ブズラ川付近で戦闘を繰り広げていたドイツ軍とポーランド軍は圧倒的なドイツ軍の物量に敗退した。この敗北によってポーランド軍の主導権は完全に奪われ、大規模な反撃はもはや不可能な状況となった。しかし、ポーランド政府はドイツへの降伏やドイツとの交渉を拒否し、全軍に対しポーランドからの脱出とイギリスとフランスでのポーランド軍再編成を命令した。
「成る程……確かにこれは飛龍や蒼龍を手本にしただけあるな……」
今回の派遣団に参加している日本海軍将校の松本宗一はグラーフツェッペリンの艦内を見て呟いた。グラーフツェッペリンが完成するのはもう少し先だとドイツ海軍首脳部は考えていたが派遣団と共に来ていた多数の日本人技術者の助力により予定よりも完成が速められ、現在は同型艦をもう一隻建造する計画が出ている。
「そんなこと分かるのですか?」
「ああ、ドイツ的デザインの意匠があるが分かる奴には分かるさ」
唐突に艦内放送が始まった。どうやらイギリスに逃げ込むポーランド海軍を発見したらしい。
「さて、ドイツ海軍のお手並み拝見といきますかね」
「艦載機のパイロットは日本人ですけどね」
二人は艦橋に上がるためのエレベーターに乗った。
ヴェーアヴォルフは彼らが運用するジェット戦闘機を用いて英国に逃走しようとするポーランド海軍の駆逐の任務に当たっていた。
グラーフツェッペリンの飛行甲板には出撃を待つヴィントが並べられていた。
「こいつ、九七式より旋回性能悪いから嫌いなんだよな。速度変更も苦手らしいし……加速性能は悪くないんだが」
「文句言わんでください。これでも大分改良したんですから」
甲板からはそんなやり取りが聞こえてくる。日本の戦闘機に乗り馴れたパイロット達には練習をしてその機体の特性を掴んでも性能に不満が有るのだろう。ヴィントはエンジンの出力を上昇させて次々と発艦した。ヴィントはスピードの速さをもって敵を対空放火を掻い潜り腹に外付けした魚雷を次々と艦の横腹に直撃させた。
そこにドイツ海軍による砲撃が加えられ英国に流れ着いた艦は装備の殆どを失った大破した駆逐艦たった一隻だけだった。ヴィントは獲物を仕留めた後、母艦へ戻った。
「成る程、砲撃手の腕前は悪くないようだな」
宗一はグラーフツェッペリンの艦橋から双眼鏡を使って戦闘風景を見ていた。シャルンホルスト及びグナイゼナウから放たれた砲弾は八割ほど敵艦に直撃していた。
「我々の指導の賜物ですかね」
「彼らの飲み込みの速さも目を見張るものが有った。我々だけの力では無いよ」
欧州大戦での敗北からよくここまでの戦力を揃えたものだと宗一は素直に感心した。海軍力は長年のストックがものをいう戦力でもあるから、例え欧州大戦からの旧式艦であっても、それらが練習艦、あるいは近代改修されて底支えしてくれてこそ第一線級戦力も活かせる。それが敗戦により全て失ったのにも関わらずこれほどの性能を誇る艦を造り上げたのは彼らの努力に因るところが大きいだろう。
「どうかね我が海軍の戦闘能力は。貴官の率直な意見を聞かせてくれ」
グラーフツェッペリンの艦長は宗一に対して言った。
「大変素晴らしいものと思います。このまま練度を上げればヨーロッパ最強の海軍にもなり得るでしょう」
艦長は宗一の賛辞に気を良くしたのか険しい表情を少し緩めた。
「艦長、陸軍から連絡がありました」
「内容は?」
「逃走するポーランド陸軍の殲滅に協力して欲しいとのことです」
「分かった。直ぐに彼らを呼び出してくれ」
二分後ヴェーアヴォルフ航空隊の主要メンバーが艦橋に集まった。
「先程陸軍から応援要請が来た。君達は500kg爆弾を搭載して直ぐに向かって欲しい。作戦終了後はそのまま基地に戻ってくれて構わない。」
「はっ」
ヴィントは換装を終えたあと即座に出撃した。
ブズラ川での戦いに敗北したポーランド軍は残った戦力をワルシャワに向けていた在草原地帯を走っている部隊もその内の一つだ。
「ドイツ軍の追撃は?」
部隊の指揮官が後方を見張る兵に聞いた。
「見えません。殿が上手く機能してくれたようです」
「そうか……。彼らが作ってくれたこの時間は絶対に無駄にはしない」
指揮官が決意を新たにした瞬間上空から聞きなれない音が聞こえた。
「なんだ……このヴヴ――って音は?どっから聞こえる?」
「上空からですね。何とも不快な音ですな」
突如前を走っていた車両が爆発した。四散する破片を避けるために車が右往左往する。その反動で荷台にいた指揮官たちはあらゆる所に体をぶつけた。そして付近に落ちた爆弾の爆風に煽られ車はバランスを崩して二回ほど回転して停止した。
「何だったんだ……」
横転した車から指揮官が這いずりながら出てきた。怪我をしたが死ぬほどのものでもない。痛めた左腕を擦りながら辺りを見回すと一面火の海だった。
「隊長……ご無事ですか……?」
横転した車から人の声が聞こえた。すぐにさっきまで話していた部下だと分かった。
「無事だ、今出してやる!」
指揮官はすぐに元いた車の中に潜って声の主を引きずり出した。
「大丈夫か!?おい、しっかりしろ!」
「大丈夫ですよ……。骨は折れてますがね」
部下の左足は曲がってはいけない方向に曲がっていた。指揮官は使えるもので応急手当を施し、部下を背負った。
「首都に着くまで死ぬんじゃないぞ」
「……ありがとうございます」
二人は爆煙の中に姿を消した。
ヴィントは初実戦を終えてU-1基地に戻っていた。基地に着くとDr.ソフィーがパイロット達を出迎えていた。
「お帰り。早速だけど、どうかな?実戦での使い心地は」
「九七式の方が扱いやすいです。旋回性能が高い機体の配備をお願いしたい」
「分かった。実際に使うのは君達だからね……この子はお蔵入りかなぁ」
Dr.ソフィーはもの悲しそうな目で並ぶヴィントを見つめた。しかし、彼女の頭の中には次なる機体の設計案が出来上がりつつあった。