第一次先遣隊と合流したミケ達は、気絶しているアルテミスとその仲間たちを仮拠点へ運んだ。
仮拠点は、遺跡があった場所からさほど離れていない場所に設営されていた。指揮用、居住用、医療用、物資運搬用のトレーラーが複数台鎮座しており、上空にはこれらを運搬してきた大型のキャンプシップが待機している。
ミケ達は、第一次先遣隊の指揮官に会うべく、指揮用トレーラーに向かった。
指揮用トレーラーには、戦術ディスプレイの前で指揮官と思わしき壮年の男性が、オペレーターたちへ指示を出しており、数名のオペレーターがコンソールの前に腰掛け、忙しく仕事をしていた。
ミケ達に気が付くと、壮年の男性が挨拶をしてくる。
「
そう言って、握手を求めてきた。
ミケは、その手を握り返し挨拶をする。
「暫くお世話になるよ。それで、こっちに被害は出てない?」
「お陰様で、仮拠点には被害は出ませんでした。
「よかったぁ」
被害が出ていないことに、ミケは安堵の息を吐いた。
「我々がこの地に到着した時は、あのような
ジョージは、訳が分からないというように手を挙げ首を左右に振った。
「もしかしたら、救助した人たちが何か知っているかもね?」
「救助した者たちは何者でしょうか?」
「一人……一柱?とは、接触時に会話できてるよ。どうもこの世界の神の一柱みたい。名前はアルテミスだったかな?」
ジョージは、興味深そうにミケの話を聞いていたが、何か思い当たる節があるような顔をした。
「ほほぅ、アルテミスですか……以前調査した地球で同じ名前を見かけましたな。確か狩猟・貞操の神だったかと」
「へー、もしかしたら、地球の並行世界の一つなのかもね」
「かもしれませんが、それはもう少し調査を進めないことには……」
「そうだね、現時点での調査資料ってなにかある?」
「いえ、第一次先遣隊である我々はベース基地の建設を主目的にしていますので、調査は限定的にしか行っておりません。救助した者達から情報を得られれば良いのですが……どちらにしてもこれからとなります」
ミケは少し残念そうな表情をしつつも、まぁこれからだと気持ちを切り替え、依頼されている任務へ就くことにした。
「了解。それじゃ私たちは、周辺の安全確保のための見回りに行くね。救助した人たちを宜しく」
「了解致しました」
ミケ達は、指揮用トレーラーから出ると、見回りへ向かった。
アンタレスに取り込まれた私は、私の【ファミリア】達が成す術もなく、アンタレスに倒されているのを見ているだけしか出来なかった。
【ファミリア】達が倒された後、アンタレスは私の『
私は何もすることができず、『
永遠ともいえる時間をどうすることも出来ない自分に自己嫌悪しながら過ごしていると、突然目の前が明るくなった。
私の目の前に白兎に似た少年が、目に涙をためながら黒いナイフを手に向かって来た。
あぁ、この少年が私を
私は、そこで目を覚ました。
夢?でも妙に現実味がある夢だったな……そう思いながら体を起こした。
その瞬間、鋭い痛みが全身を駆け巡った。痛みに怯みつつ周りをみてみると、景色に違和感を感じた。私の部屋とは、随分と装いが違っていた。
ここは何処だろう?と更に周りを見渡すと、白い服に身を包んだ女性が視界に入った。
その女性は、私がベットから起き上がりそうになると、慌てて近づいてきた。
「アルテミス様でよろしかったでしょうか?お加減は如何でしょう?一通りの治療は致しましたが、今は安静にしていて下さい」
その言葉に私は頷きつつ、ベットに腰掛け直しながら眠る前の事を思い出した。
そうだった!アンタレスに倒されそうになった私は、ミケと名乗るエルフの少女に助けられたんだった。
「私の【ファミリア】達は無事だろうか?」
「ファミリア?と言うのは分かりませんが、一緒に運ばれた方々は絶対安静ですが無事です。別の場所で治療中です」
その言葉を聞き、改めて安堵の息を吐いた。
「それでは、私はアルテミス様が起きたことを連絡しますので、失礼致します」
そういって、白い服の女性は部屋から出て行った。
私は、改めて部屋の中を確認する。
見たことのない物が沢山あるな。どの様な用途で使うのだろうか?と思いを馳せながら部屋にある物を眺めていると、ドアがノックされた。
「アルテミス様?入ってもよろしいでしょうか?」
壮年の男性の声がした。
私は改めて、自身の身なりを確認した。
私が着ていた鎧や鎧下は脱がされており、簡素な薄手のワンピースを纏っているだけの状態であった。
流石にこの身なりで、男の前に出るのは遠慮したいなと考えていると、先ほど居た白い服の女性の声が聞こえた。
「アルテミス様、壁にガウンが掛けてありますので、そちらをお召しください」
その言葉に従い壁を見ると、確かにガウンが掛かっていた。これなら問題ないか……と思いガウンを羽織ると、警戒しつつ入室の許可を出した。
部屋に入ってきたのは、先ほどの白い服を着た女性と壮年の男性であった。
男性は部屋に入室すると、無遠慮な視線を私に向けることなく、私の顔を見て挨拶を行った。
「初めまして、ここの責任者をしておりますジョージと申します」
「こんな格好ですまない。アルテミスだ」
そう言って私は寝台に腰掛けた。
ジョージは、他の男神や男の『子供達』と違い、実に礼儀正しかった。
そのため私は、少し警戒を解いた。
「アルテミス様の怪我はまだ完治しておりませんので楽にして下さい。治療については、こちらの看護官が行いますので何かありましたら連絡して下さい。当方の治癒テクニックは、フォトンを持たない身体には効果が薄いため、一般医療での治療となります。不便をおかけしますが了承願います」
「すまない。色々言葉の意味が分からないが、助けて貰った事には感謝している」
テクニック?フォトン?聞きなれない言葉に困惑していると、ジョージも申し訳なさそうに答えた。
「こちらこそ申し訳ございません。まずは傷を癒して頂いて、その後にお互いの情報交換を行いたいと思っております。我々はこの地より遥か遠くから来ておりまして、この辺りの世事に疎いのです」
ふむ?世事に疎いというが、どれだけ遠くから来たのだろうか?全く想像が出来ない。
嘘も付いていない様だし、情報交換の際に色々聞いてみるか……そう思いつつ了承の意を伝える。
「それでは、お体に障りますのでこれで失礼します」
ジョージは、そう言うと部屋から出て行った。
なんとも不可解な者たちだ。
何処かの【ファミリア】かと頭をよぎったが、そういえば、ミケと名乗った少女は違うと答えていたな。
とりあえず今は傷を癒すことに専念するとしよう。
そう結論付けると私は、横になり瞼を閉じた。
それから数日間、私は傷の治療に専念した。
傷の具合は、私が一番軽いらしく【ファミリア】達は、未だに治療を行っているそうだ。意識自体は全員取り戻しているらしいが、面会謝絶とのことだ。
看護官に
なんとももどかしい思いをしながら、さらに数日が経過した。
私の傷がある程度回復し動き回れるようになった頃、情報交換についての打診がジョージからあった。
こちらとしても、現状を打破出来る物があるかもしれない……そう思い了承した。
情報交換の場は、私が泊まっている部屋で行われることになった。参加者は、ジョージ、ミケそして私の3人である。マトイは別件があるため、この場には居ないそうだ。
まずは、ということでジョージから彼らの話をすることとなった。
彼らはなんと星々を旅し、異種族と交流しながらダーカーと呼ばれる存在と戦っていたらしい。そのダーカーとの戦いもひと段落ついたため、異種族との交流へ重みを徐々にシフトしているとの事。
ダーカーについても説明があった。
ダーカーは生物に浸食し狂暴化させるそうだ。そして浸食が進むと浸食された生物自体がダーカーとなり、さらに周りの生物を浸食していくそうだ。ダーカーに浸食された生物は元には戻らず、倒すしかないらしい。但し、その生物を倒すためにはフォトンと呼ばれるエネルギーを使用出来る者でないと、ダーカーを滅ぼすことが出来ないという。
そして彼らの中で、フォトンを使いダーカーと戦っている組織を『アークス』というらしい。彼らは、その『アークス』の一員との事だ。
この世界でダーカーのような存在がいるか?と質問されたが、私の知る限りではそのような存在を聞いたことが無いため、その旨答えた。
フォトンは、ダーカーを倒す以外にも様々な用途で使用されているとの事だ。マトイが使った私の痛みを和らげた癒しの力──治療テクニックと言うらしい。その力もフォトンを使用しているとの事。治療テクニックの効果についても、フォトンを持たない生物に対しての効果が薄いことを改めて説明された。
そして彼ら『アークス』は、現在この世界と交流を行うべく、拠点をこの地に建設中とのことだ。
それから彼ら『アークス』の種族を教えてくれた。
ヒューマン
ジョージとマトイは、ヒューマンらしい。見た目からして私達の世界のヒューマンと同じという事か。
ニューマン
ミケがニューマンだそうだ。エルフではないのか。こちらのエルフとの違いが気になり聞いてみたが、力が弱くフォトン適正に秀でた種族とのことだ。後寿命は別に長くはないらしい。寿命以外は、エルフと同じようなものかと結論付けた。
キャスト
看護官がキャストらしい。見た目はヒューマンと同じなのだが、何が違うのだろうと思ってたら、全身が金属でできているそうだ。とてもそうは見えないが、なんでもフォトンの力に元の体が耐え切れず体を移し替えた人々とのことだ。今一つ理解が及ばないが、そういう種族として無理やり納得した。
デューマン
この種族は、比較的新しい種族とのことだ。種族が新しいというのが分からなかったが、見た目はヒューマンとさほど変わらないらしい。しかし瞳が特徴的で、角が生えているらしい?現在この地にはデューマンはいないそうなので、機会があれば紹介してくれるそうだ。
下界にも色々な種族がいるし、世界は変わっても同じ様なものなのだな……と感慨に耽った。
一通り彼らの説明を聞いた限りでは、嘘は言っていないが私の想像の範囲を超えており、なかなかに受け入れ難いものであった。
何とも言えない表情をしていると、ジョージから傷が完治したら、彼らの船『アークス・シップ』へ招待してくれるらしい。論より証拠という事だろう。
次に私達のことについて説明をした。
まず、私達神々について話せる範囲で話をすることにした。
神々は不変であり、長い退屈な時を天界で過ごしていたが、ある時『下界』──今いる世界に住む『子供達』──下界で暮らす住人に娯楽を見出した。
退屈していた神々は、それを見て興味を持った。そしてそれを肌で感じるために、下界に降臨した……『
次に【ファミリア】についてだ。
【ファミリア】は、『子供達』の中から自分が気に入った者に、『
それから、『
『
この地にある、ダンジョンについても語らねばなるまい。
ダンジョンは何時から有ったか……遥か昔より存在している、多階層の地下空間である。
そしてダンジョンは、モンスターを生み出す。
昔は、ダンジョンからモンスターが出てきて、地上にいる『子供達』を襲っていた。
ある時、神ウラノスがダンジョンからモンスターを出さないようにするため、封印を施した。そしてその場所に、バベルの塔を建設した。それから当時からあった街が更に発展して行き、やがて迷宮都市オラリオと呼ばれる様になった。
地上に残ったモンスターの殆どは、その力を弱体化させる代わりに繁殖能力を得て、地上に住み着いた。それでも、『
それから、一部強力なモンスターもまだ健在だ。アンタレス──ミケが倒したモンスターもその内の一匹だ。
アンタレスは、遥かな昔私が精霊の力を使い封印していたのだが、その封印が破られ、以前より強力になって出現した。
私は、封印状態の確認及び復活した場合の討伐のため、【ファミリア】達と共に封印した場所へ向かったのだが……後は、御覧の有様だ……
私が、アンタレスの話を終えると、ジョージがミケに質問をした。
「
ミケは首を傾げつつ難しい顔をしていた。
「うーん。目の前で襲われている人がいて、
「それ程ですか!かなりの強さですね……警戒度を上げる必要があるか……」
ジョージは頭を俯かせ両手で頭をガシガシ掻きながら、考え込んでしまった。
「あのような強力なモンスターは、数は少なく封印されていることが殆どだ。一部例外は居るが……もし活動している所を発見したら討伐隊が編成される。なのでそこまで心配することはないぞ?今回は私達の準備不足が原因だしな……」
私がそう言うと、ジョージは頭を上げ、少し気が楽になったのか表情を和らげた。
「それよりも、先ほどミケの事を
「あー、『アークス』内の役職みたいなものです。大した意味は無いですよ!」
ミケはそう答えたが、ジョージが訂正してきた。
「
なんと、ミケは『アークス』の英雄なのか……だからアンタレスをあんなに簡単に倒せたのだな。
私はミケを尊敬の目で見つめた。ミケは右手で後頭部を掻きながら頬を染めていた。
どうやら照れている様だ。
「うーん……目の前で困ってる人助けたりしてただけ、なんだけど……」
「簡単に言いますが、そうそう出来る事ではないですよ」
ジョージはそう言いながら、尊敬の眼差しをミケに向けていた。
それから私はポーションの話題を持ち出した。
【ファミリア】達を早く苦しみから解放させたいため、重要な話だ。
ポーションは簡単に言えば、傷を治す薬の事である。効果はピンキリで最高級のポーション
同じような物があるなら【ファミリア】達に使って欲しい事も話した。
2人は、興味深そうに私の話を聞いていたが、【ファミリア】達の話になると悲しそうな顔になった。
「我々の所にも似たような効果の物はありますが、残念ながらフォトンを活性化させて傷を癒すため、フォトンを扱えない者──こちらの方々には効果がないのです。ですがその分治療に関しては万全を期し行っております」
私はその話を聞き、内心落胆した。
だがもしそのフォトンを扱えるようになれば?と思い、私達にもフォトンが使えるようにならないか質問をした。
「フォトンのことですが……失礼ながら素質があるかどうか、治療の際に調べておりまして……その、残念です……」
そうかと私は答え、視線を下に向け落胆していると、ミケから声が掛かった。
「じゃぁ、その
「それが出来ないのです。現状この地の貨幣を我々は持っておりません。お話を聞く限りでは、貨幣で購入する様ですし……また、例え買えたとして、それが本当に目的の
ミケの発言に対して、ジョージがそう切り返した。
ミケは、うーむと眉間に皺を寄せて考え込んだ。
「アルテミス様、お連れの方々ですが、傷のほうはだいぶ回復しておりまして、数日中に面会が可能となっております。動けるようになるにはもう少しかかりますが……」
ジョージは、私を元気づけるためかそう発言した。
「ジョージ、気遣いありがとう。私の傷は大分治ってきているので、近いうちに一度ホームに戻ろうと思う。その時に
私は気持ちを切り替え今できる最善を尽くそうと、そう発言した。
「それでしたら、出立の際には我々のほうで護衛を付けます」
ジョージがそう提案してくれた。
私自身戦えるとはいえ、病み上がりで更に一人での長旅になる。そのため有難い申し出であった。
ミケはジョージの話を聞きながら、なにやら小声でつぶやいていた。
それから私に顔を向け
「じゃぁ、その護衛私とマトイでやるよ!マトイも良いって」
ミケはそう言い私に笑い掛けた。