僕はダイダロス通りを神様を横抱きにして、必死に走っている。後ろからは白い毛並みの大猿のモンスター──シルバーバックが迫ってきている。
何故こんな事になっているかというと、
今日は
でも僕は少しでも良い武器を買いたいため、午前中だけ祭りを覗いた後、午後からダンジョンに行くつもりだ。
そのためメンテナンスに出しているナイフを受取に、北西にある修理屋を経由して祭りが行われている東のメインストリートへ向かう予定だ。
ミケさんから武器のメンテナンスの重要性を聞かされているので、ミケさんと訓練後は必ずメンテナンスに出していた。
ミケさんの訓練は所定のコースを時間内にモンスターを倒しながら進むものだ。
ミケさんは
コースを紹介された時に使った『テレポーター』って言うのは不思議な物だったなぁ。
光る筒状の帯の中に入ると見知らぬ場所に出るから最初は戸惑った。ミケさんは「そのうち慣れるよ」っていってたけど僕は未だに慣れない。なんというか感覚が追い付かないというか……
最初に紹介された
キラーアントは、硬い外殻に覆われた昆虫型のモンスターだ。僕のナイフだとその外殻を貫けず、関節を狙って倒すしかないんだけど、倒すのに時間が掛かると仲間を呼ばれる。最初に対峙した時は仲間を沢山呼ばれた。
やられる!?
僕は必死になって逃げ様とした時、気が付いたらミケさんが横にいた。
僕は周囲を見回したけど、あれだけ居たキラーアントの姿は見えなかった。
ミケさんが言うには、僕が危機的状況に陥ると『安全措置』が働いてスタート地点に戻され失敗扱いになるそうだ。
こんな上層のモンスターすら倒せない状態で、本当に強くなれるのか?あの人に追いつけるのか?という不安がよぎり、視界がぼやけて来た。いや強くなれるのかではなく、なるんだ!追いつけるのかではなく、追いつくんだ!あの出会いと酒場の一件でそう決めたはずだ!
僕は、視界を覆う涙をぬぐうと自分に発破をかけるために頬を叩きミケさんの方を向いた。
「もう一回お願いします!!」
ミケさんは僕の勢いに驚いた顔をしていたけど僕を見た後、笑顔で背中を押してくれた。
「うん、大丈夫そうだね。何度でも挑戦すると良いよ!」
その後何度も挑戦したけど、その日はキラーアントの所で戻されるを繰り返していた。
ホームに戻った後も、いかにキラーアントを効率よく倒すかを考えるのに夢中になっていた。
神様はそんな僕を微笑ましそうに見ながら、ステータスの更新をしてくれた。
翌日ミケさんの所に行く際に、神様から今日から数日留守にすると言われた。なんでも用事があるらしく、それが終わるまでホームに帰らないらしい。
神様を送り出した後僕もミケさんの所へ訓練に向かった。
ステータス更新のお陰か、昨日あれだけ苦戦したキラーアントを倒せるようになっていた。キラーアントの動きが手に取るように分かり、的確に弱点である関節部を攻撃できるようになった。ただやはりと言うか、僕が使っている武器だと外殻は貫けない。
ステータスが上がっても武器が良くないと厳しいな。キラーアントとの連戦でボロボロになっていく武器に負担を掛けないよう戦っているため、残念ながら目標の時間内に突破は出来なかった。でも時間は掛かったけどコースの走破は出来たので、強くなっている実感が湧いてきた。
ミケさんにお願いして正解だった。僕はミケさんに感謝しつつ、その日は武器のメンテナンスのためダンジョンを後にした。
そして、走破は出来ても時間の短縮が出来ない事に苦慮しながら、
メンテナンスに出していた武器を受取、僕は
食べ物系の露店の所には、ミケさんの所に行くと良く対応してくれるアークスの人達が、荷物を忙しそうに運んでいた。
その内の一人は、僕を見るなり「案外いけるかもしれん」といって僕にうさぎの耳が付いた頭飾りを進めてきた事もあった。僕が全力で拒否すると残念そうに去って行った。何だったんだろう……
人をかき分けながら進んで漸く闘技場に着いたものの、余りの人の多さに道が塞がれていた。
僕は途方に暮れて、これじゃ入れないから今からでもダンジョンにと考えていると、僕を呼ぶ声が細い通りの方から聞こえてきた。
「ベ~ル~く~ん!!」
そこには数日見掛けなかった神様が、手を振りながら僕の方に駆け寄って来ていた。
神様は始終ご機嫌だった。僕の声が届かないくらい……
そして何故か、恐れ多くも僕は神様と所謂『デート』をしている。といっても神様に振り回され僕がドギマギしている様を神様が楽しそうに見ているというものだったけど。
そう『デート』というのは相思相愛の相手と行うもので、例えば僕があの人──アイズ・ヴァレンシュタインさんと仲良くなって一緒に歩いたり、食べ物を分け合ったり、夕日が沈む公園をバックに……といったようにもっとこう嬉恥ずかしなイベントのはずだ。僕はそんなことを考えながら神様と歩いていると、神様がジト目で僕を見つめていた。
「なんだい!?僕とのデートは楽しくないのか!そんなにヴァレン何某がいいのかぁぁ──!!」
神様は僕の胸倉を掴み前後に揺さぶってきた。
僕は慌てて思考を切り替え神様をなだめようとした時、闘技場の方から悲鳴が聞こえてきた。
僕と神様は今までのやり取りを忘れたかのように互いの顔を見合わせ、悲鳴が聞こえてきた方へ視線を向けた。
そこから出てきたのは、大勢の逃げ惑う人達とそれを追うかのように出てきた大猿──シルバーバックだった。
シルバーバックは僕達を視界に収めると、こちらに向かって威圧を込めた雄たけびを上げて進んできた。
シルバーバックの
あれは何だろう?僕の魂というか存在を掻き消されるかのような途方もない威圧を受け、僕は何も出来なかった。気が付いたら黄色い鳥に囲まれていたっけ……
僕は封印したはずの記憶を振り払い、神様を庇いシルバーバックと対峙した。
シルバーバックは確か11階層から出るモンスターだったはず。今の僕で敵うか分からないけど、レベル1で行ける階層の敵である事には間違いない。
とりあえずは一戦交えて敵わなければ神様を抱えて逃げる。そう決めると僕はシルバーバックに向かって突撃した。
シルバーバックに攻撃した際、僕のナイフは刀身から粉々に砕けてしまった。
武器が壊れるなんて!?メンテナンスしたばかりなのに……
幸いシルバーバックの動きは緩慢に見えたので、素早く方向転換し神様を抱え上げると脱兎のごとく逃げ出した。
そうして僕は神様を抱えて逃げている。
シルバーバックの姿は見えないけど確実に僕達を追って来ているのは分かる。このまま逃げ続けても何れ追い付かれる。
どうしたものかと考えていると、神様が真剣な顔をして僕に話しかけてきた。
「ベル君止まってくれ。こうなったらベル君、君があのモンスターを倒すしかない!」
しかし僕の武器は先ほどの一戦で壊れてしまっている。
「今の僕の武器では、あのモンスターは倒せません」
現状僕が買える一番良い武器での攻撃は、シルバーバックの毛皮に傷をつける事すらできなかった。僕は粉々に砕け持ち手のみとなったナイフを神様に見せつけるようにして差し出した。
しかし神様は僕の腕から降りると、笑顔で僕に発破を掛けてくれた。
「君の新しい武器はある。僕が君を勝たせて見せる!それに僕は君が勝つ事を信じている」
神様はそう言って、背負っていた包みを僕に押し付けた。
包みの中には1本の黒いナイフがあった。神様はもしかしてこの武器のために数日空けていたのか……僕は神様への感謝と僕への信頼に目頭が熱くなってきた。
「この武器を使うにはステータスの更新が必要だ。何処かにいい場所は無いか……」
神様は周りを見渡しとある物陰を指さした。
「あそこでやろう。さぁベル君急いであそこへ!」
僕は神様に言われるがまま、神様が指さした物陰へ再び神様を抱えて向かった。
ステータスを更新後何故か呆然としている神様を残し、向かってきたシルバーバックと再び対峙した。
後ろの方で神様が何かぶつぶつと呟いていたのが気になるが、今は目の前のシルバーバックに意識を集中した。
その後は一方的な展開になった。ステータスの更新もそうだけど神様が渡してくれた黒いナイフ『ヘスティアナイフ』の威力は絶大だった。
あんなに硬かったシルバーバックの毛皮をいともたやすく切り裂くことが出来た。僕は止めとばかりに魔石が有る場所──体の中心に向けてナイフを突き出した。
ナイフの突きを受けたシルバーバックは、苦しみながら霧散していった。
シルバーバックが倒されると物陰から見守っていたと思われる人達に囲まれ、歓声を浴びせられた。僕もシルバーバックを倒せた事に安堵して、神様のほうに向くと前のめりにへたり込んで僕に向けて右腕を上げ親指を立てている神様がいた。
僕が慌てて神様の下へ行くと神様は先ほどの格好のまま眠っていた。今回の騒動で疲れたのだろう。
僕は神様を抱えると、歓声に包まれながらホームへの帰路に付いた。
次話はアークス側の活躍となります。