私は、団体さんと別れた後、18階層のダンジョン基地へ向かった。
道中は、先ほどの団体さんがモンスターを倒したのだろう、モンスターに邪魔されずに18階層までたどり着いた。
ダンジョン基地には、設営している段階で訪れて以来、来ていない。上層のモンスター調査があったからね。
数日ぶりに訪れたダンジョン基地は、ほぼ完成していた。研究用の施設が設置中だったけど、防御施設や住居、指揮所の施設は終わっていた。
私は挨拶をしに、指揮所へ向かった。
「お疲れ様です、
指揮所に行くと、ダンジョン基地の指揮官が少し驚いた様子で、出迎えてくれた。まぁ予定になかったからね。私は、これまでの経緯を指揮官に話した。
「なるほど、了解です。モンスターの行動については、私から研究者に伝えておきます。それで、そのモンスターを討伐した冒険者達と言うのは、もしかして?」
指揮官は、冒険者の集団が、遠征中のファミリアか気になったようだ。ダンジョンの調査に影響するからね。そういえば、どこの所属かは確認してなかったなぁ。
「あーごめん。何処のファミリアか、確認してない。でもロキ・ファミリアの第1級冒険者が、上層で確認されているから、多分遠征中のファミリアだとは思う。地上に戻ったら確認してみるよ」
私は、指揮官にそう伝えると、拠点に帰還した。
拠点に帰還すると、マトイは戻って来ており、1階の共用スペースで、他のアークス達と談笑していた。
「ミケおかえり…ってなんで転送装置から?今日は街の散策するって、言ってなかった?」
マトイは私が転送装置から戻って来たので、首を傾げながら尋ねてきた。
私は、マトイと他のアークス達に挨拶をした後、ダンジョンに行っていた事と、その経緯を話した。
「そんな事があったんだ。ベルくんは大丈夫?」
マトイは、ベルくんがミノタウロスに襲われたという話を聞いて、ベルくんの様子を気にしていた。
「うん。怪我もなく元気だったよ。助けが遅れてたら危なかったみたいだけど」
私がそう答えると、マトイも安心した様だ。
ロキ・ファミリアの件について、情報を集めて貰うよう他のアークス達に話をして、私は自分の部屋に戻ることにした。マトイも話はもう良いのか、私と一緒に戻るようだ。
「マスター、お帰りなさいませ」
部屋に戻ると、トラが出迎えてくれた。しかしトラは、少しそわそわしているように見える。
はて?
「ミケ、ダンジョンに行ったんだよね?なら、お風呂だよ?」
一緒に部屋に戻ってきたマトイに腕を掴まれ、部屋の隅の方へ連れていかれる。
あれ?お風呂は部屋のテラス部分に設置してるから、ここには無いはずだけど…
連れていかれた先には、仕切りがありその奥には、何故かテレパイプが展開されていた。
「なにこれ?」
私はテレパイプとマトイを交互に見た後、首を傾げた。
「えーっとね、以前アークスの保養拠点に温泉施設があるって聞いて、それで用意したんだ。そこなら一緒の湯船に浸かれるよ?」
マトイはそう言い、にこにこしながら、早く行こ?と促してくる。
私は、トラにも確認してみる事にした。
「トラは、これ知ってた?」
トラはバツの悪そうな顔をしながら答えた。
「マトイ様から、聞いて知っております。それで、マスターには内緒にして、驚かせようと。私も準備をお手伝いしました」
どうやら、私に内緒で2人で準備をしていたらしい。偶に居なくなってたのは、これの準備をしていたのかな?しかし、2人共お風呂好きすぎ…
「さ、早く行こ?すごくいい所だよ」
私はマトイに促されるままに、テレパイプに入っていった。
テレパイプを出るとまず目に着いたのは、小高い丘の様になっている温泉であった。温泉は頂上の方から湧いているらしく、下に向かって流れている。そして、途中途中が、湯船の様になっていた。
こういうのって温泉棚田って言うんだっけ?
そして、丘の麓は切り立った崖となっており、お湯はそこに流れ込んでいる。崖のこちら側には、休憩所と脱衣所があり、温泉棚田とこちら側は、橋で行き来するようになっている。
いやいや、広すぎでしょ!
専用のテレパイプで来るようになっているから、私の部屋からしか来れない所なんだろうけど、3人で使うには広すぎる。
「マトイ、ここ少し広すぎない?」
私がそう言うと、マトイは、そんなことないよ?と言いながら自慢げに胸を張った。
「ミケとわたしのプライベート温泉だよ?もちろんトラも入って良いからね!」
トラの方を見ると、マスターと一緒の湯船に入るのは夢でした、とうんうんと頷きながら嬉しそうにしていた。
私は、2人のお風呂に掛ける情熱は何なんだろう?と首を傾げつつも、折角用意して貰ったんだから、堪能することにした。
「折角用意してもらったし、使わないのは勿体ないね。それじゃ入ろっか。」
私達は脱衣所へ向かい、準備をして温泉棚田へ向かった。
温泉は良い感じでした。普段のお風呂も良いけど、湯船が広く手足を伸ばして、寝そべりながら湯船に浸かれるのも良いし、周りを見渡すと、森林地帯を模した作りになっているので、景色も良い。
私が、浅い所で大の字になって浸かっていると、左側にトラが、右側にマトイが来て、それぞれ寝そべりながら湯船に浸かった。何故か私の腕を枕にして…
いや、動けなくなるんだけど。
私は退いてもらう様に言おうとしたけど、2人共幸せそうな顔をして目を瞑っていたので、言い出せず、暫くこのままの姿勢で、湯船に浸かることになった…
翌日、昨日出来なかった街の散策を3人で行った。
散策の途中で、ロキファミリアが遠征から帰ってきている、との噂話を耳にした。昨日会った団体さんが、そうだったみたい。戻ったら、ジョージに確認してみるかな?すぐに確認しても良いけど、ダンジョンは逃げないしね。
夕刻まで街の散策を行い、拠点に戻ってから、ジョージに連絡をした。
ジョージは、今日明日は様子を見るので、それ以降に改めて連絡してくれるそうだ。
それから、アークス製魔石製品の販売をそろそろ始めるそうだ。オラリオ内でアークスの認知度がまだ低いので、まずは商業方面で進めるそうだ。
「明日は待機かなぁ。何処か行きたい所ある?」
私は今日の散策で、行きたい所は一通り周ったので、マトイとトラに、何処か行きたい所が無いか、尋ねてみた。
「早ければ明後日から、ダンジョン調査だから、明日は休みにしたらどうかな?」
街の散策も休んでいる様なものだけど、一応報告を上げてるから、調査の一環か。何もしない日が有って良いかもね。
「それじゃ、何もなければ、明日はオフ日にしよっか!」
時計を見ると、結構いい時間だったので、そろそろ休もうかと考えていると、部屋に備え付けの端末から呼び出し音が鳴った。
はて?通信でないとすると、来客かな?今の所、私を尋ねてきそうな人は、ベルくんかヘスティアかな?時間的に、遊びに来たわけではなさそう。何かあったのだろうか?
私は、その様なことを考えながら、呼び出し音に応答した。
来たのはヘスティアだった。
なんでも、ベルくんが食事に出かけて以降、この時間まで帰ってきていないそうだ。
それで、ここに来ていないか、確認のために来たらしい。
私は、今日ベルくんに会っていない事を伝えると、ヘスティアはおろおろしだした。
「食事だけでこんなに時間が掛かるはずは…ベル君は、黙って何処かに行くような子じゃないし…はっ!もしかして何か事件に巻き込まれたんじゃぁ!?」
ヘスティアは、慌てて部屋から出て行こうとした。私とマトイで、一旦ヘスティアを落ち着かせることにした。慌てている時に行動するのは良くない。
「ヘスティア様、
神は、恩恵を与えた人の生き死にが、感じられるという話をアルテミスさんから聞いている。それで居場所も分かるのでは?と思い、ヘスティアに尋ねてみた。
「ベルくんが居る、ということは分かるけど、居場所は分からないんだ」
ヘスティアは、ベルくんの存在を感知し少し落ち着いた様だ。
ベルくん何処に行ったんだろう?ベルくんは、ヘスティアの事は、いつも気にかけてたから、心配をかける様な事はしないと思う。オペレーターにお願いしてみようかな?
私は、通信を指揮所に繋げ、ベルくんのバイタルデータをサーチして貰うよう頼んだ。バイタルデータは以前パーティを組んだ時に、取得済みだ。
オペレーターからは、ダンジョンで反応があったと回答が来た。
「えっと、ベルくんダンジョンに居るみたい。ベルくんのデータがあったから探してもらったよ」
私がそう答えると、ヘスティアは私に向き直った。
「本当かい!?よく居場所が分かったね?それも君達のフォトンってやつの力かい?でもなぜダンジョンに?」
ヘスティアはそう言うと、首を傾げた。ベルくんの居場所が分かり、一応落ち着いた様だ。
冒険者であるベルくんが、ダンジョンに居ること事態は問題無い。問題は、ヘスティアに告げずに、ダンジョンに行っている事だ。
「うーん。理由分からないけど、戻ってきたら確認するしかないですね」
私がそう言うと、ヘスティアはそれもそうだなと答え、改めてベルくんを見つけた事に礼を言いホームへ帰っていった。
そして直ぐに戻ってきた。
「どどど、どうしよう!?ベルくんの装備がホームにおきっぱなしだったんだ!装備も無しにダンジョンに行くなんて自殺行為だ!!」
ヘスティアは、そう喚きながら、私に掴みかかってきた。
ちょっと落ち着いて欲しい…って無理か。
私は、ヘスティアをなだめつつ、ベルくんがどうしてその様な行動を取ったか考えたが、思いつかなかった。本当に何かに巻き込まれたのかな?
「私も気になるので、ダンジョンに行ってベルくんの様子を見てきます。幸い居場所はすぐわかるので」
ヘスティアをマトイに任せて、私はダンジョンへ向かうことにした。オペレーターに確認すると、6階層に居るそうだ。
「ミケ君!有難う!ベル君を頼む。私も行きたいが、神はダンジョンに入れないから…」
理由は分からないが、神はダンジョンに入るのは、禁止されているそうだ。アルテミスさんからもその様な話を聞いている。
私はヘスティアに頷くと、ダンジョンへ向かった。
ベルくんの反応がある場所に着くと、ベルくんは複数のモンスターと戦闘中だった。どうやら一人で戦っている様だ。全身傷だらけになりながら、鬼気迫る勢いでモンスターを倒していた。
加勢に行こうかと思ったけど、傷を負いながらも、確実にモンスターの数を減らしていたので、少し様子を見ることにした。
パーティを組んでいた時のベルくんと違い、動きも気迫も見違える様だった。
冒険者って、ちょっと見ない間に、物凄く成長するんだなぁと感心していると、最後のモンスターを倒したベルくんが、地面に寝そべり荒く息を吐いていた。
私はベルくんにそっと近づき、声を掛けた。
「ベルくん?」
私の声に反応して、ベルくんは飛び起きると、武器を構えて私の方を向いた。私を認識すると、力が抜けたのかその場に崩れ落ちた。
「ミ、ミケさんどうしてここに…」
ベルくんは力なく問いかけてきた。
「ヘスティア様が、ベルくんが帰ってこないって心配して、私の所に来たから、探しに来たんだよ。ベルくんはどうしてダンジョンに?」
「…」
ベルくんは、一瞬悔しそうな顔をしたけど、何も語ろうとはしなかった。
何かあったな?でもそれは話したくないと。
「ベルくん?何があったかは知らないけど、その様子だともう戦うのも辛いでしょ?ヘスティア様も心配してるから、帰ろう?」
ベルくんは、私の言葉に躊躇するも、自分の状態を確認し、限界に来ているのを悟り頷いた。
「ベルくん立てる?」
私はベルくんに手を貸し立たせた。ベルくんはふらふらだけど、自分で歩ける様だ。
「それじゃ帰ろう」
私が先頭に立ち、ベルくんと共にダンジョンを後にした。道中は幸いな事に、モンスターに遭遇する事は無かった。
「ベル君!!」
拠点の近くまで来ると、ヘスティアが外で待っていたのか、ベル君の下へ駆け寄ってきた。
ヘスティアとベルくんは、何やら話し込んでいる様だったので、私は傍を離れて見守ることにした。部外者の私が近くに居たら、話したい事も話せないだろうし。
暫く話し込んだ後、2人は私の方へ改めて礼を言い、ホームへ帰っていった。
何はともあれ、無事でよかった。
私は、2人を見送り拠点へ戻った。
翌日、ベルくんが自分を鍛えて欲しいと頼みに来たけど、どうしよう?
ベルくん…そんなにラッピーに会いたいのか…
ラッピーグッズって何があったっけなぁ…