かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線   作:AQUA BLUE

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※前回までが導入にして本編です。とりあえず前回で完結しています。

勢いで書いたおまけみたいなものなので実質番外投稿です


おまけ
かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線:3


 あれから、かすみの環境は大きく変化した。考えすぎであって欲しいと願った彼女の仮説は大当たりだったのである。

 

 ずっと同好会メンバーの距離感が近くなった。もはやかすみの独占欲を隠そうとしない。

 

 

 同学年の桜坂しずくはかすみの昼食時、必ずといっていいほど隣にいる。他にも、さりげなく行動を共にすることが多くなった。

 

 二年生の宮下愛と優木せつ菜はとてもダイレクトに好意を伝えてくる。元々際立って容姿がいいのも手伝って、かすみが慣れた今でもドキドキさせられる。特にせつ菜は猪突猛進というか非常に押しも強く、色々とすごい。

 

 そして三年生。至れり尽くせりというか、世話焼きというか、ひたすら甘い。好きあらば甘えるだけではなく甘やかしてくるので、人懐っこい中須かすみにとってはある意味彼女たちが最も危険だったりする。

 

 

 他にも。

 

 明確に視線を感じるようになった。前はなんともなかった(と、少なくともかすみ本人は思っていた)のだが、今では帰宅するまでほぼずっと視られている気がしてならない。特にクラスの友人と話したりした時なんかは、謎の寒気がするほどかすみは背中に圧を覚えたりする。

 

 トークアプリや電話の履歴が激増。返すだけでも一苦労。ちなみに応答すれば向こう側の察知と反応速度は凄まじく、いっそ笑ってしまうほどのテンポの良さである。

 

 やたらメンバーたちが(一部除き)匂いに敏感。他の女の子といた痕跡が秒速でバレてしまう。かすみ本人も未だ当問題については対抗策を考え出せていない。

 

 

 

 そんな中でも一応かすみが無事なのは……下手に逃げに徹さず、デレデレなメンバーたちの環境に順応したためであった。

 かすみはできるだけ全員とバランスよく接し、暴走しない程度のラインを見極めつつ、時々彼女たちの欲求を満たすよう動いていた。

 

 

 無意識――無意識とはいえ切れ者とは程遠いかすみが、計画したようなさじ加減をもって周囲と接するのに成功しているのは無論、貞操の危機に起因する。

 

 とにもかくにも、文字通りかすみは「皆のアイドルかすみん」と化していた。

 

 

 とはいえ造作もなく立ち回ってはいない。油断をすれば均衡が崩れ、修羅場に陥るのは明白だ。かすみはその色こそ周りに見せはしなかったが、着実に疲労を蓄積させつつあった。

 

 

「うぅ、眠いですね……」

 

 

 今日は最後まで居残り練習に励んでいたかすみ。彼女は部室に戻ってきて――誰もいないのをいいことに、少しばかり休もうと長机に伏した。ぼんやりとこの後の予定をかすみは考える。

 

 ただ如何せん体勢が悪かった。日頃の疲れ、練習疲れ、若干の睡眠不足。本人の意図に関係なく、かすみの瞼は緩まっていく。あっという間に睡魔はかすみの意識を刈り取った。

 

 

 

 ――かすみが落ちた深い眠り。時間にして、およそ25分。

 

 

 そんな圧倒的ビッグチャンスを、うち数人程度ならいざ知らず、まさか全員揃って逃すはずもなく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後頭部をしっかり支える――さらさらで、もっちりとした温もり。そして強く嗅がずとも勝手に入り込んでくる、フローラルで落ち着く香りにかすみは目を醒ます。

 

「ふふ、起きたみたいだね。おはようかすみちゃん」

「エマ……先輩?」

 

 茶とも赤ともつかない、特徴的な煌めき。下から見てしだれて映るおさげに、チャームポイントのそばかす。かすみのよく知っている人物がいた。スクールアイドル同好会三年生、エマ・ヴェルデ。

 

「かすみちゃん、無防備に部室でぐっすりだったから……連れてきちゃった」

「……あぁ~。かすみん、あのまま居眠りしちゃってたんですね」

 

 

 エマはかすみの頭を撫でながら、朗らかに答える。

 

 

(いや待って?)

 

 

 エマ本人から滲み出る、彼女特有の安心感と癒しの波動に釣られてかすみは悠長に返したものの、現状の異常さを悟って跳ね起きる。

 

 突然かすみが動いたのでエマは驚いてのけぞったが、かすみはパニックまっしぐら。気遣うは余裕は皆無だ。

 

 

(連れてきちゃったって何!? ここエマ先輩の寮室じゃん! なんで私ここにいるの? それとなんでエマ先輩、自然とベッドの上で私に膝枕してるの……?)

 

 状況を呑み込んでいくほど、かすみは自身がとんでもないピンチの渦中にいるのではと直感する。事実それは正しい。

 

 

(ここままじゃかすみんの大切な何かがなくなってしまいます~っ!)

 

 

 小動物的勘か、かすみは即座に距離を取らんとすらりとした足に力を込める。いち早く相手の射程距離(意味深)から脱出するということがひとまずの安全策だと、今世紀最大の危機に陥った彼女は本能で理解していた。

 

 これもまた、正しい。

 ただし――相手がエマでなければの話だったが。

 

「っと」

 

 かすみの初動を、エマがまるごとかすみを包み込むことで阻止した。恐ろしく早いタイミング。どころか予知でもしていたかのようなキレ、そして絶望的なまでの心地よさにかすみは絶句してしまう。……エマはというと、そんなかすみのリアクションを見てもなお聖女のような微笑みを崩さない。

 

 

(本っ当に、かわいいなぁ……)

 

 

 エマは慣れていた(・・・・・)。スイスの兄妹たちの世話や遊び相手をこなすことが多かったのが功を成したのである。彼女は年下や子どもがしそうな心理及び行動を心得ていた。

 さすがにかすみは該当範囲外ではあるが、咄嗟なる場面での小賢しさだけならそちら側に近いものがあったため、エマにあっさり予測されてしまったのである。何よりも極めつけは同好会で共に過ごした時間だ。

 

 

「むぐぐぐぐぐぐ……」

 

 腕の中で抵抗するかすみだったが、小柄なジャポンガールと恵体の純血スイスガールでは体格が違いすぎる。エマの豊満な胸板に顔面をおさつけられたままかすみは動けない。

 

(それにしても大きさのみならずハリと柔らかさ……相変わらず神様は不公平ですね)

 

 結果、規格外の果実にふとコンプレックスを過らせるに終わる。

 

「よしよし。かすみちゃんは疲れてるんだから、力を抜いて――あとは私に任せてくれればいいからね~」

 

 どアップされた距離感にある膨らみをジト目で睨んでいたかすみは、エマの言葉にハッとする。身動きできぬなりに先輩の様子を伺えば、彼女の目に光はなくなっていた。妖艶な息遣いは、捕食者サイドそのものだ。

 

 

 

 だが、かすみは絶体絶命になってなお諦めはしなかった。

 

 

 だって――

 

「かすみんは皆のアイドルですっ!!」

 

 確かに上半身が抱き止められ、現状直接逃げることは叶わない。ただし、足をばたつかせることくらいはできる。

 

 ここが床だったらば、かすみは本当に為す術がなかった。しかしここは弾力性あるベッドの上。ばたつけば、置いてあるものを手繰り寄せることだってできる。

 

 抵抗を再開したかすみをエマはちらと確認するも、咎めはしない。可愛い後輩による最後の抵抗(・・・・・)だと結論付けた。

 

 

(よっぽど急いでいたんでしょうね、エマ先輩!)

 

 ベッドにあったのは、エマのブレザーと――照明のリモコン。震動を繰り返すことで、かすみの思惑通りリモコンは1cm、2cmとこちらへずれてきていた。

 

 

 

 ――かすみは目を醒ました時、認識していたのである。エマだけではなく、ベッドの脇に置かれているリモコンを。

 

 かすみの小指が全消灯のボタンに届けば、部屋が暗くなる。いきなり暗くなる部屋に、エマ・ヴェルデ(先輩)は注意を逸らす。その一瞬を突けば……逃げられる。中須かすみ、最後の賭けだった。

 

 

 

「だ~め♡」

 

 

 蕩けるような、甘い制止。

 おいたを働こうとした母親が子供を可愛がりつつ注意する時のような緩いトーンが、かすみの頭上を突き抜ける。

 

 部屋の照明が消えることはなかった。エマは少しばかり重心を前に傾け片腕を伸ばすと、かすみの小指が届くより先にリモコンを手に取ったのだ。

 

「う、そ…………」

「かすみちゃんの考えそうなことなら、なんとなくわかるよ?」

 

 怒るどころか心温まるような、ライブでも魅せる穏やかな表情で再びかすみを撫でるエマ。同時に、「逃がさないよ」と言外に示していた。

 

 

 そう。エマはあくまで最後の抵抗(・・・・・)と考えると同時に、微塵も警戒は解いていなかった。また、そんな相当にいけずな後輩の悪戯的部分まで含めて、エマは始めから包み込む姿勢だった。

 

(どうしよう……どうしよう!)

 

 

 万策尽きたかすみは、いよいよ冷や汗が止まらない。狂気にあふれているのに、普段のまったりペースでじわじわ囲ってくる先輩がたまらなく恐ろしい。

 

「ほっ、ほら! もう遅いですしかすみん帰らないと!」

「お泊まりしていけばいいよ」

「で、でもっ」

「かすみちゃん」

 

 エマの有無を言わせない様子に、かすみは気圧され言葉すらも詰まらせる。何か手を打たなければやられるのは間違いないものの、かすみに打てる手は何もなかった。スマートフォンがポケットにあるというアドバンテージに今更気付いた所で、もう遅い。

 

「大丈夫、大丈夫だから……ね?」

 

 目を閉じたエマの顔が、かすみに近付いていく。かすみが身を引こうにも突き飛ばそうにも、およそ女子高生とは思えない力に抗えず顔を背けるのが精一杯だ。今度はメンバーの皆が押し寄せるのも期待できない。

 

(かすみちゃんかすみちゃんかすみちゃん……)

 

(も、だめ……)

 

 

 淫靡な緊張感は、思いこそ違えど二人を張りつめさせていく。合わさった凹凸の板と板の内から、加速した鼓動が跳ね合って止まない。

 

 

 いっそエマ先輩に身を委ねてしまう方が楽かも、という考えがかすみを揺さぶり、ついに――――。

 

 

 ほんわか草食動物は、肉食性を開花させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ビビビのビーム!!』

 

 

 が、すんでの所。響いたのは突破を裏打ちする水音ではなく――スマートフォンから出た爆音の音楽(着信)

 

 静まる中、それでいてある対象に一点集中していた際だ。意識外からの割り込みは、超絶なる疑似猫だましとなりて二人に襲い掛かる。

 

 

「「~~~~~っ!?」」

 

 

 かすみとエマ、不意の横槍から双方とも思考が消え去るのは同様だ。異なるのは起こる硬直の深さの差異。

 

 エマはひたすらかすみにだけ集中していたが、かすみはエマすべてに集中していたかといえば否だ。どこかで他を気にしてもいた。

 

 

 我に返るのは、数秒かすみが早かった。

 

「あ……」

 

 目の前でエマが動転している。して、ホールドが離れかけている瞬間をかすみは見逃さない。

 

「ごめんなさいエマ先輩!!」

 

 すぐさまエマの手を払いのけベッドから飛び降り、裸足のまま玄関まで転びかけながらも到達する。並べられていた自分の靴を半端に履きながら、かすみは鍵を空けドアを乱雑に引っ張り、寮室の外へと駆け抜けた。

 

「かすみ、ちゃん」

 

 かすみの背中がドアを隔てて消える頃、ようやくエマはベッドからおもむろに立ち上がる。

 

 逆光で覆われたエマの表情は、エマ本人ですら図れないほど様々な感情に翳っていた。

 

 

 

 




エマちゃんの中で生き絶えたい
続きそうな感じだけど続かなかったら許して()


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