オラクル船団がオラリオにやってきた   作:縁側

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閑話-怪物祭sideアークス

 ベルとヘスティアがシルバーバックに襲われていた時を同じく、我らがアークス達もこの騒動に巻き込まれていた。

 

 我々「獣耳の美少女を愛で隊」は、現在デメテル・ファミリアに出向という形で所属している。

 デメテル・ファミリアは、ファミリアに所属する事イコール神の恩恵(ファルナ)を与えるという事はなく、普通の農民も多数所属している変わったファミリアである。

 そのため我が隊もファミリアに所属することが出来ている。

 

 本日は、怪物祭(モンスターフィリア)という催しが行われる。

 デメテル・ファミリアとしても稼ぎ時となっており、我が隊も荷物の搬送に従事していた。

 転送装置か輸送機が使えれば楽なのだが、その手の技術はまだ大っぴらに使うのを控えているため、馬車と己の手足で荷物を運んでいる。

 我々は何時もの様に獣耳雑談をしながら、各所へ荷物を運んでいた。

 

 ……神様獣耳化プロジェクトの進捗はどうだ?ちなみに私は全然ダメだった。

 

 ……俺もだ。

 

 ……俺も。

 

 ……なぁ、アプローチの仕方がまずかったのではないか?

 

 当プロジェクトは元々デメテル様にどの獣耳が似合うかを話し合っていた時に、物は試しにとデメテル様に獣耳を見せて反応を試した事より始まった。デメテル様の反応は芳しくなかったが。

 その後デメテル様へのアプローチは諦め、最近ミケ殿が懇意にしているヘスティア様にも試してみた。

 ヘスティア様はミケ殿の所有する衣装には興味を示していたので期待していたが、残念ながらこちらも空振りであった。

 しかし我々は諦めなかった。デメテル・ファミリアと懇意にしているファミリアの主神に会う機会があれば試していたが、それでも反応は芳しくなかった。

 中にはこんな言葉を神から貰った事もある。

 

「獣耳のアクセサリー?そんな物付けるより本物見た方が良いじゃん?」

 

 ここの神々は自身が追体験するのではなく、他人が行っている様を眺めて悦に入る傾向が強いようであった。

 そして中には、私が獣耳を出す前から物凄い形相で睨みつける主神と、同じ様に睨んでくる眷属のニューマンに出会う事もあった。その後すぐに取り繕ったが、あれは珍しい反応だった。

 そのことを踏まえデメテル様に報告したら、デメテル様からのお叱りの言葉と共に、そのファミリアであるディオニュソス・ファミリアの対応を任される様になった。なんでもお得意様の機嫌を直してもらうため、詫びを兼ねて我々に対応して貰うとの事。我々も訳も分からず外されるのは本意ではなかったため、有難い提案であった。

 その様な事もあり、我々のプロジェクトは暗礁に乗り上げていた。

 我々はこのままこのプロジェクトを推し進めるか、別のアプローチを模索するかの選択を迫られていた。何もなしていない現状で当プロジェクトを諦める選択は我々には無い。

 

 今後の進め方について話し合おうとした時、闘技場の方から歓声とは異なる声──怒声や悲鳴が聞こえてきた。

 我々はお互い顔を見合わせ頷くと、騒動の場である闘技場へと向かった。

 

 

 

 闘技場の周辺は騒然となっていた。

 漏れ聞く話によれば、テイム用のモンスターが数体逃げ出し暴れているとの事。

 我々の腹は決まった。

 アークスとしても逃げ惑う住人を守るため、まだ見ぬ獣耳の美少女を助けるため、そして何よりもデメテル・ファミリアで出会った気の良い獣人族の皆様のためにも、我々は逃げ出したモンスターの対処へ向かった。

 

 

 

 数体のモンスターを討伐した私に、あるフォトンの囁きが聞こえてきた。

 これは、幼い獣人族の子供が怯えている!?

 私は仲間にフォトンの囁きを伝えると、急いで現場に向かった。

 

 現場には、植物型のモンスターと対峙している3人の少女たちが居た。

 2人の少女がモンスターを素手で叩いていたがあまり効果は無い。もう1人の少女はモンスターの方に向かい、何かを呟きながら意識を集中している。

 あれは魔法を発動させているのか?

 私は仲間に彼女達の援護を任せ、フォトンの囁きを辿って戦闘が行われている広場の端へ向かった。

 広間の端には複数の屋台が立ち並んでおり、その一つから囁きが聞こえてくる。

 その場に行くと、幼い獣人族の少女が蹲り怯えていた。

 私はそっとその少女に声を掛けると、恐る恐る顔を上げ私の方を見た。

 涙で酷い状態であったが、その少女には見覚えがある。デメテル・ファミリアと取引がある露店主のお子さんで、何度か一緒に遊んだ事もある。そのため私を確認すると勢いよく私に飛び込んできた。

 

「おじさん!!怖かったよー」

 

 私は少女をあやしながら仲間たちの様子を確認すると、事態がさらに動いていた。

 魔法を発動させようとした少女の元には触手が向かっており、そして少女を庇う様にして武器を構える仲間の一人。彼は我が隊が誇る守備の要だ。魔法発動中の無防備な所を狙われたのだろう。

 2人の少女の所へは、残りの仲間が向かっていたが、こちらの攻撃で傷を付ける事は出来ているがあまり芳しくない。倒すには時間が掛かりそうであった。

 私は少女を抱え安全な場所まで送り、加勢に戻ろうと考え踵を返した時、空から別の少女が飛んできた。

 その少女は、何か力のようなものを全身に纏い、手に持った剣でモンスターを一刀の元に切り伏せた。

 切り伏せられたモンスターは霞となり消え去った。

 

 空を飛んできた少女と他の少女たちは仲間の様で、お互い声を掛けて健闘をたたえ合っていたが、私の仲間は新手の気配を感じ、構えを解かず新手の出現を待ち構えていた。

 私もこの場に居てはこの少女を巻き込む可能性があると考え、早々に離脱する事にした。

 

 

 

 広間の入り口に行くと、ギルドの職員へ少女の母親である露店主が少女を探して欲しいと訴えている。

 私は少女と露店主を安心させるため、そちらへ向かった。

 

「ままー!!」

 

 母親に気が付いた少女は私から飛び降りると、勢いよく母親へ向かって突進した。

 少女に気が付いた母親は驚きの表情の後安堵した表情になり、少女の突進を受け止めた。

 

「よかった……ほんとうによかった……」

 

 母娘の再開を前に私も安堵の息を吐いた。

 これであの少女も大丈夫だ。

 私は仲間の加勢のために再び広間へ向かおうとすると、母親から声を掛けられた。

 

「この子を助けてくれてありがとう……あら?あなたはデメテル様の所の?」

 

 私は母親からの感謝の言葉を聞き感無量となった。

 思えば我々はオラリオに来てから随分と変わった。

 オラリオへは獣耳を求めて来たのは今もそうだが、獣人族との出会そして絶望と再起を経験し獣人族への思いは、愛でる存在ではなくこの世界を共に生きる隣人として思うようになっていた。

 現金なものでそう思うと、獣耳のおばちゃんやおっさんを見ても以前の虚無感を全く感じない。寧ろ他の種族より友好的に接する様になっていた。

 ……獣人族以外の種族は今一つ把握し切れていないが。

 そのお陰か私のフォトンは更に強化され、某六坊の六の人みたいにフォトンを感じ取れるようになっていた。まぁ獣人族限定だが。

 無論我が隊の仲間もそれぞれ強化されている。他のアークスと比べても頭一つ抜けているという自負がある。

 

 私は仲間の加勢に向かう事を伝えると母娘に背を向ける。

 私の背中へ少女の声が掛けられた。

 

「おじさん!がんばってね!」

 

 その声を聴いた瞬間、私のフォトンがさらに活性化された!?

 私は少女に力強く頷くと全速で広間と駆けて行った。

 

 

 

 広間では新たに3体のモンスターが暴れまわっており、仲間と少女達は苦戦している。

 空から飛んできた少女が持っていた剣は壊れてしまったようで、今は素手でモンスターと対峙していた。

 私は空を飛ぶ少女がこの中で一番強いと直感で感じ、私が今持っている武器をその少女に差し出した。

 フォトンが無くても、只切る武器としても使えるはずだ。

 

「君の使っていた直刀と違い曲刀だが君なら使えるだろう。この武器を使ってくれ!」

 

 私がそう言うと少女は頷き、私から武器を受け取ると勢いよくモンスターへ向かっていった。

 私は弓を取り出すと心を落ち着かせ集中、己のフォトンを収束させていく。

 暴れているモンスターの1体に狙いを定め私の渾身の一撃を解き放った。

 私の攻撃と武器を渡した少女の攻撃により、2体のモンスターが霞となって消える。

 残りの1体は素手の少女たちによる連携攻撃で内部が破壊されたのだろう、同じく霞となって消えた。

 

 残身を残しつつ周囲を警戒したが、新手は居ないようで私は構えを解く。

 仲間たちが私の所に集まると、開口一番獣人族の少女の安否を確認してきた。

 流石私の仲間だ。私が少女が無事であり母親の所に届けたと伝えると、漸く安堵した顔になる。

 ちなみに仲間たちは怪我一つなく無事であった。まぁあの程度の硬いだけの敵は、アークスとして散々戦っているので問題は無いと踏んではいたが、無事で何よりである。

 

 我々が話していると、共闘していた少女たちが私達が集まっている所へやって来た。

 武器を貸した少女が最初に私達の所に近づき、私に武器を差し出す。

 

「武器ありがとう……この刀物凄く良かった。それに、あなたの弓の攻撃も凄かった」

 

 私の武器は、アークス正式採用の武器ではなくオーダーメイドの武器だ。そして数々の強化とアークスの最終ボス(ドゥドゥ)との激戦を繰り広げ、勝利した武器でもある。

 私は武器を褒められた事を誇らしく思いながら武器を受け取った。

 

「そうそう、矢がぴかーって光ったと思ったらびゅーんって飛んで行ったの凄かったねー。あんな弓の攻撃初めて見たよー。あっ、あたしはティオナだよ、よろしくね」

 

 そう言いながら私に近づいて来たのは、素手で戦っていた少女『ティオナ』であった。

 

「そうね。確かに見たことない攻撃だった。まるで単発の魔法ね。私はティオネよ」

 

 少女の言葉に同調するように、もう一人の少女『ティオネ』も近づいて来る。

 

 アークスのフォトンを纏った攻撃はこちらの世界では魔法の様に見えるのだろう。

 私は素直に礼を言っていると、魔法と言う言葉に反応したもう一人の少女──見た目からニューマンだろう──がため息を吐いていた。

 

「私がちゃんと魔法を詠唱出来てれば……」

 

 ズーンという擬音が聞こえそうなほど落ち込んでいるニューマンの少女の下へ、先ほど名乗った少女達が慰めの言葉をかけている。

 

「レフィーア、しょうがいないよ~!あの新種は魔法に反応してたし」

 

「私達も武器があればここまで手こずらなかったからお相子よ。それにレフィーアはお礼を言わないと」

 

 レフィーアと呼ばれた少女は「そうでした!」と言い顔を上げ我が隊の守備役の所へ行き頭を下げた。

 

「あの、助けて頂いき有難う御座います!」

 

「ついでで助けただけだ。気にするな」

 

 彼はそう言いそっぽを向いた。照れている様だ。

 

「ついで……ですか?」

 

 レフィーアは首を傾げながら彼に問いかけている。

 彼は助けを求めるように私に視線を向けた。

 

 ……説明を頼む。

 

 ……ちょ、おまっ。

 

 我が隊の仲間は、口下手が多く交渉事などはすべて私が行っている。そのせいでやりたくもない隊長職を任されている。

 彼らも普段から獣耳雑談の時みたいに饒舌になれば良いのだが……彼は我が隊の新しい名前を考えた天才だ。きっとまともに話が出来ればもっと出世するだろうに。

 私はため息をつきつつ彼女達に説明をした。

 

「すまない彼は口下手でね。実はここの露店の陰に獣人族の少女が逃げ遅れていてね、それを私が救出するため、彼らには援護を頼んでいたんだ」

 

 私の説明を聞き、レフィーヤは「そうだったんですね」と納得し頷いている。

 

「うん……彼が助けてくれたから私も攻撃に回れた」

 

 今まで黙っていた武器を貸した少女が、私の説明を肯定するように頷いた。

 

「アイズさんは気が付いてたんですね?それなのに私は自分の事ばかりで……」

 

 そう言うとレフィーヤはまた落ち込んだ。良く落ち込む子だな……

 

 ティオナとティオネは呆れ、アイズと呼ばれた少女はどう話そうか右往左往していると、彼女達を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「お仕事ご苦労さん!さっきので暴れていたモンスターは最後や」

 

「「「「ロキ!」」」」

 

 そう言いながら彼女達の所へ来たのは、剣を持ったスレンダーな女性だった。

『ロキ』という名前と今まで様々な神と会ってきた経験から、彼女が神である事が分かった。彼女達ファミリアの主神だろう。

 

「それとおたくらも手助けありがとな。デメテルにはうちからも礼いうとくわ」

 

 ロキは我々の胸や背中にあるエンブレムを見ながら労いの言葉をくれる。

 我々は、デメテル・ファミリアに出向した際にエンブレムをアークスの物からファミリアの物に変更している。

 

「しっかしデメテルのとこに、こない戦えるやついたかいな?」

 

 ロキはそう言い首を捻る。そして「あーおたくらがアークスか」と独り言ちた。

 どうやらデメテル様に我々の事を聞いている様だ。

 

「そや、ちいと聞きたいんやけど、髪が青から紫に変色していて赤い瞳のエルフっ子知らん?」

 

 エルフ?私達はエルフと言う言葉にお互いの顔を見合わせ首を捻る。こちらの種族はヒューマンと獣人族以外の見分けが付かない。まったく興味が無いというのもあるが……

 ロキは我々の反応が悪い事に気が付き、レフィーヤの耳を指さしながら「こういう耳の子や!」と教えてくれた。

 それを聞き我々は合点がいった。特徴からミケ殿である事が分かる。そういえばミケ殿はロキ・ファミリアと思われる一団に会ったことがあると言っていたな。

 

「ミケ殿の事ですかな?」

 

「ミケっちゅうんかいな?なんやものごっつう強いらしいな?」

 

 ミケ殿はアークスの最高戦力であり守護輝士(ガーディアン)である。そして何よりも守護輝士(ねこ耳)であり我らの誇り(獣耳フレンド)だ。

 

「ミケ殿は我らアークスの最高戦力で誇りです」

 

 ロキは私の言葉を聞き「さよか」と答えた後、少女たちに向き直った。

 

「地上にいるモンスターは全部討伐完了。アイズたん達は地下の様子を見に行ってもらってええか?まだ何かいそうなる気がするわ。うちはこの子達にまだ聞きたいことがある」

 

 そう言いつつロキは手に持っていた剣をアイズに渡した。

 彼女たちはロキの言に従い地下へと向かっていった。

 

「それで話とは?」

 

 私がロキに尋ねると、ロキはにんまりといやらしい顔になった。

 

「なぁ、おたくら獣人族の耳を模したアクセサリーもっとるってほんまなん?」

 

 ロキの言に我々は互いの顔を見合わせると素早く懐から押しの獣耳を取り出した。

 

「おおぉ、これかいな、デメテルがいっとったのは!」

 

 ロキは目を輝かせながら我々が取り出した獣耳を眺めていた。そして何かを想像したのかだらしない顔になった。

 

「なぁ?これゆずってもらってもええか?」

 

 なんと!オラリオに来て初めて獣耳に興味を持って貰えた!我々は満面の笑みを浮かべながらそれぞれの獣耳をロキに渡す。

 

「神ロキよ、これはお近づきの印として差し上げましょう!しかし獣耳は非常に高価です。もし数がご入用でしたら次回から料金を頂きたいです」

 

 ロキは渡された獣耳をしげしげと眺めている。

 

「確かに高そうやな。よしわかった、次からはこうたるわ!」

 

 私はロキと固い握手を交わす。

 ロキは嬉しそうにしながら我々の前から去って行った。

 

 ……我らのプロジェクトに進展があったな!

 

 ……あぁ、素晴らしい!

 

 ……うんうん

 

 ……よし、ロキ・ファミリアは我らの最重要ファミリアとして記録しておこう!

 

 我々は清々しい思いを胸に、広間を後にした。




次回から本編に戻ります。

2/26追記
次回の投稿ですが、バタバタしておりまして3月以降を予定しております。

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