かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線   作:AQUA BLUE

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前回長々と後書きを綴った結果がこれだよ!
さすがにバットエンドだけではアレだと思い至って後出し初分岐です

※そのため途中までの展開は前話と同様です


かすみんの可愛さが伝わりすぎた世界線:5-β

 香水、数々のぬいぐるみ、おしゃれな鏡台、全体的にピンクで可愛いがてんこ盛りの部屋。

 

 家の玄関をくぐり、ようやく安心安全なマイスペースに到着中須かすみはぐったりとベッドに倒れこむ。

 

「つ゛か゛れ゛た゛~」

 

 本当に修羅場だったと、力が抜けきったままかすみは唸った。

 

 だが静かにしていれば晩御飯を待たず眠ってしまいそうであるし、眠ったことで先輩に文字通り食べられかけたことが脳裏に引っ掛かっているかすみは、ふんすと体を起こす。

 

 可愛いさを維持、向上させるためのケアを今日もきょうとて怠らないようにしなければ。そして、今後のことも想像がつかないなりに考えなければなるまい。

 

「……宿題も、か」

 

 勉強が苦手なかすみは、苦々しく呟いた。少し前までは主にしずくにノートを、ひどいときは答えなんかも見せてもらったりした。特に苦手教科の古典は彼女にとって深刻なる案件だ。

 とはいっても何が起こるかわからない以上、迂闊に近付きすぎるわけにもいかないと、かすみは自力での宿題攻略を決意する。正直、彼女はかなり疑心暗鬼となっていた。

 

 と、ここまで自身の考えを纏めて……かすみはある見落としを自覚する。

 

(りな子……りな子は私に何もしてきてない!)

 

 同学年の同好会メンバー、天王寺璃奈。彼女は変わった周囲の中でも、これといったアクションをかすみに対して起こしていなかった。狂気を孕んでいそうなメンバーたちと表立った振る舞いは同様だったが、よくよく回想してみれば彼女の特異な行動はかすみの記憶する限り皆無だった。

 

 

 かすみは顎に手をあて熟考する。頭から煙がぷすぷす立ちちそうになるが、もう少し何かを導けそうなかすみは脳死にならないよう努めた。

 

 

 しばしの間を経て――可能性が浮かぶ。

 

 

(7人全員がかすみん中毒に変わったとは限らない……?)

 

 しだいに、心酔度もそれぞれ違うのではという発想にもたどり着く。もっとも、考えれば簡単にたどり着けた結論のはずだった。様々なアプローチを受け続けていたかすみは少なからず感覚が麻痺していたのである。

 

 

 かすみはスマートフォンを鞄から引っ張り出して、スリープ状態を解除する。着信履歴が一件あった。開いてみれば、やはり天王寺璃奈のもの。かすみはひとまず安心する。トークアプリの方は……今は開かないでおこうと、えげつない量の履歴を恐れやめた。

 

 

 手っ取り早いのは、探りを入れることだ。

 

 

(ひょっとしなくても、りな子だってそう()かもしれない。でも、かけてみる価値は……ある)

 

 

 かすみは勇気をもって発信ボタンを押す。

 

 

 一回、二回、三回。無機質なコールが繰り返され、そしてぱちっという微かなノイズを合図に――通話は開始される。

 

『もしもし……かすみちゃん?』

『こ、こんばんは~』

『どうしたの、改まって』

 

 やや小さめながら、透き通るような声が液晶の向こう側からかすみに伝わる。まだ白か黒は定まらないというのに、その声音は無性にかすみへ安らぎを与えた。

 

『電話って久しぶりでつい、ね。りな子さ。さっき電話してくれたみたいだけど、何か用だった?』

『かすみちゃん。無理しないで』

『えぇ~っ? いきなりなにー?』

『声、震えてる』

 

 璃奈の指摘にピタリとかすみの動きが止まる。なんてことはない、さらっと問いかけたつもりだったのに。言われて初めて、余裕をなくしていた自分をかすみは掌握する。

 

『そっ! そんなこと……かすみんに限ってあるわけ…………ない、じゃん』

『…………』

『いい? りな子。アイドルはね、いつも笑顔で……いない、と。っぐ……うっ……』

『うん。……ちゃんと、聞くから』

 

『うわぁぁぁぁぁん! こ゛わ゛がっだよぉぉ……!!』

 元々器用に胸中を隠すこと自体が向いていないかすみ。素直な優しさにあてられついに、彼女の涙腺が決壊した。

 

 

 しばらく泣きじゃくった後。たまに鼻をすんすんさせたりしながらも、かすみは璃奈に今回の事の成り行きを打ち明けた。つい先刻に味わった、肥大化した独占欲を想起したかすみが恐怖から閉口しても、一通り終わるまで璃奈はひた耳を傾けていた。

 

『……とまぁ、そんな感じ。なんかちょっとだけ楽になったかも』

『最後まで話してくれたの、嬉しい。ありがとう』

 

 当初の予定から大きく外れたものの、かすみはこれでよかったんだと胸に手を当てた。心がいくらか晴れたから言えるという前提はあれど、いずれにしてもあのままではおかしくなっていそうだった。

 

『それとね。かすみちゃん、私が電話を掛けた用件なんだけど――』

『あーっ! 私から聞こうとしてなんだけど、すっかり忘れてた!』

『ふふふ、やっといつもの調子になったね』

『むー……』

 

 和やかな雰囲気が通話間で流れる。懐かしくすら思えるやりとりに、かすみの心は久しく弾んだ。

 

 

『お話する前に、なんだけど。先に謝らせて欲しいの――ごめんね、かすみちゃん』

『えっ? りな子って特に悪いことしてないっていうから、そもそもすごくいいタイミングで助けてくれ……あっ』

『やっぱり引っ掛かりはあったみたいだね。そう、あそこでかけた電話は偶然じゃなくて。私はかすみちゃんの危険を知っていたから、かけた』

 

 ……それも璃奈の告白に、またも揺れ動くこととなる。

 

『え……?』

『それを説明、する。今のかすみちゃんの状態じゃまた怖くなったり、辛くなったりするかもしれない。もし少しでもイヤって思ったら、すぐに切ってくれていい』

 

 どうすべきなのか。私はこれ以上は聞かない方が良いのだろうか。聞いたとして、信じていいのだろうか。

 

 

 困惑が、疑念が、焦りが、不安が。かすみの五感を刺激する。

 

 初めての出会いを、意気投合したあの日を、お互いを高めあう思い出を、映えある未来の想像図を。かすみの脳内が巡るように再生する。

 

 

 

『…………わかった。話して(・・・)、りな子。でもね』

 

『ん?』

 

『聞いてどうするかは、私が決める』

 

 

――かすみは完全にまでは、警戒を解かなかった。

 

 

『……っ、ありがとう。かすみちゃん、いつも視線を感じるって言ってたよね。まずその中には、少なくとも私のが入ってる』

『っ!!』

『ただ、それは。かすみちゃんを……正確には、かすみちゃんと皆の様子を観察する必要があったからなの』

『どういうこと?』

『ほんとはもっと前から知ってた。何人かが、かすみちゃんに並々ならない想いを秘めてること。でも、直接止めようとしても、私一人じゃどうにもできなかった』

 

 

『だからって! そんなの早いか遅いかだけの話なんじゃ……』

『闇雲にかすみちゃんに接触して、皆に警戒されて身動きが取れなくなったら、それこそどうしようもなかった』

『そ、それは』

『だからあえて皆の中に溶け込んで、誰かが動くのを待った。かすみちゃんと繋がるチャンスを待った。思ったよりもずっと時間がかかっちゃったけど……かすみちゃんの力になりたい』

 

『りな子……』

 

 

 璃奈から紡がれた真実(・・)は、かすみの何かをを溶かしていく。

 

 

 

『どうか一人で抱え込まないで。二人で(・・・)なんとかしていこう? これからどうするか、考えもある。

 

 

 

……私がついてるから。ね、かすみちゃん』

 

 

 溶かして、いくのだが――。

 

 酸素を深く吸って、解放。できる範囲で思考をクリアにし、かすみは内容を噛み砕いていく。

 

(なんとなく。できすぎな気が、しなくもないような……)

 

『話はわかったよりな子。それでも正直……ちょっと追い付かない。私、今日は寝る』

 

 璃奈(りな子)の事は信じたい。すぐに、すぐさまに泣きつきたい自身の思いを踏まえて。

 

『また明日学校で。おやすみ』

 

 かすみは璃奈との通話を打ち切った――。

 

(だいたい! 原因って、かすみんが可愛いすぎたことですしっ!)

 

 以後は何が起きてもおかしくない。過激なラインまできている。変化したことでの余波、特に夕方の出来事を反芻することでかすみはついぞ再出発の誓いを胸に刻んだ。

 

 

「やっぱりかすみんが、私が――なんとかする!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いくらか時を遡り。

 

 

 虹ヶ咲学園生徒会室。率先して居残り、続け細かい雑務まで終えた生徒会長(中川菜々)は、僅かにずれた眼鏡を直した。

 

「やるべきことの最中でも気を抜けば過ってしまう……大好きは、いつだって止められないものですね」

 

 会長として座する卓上を整理し、荷物をまとめ入り口へ続く階段を5つ上り入り口を抜ける。慣れた動きで施錠を済ませ、彼女はもうひとつの居場所に背を向けて廊下を進み出す。

 

「おそらくは、じきに痺れを切らすのでしょう。きっとなりふり構わなくなる」

 

 

 自分自身に語りかけるような彼女の分析は人知れず薄暗い廊下に反響する。

 仄かな照明が透明な眼鏡濃く映り込み、猛った眼差しは外部に晒されずにいる。代わりにただならぬ執着心が、気迫にも近い雰囲気を撒き散らしていた。

 

 

 静寂と高揚が同居した闊歩は、曲がり角を寸前に静止した。

 

 

「あなたもですか――近江彼方さん」

 

 眠たげながら、奥に虚ろさを滲ませた光彩をもって当人(近江彼方)は応える。

 日常では校内のどこでも突如昼寝を開始するほどの彼女が、わざわざ生徒会室付近の壁で背を預け立ち、じっとそこにいるという不自然。紛れもなく何かを待っていた証左だ。

 

 

(対象はおそらく(優木せつ菜))

 

 一瞥というにはやや長い観察と、そこそこに長い付き合いからくる勘を材料に理解した彼女は、中川菜々(虹ヶ咲の生徒会長)の仮面を外して続ける。

 

 

「さて。勘違いだったらすみませんが彼方さん、私と同じコト考えてます?」

「たぶん。彼方ちゃんたち気が合うね~」

 

 元来の穏やかな抑揚を残しつつも、冴え渡ったトーンで彼方は肯定した。

 

「独り占めは難しいかもしれないけど、だったら分かち合っちゃえばいいんじゃないかなって」

「はい……!」

 

 

 現在までの膠着と我慢を経て。独占だけではなく共有も塩梅だと視野を広げた二人は、ここに提携した。

 

 

 

 

 ――巡る。(めぐ)る。勇気も好意も恋慕も好奇心も欲望も。

 

 

「今度こそは焦らずに。そしたら愛を育んで――愛だけに」

 

「もうちょっとだったのになぁ。本当に食べちゃいたいくらい可愛かった……」

 

 

 俄然、独占の意志を燃やす者。

 

 

「かすみさん、私はいつもあなたを――」

 

「まだ足りない。もう一押し……ううん、二押し」

 

 

 じっくりとヒロインの陥落を目論む者たち。

 

 

「ままならないものね。かすみちゃん……」

 

 

 はたまた。ひょんな回帰を契機に狂気から醒め、先を案ずる者。

 

 

 

 激動の波紋が出陽と共に明日を染め上げるまで十数時間。各々の想いに影を落としつつも夜は、平等に更けていく――。

 

 

 




☆それぞれの愛と想いはやがて交錯する――
ご愛読ありがとうこざいました! AQUA BLUEの次回作にご期待ください!(やけくそ)

さてさて。前書きでも記しましたが私自身前回の締めのみでは引っかかるものがあり、急遽分岐点を、すなわちノーマルorトゥルーエンドの兆しを追加させていただきました。かすみんってのはもっと強くて可愛いからね、違和感バリバリでしたよホント……。

なんにせよ今度こそとりあえず一区切りです。またお会いすることがあれば、是非ともよろしくお願い致します。ではでは。

かすみんは可愛い。

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