かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線 作:AQUA BLUE
※ゆうぽむは既に結ばれています
昨日に引き続き気持ちの良くなるような青天に、家を出たかすみはつい思い切り伸びをする。元々溢れるばかりにある気合いも、ますます入るというものだった。
ところが、次の瞬間彼女は青ざめる。
――始業までの猶予がいつもよりない。
「こんなことしてる場合じゃありませんでしたっ!」
かすみは走り出す。練習のみならず、プライベートでも可愛くなるための自分磨きを日々怠らない彼女は、時たまこうして遅刻しそうになるのである。
――いくらか距離がある分、一生懸命前進しながらもしばしばかすみの中で考え事が浮かぶ。
(うーん、昨日のアレはなんだったんだろ)
しずくと下校してから連絡アプリに来ていた内容。同好会メンバーにして一学年上の先輩……宮下愛からのメッセージ。
『今何してるー?』
内容としてはこんなふう。世間話の切り出しとしては、特段違和感を覚えるものではない。かすみが首を傾げることとなったのはここからで、その後『しず子と帰ってましたよ~』とありのままの返答をしたところ、簡素に『そっかー』とだけ反応があったきり、以降はやりとりが続くことはなかったのだ。
まあ、会話は成立している。さほど気にする必要性はないのかもしれない。ただ、宮下愛の人柄を比較的深く知っているかすみとしては、「らしくない」と思えてしまった。
宮下愛といえば、明るくノリノリでだじゃれ好き。誰とでも仲良くなろうとする姿勢を持ち、ゆえに人望も極めて厚く、人懐っこい。またおばあちゃん子だったり、ピュアだったりと、意外性も抜群。楽しいの天才みたいな人。
そんな彼女が、珍しく話を簡単に打ち切った。
これはかすみにとって初めてのことだった。アプリ上にしろ、現実での会話にしろ、話は膨らむどころかむしろ一々ワイワイするくらい盛り上がることが多い。
だからまるで昨日のトークはただただかすみが何をしていたか「だけを」把握したかったみたいで――。
(って、たぶん忙しかっただけかな。愛先輩の家もんじゃ屋さんだし)
「最近、かすみんはちょーっとお疲れなんですかねぇ」などと自分で自分に悪態をつきながら、ちょうど思考に区切りがつくと同時、かすみはなんとか想定していたに学校の敷地内へ突入していった。
☆
放課後、同好会部室。
「かすみさん、私とストレッチを……」
「かすみちゃん。一緒に、やろ?」
「あら? 二人ともこの間かすみと組んだばかりじゃない。ここは私が――」
「果林ちゃん。本気じゃないよね?」
「じゃあ皆が揉めてる間に……かすみちゃん、彼方ちゃんとストレッチしよ~」
「皆さん、かすみさんが困っています! あと、順番から行って今日は私の番です!!」
(ほんとに疲れてるのかな、私……)
かすみは目が回りそうになっていた。いっそ夢かもしれないと顔が引きつるくらい、皆が自分自身に釘付けな光景に。
同好会はランニング及びダンスといった練習を行う手前、準備運動やストレッチを入念にする必要がある。そのため効率アップ狙いもありペアを組むのだが……何故かメンバーたちが自分を取り合っている。
会話部分だけ切り取ってみれば可愛いものだが、一人一人の目つきが冗談のそれではない。幸いにも先輩である同好会部長と
なんにせよ、放っておけばヒートアップすること必至だ。まだ混乱から解放されないものの、かすみは辛うじて行動に出る。
「わーん、そんなに争わないで~! かすみん困っちゃう~!」
体をくねらせ、注目を集めるように。露骨な可愛さ全開でアピールする。対応に困るもしくは白けるという感じから、すーっと解散してくれることをかすみは期待した。
ぶりっ子枠がくらいがちな、流されるオチ。わりといやかなり不本意なのはともかく、それを利用せんとしたかすみ渾身の機転であった。
「やっぱりかすみさんが一番かわいいよ……」
「璃奈ちゃんボード『メロメロ』」
「こうなったらかすみとは私が組むしかないわね!」
「あ~、思わず抱きしめたくなっちゃうよ……」
「彼方ちゃん、おめめぱっちり! 俄然やる気出てきたよ~!」
「かすみさん……最高ですかすみさん!!」
結果として火に油を注ぐだけであったが。
予想だにもしないまさかの全員絶賛にかすみは戦慄してしまう。
「かすかす~」
と、彼女の耳へ微かに何者かの声が届く。項垂れたい想いをこらえながらもかすみが反応すると、こっそりと彼女を手招きする者がいた。
――同好会メンバーにして二年生の先輩の一人、宮下愛だ。
こっちこっち、と愛はかすみを誘導する。彼女の悪戯っぽい笑みを見て、概ねかすみは愛の意図を察した。
わいのわいのと沸き立つストレッチ希望者たちを押さえている部長たちにジェスチャーと目配せをして、かすみと愛は動き出す。できるだけ音を立てないようにスライド式のドアを掻い潜って――広い広い廊下へと出た。
「ありがとうございます、愛先輩。とりあえず助かりました……でも、かすかすじゃないです。かすみんです」
「あはは。どういたしまして、かすかす」
「も~っ!」
ほっと一息をつきながらも、入り口ではすぐ見つかりかねないという理論のもと、二人は外へ続く方向へ進む。ついでに、向こうでストレッチも済ませてしまおうという寸法だ。
かすみは安堵した。皆の様子がおかしい中で、
「なんか大変そうだったねー」
「ほんとですよぉ。みんながかすみんかすみんって……可愛すぎるのも罪ですね」
「あははは……」
いつものストレッチに使う場所についた二人は雑談をしながら体をほぐしていく。終わればマットを広げ、かわりばんこでお互いの長座体前屈を手伝う。
やがてかすみが背中を押してもらう番になり――
「でもね
――愛さんもそうなんだ」
「えっ?」
乾いた声がかすみの喉から漏れる。背中を押していた愛は、かすみが気付いた頃には後ろから抱きつく形となり、その整った顔をかすみのすぐ傍に接近させていた。
仮にかすみが、なおも「単なる友情からくる発言」だと解釈できるほどの鈍感だったなら、まだいくらか毒気を抜けていたかもしれない。しかしかすみは、今起こした愛の行動が特別な想いからくるものだと受け取れる程度には鋭さを持っていた。
「かすかすが可愛くてたまらないんだ、
一段と低くなった真剣味あるトーン。普段の彼女を包む、明るくもおちゃらけた雰囲気は含まれていない。異様に熱を帯びているとかすみが錯覚するほどあたたかな吐息が、彼女の耳朶を震わせた。
「……っあ、あ、愛……せんぱい……?」
先程の自分を巡った談義が可愛くみえてくる程の急展開に、かすみは詰まりながらも愛の名前を呼ぶのがやっとであった。
さらに畳み掛けるように、先輩は後輩へ呟く。いや、愛は実際畳み掛けている。
ここ一ヶ月、同好会メンバーら(一部のぞく)の中での水面下であった膠着状態を潜り抜けて……宮下愛は誰よりも早く、大胆なる行動に出たのである。
「――ねぇ。愛さんと、ずっと一緒にいてくれないかな?」
「ぁう、その、私は――」
頭が痺れるような感覚がかすみを襲った。キャパーオーバーを越えて、かすみはもうなにが起きているのか、はたまた今現在の図が夢か現実なのかわからなりそうであった。
背を中心に伝わる自分に伝わる柔肌の感触。胴へ優しく回された腕――からかって拘束する時とは違う、首元をくすぐる、きめ細かな淡い金の糸。
強烈に自身へ流れ込む愛情は、性別うんぬんの垣根を越えかすみを芯から深紅に染め上げる。初めてどころか、想像すらしていなかった未知なる道へ続きかねない事態。
(だけど、どうしてだろう)
頷いてしまったら。取り返しがつかなくなる何かがあるような、そんな予感がかすみを押し留める。
――気恥ずかしさと動揺で、宮下愛と顔を合わせられずにいるかすみは知る由もない。
愛の瞳が、愛ゆえに鈍い光を湛えているのを。ただ静かに、しかし食い入るように……かすみの返答を待っているのを。
ねっとりとした独占欲が、牙を向く5秒前。
「あーっ!! 二人とも、やっぱりここにいた!」
飛んだ言葉は、かすみや愛なものではなく。駆け寄ってくる人影に、二人を支配していた空気は霧散する。かすみん争奪議論を収めた同好会部長と歩夢、元凶である当事者6人だ。
かすみが、突如弾ける水風船のように大きく飛び上がる。愛が思いの外緩く捕まえていたおかげで、彼女の中を素早く抜け出るに至ったかすみは、何事なかったように(実際はひどくぎこちないが)元気に手を振る。
「あーあ。ちょーっと焦りすぎちゃったか」
苦笑いと共に溢した愛のため息に、聴こえないふりを決め込みながら。
……一連の流れもって、かすみは一つの仮説にたどり着いた。(本人的には頭が痛くなりそうなものだったが)
(しず子もなにか変だったし――! じゃあじゃあ例えば……愛先輩みたいに、同好会のみんながかすみんを同じように想っているとしたら!?)
その考えに呼応したかのように、彼女へ向けられる12の瞳が淀む。かすみから、かひゅっ……と声になりきらない息が抜けた。
昏い虹色のPassionsが、秋のある日の昼下がりをもって弾けていく――。
※ゆうぽむは既に結ばれています
こんなの愛さんじゃない? ――俺もそう思う
同好会メンバーのキャラ全然掴めなくてやばかったです。書きながらずっと焦ってました。まぁ、導入もキリがついたので。
終わり!閉廷!