私達は予定よりだいぶ遅れたが、オラリオの外壁を望む場所までやってきた。
時刻は太陽が外壁に沈み暗闇が迫り始める頃、そのためオラリオへ入るための門はまだ開いてはいるが、今並んでいる人達を受け入れたら、明日の日の出まで門を閉ざすらしい。
門から少し離れた場所には、明日のオラリオ入りを控えテントを張り休むもの、馬車の中に身を潜め休むもの、はたまたオラリオまでやってきて入れなかった者達に対して、商売を始めるものなど様々な人たちが、思い思いに過ごしていた。
その間を武装した複数の集団が、睨みを利かせるようにして佇んでいた。
「あの人達は?」
私は武装した集団を眺めながら、アルテミスさんへ訪ねた。
「あの子達は、【ガネーシャ・ファミリア】の者だな。大方この辺りで悪さをしている者がいないか、見回りをしているのだろう」
私はアルテミスさんが説明した、冒険者間のいざこざを思い出し尋ねた。
「ここにも、冒険者達の争いがあるってことですか?」
アルテミスさんは、そういえばいろいろ話を漏らしているな……とひとりごち説明をしてくれた。
基本的に、『
オラリオ外の勢力への戦力流出を防ぐためだそうだ。
『
そのためオラリオ内の【ファミリア】は、外の【ファミリア】とは比べ物にならない程戦力差が大きいらしい。
オラリオ内の第一級冒険者ともなると、一騎当千の活躍をするそうだ。
オラリオはその強大な戦力となる冒険者達により、他勢力の影響を受けることなく、都市国家のように独自の運営を行えているらしい。
国の利害とかは私は良く解らないので、そうなんだ位の感想しか出なかったが、そこでふと気が付いた。
「ということは、アルテミス様やルーナは、オラリオに入れないのでは?」
私がそう言うと、アルテミスさんは一枚の書状を手に取り、それでこのギルドの許可証があるのだよと説明を続けた。
【アルテミス・ファミリア】は、アルテミスさんがアンタレスを封印した関係で、大昔に流出した強力なモンスターの封印監視や、早期発見任務をギルドから請け負っているらしい。
それなりの戦力がないと遂行できないため、オラリオのダンジョンを使用できるようギルドが許可を出しているそうだ。
色々と制約はあるそうだが、他のオラリオ外の【ファミリア】と比べ戦力的に勝っていると自負しているらしい。
その様な話をしていると、周りはすっかり暗くなっていた。
外壁を照らす明かりや、外壁の上の方から漏れてくオラリオ内の明かりを眺めていると、ルーナがやってきて夕食の支度ができたことを告げた。
私たちは火を囲むようにして座り、ルーナから食事を受け取り食事を始めようとすると、ルーナから本日何度目になるか分からない謝罪の言葉が紡がれた。
「アルテミス様、ミケ、マトイ、私のせいで本日中にオラリオに入れなくなり、申し訳ありません」
ルーナはそう言いつつ頭を下げた。
頭の上にある二つのうさ耳も、根元から折れて萎れている。
私達も何度目になるか分からない、慰めの言葉をルーナにかけた。
「大丈夫だよ。気にしないで。むしろ、オラリオの夜を外で過ごせるという、貴重な経験ができたから私は嬉しいかな?」
「そうだよ。ルーナちゃん。だれも気にしてないよ」
「そうだぞルーナ。あの子達も、誰もルーナを責めたりはしない」
何となく、私が一番惨いことを言っている気がしないでもないが、本心だしなぁ……
一応の予定としては、今日中にオラリオに入り買い物や報告をしてオラリオで1泊、翌日ベース基地へ直接戻り、療養中の人たちへ
その間に、トラブルなどがあった場合を想定して、2日ほど余裕をみていたが……それでなぜ遅れたかというと、【アルテミス・ファミリア】からの出発の際、まぁ色々あった……ルーナの名誉の為に黙すけど……その間、お互いの事を呼び捨てで呼び合うようになった。
マトイはちゃん付けだけど。
ルーナを慰めつつ、ふとルーナの頭を見ると
私は確かめる様にアルテミスさんの耳を見たが、イアリングはそのままだった。
ということは新しいやつか……
そうする内に、ルーナも落ち着いてきたのか、うさ耳が立ちだした。
癒し効果があるのは認めるが、なぜこうもピンポイントで来るのだろう?と不思議に思ったが、気にしてもエンペラッピーに慰められる未来しか見えないので、気にしないことにした。
そうして食事を終えた後、マトイと交代で見張りを行う旨を告げ、アルテミスさんとルーナは休ませることにした。
ルーナは、自分も見張りを行うと言っていたが、私達は元々アルテミスさんの護衛としているため、そこは遠慮しなくていいよとルーナに伝え休ませた。
朝霧が立ち込める早朝、私は朝霧の中にうっすらと浮かぶ外壁を眺めていた。
昨夜は【ガネーシャ・ファミリア】の見回りのお陰か、特に問題もなく過ごすことができた。
私はいよいよオラリオに入れるという思いから、興奮のためかよく眠れず、早々にマトイと見張りを交代した。
『アークス』として過ごしてきて、それなりに経っており数日寝なくても問題ないため、そこはマトイも素直に了承し眠りについた。
そうしている内に、背中が温かくなってきた。
どうやら日が昇り始めたらしい。
そろそろ開門かな?と思い皆を起こすことにした。
朝食を終え準備を終えた頃には、門へ並ぶ列が大分長くなってきていた。
私たちは急いで列に並ぶことにした。
そして列の流れに沿って進む内に、漸く順番が回ってきた。
受付に着くと、アルテミスさんを見た受付の人が席から立ってお辞儀をした。
「アルテミス様。ウラノス様より、ギルドへお越しいただくよう承っております。それから、お連れの方々は【ファミリア】の方でよろしいでしょうか?」
アルテミスさんは、無言でうなずくと書状を受け付けの人に見せた。
受付の人は書状を確認すると、確認致しましたのでお通り下さい……といって再度お辞儀をした。
私達は、そのまま門を潜りオラリオへ足を踏み入れた。
私は未知への突入だと、高鳴る胸を押さえることなく、わくわくしながらオラリオ入りを果たした。
ミケは、始終興奮しっぱなしだった。
オメガ世界で体験した街並みとは異なるオラリオの街並みを目を輝かせながら、きょろきょろと見渡し、時折ルーナに質問しながら大通りを中心部へ向けて歩いていた。
その様子をマトイとアルテミスは、微笑ましいものを見るような眼差しで見ていた。
ルーナはミケの興奮した状態に引きながらも、質問に対しては律儀に答えていた。
そうして、一同はひと際開けたけた広場へ足を踏み入れた。
そして目の前には、巨大な塔がそびえたっていた。
それを見たミケは更に興奮し、ルーナに詰め寄り説明を求めていた。
ルーナは涙目になりながらミケに説明をした。
ダンジョンに蓋をするように立てられた塔「バベル」、地上部と地階にはギルドの施設とダンジョンの入り口があり、上の階には【へファイトス・ファミリア】──武器や防具を作成している鍛冶系【ファミリア】──のテナントが入っている。
更に上層は、神々の住居があるという。
ミケはその話を聞きながら、バベルを見上げて、おおぉと声を上げながら眺めていた。
その様子を見た周りの人たちは、
……お上りさんかな?
……オラリオは初めてなのかねぇ
……冒険者志望の子かなぁ?
……あれ?アルテミスじゃん
……ロリエルフキタ!
等とミケ達を見ながら話していた。
どうやら神も居たらしい……
流石に目立ちすぎたのか、アルテミスはミケを無理やり引っ張りながら広間を後にした。
マトイとルーナは慌ててアルテミスの後を追っていった。
広間から離れた後、アルテミスはミケに言い聞かせていた。
あまり目立つ行動を取ると変な神の目に留まり、不愉快な思いをすることになるため、気を付けるようにと。
流石にミケも反省したようで、皆に謝っていた。
その後は若干気落ちしたミケを伴いながら、ギルドへ続く大通りを歩いていた。
そして道半ばまで来た時、通りに男女の声が響いてきた。
「急ぎたまえ!ベル君!僕達の新しい未来が待っているのだよ!!」
「神様ぁ~。そんなに急がなくても、ギルドは逃げませんよ~~!」
どうやら片方、女の声の方は神の様である。
ミケはアルテミスに知っている神か尋ねたが、アルテミスは聞いたことある声だが誰だったか……と答え周りを見渡して声の主を探していた。
だが、人が多いため声の主を見つけられなかったが、ギルドに向かっているようだし行けば会えるだろう。とアルテミスは答えた。
ミケ達は歩みを早めギルドへ向かった。
次回辺りで一区切りで次々回あたりで原作に突入かなと思っております。