かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線 作:AQUA BLUE
「はっ……はあっ!」
逃げ惑うようにかすみは寮の廊下やら階段やらを走る。限界だ、と思いながら。いずれ監禁等をされてもおかしくないと、底知れぬイメージがかすみの全身を冷たくする。
「……きゃっ!」
「った……」
散漫になっていた注意力。脇目も降らず進んでいたために、かすみは思いっきり角から出てきた人影にぶつかってしまった。
「あらあら、怪我はない?」
尻餅をついたのはかすみだたけだったようで、彼女の上から手が伸びる。少しだけ冷静さを取り戻したかすみは、謝りながら相手の方を確認するのだが――
「果林先輩……!?」
「うふふっ」
よりにもよって、会いたくない相手だった。
彼女もまた、同好会メンバーにしてエマの親友。朝香果林。
メンバー内でエマに次ぐ長身にして、出るところは出て締まるところは締まったモデル体型。多くの男性のみならず女性も屈服させる美貌。時々藍のショートヘアをかきあげる癖も、彼女の色気に拍車をかける一つのポイントだったりする。
四面楚歌と後ずさるかすみだったが、果林は動じず彼女を見守っている。いまひとつ読めない彼女のリアクションに、耐えられならなくなったかすみが先に切り出した。
「果林先輩は! か、かすみんになんにもしないんですか?」
「どうして? まぁ、強いて言うならそうね……エマの様子がおかしかったから、ちょっと様子を見に行こうとは思っていたのだけれど。杞憂だったみたいね」
「そ、そうですか」
「そ れ と も……「何か」して欲しかった?」
さらっと耳打ちをする果林。してやられた恥ずかしさと、セクシーな声色にかすみんは赤面した。からかいが成功したことで、果林は満足げに笑う。そして、肩にかけていた鞄をかすみに差し出した。
「部室に置きっぱなしだったわよ」
「ありがとうございます……」
一応は身構えながらも、かすみは果林から鞄を受け取る。慌てるあまり今の今まで忘れていたが、かすみは荷物を持っていなかった。
……真に落ち着いたことで、かすみの中で色々と疑問が沸き上がる。
(荷物は……かすみんを運ぶのに必死で忘れられたのかな? あと、さっきの着信はたぶんりな子から……もしかしたらだけど、こっちのピンチを知ってて? いや、でも……)
だんだんと思考を巡らせていくかすみに、果林はふうっと息を吐くと、彼女に語りかける。
「考え事中水を差すようだけど、早く帰った方がいいんじゃないかしら? エマが追ってきたらどうするつもり?」
「確かに! すぐここから離れないと……あれ? なんでエマ先輩の所にいたの知ってるんですか、果林先輩」
「エマって名前を出しただけなのに、さっきのかすちゃんの顔がすごいことになってたから。あれだけ動揺していたら、誰だってわかるわ」
ウィンクする果林。うぅ、とたじろぎながらも、かすみはせっせと鞄を持ち変える。
「さ、行きなさい」
背中を押す果林の一言を最後に、かすみは後輩として一礼し再び足を動かした。彼女の意思を汲み取って。
「まったく……あんなにあっさり白状しちゃって。私だってあなたのことを狙っている一人なの、本当にわかってるのかしら」
かすみの遠くなっていくシルエットを送った後、果林は呆れ混じりに苦笑する。彼女としては、かすみを見つけ次第自分のものにするよう動くつもりだった。
それがどうだ。切羽詰まった彼女の顔を見たとき、そんな欲望にまみれた気持ちはどこかに消えてしまった。
「惚れた弱み、ってやつかも。かえって守りたくなっちゃったわ」
まるで靄が晴れたかのよう。彼女は思い出したのだ。かすみには魅了するだけの可愛さだけではなく、守りたくなるような危なっかしさ、可愛げも持ち合わせていることを。
「果林ちゃん」
数十秒して、知り尽くした
「エマ。……なんだか、いつも会っているのにものすごく久しぶりな気がするわね。調子はどう?」
「通してくれないかな?」
「
「通して」
「そういうわけには、いかないのよね」
「通してよ!」
掃除の行き届いた硝子に二人の虚像が明瞭に映る。月明かり指す、夜のとばりが降りた寮の廊下。
かくして。中須かすみに魅せられたもの同士の、衝突(話し合い)が始まった。
(バトルものじゃ)ないです
だいぶ拗れて参りました(続けるとは言ってない)