えた」

 

 その言葉にうなずく。

 

「こちらはプロメテの子と、マサキ・ケイゴを追う」

 

 こちらの言葉に浅く首肯し、ミゾロギは手を掲げた。一瞬だけ、彼の後ろ姿に赤と黒の巨人の後ろ姿が重なった。その直後に、闇が彼を包み込み、そして姿を消した。

 

「ミウラ教官、僕は……」

 

「彼女に会ったときにどうするのか。どうするべきなのか。せめてその答えが出ないうちは、会ったところで、彼女を傷つけるだけだ」

 

コモン・カズキの精神がどれほど強靭だろうと、迷いと躊躇いは生じるだろう。酷な状況だとは理解している。だが中途半端なままでは、互いに傷つくだけだ。

 

「それに、ひどいことにはきっとならない」

 

「え?」

 

「『彼女たち』がいるからな。少なくとも、短絡的な結果にはならない。それだけは自信を持って言えるよ」

 

「ミウラ教官が、そう言うなら……」

 

 コモンは、視線を上にあげた。

 

「今は信じます。ミゾロギを助けたっていうそのお二人を。……そして僕は、やるべきことをやる。出すべき答えを出す」

 

「時間はそれほど残ってない。それは理解しておけ」

 

 ヒメヤのその言葉に、コモンは頷いた。

 

「わかってます。でもやります」

 

 為すべきは決まった。プロメテの子、そして、姿を消したマサキ・ケイゴの捜索。まずは拠り所を失った少年少女たちの行方から。

 

 決意を新たにしたコモン・カズキの胸ポケットから、緊急を知らせるコールが鳴り響いたのはそのすぐあとのことだった。

 

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