大日本帝国から日本国へ   作:紫雷電

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第十六話 帝機軍の平和な日常

1939年11月9日

司令官である沖田楓伽は残った部隊で支那事変(日中戦争)に参加しようとしていたが帝機軍の最高決定権を持つ山本五十六に止められ、不承不承本部に待機していた。

玄界島の帝機軍本部では日本に残ったメンバーが独自に新兵器の開発や科学兵器の実験をしていた。その他に陸海軍が開発した新兵器のテストや様々な企業が開発中止した物を引き取って改修という名の魔改造をしてテストをしていた。副司令の河上嘉章が汗をかきながら指示を飛ばしているそんな中、司令官の沖田楓伽とその部下の伊織癒乃はテラスで紅茶を嗜みながら過ごしていた。

 

「彼らがドイツに行ってもう3ヶ月かぁ……」

「そうねぇ~からかう相手がいないから暇だわぁ~」

 

彼らは日蒙戦争の後、幾つか陸軍の後方支援を行いはしたが本格的な戦闘行動は3ヶ月前が最後だった。体が鈍るのを嫌った部隊の大半は千島列島に行き、現在でいうサバイバルゲームのようなことをしていた。楓伽は指揮官のため本部を離れることは出来ず、癒乃は寒いのが嫌いだからという理由で不参加である。

突然、癒乃立ち上がり指をわきわきさせながら楓伽の後ろに回り楓伽を後ろから抱きしめた。

 

「う~ん、やっぱり狂璃ちゃんの方が――」

「ん?癒乃姉ぇなんか言った?くーちゃんの何が私より大きいって?」

 

その瞬間、癒乃は自分の失言を悟った。同時に癒乃の顔面が楓伽の左手に捕まれる。楓伽はこめかみに青筋を浮かべて徐々に左手に力を込めていく。

 

「ちょ――痛い、痛い!!謝るから許してぇ――!?」

 

楓伽を抱きしめていた両手を離して左手をほどこうとするも一向に離れる気配がない。それどころかさらに力が加わっていき、ミシミシッっと頭蓋骨の軋む音が聞こえ始めた。

 

「ヤバイヤバイ!変な音聞こえてるよ!?ホントごめんって!!」

 

涙目になりながら許しを懇願する癒乃が痛みで暫く踊った後、楓伽の左手が離れた。癒乃は痛みのあまりその場にへたり込む。

 

「ひどいよ楓ちゃん……顔の形変わっちゃうよ」

「癒乃姉ぇ、初対面の時もその後も何回かそんなことして私にしばかれたでしょ?そろそろ学ぼうよ」

 

楓伽は鼻をならして睨み付ける。楓伽の冷たい視線を受けて癒乃は身震いをする。過去のことを思い出してのことか、はたまた変な方向に目覚めたのか……。

しばしの沈黙を破るかのように部屋にノック音が響いた。楓伽が扉を開けるとそこには汗だくの副司令がいた。

 

「司令、本日の分終わりましたよ……」

 

煤まみれの嘉章は疲れた表情を隠そうともせず報告書を楓伽に差し出した。そこにはびっしりとテスト結果が書かれていた。ついでに新しく開発された遊戯銃の試作品も持ってきていた。

 

「お疲れ様、アイス食べる?」

「頂きます」

 

楓伽は冷蔵庫からアイスキャンディの入った箱を取り出して嘉章に渡した。嘉章がとったのはブドウ味だった。嘉章は袋を開けて口に運ぶ。

 

「美味しいです」

「それは良かった」

 

楓伽は微笑んで自分も同じように箱から取り出した。楓伽のは桃だった。二人は痛みでうずくまる癒乃を差し置いて残りのアイスキャンディも美味しく頂いた。

 

11月10日

軍学校の道場には気合の入った掛け声と重い物体がそこそこの高さから落ちる大きな音が聞こえていた。時刻は午前8時、朝っぱらから精の出ることだ。

 

「ふぅ……あれ、もう終わり?」

 

少女の目には畳に倒れる死屍累々のような男子達が映る。彼らは未来の海軍軍人となるはずの若者だ。その彼らが少女一人倒せないとなるとこの先の海軍軍人の能力が危ぶまれるがこれに関しては相手が悪かったというしかない。なぜなら相手が沖田楓伽だからである。彼女は前線に出れない憂さ晴らしに仕事を癒乃に代わってもらい、稽古時間を狙って来ていたのだ。

 

「おっ、また全滅か。腕を上げたんじゃないか?」

 

道場にいた全員が声のした入り口の方を向く。声の主は山口多聞だった。彼は用事を済ます道中でここによったとのことだ。楓伽を除く全員が先程まで息を切らしながら地面に附していたとは思えない

速さで綺麗に整列した。

 

「久しぶり多聞丸、会えて嬉しいよ」

 

楓伽は晴れやかな笑顔で多聞を迎える。端から見れば中睦まじい親子のように見える。

 

「おう、元気にしてたか?」

 

多聞は楓伽の頭にポンと手を置いてわしゃわしゃと撫でる。

 

「もう、私16だよ。子供じゃないんだよ!」

「いいや子供だな。飴玉一つで釣られる大人など俺は聞いたことがないな」

 

多聞はポケットからペロペロキャンディを手渡す。楓伽は頬を不満そうに膨らませつつもそれを受けとる。

 

「さて、君達には俺から直々に指導が必要かな?」

 

多聞の目が鋭くなる。それと同時に彼の目の前に整列する生徒達は先程の運動で生じた汗とは別の汗が流れていた。

 

「いや冗談だ、そろそろ俺は行くよ。では諸君これからも稽古に励んでくれ」

 

全員が海軍式の敬礼をする。多聞もそれに合わせて答礼をする。

 

「楓伽、余りあいつらの心をへし折るなよ」

「分かってるって。じゃあお仕事頑張ってね」

 

「おう」と言って多聞はその場を後にした。

 

「さて、私も帰るかな。じゃあ後輩諸君はこれからも頑張ってね」

 

少しは気が晴れたのか男子生徒達に笑顔を向けたあと楓伽も荷物を纏めてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

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